必ず君を捕まえてみせる(お題サイト「As far as I know」様。)



BY ドミ



(1)怪盗には、噂話と予告状が付き物



「ねえねえ、青子、聞いた?怪盗キッドが、またまた予告状を……」
「聞いたわよ。お父さんが今度こそキッドを捕まえるって張り切ってるんだから、知らないはず、ないでしょ?」

江古田高校の門近くで、2年B組に所属する桃井恵子と中森青子は、そういう会話を交わしていた。
青子は恵子と話しながら、少し先を歩いている幼馴染み・黒羽快斗の背中を、ちらりと見る。

「青子、快斗君と夫婦喧嘩でもしたの?」
「だ〜れが夫婦よ、あんなヤツ!」
「何か、あったのね?」
「快斗とは、ただの幼馴染みの腐れ縁!何もある訳、ないでしょ?」
「ふう〜ん……」


恵子にはムキになって答えながら、青子の胸には、風が吹いている。

快斗と青子は、幼馴染み。
仲は良いと思うけれど、特別な関係な訳では、ない。


その快斗が、この頃、遠くに行ってしまったと、青子は感じている。

何かがあった訳ではない。
喧嘩をした訳では、ない。

ただ、快斗が、青子を見ていないと。
快斗の心が、どこか遠くへ行ってしまった、と。

青子が寂しく感じているだけ、なのだ。


怪盗キッドが、数年の沈黙を破り、再び現れた頃から。
快斗は、少しずつ少しずつ、青子の手の届かない存在になっていったような……気がする。



そして。

鈴木財閥の相談役・鈴木次郎吉が、怪盗キッドに挑戦するようになり。
江戸川コナンという子供が、キッドキラーとして、新聞を飾る存在になった辺りから。


快斗は、青子から余計に遠い存在になって行ったような、そんな錯覚を覚えていた。


快斗とは、顔を合わせれば、いつも通りの軽口の応酬と、軽いバトル。
それは、ちっとも変わらない。

だから、恵子辺りからは、「そんなの、青子の気の所為よ!」と一喝されてしまうのだけれど。


それに……。


『バカな青子。怪盗キッドなんか、全く無関係なのに。どうして、快斗が変わって行ったのと、キッドの状況とを、重ねて考えてしまうのかしら』


大好きな幼馴染みと、大嫌いな怪盗とは、マジック好きという共通項を除けば、全く無関係だって思うのに。


『あんな愉快犯……青子は、大っ嫌いなんだから!この間なんか、お父さんに変装してたって言うじゃない。人をバカにするにも、程があるわ。今度こそ、お父さんに捕まえられるといいんだ』


青子は、滅多な事では、誰かを「大嫌い」と思う事はない。
憎む事も、ない。

警察官の娘である青子は、正義感も強く、犯罪自体が許せるものではないけれど。
「罪を憎んで人を憎まず」というように、よほどでない限り、犯罪者本人を憎む事もなかった。

けれど、怪盗キッドは、許せない。
大嫌いだと、思っていた。

何故なら、キッドは、盗む事、警察や探偵をけむに巻く事を、楽しんでいると、青子は感じていたからだ。
盗人にも三分の理と言われ、犯罪者にも同情すべき面がある場合も少なくないと、青子は思っている。
勿論、人を傷付けたり殺したりするのはいかなる場合でも許せないし、貧乏人のなけなしのお金を盗んで行ったりするような輩は、問題外だけど。

怪盗キッドについては、話が別だ。
彼は、欲しいから盗むのではなく、遊びで盗んでいるとしか思えない。
絶対に許せない存在だと、青子は思っていた。


教室に入ると、既に、怪盗キッドの噂でもちきりだった。
何故かこの江古田学園には、キッドファンが多く、青子はウンザリする。

「もう、20年近く活動してんだろ?中年……いや、もしかしてジジイだって話だぜ?」
「そんな事ないもん!きっと、素敵な小父様よ!」
「いやいや、まだ10代の若者って可能性が高いと思いますよ、僕は」
「白馬、お前いつ、ロンドンから帰って来たんだよ?」
「つい先頃ですね」
「白馬君、それは、ないでしょ?だって、キッド様は……」
「10年近いブランクがある。その間に、代替わりしたとしても、不思議はないと思いますね」
「じゃあ、今のキッド様は、ジュニアって事?」
「そしたら、あたし、キッド様の恋人になれるかなあ!?」


「あんな愉快犯の、どこが良いのよ!」

青子は小声で言った積りだったが、教室のざわめきが一瞬途切れた。

「あ……まあその……いっつも、してやられてる中森警部の事考えたら、青子には、腹立たしい存在かも、しれないけどお」
「人を傷つけたり殺したりしてる訳じゃないし、盗むのも宝石とか美術品とか、金持からばかりなんだし、そこまで目くじら立てなくても……ねえ?」

女子の何人かが、気まずそうに言った。

「だって!わざわざ、予告状を出すやり方とか、目立つ白衣装とか……楽しんでやってるとしか、思えないもん」

青子の言葉に、女子達は顔を見合わせる。

「まあまあ。怪盗キッドに振り回されて、中森警部が滅多に家に帰って来られなくて、寂しく思ってる青子の気持ちは、分かるけど。みんなが怪盗キッドに憧れる気持ちにまで、水を差さないでやってよ、ね?」

親友の恵子にとりなされて、青子は不承不承ながら、頭を下げる。

「ごめんなさい……」
「あ、その……青子の気持ちも考えずに騒いで、こっちこそ、ごめんね……」
「ま、まあ、泥棒だしね」
「本気で応援してる訳じゃないから」

青子に頭を下げられて、クラスメートたちも慌てて頭を下げる。
クラスのみんなから愛されている青子だが。
怪盗キッドがらみの話題では、ギクシャクしてしまう事が多い。


と、突然、快斗が青子の肩をポンと叩いて言った。

「青子。怪盗キッドは、その内オレが、ぜってー捕まえてやっからよ、そう落ち込むな!」
「ほう。僕を差し置いて、黒羽君がですか?それは見物ですね、楽しみにしています」

快斗が冗談交じりの口調で言って、そこに白馬探が突っ込みを入れ、教室の中はまた、笑いに包まれていた。
怪盗キッド贔屓の筈の快斗が、キッドをぜってー捕まえると言ったのは、青子の気持ちを軽くする為である事は明白で。

青子は、笑顔を見せながら。
この次は、青子自身がキッドの犯行予告現場に乗り込んで、自分の手で怪盗キッドを捕まえてやろうと、心密かに誓っていた。



(2)に続く


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ずっと以前に、お題サイトで見かけて、このお題は、「まじっく快斗」の快青で書くしかない!と、頂いて帰ったものです。
このお題、快新とかキ白とかの方が合うのかも知れないです、怪盗と探偵という構図が合うお題だと思うので。でもまあ、私には書けないし思いつけないので、そっち方面にはなりません(笑)。
この後、お題だけはハッキリ決まっていますが、中身は全く考えていません(苦笑)。

快青というか、キ青というか、の内容になるだろうと思われます。
お題から考えて、青子ちゃんがキッドを捕まえようと乗り込んで……という方向になるかと。
ビターシリーズと、ちょい、かぶってしまうかな?


 (2)「名前と、声と、あとはシルエット」に続く。