C-K Generations Alpha to Ωmega



By 東海帝皇&ドミ



第一部 勇者誕生編



Vol.5 風雲横浜みなとみらい



怪盗キッドの犯行予告日の当日、1月21日土曜の朝の毛利家……。



「ぐぐぐ……。おのれキッドめえーーっ!!」

怒りで体を震わせながら朝刊を読む小五郎。

「ちょっとお父さん!朝っぱらからエキサイトしてないで、まずは落ち着いてご飯食べなさいよ!!」
「バーロォ!!これが落ち着いてられるかあ!!よりによって、ヨーコちゃんが出演する『初恋物語』のロケ地にある宝石を盗みに来ようとするたあ、キッドの野郎、随分いい度胸してんじゃねーかあーっ!!」
(ハハハ……、相変わらずこのオッサンは……。)

蘭の注意もものともせずに、エキサイトする小五郎に、ジト目で呆れるコナン。

バン!

「よーし、決めたぞ!!」
「な、何だあ!?」
「ど、どうしたのよ、お父さん!?」

急に机を叩いて立ち上がった小五郎に驚くコナンと蘭。

「俺も今夜、横浜美術館に行くぞ!そして、キッドの魔の手からヨーコちゃんを守るんだ!!」

力強く宣言する小五郎。

「で、でも、キッドが狙ってるのは沖野ヨーコさん本人じゃなくて、ウィングトパーズなんだけど……。」
「おんなじ事だ!ヨーコちゃんを守り、尚かつ宝石も守る!そうすればヨーコちゃんも……、デヘ、デヘヘヘヘ……。」
(あーあ、何ニヤけてんだか……。)
(全く、お父さんったらあ……。)

コナンと蘭は、明らかに付き合い切れないような顔で小五郎を見ていた。

「あ、そう言えばよ、昨日キッドを追いつめたこの服部初音警視長、あの服部平次の従姉妹なんだってな。」
「うん。平次兄ちゃんや和葉姉ちゃんも小さい頃に結構可愛がってもらったんだって。」
「ある意味、今の自分達があるのは初音さんのお陰だって和葉ちゃんも言ってたもの。」
「ほう……。まあ、アレだけの桁外れな能力を持つのは俺も認めるが、キッドを後一歩の所で逃がすなんざ、まだまだひよっこと言っても良いだろうな。あっはっはっは……。」
(おいおい、知らんぞ、オッサン……。)

高笑いする小五郎に、更にジト目で呆れるコナンであった。



  ☆☆☆



同じ頃、阿笠博士の研究所では……。



「ふわあ〜〜〜〜〜っ……。」
「あ〜〜〜、よう寝たあ……。」

和葉と菫は、大あくびをしながら、二階の客間からリビングへと降りてきた。

「お早う、和葉さん、菫さん。」
「やあ、お早う。夕べは良く眠れたかのう。」

リビングでは既に、哀と阿笠博士が朝食の用意をしていた。

「はい、お陰さんで。」
「泊まるトコが無いウチ等の為に部屋貸してくれはって、ホンマありがたいこってすわ。」

博士に感謝する二人。
そこへ、

「全く遅いで、二人共。一体何時やと思うてんねや。」

先にリビングに来て新聞を読んでいた平次が口を尖らせる。

「しゃーないやんか。昨日はメッチャとんでもない事がおうて、へろへろやったんやから。」
「そーそー。寝不足は美容の大敵やしねえ。」
「かーっ、何が美容の大敵や。お前らまだ寝ぼけとるみたいやな。」

呆れ気味に平次が答えた時、

「なあ、へーたん。遺言なら今の内に聞いとくで。」
「アタシが立会人になったるわ。」

にこやかに話しながら平次の首筋に村雨を軽く載せる菫。
和葉も同様ににこやかに話す。。
が、二人の目が笑っていなかったのは言うまでもない。

「ハ、ハハハハ……じょ、冗談や。」

脂汗を垂らしながら引きつった笑みで返す平次。
この様子を見ていた哀は、

「全く、服部君たら、こんな事だから……。」

と言いかけたが、途中で止めた。

「何や、灰原のねーちゃん。何が言いたいんか、最後まできっちり言わんかい!!」
「遠慮しとくわ。誰かさんみたいに墓穴掘りたくないし。」
「なっ……それってオレの事かい!?」

エキサイトする平次。
そこへ、

「うん、賢い選択やな。惚れた男の悪口を自分では言うても、他人に言われるんは絶対嫌さかいなあ、和葉ちゃん。」

菫が振る。

「なななな、何でアタシにんな事振るんや、スミレちゃん!?」
「ん、何か心当たりでもあるん?」
「う゛……。」

菫に突っ込まれ、顔を真っ赤にしながら言葉に詰まる和葉。
そのやり取りを見ていた哀は、フッと笑う。

「一体何の話何や?」
「服部君も、新一と一緒で、推理以外の事には疎いようだのう。」

さり気なくツッ込む阿笠博士。

「?」

が、当の平次には何の事かわからなかったようだ。

「さてさて、与太話はここまでにして、とりあえず朝ごはんにしましょ。」

哀が平次達に呼びかけた。

「はーい。」

これに応じて平次達は朝食をご馳走になった。



  ☆☆☆



それから少し経って、警視庁捜査一課では……。



「今日は怪盗キッドの予告日ですね、高木さん。」
「そうだな。」
「何せ昨日の今日だから、二課もかなりエキサイトしてたわよ。」
「そりゃそうでしょ。特に諸星副総監なんか、『必ずキッドを捕まえろ!!』って厳命してましたからね。」
「まあ、それも無理ないわね。なんたって、あんだけの屈辱を噛まされた日にゃ。」

一課の面々は、たまたま来ていた交通部の由美も交えて、キッドの犯行予告の話題に花を咲かせていた。

「それにしても、あの服部警視長、今夜の捕り物には参加しないんですかね?」
「アレだけの戦闘能力を備えているんだから、真っ先に参加要請がくると思うけど。」
「それなんだが、その件について諸星副総監が二課に強く要請したんだが、中森君が断ったそうだ。部外者には首を突っ込んでもらいたくないと。」

説明する目暮警部。

「そりゃそうでしょう。自分が成し得なかった事を、赴任したばかりの『新人』に目の前でやられそうになって、面目丸潰れになったんですから。」
「だから今度ばかりは、二課も面目をかけてキッドの捕縛に全力を尽くすでしょうし。」
「でも、以前のインペリアルイースターエッグの時も同じ様な事言って、結局は取り逃がしたでしょ。そー言うのって、あんまりアテにならないのよねえ。」
「由美さん、それを言っては……。」
「いーのいーの。どーせこの一課に二課関係者が応援要請に来る訳が無いんだから。」

軽口を叩く由美。
その時、

「ほう、アテにならないとは、どーゆー事かね?」
「そりゃ決まってるでしょ?あんな大言壮語吐いて物事が解決するんなら、誰も苦労はしない……え?」

更に続ける由美だが、途中で高木刑事達が真っ青になって震えながら指を指しているのに気付き、ふと振り向く。
すると、

「え゛……え゛ーーーーーっっ!!?」

何と由美の後ろに、こめかみに怒筋を幾つも立てながらピクつく中森警部の姿があった。

「あ、いや、わ、私は別に……その……あの……。」

血相を変えて慌てふためく由美だが、

「いやあ、君の言った事は紛れも無い事実だから、ワシも反論は出来んのだが、時と場合を考えてはどうかね……?」
「ご……ごめんなさぁーーーーい!!」

中森警部の強烈な怒気に当てられて、慌てふためきながら一課から逃げ出して行った。

「まあまあ、落ち着きたまえ、中森君。」

たしなめる目暮警部。

「い、いや、すまんな、目暮。ワシもちょっと大人気なかったが、さすがにああも言われるとな……。」
「まあ、過去の事を今更振り返ってもしょうがないだろう。所でこちらに何か用でも?」
「おお、そうだった。実はな、今夜の横浜美術館の警備にこっちから一人応援をよこしてほしいんだが。」
「応援?」
「こっちの二課や、神奈川県警の二課の方も、収賄事件等に出向いているのが多くてな。それで手の空いてるのをちょっと。」
「それなら高木はどうですか?」
「こいつ、ちょうど、今日の午後は非番ですし。」
「えっ!?ちょ、ちょっと!?」

強行三班の刑事達に推挙されて、慌てふためく高木刑事。

「あ、あの、僕今日の午後はちょっと外せない用がありまして……。」
「お?お前、昨日本庁がキッドにアレだけの事をされて、警察官として義憤を感じとらんのか?」
「う゛……それは……。」
「まあ、仕方ないでしょ、高木君。残念だけど、午後の付き合いは又の機会にしましょ。」
「……はい、トホホホ……。」

佐藤刑事に諭されて、がっくりと肩を落とす高木刑事。
これを見て、かすかにしてやったりの笑みを浮かべる強行三班の刑事達。

「やれやれ、気の毒に……。」

かつては強行三班と一緒に高木刑事を苛めていた白鳥警部だが、小林澄子教諭と交際するようになった今は、高木刑事に同情的になっていた。
かと言って、積極的に助けてくれる訳でもなかった。

「では、早速行くとするか、高木刑事。」
「はい……。」

生気が急降下した高木刑事は、うな垂れながら、中森警部に連れられて一課を後にした。

「……高木さん何か、まるで『ドナドナ』の牛ですね。」
「まあ、本来公事を優先させるのが我々警察官の使命だからね。」
(あなたが言いますか、あなたが……。)

まるで関係ないかのように言う白鳥警部に対してジト目で呆れる千葉刑事。

そこへ、

「やー、お早うさん。」

高木刑事達と入れ替わるように、初音が捜査一課に姿を現した。

「こ、これは服部警視長!」
「お、お早うございます!!」

急に身を硬くする目暮警部達。

「あー、ちょっと待ちいな。そんなに硬うなったら、ウチの方が却って戸惑ってまうわ。」
「あ、そ、そうですね。」
「これは失礼しました。」

初音の言う事を受けて、再びリラックスする一同。

「所で今日はこちらに何か?」
「ああ、そうや。実はアンタと高木刑事の件で黒田のオッサンに用があるんやけど。」
「えっ、私に?」
「オ、オッサンって……。あ、こほん、で、何か御用ですかな?」
「ああ、実はちょっと……。」

そう言いながら初音は、黒田管理官のデスクに向かう。

「これなんやけどな。」
「ん、これは?」

初音がジャケットのポケットから取り出した2通の封筒を手に取る黒田管理官。

「私に……ですか?」
「そや。一応捜査一課の管理官を差し置いて渡すんは僭越やから、ちょい見てくれへんか?」
「わかりました。」

黒田管理官は、封筒より書類を取り出し、目を通した。

「……こ、これは……!?」

書類の内容に驚いた黒田管理官は、その隻眼で思わず初音を見た。
軽く頷く初音。

「佐藤刑事!」
「は、はい……。」

急に黒田管理官に呼ばれた佐藤刑事は、デスクの方へと向かう。

「私に何か御用でしょうか、管理官。」
「うむ、実はこれを見て欲しいのだが。」

黒田管理官は、初音より受け取った2通の書類の一つを佐藤刑事に渡した。

「これですか?」

佐藤刑事は受け取った書類に目を通した。
その直後、

「えっっ!?こ、これって一体……?」

書類を見て目を丸くした佐藤刑事は、何かとんでもない物を見たかのような顔つきで初音の方を向いた。
そこへ白鳥警部が、

「どうかしましたか、佐藤さん?」

佐藤刑事の様子がおかしいのに気付き、彼女の所に来た。

「し、白鳥君、ちょっとこれを見て!!」
「これ、ですか……?」

佐藤刑事より受け取った書類に目を通す白鳥警部。

「な゛……こ、これは……!?」

白鳥警部も同じく、目を丸くして初音を見る。

「そ。それに書いてある通り、本日付でウチの所の特殊能力捜査部も兼務してもらうで、佐藤警部補、いや……。」

そう言いながら初音は、佐藤刑事に新しい手帳を手渡した。
その直後、捜査一課から一斉に驚きの声が上がった。



  ☆☆☆



正午、TR東日本米花駅にて……。



「どうやら私達が一番乗りのようね、新一。」
「みてーだな。」

米花駅の駅前広場でたたずむコナンと蘭。

「まあ、待ち合わせよりちょっと早いし、その内みんなも来るだろーから、待ってようぜ」

と、ほどなく声がした。

「お二人さん、お待たせ〜。」
「こんにちは〜。」
「園子、舞ちゃん。」
「ねえねえあんた達、高校生の乙女と小学校に入ったばかりのガキンチョで、ラブラブ空間を作ってるのって、超拙いわよ。」
「な、何言ってんだよ、バーロ!」
「そ、そうよ、園子ったら!」
「あらあら。大丈夫よ、工藤君、蘭ちゃん。知っている人以外には、ただの仲の良い姉弟にしか見えないって。」
「園子!からかったのね!」
「にひひひひ。」

(姉弟にしか見えねえってのも、何だかなー。ああ、早く元の体に戻りてえ……。)

苦笑いしながら、内心で溜め息をつくコナンであった。

「お、俺らが最後か。」
「遅くなってごめんな。」
「あら、時間通りよ。別に遅刻した訳じゃないわ。」
「こんちわ〜。」

「服部、和葉ちゃん。」
「哀ちゃん、菫ちゃん。」
「こんにちわ。」
「これで全員揃ったわね。」

全員揃ったところで、切符を買って改札へと向かった。

「それにしても、せっかくの王子様のロケなのに、黒羽君、予告なんか出して!一体何を考えているのかしら!?」
「何を考えてるって……パンドラの事だろ?」
「そ、それ位、わかってるわよ!だけど……。」
「せやせや、ダーリンの邪魔するなんて、許さへんでえ!」
「恋する乙女としては、好きな相手の邪魔をされるのが1番嫌なものよね、蘭?」
「ななな、何でそこで私に話を振るのよ!大体それを言うなら園子だって……!」
「……不毛な会話は、それ位にしない?」
「哀ちゃんは見た目通りの歳やないって頭ではもう分かってんのやけど、そういう風に言われてまうと、何やドッキリするなあ。」

会話をしながら、電車に乗り込んだ。

「はあ。お父さんったら、ヨーコさんのロケを邪魔されるからってエキサイトしちゃって。今日は中森警部の応援をするって、朝早くから張り切って出かけちゃったのよね。」
「はあ。舞ちゃんや菫ちゃんと同類なんか。」
「なっ……!同類なんかじゃないわよっ!」
「ウチの純粋な恋心を、あんなスケベおやじの浮気心と一緒にせんといて!」
「あの……スケベおやじって……仮にも、私のお父さんなんだけど……。」
「あっ、こ、これはすまんかったなあ。堪忍や。」
「ご、ごめんなさい……。」
「でもまあ、お父さんも、そういう風に言われたって仕方がないのよね!ヨーコちゃんヨーコちゃんってイイ歳して鼻の下伸ばして!ったくもう、だからお母さんが呆れちゃって、いつまでも帰って来ないのよ!」

そう言った蘭の拳が握られてフルフル震えているのを見て、電車の備品を壊してくれるなと内心冷や冷やしているコナンであった。

「それにしても、もしそれがパンドラだったら、黒羽君を応援したい気もするけど、盗まれる方にしてみれば、たまったもんじゃないわよね。何だか、複雑。」
「確か、今回キッドが予告状を出した、ウィングトパーズは、ミカエルグループがパララケルス王国から預かって展示する秘宝だし。何かあったら、国際問題にもなりそうだよな。」
「そうそう、それなんだけどね、今回の件ではウチの次郎吉叔父さんもえらく張り切ってるのよ。」
「えっ、何で園子の叔父さんが?」
「ほら、今日の朝刊の一面、初音さんがキッドを取り押さえた場面だったじゃない?叔父さんそれを見て、『あのような小娘がワシの一面を……!』ってカンカンに怒っちゃって。」
「ハハハハ……相変わらずあのじーさんは……。」

呆れるコナン。

「それで叔父さん、ウィングトパーズ展示会を主催しているミカエルグループに掛け合って、警護に参加してったのよ。」
「まあ。でもミカエルグループも、よく次郎吉さんの申し出を受けたわね。」
「そりゃミカエルグループは、次郎吉叔父さんからグループ創立に際して、多大な恩を受けてるからね。」
「確かミカエルグループって、今は亡きあの籏本豪三の弟で、現会長の虎姫功二さんが、籏本財閥から追放された後で創立したんだよな。」
「そーそー。叔父さん、虎姫会長の大親友だったから、会長が追放された時は烈火の如く怒って、ミカエルグループ創立の際に、うちのグループに援助を強く働きかけたのよ。」
「成る程。その縁で、名乗り出たって訳か。」
「まあでも、叔父さんの場合は、キッドを捕まえて新聞の一面を飾りたいって野望も大いにあると思うけどねえ。」
「ははは……一体どうなる事やら。」

半目になって力なく笑うコナン。
その時、

「あれ、コナン君じゃないですか。」

と挨拶した者が。

「んっ?あっ、て、テメーは!?」
「え、瑛祐君!」
「あっ、蘭さん。それに園子さんや舞さんも。」

何と偶然にも電車の中で出くわしたのは、蘭と園子と舞にはクラスメートに当たる本堂瑛祐であった。
ちなみに工藤新一ともクラスメートになる筈だが、コナンになった後で転校して来た瑛祐とはすれ違いになってしまい、一緒のクラスで過ごした事は、まだない。

「なあ、平次。あの眼鏡の子、一体誰なんやろ?」
「アイツは本堂瑛祐。蘭姉ちゃん達のクラスメイトや。」
「へー、そうなんか。」
「でも、何でへーたんがあの子の事知っとるん?」
「アイツは例の組織の事件の際に色々と裏で活動しとってな。その縁で知り合うたんや。」
「ほー、なるほど。」
「でもあの子、何かどっかの誰かに似とるような気がするんやけどなあ。」
「それって、日売テレビの水無怜奈アナなんとちゃう?」
「あっ、そうそう。眼鏡を取ったら、正にそんな感じで。」
「まあ、そら当然やな。何たってアイツは、水無怜奈の弟やさかいに。」
「えーーーーっ!!?」

豆鉄砲を食らったような顔で驚く和葉。

「いやあ、偶然とは怖いもんやなあ。」
「瑛祐君が、まさかあの戦いでのコナン君達の仲間だったとは、ちっとも知らなかったわ。だって、彼って超ドジっ子だし。」

感心する和葉と園子。

「所で園子さん達、これから何処に行くんですか?」
「横浜みなとみらいの横浜美術館前での『初恋物語』の最終ロケを見に行く所なの。」
「おや、奇遇ですねえ。実は僕もそうなんですよ。」
「なっ、何いーーーーーっっ!!?」
「「「えーーーーーっっ!!?」」」
「あのー、四人して何を驚いてるんですか?」
「い、いや、別に、ハハハハ……。」
「あ、そうだ!もし良かったら、僕も同行して良いですか?どうせ行き先は同じですし。」
「ハハハ……もう何が何だか。」

偶然の出会いに、苦笑いするしかないコナン。

そして、総勢9人となった一行は、快斗達との待ち合わせの場所である桜木町駅まで向かって行った。



  ☆☆☆



午後一時半、TR東日本桜木町駅にて……。



「あっ、蘭ちゃん!」
「こんにちわ、青子ちゃん。」
「待たせたな、黒羽。」

快斗と青子・風吹と共に、髪を二つ結びにした眼鏡の女の子がいるのに、コナン達は気付いた。

「青子ちゃん、こちらの方は?」
「あ、初めまして、桃井恵子といいます。黒羽君や青子達のクラスメートなの。」
「今日はどうしてここに?」
「決まってるじゃない!青子達が『初恋物語』の最終ロケに行くって言うから、私も一緒させて貰おうと思って!」

身を乗り出すようにして目を輝かせて言う恵子。
コナンがそっと快斗の裾を引っ張り、耳打ちする。

「なあ、黒羽。桃井さんって、オメーの正体もあの組織の事も、全く知らねえんだよな。」
「ああ。青子の親友だから、来るなとは言えなくて連れて来たが、言動には注意してくれ。」
「と言っても、俺一人が注意してもなあ……。」

と、突然、

「ねえねえ、君。江戸川コナン君じゃない!?」
「ええ?恵子姉ちゃん、どうして僕の事を!?」

コナンは恵子に覗き込まれるようにじっと見られて、アタフタした。

「新一君の切り替えの早さとか、あの演技力とか。堂に入ってるわよね。すっかり騙されてたわ。」
「でも、あの姿で中身が本当は高校生って、気付く方がおかしいと思うよ。」

園子達がこそこそと恵子に聞こえないように囁き交わした。

「だって君、怪盗キッドを撃退した小学生として、新聞の一面トップを飾った事、何度かあるでしょ!?だから、覚えてたんだ。」
「あ……それで……。」

「お、俺は別に撃退された訳じゃ……!」

恵子とコナンの会話を聞いて、快斗がエキサイトしかけているのを、青子と菫が横から

「どうどう、快斗。」
「落ち着きいな、快にゃん。」

と抑えていた。


「でもね、君。いい気になっちゃ駄目よ!怪盗キッド様はね、紳士なの!君が子供だから、本気で相手にせず、勝ちを譲ってくれたんだからね!」
「は、はあ?」
「だってえ、あの怪盗キッド様が、君のような探偵気取りのお子様に勝てる訳ないじゃない!」

「ほう、恵子、結構イイ事言うなあ〜。」
「そう言えば、恵子はキッドファンだったわ。正体がバ快斗だって知ったら、ガックリするかも。」
「ンニャロ……。」

「悪かったな、探偵気取りのお子様でよ。」
「新一、抑えて!彼女はコナン君の正体を知らないんだから!」

今度は、蘭がコナンを抑える番であった。

「そう、そうよね!怪盗キッド様が、こんなガキンチョに負ける訳ないわよね!」

園子がそう言って、恵子の手をガシッと握り締めた。

「分かってくれる?あなたもキッドファンなのね!」

そう言って、恵子が感極まったように園子の手を握り返した。

まだ昼下がりだと言うのに、二人のバックには夕陽が射している幻影が見え、皆、思わず目をこすった。
目をこすってもまだ二人のバックには夕陽が見えていたのだが、よく目を凝らして見るとそれは、旧東横高速鉄道線高架橋の壁に描かれていた絵のひとつだった。

「園子!いくら何でも、言って良い事と悪い事が!」

コナン@新一を馬鹿にされて、流石に怒り顔の蘭と、対照的に脱力しているコナン。

「ハハハ……あの二人、結構似た者同士らしいな……。(顔が似ると、親友まで似たような相手になるのか?まさかな……。)」

コナンは、青子の方をちらりと見やった。
二人を良く知る者が見間違う事はまずないが、やはり蘭と青子は似ているとコナンは思った。


「さて、そろそろロケ現場に向かうとしますか。」
「黒羽君。」
「快にゃん。」
「快斗殿。」
「ん、何だ?」
「王子様の邪魔は、許さないわよ!」
「ダーリンの邪魔は、させへんで!」
「主殿の邪魔は、阻止するでござるよ!」
「えっ、ちょ、ちょっと……。」

舞と菫と風吹が、快斗相手に凄んで見せ、彼はそれに命の危機を感じ、思わずひるんでしまう。

「え?風吹、主殿って?それに、黒羽君が何か、悪戯でもするわけ?」

恵子がそう言って首を傾げた。

「い、いや、そう言う訳じゃ……。」
「黒羽君、マジックで悪戯するのも、程々にね。ロケ現場で邪魔しちゃ駄目よ。」
「ハハハ……。」
「ねえ、ここで道草食っても、仕方ないんじゃない?早く行きましょうよ。」

哀に冷静な声で言われて、一同は我に返った。
そして、改めて移動しようとしたところに、声がかかった。


「おや、黒羽君。これは奇遇ですね。」
「こんにちわ、青子さんに恵子さん。」
「んっ、あっ、テ、テメーは!?」
「白馬君に紅子ちゃん。」

何と偶然にもその場に現れたのは、探と紅子の二人連れだったのである。

「あっ、あいつ白馬探やないか!!」
(なっ、何でこいつが!?)

その時、

「ん?」

探が二人に気づいた。

「おや、これは一瞥以来ですね、二人とも。」
「何でオマエがここにおるんや?」
「いえ、ちょっとこの、みなとみらいで用がありましてね。」
(美人同伴でか?)

心の中でツッ込むコナン。


「ねえ、青子ちゃん。白馬君の隣にいる、長い黒髪の女の人は誰なの?」
「すごい美人。大人っぽいし色気もあるし、年上かしら?」
「ああ、あの子はクラスメイトの小泉紅子ちゃんよ。」
「ええ!?じゃあ、私達とタメ!?信じられない!」
「その美女が、白馬君と二人でここに来たって事は、デート!?」
「違いますわ!私はただ……ロケ現場に行きたいのだけれど、一人で行くのはちょっと憚られて……。だから白馬君に頼んでエスコートして頂いたの。」
「ええ!?紅子ちゃん達も、『初恋物語』のロケ現場に!?」
「すごい偶然……。」
「ここまで偶然が続くと、出来過ぎって感じよね。」

探が少し苦笑いしてやり取りを聞いていた。
紅子の思惑はともかくも、もしかして探にとっては、デートの積りだったのかも知れないと、そこに居る皆が口には出さないまでもそう思っていた。

「成る程ねえ。あれ程の美人になると、一人では道も歩けないかもねえ。」
「そうね、確かに。」

園子が妙に感心したように頷きながら言って、蘭も相槌を打った。
その時、コナンが口を開き、とんでもない事を言ったのである。

「そうかな?僕には、蘭姉ちゃんの方が美人に見えるけどなあ。」

コナンの無遠慮な爆弾発言に、その場はピキッと固まった。

(こ、こ、こ、このガキャー!この私よりも、世界中の男を虜に出来る魅力を持つこの私よりも、彼女の方が美人ですって!?)

紅子は表面上、笑顔を保っているが、内心ではコナンに対し、あらゆる罵詈雑言を浴びせていた。
コナンが本当に見た目通りの子供ならまだともかく、その正体が自分達と同年代の男子という事を、紅子は知っているから、尚更に心穏やかでは居られない。

「こ、コナン君ったら……。」

蘭は照れて真っ赤になった。
普段コナンは、そういう事をストレートに言ってくれないから、尚更ドギマギしてしまったのである。

「君!紅子さんに失礼じゃないか!」

コナンの正体を知らないまでも、只者ではないと以前の邂逅から思っていた探が、苦言を呈した。

「ごめん。僕、子供だからよく分かんないや。」
<おいおい……。>

コナンが笑ってそう言って、その場にいるコナンの正体を知る者達は、呆れたジト目でコナンを見た。


「コナン殿。紅子殿をあまり怒らせない方が良いでござるよ。」
「あ、僕、紅子姉ちゃんに何か失礼な事言っちゃったかな?ごめんなさい。」

悪びれずにそう言ってのけたコナンに、風吹が屈んで耳打ちした。

「ここだけの話でござるが、彼女は魔女でござるよ。」
「ふん。やっぱりそうだったのか。」
「何と!?コナン殿、気付いておったのでござるか!?」
「いや。でも、さっきのやり取りを見て、何となくそうじゃねえかという気がしたんだ。俺が、蘭の方が美人だと言った時の反応からして、どうやら俺が見た目通りの子供じゃねえ事も、わかってるみてえだしな。」
「コナン殿……。拙者は今、改めてコナン殿を敵に回さなくて良かったと思うでござる。」
「それ、褒め言葉と取っておくよ。ま、でも、蘭の方が美人だって言ったのは、本音だぜ。」

にっと笑ったコナンの言葉に、背筋に冷や汗が流れるのを感じた風吹であった。
その時、

「あ、そうだ。良かったらみんなで、横浜美術館に行かない?ロケ現場の下見に。」

と恵子が提案してきた。

「あ、それええなあ。蘭ちゃん達もどや?」
「うん、いいわね。」
「じゃあ、これからみんなで美術館に行きましょ。」
「「「「「「「「「おーーーっ!!」」」」」」」」」

「ふう、やれやれ。まるで遠足だな。」
「吉田さんといる時と、全然ノリが変わらないわね。」
「まあ、いいか。」
「おう、白馬。オマエはどーすんねや。そこの姉ちゃんとデートか?」
「いえ、実は僕もこれから美術館に行く所でしてね。ちょうど良いので、同行しますよ。」
「あ、そうかい。」
「……。」

その中で紅子は一人、コナン達一行をじっと見回していた。



  ☆☆☆



午後二時、横浜みなとみらい地区・横浜美術館……。



「ほほう、これがウィングトパーズですか……。」
「さすがはパララケルスの秘宝と言われるだけの事はありますな……。」

中森警部と小五郎は、目の前で展示されている巨大な桃野薔薇色のトパーズ・ウィングトパーズの荘厳さに思わず息を呑む。

「そうでございましょう?それ故に、怪盗キッドが狙ってくるのも道理と言うものですわ。」

と解説する、小豆色のハイロングウェイブヘアのスタイル抜群な女性。

「まあ、それにしましても中森警部殿。」
「ん?」

小声でささやく小五郎。

「あの女性はなかなかの美人ではないですか。」
「なっ、何を言うか、毛利探偵!ミカエルグループの虎姫会長の孫娘さんの事をそのように……。」
「あら、どうかされましたか、お二方?」
「あっ、い、いえ、何も……。」
「べっ、別に大した事では、ハハハハハ……。」

笑って誤魔化す二人。

「では、ワタクシは一先ず失礼させて頂きますので、後の方はよろしくお願いしますわ。」
「ハッ、お任せ下さい!」

会釈しながら、小五郎は虎姫会長の孫娘を見送った。


その側では、

「ハア、管轄外の僕が何で……。」

無理やり応援に回された高木刑事がぼやいていた。

「ホントだったら今頃は、佐藤さんと、このみなとみらいでデートしてる筈なのに……。」

と、みなとみらいでの佐藤刑事とのデートを夢想する高木刑事。
その時、

「高木君、高木君……。」
「ああ、何か幻聴まで聞こえてきたかな……。」
「高木君ったら!」
「はっ、はい!?」

急にはっきりとした口調で自分を呼ぶ声に気づき、振り向くと、

「お仕事ご苦労様ね、高木君。」
「なっ、さ、佐藤さん!?」

何と、ここにはいない筈の佐藤刑事が声をかけてきていて、それに高木刑事は驚いてしまう。

「ど、どうしたんですか、佐藤さん!?何故あなたがここに!?」
「おや、佐藤刑事。」
「君、一体何しに来たんだね?」

小五郎と中森警部も彼女に気づき、尋ねた。

「あ、すみません、毛利さんに中森警部。実は私、服部警視長と共に、高木刑事に用があってここにきまして。」
「なっ、服部警視長だと!?」
「服部警視長って、あの服部平次の従姉妹の?」
「はい。」
「あの、初音さんが一体僕に何のようで?」
「いやあ、アンタに辞令を渡しに来たんや。」
「は、初音さん!」
「服部警視長!」

佐藤刑事に続いて現れた初音に驚く、高木刑事と中森警部。

「服部警視長!この件は我々二課が預かってるのですから、一々首を突っ込まんで下さい!」
「なっ、中森警部、警視長相手にそういう態度は……。」

青ざめる高木刑事。

「いやいや、そん位わかっとるから、そないにエキサイトしなさんなや。それにウチが用があんのは、あくまでもそこの渉になんやから。」
「あ、そ、そうでしたか……。いや、これは失礼しました……。」

恐縮する中森警部。
そこへ、

「あ、あのー。」
「ん?」
「貴女が服部警視長ですか?」
「ああ、そやけど……んっ、アンタもしかして、『眠りの小五郎』で名高い毛利探偵やろ?」
「おお、私の事をご存知でしたか。いやあ、これは光栄ですな。ハッハッハッ……。」

大笑いする小五郎。

「あ、そう言えば、貴女の昨日のご活躍、テレビや新聞で拝見しましたよ。いやあ、中々のご活躍ではないですか。」
「いやいや、それほどでも。」
「さすがは服部本部長の姪御さんだけありますな。」
「おお、そらおおきに。けどその内、『服部本部長の姪御さん』の枕詞を外せるよう、頑張りますわ。」
「あ、警視長殿の実力をまるで何かの七光りであるかのような事を言ったようで、申し訳ありません。」
「ほう、毛利探偵もなかなか礼儀を弁えてるようだな。」

感心したように言う中森警部と、対照的に

(それは服部警視長が美人だからでしょう……。)

ジト目で小五郎を見ながら心の中で呆れる高木刑事。

「いや流石、天下の名探偵眠りの小五郎、大人やね〜。社交辞令がホンマ上手やで。」
「ええ?決して社交辞令などでは……本当に警視長殿のご活躍は素晴らしいと感服した次第で……。」

皮肉気に言う初音に、慌てふためく小五郎。

「せやけど、『キッドを後一歩の所で逃がすなんざ、まだまだひよっこと言っても良いだろうな。』っちゅうて高笑いした話、聞かせてもろたで?ま、ホンマの事やから、仕方あらへんけど。」
「ええっ!?ままままさか、警視長殿は……。」
「せや。ウチ、あんたんとこの蘭々とコナンとは、仲良しやってん。と言うても、ホンの数日前に知り合うたばかりやけどな。」
「くそっ、あの眼鏡のボウズめ……警視長殿に何て事を吹き込みやがったんだ……。」



   ☆☆☆



その頃、美術館に向かっていたコナン一行は。

「ハックシュン!」
「あら?新一、どうしたの?風邪?」
「いや、そういう訳じゃ。突然鼻がムズムズしてよ。」
「それは、もしかしたら誰かに噂されてるんじゃないでしょうか?」
「ハハハ、んな馬鹿な。噂されたらくしゃみが出るなんて、漫画じゃあるめえしよ。」

瑛祐の突っ込みに、苦笑いするコナン。

コナンは、初音が何らかの方法でコナン達の会話を盗聴していた事実も、それを小五郎に喋られて自分に嫌疑がかけられている事実も知らなかった。
濡れ衣で小五郎の怒りをかっているとは露知らず、コナンは首をかしげながら、もう一度大きなくしゃみをしたのであった。



   ☆☆☆



コナンが今朝の会話を初音に喋ったと勘違いして、悔しそうにギリギリと歯噛みをする小五郎と、呆れたような眼差しで小五郎を見る中森警部と高木刑事。
初音はその様子を完全に無視して、高木刑事に向き合った。

「んで、渉。これがアンタへの辞令や。」
「僕に……ですか。」

高木刑事は初音から渡された辞令に目を通した。
そして、

「!こ、これは……!?」

その辞令を見た高木刑事は、驚いた顔で初音を見た。

「ん、どうした、高木刑事?」
「何を驚いてる?」
「こ、これ……。」

驚きが解けない高木刑事は、小五郎と中森警部に辞令を渡す。

「ん、どれどれ……って、な、何だこりゃ!?」
「は、服部警視長、これは!?」

小五郎と中森警部も、驚きながら初音を見た。

「見ての通り、高木渉巡査長の警部補昇格と、ウチ等特殊能力捜査部との兼務を命ずる辞令や。」
「け、警部補……ぼ、僕が……。」

突然の事に呆然としてしまう高木刑事、いや、高木警部補。

「し、しかし彼があの若さで警部補なんて、何かの間違いでは?」

小五郎は、高木警部補に対して失礼な事を、初音に尋ねた。

「いーや、間違いやあらへん。ウチ等が特殊能力捜査部の職務を遂行するのに必要な人材やと思うたからこそ、アイツを警部補に抜擢したんや。」
「そ、そうでしたか……ん?そう言えば、今『ウチ等』と言ってましたが。」
「他に特殊能力捜査部のメンバーでも?」
「はい、私もこの度、警部として、服部警視長に特殊能力捜査部兼務を命じられました。」
「なっ、け、警部!?」
「と、いう事は、その若さかつノンキャリアでワシと同格なのか、佐藤刑事!?」
「はい。」

それを証明する為に、二人に新しい階級が書き込まれた警察手帳を提示する佐藤刑事、いや佐藤警部。

警部補と警部とは、1階級の差だが、そこには大きな隔たりがある。
中森警部のように40そこそこで警部になるのだって、かなり昇進が早い方だ。
ノンキャリアで30歳前に警部に昇進するなど、普通は殆ど有り得ない。
その場の皆が驚きの声を上げるのも、無理ない事なのである。

「ホ、ホントだ……。」
「し、しかし、これは……。」
「さ、佐藤さんが……警部……ですか?」
「ええ、そうよ。」
(とほほほ……、せっかく佐藤さんと同格になれたと思ったら、佐藤さんは更に上の警部か……。雲の上って感じだな……なんかますます手の届かない所に……。)

と高木警部補は嘆いていたが、

「高木君、これからも特殊能力捜査部の一員として、互いに頑張りましょうね。」
「はっ、はい!」

今までの意気消沈ぶりはどこへやら、佐藤警部に励まされた高木警部補は急に元気になった。

「で、これがアンタの新しい警察手帳と、携行品や。」
「えっ、こ、これは……?」

高木警部補は、警察手帳と一緒に手渡された銃のようなものを見て怪訝になる。

「これは自分自身の体力が弾丸になる、『ライフリボルバー』や。体力が続く限り、何発でも撃つ事が出来るで。」
「体力が……弾丸ですか。」
「よく見ると、実弾を入れるマガジンラックが付いてないな。」
「でもホントにこんなんが銃になるんですか?」
「私も半信半疑でそれを試してみましたけど、本当に自分の体力が弾丸になって、的を破壊しましたよ。」
「ほーっ、なるほど……。」
「ある意味、革命的な銃だな……。」
「けどその分逆に、体力がなくなれば銃も使えなくなると言う恐ろしい事に……。」
「そこは、自分の限界をわきまえて引き際を間違えんように、注意して使う必要があるな。」

大いに感心する小五郎と中森警部。

「じゃあ、ウチはここで。」
「私もここで失礼します。」
「あ、あの、どちらへ?」
「ウチ等これから、ランドマークプラザへ遊びに行くねん。」
「私も今日は非番なので、初音に付き合おうと思って。」
「えっ、そ、そんな!?」
「つーか、佐藤警部!服部警視長を呼び捨てるのは……!!」
「えーねんえーねん。公式の場以外は呼び捨てでもええって、ウチが許可したさかいに。」
「で、ですが……。」
「じゃあ、行こか、美和子。」
「ええ、そうね。それじゃ、頑張ってね、高木君。」
「は、はあ……。」
「「……。」」

高木警部補は力なく二人を見送った。
同時に、小五郎と中森警部も、呆れ気味に二人を見送っていた。



  ☆☆☆



初音と佐藤警部が出口へと歩いていたその時、

「あら、初音さんじゃありませんか。」

先ほど、小五郎達にウィングトパーズの説明をしていた、虎姫会長の孫娘が初音に声をかけてきた。

「おー、桐華やないか。」

親しげに応じる初音。

「昨日はあの怪盗キッド相手のご活躍、本当にお見事でしたわ。」
「いやいや、別にウチはそないに大した事はしてへんで。」
「あら、相変わらず、ゆかしいですわね。」
「で、アンタは何でここにおるん?もしかして、じーさんやオヤジの名代か?」
「ご名答ですわね。」
「ねえ、初音、この方は貴女のお知り合い?」

尋ねる佐藤警部。

「ああ、そやけど。」
「あの、所で貴女も、初音さんのお知り合いのようですが。」
「ああ、彼女はウチの部下の、警視庁の佐藤美和子警部や。」
「まあ、警察の方でしたか。」
「はい。」
「けど、初音さんの部下という事は、これからは未だかつて体験した事がないような大変な事件に色々と遭遇する事になるでしょうね。」
「え、ええ……。」

桐華という名の令嬢の意味ありげな言葉にふと戸惑う佐藤警部。
その時、

「だめだよ、君達。ここは今立ち入り禁止なんだ。」
「えーっ、良いじゃない。私達関係者なんだから。」

出入り口の辺りで、何やら喧騒が聞こえてきた。

「あら、コナン君達じゃない。」
「あ、ホンマや。」

それに気づいた佐藤警部と初音が、コナン達の所にやって来た。

「どうしたの、みんな?」
「あっ、佐藤刑事。」
「それに初音さん。」
「おお、お前ら、ここに何しに来たんや?」
「『初恋物語』のロケ地の下見ついでに、パララケルス王国の秘宝展を見ようかなあと思って。」
「おお、そっか。けど、どっちがついでなんか、分からへんお人も居るようやけどな。」

(ははは、相変わらずきついな、この色黒の姉ちゃんは……。)

心の中で突っ込みながら、あくまでポーカーフェイスの快斗。
その時、

「あら、どうしました、初音さん?」

桐華が騒ぎを聞きつけてやって来た。

「あら、桐華さんじゃないの。」
「まあ、園子さん。それに舞さんも。」
「こんにちわ、桐華さん。」
「えっ、園子に舞ちゃん、この人と知り合いなの?」
「うん、この人はミカエルグループ会長・虎姫功志郎さんの孫娘で、籏本グループ現会長・虎姫圭さんの娘の桐華さんと言うの。」
「初めまして。ワタクシ、虎姫桐華と申します。」

自己紹介する桐華。

「お邪魔するでござるよ、桐華殿。」
「桐華はん、お久しぶりー♪」
「えっ、紅葉ちゃんもこの人を知ってんの?」
「スミレちゃんもか?」

(確かこの人は、アルファトゥオメガの一員の『キティタイガー』だと、焔野が昨日言ってたな……。)

コナンは昨日舞達との会話で出て来た名前は、全てインプットしていたのである。

(となると……。この人はミカエルグループの一員としてここにいるが、マジックギルドにとって今回の秘宝展か『初恋物語』のロケか、どちらかに意味があるのかな?)

アルファトゥオメガのメンバーが、これだけ一度に揃うというのは、偶然とは言い難い。
そもそも、陽介が昨日新宿御苑で会合を主催しようとしたのは、何故なのか?
コナンの頭脳は、フル回転していた。
そこへ、

「あら、どうしたの、工藤君?」

哀がひそかに声をかけてきた。

「いや、焔野達アルファトゥオメガのメンバーが全てこのみなとみらいに集結したのには、何か意味があんのかなと思って。」
「可能性はありそうね。まあ、本当ならキッドの件は私には関わりが無い事だけど、パンドラが関係してくるのなら、黙っている訳にはいかないものね。」
「そうだな。」
「とは言え、ただのミーハー趣味が偶然集結した可能性もあるんじゃないかしら?」
「おいおい。(コイツの冗談は、時折笑えねえ時があるからな……。)」

その時、初音が口を開いた。

「あ、そうや、桐華。もし良かったら、こいつらを案内したってんか?」
「初音さん、宜しいのですか?」

桐華がそう言って目を向けたのは、アルファトゥオメガの仲間以外の、コナン達に対してであった。

「ああ、構へん、っちゅうより、こいつらには是非見せてやりたい思うてんねん。」
「分かりました。初音さんがそう仰るのでしたら。」

桐華が大きく頷いた。

「じゃあ、ウチ等は取り合えずここいらで失礼するで。もしまたウチ等に会いたいんやったら、パシフィコ横浜前の臨港パークにおるから、そこまで来いや。」
「それじゃね、みんな。」

そう言いながら初音と佐藤警部は美術館を後にした。

(ほう。初音さんが別行動であっても、桐華さんは初音さんの言葉に全幅の信頼を置いて、従うという事か。)

コナンは素早く、そういった関係を見て取っていた。
そして、快斗や平次も、その表情を見ると、おそらくコナンと同じ様に見て取ったのだろうと推測できた。


「では、皆様方。どうぞこちらへ。」

桐華はコナン達をウィングトパーズの展示場へと案内した。



  ☆☆☆



「おや、青子じゃないか。お前、何しにここに?」
「『初恋物語』のロケがあるって聞いたから、来たんだよ。」
「でもそれは、一般の人が気軽に見られるようなものなのか?」
「鈴木園子さんが、口を利いてくれて、青子も誘ってくれたんだー。」
「鈴木園子さんって、鈴木財閥の?」
「こんにちわ、中森警部。いつもお世話になってます。」

園子の挨拶に、中森警部は顰め面をした。

「いや、ワシは別に、鈴木財閥のお世話をする積りはないんですがね。キッドの狙いが、鈴木家の秘宝に集中してしまうもんで、仕方ないですなあ。」
「お父さん!」
「園子さん、青子。この美術館はロケ地でもあるが、キッドの予告状が出ているから、今日は一般人の立ち入りは禁止されている。特にキッドは、青子にも、そっちの毛利探偵の娘にも、鈴木家当主の史郎さんや鈴木財閥相談役の次郎吉さんにも、変装した前科があるし、誰に化けて侵入してくるか予測出来ないんだからな!」
「でもさあ、いくらキッドが変幻自在でも、僕とか、こっちの灰原とかに化けるのは、流石に無理だと思うなあ。」
「当たり前だろ!けど、君達もこの中の誰かがキッドに化けても、見抜く方法はないだろうが!」

額に青筋を立てて怒鳴る中森警部。

「うん、だから、警部さん本人がキッドであっても、分からないよね。」

コナンが攻め顔で鋭く返す。

「う……。」

中森警部は言葉に詰まった。
それを見ていた快斗が、呆れたように呟いた。

「相変わらずやってくれるね、あいつも。今回キッドが、誰に化けている訳でもねえ事を、重々承知のクセに。」

その快斗を、探が鋭い目付きでじっと見詰めていた。

「ねえ、中森警部、何か気が立ってない?」
「そりゃ無理も無いわよ。何たって昨日の今日だし。」
「ああ、そうよね。」

ひそかに話し合う園子と舞。

その時。

「おい、坊主!テメー、服部警視長によくもいらん事吹き込んでくれたな!!」

がつんっっ!!!

「いってえーーーーっ!!」
『!』

たんこぶが出来た頭を押さえて叫ぶコナンと、小五郎のコナンへの拳骨で真っ青になる一同。

「ぼ、僕が何をしたって……!!」
「とぼけるな!服部警視長殿に、今朝の会話をチクっただろうが!」

(へ!?)

思わずきょとんとなるコナン。

「ぼ、僕そんな事してないよー。」
「バーロォ!じゃあ何で警視長殿が、んな事知ってんだ!」

(俺は何も言ってねえのに、初音さんが今朝の会話を知ってるって事は、まさか!?)
「あっ、初姉、まさかまたやったんちゃうやろな!?」

コナンが疑問に思うと同時に、何かを思い出したような声を上げる平次。

「ん!?どーゆー事だ!?」
「初姉が何ぞ仕掛けをしたっちゅー事や。」
「仕掛け?」
「あっ、もしや!?」
「蘭ちゃん、ちょっと調べて見て!」
「えっ、な、何?」

菫や舞も何かを思い出したかのような声を上げ、コナンは、今更ながらにさり気なく自分の持ち物と蘭の持ち物を仔細に目で点検して、

「やっぱりな……。」
「初姉……。」

蘭のバッグにそれらしいものを見つけ、ガックリとうな垂れた。
同様に呆れる平次。

「な、何!?盗聴器だと!?」

小五郎は、仮にも現役の警視長が、一般人である蘭のバッグに盗聴器を仕掛けたと聞いて、思わず口をあんぐりと開けていた。

(俺とした事が、油断したぜ……。)
「昔から何度それで騒ぎを起こした事か。警視長という肩書きを手に入れたかて、そこはちいとも変わってへんなあ。」
「あ、あの警視長殿は一体……。」
「お父さん!濡れ衣で殴ったんだから、ちゃんとコナン君に謝ってよね!」
「あ、ああ……すまん。しかしそれにしても、まさか警視長殿が今朝の会話を聞いていたとは……。」

初音の周到さに真っ青になる小五郎。
一同皆呆れ顔になっていた。
コナンも同様に呆れ果てて苦笑いしていたが。
しかしこの時のコナンは流石に、この先ずっと初音のデバガメに悩まされる事になろうとは、予測していなかった。
しかもその対象がコナンだけではなかった事が、後々明らかになるのである。


「毛利探偵。そのような事より、今はキッドの事に専念してくれませんか。」

中森警部が青筋を立てながら不機嫌そうな声で言った。

「そ、そうでしたな。なあに、この毛利小五郎が守っているんですから、ヨーコちゃん……あ、いや、ウィングトパーズには指一本、触れさせません!」
<おいおい……。>

そこへ、響く声があった。

「キッドの事は、ワシに任せなさい!」

「あなたは!」
「叔父様!」
「何だ、あんたか……。」

登場したのは、鈴木次郎吉。
園子の祖父の弟に当たる。

カッコつけて登場した次郎吉を頼もしげに見る者は、ミカエルグループ令嬢の桐華ただ一人だけで、後は親戚の園子も含め、みなウンザリしたような顔か、あるいは和葉や瑛祐のように、次郎吉を知らない者達はきょとんとしたような顔で見やったのであった。

「まあ、そう睨むな。今回はちゃんとした助っ人を頼んでおいた。」
「えー、助っ人お!?」

そう言われても、胡散臭げに見やる一同。

「ホレ。高校生探偵として有名な……。」
「ん?平次、もしかしてこの人に呼ばれとったん?」
「あ?俺はちゃうで、全然知らんがな。」
「じゃあ、誰が……。」
「やれやれ、大阪には僕の名はあまり知られていないようですね。」

そう言って、和葉をじっと見詰めたのは、勿論、白馬探である。

「へっ!?」

和葉が顔を赤らめるでもなくきょとんとした顔で探を見た。

「……あんなあ、和葉。この男は白馬警視総監の息子で、一応俺らと同じ高校生探偵なんや。」
「あ!そう言えば、どっかで見たような気がする思うたら、あん時やな!」
「和葉ちゃんが前に言うとった、ニセモンの探偵甲子園の事やね」

探は、にっこりと笑って優雅にお辞儀をした。

「そうです、あの時は色々とあって、ロクに挨拶もせず、失礼しました。」
「はあ、あんたが今回依頼を受けた高校生探偵やってんな。」
「そういう事です。」



「何か、すごい事になってますね。」

瑛祐が、舞にこっそりと囁いた。

「そうね、良く考えたら、今ここに、高校生探偵が3人も揃ってるって事よね!(でも、流石に瑛祐君も、昨日はいなかったから、この場所に怪盗キッドまでいるって事実を知らないわよね。)」



「まあ、この僕が来た以上、キッドの好きにはさせませんよ。」

そう言いながら探は、さりげなく快斗を目でけん制する。

(おいおい……。)

顔に汗を貼り付かせている快斗。

この場にいる中で、快斗=キッドと知っている者達は、一体どうなる事かと固唾を呑んでいた。
何も知らない次郎吉は、頼もしげに探を見た。

「何とも頼もしい事じゃ。頭脳は完璧。で、ここに更に、格闘技のプロを、キッドを捕まえる為の助っ人として呼んでおいたぞい!入って来なさい!」
「いや、どうも初めまして……。」

次郎吉に呼ばれて入って来た人物を見て、

『ええっ!?』

一同に驚きの声が上がった。

「まっ、真さん!?」

園子が叫んだ。
鈴木次郎吉が呼んだ「格闘技のプロの助っ人」とは、何と、京極真だったのである。

「なっ、何で真さんがここに!?」
「いやあ、実はこの展示会の主催をしているミカエルグループの御曹司の武琉君の空手のコーチをしている縁で、こちらの次郎吉さんから依頼を受けまして……。」
「えっ、真さんって、武琉君のコーチをしてたの?」
「はい。」
「あら、それは知らなかったわ。」
「えっ、舞ちゃん、その武琉君って子の事知ってるの?」

蘭が、瑛祐や恵子を憚って、密かに舞に訊ねる。

「知ってるも何も、桐華さんと同じく、私達アルファトゥオメガのメンバーなの。」
「まあ、空手を教わってる事は桐華殿から聞いてござったが、まさかその師匠が園子殿の彼氏だったとは初耳でござったよ。」
「世間って広い様で案外狭いモンやねえ。」

「じゃあ、皆様、ご案内しますわ。」

桐華が一同に声をかけた。
中森警部が渋い顔をして桐華を制する。

「お嬢さん、今はキッドの予告状が出ている時です、こいつら全員に秘宝を見せるのは如何なものかと……。」
「大丈夫ですわ。だって、キッドが予告して来た時刻には、まだ間がありますでしょう?」
「しかし……。」
「この方達を案内した責任は、私が取ります。それで宜しいでしょう?」

桐華の言葉は穏やかそうだが、有無を言わさぬ力が篭っていた。
結局、中森警部が渋々折れて、一同は桐華に案内され、パララケルス王国秘宝の展示室へと向かった。



  ☆☆☆



一同は、秘宝の数々を見て、溜め息をついていた。

「パララケルス王国って、色々噂は聞くけど、豊かな国なんだなあ……。」
「綺麗で神秘的で、素人目にもすごく高そうな……。」
「ん?灰原、どうした?」
「いえ、これもし小嶋君が見たらきっと、『鰻重何杯食えっかな』って言うんだろうと思って。」
「ははは、確かに……。」
「ええ?これをお金にして鰻重を買ったりしたら、きっと一生かかっても食べ切れませんよ!」
「瑛祐君、そこ真面目に考察するところじゃないから!」

軽口を叩き合いながら賑やかに秘宝を見ていた一同だが、今回の目玉である宝石「ウィングトパーズ」を見た途端、溜め息をついて言葉を失った。
トパーズには様々な色合いのものがあるが、このウィングトパーズは、上品な桃野薔薇色をしている。

「日本ではトパーズは人気が今ひとつだが、ダイヤに次ぐ硬度で、とてもよく輝く、かなり格の高い宝石だぜ。」

薀蓄の主は、今回は快斗である。

「流石に宝石の事となると詳しいですね。」

すかさず突っ込んでくる探。

「いや、さっき受付で貰ったパンフにそう書いてあった。」

快斗は悪びれずに言って、パンフをヒラヒラと示した。
そこには確かに、そういう説明書きがしてあり、探はフッと笑った。

「うまく逃げましたね。」

(ははははは……。)

二人のやり取りを見て、口の端をヒクヒクさせ呆れたように心の中で笑うコナン。
その時、

「あ!もしかしたら、黒羽君って、あの怪盗キッドなんじゃないですか?」
「ぴしっ……!」

瑛祐の無邪気な言葉に、一同思わず石化したように固まった。

「あ、あれ?僕また、冗談を外しちゃったかな?」

オロオロする瑛祐に、

(いや、全然外してねえぜ、ある意味な。)
(こいつ、結構とんでもねー事を口走るんだな……。)

そう、心の中で突っ込むコナンと快斗であった……。




To be continued…….




Vol.4「怪盗キッドVS最強警視長」に戻る。  Vol.6「Deep Night Yokohama」に続く。