C-K Generations Alpha to Ωmega



By 東海帝皇&ドミ



第一部 勇者誕生編



Vol.8 伝説の勇者



激闘明けの1月22日日曜日の朝……。



「おーい、起きろーーーーーっっ!!」
「ん……。」
「ふ、ふああ〜〜〜〜〜っっ。」

ランドフォートレスの中で眠っていたC-Kジェネレーションズとアルファトゥオメガの女性陣一同は、初音の呼びかけで、次々と目を覚ました。

「ふあああ、よく寝た……。」
「夕べはさすがに疲れたわね……。」
「あ、所で今何時なん?」
「朝十時みたいやね。」

髪を整えながら、車内の掛け時計を見る和葉。

「さすがにみんな、あのバトルでくたびれ果てたみたいね。」
「殿方連中は、まだ夢の中でござるよ。」

車内では男性女性に分かれての雑魚寝状態で、一応仕切りのカーテンがされていたが、紅葉がカーテンの隙間から男性陣の様子を観察して伝えて来た。

「今の内に、先に洗面所を使わせて貰いましょう。」
「せやね、この寝起きの姿は、見せられへん。」

女性陣はぞくぞくと身なりを整え始めた。



  ☆☆☆



それから30分後……。



「つったく、何時まで寝るきや、ホンマに……。」

女性陣が身支度を整えた頃、一向に目を覚まさない男性陣に痺れを切らした初音が、運転席からの室内スピーカーを最大音量にして、

「起きんか、ボケ〜!」

と絶叫した。

「ひええええっっ!」
「おわああああっっ!!」
「わわわわっっ!!!」

これにはさしものつわもの揃いの男性陣も、眠気が吹き飛ぶほどびっくりしながら飛び起きた。

『ほれ、とっとと身支度せんかい。』
「んな、急かすなや、初姉。」

初音に追い立てられるようにして、男性陣は慌てて身支度をした。

「ところで、ここは?」
「一応東京や。」
「一応、ね……。」
「え?昨夜と同じ場所じゃないの?」

初音とコナンのやり取りを聞いて、蘭が首をかしげて口を出した。

「蘭、この車が昨夜走ってたの、気付かなかったのか?……あ、そうか、オメー一旦寝たらグッスリだもんな。」
「ほう、コナンも昨夜はグッスリやったようやけど、走っとったのによう気付いたなあ。」
「初姉、そりゃ気付くんが当たり前や。」
「へ?平次、アタシも何も気付かんかったで。」
「ほう、流石やな。もっとも、それに気付かへんようやったら、従姉弟同士の縁切ったろ思うとったけどな。」
「ほっといてくれ。」

どうやら、男性陣は深く眠りながらでも、そこら辺の感覚は衰えていなかったようである。
男性陣の寝起きの悪さに呆れていた女性陣だったが、これには感心した。


「まあ、とにかく車から降りてみいや。朝飯食わせてやるさかいな。」
「えっ、ご飯食べさせてくれるんですか?やったあ!!」

はしゃぐ瑛祐。

「うーん、何か、企まれているような気もすっけど、降りるしかねえか。腹も減ったし。」
「そうやな、腹が減っては戦は出来へんゆーし。」
「いや、もう戦は終わったって。」

ツッ込む快斗。



初音の薦めに従い、身支度を整え終えた一同は、ランドフォートレスを降車した。
すると、

「いらっしゃいませ、お客様。」

目の前に映った豪華な洋館の玄関前で、多数のメイドやボーイが自分達に対して挨拶しているのに気がついた。

「えっ、な、何これ……?」
「メイドさん達がずらーーっとおるで。」
「ここ一体何処なの?」

皆が思わず、秋葉原の某所にでも連れて行かれたのかと戸惑ってざわめいていたが、コナンは冷静に分析する。

「どうやら俺達、米花市に戻ってきた見てーだな。」
「え?」
「何で判ったの、新一?」
「あの旗を見てみな。」

コナンは蘭に、洋館の玄関前のポールでたなびいている、白地に極楽鳥のデザインが入った旗を指し示した。

「旗……あっ、あれ、パララケルス王国の国旗じゃない!」
「つー事はここは……。」
「そう。つい最近完成したばかりの、パララケルス王国の新大使館だ。」
「あっ、そう言えば聞いた事があるわ。」
「数日前のニュースでも報じられていたものね。」


そこへ、

「あっ、義姉上!おはようございます。」
「よおー、レオン、おはよう。」

大使館の中から、高貴な雰囲気を併せ持つ、金髪の青年が出てきて、初音に挨拶をした。
その二人に対して、メイドやボーイ達が一斉に深く礼をした。

「ん、誰あれ?」
「何か初音さんと親しげに話してるみたいだけど……。」
「初音さん、あの人の事、レオンって呼んでましたね。」
「レオン?あっ、あの人って、もしかして!?」
「ええ、あの方はパララケルス王国王太子のレオン・ライア・レムーティス殿下ですわ。」

紹介する桐華。

「え、殿下!?」
「あ、そう言われて見れば、確かにパララケルスの王太子殿下だわ。」
「でもあの人、初音さんの事を『義姉上』と呼んでたけど、何でかしら?」

との青子の疑問に桐華が答える。

「それは初音さんが、現国王アストラ陛下の娘だからですわ。」
「えっ、陛下の娘って……初音さんもしかして王女様だったの?」
「ああ、そやで。」
「えーーーっ!?」
「うっそーーっ!?」
「冗談でしょ、それ!?」
「信じらんなーーーい!!」

平次が事も無げに答えたのに対し、大騒ぎする女性陣達。

「服部、オメー、知ってたのかよ。」
「従姉弟なんやから、知っててあたりまえやろ。」
「白馬もか?」
「ええ。父と風吹君との縁で。」
「それだったら、何で教えてくれなかったの!?」

問い質す蘭。

「別に聞かれなかったからや。それに探偵は、聞かれもしない事を自分からべらべら話さんモンやで。」
「まあ、確かにな。」

同意するコナン。

「風吹が知ってるって事は、他のアルファトゥオメガの一同は当然知ってるよな。」
「勿論でござる。」
「俺は、ウィングトパーズの事調べる中で、知ったんだけど、パララケルス王国外では、王女の存在は一般に知らされてないからな。」
「快斗は、その王女様が初音さんだって事、知ってたの?」
「ああ、警視庁に潜入した際、資料を見て。」

あっさり答える快斗。

「……そういうもんが資料で残されてるってのが、ある意味問題って気がするな。」
「せやけど工藤、普通そういう資料は、部外者が閲覧出来るもんやあらへんで。」
「確かに。情報に関しても、キッド相手のセキュリティ強化を、進言した方が良いかもな。」
「コナン、オメー、キッドの活動に協力してくれるんじゃなかったのかよ!?」

色をなす快斗。

「協力するとは一言も言ってねえぞ?あくまで、『黙認』だ。それも、パンドラの件に関してだけだぜ。」
「オレも工藤と同じくや。」
「僕もです。好き勝手はさせませんよ。」

コナンに続く平次と探。

「ちっ。探偵って人種は、柔軟性がねえなあ。」
「ゼータク言わないの、快斗。パンドラ探しを黙認して貰うだけでも、ありがたいと思いなさいよ。」
「へーへー。」
「黒羽君、青子さんがお父上との狭間で苦悩していると言ったのは、君でしょう?そんなふざけた事を言うんだったら、前言撤回してすぐにでも君を……。」
「わーったわーった!俺が悪かったよ!」

そのやり取りを見ながら、恵子が溜め息をついた。

「はあ。怪盗キッドの正体、知らなければ良かった……。幻滅したかも……。」
「同じく……。」

恵子の隣で、園子も溜め息をついていた。
その様子を見ていた瑛祐が、興味深げに言った。

「ははあ、なるほど。謎のままの方が良い事って、世の中にはあるもんなんですねえ。」
「……オメーにその台詞言われっと、ヤツは余計泣くと思うぜ。」
「?」

コナンが瑛祐の言葉に突っ込み、瑛祐は訳が分からずキョトンとしていた。


「みんな、朝飯の支度が出来たで、はよう来いや!」

随分と先に行ってしまっていた初音が振り返って言った。

「初音さんが王女様だってのも、謎のままの方が良かったかもな……。」

思わず呟いていたコナンであった。



  ☆☆☆



『頂きまーす!』

朝食前に、一同が挨拶をした。


「しかしそれにしても、大きなドーナツ型のテーブルだな……。」

快斗は、朝食を食べながら、大広間の円卓を見回した。
総勢20名以上が取り囲んでも、余裕がある程の大きな円卓だった。

主人の初音から時計回り(右回り)に、レオン、桐華、武琉、真、園子、瑛祐、舞、哀、蘭、コナン、平次、和葉、菫、風吹、探、紅子、恵子、青子、快斗、陽介の順に並んでいた。

「うーん、この紅茶、すごく香り高いわね。」
「このパンも柔らかくて、美味しいですよ。」

パンと紅茶とスクランブルエッグと温野菜サラダの、見た目は簡素な食事だったが、お代わりはたっぷりあったし、味は一流だった。
パンにつけるバターやジャム、紅茶に入れる為のミルクや蜂蜜も、上質のものがたっぷり準備されている。
皆食事には満足し、昨夜のバトルでの疲労が洗い流されて行くようだった。

「新一、ホラ、パンのカスがついてるよ。」
「ああ、すまねえな。」

蘭がいつものように、コナンの口の周りの汚れを綺麗にしてあげていたが。

「ん、あれ?」
『……。』

ふと、不穏な空気を感じて周りを見ると、皆が呆れ果てたような目付きで2人を見ていたのだった。

「どしたんだ、オメー等?」
「はあ。コナン君がホンマに見た目通りの歳やったら、微笑ましい光景やって思うとったんやけどな。」
「中身が17歳男子高校生だって知ってしまうと、何と言うか……。」
「素で夫婦生活やるのも、いい加減にして欲しいわね。」
「まったく。」

呆れる和葉や園子達女性陣。

「ななな……何を言ってんだ、オメー等!」
「そ、そうよ、これはただ、私がコナン君の正体を知らなかった頃からの習慣で……!」
「正体を知られてないのを良い事に、蘭さんにずっと色々させてた訳ね……。」
「は?色々って?」

哀の突っ込みに、更に快斗が面白がって突っ込みを入れる。

「抱き上げられて胸の感触を楽しんだり、膝の感触を楽しんだり?」
「あ、そう言えば、いっぺん露天風呂に一緒に入ったってのも、聞いたわね。」

皆が面白がって突っ込みを入れている内に、蘭が真っ赤になって行った。

「そ、そう言えば、確かに……し〜ん〜い〜ち〜?」
「わーっ、ちょっと待て!そそそ、それは、不可抗力で!」

これを見て、

「はあ、新一って、ムッツリスケベだったんだな。」
「まさか君が、そのような男だったとは……。」

快斗と探も、呆れ顔で言った。

「るせー!ムッツリスケベでわりぃか!?」

切れるコナンに、

「おお、ついに認めおったな♪」

平次が突っ込みを入れる。

「え〜、うそ〜、コナン君!?」
「見損なったでござるよ。」
「ま、真面目そうな顔して実は色々とやってるんじゃない?」
「えええ?」

騒然とする女性陣。
その様子を初音が、楽しげに見ていた。

快斗が面白がって、更に突っ込む。

「身体が小さくなったのをイイ事に、更衣室を覗いたりとか、風呂場を覗いたりとか?」
「そ〜れ〜は〜、バ快斗の事でしょ!」

青子がモップを振り下ろしながら言って、快斗が軽やかにそれを避ける。

「こん部屋にモップはない筈なんやけど、青子の持っとるあのモップは、一体どこから持って来たんや……?」

初音が首を傾げた。
その時、

「あのなあ!俺が覗きなんかするかよ!第一、蘭以外の女性の裸を見て、何が楽しい!?」
「ちょ、新一……。」

コナンの爆弾発言に、蘭は茹蛸のようになり。

「な、何それ!?」
「ま、まさかウチ、コナン君に『女』と見られてないんちゃう!?」
「こ、この私に何の魅力も感じないなんて、何たる屈辱!やはりこの白い魔人は……。」

女性陣は別の意味で悲鳴を上げ。

「コナン、お前、体は大丈夫……じゃねえな、そんなに縮んで!オメー、健全な男子高校生としては絶対間違ってるぞ!」
「そうですよ、コナン君、実行するかどうかは別として、男子たるものスケベ心はある筈です!」

快斗と瑛祐が、そう言ってコナンに迫ったが。

「何か、瑛祐君がそんな事言っても、全然説得力ないのよね。」

園子が更に突っ込んだ。

「そこが、俺には疑問なんだが。普通の男って、惚れた女性以外にも、スケベ心を持つものなのか?」

コナンが顎に手を当てて、言った。

「そうですね、私もそれは疑問に思います。」

思いがけず真がコナンの言葉に賛同したので、一座はざわめいた。

「って事は、京極さんは園子だけにはスケベ心があるって事?」
「なっやっそれはっ……!」
「ななな何て事聞くのよ、舞!?」

舞の突っ込みに真っ赤になってしまった真と園子を見て。

「図星やな……。」

呟いたのは平次である。

「そういうへーたんはどうなん?和葉ちゃん以外の女性にはスケベ心出えへんのん?」
「なな、アホな、誰がこないな色気のない女にスケベ心出すかい!」
「悪かったなあ、色気のない女で!」

菫に突っ込まれて、平次は和葉を指差しながらしどろもどろに答え、和葉からボゴッと思いっきり殴られていた。


「おいおい、オメーら、嘘だろ?ここには普通の感覚の男は、俺だけかよ?」

呆然として呟く快斗。

「黒羽君。君の感覚はもしかしたら普通なのかも知れませんが、行動は普通じゃありませんよ。君は本能のままに行動し過ぎです。」

快斗の肩にポンと手を置いて言ったのは、探である。

「白馬、オメーには、スケベ心がねえのかよ?」
「さあてね、それはご想像にお任せします。」
「あ、僕も普通の感覚の男ですよ。高校生男子たるもの、女性に対してスケベ心起きるのが普通ですって。」

瑛祐の言葉は、皆に無視され、瑛祐は1人いじけていた。
皆、彼の中身が普通の高校生男子である事を、認めたくないのであろう。



騒ぎはなかなか収まらないのであった。


その時、

「そう言えば義姉上。宵の口は色々と大変でしたね。」
「そーそー。あの蟻んこ達とのバトルでめっちゃ大変やったなあ。」
『!』

レオンと初音の会話に、今までの和やかなムードから引き締まる一同。

「今朝方もどのテレビもそのネタ一色でしたね。」
「えっ、どう言う事だ、それ!?」
「あのバトル、まさかテレビ中継されてたの!?」
「どうやらそうみたいですね。」

そう言いながらレオンは、背後の超大型プラズマテレビのスイッチを入れた。
すると、

『ギギギ……。』

「あっ、アレはダークネスアント!?」
「それに横溝警部の姿も!!」

テレビの映像に騒然とする一同。

『見て下さい!この恐るべき怪物を!!一体何者がこのような怪物を呼び寄せたのでしょうか!?』

「なっ、ね、姉さん!?」

瑛祐は、録画映像に出ていた瑛海を見て、思わず立ち上がる。

『ギギッ!!』

「あっ、何か非常線を突破しようとしてるで!?」
「横溝警部!?」
「姉さん!?」

その時、

ズドーーーン!

『ぎゃわうっ!!』

「え……?」

何者かがダークネスアントを破壊した場面に、一瞬言葉を失う一同。

「だ、誰あれ……?」
「私達じゃないよね?」
「うん、だってみんな、同じ所でバトルしてたもの。」
「じゃあ一体……?」

蘭や青子達が再びテレビを見ると、

『つったく、ホント危ねえトコだったなあ。』
『あ、アンタはまさか……。』
『あっ、あれは、毛利探偵!?』

「お、お、オッちゃん!!?」
「お、お父さん!!?」
『えええーーーーーーーーっっっ!!!?』

その光弾を撃った主――毛利小五郎の姿を見て、何やら信じられないモノを見たかのような顔つきになるコナンと蘭、そして一同。

『な、何で毛利探偵がここに!?』
『キッドから宝石を守るよう依頼を受けてここに来たら、このような事に巻き込まれてしまいまして……。』
『あんた……本当に災厄を呼ぶ男だな……。』

「す、凄いですね、毛利探偵……。」
「あのオッちゃん、銃の腕前、メッチャ凄いやん……。」
「それにしてもオッちゃん、『災厄を呼ぶ男』とは凄い言われようだな……。」
「それはオマエかて同じやないか、工藤。」

すかさず突っ込む平次。

『皆様、何と、眠りの小五郎です!彼は優秀な探偵ですが、どうやら、この怪人達とも戦っている模様です!』
『フッ……怜奈さん達のようなご婦人をお守りするのが、私の役目ですから。』

「お、お父さんたら……。」

すかさず、ポーズを決めてカメラに向かう小五郎に呆れる蘭。

「この場面が無ければ、あの小母さんもオッちゃんの事を見直すんだけどな……。」

コナンはふと、蘭の母で小五郎の妻の妃英理の事を思った。



  ☆☆☆



同じ頃……。



『つったく、ホント危ねえトコだったなあ。』
『あ、アンタはまさか……。』
『あっ、あれは、毛利探偵!?』

「こ、こ、小五郎!?」

自宅にて、愛猫のゴロに餌をあげながらテレビを見ていた英理は、突然小五郎がダークネスアントを破壊した場面を見て、思わず驚いてしまう。

『な、何で毛利探偵がここに!?』
『キッドから宝石を守るよう依頼を受けてここに来たら、このような事に巻き込まれてしまいまして……。』

「ふうん、なかなかやるじゃない。結構カッコいいわね……。」

小五郎の射撃能力の高さを周知している英理は、まんざらでもない気分だった。

が、

『皆様、何と、眠りの小五郎です!彼は優秀な探偵ですが、どうやら、この怪人達とも戦っている模様です!』
『フッ……怜奈さん達のようなご婦人をお守りするのが、私の役目ですから。』

「ぜ、前言撤回だわ……!!!」

額に怒筋を浮かべてピクつきながら、テレビを睨み付けていた。



  ☆☆☆



そしてまた同じ頃……。



「千葉!高木や佐藤さんとの連絡は!?」
「それが、ケータイの電源を切ってるらしく、一向に連絡がつかないんですよ。」

警視庁の捜査一課も、担当違いにも関わらず、所属員の高木警部補と佐藤警部が宵の口のみなとみらい大バトルに参戦していたのを受けて、大混乱していた。

「まあ落ち着け。つい先ほど、服部警視長から、二人に強制的に休みを取らせるとの連絡が入ったぞ。」
「えっ、や、休みですか……!?」
「そうだ。それにそもそも高木と佐藤は、服部警視長が当捜査一課と兼務の上で、特殊能力捜査部員として抜擢したのは、君達も周知の通りだろう。」

一同をたしなめる黒田管理官。

「ですが、まさかあのような危険な任務だったとは、先ほどの映像を見るまで思いもよらなかったですよ。」

現実に起きた非日常的な光景を思い起こして戦慄する白鳥警部。

「まあ、私もそうだが、見る限りでは、二人とも服部警視長の期待に十二分に応えてるじゃないか。」
「管理官の言う通り、アレだけのバトルをした以上、二人の疲労困憊度はワシ等の想像を絶するものがあるはず。だから、今日一日ぐらいそっとしておいても良いのではないかね?」
「それはわかるのですが……。」

目暮警部の説明にも何気に納得がいかない様子の強攻三班の面々。

「しかし高木のヤロー、佐藤さんと二人で、バケモノ退治をするたあ、何て羨ま……いや……。」
「しかも、すっげー息が合ってなかったか!?」
「それにしても、よりによって高木を警部補に抜擢するとは、あの服部警視長、一体何を考えて……。」

担当違いなのを良い事に、強攻三班の刑事達の、高木警部補への嫉妬が至る所で噴き出ていた。
そんな彼等の様子を見た千葉刑事は、

「高木さん、一課に来たら、間違いなく十字砲火を食らうだろうな……。」

と同情していた。



  ☆☆☆



再びパララケルス大使館にて……。



「それにしても、夕べの様子が全国放送されてるなんて、今頃は日本ばかりか、世界中で大騒ぎだろうな。」
「そりゃそうでしょ。何たって、今までの『常識』を根底から覆す事件なんだから。」

夕べの様子がテレビで放映されていた件について、コナンや快斗達が色々と議論を交わしていた。

「まあ、『魔法』とかの特殊能力が関わる事件は、はるか昔から既に存在してるだろうけど、今回のようにモロに表面化したってのは、未だかつて無かったからな。今頃はマジックギルドばかりか、色んな特殊能力団体も大騒ぎしている事だろうよ。」
「シャドウエンパイアも、自分達の事が明るみに出れば、色々とやりづらいだろうに、そんな事もお構い無しにあんな行動に出たって事は、ある意味俺達だけでなく、色んな世界全てに対して、宣戦布告をしたって見ても差し支えないだろうな。」
「新一……黒羽君……。何だか、すごく怖い。シャドウエンパイアって、一体、何を考えているのかしら?」

不安になる蘭。

「黒羽君、君に異を唱える積りはありませんが。もし彼らが、明るみに出たらやりづらいと思っているのなら、ああいった行動は取らないと思います。もっと秘密裏に行動を起こすのではないでしょうか。だから、彼らの行動は、むしろ世間に自分達の存在を知らしめる『示威行動』ではないかと、僕は推察しますね。」
「成る程、それは一理あるかもな。」

探の言葉に、コナンは賛同の意を表し、哀がそれに疑問を差し挟んだ。

「でも、私達への示威はともかくとして、世間に知られて何の得がある訳?」
「ハッキリした事は……全ては推測でしかないですから。ただ、世間がパニックになるとかえってやり易いとか、そういう面はあるかも知れませんよ。」

快斗が難しい顔をして、言った。

「白馬、実は俺も正直な所、それを考えてはいた。ただ……あまりにも推測ばかりの上に、怖い予想になるんで、言うのを躊躇ってたんだが。シャドウエンパイアが、その存在を明らかにして。で、標的にしている対象をどこかで公表したとするだろ?だったら、どうなると思う?」
「どうなるって……。」
「世間の人々がその恐怖から逃れる為には、標的である者達を抹殺・排除・あるいはスケープゴートとして差し出したりする事がある。つまり、我々が何も悪い事をしていないのに、世の中から追われてしまうように仕向けられる事だって有り得る。黒羽は、その可能性を考えてんだろ?」
「ああ。歴史上、人々は必ずしも理不尽な仕打ちに立ち向かうのではなく、火の粉が自分達に降りかからないように、標的となった者を売る可能性があるからな。」
「ぞっとしませんが……その可能性は、考慮して覚悟しておく必要があるかも知れませんね。」

そのやり取りに、蘭が異論を挟んだ。

「でも、世の中には隣人を売る人ばかりがいる訳じゃないわよね?逆に、標的となった者達を庇って協力して、巨大な敵を打ち破る例だってあったじゃない。現に、黒ずくめの組織と戦った時も。」
「ああ。勿論さ。世の中の人々に良心だって勇気だって、存在している事も分かっているし信じている。だが、シャドウエンパイアが、さっき黒羽が言ったような事を考えて行動している可能性も、考えて置く必要はあるって事だ。俺達がしっかりして、奴等に先手を取らせなければ、むざむざ奴等に踊らされはしねえ!」

コナンの言葉に、大きく頷く一同。
初音が、頼もしげに一同を見渡して、言った。

「その意気や。そんだけの覚悟と冷静な判断力があれば、敵がどんだけ大きゅうて悪賢い言うても、あんたらC‐Kジェネレーションズに取っては、恐るるに足らずや!」
「ああ…………って、え!?C−Kジェネレーションズ!?」
「な、何だよそれ!?」
「あの……『あんたら』って、僕達一纏めですか?」
「ああ、そやけど?」

事も無げに答える初音。

「あっさり言うなや、初姉!大体『C−Kジェネレーションズ』って、『コナン・キッド世代』って意味やないか!!」
「おお、さすが西の名探偵!一発で意味を知るたあ、ホンマに大したもんやなあ。」
「いや、それほどでも……って、ちゃーーう!!」
「僕も、そのようなチームに勝手に入れられるのは、ごめんこうむりますね。チームでと言うのも納得出来ない上に、工藤君や黒羽君の下に立つのは、承服できませんし。」
「せやせや、工藤だけならまだ我慢出来るけどな、何でオレが黒羽の手下にならなあかんねん!」

抗議する探と平次。

「手下やなんて人聞きの悪い。二人はチームリーダーいうだけで、別に上司と部下の関係やあらへんで?」
「あのなあ、俺は別にタッグ組む気も、サブリーダーになる気も、全くないぜ!」
「けど、いつの間にか自然にチームになっとるし、コナンと快斗が自然にリーダーシップ発揮してるで?気付いてへんのか?」

そこへ、今迄黙っていた女性陣から、声が上がった。

「そうね、確かに、いつの間にかみんな仲間だって感じになってるし、新一と黒羽君が自然とみんなを引っ張っているわよね。」
「悔しいけど、アタシもそないに思うわ。」
「……ふう。同感ね。何だか、初音さんの掌で踊らされたような気もするけど。」

一同がざわめくが。
ハッキリと異議を呈したのは、探と平次の二人だけで、後は何となく黙認という流れになっていた。
そこへ、瑛祐が根本的疑問を口にした。

「あの。そもそも、僕達って13人もの大所帯チームですけど。何で、僕達が勇者として選ばれたんですか?たまたま、昨日集まったメンバーが、そうなっただけなんですか?」
「……ほう。ええとこに気ぃついたな。腕輪は、元々作ったのが13個、あの場に皆が居合わせたのも、偶然やあらへんのや。」
「なるほど。考えてみれば、あの『ウィングトパーズ』は、パララケルス王国の至宝。最初から、キッドへの餌にする気だったんだな?そして、テレビスタッフにも協力者がいる。初恋物語のクランクアップは、わざと、満月の日に設定させたって事なんだろ?」

コナンが、静かな声で言った。

「……流石やな。ウチが見込んだ以上の男やで、あんたは。」
「『初恋物語』のロケ見学を餌に、色々と裏で手を回して調整して、望む人物を集めるように細工して。瑛祐には怜奈さんを通じて、恵子さんには紅葉さんを通じて、それぞれあそこに来るように仕向けた。」
「ウチが、あんたをリーダーにと考えたんは、そういった面もあんのやで。ま、そんだけやないけどな。平次や白馬っちには不服かも知らんけど、コナンと快斗には、人を惹き付け動かす、王者に通じる風格があんのや。」
「そうですか。では、リーダーに関しては、一応納得という事にしておきましょう。僕の役者不足という事でしょうから。ただ、本堂君が言った疑問にまだ答えてもらっていませんが?」
「13人のメンバーがどうやって決められたかって事やろ?」
「初姉、まさか神のお告げなんてアホな事言うんやあらへんやろな?」
「……。当たらずとも遠からず、や。」

初音のその言葉を聞いた途端、皆脱力して引っ繰り返った。

「これこれ、話はちゃんと最後まで聞くもんやで。あんたら13人には、皆、素質があるんや。光の勇者となれる素質がな。」
「え!?」
「あの腕輪をつければ、誰でも光の勇者になれるんじゃないの?」
「ちゃうちゃう、あん腕輪は、潜在的に持っとる力を引き出すだけの、媒体に過ぎへんのや。素質がないもんが持っても、ただの腕輪でしかあらへん。」

一同皆、自分達にそのような素質があるとは夢にも思わなかったので、驚いていた。

「ええ?じゃあ、真さんはともかく、私にも、その力があるって訳?」
「ええ、嘘っ、私にも!?」
「ぼ、僕に、そんな力が……。」

「なあ、じゃあ、俺達はもしかして、訓練すれば腕輪がなくても、力が使えるのか?」
「そら、無理やなあ。光の勇者としての力は、厳しい訓練を10年以上は積み重ねんと、使いこなせるレベルにまでは到達でけへん。あんたらが1から修行しとったら、力を会得した頃には、シャドウエンパイアに人類は滅ぼされとるで。」
「つー事は、アイテムを使わねえと、俺達の力は使い物にならねえって事か。マジックギルドも切羽詰ってんだな。」
「なあ、気になったんだけど、マジックギルドには、アルファトゥオメガがあるだろ?わざわざC−Kジェネレーションズなんて新チームを、それも、アイテム使って無理に力を引き出してまで、作る必要があったのか?」
「快斗、エエとこに目ぇつけたなあ。実を言うとな、アルファトゥオメガが使う魔法の力は、光の力とちいと違っとるんや。現にあの女王アリには、菫や舞の力が全然通用せえへんやったやろ?」
「あ、そう言われれば、確かに。」
「まあ、力が通用するもんも居る。けど、少数派で、光の力に比べたら弱い。闇をはらうんは、何と言っても光。シャドウエンパイア相手には光の勇者チームが絶対に必要やってんけど、あんたらを今から修行させたんでは間に合わへん。せやから、今回はこういう強引な手法を使わせてもろたんや。」
「……という事は、光の力とは、今私が使っている力とも異なるものですの?」
「紅子は、このメンバー中唯一魔法と身近に接しているんやったな。せや、光の勇者は、特別な存在やってん。ウチにもそん力はない。媒介する為のアイテム作りなら、出来るけどな。」
「そも、光の力とは?アルファトゥオメガが扱っている魔法の力とは?何なんだ?」
「簡単な事や。『魔法』とは、この地球や宇宙にある『気』を扱う事。そして『光の力』は、『心』の力そのものや。」
「『気』?」
「『心』?」
「そ。」
「なるほど。確かに『気』と『心』はカテゴリーが全く異なるよな。」
「正に似て非なるものやな。」

恵心するコナン達。

「あのー、『気』ってもしかして、『四大元素』と関わりがあるんじゃないですか?」
「おっ、鋭いトコ突いとるな、蘭々。」
「『四大元素』は『気』の最たるもので、水素や酸素、鉄やウランなどの地球や宇宙を形成してる元素には、必ずその要素が最低でも一つは組み込まれていますのよ。」

紅子が説明する。
それに続いて、

「例えば、水素は酸素と反応させる事で『水』になる事から文字通り『水』の要素が入るけど、同時に『熱』も生み出すから、その元である『火』の要素も持ち合わせてる事になるの。」
「言わば『魔法』は、地球や宇宙の原理を司るその要素を操る為の『方法』と言っても過言ではありませんわ。」
「これは自然の力を用いる『忍術』も同様でござる。」
「ウチの『神鳴流』もそやで。」

アルファトゥオメガのメンバーも補足説明をした。

「で、それに対して、『心』の力は、一口で言えば、『自身の内なる力』と言っても良いよな。」
「言われてみればそうですね。この力はある意味、『気』よりも遥かに制御が難しいものですからね。」
「ホンマそうやね。でなきゃ、殺人事件や今回のような事なんて、起こる訳無いやん。」

納得する和葉。

「で、俺達にはその『心』の力を制御するだけの資質がある、って訳なのか。」
「そうやで。その資質があるからこそ、あの黒尽くめの組織を倒す為に、コナン達に多くの協力者が集まって、遂にそれを成し遂げたんやろ?」
「オレ自身にも光の力はあんのやけど、工藤の方がその力が強い。せやからオレは、工藤っちゅう男に会いに、東京まで行く気ぃにもなったし、会うてまえば工藤に共鳴して協力する気ぃにもなったっちゅうこっちゃな。」
「はああ。平次が工藤君に惚れたんも無理なかったっちゅう訳なんやな……。」
「?和葉、変な言い方やなあ。男が男に惚れるんは、よっぽど相手の力を認めたいう事なんやで?」
「……何か、和葉ちゃんと服部君の言葉、微妙に噛み合ってなくない?」

(おいおい……。和葉ちゃんも蘭も、まさか若い女の子の間で流行っているらしい、や○いとやらに、毒されてんのか?男同士、友情は感じても、それはあんなのとは別もんだって。)

妙な雑学知識が沢山あるコナンは、何故かや○いについてもおぼろげながら知っていた。
平次にはその手の知識が皆無らしい事に、感謝して良いのかどうか、複雑な気分になるコナンであった。

「ふう。それにしても、こんなに狭い範囲の身近な人間達が、光の勇者だったなんて偶然、出来過ぎてんよなあ。」
「偶然……とも、言えへんなあ。実は、マジックギルドでは、光の勇者は身近な場所に生まれ、そして惹き合う運命にある、そう言われてるんや。だから、一人見つかれば、後は芋づる式に見つかるさかい、探すのが結構楽やってん。」
「はあ……成る程。」
「平次はウチの血縁・従姉弟やから、何らかの魔法の力は持ってるやろ思うて調べとったんやけど、何も出てけえへんで、そっちの才はあらへんのかと思うとった。光の勇者としての力を秘めとったとは、最近まで分からんかったんや。」
「じゃあ、私達が住まいが近所になったり同じクラスになったり、転校して来たり旅先で出会ったりって、偶然じゃなくて、運命だったって事なの?」

初音に問う園子。

「運命っちゅうより、光の勇者の潜在パワーは、運命の出会いを変えてまう位の力を持ってんで?」
「じゃあ、このチームの中に、カップルや親友が多いってのも、それは……。」
「光の勇者としての力で惹き合って出会ったからって事?」
「わあ、運命の出会いって、何かロマンチック〜!」

女性陣が、思わぬ事に興奮して頬を染めていた。

「あ、じゃあ僕も、この中で恋人が出来るんですかね?恵子さん……?」
「だからどうしてそこで、一人身の私にコナかけるわけ?下心見え見えで、何かサイテー。」
「そそそ、そんな積りは。でも僕だって、可愛い恋人の一人や二人、欲しいですよ〜。」
「一人や二人〜?」
「あ、間違えた!一人、一人でいいんですってば!」
「……あ〜あ。見た目が可愛い『女の子』の瑛祐君も、中身はやっぱ、男の子か〜。」
「園子さん、それってどういう意味なんですか!?」
「ねえ、瑛祐君、真さんの逞しさにくらっとなったりとか、服部君のワイルドさに憧れたりとか、しない?」
「……?そりゃ、そんな風になれたらなあって憧れたりはしますが……それが何か?」
「はあ。やっぱ、中身普通の男の子なのか〜。」

(おいおい、園子のヤツ、まさかこれ……園子もあれか?いわゆる腐女子の仲間なのか?)

「園子さん、私もそれ、分かるわ。この顔で、中身が普通の男の子って、反則よね〜。」

(……もしや、恵子さんも!?勘弁してくれよ、おい……。)

この件に関してだけは、瑛祐が鈍くてよかったと胸を撫で下ろすコナンであった。

(何だかな〜。蘭はそういった話を少しは齧っていても、まさか俺達にそういう疑惑の目を本気で向ける事は、まさかねえよなあ。)


けれど実は、蘭はコナンの心配とは全く別のところで、顔を曇らせていたのである。

(光の勇者同士は、惹き合う運命にある?もしかしたら、新一も、幼い頃から私が傍に居たから、惹かれる感情を恋心と勘違いしているだけで……もしかして、新一の運命の相手は、必ずしも私とは限らないのかも。)

蘭の視線は、数奇な運命でコナンと巡り会った少女・灰原哀に向けられていた。

(私は……新一を本当に好きになったのは、高校1年のあの旅行の時だから。自分の気持ちが錯覚じゃないって、自信がある。でも、新一は、子供の頃から好きだったって言ってくれた。それを、疑う訳じゃない、新一を信じていない訳じゃない、でも、子供の頃から傍に居たから、新一自身も錯覚しているだけなのかも知れない。)


「蘭?どうしたの?」

園子が小声で蘭に言った。

「園子……。どうもしないよ。何で?」
「だって……顔色悪いよ。蘭、心配しなくたって、コナン君……もとい、新一君は、蘭一筋で、絶対浮気なんかしないって。」
「うん。新一が浮気なんかする筈ないって、それは信じてる。」
「だったら……。」
「新一が、私以外の女性を見る時は。浮気じゃなくって、きっと本気だもの。」
「ら、蘭!?何を馬鹿な事を!?」
「……ごめんね、園子。変な事言った。気にしないで?」

それ切り蘭は、口を閉ざし。
園子は何と言ってあげたら良いのか、言葉が見つからなかったのである。

「……え、えーと……ん、あれ?」

何とか話題を変えようとした園子は、ふと、大広間の北側に飾られている大きな写真に目を留めた。

「ねえ、初音さん。」
「どしたん、園子?」
「あの大きな家族写真、一体何?」
「ああ、あれか?あれは……。」
「あれは私と、先王である父のレオ・タイガ・レムーティス、先王妃で母のミレイ・ルーティア・レムーティス、そして姉のサリー・ライア・レムーティスの家族写真です。」

説明するレオン。

「えっ、レオン王太子のお父さん?」
「お父さんって、今の王様じゃないの?」
「ええ、今の国王は、先王である私の父の弟で、私はその養子として、王太子の地位にあるのです。」
「そ、そうなの!?」
「全然知らなかったわ。」
「それで、あなたのお父さんはどうなさったんですか?」
「それは……。」

恵子の問いに、途端に俯くレオン。

「あっ、す、すいません!何か悪い事を聞いちゃったみたいで……。」
「恵子、オメー、幾らなんでも、聞いて良い事と悪い事があるんじゃねーのか!?」
「待って下さい、快斗さん。別に隠してる訳じゃなくて、それに聞かれて困るものでもないですから、私こそ何か迷惑をかけてしまったみたいで、申し訳ございませんでした。」

恵子や快斗達に謝るレオン。

「ほう、結構奥ゆかしい人だな。」
「決して自分を高ぶらないトコがええな。」

コナンや平次も、レオンの立ち振る舞いに感心する。

「それで、私の家族の話なのですが。」
『!』

レオンの言葉に注目する一同。

「私が19年前に生まれてから半年後に、パララケルスで内乱が勃発しまして……。」
「な、内乱!?」
「内乱って一体何が!?」

ざわめく一同。
その時、

「『開明派』の国王と、『守旧派』の王族との争いだろ、王太子?」

コナンが指摘した。

「はい、そうです。」
「うわあ、さすがは新一君、色んな事を知ってるだけの事はあるわね。」
「で、その争いって?」

尋ねる瑛祐。

「あの当時のパララケルスは、国力増強の為に一般から人材を募ろうとしたレオ国王と、自分達の既得権益を死守しようとする、マグマ大公を中心とする王族たちとの間で勢力争いがあったんだ。レオ王は王族達を排除しつつ、有為の人材を適所に配置して政治を司らせ、軍も信服させて、見事に国力増強を成し遂げたんだ。」
「これに不満を持つマグマ大公達守旧派王族は、レオ王を退けようと画策したのですが、彼等は軍からの評判も悪かった為に、うまく行かなかったんですよ。ところが、王族達はどういう手段を使ったのか、軍を圧倒して、遂には国王夫妻を暗殺してしまったのです。」
「えっ!?」
「な、何で!?」

探の補足説明に驚く園子達一同。

「でも、その王族達って、軍の支援も受けられないのに、どうやって国王夫妻を暗殺できたの!?」
「つーか、軍を圧倒するなんて、一体王族達は何の手段を使ったんですか!?」
「『魔法』ですわ。」
「ま、魔法……?」

桐華の説明に注目する一同。

「夕べのみなとみらいの時のように、守旧派王族達は、『式神』を使う暗黒魔術師を味方にして、パララケルス国軍を圧倒したのです。」
「あ、暗黒魔術師!?」
「国の内乱に、暗黒魔術師を引き入れたのですか!?」

驚く園子と真。

「なるほど、『式神』なら、夕べのシャドウドールの様に実弾は全く通用しねーから、軍を圧倒できてもおかしくはねーな。」

得心する快斗。

「父上と母上は、私と姉上を逃がす為に、自らが囮となって、王族達に戦いを挑んだのです。ですが、式神相手に二人とも敢え無く……。」
「殺されちゃったの!?」
「酷い!何て事なの!?」
「国民の為に努力する人を、自分達の欲望の邪魔として殺すなんて、とても信じられません!」

国王夫妻の死の話を聞いて憤る一同。

「それで私は、乳母や旧臣達の尽力で、当時大阪にいたアストラ義父上の所にうまく逃げ込む事が出来まして、話を聞いた義父上はすぐにでも国を取り戻す為に動こうとしたのですが、あの強力な式神軍団を倒す為に有効な手段が見つからずに苦慮してました。」
「うーん……、確かにそうよね……。」
「通常武器が使えない相手を何とかしない事には、どうにもならんものでござるからな。」
「ですが、天は義父上達を見捨てませんでした。義母上の父君がとても頼りになる方を紹介してくれたのです。」
「義母上って……初音さんのお母さんの?」
「て事は、服部のお爺さんか!?」
「なっ、オ、オレのジッチャンが!?」

初耳な事に驚く平次。

「はい。貴方のお爺様が紹介して下さった方こそが、義姉上が今属しているマジックギルドの長・グランマザーだったのです。」
「グランマザー……。」
「マジックギルドの長……。」
「グランマザーは、義父上やパララケルス国民の危難を救う為に、勇者を遣わしてくれました。それがあの人達です。」

レオンは、国王家族の写真の向かい側の、大広間の南側に飾られた写真を示した。

「あの中心に写ってる金髪碧眼の青年が若い頃の王様?」
「そうです。若き日のアストラ・タイガ・レムーティスです。」
「結構カッコいいですよねえ。」
「王者の風格が感じられるわ。」

アストラの容姿の良さに感心する一同。
だが、

「そして、その周りにいるのが、アストラ王子を助けた勇者か…………って、な、なんだこりゃ!?」
「ちょ、ちょお待てえや!な、何やこれ!?」

更に写真を見たコナンと平次は、何かとても信じられないモノを見たかのような表情になった。

「えっ、う、嘘お!?」
「な、何でこの人が!?」

蘭や園子達も大いに驚いた。
何故なら、

「あの人達こそ、義父上と共に我々のパララケルス王国を救ってくれた、勇者『パララケルス7』メンバーの工藤優作様に藤峰有希子様、服部平蔵様に池波静華様、そして、風見原明弘様に星野希良々様です。」

とレオンが説明しながら指し示した写真の中に、自分達が一番良く知っている面々が名を連ねていたからだ。

「ハハハハ、俺こんな話、初耳だぞ……。」
「オレも、オヤジやオカンばかりか、ジッチャンからもこの事聞いたこと無いわ……。」
「ねえ、真さん。陽介さんの両親も入ってたけど、この話は陽介さんから聞かされてなかったの?」
「ええ。実は私もこの話は今回初めて知りまして。」
「まあ、この事は親父やお袋から固く口止めされててな。」
「それじゃ真さんが知らないのも道理よね。」
「ほーっ、売れっ子の推理小説家と、伝説の女優が勇者とはなあ……。」
「服部本部長とその奥方があのようなご活躍を……。」
「陽介さんがマジックギルドメンバーになったのも、ご両親の縁からだったのね。」

コナンと平次は、自分達の両親の事だったので、それこそ心臓が引っ繰り返る位に驚きはしたが、順応性が高く肝っ玉の太い二人のこと、すぐに立ち直って冷静に話に加わった。

「なあ、初音さん。」
「何や、コナン?」
「有り体に訊くけど。マジックギルドは、独立国家の内政問題に干渉する事ってあんのか?」
「な、な……パララケルスの人々を救ったのに、しかも、コナン君のご両親の事なのに、何て事を!?」
「いや、コナンが言う事は大事な事だぜ。正義の名の下に他国の内政に干渉する事が、本当にその国の為だったのか、歴史を振り返ってみても、そんな単純な事じゃねえって、分かってるだろ?いくら、レオ王が英明で、レオ王を暗殺した王族が愚鈍であっても、本来だったらその国民が自分達で何とかしなきゃならねえ事だ。外部からの助力なんてな、ロクな事にはなんねえんだぜ。」

コナンの言葉に、瑛祐が抗議し、それに快斗が反論した。

「あんた達はウチが見込んだ通りの男やな。青い正義感で目が眩んだりせえへんで、冷静に分析出来るんは、流石や。確かに、コナンや快斗の言う通りや。そしてそれは、マジックギルド設立当初からの鉄則でもあんのや。マジックギルドが干渉するのは、あくまで、魔法や特殊能力が使われる範囲においてや。魔力とは関わっとらん政治的問題には、どの勢力にも絶対与したりせえへん。それに反した者には、厳しい裁きが待ってんのやで。」

初音の言葉に、皆、息を呑む。

「ま、魔法を初めとする特殊能力をやたらな事に使うたらアカン、いうこっちゃ。」
「ええ、それは……分かりますわ、魔法を扱う者の一人として。」
「成る程な。特殊能力が使われる部分にだけ、介入するって事か。」
「せや。それは、厳しい線引きがしてあんのやで。」
「確かに、そのパララケルスのケースでは、守旧派王族が明らかに暗黒魔術師という、最悪の干渉を引き寄せたのだから、マジックギルドが関わるのも当然よね。」

哀の言葉に頷く一同。

「それで、パラケルスの内乱はどうなったんですか?」
「優作さん達とパララケルス本国に戻った義父上は、亡父が苦心して打ちたてた国民の為の政治を踏みにじって、恐怖政治を行うマグマ大公達守旧派王族に激しい怒りを催して、旧王国軍を再集結させた上で、攻め込んだのです。守旧派王族達は式神を送り出したのですが、優作さんや平蔵さん達の猛攻の前に式神の兵団は全て壊滅して、武力を失ったマグマ大公達は、間際に国外に脱出亡命した者達を除いて、全て逮捕されました。そして、無理やり脅迫されて行動していた者達以外は、国家反逆罪で全て処刑されたのです。」
「なあ、王太子。それはあくまでも『法』の裁きをきっちりと下したと言う事か?」
「それは勿論です。捕らえた旧王族達をその場でいきなり処刑したりせずに、法に則って、徹底した調査の末に、マグマ大公等の首謀者達には国家反逆罪を、それ以外には罪の軽重に応じて法の裁きを下しました。」
「ほう……。」

大いに感心する探。

「その国家反逆罪の決定打になったんが、『魔法』を介入させて、先王夫妻を暗殺し、国家そのものに多大な損害を与えた事やな。」
「まあ、当然だな。」
「それにしてもアストラ王って、大切な家族と国民を殺されたにも関わらず、その場の感情に囚われずに、仇敵をちゃんと捕らえてから法の裁きをきっちりと受けさせると言う所がとても立派じゃないですか、殿下。」
「そうですね。義父上も本心では、敬愛する兄夫婦を殺した奴等をその場で八つ裂きにしたかったのでしょうが、それでは自分達も、その旧王族達や殺人犯達と変わらない事を自覚して、自らを律した所が偉大だと私は思います。」
「それって何か、以前工藤が長門邸での事件の時に言うとった事と何か通ずるモンがあるな。」
「えっ、新一あの時、服部君に何て言ってたの?」
「『犯人を推理で追い詰めて、みすみす自殺させちまう探偵は…殺人者とかわんねーよ…。』って言ったのさ。」
「うわあ、新一君って、私達の年でそんな心境に到達するなんて、本当に凄いわね。」
「ある意味へーたんよか立派やん。」
「そやねえ。」
「ほっといてくれや!!」

その時蘭は、その話をしたコナンの表情に、ふと影が落ちていた事に気づいた。

(新一、やっぱりあの月影島の事が……。)

そんなコナンの雰囲気を見逃さなかった初音は、話題を変えるように、

「そして王位に就いたオヤジは、オカンや国民と共にそれこそ身を粉にして、王国再建の為に尽力して、遂にはパララケルスを南国一の強国と謳われるまでに立て直したんや。」

と話を向けた。

「ほーっ、それは凄いなあ……。」
「正に人徳のなせる業だな。」
「アストラ王って、ホント立派な王様なのね。」

コナン達は一様に、アストラ王を褒め称えていた。
その時、

「あ、そう言えばふと思ったんだけど。」
「どうした、灰原?」
「守旧派王族に加担した『暗黒魔術師』って何者?それにその魔術師はどうなったの?」
「暗黒魔術師・ババルウの事ですね。奴はマグマ大公の知り合いの伝で参陣して、父母を抹殺したのです。しかし、優作さんや平蔵さん達に敗れまして、義父上達は奴を拘束して背後関係を調べようとしたのですが、突然急死してしまいまして、結局判らずじまいになってしまったのです。」
「なるほど。でも恐らく、背後関係を知られたらまずい何者かによって、口封じの為に消されたのかもしれねーな。」
「それは大いにありうるな。」
「それってホント恐ろしいよね。」

頷く一同。
その時、

「あ、そうそう。もう一つ聞きたいんですけど。」
「何か?」
「殿下のお姉さんのサリー様はどうなったの?殿下みたく、無事に脱出できたの?」

青子がレオンに尋ねた。

「実は、内乱直後に行方不明になってしまいまして、未だに消息が不明なのです。」
「行方不明!?」
「ええ。」
「脱出に失敗して、亡くなったのではないのですね?」
「そうです。」
「でも、どうしてそう言い切れるのかしら?」
「裁判の過程で、守旧派王族にその事を厳しく問い質したのですが、姉上を見た者は誰一人いなかったのです。それに……遺体も発見されていませんし。私も、義父母も義姉上も、姉上は絶対に生きていると信じています。」
「そうですか……でも、きっといつか……見つかりますよ。」
「ありがとう。絶対に見つけると、誓っています。私には、たった一人の姉ですから。勿論、義父母にも、義姉上にも、とても良くして頂いていますが……。」
「ウチ等に遠慮せんでええ。実の姉が生きとる可能性が高いんやから、その存在を求めるんは、当然やろ?」
「その王女様、見つける為の手掛かりになるものはねえのか?」
「まずは、容姿の特徴。銀髪にエメラルドグリーンの瞳、雪のように白い肌。この組み合わせは、居ない訳ではないがそうそう多くはないですね。そして、この王家に多く出る特徴として、痣があります。」

そう言いながら、レオンは上着を緩め、自分の右鎖骨の辺りを皆に見せた。
そこには、百合の形の痣が、くっきりと浮き出ていた。

「姉上には、これと同じものが、左肩甲骨の辺りにあったそうです。」
「特徴としては分かり易いが……女性のその場所だと、ちっとばかり厄介だな。」
「そうですね。水着姿にでもならないと……一々脱がせる訳にも行きませんし。」
「まあ、訊くだけなら出来ん事もないけどな。」
「銀髪エメラルドグリーンアイの、24歳前後と見られる女性がいたら、片っ端から聞き込みか?それも、何だかな〜。」
「地道な調査は、続けているのですがね……。」
「その方の指紋データや、網膜データ、DNAのデータなんかは、残ってるの?」

園子が尋ねる。

「残念ながら、内乱で殆ど失われてしまいました。ただ、DNAに関しては、運良く臍の緒が残ってまして、そこから再びデータをとる事が出来ましたが。」
「でも、DNA登録をしている人物の方が、圧倒的少数派だ。疑わしい相手に、DNA鑑定させて下さいと頼んでも、簡単にうんとは言わねえだろうし。」
「他には?王女様が身につけていたものとか……。」

次に恵子が尋ねた。

「実は、姉上失踪時には、ガイアのブローチと呼ばれる王国の秘宝を身につけていました。」
「ガイアのブローチ?って?」

今度は瑛祐が問いかける。

「中心部に、エターナルカオスと呼ばれるブラックダイヤモンドが嵌ったブローチです。」
「エターナルカオス……永遠の混沌、か。しかもブラックダイヤモンド?何かえらく不吉そうな感じだな〜。」
「新一!それはあんまり失礼じゃ……。」
「いえ、構いませんよ。宝石の類の中には、呪われし力を秘めている為に、一般の人が手に入れ身につける事は危険なものが確かに存在します。あのエターナルカオスは、パララケルス王家の血を色濃く持つ者にしか、制御出来ないと言い伝えられているそうです。」
「成る程。呪いの力で、逆にガードさせているという訳か。」
「ええ。姉上が生きていると信じているのは、その秘宝の加護があるだろう事も、考えての事。それに、ガイアのブローチはそれ以降世に現れていない。今でも姉上が持っている筈だと思います。」
「きっと、お姉さんと、また会えるわ。」
「ああ。そうだな。俺達の世界は狭いが、それでも、該当するような人物を見かけたら、アンテナを張っておく事にするぜ。」

力強く約束する蘭とコナンを、レオンは笑顔で見ていた。


「あの〜……。」
「何だ、瑛祐?」
「僕、ふと思ったんですが。そのエターナルカオスって、もしや、パンドラじゃないでしょうか?」

コナンに尋ねる瑛祐。

「……そりゃ、ねえと思うぜ。初音さんが言うには、パンドラは4つで、それぞれ赤、青、黄、緑の色をしているんだそうだから。」
「そうですか……やっぱり僕なんかの思いつきは……。」
「いや、案外そうでもねえぞ。瑛祐の思いつきは、意外と良い線行ってる事が多い。そのエターナルカオス、パンドラじゃないにしても、大きな力を秘めたビッグジュエルである事には違いねえし。」
「コナンの言う通りだぜ。だからそんなに気を腐らすなって。」
「いやあ、ありがとうございます。」

コナンや快斗の心遣いに感謝する瑛祐。

「あ、パンドラと言えば初音さん。」
「何や、蘭々?」
「初音さんや舞ちゃん達は、どうしてパンドラを捜し求めてるんですか?」
『!』

蘭の問いに表情を引き締めるアルファトゥオメガ一同。

「それは俺も知りてーな。まだそのはっきりとした理由を聞いてねーし。」
「あの組織が血眼になって探していたパンドラを、初音さんや風吹達も探してるのには、きっと何か理由があると思ってるんだ。それもかなり大きな理由がな。」

C-Kジェネレーションズ一同の視線が、初音に集まる。

それを受けて、

「知りたいか?」

と席を立ち上がりながら、問い返す。

「ああ、知りたいね。」

コナンの答えに対して、初音はその場にいる一同全員を見回して、いつに無い真剣な眼差しでこれに応えた。


「なら、アンタ等に見せたるわ。ウチ等が何故パンドラを必要とするかを。」



To be continued…….





Vol.7「覚醒!C-Kジェネレーションズ」に戻る。  Vol.9「眠れる杜の王妃と光の誓い」に続く。