C-K Generations Alpha to Ωmega



By 東海帝皇&ドミ



第一部 勇者誕生編



Vol.9 眠れる杜の王妃と光の誓い



「うわー、結構木々が多いトコやねえ、ここ。」
「冬の今は葉が落ちて寒々としてるけど、夏になったら、うっそうと緑が茂るようになるのよ。」
「そうなん、蘭ちゃん?」
「この小山は、大使館が出来る前から緑が多くて有名だったんだ。見た限りでは、木々にほとんど手加えてないようだな。」
「そらそーや。ここに大使館を立てる際に、あまり木々を伐採しない事を条件にしたさかいなあ。」

初音に連れられて、大使館敷地内を歩く一同。

「所でレオン、オカンの様子はどや?」
「いえ、ずっとあのままです。」
「そっか。」
「ん、どうしたんだ、初音さん?」

初音とレオンの話を聞いて、たずねるコナン。

「まあ、来れば判るわな。」

一同は、警備員が警護している、大きな和風の平屋の一軒家の前で止まった。

「あっ、姫様。」
「ちょっと後ろの客人と入らせてもらうで。」
「ハッ。」

一礼する警備員。

「……。」
「どうしました、紅子さん?」
「この住居、なにやら魔道的な防御を施されているような気がするのですが……。」
「魔道的な防御、ですか……。」

一見、何の変哲もない和風の邸宅を見回す探。

「まあ、中に入ってみれば、その理由がわかるかもな。」
『おじゃましまーす。』

一同は初音やレオンに続いて、一軒家に入って行った。


「このお家、何か見た所、普通の大きなお家みたいだけど……。」
「何の為に造られたんだろうね?」
「茶室か蔵でも入ってるのかな?」
「建造時期自体は大使館と一緒のようだな。」
「そやな。まだ木の香りがするさかいに。」

初音達の後に続きつつ、蘭達もまた、謎の一軒家の中を見回した。


そして、『鳳凰の間』の札が掲げられたある大広間の襖の前に着いた時、

「ここにウチがパンドラを欲する理由があんねん。」

そう言いながら初音は、大広間の襖を開けた。

「あっ、これは姫様に殿下。」

室内にいた一人の長い栗毛の和装の侍女が、初音やレオンに一礼した。

「ちと邪魔するで。」

入室する初音とコナン達。
その時、

「ん、あれは……。」

コナンは、侍女の後ろで、蚊帳のようなもので覆われ、布団で横になっている一人の美しい女性の姿に目を留めた。

「あれ、あの人……。」
「誰か寝てるみたいだけど……。」
「どこか悪いのでしょうか……。」

蘭達も眠っている女性を見た。

最初は、蚊帳に覆われているだけと思っていたが、良く見ると、液体が入ったビニールバッグのようなものが吊り下げられているのが目に留まった。

「ん?あれは、ハイカロリーの輸液バッグじゃねえかな?」
「ええ。鎖骨窩(さこつか)に、IVH(中心静脈栄養)が入れられているみたいね。」

蚊帳に目を通した哀が説明する。

「って事は、この女性は長期間に渡り、意識不明の状態なのか?」
「そのようね。ホラ、小型で目立たないけど、モニター類も接続されているし。一見、ただの布団のようだけど、多分、高性能エアマットで、定期的に体位交換(たいいこうかん=体の向きを変える事)が出来るハイテク医療マットのようよ。」

「ほほお。哀殿は、医療にも詳しいようでござるな。」
「別に。この程度の事は、少し齧った位で分かる事よ。」

そこへ、

「ん、どしたんや?」

後から入室した平次が蘭に尋ねる。

「いや、何か女の人が眠ってるみたいで。」
「女の人……って…………な!?」

平次はその女性の姿を見るなり、何か信じられないモノを見たような表情に激変した。

「おい、どうした、服部!?」
「は、服部君!?」

平次の態度の急変に驚くコナン達。
そこへ、

「どしたん、平次。何があったん…………え、う、うそやろ!?」

平次ばかりか、和葉も眠っている女性を見るや、血相を変えた。

「えっ、か、和葉ちゃん!?」
「ど、どうしたの!?」
「ゆ、優華オバちゃん!?」

和葉は、皆が驚くのも構わずに、悲鳴を上げながら女性の枕元に駆け寄った。

「な、何でや!?何でオバちゃんが!?」

枕元で眠っている女性を前に、身を震わす和葉。

「おい、服部!オメー、この人知ってんのか!?」
「知ってるも何も、この優華オバはんは、オレのオヤジの姉貴で、初姉のオカンや!!」
「な……!?」
「は、服部君の伯母さん!?」
「服部本部長の姉君!?」
「初音さんのお母さん!?」
「て事は、この人まさか王妃様!?」
「つーか、何で王妃様がこんな所に!?」

女性の正体に騒然となる一同。
その時、

「じゃかましいわい!少し黙っとれえ!!」

初音の一喝に、一同は反射的に黙りこくってしまう。

「あ、義姉上、あまり大声を出されては……。」
「おっと、これはスマンかったな。まあ、ちと座ってくれや。」
「どうぞこちらへ。」

侍女が用意した座布団に座る一同。
平次と和葉は、眠っている女性――優華の枕元に用意された座布団に座った。

「……ねえ、初ちゃん。これ一体どう言う事なん?何で優華オバちゃんがこないな事になってるん?」

目の前で眠る優華に困惑しながら、初音に尋ねる和葉。
そこへ、

「でもその前に、この服部の伯母さんがどうしてパララケルス王国の王妃になれたのか、みんなの前で説明してくれねーか?そうすれば、何故王妃がこうなってしまったのかが、みんなに解ると思うんだ。」

コナンが初音に提案した。

「オレも工藤の意見に賛成や。事情を知る事で、ここにおる一同が、何の為に戦うのかが見える思うんや。」
「ふむ、確かにそやな。つー訳で和葉。」
「うん、ええよ、初ちゃん。」

了承の頷きを返す和葉。

「ほな、これについて、みんなに説明したるわ。」

先ほどまでのズボラ振りとは一変して、真剣な面持ちになる初音。
それを受けて侍女が退室した。

「そう、アレは今から二十六年前の事や……。」

初音は一同に話し始める。



「……服部の伯母さんとアストラ陛下の間にそんな事が……。」
「あの王様、意外とやるときゃやるのねえ。」
「そ、園子さん、それはさすがに失礼では……。」

平次の伯母の優華の過去に改めてざわめく一同。

「そしてあのパララケルスの内乱を鎮圧して、晴れて王妃として迎えられたって訳か。」
「ある意味、シンデレラストーリーよね、それって。」
「それからのオヤジとオカンは、パララケルスを立て直す為に、それこそ身を粉にして尽くしたんや。ウチはそんな両親を見て、ホンマにりっぱやなあと誇らしく思うてな。」
「ほおー。」
「そう考える初音さんも、とっても立派じゃないですか。」
「そうか、蘭々?」
「そうですよ。」
「それでな、このまま無事に済むかと思うたんやけど、そうはならんかったんや。」
『!』

初音の言葉に注視する一同。

「去年、このパララケルス新大使館が完成した時、記念のパーティーが開かれてな。そん時に、先ほど話した守旧派王族の残党が紛れ込んで、オヤジを毒殺しようとしたんや。」
「えっ、王様を!?」
「ええ。それを察知した義母上が、義父上が飲もうとした毒入りのワインを代わりに飲みまして、それで……。」
「そ、そないな事が……。」

平次は今まで知らされていなかった事実に身を振るわせる。

「そん時のパーティーには、アタシのお父ちゃんや、平蔵オジチャン、静華オバチャン、それに一夫オジチャンもいてはったはずやで。でもお父ちゃん、アタシにはそん時の事、何も教えてくれんかったわ。」
「オレもや。でも、今にして思えば、王さんやオヤジ達が、混乱を防ぐ為に、敢えてオレ等にも教えんかったんやな。」
「まあ、その判断は正しいな。」
「それで犯人は捕まったんですか?」
「ええ。その犯人の証言を元に、残党達を一網打尽にしまして、今本国にて裁判にかけてる所です。」

瑛祐の問いに答えるレオン。

「それは良かった。」
「でも、死ななかったのは不幸中の幸いだけど、こんなに深い眠りに就くなんて、アストラ国王を毒殺しようとした奴等は、どんな毒を使ったんだ?」
「それについては、暗殺者達が毒薬のスペアを持っていた事で、すぐに成分解析が出来たんですよ。」

レオンが説明する。

「それを踏まえて、オカンをこないにしたその毒薬と同じ成分を持つのを調べとったら……。」

初音はそこで口をつぐんでしまう。

「どうしたんだ、初音さん?」
「その毒薬って一体何や、初姉!?」
「平次……、オマエこの先の事、ウチに言わせたいんか?」
「は、初姉……?」
「ハッ!ま、まさか……それって!?」

初音の意図に気づいた哀が、血相を変えた。

「お、おい、どうした、灰ば……ら……?」

コナンは、顔面蒼白で震える哀の姿を見て、

「初音さん!APTX4869か!?」

同様に意図に気づき、舌鋒鋭く初音に問いただした。

「あ、APTX4869!?」
「そ、それって、新一をコナン君に変えた毒薬!?」
「ああ、そや。」
『…………!!?』

初音の言葉に凍りつく一同。
それはつい先ほど、コナンの真実を知った恵子や真とて例外ではなかった。

「ハッ、APTX4869って事は、さっき話してた、守旧派王族首魁のマグマ大公の知り合いって、まさか……。」
「そう、そのまさかや。」
「おい、それってあの黒尽くめの組織のボスか!?」
「間違いあらへんな。」
「そ、そんな!?」
「どうやら組織は、前回の内乱の時といい、今回の毒殺未遂の件といい、守旧派王族達を影で陰助、いや、奴等を隠れ蓑にして、レオ王やアストラ王を倒そうとしてたらしいな。」
「えっ、それって何の為にですか!?」

驚きながらコナンに尋ねる瑛祐。

「決まってんだろ。組織にとって、二人は邪魔だったんだ。レオ王は、守旧派王族と組織の癒着を嫌って、それを一掃しようとしたが、無念にも敗れ去った。だが、その後すぐにアストラ王が父さん達と共に、それを断ち切って、組織は敗退に追い込まれた。ただ、組織は巧みにその繋がりを悟られないように、かなり工作をしていたみてーで、その為にその組織まで到達できなかった。そして20年後に今度はアストラ王を暗殺しようとしたが、またしても失敗してしまった。」
「そしてそれが災いして、今度は内乱の時に守旧派王族達を影で陰助した事が発覚した。そうだろ、初音さん?」

話を振る快斗。

「その通りや。」
「でも、初音さん。どうして組織は、パララケルスを狙ってたの?」
「恐らく、組織の究極目標である、『不老不死』と何らかの関わりがあったからじゃねーか?」
「多分その通りやもしれへんけど、詳しい事は謎のままや。」
「そうか……。」
「ウチはそん時、ちょうどイギリスのマジックギルド本部におったんやけど、知らせを聞いて戻ってみたら、あの始末やったんや。」

初音は切なそうに、横たわる優華を見た。

「ウチは眠りに閉ざされたオカンを見た時、体中の血が逆流するような気分になった。そん時初めて『憎しみ』っちゅー感情を覚えたような気がしたんや。『組織』は絶対に許せへんと。」
「初姉……。」
「初ちゃん……。」

平次と和葉は、初音の意外な側面を初めて感じた。

「うちは、それこそ憎しみに呑まれ、暗黒面に染まるところやったで。けど、そこで、憎しみに呑まれとる場合やないと、静華おばちゃんに叱られたんや。」
「へ!?オカンが!?」
「せや。そらもう、一歩も引かん迫力で、ウチに迫ったで。『優華姉様は、死んだ訳やあらへんやろ!?あんた、人を憎む暇があるんやったら、優華姉様を助ける為に、せなあかん事があるんちゃうか!?』ってな。ウチは、ハッとなって、恥ずかしゅうなったで。復讐はまた後の事や、とにかく今は、何とかオカンを助けるんが先や、そう思うて、総力を挙げてオカンを害した薬の解毒剤を手に入れようと動き始めたんや。」
「そうやったんか……。」
「まず、組織に解毒剤がないか、調べたけど、あかんかった。アレは即効性の毒、解毒なんて意味ないから、解毒剤の開発もされとらんかったわ。」

哀が、唇を噛み締めながら頷いた。

「ほんでもって、更に調べとる内に、工藤優作センセの息子であるアンタが、オカンを害したのと同じ薬で、何故か小そうなったっちゅう事実を知った。」
「それは、父さんから聞いたのか?」
「勿論や。ウチと優作センセとは、信頼関係もあったしな。優作センセかて、アンタを元の姿に戻す為に、ありとあらゆる繋がりを大事にして協力関係を結んどんのやで?お互い、協力し合わな、損やろ?」
「ま、確かに……けど、親父がな……。」
「コナン、アンタ、優作センセがアンタの事、心配しとらんとでも思うとったんか?」
「まさか。けど、そういう風に協力し合ってたとは、知らなかったよ。」
「ま、あんお人も、アンタと同じで、誰かの為に動いとるって事を、口に出さへんからなあ。」

そこで快斗が口を出した。

「流石はナイトバロン、親父が好敵手と認めただけあるぜ。」
「そう言えば、キッドの名付け親って、父さんだったんだよな。はあ……個人的にもきっとお知り合いだったんだろうな……。」
「……何でそう思うんだ?」
「黒羽のお父さんって、マジシャンの黒羽盗一だろ?母さんが昔変装術を教わったのは、当代一流のマジシャンだったって言ってたからさ。」
「そっか……。オメーはいいよな、そういった話、親から直接聞けてよ。」
「……いずれ、数十年後に会った時、思いっ切り文句を言ってやれ。」
「ああ。そうするよ。……工藤、ありがとな。」

快斗は、コナンの言外の『オメーは早死にすんなよ。』というメッセージを、正確に受け取ったのであった。

「で?初音さん、親父と協力関係が出来て。それからどうしたんだ?」
「FBIとも連絡取りあって、幾人もの科学者達の協力を仰いで、オカンの体内に残る薬の分析をしたけど、それだけでは勿論不足や。」
「だな。で?」
「哀々にも、間接的に協力を仰いで、哀々の作った解毒剤も参考にさせて貰うた。」
「ええ!?そんな事が!?確かに、FBIの科学者達とは、協力していたけれど、パララケルス王国がその向こうに居たとは、流石に気付かなかったわ。道理で、FBIにも私にも分かっていない筈のデータがあった訳ね。」

得心する哀。

「ほんでもって、その際にウチは、組織のホストコンピューターをハッキングして、ありとあらゆるデータ全てを手に入れたんや。」
「なっ、そ、そんな事が!?」
「ちょ、ちょっと待って!?組織のコンピューターは、セキュリティが半端じゃないのに、それを破るなんて……あなたという人は!」

初音の天才ぶりに改めて驚く哀。

「初姉だけは、絶対敵に回しとうない相手やな。昔から、こういった事には妙に長けてたんや。とても一国の王女とは思えへんやろ?」
「平次。アンタ、今時の王女が、宮廷の奥深くでしとやかに座って務まるやなんて、本気で思うとんのか?」
「今時も昔時も、王女様は初姉しか知らんからなあ。」
「ま、ええわ。で、ウチは、全てのデータからAPTX4869の情報を割り出し、それを元に解毒剤を完成させたんや。」
「でも、それを持ってしても、王妃を治す事は出来なかったんだろ?」

コナンはふと、眠りに就いている優華に視線を落とした。

「ああ。最初に解毒剤を飲ませた時は、すぐに起き上がってウチ等も大喜びだったんやけど、それから三時間程度でまた眠りに就いてもーてな。」
「そ、そんな……。」
「でもその解毒剤、APTX4869の正規のデータから作り出したんやろ?それやったら……。」
「そうとも言えないわね、和葉さん。」
「え、何でや、哀ちゃん?」
「さっきも言ってたけど、そもそもAPTX4869は、超即効性の毒薬だから、飲んだら最期、解毒する間も無くあの世へ直行してしまうものなのよ。……その完成した筈の解毒剤が、私達のところに来なかったという事は、先に王妃様で試して駄目だったからだったのね。」
「そうだな。それにある意味、俺達が今こうして生きてるのって、個人の体質が大きく関わっているからかもしれねーし、それを思えば、テキストどおりに解毒剤を作った所で、完全に元通りになるのはほとんど不可能に等しいもんなのかもな。」
「ちょ、ちょっと新一君!アンタそんなにあっさりと諦め……。」
「てなんかねーぜ、園子。」
「で、でも……。」
「まあ、園子さん、落ち着いて……。」

宥める真。

「で、解毒剤は一度投与しただけで、その後は手付かずのままだろ、初音さん?」
「ああ。」
「下手に投与を続けると、却って体に悪影響を及ぼしかねないから、賢明な判断と言えるわね。」
「そんでウチは、考えられる限りの薬剤の組み合わせをシミュレートしてみたんやが、どれも満足のいく結果が得られのうて、手詰まり状態に陥っとったんや。」
「で、そん時に飛び込んできたのが、パンドラの話って訳か?」

快斗が尋ねる。

「ああ、そうや。」
「せやけど初姉、いくら打つ手がのうなったから言うても、当てにならん伝説を追い求めて……。」
「いや、当てにならん伝説やないで。そこの快斗も、二代に渡って追い求め、パンドラを狙う組織から狙われて、盗一ハンが命を落としたんやで?」
「ああ……俺もおやじも、直接目にした事はなくても、パンドラがこの世にある事は、確信している。」
「それに、マジックギルドでは、はるか昔からパンドラの存在は知られとったんや。そして、最近そのパンドラのパワーが強くなっている事を、グランマザーやギルドの長老達が感じ取っているんや。」

初音の言葉に、一堂が色めき立った。
特に、訳も分からないながらに、パンドラを追い求め続けて来た快斗は、ようやく、パンドラが幻などではないという確信を得て、拳を握り締めた。

「と言う事は、パンドラは、時と場合によってそのパワーも変化するのか?」
「で、覚醒が近いという事なのか?」
「ああ、せやで。パンドラは今、目覚めようとしてるんや。それも、全てのパンドラがな!」
「その、パンドラの目覚めってのは、何かきっかけとか周期とか、あるのか?」
「コナンは目の付け所が一味違うな。実は、パンドラにはどうやら、呼応する人間が生まれて来る時期があるらしくてな。マジックギルドでは、パンドラマスターと呼ばれてるんやけど。パンドラマスターとパンドラは、お互い呼応する形で目覚めるんや。」
「……って事は、何か?もしかして、パンドラのパワーを使いこなせるのは、マスターだけで。そのパンドラマスターとやらも探さないといけねえんじゃねえか?」
「確かにそうなんやけどな……ここで、大きな問題があんねん。」
「と言うと?」

尋ねる探。

「パンドラマスターは、ある日突然目覚めるまで、自分でもその事知らんままなんや。」
「……何か、雲を掴むような話に思えてきた……解毒剤作成まで、かなり遠い道のりじゃねえか?」
「そうとも限らへん。実は、ダルクマドンナがパンドラ全てを手に入れようとしとんのは、間違いないんや。せやから、シャドウエンパイアと戦って行けば、おのずとパンドラへ導かれる筈なんや。」
「成る程。初音さんにとっては、一石二鳥にも三鳥にもなる訳か。」
「いずれ、パンドラマスターはパンドラに引かれ導かれて、必ず現れる。ま、味方勢力の範囲にパンドラマスターが居る事を祈るばかりや。」

一同は、初音の言葉に頷いた。
光の勇者達が、おのずと惹かれ合うように。
パンドラマスターも必ず、彼らの前に現れるのであろうと、感じ取ったのである。

それを感じ取る事が出来るのも、彼らの秘められた力の一端でもあった。

その時、

「なあ、初音さん。」
「ん、なんや、コナン?」
「こんな時に言うのも何だが、APTX4869の解毒剤、今も大使館にあるか?」

と尋ねた。

「解毒剤?ああ、ちゃんと厳重に保管されとるで。」
「ちょ、ちょっと待って、新一。まさかそれで元に戻ろうと?」
「ああ。」
「無理よ、工藤君!解毒剤では、私達が飲んだアポトキシンの効果が打ち消せないのよ。それに、さっきも言ったでしょ、私達の手元に来なかったという事は、結局、失敗作だったって事なのよ。」
「哀々の言う通りや。例え飲んだとしても、すぐにウチのオカンの実例みたくなるんがオチやで。」
「それは重々承知の上さ。でも、『工藤新一』の姿で、どうしてもやっておきたい事があるんだ。だから、頼む!」

深々と頭を下げて初音に懇願するコナン。

「新一……。」
「工藤……。」

心配そうにコナンを見る蘭と平次達。
そんな一同の様子を見回した初音は、再びコナンに視線を合わせた。

「わかったで、ちと待ちいや。おーい、葉槻ーーーっ。」
「何でしょうか、姫様。」

先ほど鳳凰の間から出ていた侍女が、再び入室した。

「あの侍女、すぐに呼びかけに応じた所を見ると、室前で控えてたようだな。」
「そのようやな。でもあの姉ちゃん……。」
「どした、服部?」
「何かどっかで見た事あるような気がするんやけどなあ。」
「え?」
「おや、服部君もですか。実は僕もでしてね。」
「白馬も?うーん……言われてみれば……。」

葉槻と呼ばれる侍女に、何気に違和感を覚える三人。


「悪いけど、コイツ等を朱雀の間に通してくれへんか?」
「かしこまりました。では、こちらへ。」

侍女の葉槻の案内で、一同は鳳凰の間から出て行った。


一同が出て行ったのを確認した初音は、

「オカン、ついに勇者が現れたで。必ず目覚めさせてやるさかいな……。」

と呟きながら、鳳凰の間を後にした。



  ☆☆☆



「ささ、持ってきたで。」

初音は、カプセル薬が入った瓶と、服を一着持って、コナン達が待つ朱雀の間に現れた。

「ちょっと待て、初姉。何かやけに早うないか?」
「もしかして解毒剤、この家に保管されてたのか?」
「そやで。」
「随分管理が杜撰じゃねーのか?こんな一軒家に保管しとくなんて。」
「いや、そうでもねーぜ、黒羽。」
「何でだ、コナン??」
「この一軒家には、あそこで眠っている優華王妃という、初音さんにとって一番の宝が眠っているからな。だからこの家は、強力な魔道防御が施されていて、解毒剤も併せて保管するには、ある意味大使館本館よりもずっと安全なんだ。」
「おお、なるほど。」
「『木は森に隠す』って言うしね。」

納得する快斗と園子。

「ところで初音さん、その服は?」
「決まっとるやんか。子供服着たまんまで、解毒剤飲む訳にはいかんやろ。」
「あ、確かに。」
「ほな、コナン。別の部屋で薬を……。」
「いや、ちょっと待ってくれ、初音さん。」
「え、どしたの?」

「俺はみんなの前で薬を飲む。そして、その実態を知ってもらいたいんだ。」

「実態……って、それは?」
「工藤君、何を考えているの?あの姿を皆に見せたところで、何の益があると言うの!?」

哀が、強い口調でコナンに迫った。

「見せとうない、それ程の事が起きる、そう言うんか?ちっこい姉ちゃん。」
「そ、それは……!」

「せやな……ウチも知りたいで、薬がただ、眠らせたり体を縮ませたりするだけやない、そこを、コナンは『仲間達』に見せたい、いう訳やろ?」
「ああ。」

「工藤君、APTX4869の実態がどうであるかを通して、これからの戦いの意味を、共に考えたいという事ですか?それは、我々の上に立つリーダーとしての、君の判断だと?」
「白馬。俺は、上に立つと言うより、共に戦う仲間として、皆に知って置いて欲しいと思っている。」
「……分かりました。」

「じゃま、ちょっくら行って来るわ。コナン、こっちや。」

初音は、着替えをさせる為に一旦コナンを連れて退出した。

「新一……。」

蘭が心配そうに呟く。
蘭も、コナンが新一に戻るその場面を見た事はない。
その前後に苦しそうにしていた姿なら、見た事があるので、どうやら大変な事らしいとおぼろげに見当がついた程度だ。

「単に、姿形が伸び縮みするというだけの事ではござらんのだな?」
「ええ。そういう事よ。」

風吹の言葉に、哀が短く応えた。
皆、不安そうな面持ちで、コナンと初音が戻って来るのを待っていた。



  ☆☆☆



そして再びコナンはみんなの前に現れ……。


「うっわー、もろぶっかぶかやんか、工藤。」
「やっぱり子供に大人服はデカ過ぎたか。」
「しゃーねーだろ。子供服着たままで、解毒剤飲んだらどーなるか位、想像つくだろ?」
「そりゃそーだ。」
「じゃあ、そろそろ始めようか、初音さん。」
『!』

一同の顔が急に引き締まる。

「ああ、そやな。ほれ。」

初音はコナンに、解毒剤と水が入ったコップを渡した。

『……。』

息を呑む一同。

そんな一種異様な雰囲気の中で、コナンは解毒剤を飲んだ。
すると、

どっくん……!

「えっ、な、何、今の音!?」
「何か凄い音がしたけど!?」
「まさか、工藤の心音か!?」

騒然となる一同。

「ああ、その通りだぜ……ぐっ!!」

薬の効果が早速現れ、苦悶の表情を浮かべるコナン。

「し、新一!?」
「お、おい、コナン!?」
「ちょ、ちょっと何アレ!?」
「か、体から煙みたいのが!?」

更に騒然となる一同。

「か、体中の骨が溶けるみたいだぜ……くうっ……!」
「ね、ねえ、ちょっと!?」
「し、新一君、すっごい苦しそうじゃない!?」
「は、初ちゃん、これは!?」
「今コナンは、工藤新一の体に戻る為に、必要な元素を取り込んどる真っ最中なんや。」
「元素!?」
「そうか!確かに工藤新一サイズの体を構成するには、それ相応の元素が必要になってくるもんな。」

得心する快斗。

「でも初ちゃん。カルシウムやマグネシウムとかの骨を構成する元素はどっから取り込むん?この周囲にはんなもんあらへんで?」
「いや、この大気中には、微量ながらも、元素レベルでカルシウムやマグネシウムも漂ってるねん。それを取り込んで、骨とかも大型化させるんや。」

和葉の疑問に答える初音。

「ホ、ホンマに!?」
「でも、その微量のカルシウムやマグネシウムを凄い勢いで取り込んでるって事は、負担も半端じゃねえって事だな。」
「それに伴う痛みもまた、想像を絶するって事ですか……。」

真も、自分の想像を遥かに突き抜けるこの事態を目の当たりにして、思わず口を押さえていた。
その時、

「ぐっ、ぐあああああ!!」
「えっ、新一!?」

コナンが更に苦しむさまを見て、蘭は思わず近づいた。


「「「くっ……!」」」

その様子を目の当たりにし、怪異には慣れっこな筈の舞・風吹・菫は思わず目を背け、

「「あわわわわ……。」」

瑛祐と恵子は堪らず目を瞑って耳をふさぎ、

「あ…う……。」

武琉は恐れをなして舞の陰に隠れながら様子を伺い、

「殿下……!」
「桐華さん……!」

普段は気丈な桐華も、身をかすかに震わすレオンに縋る様に寄り添いながら見守っていた。

「な、なんつーこっちゃ……。」
「まさか、これほどのものとは……。」

平次と快斗は、コナンの事を色々と聞いてはいても、この様子を直に目の当たりにして、さすがに冷静ではいられないようだ。

「コ、コナン君が……!」
「だ、大丈夫だよね……!?」

その二人の傍らでは、和葉と青子が青ざめながらも、苦しそうなコナンの様子を心配していた。

「陽介君、これは真実ですよね……!?」
「そうだ、真。でも、これは……!」

『蹴撃の貴公子』『音速の貴公子』とそれぞれ呼ばれた二人も、未だかつて無い事実を目の当たりにして、視線が一点に集中したまま、動かずにいた。
その傍らで、

「新一君……蘭……。」

園子は真の胸に顔をうずめつつ、心配そうに二人を見守っていた。

「何と言う事でしょうか、本当に子供が大人になっていくとは……!」
「下手な魔法よりも、遥かに恐ろしいですわね……。」

割と冷徹な探と紅子も、目の前の事態に動揺を隠し切れずにいた。

「工藤君……。」

自身もかつて、同じ経験をした事がある哀も、これにはさすがに直視できずにいた。


「……。」

初音は黙ってコナンを注視してたが、さすがに皆と同様に手に汗を握っていた。


「ら、蘭……?」
「新一っ!」

蘭が涙しながら、思わずコナンの体を抱き締める。
蘭の腕の中でコナンの体のサイズが変わって行き、工藤新一の姿になるのを、皆息を呑んで見守っていた。


そして……。



「新一、新一ぃ!」

少しの間、意識を失っていた新一が、目を開けた。
そして、蘭を見つめて微笑み、蘭の頬に手を当てる。

「泣いてんじゃねえよ、バーロ。」
「だ、だってっ!」

今度は新一が、蘭を抱き締める。

「オメーに泣かれんのが、一番つれえんだよ、俺は。」



「……あ〜、コホン。」

探が咳払いをした。

「工藤君、お気持ちは察しますが……。」
「へっ?」

新一が気付いて、ふと見ると、皆が思わず赤面しながら、新一と蘭の姿を見ていたのだった。

「ああ。わりぃけど……多分、時間があんまりねえ。二人っきりにさせてくれねえか?」
「え、あ、そ、そうね。それじゃ、また別の部屋に行きましょうよ。」
「あっ、待って下さい!」
「ま、舞さんちょっと!!」

事情を察した舞が退室しようと動き出し、武琉と瑛祐もそれに続いた。

「工藤〜〜!!」

平次が叫んで、駆け寄ろうとすると、

バゴーン!

和葉が思いっ切り平次の頭を殴って、それを阻止した。

「あたーーーっ!!な、何すんねん!」
「ドアホ。邪魔したらあかん事位、分からへんのか!」
「えー、何でや……あたたたた……。」
「えーから早よ来んかい!!」
「ほな、ウチ等もこれで……。」

和葉は平次の耳を引っ張りながら無理やり室外へと連れ出し、菫も続いた。

「それじゃ青子達も。」
「じゃあな。」
「お先にー♪」
「失礼仕ったでござる。」
「失礼しますわ。」
「僕もこれにて。」

快斗達江古田組も続いて退室した。

「ワタクシ達も失礼します。」
「では。」

桐華やレオンも一礼して立ち去った。

「それじゃ俺達も。」
「そうですね、陽介君。では園子さん。」
「ええ、そうね。それじゃ新一君。他所のおうちだし、無体な真似は謹んでね〜♪」

園子がそう言って手をヒラヒラさせながら真と共に去る。

「バーロ!時間もねえし、んな事出来っかよ!」

新一は真っ赤になって怒鳴った。

「ほな、ウチ等もこれで。」
「時間はあんまり無いと思うけど、米花シティホテルの時みたく悔いがない様にね。」
「ほっとけ!!」

最後に退室する初音と哀に対し、一喝する新一であった。



   ☆☆☆



「ささ、どうぞこちらへ。」

新一や蘭を残して、朱雀の間から退室した快斗達は、再び葉槻の案内の元、今度は迦楼羅の間へと通された。
その時、

「ほな、後は宜しゅう。」

初音は入室せずに、その場を立ち去ろうとした。

「あれ、初姉は来んのか?」
「ああ、これからちと行かなあかんトコがあってな。」
「例の蟻んこ騒ぎの事でか?」
「ご名答。」
「大変なのね、警視長も。」
「がんばってね、初ちゃん。」
「おう、ほんじゃなー。」

初音は一同に挨拶した後、屋敷から立ち去った。


そのすぐ後に、

「おっと、そうだ。俺も行かねーと。」

陽介が何かを思い出したかのように立ち止まった。

「えっ、どうしたの、王子様?」
「いやあ、1時から、昨日の『初恋物語』の打ち上げがあるんで失礼しないと。」
「あっ、そうか。」
「そう言えば、もうそろそろでござったな。」

腕時計で時間を確かめる風吹。

「オメー、くの一なのに、時計持ってんのか……。」
「当たり前でござろう。忍者稼業は時との勝負でござるからな。」
「それじゃあみんな、今日は失礼するぜ。」
「どうもありがとう、王子様。」
「ダーリン、またねー。」
「主殿、お気をつけ下されー。」
「頑張って下さい、陽介君。」
「おう、じゃあな。」

陽介も挨拶の後、屋敷を後にした。



「では皆様方、どうぞこちらに。」

迦楼羅の間には、既に人数分の座布団が円形状に並べられていて、各々は好きな所に座った。

「ほー、さっきと言い今と言い、結構用意が良いじゃねーか。」
「侍女たる者、これ位の事は基本中の基本ですので。」
「いやいや、これほどの事を成すとは、相当侍女経験を積んでるようでござるな。」
「はい。新大使館が出来る前、そう、大体6年前位から大使館で働いています。」
「へえ、6年前から。」
「貴女今いくつなの?」
「十七歳です。」

園子の問いに答える葉槻。

「じゃあ、私達と同じ世代ね。」
「つーか、小学生の頃から大使館勤務とは、よく学校で許可が下りたもんだな。」
「勤務先がとてもしっかりしてる上に、大使館からも申請があるので、学校側も特別に許可をくれるのです。」
「そりゃ、下手に揉め事を起こして、国際問題の火種になりたくねーからな。」
「まあ、いずれにしましても、大したものですよ。あ、そうだ。」
「何か?」
「君は葉槻さんと初音さんに呼ばれてましたね。」
「はい、私、越水葉槻と言います。」
「こ、越水やと!?」
「えっ!?」

名前を聞いて驚く平次と和葉。

「あの、一つ尋ねたいのですが、お姉さんか親戚に、『七槻』という方はいませんか?」

探が葉槻に尋ねた。

「ええ、私の従姉にいますが。」
「やはり。」
「ほなアンタ、あの越水七槻のイトコか!?」
「えっ、あの探偵甲子園の!?」
「はい。」
「どーりで似とる思うたわ。」
「つーか、髪型除いたら、もろそっくりやもん。」
「なあ白馬、探偵甲子園って何だ?」
「実は……。」

探は平次と共に、快斗達に『探偵甲子園』の事件の顛末を語った。(これについては、コミックス54巻FILE.9〜11、55巻FILE.1・2を参照の事。)

「そんな事があったんですか……。」
「私は七槻従姉さんの責任を取ろうと、大使館を辞職しようとしたのですが、執事さんに『君は全く関係ないのだから、止める必要は無い。』といわれまして。」
「そりゃそーですよ!本人が与り知らぬ事で、仕事を止めるなんて、理不尽も甚だしいです!」

力む瑛祐。

「まあ、ありがとうございます。」

瑛祐に礼をする葉槻。

「おかげさまで、今も大使館の勤めをさせて頂いてる上に、王妃様の身の世話まで任せて頂いて、本当に感謝の極みです。」
「さすがはパララケルス、アストラ王の気概が異国の大使館員にまで染み渡っているな。」
「全くやな。」

感心する快斗と平次。

「それでは、私はこれにて……。」

葉槻は一同に対して一礼した後、瑛祐の方をちらりと見ながら、退室した。


「ねえねえ、今の葉槻さん、何だか瑛祐君の事を見てたみたいね。もしかして、気があるんだったりして。」

園子が茶化すように言った。

「え……?」

頬をぽっと染める瑛祐。

「どうだろ、さっきは私にコナかけてたくせに、この現金な態度!」

恵子がジト目で瑛祐を見る。

「う〜ん、単に女顔だから、男かな女かなと思って見てただけなんじゃ?」

舞がそう言って、水を差す。

「どうせ、僕は女顔ですよ!」
「あ、いじけた。」
「気を落とされるな。きっと瑛祐殿にも、その良さを分かって惚れてくれる女性が現れるでござるよ。」
「うう、ありがとうございます〜。」
「ま、ここで、『なら、私が』と誰も言ってくれないところが、ミソだな。」
「黒羽君、そんな意地悪言わないで下さいよう。」

瑛祐の受難の日々はまだ続きそうだった。


「それにしても、本当にコナン君は工藤君だったんですねー。」
「何を今更。」
「いや、この目で見るとその事実が実感出来て。」
「私もビックリしちゃった。ある意味、快斗君が怪盗キッドだった事より、もっとインパクトが強かったかも。」
「悪かったな、恵子。」
「新一殿を間近で見たのは初めてでござるが、快斗殿と顔も声も似ているでござるな。」
「好みの女性のタイプもね。」
「おいおい、色気のない青子のどこが、蘭ちゃんと似てんだ……。」

ガン!

「悪かったわね、青子に色気がなくて!」

青子の振り下ろしたモップは快斗の脳天を直撃し、快斗は泡を吹いて倒れていた。

「いや、そこまで怒らなくても。だって、快斗君の好みの女性は青子だって認めた発言でしょ、今のって。」

恵子が、相変わらずの快斗と青子のやり取りに呆れたように言った。

「青子が?快斗の好み?ウソだよ〜。」
「へ?青子殿、快斗殿と付き合ってるのでござろう?青子殿は快斗殿の好みの女性という事ではござらんか?」
「それは……違うと思うの。快斗は、青子の事を好きになってくれたらしいけど、それは、好みとかそんなんじゃなくて。……ごめん、うまく言えない。」
「?おかしな青子殿でござるな。好きになったのは、好みの女性だからではござらんか?」
「ううん、違うよ。好みの相手と、好きになる相手って、実際には違うもん。だから……快斗の理想の女性が現れたら、青子は……。」

青子が何故そのような事を言うのか、回りの皆は首をかしげたし、青子自身にも解っていなかった。
青子と恵子と風吹の微妙な雰囲気に気付いていない平次が、哀に向かって、顎に手を当てて言った。

「それにしても。工藤や灰原の姉ちゃんは、姿変わるたんびに、あないな目に遭うんか?」
「ええ、そうよ。それがどうかして?」
「十歳も若返ったら色々苦労するやろうけど、下手に解毒剤を追い求めんと、そんままで生きてったらええんちゃうか?」
「簡単に言ってくれるわね。」
「ま、確かに、当事者じゃあらへんから、言えるんかも知れへんけど……。」

その時、哀は軽く俯きながら話を向けた。

「ねえ、みんな……小学校では、身体測定があるでしょ?低学年だと、半年毎に実施されてるわ。」
「?それが、どないしたんか?」
「実は、工藤君と私はね。1ミリたりとも、身長が伸びていないのよ。」
「な、何やて!?」
「それ、ホンマなん!?」

平次と和葉だけではなく、一同に驚きと衝撃が走った。

「そうよ。私達は、解毒剤がなければ、永遠に死ぬまで、この七歳の体のままなのよ!」

一同は、水を打ったように静まり返った。

「私は良いわ。薬を作ったのは私だし、死ぬ積りであの薬を飲んで、こうして生き恥を晒しているんだから、自業自得よね。でも、工藤君は……そして、蘭さんは……あのままじゃ、永遠に結ばれる事も幸せになれる事もないの……。」
「そ、そんな……。」

武琉が、蒼白になって言った。
彼は、大人になるという事を実感としては分かっていないけれど、それでも、小学校1年の時の自分と今の自分とで、成長してかなり異なっている事が分かる。
コナンは自分より年上なのに、永遠に小学1年生の姿のまま。
そう思うと、その現実の重さと厳しさが、武琉にすらおぼろげに理解出来たのであった。



   ☆☆☆



蘭は、ずっと泣き続けていた。
新一がその背中を優しく撫でる。

「新一……もう良いよ、解毒剤なんか追い求めるの、止めましょう。」
「蘭?」
「私、ずっと傍に居て、新一が大人の姿になるまで、何年でも待ってるから。あんな、あんな、苦しい思いをする位なら……。」
「おいおい、蘭。オメーは俺に、ずっと小学生の姿で苦労しろってのか?子供の振りってのも大変なんだぞ。」
「でも、でも……!私、新一が死んじゃうんじゃないかって、すっごく心配で辛かったんだよ!解毒剤飲むのだって命がけだって話じゃない!だったら……。」
「なあ、蘭。俺が、十年遅れでも成長出来るんなら、諦めもするさ。けどな。解毒剤がなきゃ、俺と灰原は、死ぬまで、あの子供の姿のままなんだよ。」
「えっ……!!?」

蘭が驚いて顔を上げた。

「アポトキシンの究極目的は、不老不死。俺達はその出来損ないで、解毒剤がないと子供の姿のまま生き続けるバケモノさ。俺は、そんなの、耐えられねえ。」
「新一……。」
「俺は、オメーと一緒に、時を刻んで歩んで行きてえんだ。」
「新一……。」
「コナンの姿のままじゃ、オメーと一緒に生きるどころか、何年もひとつ所に暮らす事すら出来やしねえ。それこそ、伝説の吸血鬼みてえに、街から街へ彷徨い暮らすしかなくなっちまう。」
「……新一、わかったわ。わたしも、諦めたくない。新一が、元の姿を取り戻す為のお手伝いを、させてくれる?」
「蘭。ありがとな。オメーがいるから、俺の事を待っててくれるから、俺は頑張れるんだぜ。」

二人は、お互いの存在を確かめ合うように、強く強く抱き合った。



  ☆☆☆



『……。』

哀が語った『真実』に、静まり返ったままの一同。
そんな様子に、

「……何かごめんなさいね。雰囲気を悪くしちゃったみたいで。」

哀は詫びを入れた。

「いや、そないな事は無いで、灰原の姉ちゃん。」
「そやで、哀ちゃん。アタシも改めて『真実』を突きつけられて、自分が今、何をすべきかっつー事が見えてきたみたいや。」
「正に『覚悟を決めろ。』ってヤツよね。」
「そうですね、園子さん。」
「オッ、二人共ノって来たわね。いい傾向よ。」
「茶化すんじゃない、舞!」

「風吹ちゃん、私達も頑張らなきゃね。蘭ちゃんや哀ちゃん、そして和葉ちゃんがこれ以上悲しむ所なんて、もう見たくないもん!」
「私も青子と同じよ!」
「その意気でござるよ、青子殿、恵子殿。」
「ありがとう、青子さん、恵子さん。」
「ホンマにスマンなあ、二人共。」
「『友情』って、ええなあ。」
「皆さん、僕も忘れないで下さい!」
「はいはい、わかってるから、そんなに力まないの。」

「いやいや、みんな一つにまとまってきましたね。」
「私達もC-Kジェネレーションズの一員として、頑張らないといけませんわね。」

この様子に、探と紅子も感心する。

「さすがは義姉上が見込んだ方達だ。」
「改めて、初音さんの眼力の凄さを見た思いがしますわ。」
「僕達アルファトゥオメガも頑張りましょう、姉さん。」

「俺達C-Kジェネレーションズや紅葉達アルファトゥオメガを、一つの目標に向かって力を合わせるように持っていくたあ、あの初音さん、色んな意味で化けモンだな。」

快斗は如何にも彼らしい『褒め言葉』で、初音を称えていた。


その時、

「あっ、ねえ、あれ見て!」

恵子が迦楼羅の間の窓の方を指差すと、そこには、

「あっ、あれ工藤や!」
「いつの間に表に!?」

新一と蘭が連れ立って歩いていた。
それに一斉に目を向ける一同。

「一体何処に行くんだろう?」
「何か気になるわね。」
「そうね。」

園子と恵子の目がキュピーンと光った。

「まあ、ここまで来てする事と言えば……。」

全員が一斉に立ち上がった。

「あ、お帰りですか?」

気配を察した葉槻が、再び入室した。

「ええ、色々とありがとう。」
「お邪魔しましたー。」
「失礼しまーす。」

一同は玄関の方へと次々と向かって行った。

「では、義母上の事を良しなに。」
「わかりました、殿下。」

その時、

「あっ、あのー、本堂さん。」

葉槻は瑛祐を呼び止めた。

「何でしょうか?」
「あの、もし宜しければ、これを……。」

そう言いながら葉槻は、瑛祐の手に紙切れのような物を渡した。

「あ、あのー、これは……?」
「見れば判ると思います。それでは、王妃様の世話がありますので、これにて……。」

葉槻は少し頬を染めながら、優華が眠る鳳凰の間へと戻って行った。

瑛祐が渡された紙切れを見て、

「!これって……。」

電話番号のようなモノが書き込まれていたのを知って、驚いた。

「葉槻さん……。」

色々と苦労が多かった瑛祐に、ようやく春が来たようだが、彼がそれを実感するには少し後の事だった。



  ☆☆☆



新一と蘭は、大使館の庭に続く裏山を散策し、米花町全体が見渡せる高台に来た。

「ねえ、新一。覚えてる?まだ大使館が建つずっと前に、ここに来た時の事。」
「ん?ここには何回か来た事があっけどよ、いつの時の事だ?」
「えっと……確か銀杏の葉が舞っていた頃だったような……。」
「ああ……もしかして、蘭が木下フサエさんから傘を借りた後の事か?」
「うん……って、え!?新一、私がフサエさんから傘借りた事、何で!?」
「へ?そりゃ、俺、見てたから。」
「見てたとしても、よく覚えているわね〜。」
「へっ。探偵を舐めんなよ。」
「探偵って、そんな細かい事でも、覚えてるもんなの?」
「……あのな。いくら俺でも、全部事細かく覚えてる訳ねーっつーの。オメーの事だから、覚えてんだよ!」
「え……?」
「オメーのエピソードだったら、細かい事まで覚えてるぜ。ずーっとずーっと……長い事、オメーだけを見つめ続けて来たんだからよ。」


「うっわー、工藤のヤツ、めっちゃ気障なセリフ吐きおってからに。」
「ホントだな。」
「あんた人の事言えないじゃないの。」
「全く、ホンマにムードっつーもんが解らんヤツやなあ。」

二人の後をつけていた快斗や平次達一同は、雑木の陰から、耳をダンボにし、目を見開いて、様子を見ていた。

「しかし良いのでしょうか?お二人が色々とお話してる所をこうして陰から覗いてしまうのって?」
「私も同感だと思いますが。」
「私達と一緒にこうしてる時点で説得力が無いわよ、真さん、殿下。」
「「は、はい……。」」

園子の鋭い突っ込みに、真もレオン王子も返す言葉がなかった。


「あ、あのね……その時新一が、この木の前で……言ってくれた事が、あったでしょ?」
「……何か、言ったっけか?」
「さっきは、私の事だったら覚えてるって言ったくせに。」
「あのな。あん時、俺はオメーから振られたんだぜ?なのに、言わせる気かよ?」
「ふ……振ったんじゃないもん!わからないって言っただけだもん!」
「蘭。おっきくなったら、俺の嫁さんになってくれねーか?」
「え……?」
「今も、オメーは首を横に振るのか?」
「だ、だからっ!振ったんじゃないって言ったでしょ!?そんな、大人になってからの事なんて、わからないよって言っただけで!そ、それに……子供の頃は、恋愛とかそういう気持ち、本当に分からなかったんだもん……。」
「……俺の気持ちは、その頃から全く変わって……いや、やっぱり変わったな。」
「ええ!?し、新一!?」
「あの頃よりも、もっともっと、オメーの事が好きだ。」
「!」
「10年前より、ずっと。昨日よりも、もっと。蘭、オメーの事を愛してる。」


「うっわ〜〜〜〜っ、新一君たら、言ってくれるじゃん!!」

園子を初めとする大多数が、新一の蘭への告白を聞いて、顔を真っ赤にしていた。

「それにしても蘭ちゃん、あんな風に言って貰えるなんて、いいなあ〜〜〜♪」
「ホンマやねえ〜〜〜♪」

羨ましがる青子と和葉。

「けっ、いい歳こいて、何アホな事ほざいてんねや。」
「アレはあくまでも、蘭ちゃんだから通じるだけで、アホ子に言ったって何も……。」

次の瞬間。

「ぐ、ぐええええ!」
「ぐ、ぐる゛じい゛!」
「デリカシーのない平次に言われたないわ!」
「悪かったわね、青子は蘭ちゃんと違ってお子様で!」

平次は和葉に、快斗は青子に、首を絞められもがいていた。

「やれやれ、学習能力がない人達ですねえ。」

呆れたように言う探。

「しっ!静かに!今、イイとこなんだから!」

真剣にそう言って皆を制したのは、園子である。



「蘭。色んな事が片付いたら、俺の嫁さんになってくれるか?」
「し、新一!?」
「嫌か?」
「嫌じゃない、嫌じゃないよ!でも……新一……私で……私なんかで、良いの?」
「ああ。蘭がいい。蘭以外、考えられない。」
「新一……!」
「蘭。返事は?」
「勿論、OKに決まってるじゃない!」
「蘭。俺が完全に元の姿を取り戻して、全てに片をつけるまで、待っててくれよな。」
「うん。うん!」

涙ぐむ蘭を、新一がしっかりと抱き締め。
そして。


CHU……。


新一と蘭は、互いに唇を重ね合わせた。



「ひゃあ〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」

この様子にほとんどの面々が、恥ずかしさでヒートアップしていた。

「ア、アイツ結構やるじゃねーか!!」
「あれって、プロポーズじゃない!ロマンチック〜♪」
「良いなあ、蘭ちゃん。」
「けっ!まだ高校生、いや小学生やのに、プロポーズやなんて、無責任やでホンマ。工藤があないに無責任男とは思わんかった……。」

ボゴッ!!!

「アンタってホンマに、ムードもヘッタクレもないやっちゃなあ!」
「まあまあ、和葉ちゃん。ヘタレの遠吠えって言葉があるだろ?」
「だだだ誰がヘタレや、黒羽!」
「あ、それを言うなら『負け犬の遠吠え』が正しいんじゃないですか?僕の辞書にも……ヘタレ、ヘタレっと……そんな言葉、ありませんし。」
「瑛祐君……あなた本当に、場の空気が読めない人ねえ。」
「それより、いつも辞書を持ち歩いている方が、突っ込みどころのような気がしますが。」
「白馬君は、辞書を持ち歩いたりしないの?」
「けっ!白馬の場合、『辞書など持ち歩かなくても、僕は頭の中に全てが納まっていますよ。』と言いたいところなんだろ?」

「しっ!静かに!今イイところなんだから!」

(園子さんは、本当にこの手の事が好きなんですね。私の心の辞書に書き込んでおきましょう。)

場の空気を読めないようでいて意外と読んでいる真は、固唾を呑んで覗きを続けている園子を見ながら、内心静かにそのような事を考えていた。

(ああ……王子様が、ああいう事を言ってくれたらなあ……。)
(ダーリンに、いつかプロポーズさせてみせるで!)
(拙者も、主殿から求婚される日が、きっと……。)
(僕も、いつか舞さんに……。)



一同が、それぞれの妄想に浸ってほんわかムードに包まれたその時!


どっくん……!

「ぐうっ!」
「し、新一!?」

新一から大きな心音が響き、彼は苦しそうに胸を押さえた。

『工藤!』
『工藤君!』
『新一君!』

予測していた事とは言え、新一の異変を目の当たりにして。
デバガメっていた面々は、思わず新一を呼び、何人かは茂みから飛び出してしまった。

しかし、苦しみ始めた新一を抱き締める蘭の姿を見て、それ以上に近寄る事は憚られた。
そして、彼らの目の前で、新一は子供の姿に、コナンの姿に変わって行く。

『……。』

改めて、息を呑む一同。

「新一、新一!」
「……蘭。泣くなよ。俺は俺だ。生きてここに居る。いずれは、工藤新一の姿を取り戻すから、待っててくれ。」
「新一……。ごめんね、泣いたりして……。」
「それより、この格好は止めてくれねえか?いくら姿が子供でも、カッコわりぃ。」
「あ……ご、ごめんなさい。」

蘭が慌てて、抱き締めていたコナンを離した。

「ふう。どうなる事かと思ったぜ。」
「元の姿に戻るだけやって分かってる筈でも、こっちの心臓にも悪いわ。」
「いや、あれは元の姿じゃないって!」

見物していた面々も、思わず息をついたのであった。


その時コナンが、皆の方を向き、

「テメエ等…………見学料はちゃんと持ってるんだろうな!!!!?」
「うわあーーーっっ!!?」
「おわあーーーっっ!!」
「ひええーーーーっっ!!!」

ダダダダタ……。

凄みを利かせて一喝したとたん、快斗や平次達はそれに驚いて、蜘蛛の子を散らすように、一斉にバラバラになって逃げ出して行った。


「……つったく、ホントしょうもねえ奴等だな。黒羽や服部ばかりか、真さんやレオン王太子までいるのには参ったぜ。」
「まあ、いいじゃないの、新一。みんなだって色々と心配してるんだから。」
「オメーがそういうなら、不問にしてもいーけど。」

「おお、さすがは蘭ちゃん。話がわかるなあ。」
「な゛!?て、てめえら!逃げた筈なのに、いつの間に!?」
「いやいやいや、深く追求しないでくれたまえ、リーダー。」
「誰がリーダーだ、白馬!?」
「勿論、工藤君、いや、コナン君ですよ。僕は、君がリーダーなら、ついて行けます。そうですよね、皆さん?」
「ま、白馬と一心同体言う意味やあらへんけど、工藤がリーダーという事に異存があるヤツは居らんやろ。」
「アタシも同じや。」

探の意見に同意する、平次や和葉の改方学園組。

「ま、俺は最初から、工藤にならついて行けると思ってたけどな。」
「気色わりぃ事を言うなよ、黒羽。オメーはただ、自分がリーダーなのが面倒臭いだけだろ?」
「あ、ばれたか。」

コナンの突っ込みににやっと笑ってウィンクをしてみせる快斗。

「まったく、バ快斗ったら。でも、青子も、コナン君がみんなを纏める適役だと思うな。」
「確かにそうよね、青子。」
「私も、異議はございませんわ。」

青子や恵子、紅子の江古田高校組も、同調した。

「ま、何のかんの言って、新一君が場の中心として相応しいって、私も思うわ。」
「そうですね、園子さん。」
「僕も、賛成です。」

園子や真、瑛祐の帝丹・杯戸高校組も、賛同した。

「ま、そう言う事ね、工藤君。」

哀もさりげなく同意する。

そこへ、レオン王太子が、

「おお、素晴らしい。コナンさんを中心として、C-Kジェネレーションズがひとつに纏まりましたね!」

拍手をして、一同を賞賛した。

「私達アルファトゥオメガも負けてらんないわね!」
「拙者達も頑張らないと!!」
「ウチ等も応援するで!!!」
「僕も同感です!」

舞や風吹、菫、そして武琉のアルファトゥオメガメンバーもそれに応える様に気合を入れる。

最後に、ミカエルグループ令嬢の桐華が、

「ワタクシ達アルファトゥオメガは、C-Kジェネレーションズの結成を心から祝福しますわ。これから共に戦う仲間として、宜しくお願い致しますわね。」

頼もしそうに一同を見やって言った。

「みんな……。」

晴れやかな一同の様子を見たコナンは、

「よし、みんながこれだけ期待してるんなら、俺も頑張んねーとな。」
「そうね、新一。私も力の限り、頑張るわ!」

蘭に話し、彼女もそれに応じた。
そして、

「なあ、みんな。ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワンの精神で、誰か一人が危機に陥ったら、必ず誰かがそれを救うんだ。そして、終わり無き光の未来をその手に掴む事をここに誓おうぜ。そう、『光の誓い』を!」

と力強く宣言した。

『さんせーい!!』
『異議なーし!!』

一同は諸手を上げて、誓いに同意した。
そして、

「よし、じゃあ、アルファトゥオメガのリーダー初音さんは不在だが、ここでいっちょ、気合を入れるか!!」
『オー!!』

快斗の声に、皆が賛同の声を上げた。


アルファトゥオメガとC-Kジェネレーションズのメンバーは、コナンと蘭を中心に据えて、円陣を組んだ。

そして、手を重ね合わせた一同は、

「C-Kジェネレーションズ、アンド、アルファトゥオメガ、ファイト、ゴー!!!」
『ファイト、ゴー、YEAHーーーー!!!』

快斗の号令の元、一斉に気勢を上げた。



  ☆☆☆



「ふむう、なるほど……。」
「しかし、魔法ばかりか、超能力や陰陽道の存在の公開等、君が言う所の所謂『魔法バレ』の時が来たと言うのかね、服部警視長?」
「まあ、そーゆー事でんな。」

ここは警察庁の一会議室。
特殊能力捜査部部長・服部初音警視長が、国家公安委員会や警察庁首脳陣、そして、

「しかし、事が事だけに、取り扱いには注意すべきでしょう。」
「もっとも、昨今の人間はこの手の話を意外と信じとるのが多いですから、最初の内は混乱しても、すぐに受け入れる可能性の方が高そうやと思います。」

白馬警視総監や服部平蔵大阪府警本部長等、各都道府県警察本部部長を相手に意見を交わしていた。

「で、君は数日の内に概要を発表するのかね?」
「はい。混乱は出来るだけ早い内に収拾するのが一番でっから。」

初音は首脳陣相手に物怖じする事もなく、逆に首脳陣を驚かせるように締めくくった。

「さあ、これから『祭り』が始まりまっせ。」



第一部 完





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