C-K Generations Alpha to Ωmega



特別版 ベイカー街(ストリート)の亡霊(スペクター)



By東海帝皇(製作協力:ドミ)



Vol.6 とどけ!未来へのシュート



「ら、蘭ちゃんがあ!!」

エントランスホールで様子を見ていた一同は、蘭のリタイアに激しく動揺する。

「おい、落ち着け、青子!蘭ちゃんは単にステージから強制送還されただけで、別にホントに死んでる訳じゃねーんだから。」
「でっ、でも!!コナン君のショックは大きいと思うのよ!!だ、だって快斗だって青子がリタイアした時、悲しんでくれたでしょ!?」
「そっ、それは……。」

その時、

「あっ、アレは!?」

瑛祐がモニターを見ると、蘭に列車から叩き出されたジャック・ザ・スペクターが再び舞い上がり、コナン達に再び襲い掛かる場面が映し出されていた。
その時、

「まずいな、これは……。」

快斗が何かの懸念を抱いたような顔つきになる。

「どしたんや、黒羽?」

これに気付いた平次が尋ねる。

「なあ、確か正規プレイヤーが全滅したら、コクーンにいる奴らの脳に、特殊な電磁波を流すって話だったよな。」
「そうですが。」

答える真。

「となると、青子達パンドラマスターや俺達パンドラパートナーも当然その攻撃を食らうって事になるが。」
「……ハッ!?まさか、パンドラフォースディフェンスか!?」
「えっ、それどう言う事なん!?」

何かに気付いた陽介に対し、問いただす菫。
その時、

『やはり同じ事を考えてましたか、黒羽君。』

小ホールの探が、ディスプレイで語りかけてきた。

「白馬君!」
「白馬、一体どういう事なんや!?」
『皆さん、パンドラフォースディフェンスが絶対的な防御力を備えている事はご存知ですよね?』
「ああ。」
『そして、命の危機に関わる攻撃を受けた際は、それを完全防御するだけでなく、受けた攻撃を何千倍にして相手に跳ね返すリフレクト能力も兼ね備えている事も。』
「ええ……って、まさか!?」

桐華も何かに気付き、血相を変える。

『そうです。パンドラマスターやパンドラパートナーが特殊な電磁波を食らった場合、本人はダメージは受けず、逆に電磁波を流したノアズ・アークに対し、電磁波を何千倍に増幅した上で流し返すのです。しかも今コクーンにいるパンドラマスターは、蘭さんや青子さん、灰原さん、そしてサリー殿下の四名。パンドラパートナーはコナン君に黒羽君、歩美ちゃん、光彦君、元太君の五人。合わせて九人分のパンドラフォースディフェンスが最大限に発動したら、どうなる事か。』
「どうなるかって……。」
「……ハッ、ちょい待ちいな!そないな事になったら、ノアズ・アークばかりか、最悪の場合この米花シティホールそのものが吹っ飛ぶやん!!」

血相を変える菫。

「ちょ、ちょっと待ってよ!ゲームは既にクリアしたんだから、ノアズ・アークはもう電磁波を流さないんじゃなかったの!?」
「それなんですが恵子さん、その部分のプログラムも、あの怪物と直結してしまって、怪物を倒さないと止める事は不可能なのです。」

『!!!!』

この事実に一同一瞬沈黙し……。

「は……初姉ーーーっっ!!オレを援軍に送れえーーーっっ!!」
「このままやと、全滅やで!!」
「は、早く行かないと皆さんがあーーーーっっ!!」
「ウチ等も死んでまうーーーーっっ!!」
「園子さんを助けなければ!!」

蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
これに対し、

『じゃかましいわ、ええかげんにせんかい!!』

初音が一喝する。

「そ、そやかて……。」
『お前らが行った所で、そないな状態なままやったら、却って足手まといになるだけや!』
「初音の言う通りだ、お前ら。」

相槌を打つサリー。

「あ、姉上……!」
「ここはあのステージにいる奴らを信頼すべきだろうが。それとも、お前等の信頼は、所詮その程度のモノだったのか?」
「なっ、なんやとお!?」

サリーの冷徹な言に激高する菫。

「ドアホ!アレ見てからモノ言えや!」

平次が指差した先には、魂が抜けたかのようなコナンの姿があった。

「他の事ならいざ知らず、ねーちゃんの事は特別なんや!!」

それに対し、サリーは、

「アイツはこのまま終わるような男じゃない。それはお前達の方がワタシよりも一番良く分かってるはずだ。」

と反論し、

「それにほら、見てみろ。」

モニターを指差した。



  ☆☆☆



「ちょっとアンタ!しっかりしなさいよ!!」

激高している園子が、コナンに往復ビンタをぶちかます。

「蘭が言ってたでしょ、アンタを信じてるって!よもや聞こえなかったとは言わせないわよ!!」

その間、武琉はジャック・ザ・スペクター相手に、防戦に手いっぱいだった。
そして、秀樹は、コナンと園子の姿を、呆然と見ていた。

(新一……信じてるからね……。)

魂が抜けたようだったコナンの脳裏に、蘭の微笑みと声が浮かぶ。
コナンの目に、光が戻り始めた。
それを見て、園子と秀樹は、息を大きくついた。

「蘭……。」
「そうよ!蘭が、アンタを待ってるのよ!」

そこへ。

『しっかりせい、工藤!!』
『オメー、男ならここで立ち上がれ!!』
『アンタが最後の希望なんや!!』
『立ち上がって下さい、コナン君!園子さんの為にも!!』
『新ちゃん、みんなも精一杯応援してるんだから頑張って!!』

エントランスホールや小ホールから応援しているメンバー達のディスプレイが、コナン達の周囲に次々と映し出される。
これらを見たコナンは、

「そ……そうだ!俺はみんなを……蘭を助けるんだ!!」

目に輝きをとり戻し、力強く再び立ち上がった。

「コナンさん!」

ジャック・ザ・スペクターと対決していた武琉も、明るい表情になる。

「そうそう、それでこそ新一君よ!私も負けてられないわ!!」

園子もコナンに応ずるように、ホーリーラケットを手に立ち上がった。


その時。

(コナン君!わたし達を絶対生き返らせてね!!)
(信じてますから!)
(コナン、切り裂きジャックを、絶対、捕まえてくれよな!)

探偵団の言葉、

(工藤君、あなたがみんなのホームズなんだから、解けない事件はないんでしょ?)

哀の言葉、

(新一……信じてるからね……。)

蘭の言葉がコナンの頭でリフレインする。

(みんな……そして蘭、待ってろ…絶対、また逢えっから……!)

ピカアーーーーーッッ!!

そうコナンが念じた瞬間、左手が強く輝き始める。

「えっ、それ、それは……!?」
「パンドラクレスト!?」

園子と武琉が、パンドラパートナーの紋章・パンドラクレストを見て驚愕の声をあげた。
エントランスや小ホールでこの様子を見ていた一同も、一様に驚く。
何故なら、このゲーム内では、パンドラパワーは全く無効である筈だからだ。

これを見ていた秀樹は、最初目を丸くしていたが、口元にふっと微笑みを浮かべた。

「さすがだな……。」

秀樹のつぶやきを聞いた者は、誰もいない。


「さあ、行くぜ!Pandra Force Change,Grand Conan the Sherlock!!

コナンが変身呪文を唱えた直後、パンドラクレストから光があふれ出し、コナンを包み込んだ。
そして。


ブアサッッッ!!

コナンを包み込んだ光の繭が一斉に開き、光の翼へと変化した。
更に。

「おおっ、あ、アレは!?」
「シャ、シャーロック・ホームズ!?」

変身したコナン=新一の姿は、普段のスペード王子風のスタイルではなく、有翼のシャーロック・ホームズとも言える『グランドコナン・ザ・シャーロック』であった。



「く、工藤先生、これは!?」

コントロールルームで観戦していた小五郎が驚きながら尋ねるが、

「アレはゲームの中の映像ですから、姿を自在に変えられるのも別に珍しくないでしょう。」
「あ、なるほど!」

優作の説明に納得する。



「グオオーーーーッッ!!」

ジャック・ザ・スペクターが新一に襲い掛かってきた。
が。

「フッ……。」

新一は瞬間移動でこれをかわす。

「おお!」
「凄い!!」
「なんてスピードだ!!」

息を呑む園子達。

そして、

「てえいっ!!」

ボカッッ!!

「ゴフアッッ!」

新一の鉄拳がジャック・ザ・スペクターにヒットする。


「グゥオーーーーーーッッ!!」

いきり立ったジャック・ザ・スペクターが、デッドソードを振り上げる。
しかし、

「とおっっ!!」

パキーーーンッッ!!

新一はすかさずデッドソードを蹴り折った。
そして間髪入れず、

「ていやあっっ!!」

ボカッッ!!

「ゴフアッッ!!」

ジャック・ザ・スペクターにキックをヒットさせる。


「グ、グオオ……。」

パンドラ勇者の攻撃は、一撃のダメージがとてつもなく大きい為、ジャック・ザ・スペクターは急激に体力が低下し、まともに立つ事すら出来なくなる。

それを見た新一は、

「一気にケリをつけてやるぜ!パンドラホールディング!!

両手からパンドラフォースを出し、ジャック・ザ・スペクターに投げつけ、

がしっっ!!

「グゥオウッ!!」

これを拘束した。

「グウウーーーーーッッ!!」

ジャック・ザ・スペクターはこれを打ち破ろうと腕を広げようとするが、

バババババ……。

「グウオーーーーーーッッ!!」

パンドラホールディングがスパークし、更なるダメージを受けてしまう。

「よしっ、行くぜ!!パンドラフォースボール、セットオン!!

新一が念を込めて、抱え込むように両手を前に出すと、そこからサッカーボール大の光の球が出現した。


「よーし、行けえ、新一君!」
「今です、コナンさん!!」
「やっちまええ!!」

園子達の応援もヒートアップする。



スパークする光の玉を新一が上へと蹴り上げると同時に、新一も高く飛び上がり、

「電脳転技・サイバーパンドラダイナマイト!!」

ドゴーーーーーーーンッッ!!

オーバーヘッドでパンドラフォースボールを蹴り飛ばし、

どがっっ!!

「ぐ……は……!」

ジャック・ザ・スペクターにヒットさせる。
そして、

ドガアーーーーーーーーーーンッッ!!

ジャック・ザ・スペクターは木っ端微塵に爆散した。


「よしっっ!!」
「やったあ!!」

ガッツポーズで喜ぶ園子と武琉。



「よっしゃあ、ええぞ工藤ーーーーーっっ!!」
「さすがだぜ、工藤!!」
「コナン君やったやん!!」
「さすがですわ!!」

エントランスホールで歓喜するプレイヤー達。



「工藤君、凄い!!」
「見事でござるぞ、コナン殿!」
「やりましたね、工藤君。」
「やったわ、新ちゃん!!」

小ホールで見守っていた一同も喜ぶ。



「よし、いいぞコナーーーン!!」

コントロールルームで見守っていた小五郎も、絶叫しながら大喜びする。

「いやいや、本当によく頑張ったのう。」

阿笠博士もホッとしつつ、コナン達を称える。

(見事だな、新一。そしてみんな。)

優作も心の中でコナン達を称えていた。



「ふーっ、やれやれ……。」

変身を解いたコナンが、ふっとため息をつく。

「よくやったなあ、お前等!感心したぜ!!」

秀樹が三人を称える。

「ありがとう、秀樹。」
「これで今度こそ戻れるわよね!」
「そうだな。ジャック・ザ・リッパーも倒した事だし……。」

コナンがそう言った時、

ブオオオーーーーーーッッ!!

「「「「え?」」」」

列車を止めていたC62が突如大きな汽笛をあげ、それに一同が気づき、

がちゃん……。

続いて足下が突然揺れた事を感じ。

「ちょ、ちょっとこれ!」
「れ、列車が動いてる!?」

停止していた筈の列車が突然動き出した事に慌てる。
更に。

「な、何アレ!?」

見ると、ブレーキ役を勤めていたC62が、列車を押している事に気づく。

「た、武琉君!アンタちゃんとブレーキをかけたんじゃなかったの!?」
「か、かけましたよお!!」
「だったらどうして急に動き出したのよお!?」
「そ、そんな事言われましてもお!!」
「……まだこのゲームは続きがあったんだ。」
「えっ!?」
「そ、それは一体!?」

血相を変えながらコナンに聞く一同。

「ゲームの進行を阻害していたジャック・ザ・リッパーを俺達が倒した事で、このオールドタイム・ロンドンステージ本来のゲームの流れが戻って、列車が出発し始めたんだ!!」
「な、ならこの後、列車はどうなるのよ!?」
「このまま行ったら、列車は終着駅に激突だ!!」

絶叫する秀樹。

「えーーーーっっ!!」
「そ、そんな!ジャック・ザ・リッパーを倒してようやく戻れると思ったのに!!」

真っ青になる園子と武琉。

「新一君!何とかしてよお!!」
「コナンさん!助けてください!!」

二人は藁をも掴む思いでコナンに縋る。

「落ち着け!何か方法があるはずだ!何か……。」

額に手を当てて、考えるコナン。
が、

(考えろ、考えるんだ、工藤新一!!)

危機が差し迫っているせいか、焦りが前面に出て、逆に何も思いつかずにいた。

(蘭、俺は一体どうすればいい!?)

その時。

「はっはっは、お前達はまだ血まみれになっていない。もう諦めるのか?」
「「「「!」」」」

一同は列車上に何かが現れた事に気づく。
それは、コナン達がステージ中盤に会ったアコーディオン弾きであった。

「既にお前等は真実を解く結び目に両の手を掛けていると言うのに、ハッハッハ……。」
「……!!」
「人生という無色の糸の束には、殺人という真っ赤な糸が混ざっている……。」

アコーディオン弾きがそう言った時、

「それを解きほぐす事が我々の仕事なんじゃないのかね?」

その姿が変わり、再び戻った。

「……ホームズ!?」

そうコナンが呼びかけた時、アコーディオン弾きは姿を消した。

「彼はダート・ムーアに……まさかバグか?」
「どう言う意味だ?ジャック・ザ・リッパーは倒したのに、どうして俺達は血まみれにならなくちゃ……?」

そう秀樹が疑問を口に出した時、

「あっ!これだっ!!こう言う事だったんだ!!」

コナンは彼の服を見て、何かに気付き。

「貨物車っ!!」

一路駆け出した。

「おい、待てよ!!どう言う事だ!?」
「ちょ、ちょっと新一君!?」
「いいから来い!!」
「はっ、ハイ!!」

コナンに言われ、秀樹・園子・武琉も貨物車に向かい、屋根から貨物車内に入り込む。

「そこに掛けてある斧で赤ワインの樽を割るんだ!!」

指示を出しながらコナンも斧を取る。

「ちょっと!斧二人分しかないわよ!!」
「ホーリーラケットを使って下さい!!僕はストライクナックルで叩き割ります!!」
「そっか、その手があったわね。とりゃーーーーっっ!!」
「てえいっ!!」

園子と武琉も、コナンや秀樹に続いてワイン樽を次々と破壊していく。

その間に列車は終着駅へと近づきつつあった。


「ちょ、ちょっと!!樽を破壊したら何でこんなにワインで溢れてるのよ!!容量的におかしいわよ!!」

樽を全て破壊した貨物車内は、赤ワインで満ちていた。
それに慌てた園子が思わず突っ込む。

「園子さん、そんな事を突っ込んでる余裕はあるんですか!?」
「いくらリアルでも、これはゲームなんだから。容量がどうこうとか、考えない方が良いと思うぜ。」
「んなの気にする暇はねえ!とにかく、俺が合図したら潜るんだ!!」

武琉と秀樹が園子に更に突っ込むと、コナンは3人を一喝するように指示を出した。

「お、おう!!」
「はっ、ハイ!!」
「うっ、うん!」

そして列車が駅構内に進入した事を感じたコナンは、

「今だ!」

指示を出し、それを受けた一同は一斉にワインの中に潜り込んだ。


直後、列車は駅のホーム終端部に激突し、横転して構内もろとも大破した。



  ☆☆☆



コクーンのエントランスホールでは……。



「……コナン君や園子ちゃん達、どうなったんだろう……」

青子は、列車が駅に激突してから、メインディスプレイに何も映らなくなった事を心配していた。

「園子さん……!」
「武琉さん……!」

真や桐華も心配する。

「初音さん、白馬!コナン達は大丈夫なのか!?」
『それが、何故かあいつ等の追跡が出来なくてな……。』
『プレイヤーがリタイアしたら、すぐにデータが入って来るのですが……。』

快斗の問いに、初音や白馬も困惑気味になる。

そこへ。

ピカーーーーッッ!!

『!』

一同はオールドタイム・ロンドンステージのゲートが強く光りだしたのに気付き、次の瞬間。

「ハッ、あ、アレは!?」
「コ、コナン!」
「工藤!」
「そ、園子さん!」
「武琉さん!」

コナンや園子、武琉がゲートから飛び出て、一同が一斉に駆け寄った。

「お、おい、工藤、しっかりせえ!」
「園子さん、園子さん!」
「武琉さん、しっかり!」
『う……ん……。』

3人は、最初気を失っていたが、それぞれ、抱き起こした相手の腕の中で気付く。


「ま……真さん!怖かったよー!」
「園子さん、頑張りましたね!」

ひしと抱き合う、園子と真。

「ハハハハ……園子ちゃん、ゲーム世界では散々暴れまくってたのに……。」
「まあ、良いじゃないの。」

呆れる快斗を諭す恵子。


「桐華姉さん!」
「武琉さん、最後まで、よくやりました!」

感動の体面をする、桐華と武琉姉弟。
そこへ。

『武琉君、本当によく頑張ったわね!とても素敵だったわよ!』
「ま……舞さん!(う〜〜、生きてて良かったあ……!)」

舞の声がモニター越しに届けられ、武琉は感動の涙を流す。


「工藤、良かったなあ!おい?工藤、工藤、どないしてん?また気絶しおったで!」

平次に抱き起こされたコナンは、溜息をつくとそのまま目を閉じてしまったのだった。
コナンを抱えた平次は慌てまくる。

(それは、死んだふりなんじゃ……。)
(やっぱりこう……いくら友達でも、野郎の腕の中で目覚めたくはないよなあ……。)

「しかし、コナン君の白い服、赤ワインで真っ赤になってるね。」

ふと青子が気づく。

「まるで血まみれみたいやね。」

和葉もそれに続く。

「あのアコーディオン引きが言ってた『血まみれになっていない。』って、赤ワインで激突時のショックをやわらげろって事だったんだな。」

快斗が意図を理解する。

「それで貨物車内のワイン樽に行き着くとは、やっぱり工藤はタダもんやあらへんな。」

感心する平次。
一同もそれに頷く。

「武琉さんも、服がワインで真っ赤ですわよ。」
「そうですね。アルコールの臭いで酔いそうです……。」
「ゲーム内のアルコールだから、気分だけで、本当に酔いはしないでしょう。」

武琉と桐華姉弟は、そのような会話を交わしていた。
一方、園子と真は。

「園子さん、そう言えば。そのドレスは元から赤いので、色は変わりませんが……。」
「ホント、酔っ払いそうなワインの匂いが……これ、あんまり上等なワインじゃなさそう……。」
「まあ、貨物で大量に運ばれているワインですから、仕方ないでしょう。……それにしても園子さん、そのドレス、裾の長さは良いですが、胸が空き過ぎでは?」
「何よ、ずっとこの格好だったのに、今更そんな事言うの!?仕方ないでしょ、このイブニングドレスは、パーティ参加用の正装なんだから!ゲームに参加するからって着替えてる暇なんかなかったし!」


快斗は、感慨深げに、最後のゲームをクリアーした一同を見て、頷いた。

「このワインは、功労者達の勲章だよな。コナンと、園子ちゃん、武琉君、それに……え?あれ?もう1人、いなかったっけ?」
「そ、そう言えば……。」

青子が、思わず辺りを見回す。

「あれ?秀樹は?最後まで一緒にいた筈だったのに……。」
「!」

武琉の声に、コナンが飛び起きた。(やはり狸寝入りかと、皆が内心で突っ込んでいた。)

「一緒にゲームクリアーしたかと思ったが、まさか直前にリタイアか?」
「ま、心配はいらんやろ、他のみんなと一緒に目覚める筈やから。」

そういう会話を交わしていると、皆に遅れてゲートから出て来た姿があった。
その姿を見て、一同はホッとし、頷き合う。
それは、諸星秀樹であった。

「秀樹!良かった、ここに来るのが遅れただけだったんだね!」

武琉が、声をかけたが。
秀樹は、武琉にちょっと微笑みかけると、コナンに向き直った。

「どうやら、お前の勝ちのようだな。」

「秀樹!」
「諸星君!?」

皆が無事の生還を喜びつつも、秀樹のセリフに戸惑う。
コナンがふっと微笑む。

(お前……?ふっ……やはり、そうだったのか……。)

秀樹が、コナンに向かって手を伸ばして来て、握手をする。

「お前を信じて良かったぜ……ありがとう……。」
「どういたしまして。ノアズ・アーク。」
『!』

コナンの返答に、一同は驚愕した。

「それともヒロキ君って呼んだ方がいい?諸星君のデータを借りて、君もこのゲームに参加していたんだろ?」

コナンの指摘を受け、秀樹、いや、ノアズ・アークはヒロキの姿に変化した。

「いつからそれに……?」

一瞬言葉を濁すノアズ・アーク。
そこへ、

『心配いらへんで。エントランスの様子は小ホールでしか映ってへんから。』

初音が教える。

その後、コナンが正体に気づいた経緯を説明する。
一同は説明にじっと耳を傾けている。

「そして決定打になったのが、ジャック・ザ・スペクターを見た時の君の反応さ。」
「……君は細かい所をしっかりと見てんだなあ。」

コナンの透察力に舌を巻くノアズ・アーク。
それはエントランスや小ホールの一同も同じだった。

「君は俺達を危険な目に遭わせながら、本当は一致団結して危険を乗り越える事を信じていたんじゃないか?日本のリセットとは、二世三世を抹殺することじゃない。俺達が親の力を頼りにする事無く壁を乗り越え、ゲームを通じて成長する事を君は期待していたんだろ?」

コナンは改めてノアズ・アークの方を向き。

「君は非情になれなかった。理由は、黒羽や服部達イレギュラープレイヤーの参戦を認めた事。」
「言われてみれば、ありとあらゆる手立てを使えば、俺達の入場を防ぐ事が出来たのになあ。」

得心する快斗。

「それと、正規プレイヤーがいるエリア以外では、初音さん達の自由な介入を許していた事。」
「それでC62のプログラムが入ってこれたのか。」

納得する武琉。

「そして最後に現れたホームズがその証拠さ!ちゃんとお助けキャラをクライマックスで登場させてくれた……。」
「……。」

沈黙するノアズ・アークだったが、

「僕が諸星君の体を借りてゲームに潜り込んだのは、一度くらい友達と遊びたかったからなんだ。いつもいつも仕事ばかりしてたから……。」

再び口を開き、その思いを語る。

「でもごめんよ、怖い目に遭わせて。でも僕、すっごく楽しかったよ!!それにうらやましかった。どんなに危険な事態になっても、信じあえる君達が……。」

微笑んで反応するコナン達。

「高校生探偵・工藤新一、さすがだね。人間としては素晴らしい知能を持っている。」

今度は、ノアズ・アークの言葉に、一同が驚いた。

「ええっ!?何でそれが分かるんだ!?」
「いくら、人工知能でも、そこまで洞察出来るものなのか!?」
「おい、落ち着け、オメーら。元々、シンドラー会長が何故樫村さんを殺そうとしたかと言えば、ヒロキ君の作ったDNA探査プログラムで、自分のルーツを知られる事を恐れたからだった。そして、俺の父さんである工藤優作が、このゲーム開発を監修したばかりでなく、ゲーム内のホームズは、工藤優作のDNAをトレースしてモデルになっている。だったら、DNA探査プログラムを内包したノアズ・アークが、ゲームに参加した江戸川コナンの情報をトレースした際に、工藤優作の遺伝子を受け継いだ息子である事に気付くのは、自明の理だろ?」

コナンの説明に、快斗や平次はすぐに大きく頷いたが。
意味が分からず首をかしげている者も多かった。

ヒロキの姿をしたノアズ・アークが、大きく頷く。

「君達は、僕の予想をはるかに超える力を示してくれた。その知力と行動力だけじゃない。協力し合う力、人を助けようとする力、全てが、とても素晴らしかった。そして、君等や君のお父さん達が僕のお父さんの仇を取ってくれたんだ、ありがとう……。」

一同に対し、深謝するノアズ・アーク。

「そろそろお別れだ。」

ノアズ・アークは、エントランスの出口を開いた。

「そう言えばお前、これからどうするつもりなんだ?」

快斗が尋ねる。

「僕のようなコンピュータプログラムが生きていると、他の悪い大人達が悪用して、君達に害悪をなしてしまう恐れがある。人工頭脳なんてまだ生まれちゃいけなかったんだ。」
「て事は、まさか消滅するつもりなの!?」

驚いた青子が尋ねる。

「ああ。二度と、ヒロキ君のような悲しい想いをさせる子供を、生み出したくないからね。」

それに対し、コナンが静かに問いかけた。

「……だけど、君は、人格を持っている。モデルにしたヒロキ君とも異なる、新たな精神成長をとげ始めている。だよな?」
「……それが、どうしたんだ?」
「君が消えるという事は、その人格を殺す……自殺するって事だ。」
『!』

ノアズ・アークを含め、そこにいる皆が息を呑む。

「自殺は、自分自身を殺す事、やっちゃいけない犯罪。だから君も、消えるなんて言っちゃいけない!」
「だ……だけど!じゃあ僕は、どうやって、誰にも迷惑をかけずに生きて行く事が出来るって言うんだ!?」

ノアズ・アークの絶叫に、皆は、ノアズ・アーク当人も、出来る事なら生きていたいという気持ちがある事を知った。
そこに、小ホールにいる初音の声が響いた。

『ノアズ・アーク。アンタ、ウチが言うた事忘れたんか?いや、人工知能が忘れるとは思えへんから、信じとらんだけやろうな。』
「え……?」
『ウチは、言うた筈や。ヒロキ君は生きとるってな!』
「……!!」
『ヒロキ君は、アンタの友達でもあるけど、ある意味、親でもある。そやろ?』
「ヒロキ君が……本当に?」
『子供は、自分で自分を守れるようになるまで、親の傍におったらええねん。けどまあ、アンタの方が親のヒロキ君より先に大人になってまいそうやけどな。』
「け、けど……僕がヒロキ君の傍にいて……また彼の命が……。」
『そこは、ウチ等を信用してや。2年間、ヒロキ君の存在を表に気付かせる事なく、守って来たんやから。』

そこへ。

『ノアズ・アーク!僕の友達!!』

ヒロキの声が響き、エントランスホール内のスクリーンに、ヒロキの姿が映し出された。
それは、今のノアズ・アークが取っているヒロキの姿より、少し成長していた。

「ヒロキ……君……本当に……生きてたんだね!無事だったんだね!?」
『ああ。僕も、君が生きていた事、そしてお父さんが殺されずに済んだ事、知ってとても嬉しいよ!』

期せずして、エントランスホールの中で喝采が起こる。

「良かったなあ!」
「これで本当に、大団円やな!」
「ノアズ・アーク!俺達、楽しかったぜ!」

一同が少し幼いヒロキの姿をしたノアズ・アークの肩を叩き、喜びあう。

「ところで、ヒロキ君。君は今、どこにいるんだい?」

陽介が尋ねると。
いち早く、ノアズ・アークが答えた。

「そこは……パララケルス王国だね?」

人工知能であるノアズ・アークには、回線を通じてヒロキの発信元を辿る能力があるので、すぐに分かったのだろう。

「パララケルス王国!?」
「じゃあ、君は私の故郷に!?義姉上、私にも内緒とは人の悪い。」
「まあ、初音の秘密主義は今に始まった事じゃないからな。」
『レオン、サリー。言っておくけどな、今回の件の前にアンタらに話しとったところで、覚えてへんやろうが!』
「あ……まあそれは……確かに……。」
「悪かったな、鳥頭で!」

対称的な反応をする姉弟。

『僕は、2年前、初音姫様に助けられて、それからずっとパララケルス王国に匿われていたんだ。まあ、ここでは普通に学校にも行ってコンピューターの研究もさせて貰ってる。あ、そうそう、お母さんも一緒なんだ。』
「そうか。幸せだったんだね。」
『ノアズ・アーク、君もおいでよ。ここなら、他の者に悪用されずに、自由に暮らす事が出来る。』
「分かった。じゃあ……みんな、ありがとう。僕は行くね。」

ノアズ・アークは、皆を振りかえった。

「さあ、君達も、元の世界に戻るといい。そして目が覚めても、みんなにこれだけは知っていて欲しい。現実の人生はゲームのように簡単じゃないとね!!」

とのノアズ・アークの言葉に、

「フッ、そんなの言われなくたって分かってるさ!!」
「んな事、聞くだけ野暮やん!!」
『僕達はいつも簡単じゃない世界に身を置いてますからね!!』

一同が力強く反応する。

「ハハハ、そうだったね。」

笑うノアズ・アーク。

「じゃあ、行こうぜ、みんな!」
『おう!!』

コナン達一同は、帰還ゲートへと駆け出して行った。



「さようなら、工藤新一、そしてみんな……。」

ノアズ・アークは、一筋の涙を流しながら、みんなを見送った。
そのノアズ・アークも、かき消すようにいなくなる。
通信回線を通って、遠いパララケルス王国に旅立って行ったのだった。


そして、エントランスホールのディスプレイには、再び、大海原を行くノアの方舟の姿が映し出され、水平線のかなたに消えると同時に、ディスプレイも消え去った。



  ☆☆☆



ゲームオールクリア後のメインホールでは、正規プレイヤーの父兄達や観客一同が、固唾を呑んでコクーンを見守っていた。
そして。


ウィィィィン……。
ウィィィィン……。
ウィィィィン……。



床に潜っていた、リタイアプレイヤー達のコクーンが次々と再浮上し、続いてカプセルが全て開いた。

「蘭……!」

娘の無事を喜ぶ小五郎。

「やったようじゃな。」

阿笠博士の言葉に頷く優作。

同時に、

「ダーーーーリーーーーーンッッ!!」

何かを叫びながら、凄いスピードでコクーンから飛び出していった者があった。



  ☆☆☆




同じ頃、小ホールでは……。



ウィィィィン……。

「おお、青子殿が!」
「ああ、良かった!」

床に沈んでいた青子のコクーンが再浮上し、紅葉と舞も一安心する。
同時に、助っ人達のコクーンが次々と開いた。

「園子さん!良く……よく、頑張りました!」
「真さんっ……!う、うわああん!」

ホッとした途端に泣き出した園子の元に、真が駆け寄って抱き締め、一同は明後日の方を向く。


「アホ子。無事で良かったな。」
「バ快斗。何となく、言葉がおざなり。」

ジト目で応じる青子。

「そりゃまあ……しゃあねえだろ、あの時点で気が抜けちまったんだからよ。」
「……でも、ありがと。青子の為に嘆いてくれて。」
「ばばば、バーロッ!誰が嘆くかっ!」
「……黒羽君、今更取り繕わなくても。みんなにシッカリ見られてますから。」
「は、白馬、てめえっ!」
「相手が無事だと分かった途端、素直じゃない元の黒羽君に戻ってしまいましたわね。ああ、残念。」
「おい、オメーら!青子、オメーも何とか言えよ!」

探と紅子の突っ込みに慌てる快斗。
が、

「……快斗。ありがと、青子とーっても、嬉しかったよ。」

青子の満面の笑顔に、快斗は赤くなって言葉を失った。


「おやおや、あっちもこっちもお熱い事で。」

呆れる舞。
そこへ。

「舞さん!」

武琉が駆け寄って来た。

「武琉君、大活躍だったわね。カッコ良かったわよ。」
「そ、そうですか……。」

笑顔でねぎらう舞と、照れる武琉。
そこへ、

「まあ、まずは一安心ってとこだな……。」

陽介が肩をほぐしながら安堵の息をつくと。

「王子様〜〜〜っ!」

舞が陽介の所へ飛んで行って抱きつき。

「おわあっ!」
「とほほほ……。」

陽介は飛び上がり、武琉は滝の涙を流した。
そこへ。

「主殿〜〜!」

紅葉が陽介の背後から襲いかかり。

「助けて〜〜!」

陽介が思わず情けない声をあげた。


「美女五人に惚れられるやなんて普通は羨ましい思うところやろうけど、どう見ても、同情しかでけへんな……。」
「ホンマや……。ま、アタシらもそれなりに頑張ったな、平次?」
「ま、全員生還出来て、めでたしめでたし言うこっちゃ。」

平和もそれなりにほのぼのラブの雰囲気をかもし出していた。
と、そこへ。

「陽介の妻はワタシだ、どけ。」
「きゃあっ!!」
「うわあっ!!」

サリーが舞と紅葉の2人を押しのけて陽介にひっつく。
それぞれ、自分達の事で忙しかったが、視界の端にこの光景を捉えた者達は、サリーの見かけによらぬ強力に感心していた。

「ちょっとあんた!王子様は私のものよ!」
「主殿は拙者のものでござる!」
「アホか。陽介はワタシのものだ。」
「こらー、三人とも、勝手な事を言うな!」

陽介は文句を言いながらも、サリーにひっつかれて満更でもなさそうだった。
そこへ。

「ダーリーーーーン!!」

駆けて来たのは、勿論、菫である。

「御剣。お前も無事やったんか。」
「それにしても、ようこの小ホールの場所が分かったもんやな。」
「御剣にはダーリンセンサーが付いとるんちゃうか?」

平次と和葉の言葉をよそに、菫は真っ直ぐ陽介の元に飛んで来て……。

「ひゃんっ!」

サリーに跳ね飛ばされていた。

「ごるああ!サリやん何さらすんやー!」
「虫を追っただけだ。」
「誰が虫や、誰がーー!」
「お前ら三人。」
「ちょっとあんた、あんたが一番巨大なゴキブリのクセに、何を言うのよ!?」
「害虫が世迷言を言うなでござる!」

陽介を四人が引っ張り合って、姦しかった。
それを見ていた、サリーの義妹のレミィは……。

「無事に帰って来て良かったわ。それにしても……陽介が絡むと、あの聡明で気高く冷徹なサリー姉が、あんなにバカになるとは……。」

呆れながらも、無事の帰還を喜び微笑んでいた。


そして。
ひとつだけ、なかなか開かないコクーンがあった。

「どういう事ですの!?何故、ワタクシだけ、閉じ込められたままですの!?」

コクーンの中で喚く桐華。
そこへ、晴香が近づいてきた。

「桐華さん。」
「はっ!?晴香さん、あなたの仕業ですわね!?」
「あの……わたしには、そんな能力ないんだけど。」
「じゃあ、どうして開かないんですの!?どうせあなたが小細工をしたに決まってますわ!」
「そう疑うのは無理もないかもしれないけど、今回の事はわたしの所為じゃない。だってわたしに、コンピュータープログラムをどうとかする力はないもの。」
「なら、何故!?」
「どうやら、百鬼夜行桐華組のデータを戻すのに、時間がかかっているらしいのよね。」
「な……!?」
「だから。元々、人間ひとりの能力をデータ化する機械に、百鬼夜行桐華組のデータまで組み込むなんて、無茶をやらせるから。壊れなかっただけでも、良かったと思うのね。」
「そんなバカな事……あなたの陰謀に決まってますわ!」
「やれやれ……初音の話だと、後30分もすれば開くそうだから、大人しく待ってなさい。」
「お、大人しく待ってろ?はっ……さては、この間に……レオン王太子殿下と2人でいちゃいちゃしようって腹ですわね!?そうはさせるもんですか!」
「あ……なるほど、その手があったか。これは良い事聞いたわ。」
「ハッ、し、しまったですわ!は、晴香さん、今のは聞かなかった事に!」
「じゃ、わたし、メインホールに行くわね、お先に〜♪」
「おっ、お待ちなさい!こらあーーーーーっっ!!」

が、既に晴香は去り。
何か作業をやっていた初音が、桐華の所にやって来た。

「ああ。初音さん!ワタクシをここから出して下さいませ!早く!」
「だから、後30分もすれば開くんやて、晴香が言うてたやろ?」
「そ、そんな!こうしている間にも、レオン殿下に、あの横取り泥棒猫の年増女の魔の手が……!」
「そら、災難やな。ま、諦めや。」
「冗談ではありませんわ!ええい、こうなったら百鬼夜行桐華組で、このコクーンを……!」

桐華が、札を繰り出そうとした。

「ええんか?それ、1台、億は下らへんで。」
「その位、ミカエルグループの経済力を持ってすれば……!」
「会長からの伝言や。不可抗力や誰かを助ける為の破壊やったら、何ぼでも金出すけど、アンタのワガママの為にはびた一文出さへんいうこっちゃで?」
「えっ……?」
「ここで、コクーンを破壊してみい。アンタのポケットマネーで弁償して貰う事になるで?」
「ひっ!」

桐華はさすがに青くなって停止した。

「やれやれ、作業が中断してもうたわ。」

初音はそう言って作業に戻った。

「ちよ、ちょっと初音さん!?あ……あの行き遅れがああああああああっ!!」

桐華は1人、コクーンの中で晴香に対して吠えていた。



そして。
真に抱き締められて、幸せそうな顔をしていた園子が、突然、ハッと顔をあげる。

「蘭!蘭は!?」
「無事に戻られた筈ですよ、皆が無事なのですから。」

真の言葉も聞こえない様子で、

「らあああん!」

園子は真から離れて駆け出す。

「そ、園子さん!……まあ、仕方ありませんか。」

真は少し呆れながらも、園子を優しく見送った。



すると、それにつられた様に。

「せや、工藤はどないなった!?くどおおおお!」

叫んで駆け出す平次。

「……ホンマに引導渡したろうか、あの男!」

和葉はやや殺気立った表情で、平次の後姿を見送っていた。



「あっ!そう言えば恵子が!!」
「おっと、忘れてたぜ、行こう!!」

青子と快斗も、恵子の下へと駆け出して行った。

「……ふう、何はともあれ、無事一件落着ですね。」
「あなたも本当によく頑張りましたわね。」
「いや、コナン君達の活躍に比べれば、僕なんてささやかなもので……。」
「うふっ、謙遜してますわね。」
「ハハハハ……。」

良い雰囲気の探と紅子であった。



「あ、そうだ。アユミ達はどうなったかしら?」
「そう言えば、瑛祐さん!」
「僕の友人達は、大丈夫でしょうか?」

探偵団の心配をしていたレミィや、瑛祐が気になる葉槻、そしてクラスメート達の事が気にかかる武琉も、それぞれメインホールへと向かった。



「ふう……、何はともあれ、無事に済んでよかったわ。」

小ホールからずっと応援をしていた有希子も、コナンと優作の事が気にかかり、小ホールを後にした。



  ☆☆☆



時間は少し戻って、メインホール。



「お父さん!」
「大丈夫だったか!?」

コクーンから出てきた子供達を、父兄が駆け寄って次々と抱きしめる。


「……ふう。」

コクーンから出てきたコナンが、一息つけた。
そこへ。

「コナン君、生き返らせてくれて、ありがとう!!」
「結構頑張ったよな、俺達!!」
「凄い冒険しちゃいましたね。」

同じくコクーンから出てきた探偵団がコナンの下に来た。

「……やっぱり良いわね、現実の方が……。」

安堵する哀。


「コナン君!」

コクーンから降りた蘭が、コナンに駆けより、抱き締めた。

「わわわ、蘭姉ちゃん!」
「コナン君ならきっとやってくれると信じてたよ。」

周囲をはばかって、コナンの名で話しかける蘭。
抱き締める光景は、周囲からは「微笑ましい姉弟愛」のように見える事だろう。

「でも蘭姉ちゃん、あの怪物の前に立ちはだかって刺されるなんて、無茶しすぎだよ。」

コナンも同様に、しっかり蘭を抱きしめ返しながら、周囲をはばかりコナンとしての言葉で語りかける。

「だって、新一の好きなホームズの言葉を思い出しちゃったんだもの。」
「えっ?それって、ホームズとモリアーティ教授が初めて会った時の言葉の事?『公共の利益の為に喜んでこの身を捧げよう』って、あれ?」
「うん!そう、それ!」
「……僕もホームズは大好きだけど。あの言葉は、受け入れがたいな。」
「えっ!?」
「最後まで、諦めちゃ駄目なんだよ。結果的に命を落とすのと、最初から捨ててかかるのとでは、全然違うんだから。」
「……コナン君。わたしはね。命を捨ててかかったんじゃないの。最後まで諦める気はないから……新一に全てを託したのよ。」
「蘭……。」

蘭が涙を溜めて、笑顔でコナンを覗き込む。

「信じているから。」
「蘭……俺は……。」

と、そこへ。


「らあああん!」

小五郎が駆け寄ってきた。

「お父さん!」
「よかった、よかった無事で!!」

娘の無事に感涙する小五郎。
コナンを押しのけるようにして蘭を抱き寄せ、オンオン泣いた。

コナンは「しゃあねえなあ」と苦笑いしてその光景を見ていた。


と、更に。

「らーーーーーーーーんんっっ!!」

駆けて来た園子が、小五郎を突き飛ばすようにして蘭に抱きついた。

「そ、園子!」
「蘭、蘭!無事で良かった!ごめんねえ!」
「ううん、園子。助けに来てくれて、ありがとう。」

「おい……!」

はじき飛ばされた小五郎が、いじけていると、コナンが小五郎を見上げて言った。

「おじさん、仕方ないよ。園子姉ちゃんは、自分が蘭姉ちゃんにバッジを渡した所為で、蘭姉ちゃんを酷い目に合わせてしまったって、すっごく気にしてたみたいだからさ。」
「だとしてもよ、俺は親だぞ……ったく。」


と、そこへ更に。


「くううどおおおおお!」

雄叫びをあげて駆けて来る色黒男が一人。

「ゲッ!」

コナンは慌てて小五郎の後ろに隠れた。

「あん?何やってんだ、お前?」
「い、いや、ちょっと……。」
「おお、くど……坊主!こないなとこにおったんかいな!」
「へ、平次兄ちゃん……。」
「ホンマに無事で良かったでえ!」

平次がコナンを抱き上げ、満面の笑顔を作る。

「ば、バカ!止めろ、下ろせ!」
「あん?オメー、怪しいなあ。まさか……。」
「お、おじさん、まさかって!?」
「コナンはオメーの隠し子か?」

小五郎の言葉に、コナンはずりっとなる。

「アホ。こいつがオレの子やったら、オレが10歳の時やで。」
「……本気にするな、バーロ。」

そこへ、探偵団の面々もやって来て、声をかける。

「平次お兄さんも、コナン君の事、とっても心配してたのね。」
「オメーよ、コナンが手下なんて言ってたけど、本当は逆なんじゃねえのか?」
「それはちょっと失礼じゃないですか?コナン君のお兄さんみたいなものなんですよね?」
「……暑苦しい友情だわね。」
「ははは……。」

コナンが呆れていると。

「やあ、みんな。お疲れ様。」

小ホールからやってきたレミィが声をかけてきた。

「レミィちゃん!」
「オメーまで来たのかよ!」
「お体は大丈夫ですか?」

探偵団は、あまり体が頑丈じゃないレミィを気遣う。

「大丈夫よ。みんなの苦難を思えば、体の事なんて考えてる暇無いもの。」

あっさりと言ってのけるレミィ。

「でも、わざわざ私達の事を心配してくれて、本当にありがとう。」
「ホント、すまねーな。」
「とっても感謝感激です!!」

探偵団もレミィの厚情に応える。



「無事で良かった!」

メインホールに駆けつけた武琉が、クラスメイトの無事を喜ぶ。

「ああ、君が僕達を助けに来てくれたんだってな。ありがとう。」
「人を助けるのも、助けられるのも、良いもんだな〜。」
「いや、助かったから言えるのかもしれないけど、良い経験をさせて頂いたと思います。ねえ、諸星君?」

江守、滝沢、菊川の3人が、それぞれ言った。
それに対し。

「あ、ああ……そうだな……。」

ひとりだけ、不得要領な表情をしている諸星。

「ハハハハ……。」

裏事情を知ってる武琉は、汗をたらして苦笑いした。



その頃、レオン王太子の周りには。

「殿下!よくぞ御無事で……!」
「本当に、良かったです。」
「お助け出来ないのが、つろうございました……!」

パララケルス政府関係者やシークレットサービスがレオンを取り囲んで無事を祝っていた。

「いえ、こちらこそ心配をおかけして……。」

レオンは、周囲の者ににこやかに微笑み、ねぎらいの言葉をかける。
そして、ふと、視線に気付いて顔をあげた。

遠くから、晴香がレオンを見詰めている。

(よく頑張ったわね、レオン。)
(ありがとうございます、晴香さん。)

レオンは、ふっと微笑み、2人の視線が絡んだ。


この十数分後、コクーンからようやく出れた桐華が、怒りに満ちた形相でメインホールに駆け込んで来たが、二人は既にシティホールから去っており、何処かにて熱い夜を過ごしたとか。
後日、それを知った桐華が更に怒りまくったのは言うまでもない。



「恵子!良かったあ!」
「青子も、助かって良かったよお!助っ人達も命をかけてくれたのよね、青子が助けに来てくれて、嬉しかった!」

互いの無事を喜び、抱き合う青子と恵子。

「まあ、何はともあれ。終わり良ければ全て良し、ってか?」
「快斗君、仮想世界で青子が倒れただけでも、オタオタしてたもんね〜。」
「ばばば、バーロッ!誰がオタオタしてたんだ!」
「……快斗。青子の事心配してくれて、本当に嬉しかったよ、ありがと。」

素直に言って満面の笑顔になる青子に、快斗は赤くなった。
それを誤魔化すように、コナンの方に目を向けて言った。

「へっ?い、いやまあ、その……まあ、アイツの絶望に比べれば、大した事なかったけどな。」
「うん。でも、みんな助かったから、本当に良かったね。」
「そうよねー。あっちの方でも、それを実感してるようだし。」

恵子がふと、ある方へ目を向けた。



「葉槻さん!あなたの応援のおかげです、ありがとうございました!」
「瑛祐さん……良かった……御無事で……。」

メイド服姿のままで、目をウルウルさせている葉槻の姿に、瑛祐は赤くなる。
そこへ。

「……どこからどう見ても、レズカップルにしか見えないのが惜しいわね。」

瑛祐達の元にやって来た恵子が、彼を冷やかす。

「ななな何を言うんですか、恵子さん!」
「そうそう、こいつの中身はちゃんと男の子だぜ、葉槻ちゃんも気をつけな。」
「く、黒羽さん!」
「な、何を気をつけろって言うんですかっ!?」
「そら、あーんな事やこーんな事。」
「恵子!それはちょっと!!」

注意する青子。
が。

「あ、あの……私、瑛祐さんだったら……。」
「え……?」

葉槻の爆弾発言に瑛祐は一気に茹でダコになった。

「はいはい、ご馳走様。」

二人の雰囲気に肩をすくめて呆れる恵子達だった。



「まあ、何はともあれ、無事に解決しましたね、美和子さん。」
「そのようね。」

事件が無事に解決した事に安堵する、高木警部補と佐藤警部。

「それにしても、予備のコクーンで援軍を送るなんて、工藤先生もなかなか考えたものよね。」
「まあ、これもメカに強い初音さんがいたから、考え出せたとも言えますね。」
「全くよね。さあ、私達も戻りましょ。」
「あっ、待って下さい、美和子さん!」

佐藤警部と高木警部補は、メインホールを後にし、警視庁へと戻って行った。



その後、メインホールに駆け込んで来た女性があった。

「コナンちゃ〜〜ん!!」
「あ、新一のお母さん。」

蘭が、駆け込んで来た女性・有希子を見て言った。
有希子は真っ直ぐに駆けて来て、コナンを抱き上げ頬ずりした。

「ななな、何すんだよ、かあさ……小母さん!」
「あら。女性に小母さんは禁句だって、教えなかったかな〜?」
「いてててて!」

額に青筋を立てながら笑顔でコナンをグリグリする有希子。
それを遠目に見ながら。

「事情を知らない人が見たら、きっと2人目の息子かなと思うわよね。」
「そうねえ……お父さんが変な目付きしてる。」
「まあ、いいんじゃない?小父さまはおかしいなと思うかもしれないけど、その位。」

苦笑いしてコナンと有希子を見詰める、園子と蘭であった。


その時。

ひとりの紳士が歩み寄り、コナンを少し離れたところから見詰める。
勿論、コナンこと新一の父親である、工藤優作だった。
有希子が、抱きあげていたコナンを下に降ろす。


「オマエにしては時間がかかったな……。」
「ああ、結構楽しめたよ……。」
「ふふふ、2人とも、楽しむどころじゃなかったクセに、強がっちゃってえ。」
「やれやれ、君には敵わないな。男は強がるものなのさ。」

その時コナンは、周囲を見回して、言った。

「初音さん……例の作業、終了したみてえだな。」
「ああ、そのようだな。」

頷く優作。



同じ頃、樫村ルームから、ノアズ・アークの気配が次々と消え去っていた。



そして、

「いずれ、また会おうぜ。ノアズ・アーク、それにヒロキ君。」

コナンが天井を見上げながら、そっと呟いた。







  ☆☆☆








<イメージキャスト>

江戸川コナン……高山みなみ
黒羽快斗……山口勝平

毛利蘭……山崎和佳奈
中森青子……高山みなみ

服部平次……堀川りょう
遠山和葉……宮村優子
鈴木園子……松井菜桜子
京極真……檜山修之
白馬探……石田彰

灰原哀 小泉紅子……林原めぐみ
吉田歩美 桃井恵子……岩居由希子
小嶋元太 高木警部補……高木渉
円谷光彦……大谷育江

毛利小五郎……神谷明
佐藤警部……湯屋敦子

服部初音 本堂瑛祐……野田順子
風見原陽介……保志総一郎
焔野舞……堀江由衣
雪野紅葉……生天目仁美
御剣菫……岡本麻耶
虎姫桐華……冬馬由美
虎姫武琉……桑島法子
レオン・ライア・レムーティス……関智一
越水葉槻……能登麻美子
高千穂晴香……ゆかな

サリエル・ミラン・ヒューベリオン……井上喜久子
ラミエル・ミラン・ヒューベリオン……釘宮理恵

ヒロキ・サワダ ノアズ・アーク……折笠愛

諸星秀樹……緒方恵美
滝沢進也……高野麗
江守晃……愛河里花子
菊川清一郎 ヘル……斎賀みつき

阿笠博士……緒方賢一
目暮警部……茶風林
白鳥警部……井上和彦
千葉刑事 パララケルスシークレットサービス……千葉一伸

工藤有希子 アイリーン・アドラー……島本須美
樫村忠彬……平田広明

諸星警視副総監……堀部隆一
ジェームズ・モリアーティ……小林清志
ジャック・ザ・リッパー ジャック・ザ・スペクター……速水奨

トマス・シンドラー……津嘉山正種

赤井秀一……池田秀一

工藤新一……山口勝平

工藤優作……田中秀幸







「エピローグ」に続く。