未来の思い出



byドミ



(5)そして始まりの日へ



蘭が気付いた時。
目の前には新一が居た。

蘭が良く知る、17歳の新一。
ああ、戻って来たんだ、と蘭は思い、安堵した。

未来は蘭の希望通りだったと言えたし、そのままの生活も悪くはなさそうだったが、やはりこちらの方が断然良い。
何と言っても、あの「未来」は、「今の蘭」が努力して手に入れたものではないのだから。

蘭が今居るのは工藤邸のリビングで、外は雷雨のようだった。

「んで、何だよ蘭、話って?」

目の前の新一が、不機嫌そうに言った。
どこか拗ねたような顔をしている。

「は、話・・・って?」
「蘭が突然、話があるからって、ここに来たんだろうか!ったく!この一週間、ずっとオレの話をはぐらかして振り回してよ!」
「ごめんなさい・・・ちょっと訳があって・・・」

どうやら未来の蘭は、新一の大切な話をはぐらかして逃げ回っていたようだ。
それはそうだろうな、と蘭は思う。
どういう内容か分からないけれど、新一の「大事な話」を、正真正銘の17歳の蘭が聞く前に、22歳の蘭が聞いてしまう訳には行かないのだから。

「あの・・・一週間前にわたしに聞かせてくれる筈だった、大事な話を、教えてくれる?」

蘭は新一を真っ直ぐ見詰めてそう言った。
あの雷雨の日、新一が蘭を抱き締めて告げようとしてくれた言葉を、今、聞きたいと蘭は思っていた。

「ま〜た逃げたりはぐらかしたりすんじゃねえだろうな?」

新一が胡散臭げな目で見る。

「絶対、そんな事しない」
「どうだか。一週間前にはいきなり回し蹴りだったもんな。怒るのはせめて、話を聞いた後にして欲しいもんだぜ」
「そ、それは・・・」

蘭は未来の自分の行動に頭痛を覚える。
話をはぐらかす為とは言え、あまりの行動のような気がしたが・・・いずれ5年後に自分がそれをやるのだろうと思うと、ますます頭痛が酷くなった。

「大体、『エッチ』って、オレが何したってんだよ!?最初にしがみ付いて来たのは蘭の方だろうが!」

蘭は一週間前の状況を思い起こし・・・あの時新一に抱き締められた事を思い出して真っ赤になった。
未来の蘭は、それにビックリした事を口実に、問答無用で新一をノックアウトしたものらしい。

「ご、ごめんね・・・」

蘭が俯いてそう言うと、新一は慌て始めた。

「あ、い、いや・・・別にそれに怒ってるとかそんなんじゃねえって。ただ、今夜は本当にオレの話、まともに聞いてくれる気あんのか?」
「う、うん・・・」

そう言って蘭は新一を真っ直ぐに見詰めた。

「蘭が、好きだ。子供の頃から、ずっと・・・好きだった」

はっきりと新一の口から告げられた言葉に、蘭は身が震え、涙を流していた。
未来を垣間見た時から、新一がいずれ告白してくれるのだろうと、期待してはいたけれど。
あの時が、告白しようとしてくれた、まさにその時だったとは。

「わたしも。新一が好き。大好き!」

蘭がそう答えると、新一は蘭を抱き締めた。

「空手技は、使うなよ?」

そう言って新一の顔が近付いてくる。蘭は目を閉じ、唇に優しく暖かな感触を感じ取った。
新一との初めての口づけ。
とても幸せだと、蘭は思った。

『そうね。あの時キスやエッチをしていたら・・・この体は未経験でも、わたしの心にしっかりその記憶が残ってしまったわよね』

たった一週間だが、未来を垣間見た。その記憶はしっかりと蘭の心に残っている。
蘭のこれからの人生が、既に知っているものを辿るだけなのか、多少の変動は有り得るのか、それは分からない事だけれど。

『でもきっと、あの未来になる為には、お互いに努力して積み重ねたものがあるんだろうな』

蘭はこれから、新一と色々な話をするだろう。
新一がコナンだった事を聞き、蘭が未来を垣間見た事を話し、この先の日々を過ごして行くのだろうと思う。


   ☆☆☆


新一と蘭の口付けは段々激しくなり、蘭はいつの間にかソファーに押し倒されていた。
新一の唇が蘭の首筋に落とされる。

「あっ・・・!」

思わず蘭は身が強張り、新一を押し退けていた。

「ご、ごめん!いきなり・・・」

新一が体を起こして謝った。

「ううん・・・」

蘭も体を起こす。
嫌ではなかった、ただ、戸惑っただけだった。

このまま、新一に身を任せてしまっても良いような気もしていたが、家に帰らないと父親に何を言われるか分からない。
ちょっぴり残念な気持ちはあるが、この先、新一とそういう関係になるのを、急ぐ必要はない筈だ。

ふと蘭の目に、出窓に置いてある花瓶にぶら下がった紙が留まった。

『17歳の蘭へ。
今日お父さんは麻雀で帰って来ないよ〜。頑張ってね〜。
22歳の蘭より』

蘭自身に覚えのある筆跡でそう書いてあり、蘭は「5年後のわたしって、どういう性格してんのよ!」と内心で激しく突っ込んでいた。


「蘭。そろそろ帰んないといけねえだろ?送ってくよ」

新一が名残惜しそうに蘭の体を離してそう言った。


今夜は新一に送って貰って大人しく帰るか、それとも・・・?

その決断は、「今の蘭」に委ねられていた。


決まった歴史を辿るのではない。
「未来の思い出」を胸に刻み込んで、これから二人で、未来を「作って」行くのだ。


Fin.


++++++++++++++++++++++


<後書き>


コナン君が、いずれ、新一君に戻った時。
新一君は蘭ちゃんに全てを話すのか?

そして、全てを知った蘭ちゃんは、新一君を許せるのか?

「未来捏造二次創作」で、多くの方が手掛けているテーマですけれど。

それに対しての私なりの見解が、この「未来の思い出」です。
根本的に、今もそれは変わってません。


で、この話はこれで終わり、新一君と蘭ちゃんがどうなったのかは、読者様の想像にお任せ・・・だったんですけど。

ちょっと続きを、書いてみようかなあと。
ただし、書いた場合の掲載は、間違いなく、裏になります。


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