C-K Generations Alpha to Ωmega



By 東海帝皇(制作協力 ドミ)



第一部 勇者誕生編



Vol.4 怪盗キッドVS最強警視長



「へえー、そんな事情があったの。」
「何か急には信じられへんなあ……。」

新宿御苑にて、シャドウエンパイアの襲撃を退けたコナン達は、先ほどまでのバトルの余韻はどこへやら、芝生に寛ぎながら、今までに起こった出来事を園子や和葉達に洗いざらい話していた。

「まあ、無理もねーよな。大体高校生が薬で小学生になっちまう事自体、信じられねーもんなあ。」
「けど、実例がウチ等の前にあるやんか。」
「おいおい……。」
「それにしても平次。」
「何や、和葉?」
「アンタがよく東京に行きたがった理由がよーやくわかった気がするで。」
「つまりへーたんは、コナン君と推理勝負で張り合いたかったんやねえ。」

との和葉と菫のツッコミに対し、

「ア、アホ言うなや。オレは別にそないな事は……。」

否定する平次だが、

「あら、口ではそんな事言っても、今にして思えば、その態度が年中だだ漏れだったじゃないの。」
「う゛……。」

園子に畳み掛けられて、言葉を詰まらす。

「ま、まあ、それはええとして、黒羽。」

急に話題を快斗に振る平次。

「な、何だオメー、急に話を逸らすなよ。」
「オレの事なんぞ別にえーわい。それよりお前や。事情はようわかったけど、怪盗キッドの仕事、これからも続けるんか?」
「俺もそれを知りてーな。」

平次に続いてコナンも問いただす。

「知ってどーすんだよ?もし続けると言ったら、この場で俺を捕まえる気か?」
『!』

一同の間に緊張が走る。

「それはオメーの返答如何だな。もし本来の目的通りパンドラだけしか狙わねーのなら、俺達は別にオメーの事には関知しねーぜ。」
「そーそー。それにオレ等はどちらかと言えば、二課関係には興味あらへんからなあ。」
「そう言えば貴方達って、殺人事件がメインでそれ以外にはあまり興味が無い方だったわよね。」
「おいおい……。」

哀のツッコミに対し、ジト目になるコナン。

「で、どーなんや、お前の今後は?パンドラしか狙わへんのか?」
「快斗……。」

平次の快斗への問いに対し、不安げになる青子。

「決まりきった事を聞くなよ、オメーら。俺の狙いはあくまでもパンドラだけで、それ以外には別に興味がねえ。」
「……成る程な。」
「それだったら安心や。」
「じゃあ快斗は、捕まらないの?」
「ああ。怪盗キッドは盗んだ物はきっちりと返す主義だし、それに盗みの為に殺人なんて絶対にしねーからな。」
「ホンマはそれも罪には違いないんやけど、事情が事情やから、特別に目ぇ瞑ったるわ。」
「おーっ、平次、なかなかやるやんか。」
「へーたん、心が広いやん。」
「良かったわね、青子ちゃん。」
「うん、ありがとう。蘭ちゃんにコナン君。」

安堵する一同。

「まあそれにしても、二人の名探偵からお墨付きが頂けて、俺も仕事がやりやすくなったぜ。」
「おいおい……。」
「こら、バ快斗!アンタったらすぐこれなんだから!あんまり調子に乗りすぎると、お父さんに言いつけるからね!」
「おいおい、それはねーだろ、アホ子。」
『うふふふ……。』

微笑む蘭達。

「ねえ、初音さん。」
「何や、舞?」
「パンドラと言えば、私達が探してる4つのジュエルも確かそんな名前だったような……。」
『!』

舞の話を聞いて、一転して顔を引き締める快斗達。

「おい、それどう言う事だよ!?アンタ達パンドラの事を知ってんのか!?」

血相を変え、初音や舞に迫る快斗。

「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ、快斗。」

宥める青子。

「俺もそれが知りたいな。なあ、初音さん、あんた達が知ってるパンドラの事、出来る限り教えてくれねーか?」
「けど新一、黒羽君が追ってるパンドラと、初音さん達が追ってるパンドラって、同じ物なの?」
「ああ、まず間違いあらへんやろ。で、初姉。パンドラって一体何なんや?」
「……パンドラっちゅうのは、別名『命の石』言うて、その名の通り、命の力が秘められし伝説の宝石の事や。」
「それは俺も知ってるぜ。『ボレー彗星近づく時、命の石を満月に捧げよ……。さすれば涙をながさん……。』て言い伝えがあって、その『涙』を飲んだ者は、不老不死が得られるってな。」
「ほう、さすがは怪盗キッドやな。」
「で、それを見つけ出して破壊する事が、快斗殿の最終目的でござったよな。」
「ああ。俺の親父のような犠牲者を出さない為にも、それだけはきっちりとやらなきゃなんねーんだ。」
「けど、そのパンドラを何故初音さん達は追い求めてんだ?」
「まさか不老不死やないやろな、初姉!?」

鋭く問う平次。

「ちゃうちゃう。ウチ等はそんな下らん目的の為にパンドラを追うてるんやないで。」
「私達はね、その4つのパンドラの力が込められた『命の雫』で解毒剤を作ろうとしてるの。」
「何だって!!?」
「解毒剤!?」

血相を変えて色めくコナンと哀。

「そう。この世のどんな毒でも消す事が出来る究極の解毒剤『エクスキュアーズ』を作る為に、パンドラを捜し求めてるんや。」
「どんな毒も……って事は、APTX4869も消す事が出来るの!?」
「じゃあ、俺や灰原もその『エクスキュアーズ』で元に戻れるのか!?」
「勿論やで。」

自信満々に答える初音。

「エクスキュアーズ……それがあれば俺は……元の工藤新一に戻れるのか……!」

復活への手掛かりを遂に掴んだコナンは、体を打ち振るわせる。

「けど初姉。何でそんな事が言い切れるんや?」
「そうやで、初ちゃん。大体何を根拠にそんな事が?」
「お前ら、ルルドの泉って知っとるか?」
「ルルドの泉?」
「もしかして、病気を治すあの奇跡の泉の事?」
「そうや。」
「けど、それとパンドラとが一体どないな関係があんねや?」
「実はな、あの泉の成分の中に、ウチ等が追い求めとるエクスキュアーズと同じ成分が入ってんねや。」
『え゛っ!?』
「ちょ、ちょっと待ってくれ、初音さん。何でルルドの泉の成分がエクスキュアーズと同じだって解ったんだ!?」
「それにそもそもエクスキュアーズって、一体いつ作られたんや!?」
「あと、そのエクスキュアーズが作られたって事は、当然パンドラから取られた命の雫が使われてるって事だよな。それなら4つのパンドラが、エクスキュアーズが作られた時にはすでに存在していた筈だ。なのに何故消えてしまったんだ!?」

矢継ぎ早に初音に尋ねるコナン達。

これに対し、

「まーまー、ちゃんと順を追って話したるから、ちと落ち着けえや。」

宥める初音。

「まず、ルルドの泉の成分がエクスキュアーズと同じっちゅーのは、数年前にマジックギルドの古文書館で発見された羊皮紙の中に、エクスキュアーズに関する記述が記されていたモンがおうてな。ただ、その羊皮紙にはエクスキュアーズとは書かれてへんかったけど。」
「じゃあそのエクスキュアーズって言葉、アンタの造語か?」
「まあ、そう言う事や。んで、それとルルドの泉の泉水を照合したら、その羊皮紙に書かれていた通りやったんや。」
「えっ、そんな事が!?」
「その羊皮紙って一体何時ぐらいに書かれたモノなんだ!?」
「炭素測定で調べたら、今から400年以上も昔、日本では安土桃山から江戸時代初期の頃の物なの。」
「なっ、ちょ、ちょっと待てえ!!ルルドの泉が発見されたんは、今から150年程度昔やろ。なのにそれよりも更に250年も前にエクスキュアーズが存在しとったのに、なんでその間存在が知られて無かったんや!?」
「恐らく、そのプロト・エクスキュアーズが……。」
「プロト・エクスキュアーズ?」
「初音さんが作ろうとしているエクスキュアーズと区別する為に俺が考えた便宜上の造語さ。で、そのプロト・エクスキュアーズが作られた当時は、それがどんな効果を発揮するのかが、何も解っていなかったんじゃねーか?それで扱いに困って、ピレネー山脈のとある場所に破棄されて、それが地下水脈に流れて、ルルドの泉水になったんだろーな。」
「へえ、成る程ね……。」
「そう考えれば、ある程度は辻褄が合うでござるな。」
「そーねー。」

感心する初音達。

「あ、て事は、そのルルドの泉水の成分を抽出して、解毒剤を作れないかしら?」
「あっ、そうよ、蘭!そうすれば、パンドラを探すまでも無く、コナン君が新一君に戻れるんじゃないの?」

期待する蘭と園子。
だが、

「残念だがそれは無理だ。」

否定するコナン。

「えっ、どうして!?」
「そんなのやって見ないとわかんないじゃない!!」
「あのね、蘭さんに園子さん。黒羽君の話だと、パンドラから抽出される命の雫は、その名の通りほんの一滴程度に過ぎないから、それから出来るプロト・エクスキュアーズなんて、それこそたかが知れてるでしょ?」
「灰原のねーちゃんの言う通りやで。それがピレネーの地下水脈に溶け込んだら、その分だけ濃度も薄まるやんか。」
「あ、そう言えば……。」
「150年経っても涸れない程の水脈だから、その濃度も押して知るべしだな。」
「うーん、残念だなあ……。」
「折角復活の手掛かりを掴んだのに……。」

残念がる蘭と園子。

「で、ルルドの泉水とプロト・エクスキュアーズの成分が同じ事と、そのプロト・エクスキュアーズの出現時期はある程度はわかったけど、存在していたはずのパンドラが消えてしまった理由はその羊皮紙には書かれてなかったのか?」
「残念やけど、それについては何も書かれてへんかったで。」
「そうか……。」
「けど、それだけ薄まってるルルドの泉水ですら、アレだけの奇跡を起こし続けてるんやから、400年以上も劣化しない解毒剤を生み出す力を持っているパンドラを手に入れたら、その効果はもろ保証付きやん。」
「そうそう。それをシャドウエンパイアの奴等が狙うのも大いに頷けるな。」
「それならばなおの事、奴等にパンドラを渡す訳にはいかねーよな。」
「そやな。あんな奴等に渡ってもーたら、決してロクな事に使わんのは、火ぃ見るよりも明らかやしなあ。」
『うんうん。』

頷く一同。

「……さてと、パンドラとエクスキュアーズの話は一先ずこん位にして、そろそろ行かなきゃな。」

快斗が芝生の土を払いながら立ち上がった。

「行くって何処へ?」
「明日の仕事の下準備。」
「下準備って……もしかして怪盗キッドの!?」
「わっ、バカ!!」

驚く園子の口を、手で慌てて塞ぐコナン。

「なっ、何すんのよ、新一君!」
「オメーなあ、そんな大声出して、光彦達に聞こえたらどーすんだよ!?」

と言いながらコナンは、気絶後も初音の睡眠魔法で眠り続けている少年探偵団の方を向いた。

「大丈夫よ、まだぐっすり眠ってるから、今のは聞こえなかったみたい。」

確認をとった蘭は、コナンにOKサインを出す。

「ふー、あぶなかったぜ。」

安堵するコナン。

「オメー、今の話聞いてなかったかよ?黒羽がキッドをするのはあくまでもパンドラを探す為であって、他には害がねーんだからそっとしといてやれよ。」
「ご、ごめん……。」

謝る園子。

「あ、ところで黒羽はどこ行ったんや?」
「あれ、もうおらへんね。」
「早々と下準備に行ったようでござるな。」
「さすがはキッド、そつが無いわね。」

感心する哀。

「おっと、俺もそろそろ仕事の時間だ。」

腕時計を見た陽介が、続けざまにジーパンに付いた土を払いながら立ち上がる。

「あっ、もしかして、『初恋物語』の最終回の収録?」
「ああ。今日が最後のスタジオ収録で、明日の土曜の夜は、横浜みなとみらいの横浜美術館前での現地ロケさ。」

園子の問に答える陽介。

「ねえねえ、それなら明日の夜、みんなでみなとみらいに夜間ロケを見に行きましょうよ!」
「あっ、いいわね、それ!」
「ちょうど今三連休だしね。」
「風吹ちゃんもどう?」
「無論行くでござるよ。」
「和葉ちゃん達はどうする?」
「うん、ええよ。」
「勿論ウチも行くで!!」

園子の提案に賛同する女性陣。

「ちょっと待て、お前ら。」
「何や、平次?」
「どしたん、へーたん?」
「お前らなあ、今日の内に寝屋川戻るんやなかったんか?」
「えっ、そうだったの、和葉ちゃん、菫ちゃん?」
「あー、そんなんえーねん。お父ちゃんには『今日初ちゃんに久しぶりに会うて、色々と話したいんで、帰りは明日にするわ。』言うとくから。」
「そーそー。ウチのお父ちゃんも初姉さんの事、えろう気にいっとるから、二つ返事で了承してくれるで。」
「ハハハハ、おまいら割とあくどいなあ……。」

ジト目で呆れる平次。

「ね、いいでしょ、陽介君?」
「おいおい、園子の奴、もう気安く接してやがるぜ……。」
「いや、別に構わないけど。」
「ラッキー★」
『やったあ!!』
「ハハハ、ホントーにミーハーな奴等だな……。」
「全くやな……。」

対照的に呆れるコナンと平次。

「ふう、これじゃ先が思いやられるわね。」

嘆息する哀。


「うーん、それにしても……。」

園子をじっと見つめる陽介。

「えっ、な、何?」

今を時めくスーパーアイドルに見つめられて、どぎまぎする園子。

「どうしたんだ、陽介さん?」
「いやあ、真が何故彼女に惚れたのか、実際に会ってみてわかった様な気がするんだ。」
「えっ、あなた真さんの知り合いなの!?」
「知り合いも何も、真は俺の小学生の頃からの親友さ。」
「えーーーーーーっっっ!!!?」

どビックリの園子。

「て事は、じゃあ貴方、杯土高校の?」
「そ。」

と言いながら陽介は、ポケットから生徒手帳を取り出して、園子達に見せる。

「うわー、ホントだわ。」
「俺、真の奴からアンタの事を色々と聞かされて、『この手のネタに疎いコイツに惚れさせる物好きな女って、一体どんな奴なんだ?』って思ってたんだが……。」
「んまあ!貴方私の事をそんな風に思ってたの!?」
「そ、園子落ち着いて……。」

宥める舞。

「でも実際に本人に会ってみて、真が惚れるのも道理だと思った。」
「え?」
「だってアンタ、とっても良い目をしているからな。」
「〜〜〜〜〜〜。」

顔が真っ赤になる園子。

「まあ、正直な話、女にしとくのが勿体無いような気がするぜ。」
「ちょ、ちょ、ちょっと何よそれ!?」
「いや、これでも褒めたつもりなんだが。」

そう言いながら陽介は、足下に魔法陣を展開させる。

「それはわかるんだけど、素直に喜べないような……。」
「それは女としては複雑よね。」
「でも私もわかるような気がするわ。園子さんってサバサバしてて、女特有のねちっこい所があまり無くて、素敵な性格が思うもの。」

陽介の言う事に同意する哀。

「オメーがそんなに人を褒めるなんて珍しいな。」
「悪かったわね。」


「それじゃ、失敬するぜ。」
「いってらっしゃい、王子様。」
「お仕事、頑張るでござるよ、主殿。」
「気をつけてね、ダーリン。」
「おう。それと園子さん。」
「な、何?」
「真を大切にしてやれよ。」

そう言いながら陽介は、魔法陣の中に吸い込まれるように去って行った。

「……。」

園子は陽介が去った後も顔を真っ赤にしていた。



「……ほなら、ウチもそろそろ行くかいな。」

初音も続けて立ち上がった。

「行くって何処へや、初姉?」
「警視庁に就職面談や。」
「えっ、『就職面談』!?」
「て事は初姉、警官になるんか!?」
「ああ、そやで。」
「でも初姉が警官やなんて、何か想像でけへんなあ。」
「どーしてだ、服部?」
「だってあないにがさつな初姉に婦人警官が似合うわけあらへん……。」
「何か言うたか、平次?」
「ぎえ〜〜〜〜〜〜っっ!!!」

怒筋を立てながら平次の両側頭部をぐりぐりする初音。

「ハハハハ、相変わらずバカだねー……。」

呆れるコナン。


「ほんじゃ、また後でなー。」

と言いながら初音も、マジカルテレポートでこの場を後にした。

「……それにしてもあの初音さん、一体どーゆー人なんだ、服部?」
「一口で言えば、奇人変人やで、工藤。」
「ハハハ、あの立ち振舞いを見れば、確かにそーかもしんねーな……。」

少々呆れ気味なコナンと平次。
そこへ、

「ねえねえ、まだ時間がある事だし、また新宿駅界隈に行きましょうよ。」

提案する園子。

「いいでござるな。」
「もっと色んなモン見たいしね。なあ、和葉ちゃん。」
「あっ、そ、そやな、スミレちゃん。」
「蘭ちゃん達も行きましょ。」
「うん、そうね。」
「けどこいつ等どうすんねや?このまま置いてく訳にはいかんやろ。」

眠っている探偵団を指す平次。

「そーだな。歩美ちゃん達をどうするかだが……。」
「それなら心配ないわ。私がドラグファイヤーで送り届けてあげるから。」

舞は炎の護符を天に放り投げ、

「グウォォォーーーーーーーーーッッッ!!」

再びドラグファイヤーを召喚した。

「おいおい、またかよ……。」
「でもこんな目立つモンでガキ共運んでって、周囲に何も言われへんのか?」
「それなら大丈夫よ。バトル時や魔法の発動時には、正体を知ってる人以外には姿がジャミングされて見えるフォースフィールドの魔法が張られてるから、けっして怪しまれる事は無いわ。」
「ほーっ。」
「結構便利なのね。」

そこへ、

「あ、そうそう。私も送ってもらおうかしら。」

哀が申し出る。

「何だ、オメーも帰るのか?」
「ええ。今日は色んな事が有り過ぎてちょっと疲れたしね。」
「じゃあ、これに乗って。」

舞に言われるままに哀はドラグファイヤーに跨る。

「けどこれ、途中で落ちたりしないかしら?」
「それは大丈夫よ。乗ってる部分にはちゃんと重力が働いてるから、心配は要らないわ。」
「成る程ね。」
「それじゃ、行って来るね。」
「グウォォォーーーーーーーーーッッッ!!」

探偵団をドラグファイヤーに乗せた舞は、そのまま米花市方面へと飛んでいった。

「行ってらっしゃーい。」
「また後でくるよねー。」

手を振って見送る蘭と青子。

「……さてと、俺も行くか。」
「あ、俺も行くで。」
「行くって、何処へ行くの、アンタ達?」
「警視庁。」
「初姉が何の役に就くのかがちと気にのうてな。」
「あら、私達の買い物には付いて行かないの?」
「ああ。俺は別にそんなのには興味ねーしな。」
「そーそー。それに初姉の言葉にちょっと引っ掛かるモンがあるさかいな。」

同調する平次。

「ほほう、するとコナン殿や平次殿は、蘭殿達がどっか他の男性にナンパされそうになっても構わんのでござるな。」
「「ぴくっ!」」

風吹の言葉に反応するコナンと平次。

「そーねー、もしそーなっても、果たして舞達にそれを防ぎきる事が出来るかどうか……。」
「もしかしたらスミレちゃんでもアカンかもなあ。」

同調する園子と和葉。

「わ、わーったよ!!」
「ついて行きゃえーんやろ!?」
「そーそー、わかればえーんやで、へーたん。」
「「ウフフフ……。」」

微笑む蘭と青子。

「それじゃ、早速行きましょ、みんな。」
「「「「「おーっ!」」」」」
「「トホホホ……。」」

コナン達は、新宿御苑を後にして、再び新宿駅界隈へと向かっていった。



   ☆☆☆



「しっかし、ホンマに久しぶりやなあ、警視庁も……。」

警視庁の本庁舎内を見て、感慨深げな初音。

そこへ、

「あ、あの……。」
「ん?」

誰かに声をかけられて、初音は振り向く。

「本庁に何か御用でしょうか?」

若い刑事が初音に尋ねる。

「いやあ、ちとここで就職面談があるんで、どこ行ったらええんかと思うてな。」
「しゅ、就職面談……ですか?」

初音の言葉に面食らう刑事。
そこへ、

「高木君。」
「あ、佐藤さん。」

女性の警官――佐藤美和子警部補が、若い刑事――高木渉巡査長に声をかけてきた。

「この方は?」
「あ、何でも本庁に就職面談に来たとかで……。」
「は?就職面談?」

佐藤刑事も高木刑事と同様、『就職面談』という言葉に面食らっていた。

「ま、まあとにかく、受付で聞いてみましょ。多分何がしかの案内がある事だし。」
「おー、そら済まんなあ。」

佐藤・高木両刑事は初音を受付に連れて行った。



  ☆☆☆



「この先が、面談が行われる第一会議室よ。」
「いやあ、ホンマおおきに。」

案内する佐藤刑事に礼を言う初音。

「そう言えば、歩いてる途中でよく『うわあ、懐かしいなあ』って言ってましたが、以前ここに来た事がおありでも?」
「ああ。確かここに最後に来たんは、10年以上前に平蔵のオジちゃんと一緒に来て以来やったなあ。」
「へ、平蔵のオジちゃん?」
「そ。大阪府警の本部長の服部平蔵。ウチの叔父にあたる人や。」
「げっっ!?」
「お、叔父さん!?」

初音の発言にビックリの高木・佐藤両刑事。

「て事は、あなた服部平次君の従姉妹なの?」
「そや。ウチは服部初音。今後とも宜しゅう頼んまっせ。」
「「は、はあ……。」」



  ☆☆☆



「ここが第一会議室です。」
「おー、どーもおおきに。」

高木刑事に一礼して、初音は会議室へと入って行った。

「……それにしてもあの初音さん、一体何で就職面談に来たんですかね?」
「そう言えばそうよね。普通警察官って、正式に採用試験を受けなければなれないものよね。それが就職面談の形をとるなんて、聞いた事が無いわ。」
「となると、一体何の為に……。」

高木刑事が考えをめぐらせた時、

「そこで何をしているのかね、佐藤刑事に高木刑事。」

彼らに声をかける者が。

「えっ、あっ、あなたは!!!?」
「お、小田切警視長!!?」

高木刑事と佐藤刑事は、自分達の目の前にいる刑事部参事官の小田切敏郎警視長の姿を見て、急に身を硬くする。

「え、えーと、あの……その……。」
「い、今こちらの会議室まで、就職面談に来た方を案内しまして……。」
「ほう、彼女が待っているのかね。」

小田切警視長の背後から、恰幅のよい黒髭の男性が尋ねた。

「は……は……白馬警視総監!!!」
「それに諸星副総監も!!!」

その他にも、刑事部部長や総務部部長、公安部部長等の警視庁首脳陣の姿を認め、更に固まる二人。

「では、行くとしようか、諸星君に小田切君達。」
「はっ。」
「これから重要な話があるので、君達も早くここから去りたまえ。」

白馬警視総監達は、初音が待つ第一会議室へと入室していった。
そのドア前を警護の警官達が固める。

「「……。」」

自分達の想像外の事に面食らって、なおも固まっている高木刑事と佐藤刑事であった。



  ☆☆☆



「いやあ、もうホントにびっくりしましたよ、あれには。」

捜査一課にて、自分達が見てきた事を目暮十三警部達に話す高木刑事。

「うーむ、それにしても、警視庁の首脳陣がそろって面談するとは……。」
「その服部本部長の姪御さん、一体どんな役職に就くつもりなんでしょうか……。」

白鳥任三郎警部も考えをめぐらす。

「黒田管理官、何か話を聞いてませんか?」

捜査一課管理官・黒田兵衛警視に尋ねる佐藤刑事。

「いや、私もそれについては何も聞かされてないが。」
「そうですか……。」
「うーん、何か気になるわねー、その服部初音って娘。」
「うげっ、ゆ、由美さん!?」

どこからとも無く現れた交通部の婦警・宮本由美警部補に驚く高木刑事。

「アンタどっから湧いて出たのよ!?」
「まーまー、細かい事は気にしないの。それよりも、警視庁の首脳陣が直に就職面談する位だから、絶対にただの職務である訳が無いわ。」
「と言いますと?」
「そーねー……、例えば、人外の者を相手にするとか……。」
「はあ!?」
「それ仮面ヤイバーの見過ぎじゃないですか?」
「失礼ね!アンタと一緒にしないでよ!!」

千葉刑事の突っ込みに反論する由美。

「まあまあ、由美さん落ち着いて……。」

宥める高木刑事。

「あら、もうこんな時間じゃない。じゃあ、私はそろそろ……。」
「ホントだ。じゃあ僕もこれで……。」
「僕も失礼します。」
「うむ、ご苦労。」

佐藤・高木・千葉刑事は、目暮警部に挨拶して退出した。

「逃げやがったな……。」

ジト目で千葉刑事を見送る由美であった。



  ☆☆☆



捜査一課のロッカールームにて……。


「いやいや、ホントに参りましたねえ。」
「今後はあんまり由美さんを刺激するようなツッコミは慎んだほうがいいぞ、千葉。」
「そうですね、あとで何されるか、わかったモンじゃないですからね。」
「まあ、そう言う事だ。」

高木刑事が自分のロッカーに手をかけようとした時、

「う〜〜〜〜む、う〜〜〜〜む……。」
「えっ!?」

ロッカーの異変に気付く。

「高木さん!!何か人の呻き声が聞こえますよ!?」
「開けてみよう!」

高木刑事は大急ぎでロッカーを開けた。
すると、

「む゛ーっ、むむ〜〜〜〜っ!」
「な゛っ、あ、あなたは……!!?」

ロッカーの中で、タオルを噛まされて、パンツ一丁で縛られている人物を見て、二人は驚愕した。



  ☆☆☆



その頃、第一会議室では……。



「……。」

警視庁より改めて交付された警察手帳をじっと見つめる初音。

「どうかしたかね、初音君。」
「いやあ、ウチがまさかこの階級につくなんて、何か今一つ信じられへんねや。」

白馬警視総監の問いに、偽らざる心境を話す初音。

「なるほど、まあ、それも無理は無いだろうね。けど、国家公安委員会も君の実力を認めて、この階級に就けたのだから、少しはどっしりと構えても良いのだよ。」
「ハハ、これはおおきに。」
「それにしても、我々との会合を『就職面談』と言うとは、君は何を考えているのかね?」
「まあ、ええやないか、小田切はん。ちっとはユーモアのセンスがおうても。」

切り返す初音。

「ま、まあ確かにそうかもしれんな。だが、この警視庁の者には誰にも持ち得ない君の特殊能力が必要なのは私も認めるがね、けど、さすがに君のその階級は、ICPOや服部本部長の強力な推薦があればこそのものだと言う事も決して忘れないように。」

これを聞いた初音はすくっと立ち上がって、白馬警視総監を始めとした一同に対し敬礼して、

「まあ、確かに実力だけやのうて、ちっとはコネもあるかも知れへんけど、これからの働きで、この地位がまっとうやと証明してみせまっせ。平蔵のオッちゃんの為にもな。」

強い眼差しで言い切った。
その意志の強さの前に、思わず緊迫する一同。
これに対し、

「いや、実に頼もしい。」

白馬警視総監がにこやかに応じる。
他の部長達もホッとしたように、息を抜く。
その時、

「で、君にもう一つだけ聞きたい事があるのだか。」
「何でっか、諸星はん?」

動じる事無く答える初音に対し、諸星副総監が妙に真剣な面持ちかつ、低い声で尋ねる。

「君のバスト・ウエスト・ヒップはいくつぐらいかね?」
「へ?」

目を丸くする初音。

「な゛っ、な、何をいきなり言うのですか、副総監!!?」

諸星副総監の予想外の質問に面食らう小田切警視長。
他の部長達も、思わぬ展開にざわめく。
だが、

「んー……?」

初音は訝しげに諸星副総監を一目見るや、彼の元に近づき、

「うおらあっっ!!」
「んげっっ!!?」

胸倉を掴むや否や、一気に持ち上げた。

「なっ、き、君!!?副総監に対して、何て無体なマネを!?」
「無体なんはコイツの方や。全く、おイタにも程があるで、怪盗キッド。」
「え゛っ!!?」
「な、何と!!?」

初音の指摘を受け、更にざわめきだす警視庁首脳陣。
が、その中で一人、白馬警視総監だけはどっしりと構えて、初音の様子を見ていた。

「ほう、さすがは西の名探偵・服部平次の従姉妹だけはありますね、お嬢さん。」

声色が諸星副総監のものから、別人の声へと変わった。

「フッ、天下の大怪盗にそないに褒めてもらえるなんて、ホンマに光栄やな。ならさっさと……消えいやあ!!!」

そう言うや初音は、片手で吊り上げていた諸星副総監の偽者をぶん投げた。

「おわっと!」

初音に投げられた偽者は、上手く体勢を立て直しながら変装を脱ぎ捨て、国際犯罪者番号1412号――怪盗キッド本来の姿を表した。

「なっ、き、貴様は……!?」
「怪盗キッド!!?」
「いやいや、これは失礼致しましたね、警視庁の首脳陣の皆様方。」
「貴様、これは一体何のマネだ!?」
「いえいえ、ホントは捜査二課の方に用があったのですが、ちょっとしたついでにこちらに。」
「なっ、何がついでだ!?我々をバカにするにも程があるぞ!!」

激昂する小田切警視長。
が、その傍らの白馬警視総監は、悠然とキッドのやり取りを見ていた。

(さすがは白馬のオッサン。普段の天然系にどっしりと腰を据えたような、長者の風格を漂わせとるな。)

初音は警視総監の立ち振る舞いに感心していた。

「では、そろそろ私はこれにて……。」

と言うやキッドは、懐から怪しげな玉を出して、地面に叩き付けた。
すると、

「わわっ、け、煙が!?」
「あっ、キ、キッドが!?」

キッドはいつの間にか、煙に隠れてその場から姿を消していた。

「おのれ、キッドめ!!」
「大至急全館を封鎖しろ!!決して奴をここから出すな!!」

右往左往しながらも首脳陣達はキッド捕縛の為に次々と指令を出す。

「やれやれ、アイツにはホンマに困ったもんやなあ。」
「おや、もう行くのかね?」
「ああ、このままヤツに大きな顔されたら、ウチの顔が立たへんからなあ。」
「おお、そうかね。では、気をつけて行きたまえ。」
「サンキュー、白馬のオッサン。」

そう言うや初音は、他の首脳陣が右往左往している会議室から一目散に駆け出していった。

「ふう……。」

一息ついた白馬警視総監は、改めて初音の履歴書に目を通し、誰にも聞こえないような声で呟いた。

「ハツネ・ハットリ・レムーティス、パララケルス王国の第一王女……、あの南海の強国の姫がこの警視庁にどんな旋風を巻き起こすのかのう……。」



  ☆☆☆



その頃、捜査二課では……。



「それにしても、ここ最近はキッドからの予告をあまり聞かないな、中森。」
「そうですね、茶木警視。」

茶木神太郎警視と中森銀三警部達が、書類に目を通しながら話し合っていた。
その時、

「もしかしたら、キッドの身に何かあったのでしょうか、警部。」

との部下の問いに対し、

「そんな事がある訳無かろう!!いや、絶対にあってたまるか!!」

思わず声を荒げる中森警部。

「ひえーーっ、す、すいません、警部!!」
「こら、落ち着かぬか、中森。」

たしなめる茶木警視。
そこへ、

プルルルルル……。

「おや、私に何か用かな。」

自分のデスクの受話器を取る茶木警視。

「はい、茶木ですが。」
『茶木君!』
「お、小田切部長!?」
「!?」

通話の只ならぬ気配に目を向ける中森警部達。

『キッドが……。』
「キッド!?キッドがどうなさったのです!?」
「キッド!?」

茶木警視の口から出てきた宿敵の名前を聞き、中森警部は表情を険しくした。

『怪盗キッドが諸星副総監に化けて、警視庁に潜入したのだ!!』
「な゛っ!?キッドがこの警視庁内に!?」
「何い!?おのれ、キッドめ!!」

中森警部はこれを聞くや、一目散に捜査二課から駆け出していった。

「あっ、警部!!」

部下も慌てて、中森警部の後に続いた。

「はい、はい……解りました。」

受話器を置いた茶木警視は、

「中森、今この館内にキッドが潜入して……。」

と言った所で部内を見ると、いつの間にか捜査二課が自分を除いて空っぽになっているのに気付き、唖然としていた。



  ☆☆☆



「あちらを固めろ!!」
「いいか、絶対に逃がすな!!」


「おや、何か庁内が騒がしいですね。」
「一体何があったんだろうか?」

警視庁に出張に来ていた群馬県警の山村ミサオ警部と、彼の先輩で同じく出張に来ていた静岡県警の横溝参悟警部は、庁内で多数の警察官が駆け回っているのに気付いた。

「あの様子だと、何かとんでもねえ事が起こったみてえだな。」

警視庁に犯人を引き渡して、偶然に兄の参悟警部に出会った神奈川県警の横溝重悟警部が只ならぬ気配を感じる。

「まさかテロリストが侵入したとか!?」
「そこまでは分からんが、俺達も気を付けとかねえとな。」

同じく、警視庁に出張に出向いていた長野県警の上原由衣刑事や大和敢助警部も警戒する。

そこへ、

「あっ、山村警部!!」

高木刑事が声をかけてきた。

「高木刑事、この騒ぎは一体何なんですか?」
「見た所、ただの大騒ぎじゃなさそうだな。」
「それなんですが、あの怪盗キッドがこの警視庁内に潜伏してたんですよ。それも諸星副総監に変装して。」
「えーーーっっ!!?」
「「か、怪盗キッド!?」」
「「な、何だそりゃ!?」」

一様に驚く山村警部達。

「全く、こうも易々と警視庁に潜入されるなんて、ここの奴等は弛んでるにも程があるぞ!!」
「何を言うんだ、重悟!!相手がキッドじゃ、例え我々でもどうしようも無いぞ。」
「でもなあ……。」
「ま、まあ落ち着いて下さい……。」
「そ、そうですよ……。」

宥める高木刑事と山村警部。
その時、

「おい、そこの!!」

重悟警部が近くを通りかかった警官を呼び止めた。

「はっ、何か?」
「キッドの事で何か情報は入ってないか?」
「いえ、それについては何も。本官は今、警視庁の入り口を固める為に向かっている所でして……。」
「おお、そうか。それは済まなかったな。兄貴、山村、それに大和警部や上原刑事、俺達も協力するぞ。これ以上ヤツをのさばらせてたまるか!!」
「そうだな。まあ課は違うが、警視庁の中に入れたとなれば警察の名折れ、ここはヤツを踏んじばるしかないだろう!」
「これはどうもすみません、横溝警部に大和警部。」

協力に感謝する高木刑事。

「では、本官はこれにて……。」

警官はその場を後にした。





(ケッケッケ……。今頃そんな事したって無駄だっつーの!!)

密かにほくそえむ警官――怪盗キッドこと黒羽快斗は、堂々と警視庁を後にしようと玄関に向かっていた。
その時、

ズドーーーーーーン!!!

「おわあっっっ!!?」

キッドは、自分の足下に打ち込まれた銃撃に気付いて、思わず立ち止まった。

「どこへ行くんや、怪盗キッド?逃げようとしても無駄やで!!」
(んげっっ、は、初音さん!!?)

警官姿のキッドは、自分の目の前で、両手で銃を構えている初音の姿を認めて、大いに驚く。



「なっ、何なの、今の銃声は!?」
「さっ、佐藤さん、あれは!!?」
「は、初音さん!?」

佐藤刑事と高木刑事は、つい先ほど自分達が案内してきた初音が、警察官に両手で銃を向けているのを見て、驚愕の表情を見せた。



「さあ、キッド。つまらん芝居はやめて、とっとと正体をみせたらどうや?」

余裕の表情でキッドを挑発する初音。

「ふっ、さすがはマジックギルドナンバー1のハンターだけの事はありますね。」
「ほう、さっきの面談で諸星副総監に化けてた際にウチの履歴書を見ていたようやな。」
「ええ。それにあなたがまさかあの王国の姫……。」

と言いかけた時、

ドガッッ!!

「ぐはっっ……!!」
「それを言うなや、タコが……。」

キッドの言葉を聞くや初音は、今までの笑みから表情を一変、夜叉のような顔つきでシャイニングウィザードをキッドの顔面に強烈に叩き込んだ。
その衝撃でキッドは、思いっきり床に叩きつけられるかのように倒れ伏した。

「す、凄い……。」
「な、何なの、あの攻撃力は……!?」

高木刑事と佐藤刑事は、初音の凄まじさに息を呑んだ。



カチッ!

「チェックメイトやな、キッド。」
「くっ……。」

初音は倒れ伏しているキッドの頭にピースメーカーを突きつけながら、彼にのしかかって左手首に手錠をかけた。



「なっ、何と!?」
「あのキッドを捕まえるとは!?」

駆けつけてきた目暮警部や白鳥警部も、初音の凄さに驚きの表情を隠せないでいる。
それは他の警官達も同様で、その迫力に圧されて初音達の所に近づく者はおらず、ただ遠巻きに見守るだけだった。
更に、警視庁記者クラブに詰めていたカメラマン達も、その場の雰囲気に興奮しながらしきりにフラッシュをたいた。

「ねえ、美和子!あの子が服部本部長の姪御さんなの!?」

初音の凄さに興奮している由美は、隣の美和子に尋ねる。

「ええ、でもまさかあの子があんな凄い子だったなんて……。」

佐藤刑事も感心しきりだった。



「いやいや、驚きましたねえ、あの怪盗キッドをいとも容易く拘束するなんて……。」
「しかも我々よりも年下の女性が……。」
「一体何者なんだ、あの女は……?」
「ほう。彼女が、あの服部平次君の従姉か……なるほど……。」
「まあ、血縁関係があるからって能力も同程度とは限らないけどね。」
「いや、上原。彼女は平次君をも上回る能力を持ってるかもしれんぞ。」

山村警部達も、キッドを捕まえていると言う、今までの経過からはとても信じられない光景を目の当たりにして、ただただ唖然とするばかりだった。



その頃。
新宿にいた平次は、突然くしゃみをしていた。



その時、

「こらあ、そこの女ぁ!!」
「なっ、中森警部!?」

中森警部が血相を変えて、キッドを拘束している初音に対して叫んだ。

「ん、ウチの事か?」
「そうだ!それは一体何だ!!?」
「見ての通り、キッドを捕まえている処やで。」
「それは解っている!ワシ等がいくら手を尽くしても捕まえられなかった怪盗キッドをこうも容易く捕まえるなんて、お前は一体何者なんだ!?」
「あ、あの、中森警部……。」
「ん、何だ、高木!?」
「あの人は大阪府警の服部本部長の姪御さんでして……。」
「なっ、何だって!?でもその彼女が、何故今キッドを捕まえているのだ!?まさか彼女は警官なのか!?」

その時、

「中森警部、口の利き方には気をつけた方が良いですよ。」

初音に拘束されながらも、キッドが中森警部をたしなめた。

「なっ、何だと!?」
「どう言う事なの!?」
「仮にもこの方はあなた達よりもずっと偉い地位にある方なんですから。そうですよね、警視庁特殊能力捜査部部長・服部初音警視長殿。」
「え゛っ!?」
「な゛っ!?」
「け、警視長!?」
「か、彼女が!?」

驚愕の視線が初音に集中する。

「そ、それホントなの、貴女!?」
「ああ、その通りやで、ホレ。」

佐藤刑事の問いに対し、キッドを押さえつけている初音は、彼女に警察手帳を投げつけた。
それを受け取って佐藤刑事が中を改めると

「なっ……ホ、ホントだわ……!」
「こ、この人が……。」
「そ、そんなまさか……。」

キッドの言う事が真実だと知り、一同は凍りついたようになった。
その時、

「さて、私はこれから大事な仕事の下準備に取り掛からなければならないので、ここで失礼させて頂きますよ。」

初音に拘束されているキッドが言い出した。

「おっと。この状況でどうやってウチから逃げ出そうっちゅーんや?」
「ふふふ。私の辞書には、不可能の文字はありません。」
「何やて!?ナポレオンの真似なんかすなや、気色悪い!」
「いや、真似ではありませんよ。何しろ私は辞書を持っていないので。」

キッドが、思いっ切り人を食ったセリフを吐いた後、キッドの全身から怪しげな煙が噴き出してきた。

「なっ!?」

初音は、キッドの頭に突きつけていたピースメーカーを持つ右手で、反射的に口をブロックした。
が、キッドから吹き出ている煙は、瞬く間に初音は勿論の事、高木刑事や中森警部達をも包み隠し、ついには警視庁本庁舎のロビー全体を覆ってしまった。

「ゴホッ、ゴホッ……!な、何やこれ……。」

堪らずに立ち上がる初音だが、ふとキッドにかけていた手錠の感触が軽くなっているのに気付き、ふと手錠を引き上げた。
すると、

「ハハハ、やりおったな、キッド……。」

初音は、手錠をかけていたキッドの腕―――義腕をみて、してやられたような呆れた表情になった。
その時、

「初音さん!」
「あなた結構凄いじゃない!!」
「さすがは服部君の従姉妹ね!!」

高木刑事達が初音を賞賛しながら駆け寄ってきた。

「いやいや、別にそれほどでも……。」

警視庁記者クラブの番記者達も、更に初音を撮りまくる。
そこへ、

「服部警視長。」

中森警部が初音に声をかけてきた。

「おお、中森のオッサンか。」
「オ、オッサンって……。ま、まあ、ワシの事を知っていて下さるとは、光栄ですな。」

どこかぎこちない中森警部。

「所でウチに何か用か?」
「服部警視長、あなたがキッドをあそこまで追いつめたのは、本当に賞賛に値します。ですが、少し詰めが甘すぎて逃げられてしまいましたな。」
「な、中森警部……!」
「そ、それは……。」

これを聞いた高木刑事や目暮警部達は、思わず血の気が引いてしまう。

「中森!仮にも警視長の立場にある方に対してそのような事を……!!」

茶木警視もたしなめるが、

「課長!あの警視総監の息子や工藤新一も、最後の詰めが甘くて、キッドに逃げられたんですぞ!」

と譲らず。

「いやいや、それは悪かったなあ。けど、結局はキッドのヤツがウチよりも一枚も二枚も上手だったっちゅーこっちゃ。」
「まあ、それは確かにありますが、でも今後はキッドの事には首を突っ込んで欲しくないものですな。第一管轄が違うようですし。」
「そらウチもわかってるがな。まあ、今日はたまたまヤツがウチの就職面談を妨害してはったんで……。」

初音が言った時、

「あ、あの、初音さん。その腕に付いてるのは……。」

高木刑事が手錠に掛かったままの義手が持っている手紙のような物を指し示した。

「んー、何やこれ?」

初音はその手紙を義手から取り、開封して中身を読んだ。
そこには、



明晩午前0時

横浜みなとみらいの横浜美術館にて

展示されているパララケルス王国の秘宝

ウィングトパーズを頂きに参ります。

怪盗キッド



と書き記されていた。

「こ、これは予告状!?」
「お、おのれキッドめえ!!」

傍らで手紙を見ていた高木刑事や中森警部達が大騒ぎになる。
それを尻目に、

「ほな、ウチはこれで。」

初音はその場から歩き出した。

「は、初音さん、もうお帰りに?」
「ああ、ここから先はウチにはカンケーない事やし、それにちとやらなアカン事があるよって。」
「あ、あの、これ!」
「おっと、済まんな。」

佐藤刑事から警察手帳を受け取る初音。

「ほな、おおきに。」

彼女はそのまま、混乱が続く警視庁を後にした。

「……しかし凄い人ですよね、あの初音さん。」
「そうね。あのキッドをあそこまで追いつめるなんて、本当に只者じゃないわね。」

高木・佐藤両刑事も、改めて初音の凄さに関心しきりだった。
そこへ。

「あれが、ブラウンフォックスか……。」
「は?黒田管理官?狐がどうかしたんでしょうか?」
「いや……ふふふ、面白くなりそうだな……。」

黒田管理官は謎の呟きを残し、高木・佐藤両刑事は首をかしげた。



  ☆☆☆



「ふう、やれやれ……。」

警視庁からどうにか逃げ出した快斗は、皇居堀沿いをTR有楽町駅へと歩いていた。

「それにしても初音さん、あんなマジで攻めてくるなんて、もしシャドウエンパイアの影が無かったら、俺超マジでヤバかったな……。」

快斗は、初音のシャイニングウィザードを喰らった左頬を摩りながら、自分の運の良さを改めて感心していた。

そこへ、

「快斗ー。」

青子が快斗の元へと駆け寄ってきた。

「あれっ、青子じゃねーか。オメー帰ったんじゃなかったのか?」
「あの後ね、蘭ちゃん達とまた新宿へ買い物に行って……。」
「そしたら、オメーが警視庁で暴れてるって話を、アルタのオーロラビジョンで知って、こっちに来たって訳さ。」

青子の後ろから、コナンが顔を出した。

「ハハ、そう言う事ね……。」

快斗がよく見ると、彼等の他に、蘭や平次、和葉、園子もいた。

「あれ、快斗どうしたの、そのほっぺ?」
「いやあ、警視庁に予告状を出した時に、初音さんに思いっきり蹴られちまってさ、それでこの始末さ。」
「えっ、快斗、痛くない!?」
「うぎっ!?い、痛てえーーーーっっ!!」

青子に傷を触れられて、堪らず飛び上がる快斗。

「ハハハハ、アイツも運の悪い奴やなあ。よりによって初姉に喧嘩うるなんて。」
「確かにそーかもしんねーな。」
「あ、そう言えば、風吹や舞ちゃんとすみれちゃんはどーしたんだ?」
「ああ、御剣達なら、ホレ、あそこに。」
「うげっっ!!?」

快斗が見ると、彼女達は怒りのオーラを噴き出しながら快斗を睨みつけていた。

「あ、あのー、どうしましたか……?」

快斗が恐る恐る尋ねてみると、

「ちょっとアンタ!よりによって横浜美術館に盗みに行くなんて、一体何考えてんのよ!?」
「明日の土曜の夜は、あそこでダーリンが『初恋物語』の最終ロケをするんやで!!もし中止になったら、一体どーすんねや!?」
「空気が読めないにも程があるでござるぞ、快斗殿!!」

怒れる彼女達は、手に闘気を纏わせながら、快斗に怒りをぶつける。

「えっ、で、でも俺、そんな事全然知らな……。」
「「問答無用!!」」
「悪いけど、大人しくしてもらうでござる!!」
「ひえーーーーっ、た、助けてーーーーーっっっ!!」

命の危険を感じた快斗は、血相を変えてその場から逃げ出した。

「「待てーーーーっっっ!!」」
「逃がさんでござる!!」

後を追う舞、菫、風吹。


「ハハハハ、アイツモロに地雷踏んでやんの。」
「ホンマやなあ。」
「それにしても情けないわねえ。彼ホントに怪盗キッド様なの?」
「青子もそう思う。」

呆れ気味の園子と青子。

「まあ、ええのんちゃう、別に?けど明日は、色々と大変な事になりそうやな、平次。」
「ああ。何たって、明日キッドが狙うビッグジュエルのウィングトパーズの中に、もしかしたらパンドラが封じられてるかもしれへんかんな。それに明日は満月、パンドラの照合にはぴったりの夜やし。」
「だからまた、例の奴等が襲ってくるかもしれないわね、新一。」
「ホント、明夜も気が抜けそうに無いぜ……。」

コナン達は、真剣な目つきで、天の月を眺めていた。



to be countinued…….




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