けれど・・・事件を呼ぶ男、工藤新一!
彼の進む所、必ず事件が降って来る。
大方の予想通り(?)、事件が起こり、5月2日も新一は学校に来なかった。

「ちゃんと携帯の電源を入れとけよ」

今朝慌しく蘭に電話をかけてきた新一は、そう言った。
昨夜蘭と別れて家に帰り着いたかと思えば、すぐに警察から連絡が入り、駆り出されたのだった。
言われなくても、と蘭は思う。
いつ事件が入って予定をふいにされるかわからない恋人を持った身としては、携帯電話は必需品である。
新一専用と、一般用(笑)のふたつを常に持ち歩いている。

「明日は、阿笠博士から鍵を借りて、家に入って待っててくんねーか。できる限り、約束の時間に間に合うように、頑張っからさ」

なるべく早く帰ってきてね、待ってるから、と蘭は答えて、電話を切った。
明日の昼は園子と過ごすから、時間は結構早くに過ぎるだろう。
そう思っていた。
ところが。

「ごめんっ、蘭!」

園子が両手を合わせて、蘭に頭を下げる。

「園子が謝る事なんか、何もないよ。私だって、同じ立場なら、京極さんに会う方を優先するよ」

思いもかけず、京極真が一時帰国するとの事で、3日の昼間の、蘭と園子が一緒に遊びに行く約束は、キャンセルとなった。

「良かったね、園子」
「うん、ありがとう、蘭」

園子の笑顔は、長年見慣れているはずの蘭さえドキリとするほど綺麗で、蘭も本当に嬉しくなった。
親も大切、友達も大切、そしてみんな大好き。
けれど、女をこんなに輝かせ、美しくするのは、愛しいただ1人の男性だけ。
会えなかったら寂しいし、喧嘩したりすれ違ったりして、辛い思いをするときもある。
けれど、愛する相手に巡り会えて、お互いの想いが通じ合う、それはなんて幸せなことだろう。
園子はそんな相手に、昨年の夏、巡り会った。
初恋も未だで、いつも「いい男ゲットするわよ〜」と息巻いていた園子の前に現れた、飾らず誠実で一途な男性、京極真。
どんな時でも、蘭に味方し、支え続けてくれた親友。
新一とは違った意味で大切な園子に、愛する男性ができた事を、(しかも、蘭の目から見ても信頼できる頼もしい男性であった事を)蘭は心の底から喜び、祝福した。

けれど、あれほど誠実な真でさえ、空手の修行の為に、普段は園子を置いて遠い外国にいる。

「なんで男の人は、女を置いてっちゃうんだろう」

新一が居なかった半年間は、本当の意味で置いていかれた訳ではなかったのだが、今でも事件とあれば、数日間は置き去りにされる事がよくある。
夢のため、目標のため、仕事のため、男は女を置いて行く。
それが、

『男と女の違いなの?』

蘭にはわからない。
園子と真は、想い合っている。
新一と自分もそうだと思う。
でも、女を置いて行く男の気持ちがわからない。
男達も・・・泣きそうになって、寂しさを抱えて待つ女達の気持ちがわからないのだろうか。

『言ってくれねーと、わかんねーんだよ』

脳裏に甦る、新一の声。

「でも、言っていいの?寂しいって、言っていいの?置いて行かないでって、言ってもいいの?」

言ってもきっと、あなたは私を置いて行く。
でも、こう思ってるって事さえ、言わなきゃきっとあなたはわかってくれない・・・。


とりあえず、3日の昼は暇になってしまった。
空手の練習が終わった後、新一に会えないまま、とぼとぼと家路につく。
もしかして、と思って工藤邸の前を通り過ぎてみるが、帰ってきた気配はない。
家に帰ってみると、小五郎は今日も留守のようだった。
何をする気にもならず、自分の部屋に入ってコロンと横になる。
昨日偶然新一に会い、一緒の時間を過ごすことが出来た。
でも、明日まで待つのが、寂しい。
母親、妃英理の所に、電話をかけてみる。

「お母さん、お父さんは今日もそっちなの?」
「あの人はねえ、また新しい事件に駆り出されてるわ。新一くんも、多分一緒じゃないの」
「わ、わたしは、新一の事なんか、別に・・・」

電話の向こうで母親の忍び笑いが聞こえ、蘭は憮然となる。

「多分帰りは今夜遅くになると思うわよ。あの人がどっちに帰るつもりかはわからないけれど」
「そう・・・」
「あ、そうそう、蘭。あの人、最近新一くんと一緒に仕事すること、多いでしょ。新一くんも、昔に比べれば、礼儀もきちんとしてきたし、あの人の顔を立てる様になったわ。少しは苦労して、人間が出来てきたようね。自信満々は相変わらずだけど、それをあまり表に出さないようになったしね。あの人も、少しずつ新一くんの事を認めてきているような感じだわ。良かったわね、蘭」
「お母さん・・・」

尤も、どんなに立派な男性であったとしても、あの人相手には苦労すると思うけどね、と英理は苦笑する。
鈍い蘭でも、英理が言わんとするところを察して、うろたえる。

「わ、私達まだ、そんなんじゃ。やだなあもう、お母さんったら」
「新一くんとこれからの事を真剣に考えるのなら、きちんと節度あるお付き合いを心がける事ね」

尤も、19歳で妊娠して学生結婚した私達に、人の事はとやかく言えないけど、と英理は笑って電話を切った。
蘭は考え込む。

「新一も私も、今月で18歳になるのよね」

親の同意があれば、結婚も可能な年齢に・・・。
正直、時々、夢見る事はある。
いつの日か、新一の子供を産み、新しい家庭を築く日々の事を。

「でもきっと、新一はまだそんな事、考えていないわよね」

まだ私達、高校生だもんね、蘭は少し寂しくそう思う。

小五郎は、今夜帰って来るかどうか、わからない。
もしも帰ってきたら・・・そう思うけれど、蘭は、自分を抑えられなかった。
シャワーを浴び、着替えると、「園子の家に泊まります」とメモを残して、家を出る。


  ☆☆☆


阿笠博士は、「明日じゃなかったのかの」と訝りながらも、鍵を貸してくれた。
新一の家に入り込み、簡単な食事を作って待つ。
新一がいつ帰ってくるかわからない。
パジャマ代わりに持参したトレーナーの上下に身を包み、ソファーに座って待っていると、部活の疲れもあって、うとうとしだす。

「駄目よ、新一にお帰りなさいって言うんだから」

そう思っても睡魔には勝てず、何時の間にか眠りに落ちていった。

その後の事は、殆ど覚えていない。
夢現に、そっと唇に落とされた優しい感触と、抱き上げられ運ばれて行く腕の力強さを感じていた。


=================


目が覚めた時、いつもと違う景色に、蘭はしばらく戸惑っていた。
昨夜の事を思い返し、ここがどこかに思い至り、慌てて身を起こす。
工藤邸の2階にある新一の部屋のベッドの中。
工藤邸に蘭が遊びに来ても、最近は2階に行く事は殆んど無かったから、この部屋に入ったのは数年ぶりの事である。
ここまで運んでくれたのは、新一としか考えられないが、新一が昨夜この部屋で寝た気配は全くない。
蘭は慌てて着替えると(着替えまでちゃんと部屋の中に運んであった)1階のリビングに降りていく。
新一はソファーで毛布にくるまっていたが、蘭の気配に気付くと、体を起こした。
眠れなかったらしく、目の下に隈が出来、仏頂面である。

「蘭。今日は園子と買い物じゃねーか。そろそろ出かけなくていいのか」

蘭がここに来ていた事には何も言わず、そう問い掛けて来る。
その声は普段より低く、不機嫌そうだと、蘭は感じた。

「京極さんが帰国する事になったから、今日の予定はキャンセル」

新一は、そっか、と目をそらして呟く。

「で、今日はどうするつもりなんだ」
「ここにいちゃ駄目かな」
「駄目って事はねーけど・・・。俺、昨夜全然寝てねーから、今から2階に行ってひと眠りすっからよ。それでもいいか?」
「全然寝て無いって、新一、昨夜何時頃帰ってきたの?」
「1時半ごろかな」
「じゃあ何で?私がベッド取っちゃったから?私はソファーのままで構わなかったのに」
「バーロ。俺が構うよ。それに、眠れなかったのは、ソファーで寝た所為じゃねーよ」
「・・・もしかして、事件、まだ解決してないの?」
「おめーな・・・俺を誰だと思ってんだ」

新一の顔に、いつのの不敵な笑みが浮かび、初めて蘭の方を見る。

「じゃあ、どうして眠れなかったのよ」

蘭が更に問い掛けると、新一はがっくりと肩を落とし、恨めしそうに蘭を見上げた。

「おめー、本当にわかんねーのかよ」
「判る訳無いでしょう」
「ったくよお、おめーらしいよな」
「何よ、教えてくれないの?」
「いいんだよ、おめーはまだわからなくってよ」

新一は蘭から目をそらして、大きく溜め息をついた。
蘭は新一の隣に座り込み、新一の顔を覗きこむ。
新一はいつもと違って、蘭の顔を見ようとはしない。

「新一、私に怒ってるんじゃないの?」
「ああ?怒ってなんかねーよ」
「嘘。私が昨夜勝手に入り込んだりしてたから、怒ってるんでしょう」
「だから、怒ってねーって」
「じゃあ、何でさっきから目をそらすのよ!機嫌悪そうだし!」

ふいに蘭は新一に抱きすくめられ、そのままソファーに押し倒された。
新一がじっと蘭をみつめる。
その瞳は、怒りとも何か違う、暗い炎を宿している。
ものすごい力で、両手を押さえつけられていた。
空手をやっている蘭でさえ、振りほどけない。
蘭は、初めて、新一を怖いと思った。
新一はそのまま蘭に覆い被さってくると、口付けを繰り返す。
息もつかせぬほどに、激しく。
いつも甘く酔わされる蘭だが、今回は恐怖で体が竦み、震えている。
固く閉じた瞳に、涙が滲む。
思わず叫んでいた。

「や、嫌!やだっ、新一!」

ふいに、新一の体が離れ、腕を抑えていた力が緩む。
恐怖で固く閉じていた瞳を開けると、新一はいつものように優しく穏やかに微笑んで蘭を見下ろしていた。
蘭は体を起こした。
まだ心臓がばくばくいっている。
「蘭、おめーに怒っているわけじゃねーよ。ただ俺が、修行が足んねーだけだからさ。今はまだ、おめーは何も判んなくていいんだよ」

そして新一は立ち上がり、蘭に背を向けた。

「わりかったよ、怖がらせて。しばらく2階で寝てくっから、適当にやっててくれ」

そう言い残して、リビングを後にする。
蘭は呆然として、今のは一体何だったのだろう、と考える。
とりあえず、新一が怒っていたのではないらしい事だけは判った。
後は謎のまま。
けれど、隠し事とか、騙しているとか、そういう類の事ではないのは判る。
蘭自身も、この世で一番愛しい新一を、何故さっきあれ程までに怖いと思ったのか、よく判らなかった。


  ☆☆☆


新一が起きてきたのは、午後も遅くなってから。
それからは特に何ということもなく、一緒に晩御飯を作って食べ、二人で出かける。
昨年爆破された米花シティービルはまだ復旧していないため、今年は隣町の映画館へ向かう。
蘭が選んだ映画は、「赤い糸の伝説U」、昨年見損ねた映画の続編だった。

「去年の映画って、完結して無かったのか?」
「ううん、今年のはね、直接の続きじゃなくって、コンセプトと、主要な役者だけが一緒なの。お話としては、完全に独立してるから、去年のを見てなくても、大丈夫だって」

映画は、ラブラブ甘々ロマンスものだったが、冒険ものの要素もあり、転生談としても良く出来ており、新一も結構楽しんで観ている様だった。
丁度、映画の幕間に、5月4日の0時を迎えた。
蘭は新一の手を握り、万感の思いを込めて告げる。

「誕生日おめでとう、新一」

新一は、蘭の肩に手をまわし、ぐいと引き寄せると、蘭の耳に低く囁いた。

「ありがとう、蘭」

蘭は用意していたプレゼントを新一に渡した。
しばらくお互いみつめあう。
場内が暗くなり、次の上映が始まったが、蘭にはもう画面は目に入らなかった。

それから2人は、朝まで映画館にいたのだが・・・寄り添い合ったまま、2人とも何時の間にか眠りの中にいた。


===================


朝の光の中、映画館から出てきた二人は、大欠伸をしていた。
時間的には結構寝た筈だが、椅子の上では熟睡できなかったようだ。

「新一ぃ、新一の家でもうちょっと寝かせて」
「お、おい、蘭。おっちゃんには何て言うんだよ。おとといの晩はおばさんちに泊まったみてーだから良かったけどさ、おめーがうちに来てるの判ったときは、肝を冷やしたぞ。今日は家に帰って寝た方が良いんじゃねーのか」
「大丈夫よ、園子んちに泊まってる事になってるから」
「この次園子に会った時、ぜってーからかわれるな」
「なによう、いいじゃない。それとも、新一、迷惑なの?」

軽くにらむと、新一はうろたえた様に言った。

「迷惑って訳じゃねーけどよ。・・・はあ、俺、もつかな・・・」

最後の方は、口の中で小さく呟いただけなのだが、蘭は聞きとがめた。

「もつって、何の事?」
「何でもねーよ!」

どうも最近、判らないことが多い、と蘭は思ったが、それ以上の追及はあきらめた。
話題を替える。

「それにしても、今回連絡なかったよね」
「は?連絡って?」
「事件よ、事件。こういう時、大体事件が起こって邪魔されるのが、パターンじゃない」
「ああ。今回は、しばらく駄目だって、目暮警部に言っといたからな。念のために、携帯の電源もオフにしといたし」
「へえ、珍しいじゃない。いつも事件といえばすっ飛んでいく新一が」
「約束してたかんな。間に合うように、必死で解決したんだぜ。それにせっかく蘭が俺の誕生日を・・・あっ」

慌てて口をつぐむ新一だったが、蘭は聞きとがめた。

「新一。いつもは忘れてるくせに、今年は覚えてたの?」
「・・・蘭の行動が去年と同じパターンだったからな。それに、今年は18歳になる訳だし」
「18歳になるのが、何かあるわけ?」
「いや、それは、区切りというか、何というか・・・」

新一はバツの悪そうな顔で、蘭から目をそむけ、頬を掻いている。

「あーっ、判った、新一ったら、やらしいっ」
「や、やらしいって、何がだよっ」

ギョッとしたように蘭の方を見る新一に、蘭は言う。

「これで堂々とR−指定のやつ見られるとか思ってんでしょう!もう、さいてー!」
「っ!バーロッ!んな訳ねーだろっ。ったく、普段は天然のくせに、その発想の飛躍は、何なんだよっ」
「だって、18歳が特別って、他に何があるのよっ」
「そ、それは・・・」
「ほら、言訳出来ないでしょう!」
「ちがーう!大体俺にはそんなもの必要ねえっ!そんな時は蘭を思い出してるっ・・・」

そこまでまくし立てていた新一が、突然口を抑えて黙り込む。
蘭はきょとんとして新一をみつめる。
新一は、目を白黒させて、口に手をあてたまま黙っている。
蘭には判らないが、何か重大な失言をしたらしかった。

「私を思い出すって・・・、いったい何よ?」
「だーっ、何でもねえっ。ほら、家に着いたぜ。蘭、今日は客間で寝てくんねーか」
「?いいけど」

蘭にとって、謎は深まるばかりであったが、とりあえず眠かったため、それ以上の追及はしなかった。


  ☆☆☆


2人はひと眠りした後、リビングで寛いでいた。
蘭は紅茶、新一はコーヒーを飲んでいる。
一息ついた後、新一はおもむろに口を開いた。

「蘭、俺さ、実は今年は・・・誕生日のお祝いに、・・・すっげー欲しいもんがあんだけど」
「・・・ポロシャツじゃ不満だった?」
「あれはあれで嬉しいよ。・・・そういうんじゃなくて、店で売ってねーもの」

そう言って新一は、蘭を抱きしめる。
蘭の瞳を覗きこみながら、言葉を続ける。

「誕生日プレゼントに、蘭が欲しい、って言ったら、・・・どうする?」

蘭は戸惑ったように新一を見上げる。
新一の深い瞳の色に、吸い込まれそうになる。

「私が欲しいって・・・だって私は、もう新一のものじゃない」

新一は深い溜め息をつくと、脱力したように、蘭の肩に頭をあずけた。

「おめーさ・・・はぐらかしてんのか?」
「はぐらかすって、・・・どういう事よ」
「おめーの場合、天然だよな」
「だから、何の話よ!」
「蘭」

もう一度、蘭の瞳を覗きこんで、新一は囁く。

「蘭。おめーは俺のもんか?」

蘭は、自分の顔が赤くなるのを感じながら答えた。

「もう、さっきから、そう言ってるでしょう」
「この先も、ずっとか?」
「え?」
「一生、俺のもの?」

蘭は耳たぶまで真っ赤になる。
すごい事を言われているような気がする。

「ねえ、新一」
「ん?」
「そういう事言われるとね、期待しちゃうよ?」
「期待って?」
「だって、まるで、・・・あの・・・」
「・・・プロポーズみたいって、思った?」

蘭は答えようとしたが、言葉が出てこなかった。
ふいに、新一の唇が、蘭のそれに重ねられる。
柔かい感触に、蘭は陶然となっていく。

「俺は、そのつもりだけど?蘭に、一生傍に居て欲しい。俺は、おめー以外、考えられねーから」
新一の言葉が、すごく嬉しい。けれど、同時に湧き上がる不安。

「どうして、私なの」
「へっ?」

新一にとって、思いがけない質問だったのだろう。
きょとんとした顔で蘭を見る。

「だって、新一だったら、私じゃなくても、よりどりみどりでしょ。私なんて、何の取得もないし。ただ、幼馴染で、ずっと近くに居ただけだし」
「おい、本気で言ってんのか」

新一の声に僅かだが怒りが混じり、蘭は少し怯えて身を竦める。
新一は溜め息をつきながら、蘭の頭を撫で、言葉を続けた。

「おめーな・・・まあ、そういう所がおめーらしいんだけどよ。自分に取得がねーなんて、言うなよな」
「でも」
「蘭。例えば、誰かが危険な目に遭ってるとすんだろ。その誰かが、蘭、おめーだったり、母さんとか、少年探偵団とか、俺にとって大切な奴だったら、俺は迷わず助けようと動く、と思う」
「・・・うん」
「でも、おめーは違う。おめーは、それが見ず知らずの奴であっても、何も考えずに助けようとすんだろ」
「・・・・・・」
「そういう所、俺は絶対敵わねーと思う。俺の探偵としての正義感は、蘭、おめーが居たから、培われたものなんだぜ」
「新一・・・」

思いもかけない新一の告白に、蘭は呆然となった。
小さい頃から新一は、探偵を目指していた。
それは、蘭と関わりないところでの夢だと思っていたのに。

『探偵としての正義感は、私が居たからなんて・・・嬉しい!すっごく、嬉しいよ!』

「幼馴染でずっと近くに居た幸運には感謝してっけどよ、どんな出会い方をしても、俺はぜってー、おめーを選んでた。自信持てよ。あんまり言いたくねーけどよ、おめーは俺には過ぎた女だと思ってる。だから、不安なんだよ。いつか、俺から飛び立っちまうんじゃねーか、他の男の元に去って行っちまうんじゃねーか、ってな」

蘭は、嬉しさを隠して、新一をにらむ。

「なによ、それって、私を信じてないって事?」
「信じてねー訳じゃねーけどよ、・・・おめーがどんどん綺麗になっていく毎に、どうしても、不安になっちまう。だから、おめーが俺のもんだって、証が欲しくなるときがあんだよ。・・・て事で、さっきの返事、俺は聞かせてもらってねーんだけど?」
「返事?」
「蘭に、一生傍に居て欲しい。」

蘭を覗きこむ深い瞳の色。
蘭はにっこり笑い、蘭の方から新一に口付けて応える。

「私は、一生新一だけのものだよ」

新一は、ちょっと驚いた顔をしたあと、満面の笑みを浮かべた。
新一がこういった表情をする事は、滅多にない。
蘭だけに見せる、心の底からの笑顔。

「蘭、手ぇ出して」

訝りながらも蘭が右手を出そうとすると、

「左の手」

と言われる。
蘭が差し出した左手を取り、その薬指に、新一は指輪をはめた。
新一と蘭、双方にとって誕生石となる小さなエメラルドが嵌った、細いシルバーのリング。
いつの間に調べたのか、サイズもぴったりである。

「し、新一」
「まだ高校生だかんな。大したものは買えねーけど、とりあえず、予約と言うことで」
「でででも、今日は新一の誕生日なのにっ。嬉しいけど、でも、私の方が指輪もらっちゃうなんて、これじゃあ、逆だよ!」
「蘭。指輪は、プレゼントなんかじゃねーよ。約束の証。俺は今日、蘭から何よりもでけープレゼントをもらったかんな」
「え?あのポロシャツの事?」

新一は一瞬脱力する。
こういうやつだよな、と小さく呟いた後、苦笑いしながら、蘭の耳元に口を寄せ、甘い声で囁いた。

「もらったさ。蘭との未来の約束」



Fin.