Stay with me〜異聞・竹取物語〜



byドミ



(1)子授け神社



昔むかし、ある所に。

竹取の小五郎と呼ばれる男がいました。


竹を取っては、それを籠や様々な物に加工し、それを売って生計を立てていたのです。

小五郎は、飲兵衛ではありましたが、仕事はそれなりにこなし。
妻の英理とは、喧嘩もしばしばでしたが仲睦まじく。
まずまず幸せに暮らしておりました。

けれど、彼ら夫婦にも一つだけ悩み事がありました。
それは、結婚して数年が経つのに、一向に子宝に恵まれない事でした。


「ああ・・・可愛い子供をこの手に抱きたい・・・」
「そんな事言ったって仕方ねえだろ、英理。こればっかりは天からの授かりもんなんだからよ」

小五郎自身も子供が欲しいのは山々ですが、子供が出来ずに思い悩んでいる英理にそんな事が言えるわけもありません。
暗い顔の英理から逃げ出すように、竹を切りに裏の山へと入って行きました。

竹取の小五郎と妻の英理が住む小さな家のすぐ裏の山には、竹林が広がっています。

この竹林をきちんと管理する事も、小五郎の大切な仕事です。
間引きして日光が充分当たり風が通るようにし、竹が健やかに真っ直ぐに育つようにします。
そして、立派に育った竹を切り、持ち帰って様々な竹細工に加工するのです。

小五郎が出かけた後、英理は溜息を吐きました。
小五郎の言うとおり、子供に恵まれるかどうかは運命である事はわかっていたのです。
けれど英理は諦めがつきませんでした。

英理は「子授け」に霊験あらたかであると評判の、「天の香具山(*)」にある月読(つくよみ)神社に詣でる事にしました。
(*このお話では、「天の香具山」は飛鳥地方にある同名の山とは別もの・・・という設定になっています。架空の存在だとご承知置き下さい)


険しい山道を登り、山の中腹にある神社の中宮にたどり着いた時には、英理は汗びっしょりになっていました。

英理が岩屋のような本殿で祈りを捧げていると、不意に英理の頭の中で声が響きました。

『そなた、子供がそんなに欲しいか?』
「はい。欲しいです」

英理は躊躇なく次元の高い存在に答えます。

『では、そなたに子を授けよう』
「ほ、本当ですかっ!?」
『そなたは帰ったら、身篭っている事に気付くだろう。成人するその日まで、大切に育てるが良い』


一方、竹林に行った小五郎は。
大切に育てている、ひときわ太い竹の根元が、ピカリピカリと不思議な光を放っているのを見つけました。

「一体、何なんだ、これは!?」

小五郎が怪しんで近寄って見ますと、その竹は鉈を振るった訳でもないのに、音もなく根元から倒れました。
そして倒れた竹の節の中には、ぎっしりと砂金が詰まっていたのです。

「夢じゃねーだろうな?不思議な事もあるもんだ・・・」

小五郎は怪しみながらも、その砂金を一粒残らず背負籠に詰めて持って帰りました。
何しろ金ですからそれはそれは重く、小五郎が家に帰り着いた頃にはもうとっぷりと日が暮れていました。

「お帰りなさい。遅かったのね」

出迎えた英理が言いました。
そう言う英理だって遠い神社にお参りして来たばかりなのですから、ついさっきようやく家に帰り着いたのです。

小五郎は、砂金の事を英理にどうやって切り出したものかと迷っていました。
後ろ暗い事は何もないのですが、「竹の中から出て来た」と言っても、信じてくれるとは思えません。

小五郎と英理は遅い夕御飯を取りました。
お米は貴重な為滅多に口に出来ませんが、山や川の恵み豊かなこの地では、食べ物に不自由する事はありません。
ただ、他の事は何でも完璧にこなす英理なのに、何故か料理の味付けだけはお世辞にも上手とは言えませんでしたが。

小五郎は砂金の事でぼんやりと考え込んでいて、灯りが暗い事もあり、英理の顔色が悪いのには気付きませんでした。
ふと小五郎が我に返ると、自分の皿は空になっているのに、英理の皿は殆ど手付かずのままでした。

「英理・・・?加減でも悪いのか?」
「いいえ、大丈夫よ、あなた。私・・・ややが出来たようなのです」

小五郎は暫らく目をパチクリさせていました。
意味がわかると、満面の笑顔になって、英理を抱き上げました。

「キャッ、あなた!」
「英理。良かったな!」

小五郎の幸せそうな顔を見て、英理も頬を染めました。

英理は、神のご加護で子供を宿した事を小五郎に告げました。
それを聞いて小五郎も合点がいき、今日竹の根元で砂金を見つけた不思議な話を英理にしました。
子供を授けてくれた神が、経済的な援助も同時に行ってくれたのに間違いないと、英理も思いました。


それから十日の間、小五郎は竹の根元で砂金を見つけ続け、2人は大金持ちになりました。


やがて月満ちて、英理は女の子を産みました。
素晴らしく美しい子供は「蘭」と名付けられましたが、長じるに連れますます光り輝くように美しく成長した蘭は、誰言うともなく「なよ竹のかぐや姫」と呼ばれるようになりました。


(2)に続く


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このお話は、2003年蘭ちゃんオンリーで出した同人誌の、サイト再録です。
イベントが9月開催だったことから、「9月→お月見」の連想で描いた、蘭ちゃんかぐや姫の新蘭パラレルです。
完売してから、かなり長い事経ちましたが、今回、ようやくサイトアップしようかという気に、なりました。

パラレルとは言え、明美さんについて、ちょっとあまりにも申し訳ない設定をしてしまったもので、今回、若干の修正をしようかと思っています。

(1)は、導入部。
次回の(2)では、ちび新蘭の登場になります。


 (2)「出会い」に続く。