C-K Generations Alpha to Ωmega



By 東海帝皇&ドミ



第一部 勇者誕生編



Vol.6 Deep Night Yokohama



「皆様、こんにちは。水無怜奈です。今日は、『初恋物語』のクランクアップを迎えて、主演の風見原陽介さんを、ロケ地でもあるここ、みなとみらいぷかり桟橋にお招きしています。陽介さん、こんにちは。」
「こんにちは。」
「大好評を博した『初恋物語』ですが、とうとうクランプアップですね。」
「そうですね、これから最後の撮影が行われます。」
「お忙しい中、おいで頂き、本当にありがとうございます。」

瑛祐の姉の水無怜奈こと本堂瑛海は、かつてコナンが戦った黒の組織に潜入していたCIAの捜査官で、組織からキールというコードネームを与えられて、日売テレビのアナウンサーを務めていた。
その後、アナウンサーを辞めて、コナン達と協力して組織崩壊の際に多大な貢献をした。
そして、その事情が世間に知らされる事はなかった。

今ではフリーアナウンサーとして復帰して、「水無怜奈」の名前のままで以前にも増して活躍している。

「ところで陽介さん、春先に、このみなとみらいで水上ライブを行うと伺いましたが。」
「はい、そうです。実は、ここでの水上ライブは、まだタレントになる前、幼い頃からの夢だったんですよ。」

陽介の腰には携帯ホルダーがあり、携帯電話が収まっている。
実はこのインタビューは生中継ではなく、録画編集されるものなので、陽介は緊急の連絡に備えて携帯の電源を切っていなかった。
そのストラップが、怪しく点滅していたが。
インタビュアーの水無怜奈も、陽介本人も、それに気付く事はなかった。



   ☆☆☆



『まあ、小さい頃からの夢だったんですか。歌が上手な神童だったという話は、お聞きした事がありますが。』
『いやいや、ただ歌が好きだっただけで、そのような事はないですよ。』

「さすが、風見原陽介さん。」
「く〜っ、カッコいい!」

ここは、ぷかり桟橋並びの臨港パーク。
その芝地の上に置かれた、一見ラジオのように見える機械の前で、恵子と園子がウットリした表情をしていた。
実はこの機械、盗聴した音の受信機で。
水無怜奈が風見原陽介にインタビューしている様子を、陽介の携帯ストラップに仕込まれた超小型盗聴器で盗聴した内容が、今流れているのである。
仕掛け人は勿論、服部初音警視長であった。

瑛海の弟である瑛祐が、顔色を変えて言った。

「い、良いんですか、こんな事して!?犯罪じゃないんですか!?」
「だって、警視長自らが盗聴してんだもん、ねえ。」
「そーそー、これもきっと、犯罪防止の一環なのよ。」

悪びれずそう言い訳して、尚も聞き入る園子達。

(いや、警視長がやってると言ったって、犯罪には違いねえって。明るみに出たらえらい事になるぞ……。)

普段自分が麻酔針を他人に打ち込んだりなどの犯罪行為を重ねている事は完全に棚に上げ、コナンはジト目でその様子を見ていた。

「大体、どうせこれは放映されるものだから、いち早く聞いたって良いじゃない、ねえ?」
(いや、生放送じゃねえし、拙いところは編集してカットされるもんだから、全部聞くのはやっぱ問題だろ……。)

尚も内心突っ込みを入れるコナン。
彼とて、表立って言えば、何倍にもなって返って来る事が分かっているので、口に出しては言わないのだ。

蘭が、コナンに声をかけて来た。

「新一、退屈してるでしょ?その辺りをちょっと歩きましょうか?」
「あ、ああ……。」

蘭は、ミーハーなところはあるが、覗きや盗み聞き趣味はない。
この場の雰囲気を感じ取って、さり気なくコナンを連れ出したのであった。

「お、工藤。どこ行くんや?」

平次が2人の後を追おうとして、和葉に肩をガシッと掴んで止められた。

「あんたも気ぃ利かんやっちゃなあ。2人にしたらなアカンやん。」
「はあ?あいつ等は同じ屋根の下に住んどんのやから、別にええやんか。」
「アホ。いっつもお邪魔虫が居てるやん。」
「そないなもんかなあ?」
「そないなもんや。」

平次と和葉がやり取りしている間に、コナンと蘭の姿は遠くに去って行った。



   ☆☆☆



コナンと蘭がパシフィコ横浜沿い国際大通りを散策していると、

「なあ、姉ちゃん。ちょっと俺達と付き合えよ。」
「いやっ、やめて下さい!」

不良達が女性を強引に連れ出そうとしている所に出くわした。

「おい、やべえんじゃねえか?」
「大変、助けなきゃ!」

コナンと蘭が、女性を助けようと向かいかけたが、それより早く、

「何やってんですか、貴方達!」

何と、小学校四年生位の少年が不良達の所へ駆け寄って、彼等を咎めていた。

「何だてめえ?」
「俺達に何か用か?」
「だめじゃないですか!女性の方に対して、そのような無体なマネは!」
「あー、何だと、この生意気なくそガキがあ!」
「あっ、危ない!」

不良達が少年に殴りかかろうとしているのを見て、駆け出すコナンと蘭。
だが、

「はいっ!」
「ごふおっ!」

何とその少年は、不良の鳩尾に鉄拳を食らわせ、その一撃だけで倒してしまった。

「「えっ!?」」

少年の強さに驚く二人。

「こ、この野郎、やっちまえ!」
「おう!」

激昂して他の不良も、その少年に殴りかかってきた。
だが、

「てぇい!やあ!たあっ!」
「ぶはっ!」
「がはっ!」
「ごあっ!」

その少年になすすべも無く、秒殺の憂き目にあってしまう。

「す、凄え……。」
「あんな子がアレだけの戦闘力を持つなんて……。」

息を呑むコナンと蘭。

「た、助けてーーーーっっ!!」
「ひ、ひえーーーーっっ!!」

少年の強さに恐れをなした不良達は、我先にと逃げ出していった。

「ありがとう、僕。本当に助かったわ。」
「いえいえ、そんな。」

少年に助けられた女性は、深謝した後に立ち去った。
その時、

「ん?」

少年はコナンと蘭に気づき、二人の方へと近づいて来た。

「あ、あの、あなた方はもしかして、江戸川コナンさんと毛利蘭さんですか?」
「!?『さん』!?」
「え、ええ、そうだけど……。」
「ど、どうも初めまして。僕、虎姫武琉と言います。」
「虎姫……武琉……あっ、あなたもしかして!?」
「虎姫武琉。ミカエルグループの御曹司にして、アルファトゥオメガのメンバー『リトルジャガー』、だろ?」
「はっ、はい、そうです!」
「君についてはさっきお姉さんに会って、話を聞いたんだ。所で今、俺の事を『君』ではなく『さん』づけで呼んでたけど、もしかしたら初音さんから俺の事を聞いてるのか?」
「ええ。あなたの事は僕達アルファトゥオメガの間でも、前々から結構話題になってましてね。」
「まあ、そうなの。」
「はい。特に舞さんは、お二人の仲をかなり心配してましたもの。」
「え゛っ、ま、舞ったら……。」
「ほ、焔野の奴……。」

思わず頬を赤らめる二人。
そこへ、

「あら、二人ともどうしたの、このような所で?」

両手に、菓子やら飲み物やらが入ったビニール袋を持った舞が話しかけてきた。

「あっ、舞ちゃん。」
「ハハハ、噂をすればなんとやら、だな……。」
「こんにちわ、舞さん。」
「まあ、武琉君じゃないの。君もここに来てたの?」
「ええ、姉さんの付き添いで。」
「ふーん。あ、ところで二人とも、武琉君と何してたの?」
「いや、今彼が不良達をばったばったとなぎ倒すのを見ててさ。」
「この子、結構強かったのよ。」
「さすがに真さんから空手を教わってるだけの事はあったな。」
「えっ、い、いやあ、まだまだですよ。」

謙遜する武琉。

「あら、ずいぶん奥ゆかしいのね。」
「ところで焔野、オメーは?」
「ああ、私は園子達に頼まれて、コンビニまで買出しに出かけてたんだけど、パシフィコ横浜近くのコンビニが無くなっちゃって、わざわざランドマークプラザ内のコンビニまで行ったのよ。もう、ホントにやんなっちゃう。」
「それは大変だったわね。」
「あ、そうだ。もし良かったら、僕が持ちましょうか?」

武琉が申し出てきた。

「そう?悪いわね……。」

舞がそう言って、武琉に荷物を持たせようとした。

「あら、武琉君一人じゃ大変じゃない?皆で分担しましょうよ。」
「俺も、この体でも多少の荷物位は持てるぜ。」

蘭とコナンがそう申し出たが。

「良いんです!舞さんの荷物は、僕一人で大丈夫ですから!」

妙に意固地な様子で、武琉が言って、舞から荷物を奪い取るようにして歩き出した。


蘭がそっとコナンに囁く。

「ねえ、新一。もしかして武琉君って、舞ちゃんの事好きなのかな?」
「オメーってさ。どうして他人の事だったらそう鋭いんだ?」
「どういう意味よ!」
「べっつにー。ガキの頃からの気持ちに、告白するまで気付いてくれなかったら、それは鈍いんじゃねえかとか、そういう事言ってる訳じゃねえよ。」
「ななな!言ってるじゃない!って、新一、あの……それって……。」
「だから、何でもねえって言ってるだろ?」

「どうしたの、2人とも?」

舞がいつの間にかコナンと蘭に割り込むようにして、顔を覗き込んでそう言った。

「え。い、いや、別に。」
「そうよ、何でもないんだから!」

それを聞いて、舞が溜め息をついた。

「羨ましいなあ。私、二人の事心配してたんだけどさ。全然、心配するような事じゃなかったよね。園子あたりも、『あれは夫婦のコミュニケーションなんだから、心配するだけ損よ。』って言われてて、その時は意味分かんなかったんだけど、今となっては分かるかな?」
「舞ちゃん?」
「王子様は、いつになったら私の気持ちに気付いてくれるんだろう?」
(いや、多分気付いてると思うぞ。あれだけあからさまだったらな……。で、おそらく彼の方はその気持ちに応えられねえってとこじゃないか?)

コナンは内心思ったが。
流石にそれを口に出すのは憚られたので黙っていた。

武琉が、舞の言葉を寂しそうに聞いているのを見て。
コナンと蘭は、目配せを交し合った。

おそらく武琉は、蘭が思った通りの気持ちを抱いているに違いない。
そしてその思いを伝えられずにいるのだろう。
拒絶される事を恐れて。


コナン達は、各々に色々と複雑な思いを抱きながら、臨港パークへと向かっていった。



  ☆☆☆



「それでさあ、今日の初恋物語の最終ロケなんだけどね……。」
「うんうん。」

「いやあ、色々と回りすぎて、ホント疲れちゃった。」
「舞殿、ご苦労でござる。」

「やれやれ、相変わらずしゃべりまくってるようだな。」

コナンが、蘭達と共に臨港パークに戻ってみると、園子や恵子達が相変わらず談笑を続けていた。
その時、

「あら、武琉君。」
「おお、武琉殿。」
「まあ、たけちゃん。」

武琉の姿を見た園子と風吹、菫が挨拶して来た。

「あ、こんにちわ、皆さん。」
「やあ、君も来てたのかい、武琉君。」
「真先生。」


「なあ、工藤。あのチビ誰や?」
「彼は虎姫武琉。さっき会った桐華さんの弟さ。」
「って事は、あのミカエルグループの御曹司かいな?」
「まあ、そう言う事になるかな。」


「ねえねえ、武琉君ったら凄いのよ。さっき、女の人を無理やりナンパしようとした不良達をコテンパンにのしちゃったんだから。」
「えっ、そうなの?」
「ああ、俺達が加勢する間も無く、正に『秒殺』って感じだったな。」
「まあ、ホント凄いじゃん!」
「ほおー、そないななりで、ようやるやんか。」
「やっぱり師匠が良いと、その弟子も中々のものよねえ、真さん。」
「えっ、あ、そ、その、あの……。」

園子に絶賛されて、しどろもどろな真。


「ふんふん、これで大体そろってきたようやな……。」

初音は、コナンや快斗達をじっと見回しすや、おもむろに、

「あ、そや。アンタ等にええモンやるで。」

と言いながら、持っていたアタッシュケースを開けて、ある物を取り出した。

「ええモンってなんや、初姉?」
「まあ、見てみい。」
「ん、何だこれ?」
「何か金ピカの腕輪みたいやけど……。」
「これはな、『光の腕輪』言うて、ウチが作ったアクセサリーや。」
「アクセサリー?」
「これ、一個一個初姉が作ったんか、全部?」

平次は、アタッシュケースに入っていた残り12個の腕輪を指し示した。
細い腕輪は、落ち着いた淡い金色で、天然石ビーズを数多くあしらってあるが、上品なイメージである。
男女共に、カジュアルにもシックにも使いこなせそうな、品の良いデザインだった。

「ああ、そやで。よう出来てるやろ?」
「は、初姉が、アクセサリー作りやなんてそないな女みたいな事……!」

げしっ!

「平次、そないな事言うたら、拳骨お見舞いするで!」
「アタタタタ。先に殴ってから言いなや!」

「やれやれ、あの二人……。」
「けど確かに、細身の洒落たデザインにこの細かい細工、素人細工にしては手が込んでるわ。」

精巧に宝飾と文様が施された腕輪を観察する哀。

「そやろ?んでな、これを作ったウチが言うのも何やけど、これは絶対アンタ等の役に立つモンやねん。」
「はあ?俺達の役に?」
「僕達の役にとは、どう言う事ですか、服部警視長?」
「何か胡散臭いわね。」
「全くだな。」

疑わしげに腕輪を見るコナン。

「まーまー、そないな事言わんとホレ。」
「えっ、い、いーよー。第一オレ男だし、アクセサリーなんか……。」
「まあ、ええやないか。別に減るモンや無し。それに、今時の男はアクセサリーの一つや二つ、着けるんが当たり前。お洒落な男やあらへんと、蘭々に振られても知らんで。」
「ばっなっ……!!」

真っ赤になるコナン。

「わわわ私は別に……!」

次いで真っ赤になる蘭。

「男女兼用でおかしゅうないデザインにしたんや、遠慮せんと、ホレホレ。」

そこまで言われると、コナン達も押し切られるしかない。
渋々、腕輪を受け取った。

「つったく、しゃーねーなあ……。」

頭をかきながらぼやくコナン。
そこへ、

「うわあ、何か綺麗ですねえ。」
「ねえ、これホントに私達も貰っていいの?」

瑛祐や恵子が羨ましそうに腕輪を見ていた。

「おう、ええでええで。」
「ありがとう!」
「じゃあ、ありがたく頂いてきます。」

初音から腕輪を貰った瑛祐と恵子は、早速装着した。

「あら瑛祐君、結構似合ってるじゃない。」
「そ、そうですか?」
「そうそう。」
「これで女の子だったら、超完璧なのにね。」
「なななな何て事ゆーんですか、舞さん!!」
「いや、冗談よ、冗談。」


「ほーっ、かなり綺麗ね、この腕輪……。」

恵子は改めて、初音から貰った腕輪を見て、ため息をつく。

「けど、これだけの腕輪を作るのに、結構材料費掛かったんじゃない?」
「確かにそうよね。手作りアクセサリーは流行で、パーツも色々売られてるけど、これは使ってある材料もかなり上等そうだし。」
「あんまり見ないタイプだから、輸入ものか何かだよね?」


「ほら、真さんも。」
「あ、いやあ、済みません、園子さん。」

園子から腕輪を受け取った真は、早速装着した。

「うわあ、かっこいいじゃない、真さん。なかなか似合ってるわよ。」
「いえいえ、そんな事はありませんよ。それよりも、園子さんの方がずっと似合ってるじゃないですか。」
「まあ、真さんたら……♪」
(おいおい……。)

真に褒められて、頬を染める園子に呆れるコナン。



「でも初ちゃん、これ結構高そうやけど、ホンマに貰ってええのん?」
「あー、かまへんかまへん。これ元々、アンタ等にあげる為に作ったんやさかいなあ。」
「ほーっ、そーなんかあ。ほな、おおきに。はい、平次。」
「なっ、何でオレにも渡すねん!?」
「えーやんか、別に。折角初ちゃんが作ってくれたモンなんやから、貰ったってバチ当らへんやろ。」
「……ホンマ、しゃーないなあ。」

和葉に言われて、しぶしぶ腕輪を装着する平次。

「おお、平次。なかなか似合うとるやんか。」
「和葉ちゃんとお揃いやね。」
「なななな何言うてんねや、御剣!大体このワッパ……。」

がんっっ!!

「「ワッパ言うなや、アホたれが……。」」
「はっ、はひ……。」

和葉と初音にどつかれて、芝生に沈む平次。

「全く……。」

平次の進歩の無さに呆れるコナン。

「ともかく、この腕輪、工藤達が付けとんのとまるっきり同じやんけ!!集団で同じもん着けるやなんて恥ずかしいて敵わんわ。」
「わっ、バカ!!」

げしっ!!

「あいたーーーーーっっ!!」

コナンが血相を変えて、平次の脛にキックをかます。

「こ、こら、オマエいきなり何すんねや!?」
「それはこっちのセリフだ!白馬の近くで俺を工藤呼ばわりすんじゃねえ!!」
「あっ、これはすまんかったなあ。」
「つったく……今のが白馬に聞こえてたら……。」

コナンと平次は、探の方を向いた。


「ホレ、白馬っち。」
「は?白馬っち?僕の事ですか!?」

初音に突然、「白馬っち」と気安く呼ばれ、目を白黒させる探。

「アンタの他に該当者は居らへんやろ。アンタも恋人とお揃いでこの腕輪、どないや?」
「わ、わたくしは、白馬君の、恋人などではありませんわ!」
「そうでござるか?紅子殿はよく探殿と話をしているところを見かけるでござるが。」

風吹の突っ込みに、

「あ、あれは別に……!ただ……。」

むきになったように赤くなって言い返す紅子。

「固い事言いなや。お似合いやんけ、白馬っちの方はアンタの事熱い目で見てるで。」

憮然とした面持ちながら、いつの間にか腕輪を受け取っている探と紅子。

「初音さんって、人を丸め込む天才だな……。」

何のかんの言いながら、いつの間にか初音のペースに巻き込まれている探と紅子を、コナンは興味深そうに見ていた。


「いかがなさいましたか、紅子さん?」
「この腕輪、何やら魔道的な細工が施されているような……。」

装着した光の腕輪をじっと見詰める紅子。

「ほう、魔道ですか……。」

探も同様に、装着した腕輪をじっくりと観察した。


「「!?」」

探の態度を見て驚くコナンと平次。

「なっ、あ、アイツ今……。」
「何か当たり前のように、あの姉ちゃんと魔道の話をしとったで!?」
「……って事は……もしかしてアイツ、俺が何者なのかも知ってんのかもしんねーな。」
「いや、そればかりか、キッドの正体も知っとんのんちゃうか?」
「大いにありうるな。初音さんって、誰にどこまで話をしてんだろう?キツネ目だが、案外タヌキかも知れねえな。」
「ハハ、初姉がタヌキなんは否定せえへんけど。何か今夜は、色んな意味で波乱が起きそうやな。」
「ああ、そうだな……。」

コナンと平次は、改めて一同を見回す。
そこに集った面々は、ある者同士は親しく協力し合い、また、ある者同士はお互い腹の探り合いをしながら、この先何かが起こる予感を感じつつ、時を過ごしていた。






午後7時30分……。


「本番よーい、スタート!」

カチッ!

厳戒体制下のみなとみらい21地区の夜空の下、『初恋物語』の最後のロケがスタートした。

「さあ、始まりましたよー。」
「これで最後でござるなあ。」
「わくわくやねー。」

やや遠い所から、ロケ現場を見る一同。

「しかし、こないな状況の中で、よくロケなんか出来るモンやなあー。そう思わんか、工藤?」
「まあ、そもそもロケの方が前々から決まってた訳だし、キッドの予告時間が被らない以上、ロケしたって不都合は無いだろ?」
「確かにそうよね。」
「でも、どこぞの誰かが変な予告を出さなければ、ここまで大げさにはならなかったのでござるがな。」
「おいおい、仕方ねえだろう。パンドラかも知れねえビッグジュエルの展示期間は限られてっし、期間中の満月は今夜しかねえんだし。」

そう言いながら、夜空を見上げる快斗。
その上空では、満月が煌々と輝いていた。

「まあ確かに、ウィングトパーズがパララケルス王国に戻っちまうと、面倒だしな。それにしても、ロケとかぶっちまったお陰で随分大袈裟な事態になっちまったよな。第一、キッドが妙な美意識を持って、予告に拘るからこういう事になるんだよ。盗むんならパフォーマンスなんかせず、こっそり盗めばいいのに。」
「ほっといてくれ。」
「後は、陽介さんがうまくやってくれるかだが……。」

コナンは、出番待ちの間、沖野ヨーコと会話をしている陽介に視線を向けた。



   ☆☆☆



「いよいよこれで最後ね、陽介君。」
「そうですね、ヨーコさん。」
「しかし恵ちゃん、よくここまで頑張れたわね。あの娘、観客の前に立つと、すぐにアガッてしまうタチだったのに。これもやっぱ怪盗キッドのおかげかな?」
「かもしれませんね。」

最終ロケに挑む古畑恵の方を見ながら会話をする陽介とヨーコ。

「さあ、『坂田龍太郎』君、色々目移りしてフラフラしたけど、いよいよ初恋の君と結ばれるラストよ!」
「ええ、そうですね、『葛葉まどか』さんにも、温かく見守るお姉さんって感じで、お世話になりました。」
「坂田君を演じる陽介君には、忘れられない初恋の君は居るのかな?」
「残念ながら、ドラマの役と現実とでは、全く違いますねー。幼い頃の初恋なんてものは、俺には無縁の話ですよ。俺はまだ恋愛なんてこれからです。ところでよく、初恋は結ばれないって言うけど、現実にはどうなんだろう?」
「そうね……。中には結ばれる人も居るようだけれど、私は……。」

ヨーコが目を伏せて思いを馳せたのは、もう決して叶う事のない自分自身の初恋。
誤解が元で、自ら死を選んでしまった、ヨーコがアイドルになる前の恋人の事だった。(アニメ第3話「アイドル密室殺人事件」やコミックス第一巻FILE.6〜9を参照の事。)
けれどそれは一瞬で、再び顔を上げた時にはいつもの「沖野ヨーコ」になる。

「でも、ホントだったらとてもロケ出来る様な状況じゃなかったのに、見事にロケにこぎ着けたのは、あなたが社長と共にスタッフを説き伏せてくれたおかげね。」
「いやいや、社長が全てを取り仕切ってくれたからで、俺なんか何もしてませんって。」
「そうかな。」
「そーそー。あっ、お呼びがかかったんで失礼!」
「頑張ってね、陽介君、恵ちゃん……!」

祈る様にロケを見つめるヨーコ。

(さて、このシーンが終わったらいよいよ舞台はあの美術館の中に移る訳だけど……。)

本番直前、横浜美術館の方を見る陽介。

(君だったらこの状況の中、きっと傍観者のままでいられる訳が無いと思うけど、どうなんだい、小さな探偵君?)

陽介はコナンの方に向き直った。


「ギクッ!!」
「ん?どうしたの、新一?」
「いや、何か誰かがとてつもなく鋭い視線で俺を見たような……。」
「は!?」



   ☆☆☆



「しかし、ロケっていつ見ても面白いものね、高木君。」
「そうですね、佐藤さん。」

警護の合間を縫って、高木警部補は非番の佐藤警部と共にロケを見ていた。

「けど、それにしても……。」

佐藤警部は、ある方向に視線を移した。

「あの江戸川コナン君が、まさか、かの高校生探偵の工藤新一君だったなんて、今考えても信じられないわね。」
「俺も道理で小学生にしては凄い推理を簡単に展開出来るもんだなあって思いましたよ。」
「ホントその通りだわ。私なんか、初音からその話を聞いた時、びっくりしたもの。」
「俺も同様ですよ。でも、どうして初音さんはそんな情報を僕達に教えてくれたんでしょうか?」
「多分、私達のもう一つの任務と何らかの関わりがあるからじゃないかしら。」
「かもしれませんね。大体高校生が薬の力で小学生になる事自体、ある意味特殊能力の範疇とも言えますからね。」
「それにもう一つ、中森警部の娘さんのボーイフレンドの……。」
「黒羽快斗君ですか?あの工藤新一君によく似た……。」
「ええ。彼があの怪盗キッドだったなんて、これまたびっくりしたわ。」
「そうですよね。これは中森警部にはとても伝えられないですからね。」
「まあ、とにかく、これからは気を引き締めて頑張らないとね。」
「その通りですね。」
「でもその前に、まずは目の前のロケを楽しみましょ。」
「は、はい!」

高木警部補と佐藤警部は、何がしかの予感を感じつつ、ロケの見物に望んだ。



  ☆☆☆



そして午後8時30分……。


「カアッーート!!」

カチッ!

夜のみなとみらいに響き渡るカチンコの音。
それは「初恋物語」のロケが、ここに終了した事を示す音であった。

「よーし、大至急撤収しろ!」
「了解!!」

スタッフは大急ぎで撤収の準備を始めた。

「どうもお疲れ様でした!」

スタッフに次々と挨拶していく恵。

「おめでとう、恵ちゃん!」
「あっ、ヨーコ先輩!!」
「半年間、よく頑張ったわね。」
「いえ、これもヨーコ先輩や陽介さん、それに共演者やスタッフの方々のお陰ですよ。」
「後、貴女の実力もね。
「あ……、有り難うございます!!」

恵はヨーコに褒められて、感動していた。

「まあまあ、話はまた後にして、俺達も撤収しましょう。」

陽介が二人を呼びに来た。

「あっ、そうね。ささ、早く邪魔にならない内に行きましょ。」
「はい!」

ヨーコと恵は直ちに撤収した。

「……。」

ヨーコ達を見送った陽介は、一言呟いた。

「さてと、俺も行くか……。」



  ☆☆☆



「総員、配置につけ!」

『初恋物語』スタッフの撤収後、警視庁や神奈川県警の二課の警官達が、すばやく横浜美術館を固めた。

「いよいよ始まるか。」

遠くから警備の様子を見守るコナン達。

「今夜は満月、パンドラかもしれないビッグジュエルを、キッドがチェックする唯一つの機会だもんね。」
「そしてそれを狙って、シャドウエンパイアの奴等も襲撃してくる可能性も高そうだしな。」
「まあ、それについては、御剣達が上手くやってくれるやろ。」
「それについては、俺も心配ねえんだが……。」
「あら、どうしたの、工藤君?」
「いや、ちょっと気になる奴等が……。」

そう言ってコナンは、青子や舞達と談笑する恵子と瑛祐、園子と話し合っている真、そして、紅子と何かを話している探を見回した。

「ああ、あの四人か。」
「あの四人がどうしたん?」
「あの四人は、キッドの正体やシャドウエンパイアの事を何も知らん奴等やから、オレ等も何かやり辛いんや。」
「いや、厳密には三人、って言っても良いけどな。」

そう言いながら探をじっと見るコナン。

「まあ、白馬君や京極さんは、園子ちゃんの叔父さんに呼ばれたんやからしゃあ無いけど、恵子ちゃんや本堂君は帰ってもらった方がええのんちゃう?夜も遅いんやし、家族も心配するやろ。」
「それなんだけどね……。」
「どしたん、蘭ちゃん?」
「瑛祐君と恵子ちゃん、キッドの様子を見るって言ってんのよ。瑛祐君はお姉さんの瑛海さんがこっちでキッドのリポートをしてて、家が留守だから大丈夫だと言って。」
「おいおい……。」
「それで恵子ちゃんは、青子ちゃんの所でお泊りだと家族に言ったんだって。」
「ハハハハ、何か似たようなネタやな……。」

その時、

「あ、真さんが美術館の方に向かってる。」
「白馬さんもや。」
「いよいよ、って訳ね。」
「ホンマに今日は、いろんな意味で大変な日やなあ。」
「ホント、そうよね……って、あれ?新一はどこいったの?」
「あ、そう言えば、平次もおらんやん。」
「二人の行く所って言ったら、あそこ以外に無いみたいね。」

哀の視線の先には、厳重に警備されている横浜美術館があった。

「つったく、しょーもないやっちゃなあ、ホンマに。」
「でも、コナン君や服部君は、普通二課関係には首突っ込まないのに、何で今日に限って。」
「簡単な事よ。『怪盗キッド』だからでしょ。」
「「……?」」



  ☆☆☆



さて、横浜美術館では……。



「さあ、キッドめ!今度こそは貴様の年貢の納め時にしてくれるぞい!!」

ブルーワンダーの雪辱を晴らさんと腕ぶす次郎吉。

それを聞き、呆れる小五郎。

「ふん、吼えるだけでキッドが捕まるんだったら、誰も苦労はせん。」
「ああ、まったくだな。」

同意を示し頷く中森警部。

小五郎と中森警部は、うんうんと頷き合っていたが、不意に

「「んん?」」

と顔を見合せ、次いで

「「フン!」」

とそっぽを向いた。
その時、

「こんばんわー。」
「よー、おおきに。」

コナンと平次が、美術館に現れた。

「なっ、コ、コナン!?それに服部平次も!?」
「何故君達がここに?君達はどちらかと言えば、一課関係が主の筈では?」
「まあ、ちょっとした援軍や。」
「ほーっ、援軍ねえ……。」

怪しげにコナンと平次を見る探。

「オメー、こんな遅い時間までいるガキがどこにあるか!早く蘭達と帰れ!!」
「えー、だって蘭姉ちゃんもキッドを見るとかで、このみなとみらいにいるから、僕帰れないもん。」
「オレも同じや。和葉と御剣のヤツも蘭姉ちゃんと一緒にキッド見る言うから、帰るに帰れへんねん。」
「つったく、しょうがねえなあ……。けど、蘭のヤツ、キッドには大して興味もなさそうだったんだがなあ。」
「だって、園子姉ちゃんが大のキッドファンでしょ?蘭姉ちゃん、園子姉ちゃんの事が心配なんだって。」
「つったく、あのミーハーお嬢さんは……。」
「ん?誰がミーハーだって?」

園子の話を耳ざとく聞きつけた次郎吉が、ギロリと小五郎を睨んだ。

「え?は、い、いや、ミーハーとはワタクシの娘の事でして、はは、ははははは。」

小五郎が顔に汗を張り付かせながら、苦しい言い訳をした。

「ふん、まあいい。……小僧、この前は新聞一面トップを譲ったが、今回はそうは行かんぞ!」

次郎吉は、今度はコナンに向かって凄んで見せた。

「うん、そうだね。僕、おじさんが新聞に出るの、楽しみに待ってるからね!」

コナンがにっこりと笑ってそう言った。
そう言われると、次郎吉としても、むすっとした表情は続けていられない。

「おう、ボウズ、まかしとけ!」

そう言って笑顔で手を振って去る次郎吉を見て、

「工藤、お前絶対、詐欺の才能もある思うで……。」

次郎吉や小五郎に聞こえない小声で突っ込む平次であった。



  ☆☆☆



一方、蘭達は……。



「いやいや、表はさすがに寒かったわね。」
「そりゃあ、まだまだ一月やもん。」
「それに、夜ともなれば気温が更に低くなるからね。」

とある所で、みかんを囲みながら談笑していた。

「おー、蘭々達。コーヒーが入ったでえ。」
「あっ、すいません、初音さん。」
「サンキュー♪」
「うん、なかなかイケるわね。」

初音が入れたコーヒーを旨そうに飲む一同。

「それにしても初音さんが、まさかこんな大型トラックを持ってたなんて、知らなかったわ。」

改めて自分達がいる所を見回す蘭。

「まるで大型のキャンピングカーやね。」
「と言うよりも、トレーラーハウスですよ、これ。」
「まあ、このランドフォートレスは、ウチの城みたいなもんやさかいなあ。」
「お城……ねえ。」

蘭達が今いる初音のトラック・ランドフォートレスは、概観は全体が赤系統でコーディネートされた一種のトレーラーハウスと言うべき代物だった。

「所で今、何時かな?」
「夜10時よ。キッドの予告まで、あと二時間ね。」
「ちょっとテレビを見ましょうよ。」

瑛祐が備え付けのテレビをつけた。

『今このみなとみらいでは、怪盗キッドの襲来に備えて、警視庁と神奈川県警が合同で厳重な警備を敷いています……。』
「あら、瑛祐君のお姉さんじゃない。」
「えっ、君あの水無怜奈の弟さんなの!?」
「ええ、まあ……。」
「どうりで。似てると思ったら、姉弟だったのね。」
「でも、名前が違くない?あ、水無怜奈って芸名みたいなもんなのか。」
「そう言う訳じゃないんですけど……。」
「本堂君は事情があって、小さい頃お姉さんと離れ離れになったのよね。」
「あ、ごめんなさい……立ち入った事に踏み込んじゃって。」
「いや、別に良いんですよ。姉と再会出来て、今は家族として過ごせるようになったんですから。」
「なるほど、最近の水無怜奈さんが、長期休暇前よりかえって生き生きして評判が良くて、恋人でも出来たんじゃと噂されてるけど、そういった喜びがあったからだったのね。」
「うん、本当に、怜奈さん、以前にも増して輝いてる。昼間は王子様との対談、深夜はキッドの中継と、大活躍よね。」
「全くですわね。」

テレビを見ながら、コーヒーを啜る紅子。

「ふーっ、この中は暖房が効いてるけど、やっぱり熱いコーヒーは美味しいわねえ。」

園子が、コーヒーのおかわりをした。

「あ、あの、園子さん、あんまりコーヒーを飲むと、拙いんじゃないですか?」
「ん?どうして?」

言いにくそうに突っ込む瑛祐と、あっけらかんと返す園子。

「だって、コーヒーをあんまり飲むと……。」
「あ、この車、トイレがついてるから心配せんでええで。完全循環式やしな。」

瑛祐が言いにくそうに言おうとしていた事を読み取って、初音がアッサリ言った。

「簡易式のシャワーもついとるし。何日も泊り込みする事も可能や。」

おお、と感嘆の声を上げる一同。

「けど初音さん、いくらここで暫く生活可能だって言っても、流石に警視長という地位で東京に暫く滞在するなら、いつまでも車で生活、って訳には行かないでしょう?」
「あ、それなら心配あらへん。ちゃーんと、東京での住家は確保してあんのや。」

蘭の心配に、手を振って答える初音。

「ねえねえ、それってどこなんですか?」
「慌てんでもええ、その内招待してやるさかいな。」

青子の問いに、そう返した初音であった。



  ☆☆☆



そして、時は流れ……。



ボーン、ボーン、ボーン……。

日曜午前0時、展示室の陳列品の一つの人形時計・タイダルアラームが時を告げる鐘を鳴らした。

「おっ、もうこんな時間か。」
「いよいよ予告時間だな。」
「キッドめ、どっからでもかかってこんかい!」

小五郎や中森警部、そして次郎吉が腕ぶした直後、

「えっ!?」
「なっ、何だ!?」
「しょ、照明が!?」
「て、停電か!?」

展示室が急に真っ暗になったのに驚くコナン達。

「ま、まさかキッドが!?」
「おのれ、小癪な!!」

展示室が、光が全く無い、完全な閉鎖空間になった事に右往左往する警備の警官達。

「おい、この美術館には予備の電源はないのか!?」
「い、今稼動させようとしている所でして……。」

その時、

パッ!

再び展示室の照明が点いた。

「おっ、点いた。」
「予備の電源が動いたのか。」

暗闇から開放されて、ほっと安心する警備の警官達。

「はっ、そう言えば、ウィングトパーズは!?」
「どうやら無事のようですね。」

探が確認を取る。

「おお、ホントだ。」
「キッドめ、どうやら無駄骨とわかって、諦めた様じゃな。ハッハッハッ……。」

誇らしげに高笑いする次郎吉。
だが、

「ん?」
「どうしたんや、工藤?」
「服部、ちょっとショーケースを見てくれ。」
「ショーケース?どれどれ……。」

ショーケースを調べる平次。
すると、

「ん!?」

何かに気づいた。

「どうしました、服部君?」
「白馬……オレ等してやられたみたいやで。」
「してやられたって、何がです?」
「このショーケースをよーく見てみい。」
「ショーケース……ですか?」

探もショーケースを調べた。
そして、

「はっ、し、しまった!?」

してやられた面持ちになる探。

「どうしたんじゃね、白馬君?」
「残念ですが、このウィングトパーズは偽物です。本物はまんまとキッドに持ってかれましたよ。」
「なっ、何じゃと!?」
「見て下さい!ショーケースにかすかに動いた痕跡があります。恐らくキッドは、停電の合間を利用して、ショーケースを開けてすり替えたのでしょう。」
「じゃ、じゃが、このショーケースの周囲には、レーザーセンサーが幾重にも張り巡らされとって、ほんの少しでも触れたら、すぐに警報が……。」
「あれ見てよ。」

コナンは、陳列品の一つである、大きな貝殻のモビールを指し示した。

「ん、あれがどうかしたのかね?」
「あのモビールに使われている貝殻は、鏡のような輝きを放っているでしょ?キッドは、あのモビールをこっちまでずらして、ショーケースに被せてレーザーを乱反射させて、そのわずかな間にウイングトパーズをすり替えたんだよ。」
「なっ、何と!!」
「何てやろーだ、全く……。」
「うぐぐぐぐ……おのれキッドめえ!!」

怒りで身を震わす次郎吉。

「直ちにみなとみらいを封鎖しろ!!キッドを逃がすなあ!!」

命令を下す中森警部。



「ハハハハ……やっぱアイツはただモンじゃねーな。」
「まさか、他の陳列物を道具にするとは思わんかったわ。」
「ハア、何か私、今一つ活躍しないままに終わってしまったような……。」

ため息をつく真。

「いや、まだ終わってはいませんよ。」
「え、どう言う事や、白馬?」
「まだキッドにはやる事が残っているはずです。」
「やる事が残ってる、ですか?」
「やる事って……お、おい、まさかお前!?」
「オマエ、やっぱり……!?」
「さあ皆さん、行きましょうか、青子君が待ってる所へ。」

探は踵を返して、展示室を立ち去った。

「……やれやれ。」
「初姉、やっぱりアイツにも教えとったな……。」

呆れるように探の後に続くコナンと平次。

「あっ、ま、待って下さい!」

真も後に続いた。



  ☆☆☆



ピピッ、ピピッ。

「ん?」

青子はケータイからメールの着信音が鳴ったのを見て、メールを開いた。

「……。」
「どうしたの、青子ちゃん?」
「蘭ちゃん、青子、行かなくちゃ。」
『!』

瑛祐と恵子を除く一同が、その言葉の意味を瞬時に悟った。

「青子ちゃん、真夜中の一人歩きは危険だから、私もついてくわ。」
「アタシも行くで。」
「私も参りましょう。」
「私も。」
「拙者も。」
「ウチもー。」

蘭達が青子に続いて、次々と立ち上がった。

「あの、何かあったんですか?」

不思議がる瑛祐に対して、

「あー、あんたと私達はここでお留守番よ。」

園子が制した。

「えー、何でですか?」
「男なら、野暮な事に首を突っ込まないものよ、本堂君。」

哀がそう言って、瑛祐は訳が分からないながらも、渋々座った。

「え?青子が行くのに、紅葉ちゃん達がついて行って、私はお留守番しなきゃいけないの?」

青子の大親友を自認するのに、蘭や紅葉達が知っていて自分が知らない青子の事情があるらしい事に、哀しげな目をする恵子。

「恵子、ごめんね……青子だけの事情じゃないから、今は……後できっと、話すから。」
「恵子ちゃん、青子ちゃんはね、大親友のあなたをないがしろにして私達とって訳じゃないの。青子ちゃんのお父さんの仕事絡みで、色々知る事になっちゃって。」
「ああ、そう言えば、蘭ちゃんって毛利探偵の……。」
「うん、それに、私達が同行するのは、あくまでボディガードとしてだからね。コナン君だって子供だけど、結構強いんだから。」
「え?ああ、そうか、腕に覚えがない私達は留守番役なわけね。」
「そういう事。蘭達はこう見えても、下手な男たちよりもずっと危険だから、安心しても良いわよ。」
「ちょっとそれ、どういう意味よ、園子!?」
「まーまー。それより早くいってらっしゃいよ。私達はここで留守番してるからさあ。」
「うん、ありがとう、園子。」
「じゃあ、行ってくるね。」
「いってらっしゃい、青子さん。」
「青子、行ってらっしゃい。蘭ちゃん、青子の事お願いね。」
「青子ちゃんの事、任せたわよー。」
「うん、それじゃね。」

蘭達は留守を園子達に任せ、ランドフォートレスを後にした。



  ☆☆☆



「うーん……。」

パシフィコ横浜の隣の造成地の工事現場まで逃げて来た快斗は、横浜美術館から盗んできたウイングトパーズを満月にかざした。
が、その表情は、今ひとつ冴えなかった。

「快斗!」
「おー、青子。」

「どうだった、それ。パンドラだった?」
「いーや、唯の宝石さ。」
「そう……やっぱり無駄足だったね……。」

青子の表情も、今ひとつ冴えが無い。

「別に気にすんなって。機会は幾らでもあるんだからよ。」

快斗は青子の頭をポンッと軽く叩きながら、彼女を励ました。

「うん、そうだね。」

青子の表情に明るさが戻った。
だが、その時、

「ほう、機会なんて果たして来ますかね、黒羽君。」

音も立てずに、いつの間にか探が傍に立っていた。

「なっ、て、テメエ!?」
「は、白馬君!?」
「青子をつけてやがったな……!」

「やはり、君が怪盗キッドだったんですね、黒羽君?」
「……何の事だよ?」
「この期に及んでしらばっくれますか?今、その手にウィングトパーズを持っていたと言うのに?」
「俺がどこに、宝石を持っているって?」

快斗が両手を広げてヒラヒラと振って見せる。

「フッ。君はマジシャン、たった今手にしていたものを、隠す位はお手の物でしょう。けれど、もはや逃れさせませんよ!」

そう言って探が取り出したのは、ICレコーダー。
そして探はスイッチを押した。

『どうだった、それ。パンドラだった?』
『いーや、唯の宝石さ。』
『そう……やっぱり無駄足だったね……。』

「くっ……。」

快斗の背中を冷や汗が流れ落ちる。

「どうですか?これで、どう言い訳する気です?」
「……この会話の中に、固有名詞はない。証拠としては弱いんじゃねーか?」
「確かに。ですが、宝石の事に言及しているのは、確かですね。」
「白馬、テメエ、一体どうやってその会話を録音した?俺に気付かれずに盗聴器を仕掛けるのは無理がある、となると……。まさか!」

快斗が顔色を変えて、青子のポーチを青子から奪い取るようにして、中を探った。
青子は、真っ青になってそれを見ている。

(青子の普段の持ち物は、俺がいつもさり気なくチェック済みだから、見覚えのないヤツ……これか!)

快斗が取り出したものは、先ほど横浜美術館で見た、タイダルアラームの人形を模したマスコットだった。

「あ、それは、さっき初音さんから……。」
「なにっ!?白馬、おめー、服部警視長とグルになってたな!」
「グルとは、人聞きの悪い。そもそも、仮にも警視長ともあろうお方が、犯罪者の味方であろう筈はないでしょう。」

「白馬君、お願い!見逃して!」
「青子さん。君も警察官の娘で、しかも、お父上はキッド担当の警部であられた筈。たぶらかされましたね。」
「違う、違う!快斗は、快斗は、私利私欲の為に、宝石を盗ったりしているんじゃない!愉快犯でもないの!」
「語るに落ちるとは、この事だ。青子さん、黒羽君が怪盗キッドであるという事を、認めましたね?」
「あ。ああっ!!」
「青子!」

真っ青になって崩れ落ちる青子を、快斗が支え、そして探を強い視線で見据えた。

「テメエ、青子を傷付けたな……ただでさえ、俺と父親の狭間で苦悩している青子を、よくも!」
「もうそん位にして置いたほうがいいんじゃねえのか、白馬。」

その時、闇の中から声が聞こえ、そこからコナンが現れた。
子供の姿であるが、今の彼は、眼光鋭く、とてもただの小学生には見えなかった。

「君は……コナン君?いや、今の君は、工藤新一君と呼んだ方が良いのかな?」
「俺の事も、服部警視長から聞いたのか。」
「否定はしませんよ。」
「らしくねえなあ、白馬。おめーが、服部警視長の力を借りて、キッドを追い詰めようとするなんてよ。」
「それこそ、君らしくもない言い草ですね。犯罪を暴くには、奇麗事だけではすまない位、君も分かっているでしょう。」
「俺が許せねえのは、人を傷付き命を奪う奴らだ。正直、どんなに高価であろうが、たかだか宝石を盗む位の事、青子さんを傷付けてまで追い詰めるほどの犯罪かと疑問に思うんでね。」
「たかだか!?君は一体、何を言っているのか、分かっているのですか!?」
「どっちにしろ、盗聴や誘導尋問いう方法で得た証拠は、証拠にならねえ事位、白馬にも分かっている筈だ。」

キッドと探の対決だった筈が、今やいつの間にか、コナンと探の対決の様相を呈しており、快斗と青子も、傍に来ていた蘭達も、固唾を呑んで成り行きを見守っていた。

そこへ更に、

「白馬、お前もあん時とちいとも変わってへんな。泥棒は確かに褒められたもんやあらへん。けど、泥棒イコール悪人やっちゅう方程式が、お前の中では出来あがってしもとんのやろ?」

西の高校生探偵・服部平次も割って入った。

「君達は!世間を騒がず怪盗キッドと、君達も対決した事があった筈!なのに何故、庇い立てするのか!?探偵の風上にもおけない!」

そこへ、蘭が叫ぶように言った。

「白馬君、初音さんから話を聞いたのなら、怪盗キッドが何故宝石を盗むのか、知ってる筈でしょ?」
「パンドラの事ですか?」
「そうや、そん話を聞いたんやったら、白馬君かて、初ちゃんから聞いた情報を利用してキッドを捕まえるような真似、ようせえへん筈や!」

和葉も、叫ぶように言った。
舞や菫も、刺す様な視線で探を見る。
その様子に、従妹の風吹や、恋人(?)の紅子も戸惑っていた。

その雰囲気に、探が困惑したように答える。

「君達は、揃いも揃って何故キッドを庇うのです?パンドラを手に入れたものは、不老不死を得る事が叶うと言うのでしょう?キッドがそれを狙っているというのなら、尚更に、キッドは極悪人じゃないですか!」
「「え!?」」

探の話を聞いた時、コナンと快斗は、ふと何かに気づいた表情になった。
いや、コナンだけではない。
平次や蘭達も、探は、パンドラの存在まで知らされていながら、キッドが何故それを追うのかを知らないという事実に気付いた。

「白馬、オメー、初音さんからパンドラにまつわる全ての話を聞かされてなかったみてーだな。」
「なっ、それは一体どう言う事ですか!?」
「簡単さ。オメーは初音さんから、親子二代に渡るパンドラを狙う組織との確執や、初代キッドが殺されて黒羽がその敵をとろうとしている事等、肝心の部分を、聞かされてなかったって事さ。」
「……!?」

コナンから聞かされた、初めての事実に色をなす探。

「つまり、俺達はまんまと初音さんに嵌められたって言う事さ。」
「おい工藤、そりゃどういうこっちゃ!?」
「俺達を同じ場所に集め、対決させる積りだったんだろう。その為に、白馬に中途半端に情報を与えた。そうだろう、初音さん!」

皆がえっと思う中。

「ありゃ、ばれてもうたか。さすがやな、やっぱりコナンがリーダーの資格あり、言うこっちゃな。」

初音が、悠然と歩み寄って来たのであった。
その後に、陽介と真がついて現れる。

「陽介さん!それに真さんも!!」
「王子様!」
「主殿!」
「ダーリン!!」
「服部警視長!これは一体どう言う事なんですか!?」

情報の核心を知らされずに、大勢の前で大恥を掻かされた探が色をなして初音に詰め寄る。

「まあ、落ち着きいなや、白馬っち。」
「初音さん。あんたが一体何考えてるのか、全部聞かせて貰おうか?」
「そうやな、初姉。隠してる事、全部吐かんかい!!」
「おお、ええで。ただ、その前に……。」

初音は目の前に魔法陣を展開させ、中からピースメーカーを取り出した。
陽介もそれに続いて、魔法陣からイーグルウィングを取り出す。

「え、初音さん、何を……?」
「邪魔モンをみんな片付けなあかんわな。」
「え!?」

コナンが驚いたその時!


ボンッ!!
ボンッ!!
ボンッ!!


「ギギギギ……。」
「ギギギギ……。」


「むっ!?」

快斗達の周りに、巨大なアリのような怪物が多数出現した。

ボンッ!!
ボンッ!!
ボンッ!!


「ギギギギ……。」
「ギギギギ……。」

「いやあーーーっ、な、何これーーーーーっ!?」
「きゃあーーっ、バ、バケモノーーーーーっっ!!」

蘭と青子は、煙と共に次々と出現したアリの怪物の大群を見て絶叫する。

「な、何つー大群や!?」
「こいつ等みんな、シャドウエンパイアのシャドウドールかいな!?」

平次と和葉も、身構えつつも、異様な光景にたまらず息を呑む。

「フッ、やっぱり。来ると思ってたけど、ホント案の定だったな。」

「ギギギギ……。」
「ギギギギ……。」
「ギギギギ……。」
「ギギギギ……。」


今にも快斗に飛び掛らんばかりの、クロオオアリ型のシャドウソルジャー・暗黒働き蟻ダークネスアントの大群。
その時、

「ギギッ!!」
「きゃあっ!?」
「あっ、蘭ちゃん!?」

一体のダークネスアントが、蘭に襲い掛かってきた。

「蘭!」

危険を察知し、蘭の下に駆け寄ろうとするコナン。
が、

「いやあーーーっっ、こないでーーーーっっ!!」

ガシャアッッ!!

「グガウッッ!!」

蘭は反射的にダークネスアントに鉄拳を食らわした。
すると、

ガシャアアン!!

ダークネスアントは木っ端微塵に砕け散った。

「ギギャウッ!?」
「グギャウッ!?」


ダークネスアント達は、仲間が破壊された事に驚く。

「え、な、何これ……!?」

蘭も、自分の鉄拳がシャドウドールを破壊した事に驚く。
その時、

「こ、これは……?」

蘭は左手首に装着していた金の腕輪が、強く光り輝いている事に気づいた。

「あっ、あの腕輪は!?」
「初姉がオレ等にくれた腕輪やないか!?」
「ハッ、そうか!あの腕輪を着ける事で、俺達も初音さん達の様に、シャドウドールと戦う事が出来るようになるのか!なら、話は早えぜ!」

快斗は懐からトランプ銃を取り出すなり、

ズドーーーン!!!

「グガウッッ!!」

ダークネスアントを銃撃で破壊した。

「なるほど、素手だけじゃなく、色んな物も武器として使えるようになるって訳か。初音さんが『役に立つ』って言ってたのは、この事だったんだな。」
「ほなら、これで勝負したろかい!!」

平次は、偶然足元に落ちていた鉄パイプを竹刀代わりに構えた。

「和葉、もしやばうなったら、初姉のトラックまで避難せえ。あそこなら安全やさかいな。」
「冗談言うたらあかん!アタシがこないな蟻んこ共に負けるかいな!!合気道の餌食にしたるわ!!!」

ダークネスアントに対して、一歩も引かぬ構えを見せる和葉。


「僕はこれで勝負しましょうか。」

探は懐から取り出した伸縮式のアルミ製の特殊警棒を構えた。

「このような輩、我が小泉家に伝わる赤魔法で……。」

探の傍らにいる紅子も、手に魔力を集中させて、攻撃に備える。


「気を抜くなよ、真。」
「わかってますよ、陽介君。」

多数のダークネスアントを前に、力強く身構える二人。


「王子様の前で恥はかけないわ……!」
「ここは絶対に負けられないでござる……!」
「へーたんや和葉ちゃん達を守るんや!」

三人も各々の得物を手に、ダークネスアント達を牽制する。


「青子、俺の傍から離れんなよ。」
「わかってるよ、快斗。」

現場にあったモップを手に身構える青子。
が、多数の怪物相手に、震えが止まらずにいる。


「蘭、オメーは俺が守るぜ……!」
「私もあなたを守るわ、新一……!!」

コナンと蘭は、互いに寄り添いつつ、ダークネスアントへの構えをしっかりと固めていた。


「初音さん、こいつ等を片付けたら、さっきの答えを言ってもらうぜ。」
「ああ、ええで。ほなら、いっくでえーーーーーっっ!!!」

『おーーーーーーーっ!!!』

初音の号令の元、コナンと快斗達は一斉に動きだした。



今、決戦の火蓋がここに切って落とされた!!



To be continued…….





Vol.5「風雲横浜みなとみらい」に戻る。  Vol.7「覚醒!C-Kジェネレーションズ」に続く。