The Romance of Everlasting 〜異聞・白鳥の王子〜



byドミ(原案協力・東海帝皇)



(18)シルバーブレット発動



小五郎王と、英理王妃が、どうやって工藤王国へ向かおうかと思案しているところへ。
とても良く似た姉妹らしい2人の女性が、現れました。

「陛下、初めまして」
「ん?お前達は、何者だ!?」
「妖精王国の者です。私は瑛美(ひでみ)、こちらは弟で瑛祐と言います」
「なに!?弟という事は、男!?」
「・・・女顔とは、よく言われますけど・・・」

瑛祐は、いじけた様子で下を向きました。
英理王妃がとりなすように、口を挟みます。

「あなた、そんな言い方、失礼よ。妖精族の方達が、どのようなご用件でいらっしゃったの?」
「普段、この毛利王国の森で過ごしていたアースレディース達が、工藤王国でのベルモットとの戦いに赴いたので、ヨーコの友人である私達が、お2人のご案内に参りました」
「と言うと、工藤王国まで案内して下さるの?」
「はい。人間界でまともに行きますと、海越えのルートになり、かなりの時間を要します。この毛利王国に存在する、妖精国の入口から、妖精国の中を通って、工藤王国の江古田の森に向かえば、ずっと短時間で済みますから」
「けど、妖精王国の入口は、限られた相手にしか開きません。人間が妖精王国のルートを通るには、妖精族に案内される必要があるんですよ」
「では、そこを通してくれるという訳か。ありがたい」
「ありがたいなどと、とんでもない。ベルモットの件では、むしろ、我らの方が、あなた方には多大な貸しを作っているのですから」
「何!?あの、魔女の事か?」
「ただの魔女ではありません。あの姿は、依り代となった人間の女性の若い頃の姿で、元々は古の有力魔族。その昔、我ら妖精族の祖先すらも、虚無の獄に落とす事がやっとだった程の力を持つのです。あの魔物が、このまま世に放たれると、人間界は終わりです」
「何っ!?子供達は、その魔物と、闘っていると言うのか!?」
「あなた。急ぎましょう!」
「おう!案内してくれ!」


小五郎王と英理女王は馬にまたがり、城の者達・剣崎・ヒカルに後を頼み、妖精の瑛美・瑛祐姉弟と共に、森にある妖精王国の入口へと向かいました。



そして一行が、妖精王国の抜け道を通って工藤王国を訪れた時。
丘の上に、第2の太陽と見まがう眩い輝きを見、その後強い風に吹かれてお互いを庇い合い。

もう昼近い筈だというのに、真っ暗になった中を、巨大な光のカーテンがうごめくのを見ました。


「蘭達は、無事なのか!?」


小五郎王と英理王妃は、馬を駆って、遠くに見えた丘の上を目指しました。


   ☆☆☆


妃王国での、会盟軍と工藤王国軍の交戦場所では。
工藤王国軍を苦しめたゴーレム達が、次々と、ただの土塊に変わって行きました。

会盟の軍隊は、数は圧倒的に勝っていた筈なのに、今や兵士達も散り散り、頼みの綱の筈の魔物達も、どこかへ消え去り、今や軍としての形を留めておりませんでした。

「ふん、青蘭の女狐も、もっと出来るかと思ってたけど、買い被っていたわ!」

ゴーレムなどの怪物や、様々な魔法兵器を作り出した魔法技師・美波子は、悪態をつきながら、1人素早く、逃げ出そうとしていました。
しかし。

「魔法学校の落ちこぼれ。どこに参りますの?」

目の前に現れた妖艶な美女に、青くなりました。

「紅子・・・この小娘!私が昔の私と同じだと思ったら、大間違いよ!」

美波子は、髪に差していた飾りを手に取りました。
それは今迄、青蘭女帝にすらも隠し持っていた、美波子の自信作の魔法兵器だったのです。
そして、それを紅子に向けました。

本当だったら、そこから、禍々しい光が放たれ、紅子の体を貫く筈だったのです。
しかし。

「ああっ!?」

紅子の魔法の力で、あえなくその髪飾りは、粉々に砕け散ってしまいました。

「わたくしも、昔のままのわたくしではなくってよ」

紅子が、艶然と微笑んで言いました。

「くっ!」

美波子が、更に指輪を紅子に向けて、スイッチを入れようとしますが、何の反応も示しません。
逆に。

「ああっ!」

紅子が魔法で出した光の網に捕われて、美波子は身動きひとつ出来なくなりました。

「これ以上、おいたをされても困るから、そのまま工藤王国まで同行して貰うわ」

紅子は、かつての魔法学校学友に向かい、長い艶やかな黒髪をかき上げながら、そう言って、再び艶然と微笑みました。


   ☆☆☆


「おのれ!役立たずめらが!」

味方が次々居なくなって行く中、青蘭女帝はヒステリーを起こしていました。

「ふん。己の無能ぶりを棚に上げて、みっともない」

帝二王が、冷たい目で青蘭女帝を見据えて、言いました。

「何?貴様、誰に向かって物を言っておるのじゃ?」
「誰に向かってだと?お前こそ、頭が高いわ、女!そもそも、お前の前髪、シンメトリーではない!気に食わん!」
「貴様・・・!!」

青蘭女帝は、額に青筋を立て、小型の弓矢を引き寄せ、帝二王に向けて狙いをつけました。
元々女帝は弓の名手で、狙いを外した事はありません。
帝二王の右目に狙いをつけて、冷笑します。

「元々、お前らごときの力を当てにしていた訳ではない。わらわの帝国を広げる為、一時的に配下としていただけじゃ。ここまで役立たずとは予想外だった。ここで死んで貰おう」

帝二王は、臆する風もなく、フンと鼻を鳴らしました。

「撃ってみるが良かろう。その勇気があるのならばな」

帝二王の言葉に、青蘭女帝は眉を寄せます。
彼が肝の据わった男とは思えなかったからです。

僅かな疑念と僅かな迷いの中で、青蘭女帝は、帝二王に向かって矢を放ちました。
しかし・・・。

「ヒッ!」

矢は、反対側に飛び出し、青蘭女帝の頬を掠めました。
もし、迷う事なく狙いをつけていたら、女帝自身の目を貫いていたところです。

「ふん。外れたようだな。お前が矢を放つ時に迷うとは、計算外だったわ」

帝二王が冷笑しました。
どうやら、青蘭女帝愛用の弓矢には、帝二王がいつの間にか細工していたようです。
青蘭女帝は、ギりりと歯噛みしました。

その一方で、

「ええい!もう付き合ってられんわ!!」
「このままでは、我が身が危ない・・・!」

青蘭女帝と帝二王との下らない言い合いが始まっている中、京介王と公平王は、それぞれに。
あっけなく瓦解した会盟軍に身を置き続けるのは、何の益もなく危険だと判断し、そっと抜け出そうと画策していました。


けれど、そこへ。


「さて、これで、チェックメイト――王手、かな?」

元帥達を従えた優作王が、その場に現れました。

「なっ、き、貴様は工藤王国の・・・!?」
「な、何故貴様がここに!?」

優作王の姿を認めて、仰天して尻餅をつく京介王と公平王。

「キングが複数やけど、そんキング、全部を取ってもうたら、この局面は終了、でしょうな」
「せやけど、キング自ら王手をかけるんは、聞いた事あらへんで」
「まあまあ。そこが我らの優作王の、抜きん出たところだと思いますな、私は」

両王を眼下に見ながら、気軽に話し合う服部平蔵元帥と遠山大将。

「ええい、何をしている!者共、こやつ等を捕らえよ!!」

絶叫する京介王。
しかし、

「あんさん、俺等が何故ここまで来れたか、何も分かっとらんようやな」
「何っ!?」
「周りをよう見てみい」

そう言われて京介王と公平王が周囲を見回すと、

「「な・・・!?」」

既に両王の周りには誰もいませんでした。

「哀れなもんやなあ。己の欲望のままに国を好き勝手に動かした者の末路っつーもんは・・・」
「「くっ・・・!」」

京介王と公平王は、屈辱感で身を震わせながら、捕縛されました。
また、

「元帥、こいつ等も捕らえましたで。」

大滝大佐が、捕縛した青蘭女帝と帝二王を引き据えてきました。

「ええい、放せ、貴様等!!」
「このワシにこのような事をして、タダですむと思っておるのか!?」

憎悪に満ちた目で、優作王を睨みつける両者。
だが、優作王は一顧だにせず、両者に対して宣告しました。

「あなた方には、これよりあなた方自身の国で、人民が新たに選んだ代表達から、裁きを受けて頂こう。自国民を守る事もせず気紛れに虐待し続け、己の欲望を満たす為に、徒に他国を侵略して自他国双方の民を苦しめた、その罪の償いはどのようなものか、もうお分かりかと思うが」
「「ぐっ・・・!!」」

敗北感に肩を落とす両者は、京介王や公平王共々、引き立てられていきました。
様々に、非道の限りを尽くして来た彼らの、呆気ない終焉でした。


ちなみに、四人の王達は、全ての事が落ち着いた後、能(あた)う限り丁重に、自国に送り返されましたが。
散々酷い目に遇わされて来た人民達の裁きを受け、処刑された事は言うまでもありません。



「戦は終わったで。全軍、引き上げや〜!」

服部元帥の号令の元、工藤王国軍は応えの声を上げ、引き上げを始めました。
侵略されかけていた妃王国の人々が、食料や水の差し入れをします。

妃王国王宮からも、伝令が来て、感謝と労いの言葉を届け。
優作王は、伝令に返信を持たせました。


会盟軍の者達は、かなり散り散りになっておりましたが。
残っていた兵士達は、「道中決して、略奪や狼藉を働かない事」をきつく言い渡されて、それぞれに故郷や行きたい場所に引き上げて行く事を許されました。
妃王国の人々は、会盟軍の兵士達にも、食料や水を差し入れました。
故郷を失った兵士達の中には、そのまま妃王国に住み着く者も、おりました。


「さて。先ほど、空が異様な状態だったが。有希子と新一は・・・?」

息子を信用していない訳ではないですが、いかな優作王と言えど、愛する者達の事を思えば、やはり心中穏やかでは居られませんでした。


   ☆☆☆


「シャロン。あなたが、全ての元凶だったの!?」

有希子王妃が、ベルモットに迫りました。
ベルモットは、脂汗を流しながら、顔を歪めています。

「シャロン!!」
「ゆ・・・ゆき・・・こ・・・私を・・・ころ・・・して・・・」
「え!?」
「ベルモットは・・・力を欲した私が、召喚して・・・私を依り代として、この世に存在している。その私が・・・死ねば・・・契約は無に返り、ベルモットは・・・虚無の獄に・・・帰る・・・から・・・」
「シャロン!?あなたはもしや、魔族に乗っ取られているの?そして、解放するには、あなたを殺すしかないと?」
「ええ・・・有希子・・・だから、お願い・・・ベルモットを・・・呼び出してしまった、私の罪・・・私の命で・・・贖(あがな)って・・・」
「それしか・・・方法がないと言うのなら・・・でも、本当に、そうするしかないの?私には、あなたを手にかけるなど、とても出来ない!」
「有希子・・・私を少しでも哀れと・・・思ってくれるのなら・・・ベルモットを帰す為に・・・私を・・・殺して・・・」

有希子王妃は、旧友の罪と覚悟を知り。
シャロンを解放し、強大な力を持つ魔族ベルモットを、追い払う為には、シャロンの体を殺すしかないと、思いながらも。

直に手をかける事がためらわれ、手が震えておりました。

新一王子始め、他の者達は、息を詰めて見守る以外、出来ませんでした。

「有希子・・・早く・・・!」

シャロンが苦しみながら、有希子を促します。
その時でした。


「・・・もう、無理です」

静かな、けれどキッパリとした声がその場に響き、皆が思わず振り向きました。
今は妖精としての力を失った青子が、そこに立っていました。

「青子ちゃん?」
「青子姫?」
「青子?」
「どういう事なの?」

「ベルモットは。はるか古代に、妖精族と闘って敗れ、虚無の獄に落とされた、有力魔族。おそらくは、シャロンさんの召喚に応じて、この世に現れたのですよね?」
「その・・・通り・・・だから、私が死ねば・・・その契約は・・・無効になって・・・ベルモットは帰る・・・」
「シャロンさん。もう、遅いのです。ベルモットは既に、戦乱の世で失われた人々のエナジーを集め、わがものとし、再生に充分なだけの力を蓄えています。今、シャロンさんが命を落とせば、契約のくびきから解き放たれたベルモットは、虚無の獄に帰らず、この世に留まり、魔王としてこの世に君臨します!」
「そ、そんな・・・っ!」
「ベルモットが、復活に充分なエナジーを得た後に。人間の手で、ベルモットの依り代となった器の人間が殺されれば。
その時こそベルモットは、まったき姿を取り戻して、この世に魔王として君臨できる。それこそ、私の父が、代々の妖精王が、恐れていた事態だったのです。だから決して、今、シャロンさんの体を殺してはならないのです!!」

青子自身、自分が喋っている事なのに、その内容に驚いていました。
妖精としての神通力は失ってしまっても、妖精王の血を引く者として、魂の奥底に刻まれた記憶が、今、青子の口を通して出て来たのです。


青子の親友である妖精乙女・恵子と、アースレディース達は、顔を見合わせました。
妖精乙女達も、その本能の奥底に、古代の魔物達と妖精族との戦いの記憶が、刻まれていましたから。
今、青子の口から出て来た言葉が真実であるという事が、瞬時に分かったのです。



「そうか。ベルモットは、まったき姿を取り戻す為に、最後の仕上げで、我々にシャロンを殺させる積りだったのか!」

新一王子が叫びました。

「新ちゃん、それは一体!?」
「新一王子、どういう意味なんだ?」

有希子王妃と、魔法使いキッドが、それぞれに新一王子に尋ねました。

「ベルモットは、既に復活に充分なエナジーを得た。後はもう、この世に現れ出でる器となった、シャロンを殺させる事で、まったき姿を取り戻す。但し、それには、シャロンが『人間の手によって』殺されなければ駄目なんだ」
「なるほど。だから、我々に殺させようと、敢えて・・・その為に、他の魔物達は捨石に使ったな!」
「いくら魔族言うても、何ちゅう汚いやっちゃ!」

配下の魔物達も、ベルモットにとっては、捨て駒でしかなかったのです。
その事実に、皆、歯噛みしましたが。
ここでベルモットを攻撃すればベルモットの思うツボですから、誰も動けませんでした。

「くくく・・・見抜かれてしまったか。だがまあ、良い。あと少しだ」

ふいに、苦しげだったベルモットの雰囲気が、がらりと変わりました。
そして、いきなり、ベルモットの手から禍々しい色の光が放たれ、青子を襲いました。

「ぐっ!!」

魔法使いキッドが、白いマントを広げ、青子を庇うようにして立ち、光は跳ね返されました。

「か、快斗!」
「青子、大丈夫だ」


新一王子は、蘭と有希子王妃を自分の背後に回し、その場に居る全ての者達を庇うかのように、ベルモットの前に立ち、両手を広げました。

「新一様・・・」
「新ちゃん・・・」
「蘭。こんな事態の中で、何だが」
「はい?」
「オレは、オメーの夫だ」
「はい」
「だから、様なんてつけるな」
「えっ!?」
「ただ、新一、と。呼んで欲しい」

有希子王妃は、この非常時に何をたわけた事をと、息子を叱りたくなりましたが。
ふと、気付きます。

「新ちゃん?死ぬ気じゃないでしょうね?」
「母上・・・いや、母さん。オレは、覚悟はしてるが、諦めてはねえ」
「新一・・・」
「蘭。やっとオメーの声が聞けて、これからだもんな。オメーもぜってー、自分1人が犠牲になればなんて、思うなよ?」
「思いません。だって、あなたの子供が、ここに居るのですもの」

蘭の言葉に、新一と有希子が息を呑みます。

「そうか。蘭、嬉しいよ。ならば、尚更。オレも諦める訳にはいかねーよな」
「蘭ちゃん。私もすごく嬉しいわ。私が絶対、あなた達を守ってあげるからね」


その場に居る者達は。
覚悟を固め、それぞれに、愛する者を庇う姿勢を取りました。


「ワタル王子」
「美和子さん。俺が命に変えても、あなたを守ります」
「バカね。さっきみたいな、死ぬような想いはもう沢山よ!絶対、自分自身も守ってよ!」

「由美姉さん」
「あら・・・任三郎王子、あなたは、美和子を庇わなくて良いの?」
「悔しいが、美和子さんにはもう、ナイトがついていますからね」

「真王子・・・」
「園子さん。あなたはもう、私の妻です。妻を守るのは夫の役目。私から離れないで下さい」

「光彦王子・・・」
「志保さん、ボクは非力ですが、いざとなったら盾になる位は出来ます!だから、離れないで下さい!」

「元太王子・・・」
「歩美、オレの陰に隠れてろ。このでかい体も、こういう時には役に立つからな」

「平次・・・」
「和葉、オレから離れんなや」

「博士さん・・・」
「フサエ王女。あなたはキャンベルガーデンの女王。大切なお方じゃ。・・・いや、正直に言いますわい。ワシ個人にとって、永遠の憧れである、大切な女性ですじゃ。絶対に守ってみせますじゃ」

「あなた・・・」
「ミドリ。ワシは大司教という身だが、お前の夫だ。絶対に守るから、ワシの傍から離れるなよ」

「オウ、シュウ。私を守って〜くれるのですか〜?」
「みんな誰かを庇っているのに、オレだけ庇う相手がいないのも、恰好がつかないからな」
「無事生き伸びたら〜、お互い良い相手を探しましょうね〜」
「余計な御世話だと、言って置こう」


それぞれに。
愛する者を無意識の内に庇いながら、ベルモットと対峙します。
今現在、愛する人がいない者、哀する人と遠く隔たった者達も、弱き者達を守るようにして、立ちます。


「ふん。最後の仕上げの邪魔をされたな。だがまあ良い。後少しで、我は全てのくびきから逃れられる。他の場所で、この器を殺してくれる人間を探せば良い事。我が完全に復活を果たしたその時、また、会おう」


皆、かなり悲壮な覚悟を固めて、ベルモットと対峙していたのですが。
ベルモットにとっては、どうやらかなり分が悪い状態だったようです。

ベルモットは、とりあえずそこから撤退し、姿を消そうとしました。
ところが。

「逃がすものかよ!」
「なっ、何ぃ!?」

新一王子から、オーラが立ち上っていました。
そして、ベルモットは動く事が出来ませんでした。

「き、貴様・・・!新一王子!」

ベルモットは、憤怒に顔を歪めます。

「蘭。手伝ってくれ」
「新一様?」
「ベルモットを、消滅させる」
「え?で、でも、それは・・・!シャロンさんを殺してしまったら・・・」
「心配すんな。シャロンさんの体を殺す訳ではねえ 」
「じゃあ・・・?」
「ここでベルモットを逃がしたら、この世は暗黒の闇に閉ざされてしまう!虚無の獄に帰すのではなくて、ここで、完全に消滅させる!」

蘭は頷き、新一王子に並んで立ちました。

新一王太子は、魔物を滅する力を持った球を、懐から取り出しました。
蘭王太子妃と共に、その球を持ちます。

すると、球が輝き始めました。
直視する事がかなわない程、雷のような眩しい光を、放ちます。


「お前達。さっきの言葉を聞いてなかったのか?お前達がこの器の人間を殺せば、どうなるのか」

「・・・さっきと違い、えらく余裕なさそうじゃねえか。オレ達が滅するのは、シャロンさんじゃない。ベルモット、オメー自身だよ!」
「なっ、何だと!?そ、そのような事が・・・!!」

ベルモットは、余裕のある態度を示そうとしながら、もはやそれが保てなくなって来ていました。
新一王子と蘭王女が持つ球から放たれる光を浴びて、逃げる事も叶わず、姿かたちを留める事すらも難しくなっているようでした。

「そのような事?出来るさ。オメーの方が、分かっている筈だ。それこそ、オメーが今迄、一番恐れていた事だろう!?」


「シルバーブレットの、発動だ・・・」

キッドが呟きます。

「ねえ快斗、前に快斗が『視て』蘭ちゃんに告げたよね。ベルモットを打ち破るのは、蘭ちゃんにしか出来ないって」
「ああ。ただ、青子も知ってるように、オレの『視て告げた事』は、神がかり的に告げるものだから。オレ自身が、全て把握出来ている訳ではねえんだよ」
「うん。青子も、ベルモットと古の妖精族との戦いの事、魂に刻まれているのに、ついさっきまで知らなかったのだもの」
「蘭ちゃんが、呪いを打ち破って兄弟達の姿を元に戻した後でなら。新一王子と対になって、どのような強大な魔をも打ち破る事の出来る、『シルバーブレット』を、発動する事が出来る。代々の妖精王ですら持ち得なかった、『2人の』力だ」
「そうね。青子のご先祖だって、ベルモットを閉じ込めるのが精いっぱいだったんだものね。・・・快斗、妖精王国には、ずっと伝わっていた伝説があったの。いつの日か、妖精の血を引く人間達が、虚無の獄に落とされた魔族を完全に打ち滅ぼし、野望を砕く日が来るって」
「そう言えば。妖精王国の入口を国内に持つ、工藤王国、毛利王国、そして黒羽王国には、王族と妖精族との婚姻の伝説がある。確かに、新一王子も蘭王女も、妖精の血を引く人間達だ」

キッドと青子の傍に、平次公子と和葉公子妃が来て、言いました。

「そうか。せやから、妨害にもめげず、姉ちゃんが呪いを解いて、工藤と2人揃うてしもうた時に、最後の手段として、『他の人間』に、シャロンを殺させようとしたっちゅう事やな」
「姑息やなあ」

キッドは、青子を背後に庇ったまま、ベルモットと対峙する新一王子と蘭王女を見詰めて、言いました。

「因果は巡る。ベルモットは、邪魔な蘭王女達毛利兄弟に呪いをかけ、毛利王国を追い出すように仕向けたが。そのことが結果的に、新一王子と蘭王女との運命の出会いを早める皮肉な結果となった。今度こそ、ベルモットは、これで最期だ」

「ぐっ、う、動けえ!!」

必死になって体を動かそうとするベルモット。
しかし、ベルモットの体は、空間に貼り付けられたかのようにピクリとも動きません。


新一王子と、蘭王女2人の重ね合わせた手から、眩しくも清らかな光を放つ球が、投げ上げられ。
地面に落ちようとするところを、新一王子が蹴り上げます。


「発動・シルバーブレット!行っけえええええええ!!」
「なっっ!!?」

ドゴォーーーーーンッッ!!!

「ぐわああああーーーーーーーっっ!!!!」

それは光の弾丸となってベルモットの体に打ち込まれ。
その瞬間、ベルモットは聞くに堪えない異音を発し。

「ご・・・は・・・そ、そんな・・・ば・・・か・・・な・・・!」

ベルモットの体がスパークした瞬間、世界が鳴動しました。


空が一瞬真っ暗になり、空気が揺らぎ、爆風のような突風が吹いて。

人々は皆、身を伏せて、我と我が身と愛する者とを守るのが、精一杯でした。
目を開けていられない程の強い風が吹き抜ける中、一瞬薄目を開けた幾人かの者は、真っ暗になった空を、巨大なカーテンのような光がうごめいているのを見ました。
それは、極北の地で真冬に時折見る事が出来ると言われている、オーロラと呼ばれる不可思議な光に、良く似たものでした。



それから、どれほどの時が過ぎたのか。
一瞬だったのか、長い時間だったのか。

ようやく静かになって、人々が起き上がった時。
あれほどに強い風が吹き過ぎたと言うのに、誰1人として、怪我1つしておりませんでした。


そして。
ベルモットがいた筈の場所には、ベルモットと似た面差しをした年配の女性が、倒れておりました。



後になって、その時の事を他の者達に尋ねられても。
新一王太子も、蘭王太子妃も、どうやってベルモットを滅する方法が分かったのか、本人達にも分かっていませんでした。

分かっているのは、古代において妖精族達すら苦戦をした、有力魔族のベルモットが、完全に消滅してしまったという事実だけです。




(最終回)に続く

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(18)の後書き座談会

智明「という事で、長い連載となったこのお話も、いよいよ次回でラストです」
新一「いやー、長い長い8ヶ月間だったなあ」
平次「工藤、それ、洒落にならんで・・・」
瑛祐「ボク達って、この連載が始まったよりずっと後に、原作に登場したんですよね」
瑛美「私は、原作で敵か味方かもまだ分からないのに、こういう出番を作っていただいて、良いのかしら?」
園子「それ以前に、サンデー読んでない人には、瑛美(ひでみ)さんって誰?って話よね」
蘭 「私、話し足りないなあ。最終回でもう少しお喋りできるのかしら?」
和葉「ま、出来るんちゃう?それより蘭ちゃん、重大な事があんねんで」
蘭 「と言うと?」
和葉「蘭ちゃんが工藤君と結婚してるって事、おっちゃんまだ知らへんのとちゃう?」
平次「そら、大ごとやなあ」
新一「けどよ、この話では、元々許嫁みたいなもんだったようだし。元々、王族同士は政略結婚の対象だろうし」
園子「ふっふっふ、甘いわね、新一君。ま、投げ飛ばされないようにね〜」
青子「ねえねえ、各王国は再建されるって聞いたけど、快斗も?」
快斗「オレは、キッドとしてこの先も気ままに放浪してえとこだけど、さすがにそういう訳には行かねえんだろうな」
参悟「我ら12人兄弟は、この先どうなるんだろう?」
重悟「兄貴は、王太子だから、次期毛利国王だろうが」
ミサヲ「僕には、お嫁さんは来なかったりしちゃう話なんですかねえ?」
ワタル「仕方ないでしょう。原作でお嫁さんが出て来てないから、迂闊にお妃を出す訳には行きませんしね」
任三郎「・・・君だって、原作ではまだ独身だろう?このお話でも、最後まで独身でいたまえ」
探 「やれやれ。往生際が悪いですね、白鳥警部も。このお話では、他の女性がちゃんといるんですから、我慢して下さいよ」
由美「このお話の中で、1番キャラが変わってしまったのって、私よね」
美和子「ほんとよね、由美ってもっと現実的で、あんなに殊勝で一途なキャラじゃないし。由美も彼も、お互い1人だからって、無理やりでっち上げたカップルだけど、原作でその方向に行きそうにはないわよね」
由美「原作で、私にもっといい男が現われてくれるのを、願ってるわ」
智明「それぞれ語り始めると、止まりそうもありませんね。最終回では、この後書き座談会はなしの予定なんで、皆様心残りは大いにあると思いますが、ここで強引に締めさせて頂きたいと思います」


(17)「復活・白鳥の王子達」に戻る。  (最終章)「大団円」に続く。