12月(つき)の精霊たち



byドミ



(6)森は生きている



熱い口付けを交わし合った後、4月の精・新一は蘭の耳に熱く囁きました。

「……昔から、好きだった」
「昔って、いつから?」
「蘭が初めて森の中に来たころから」
「新一……」

蘭は幼い頃から、森に入ると、何かに誰かに守られている気がしていました。
特に4月には、森に行くと、深い愛情に包まれているようで、とても幸せな気持ちでいられました。

新一と直に出会ったのは昨日が初めてでしたが、昔から馴染んだ気配に、蘭は迷うことなく新一のプロポーズに返事ができたのです。

ただ、おそらく新一はその頃から今とあまり変わらない姿だったのだろうし、この先も蘭よりずっとゆっくり歳を取って行くのでしょう。
それは、少しだけ寂しい事でした。
いや、寂しいのは蘭ではなく、残される新一の方です。
それでも、蘭を妻にと望んでくれた新一の気持ちが嬉しいと思う蘭でした。

そしてまた、二人の顔が近づき、唇が重なります。
すると。


「ごるあ〜〜〜〜!!貴様、娘から離れんかあ!絶対許さんぞお!」

小五郎が、頭から湯気を立てて仁王立ちになり、怒鳴りつけました。
2人はいつの間にか焚火の所まで移動して来ており、そこには小五郎・園子・警護隊長がいたのです。

新一が、蘭を抱き締めたまま、小五郎に向かい合って言います。

「おとうさん」
「貴様に、父と呼ばれるいわれはない!」
「僕は、この森の4月を司る精霊です。蘭さんとの結婚を許していただけませんか?」
「精霊だろうと人間だろうと、許さ〜〜〜ん!」
「お父さん、酷い!わたし……わたし……お父さんなんか、もう知らない!」

蘭が泣き始めたので、小五郎はあたふたします。

「ら、蘭……何も泣くこた……」
「お父さんなんか、大っ嫌い!」

娘に嫌いと言われて、小五郎は蒼褪めました。

「ら、蘭……お願いだから機嫌を直してくれ……」
「もう!だから言ったでしょ!小父様の為に、あのウザマッチョ若松に嫁ぐ決意さえ固めていた健気な蘭が、相思相愛になった相手の事、認めてあげたら?」

園子も横から口を添え、小五郎は不承不承、折れるしかなかったのでした。


ようやく一息ついたところへ、3月の精が、宮廷女官の服を着た女性を抱えて現れました。

「3月の兄さん。その女性は?」
「わ、私は、小林澄子といいます」
「8月の兄弟が起こした嵐で吹き飛ばされてしまったんでね。助けて来たんだよ」
「あわわ、せやったんか。そら、悪い事したな」
「いえ、大丈夫です。あの……危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
「あなたがオオカミの前に身を投げ出して女王を庇った姿に、いたく感動しました。優しく勇気ある女性だと……澄子さん、僕の事は、任三郎と呼んでください」

女性にあっさりと自分の真名を教えた3月の精に、一同は目を白黒させます。
いきなりそこに、ラブラブ空間が出現していたのでした。

そして。

「園子さん。あなたが親友の為に頑張っている姿に、私は……」
「あ、あの……」
「私は6月の精で、真名は真といいます」
「真さん……」

更に新しいカップルが誕生している模様でした。

「小林さん。嵐で飛ばされたって?」
「け、警護隊長?何故ここに……?」
「由衣は無事だろうか……心配だ……」
「ご心配なら、女王一行の所まで急ぎ行けるように、馬を貸しますよ」

警護隊長に向かって申し出たのは、12月の精霊の中で一番ガタイが良い、11月の精でした。

「それはありがたいが……良いんですかね?」
「この場所なら、限られた者以外が道を見つける事はないから大丈夫だ。ただ、森の中で12の月の精霊たちに出会ったことは、内緒にしておいてくれるとありがたい」
「じゃあ、頼みます」

11月の精は魔法の馬を出し、警護隊長に馬を渡しました。

「こいつは勝手に戻るから、城に帰ったら馬を放して下さい」
「分かりました、お借りします」

そして、警護隊長は馬にまたがりました。
馬は素晴らしいスピードであっという間に女王一行の所にたどり着きました。



   ☆☆☆



一方、夏の暑さに外套を脱ぎ、嵐で外套を飛ばされ、秋の雨でずぶ濡れになった女王一行は。
再びの冬の寒さに、震え上がっておりました。
しかも、雪が降り風が強くなり、吹雪いてきます。

「ううっ!寒い……」
「美和子さん!シッカリして下さい。僕が温めてあげますから!」
「わ、渉君……」
「ホラ!馬に乗って下さい」

「苗ちゃん、大丈夫!?」
「千葉さーん。どうしてここに?」
「嵐に吹かれて方角が分からなくなったら、こっちに出て来たんだよ!それより、ほら、僕の上着!」
「え、でも、それじゃ、千葉さんが……」
「僕は、脂肪が厚いから大丈夫だよ!さあ!」

「由美タン!しっかり!ほら、つかまって!」
「チュウ吉!あんた確か、千葉君と一緒に警護隊長の方に行ったんじゃなかったの!?」
「この異常気象に、由美タンが心配で引き返して来たんですよ!」

どさくさに紛れてラブラブな空気を醸し出していた人達もいましたが、誰も他人を気にしている余裕はありませんでした。

「由衣!大丈夫か!?」
「えっ!?嘘っ……勘ちゃん、どうしてここに!?」
「どうしてって……それを俺に言わせるのか!?ホラ、俺の上着!城に帰るぞ!」
「で、でも……ほかの人たちは……それにさっき、澄子さんが飛ばされて……」
「ああ、彼女なら大丈夫だ。他の人達も」
「ほ、ホント?」
「俺は、特別に許可を得て戻って来たから……」
「許可って?」
「それ以上は言えない。察してくれ」
「……分かった」

警護隊長は、大きく声を張り上げます。


「これ以上、ここにいるのは危険だ!凍えてしまうだけだ!皆、城に引き上げるぞ!」

警護隊長の声に、一同はホッとし、それぞれに馬にまたがり、城へと向かいます。

「陛下!早くソリに!」
「ダメよ!まだ、お姉様の……!」
「陛下!このままでは凍えてしまいますぞ!自然の摂理を相手に、王家の威光など、何の役にも立たないのです!」
「自然の摂理?あんな風に季節が変わってしまうのも、自然の摂理の筈、ないでしょう!?」
「自然の摂理という言葉で気に入らないのなら、人智を超えた存在と言い換えますじゃ!」

「あー!手がかかる女王様だ!」
「な、何を!?きゃあっ!」

兵隊の1人・高木渉が、女王を抱えてソリに放り込みました。
続いて阿笠博士がソリに乗り込みます。

渉は美和子もソリに乗せると、馬を走らせ始めました。

「戻って!戻るのよ!」
「陛下、何をなさるんです、危ない!」

渉が握る手綱に、女王が横から手を出し、その結果。


ヒヒヒ〜〜〜ン!

馬が大きくいななき暴れ、ソリは、引っくり返ってしまいました。
繋ぎ目が外れたのか、馬はそのまま駆けて行ってしまいます。

いつの間にか積もった雪で、怪我こそしませんでしたが、引っくり返った4人は暫く動けませんでした。
周りは吹雪で視界が効かない上、他の人達は先に行ってしまっているので、助けを呼ぶ事もできません。

「ちょっと陛下!いい加減にして下さいよ!」
「志保姫!今度という今度は……!」
「2人とも、今は陛下を責めても何にもならない。このままじゃ4人まとめて凍え死ぬだけだ、とにかく歩きましょう」

女官の美和子と阿笠博士が思わず女王を叱りつけていると、兵隊の高木が立ち上がり、女王に手を差し伸べました。
女王はそれを無視し、自力で立ち上がろうとしますが、できません。
痺れを切らした女官長・美和子が、後ろから引っ張って立ち上がらせます。

「陛下。鼻の頭が寒さで真っ赤になっている。とにかく、歩きましょう」

そして、一行は歩き始めました。



   ☆☆☆



女王たちの様子を見ていた、12の月の精霊たち。
一番長老格の12月の精が、蘭に向かって言います。

「さて。あの人たちはどうするね?」
「あの兵隊さんは、昨日、薪ひろいを手伝ってくれた。あの博士さんは、女王様に一所懸命道を説いてらしたし。女官のあの方も、親切でした」
「ふむ。じゃあ、あの3人は良いとして……問題はあの女王陛下だが」
「あの女王様は、幼い頃にお母様とお姉様を亡くされて、昨年は父王陛下を亡くされた、可愛そうな方なの……このまま森の中で凍え死ぬのは、嫌だわ」

横から4月の精・新一が言いました。

「蘭。あんだけ酷い目に遭っていても、助けたいのか?」
「だって。誰も、死んでほしくなんかないもの……」
「まあ、オレだって死んでほしい訳じゃねえさ。じゃあ兄さんたち、構わないですか?4人揃ってこの場に招いても」
「あの女王サマについては、私にも責任の一端がある。きちんと話をしたい」
「1月の兄さん……じゃあ、特別に道を開きますよ」


小五郎・園子・警護隊長が通ったのと同じ、「過去にもなく未来にもない道」が、再び開かれました。

「あちらに、焚火が見えますよ!」
「ちょうどいいわ。温まらせてもらいましょう」
「陛下も、服を乾かさないと……」
「焚火……?あれは、お姉様の話していた焚火なの?」

4人は、前方にちらちらと見える炎に誘われるように、道を辿って行き、そして、精霊たちが囲む焚火の所にたどり着きました。

「ようこそ、新年の焚火へ。取り敢えず火にあたって温まるが良い」

12月の精が重々しく言います。
4人は、息を詰めていました。

美和子が、自分によく似た女性の姿を見つけ、駆け寄ります。

「澄子さん!無事だったのね!」
「ええ。こちらの方に助けていただいて」

女官仲間の2人は、よく似ている為、宮廷でも「姉妹のようだ」と並び称されていました。
もっとも、男勝りの女官長美和子と、女らしい澄子とでは、大分性格が違っていましたが。

「おや。君は……昨日薪拾いをして、今日はマツユキソウを御殿に届けに来た娘さん?」
「兵隊さん、昨日はありがとうございました」
「いやいや、それより、君も無事だったんだね。良かった」

蘭は、兵隊に向かってお辞儀をしました。
阿笠博士が目を細めて蘭を見ます。

「宮殿に来た時とは違う服のようじゃが、素晴らしく似合っておるの」
「これは……いただきものなんです」

蘭が今着ているドレスと上着・靴は、4月の精と正式に婚約した娘の為に、精霊たちが贈ってくれたのです。
その手には指輪が光り、女王は目を細めました。

そして女王は、蘭の傍に立つ4月の精・新一の所につかつかと歩いて行き、いきなり、その胸ぐらを掴みます。
周囲の者は、皆目を丸くして、その様子を見ていました。

「どうして。どうして……お姉ちゃんを助けてくれなかったの!?」
「お、お姉ちゃんって……」
「10年前。あなたは、指輪をお姉ちゃんに贈ったでしょう!?なのに……そして今、その指輪を、その娘に!」
「……オレは、君の姉上に会った事はある。けど、その頃からオレが好きなのはこっちの蘭だったし、指輪をあげた事なんてない」
「嘘よ!そりゃ、お姉ちゃんが死んで10年も経ったんだから、心変わり位あっても仕方がないって思うけど!不思議な力を持つあなたなのに、お姉様を助けてくれなかった!死に目に会いにも来てくれなかったじゃない!そ、そして、いつの間にかお姉様の指輪は、無くなってしまっていたわ!」
「へ、陛下……だから、わたしの指輪を見て……」
「君の姉上の事は、知らない。オレはただ、会った事があるだけだ」
「嘘よ!お姉様は、森の奥の12の月の精達の宴の事を、私に話してくれた!春と夏と秋と冬、全ての季節を司る精霊達……話を聞いた時は、お伽噺のようだと思っていたわ。でも、お姉様の指には、その娘と同じ指輪が光っていた!」
「……昔、君のお姉さんに指輪を贈ったのは、4月の弟ではなく、私だ」

1月の精が進み出て言いました。
他の12の月の精は皆知っている事でしたが、その場にいる人間は、息を呑みました。

女王は、4月の精の胸ぐらを掴んでいた手から力が抜けました。

「嘘……そんな……だって……」
「精霊は皆、そのパートナーに贈る指輪を持っている。見なさい、その娘さん以外にも、指輪をはめている者達がいるから」

女王は周りを見回します。
そして、精霊の1人の他、いつの間にか園子と宮廷女官澄子の指にも、先ほどまではなかった指輪が光っているのを見ました。
それらは皆、とてもよく似ていましたが、少しずつ色合いが違っているのでした。

女王は、1月の精に向き直って、叫びました。

「じゃあ、何で!?何でお姉ちゃんを!?」
「……彼女が、ここの事を他の人に話してはならないという掟を破ったからだ」
「えっ!?」

女王の顔色がスーッと白くなります。

「もしかして。私に語り聞かせたあの物語……私に喋った事が……?」
「ああ」
「そんな……そんな……」

女王はよろめきます。
まさか、姉が暖炉の前で、お伽噺の夢物語のように語ってくれたことが、姉をその想い人と引き裂く事になったのだとは。

「昔、お前の姉が森の中で、連れの者とはぐれていた時に助け、私達は将来を誓い合った。けれど……やがてお前の姉は、将来女王として国を背負わなければならない自分の立場を考え、婿取りをする事になり……私と決別する事を決意したのだ」
「え……?」
「指輪に向かって、『ごめんね』と、何度も呟いていた。そして……決別の為に、お前に、私達と出会った事を語り聞かせたのだよ」
「……」
「指輪は彼女の手元を離れ、私の所に戻って来た。だから……彼女が病に倒れた時、私にはどうすることもできなかった……」
「お姉様は……女王としての責任を果たすために、あなたと別れる道を選んだのね」
「ああ……そうだ……私はこの10年、彼女を忘れたことなど、ない……」

1月の精の、苦悩に満ちた表情に、女王は目を見開き……やがてほんのりと微笑みました。

「わかったわ。ありがとう」

女王は、踵を返すと、蘭の前に立ちました。
そして、深々と頭を下げたので、皆、驚きました。

「あなたの事、誤解して、辛く当たって、ごめんなさい……」
「へ、陛下……」
「お父様の治療に、金貨が必要なんだって言ってたわね。お城に帰ったらすぐに……」
「いえ、陛下。もう良いのです。父は病気じゃなかったし」
「えっ!?」
「いや、蘭の父親を診ていた主治医がな。本来、腕は悪くねえんだが、蘭に懸想した男に金で頼まれて、余命数ヶ月で、高価な薬が必要だって嘘をついてたんだよ」
「……そうだったの。でも、マツユキソウを摘んで来た人には金貨をあげる約束だったのだから……」
「陛下。では、そのお金は寄付しますから、別の事にお役立てください」

女王は蘭をマジマジと見つめました。

「あなたは、私のお姉様に少し似てる」
「えっ?」
「容姿だけじゃなくて……色々な部分が……」
「陛下……」
「ごめんなさい。そして、ありがとう」

女王は今度は、自身の教師である阿笠博士に向かい合いました。

「博士。私は女王として、学ばなければならない事がまだ沢山あるわ。これからまた、色々と、教えてくれる?」
「志保姫様……」
「私は姫じゃない、と言いたいところだけど。今迄の私は、女王とは名ばかりで、姫ですらなかったわね……」
「学問の事は、お任せ下され。ですが、女王として必要な事は、あの女官長をはじめとして、様々な人から教わると良いですじゃ」
「ええ、そうするわ。美和子さん、澄子さん、これからもよろしくね」
「へ、陛下……」
「ええ。お任せください」


「さて。各々がた。濡れた服もすっかり乾いた事だろう。そろそろ、帰られるが良い」

12月の精が重々しく言いました。
そして、11月の精がいつの間にか手に沢山の上着を持ち、風で上着が飛ばされた者達に渡します。

「しかし、ソリは引っくり返って、馬も走り去ってしまったんですよねー」
「歩いて帰るしかなかろう。メタボのワシにはちょうど良い運動じゃ」
「いやいや、4月の兄弟が婚約者に引き出物として贈ったソリは大きくて、ソリを引く馬は素晴らしい力を持っている。全員が乗る事ができますよ」
「それぞれ、恋人と離れるのは寂しいだろうが、また改めて遊びに行くし、招待もするよ」


「じゃあ、蘭。近い内にまた……」
「新一……きっとよ……」

「園子さん。私も改めてご挨拶に伺います」
「真さん……」

「澄子さん。またいずれ」
「はい、任三郎さん……」


「ねえ、渉君。何だか、すごい事になっているような気がするんだけど……」
「美和子さん。そもそも、目の前に12の月が勢ぞろい、それだけで頭が混乱します。一番良いのは、帰ったら全て忘れる事だと思いますけど」
「ああ、それが良いですじゃ。人の世に戻ったら、人智を超えた存在については、きれいさっぱり忘れる事が肝要ですぞ」
「ええ。私もそうするわ。森の精霊たちと生涯を誓った者達を除いて、皆、これから人の世の理(ことわり)を生きて行かなければならないのだから」
「陛下……」
「私は……お姉様の意志と覚悟を継いで、立派な女王になれるよう、努力するわ」

そう言って柔らかな微笑みを浮かべた女王を、眩しいものでも見るような目で、一同は見詰めたのでした。



そして、一同を乗せたソリは、走り始めます。

「ところで、蘭さんのお父さん?」
「ははは、はい。何でしょう、陛下?」
「あなたをたばかった主治医の名前は?」
「……風戸京介です、陛下」
「蘭さんに懸想していたという、ウザマッチョの名前は?」
「若松俊秀です」
「そう。二人の始末は、任せてちょうだい」
「し、始末って、陛下……」
「孝行娘の父親想いを利用するなんて、許せないの、私」
「御意。陛下、御心のままに……」
「さあ。これから、忙しくなるわよ」

女王陛下も、こういった容赦のない部分は変わらないなと、内心で思った一同でした。


悪徳医師・風戸と、蘭に言い寄っていたウザマッチョ・若松のその後については、ここで敢えて触れますまい。



   ☆☆☆



うら若き女王が就任した王国は、最初こそ混乱もありましたが。
女王が勤勉で周囲の忠告をよく聞き、善政をしいたので、国は豊かに栄えて行きました。
森の恵みはますます豊かに、国民を潤したということです。


そして、春、5月の風の中で。
森の奥で、結婚式が行われておりました。

人の子である蘭が、4月の精に嫁ぐのです。
列席者は、12月(つき)の精霊たちの他、蘭の両親である小五郎と英理・3月の精の婚約者小林澄子・6月の精の婚約者鈴木園子です。
宮廷からは蘭の元に、お祝いの品が届いておりました。

マツユキソウをモチーフにした縫い取りのある白いドレスに身を包んだ蘭は、それは美しく。
蘭の両親は、涙を流してその姿を見ておりました。

蘭の母親・英理が涙ながらに蘭に告げます。

「蘭……寂しくなるわね……」
「お母さん。わたしも遊びに行くし、お母さんも……」
「蘭の両親であるお2人の為には、いつでも道をお開けしますよ」
「でも、私の住んでいるところからここまでは、ちょっと遠いのよねえ。仕方がないから、小五郎の所に泊めてもらうことにするわ」

そこにいる皆が内心で、英理が小五郎とまた一緒に住めば良いだけなのにと思いましたが、それは口に出しませんでした。
けれど、その後英理は、週の半分以上を小五郎の住まいに泊まって過ごすようになったのでした。


この夏には、園子と6月の精・澄子と3月の精が相次いで式を挙げる事になっています。



森の奥は笑い声と明るい光に満ち、4月の精・新一と蘭をはじめとして、皆、末永く幸せに暮らしたという事です。




「12月(つき)の精霊たち」Fin.

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表の童話シリーズ(?)第2弾「12月(つき)の精霊たち」は、これにて終幕です。
蘭ちゃんがみなしごじゃない設定にしたら、随分様変わりしてしまいましたが。

女王の姉と1月の精のエピソードは、オリジナルです。
女王にあの人を配した事で、最初の超ワガママな理由を考えている内に、ああいう事になりました。

元の童話では、カップルは一つだけなのに、コナンキャラを使ったら、いっぱいカップルができまくって(笑)。
ちょっと肝心の主役たちが霞んでしまったような気がしなくもありません。
上手く動かせなかったキャラは多かったですし、横溝兄弟にいたっては、設定したものの、結局使えず消えてしまいました。

ともあれ、何とか完結できてホッとしています。
ここまでお付き合いいただいた方、ありがとうございました。


2014年1月4日脱稿

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