必ず君を捕まえてみせる(お題サイト「As far as I know」様。)



BY ドミ



(2)名前と、声と、あとはシルエット



「名前は、怪盗キッド……ううん、これは正確じゃない。本当は、怪盗1412号……これだって、名前じゃ、ないけど」

白馬警視総監の息子・白馬探は、青子や快斗とは同級生で。
警視総監の弟(探の叔父)が主催している研究所に、探はいつも通っているのだが、今回青子は、無理を言ってそれに同行したのだった。
青子は、コンピューターの画面を見ながら、ぶつぶつと呟いていた。

探は、警視庁捜査2課・怪盗キッド特捜班所属の、中森警部の娘である青子を、ねだられるままに連れて来たものの、戸惑っている風だった。

「青子さん。急に、どうしたんですか?」
「青子はね、本格的に、キッドを追いかける事に、したの!」
「へ、へえ……親子で彼を追うんですか。それは、頼もしい」
「そこよ!」
「へっ?」
「何故、キッドの事、『彼』って決めつけてるの?キッドは変装の名人、声色多数、男とは決められないじゃない!」
「そ……それは、そうですけど……」

青子に迫られて、探は目を白黒させていた。

「以前、キッドが残して行った髪の毛を分析した限りでは、彼の性別はMale、男性です。ついでに言うなら、モンゴロイドである確率はほぼ100%、日本人である確率90%以上」
「へ、へえ。その、日本人である確率が90%以上って、高いのか低いのか、分からないわね」
「そうでもないですよ。白人種でも黒人種でもない事は確実なのだし、日本人以外のモンゴロイドである確率は10%未満、だから結構いい線行っているのではと」
「そっかあ。……平成のルパンとか呼ばれてるけど、本家のアルセーヌ・ルパンは、偽名であったとしても、フランス人っぽい名前よね。怪盗キッドの場合、当人がつけた名じゃないだけに、どこの人間であるかという手掛かりには、ならないわよね」
「……青子さん。今迄、それらしい言動がないんで疑問視していたんですが、IQ300は、伊達じゃないんですね……」
「それらしい言動って、どういう意味よ?それに、IQ300って、何の話?」
「黒羽快斗と中森青子は、稀に見る天才なのに、野心が全くないので困ると、教師達が話していました。その気になれば僕なんかよりずっと良い成績を取れる筈です」
「ええ?あのバ快斗と青子が〜?白馬君、青子をかついでいるでしょー!」
「……そういう言動を見ると、君達が本当に天才なのか疑わしくなりますが、事実です」
「天才なんて、青子には縁がない話だよ。まあいいや。で、怪盗キッドの声は……こりゃまた、声色多数だから、どれが本当の声かなんて、分かりっこないわよね」
「名前と、声ときて、次は何です?」
「シルエット。でも、これまた、衣装によって作られるシルエットだから……」
「青子さん?」
「ねえねえ。キッドは、白いスーツとマントに白いシルクハット、モノクル、どこからどう見てもキッドだってわかるコスチュームだけど……でも、それって逆に、誰でもあの恰好をすれば怪盗キッドになれちゃうし、本当の姿をあのコスチュームが隠してしまって、結局、キッドの中の人の印象は、残さないよね」
「……今更という気もしますが、そこに気付いたのは、素晴らしいです」

最初は困惑していた体の探であったが、青子の出した答に、素直に賞賛を送った。

「中の人とか言ったら、昨今は声優を指してしまうようですが……確かに、怪盗キッドは、あのコスチュームの印象が強過ぎて、どういう人物なのかは、分からない。たとえ、変装していなかったとしても……」
「よね。うーん……どういう風にアプローチしたら、キッドの正体に迫れるのかしら?」
「それがすぐにわかるようなら、警部も、僕も、苦労していませんよ」

そう言って探が苦笑した。

「ところで。青子さんは前からキッドを嫌っていたようですが、突然、本格的に追う気になったのは、何故ですか?」
「……快斗が、遠いんだもん……」
「は?」
「怪盗キッドが、再び現れてから、何だか快斗が、遠くなったの!キッドを捕まえたら、快斗が戻ってくるような気がして……」
「……は……はあ……」
「ごめん。バカだって、変な事言ってるって、自分で分かってるのよ」
「いや。女の勘ってヤツは、こうも、男の論理を軽々と飛び越えてしまうものかと……」
「あー!やっぱ、白馬君、バカにしてるでしょ!」
「いやいや、バカになんか、してませんよ……」

探が青子を見る目は、慈しむような優しいもので。
青子は、その眼差しを「憐み」と感じ取ったのだった。

「で?キッドの犯行予告現場に、本当に乗り込む気ですか?」
「うん!今迄、お父さんや白馬君の活躍を見てるだけだったけど!今度は青子が、捕まえるんだ!」
「……すみませんね、不甲斐なくて……」
「あ!別に、白馬君やお父さんの事、情けないって思ってるんじゃないよ!ただ、青子は、青子はねえ。快斗を取り戻すのに、キッドを自分の手で捕まえなきゃって……あーっ!白馬君、やっぱりバカにして笑ってる!」
「いやいやいや。素敵な乙女心だと思いますよ」
「おだてても、キッド捕獲の手柄は、譲ってあげないからね!」
「ひどいなあ。叔父の研究所に招待してあげたのに」


探の眼差しがいささか同情的だった事の理由を青子が知るのは、ずっと後の事である。


(3)に続く


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……えーっとお。

何故か、青子ちゃんと探君との単なる会話になってしまいました。
動きもなければ、オチも何もない。
快斗君もキッドも出てないしね。
全15話の2話目ですから、こういうのもありかなと。

2011年10月31日脱稿


(1)「怪盗には、噂話と予告状が付き物」に戻る。  (3)「来演の日取りはお決まりですか?」に続く。