201X年、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストン―――。
カタカタカタ……。
ボストンに聳え立つ超高層マンションの最上階の一室にて、パソコンのキーボードを叩く少年。
そのディスプレイには、一般人から見ればとても難解なコンピュータ言語が数多く書き記されていた。
その傍らにあるプラズマディスプレイテレビには、その少年―――ヒロキ・サワダに関する事項が紹介されていた。
「――出来た!」
ヒロキは、プログラムが完成した事で、ホッと一息をつく。
が、振り返って、エアコンの送風口のあたりをキッと睨みつけた。
そして、完成させたプログラムが映し出されているディスプレイには、
Noah’s Ark
の文字が点滅していた。
それを凝視していたヒロキは、意を決したかのような顔をしながら、Enterのキーを叩いた。
その直後、ディスプレイが強く光りだした。
「ボス!彼の様子が変です!どうやら電話の一般回線にプログラムのデータを……!」
ヒロキの部屋を厳重に監視していたオペレーションルームの主任が、このマンションの居住者で、シンドラーカンパニー社長のトマス・シンドラーに通報した。
「ヒロキ、何をする気だ……!」
知らせを受けたシンドラーは、部下と共にエレベーターで、ヒロキがいる最上階の部屋へと向かった。
「ノアズ・アーク出航」
そう書かれたディスプレイを見て一息ついたヒロキは、ポツリと呟く。
「さよなら、僕の友達……。」
その顔は何処と無く寂しげであった。
「開けなさい、ヒロキ!何をしているんだ!」
ヒロキの部屋のドアを開けようとするシンドラー。
しかし、ドアの前には椅子などが置かれており、開けるのは不可能になっていた。
その様子を聞きながら、ヒロキはパソコンデスクから離れて、広大なテラスへと出て行き、柵の近くまで来た時にそれをよじ登り、欄干にその身を立たせた。
そして、
「僕も、ノアズ・アークのように飛べるかな……。」
と、夜天を見上げた……。
ドンッ!
「ヒロキ、どこだ、ヒロキ?」
部屋に入って来たシンドラーは、ヒロキの姿を探し、テラスに出るが、その時、柵の前に取り揃えられたヒロキの靴を見つける。
「ヒロキ!」
柵から叫ぶシンドラー。
その時、室内のディスプレイが光りだし、それを見た部下が
「ボス!」
と、シンドラーを呼び出し、
「あれを!」
と、ディスプレイを指差した。
そこには、大海原の彼方へと消え去っていく「ノアの箱舟」が映し出され、その後、
「Good-bye HIROKI(さようなら、ヒロキ)」
のウィンドウが浮かび出た。
「ふーっ、ホンマに危ないトコやったなあ……。」
「それにしても、ビルから飛び降りたこの少年をすぐさま察知して、間髪要れずに救出するとは、さすがはブラウンフォックスだな。」
「けどこの子、どうしましょうか?」
「うーん、そやなあ……。あんな高いビルから飛び降りるたあ、何か深い事情があるやもしれんからなあ。」
「では、私達の所へ連れて行きましょうか。」
「しかし、遺体とかはどうするつもりなんだ?この少年は明らかに飛び降り自殺をしようとしたのだから、遺体が無いと怪しまれるぞ。」
「それは代わりの式神でも置いときゃえーやろ。」
「なるほど、そうきたか。」
「検死も私達の息がかかっている方に任せて、ごまかし通すのが良いでしょう。ジェイムズさんに事情を話せば、納得してくれるでしょうから。」
「それにしても、二人ともかなりの悪党ですな。我等FBIをごまかそうとするとは。」
「何言うてんねや、シュウ。アンタかて共犯やで。」
「ハハハ、これは恐れ入った。」
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