C-K Generations Alpha to Ωmega
By 東海帝皇(制作協力 ドミ)
第二部 勇者激闘編
Vol.1 新勇者光臨!レガリアを見つけ出せ!!
みなとみらいの大激闘の翌1月23日月曜日の正午、江古田高校にて……。
「一昨日の怪物騒ぎの事は、流石に各誌ともデカデカと報道しているな……。」
快斗が毎日のように手にしている新聞であるが、今日は真面目に記事に目を通しながらそう呟いた。
「例の初恋物語のロケも、本当に危なかったわよね。」
と嘆息する恵子。
「あの騒ぎを受けて一時は放映中止の声も上がったけど、事件と直接関係ねえからって、結局放映される事に決まったらしいぜ。」
「そうよね、みんな一生懸命頑張ってたんだもん、放映中止になってしまったら、気の毒過ぎるよね!」
拳を握り締めながら力説する青子。
「全くその通りでござるよ。」
頷く風吹。
そこへ、いつの間にか、探と共に傍に来ていた紅子が声をかけた。
「やっぱり、占いの通りになってしまったわね……」
「何だって!?それどういう事だ、紅子!?」
「実は、先週の木曜日の夜、ある占いをしてたら、魔法の玉に、見るからに禍々しい、全体が闇色のイメージ映像が現れたのよ。(さすがに私の事を占っていたなんて言えないけどね。)」
「闇色のイメージ映像……。」
「それって、どう言うメッセージなの?」
尋ねる青子。
「……恐らく、あのダルクマドンナとシャドウエンパイアが出現した事を示していたのでは。」
答える探。
「なるほど、それは大いにありえるわよね。」
「魔法の世界は拙者等が考えてるよりもずっと奥深い世界でござる。あるいは、ダルクマドンナ以外にも、マジックギルドで把握しきれていない暗黒魔術師がいても、別に不思議ではござらん。」
「風吹の言う通りね。」
その時快斗がふと空を見上げて言った。
「何だか雲行きが怪しくなって来やがったな……」
空には雨雲が広がり始めていたが、快斗の言葉が、現実の天候を指しているのではない事は、その場にいる皆が分かっていたのであった。
|
その夜……。
ザア――――ッ……。
「随分降ってるね、雨……。」
「そうだな……。」
毛利家の蘭の部屋の窓から外の様子を覗くコナンと蘭。
「けど、明日は晴れるとは言ってるけどね。」
「晴れか……。(空から降る雨は、いつか上がる。けど、俺達を覆う暗雲は……?ハッ、こんな弱気なこっちゃいけねえな。厳しい戦いだったが、黒の組織も倒したんだ。シャドウエンパイアも、必ず!)」
その時、台所から笛吹きケトルの音が聞こえ、蘭は台所へと向かった。
少し経って、
「新一。一服しましょうか。」
蘭は、なおも窓から空を見上げているコナンの元へ、紅茶入りのポットとティーカップを持って来た。
「おっ、ありがとよ。」
蘭が注いだ紅茶に口を付けるコナン。
「んー、美味いなあ。」
「まあ、良かった。」
二人で蘭の淹れた紅茶を飲んでいると、ここ数日の出来事や様々な懸案をひと時忘れ、ほのぼのと温かい気持ちになった。
「……しかし、それにしても……。」
コナンは再び外の景色を見、
「こういう時って、何がしかの事件がよく起きるんだよな……。」
と、呟いた。
「新一……それは、探偵としての勘?それとも……。」
「さあ。どっちだろうな。俺は探偵としての自分を決して片時も忘れちゃいねえけど、今は光勇者としての面も強くなって来ているからな。」
「新一。私はもう、待たないからね。」
「ららら蘭!?そ、それはどういう……!?」
「私も、C‐Kジェネレーションズの一員で、新一と共に戦う仲間、でしょ?だから、一緒に行くの。」
「蘭……。」
決意をみなぎらせてコナンを見つめる蘭と、対照的に揺れる眼差しで蘭を見つめるコナン。
コナンとしては、蘭を戦いの場に巻き込むような事は決してしたくなかったのだが、もはやそれが無理である事も、解っていたのであった。
☆☆☆
翌1月24日火曜日の深夜……。
「ここだな、例のものがあるのは……。」
とある大邸宅の金庫室。その大扉の前に立つ、黒いチャイナドレスに黒いドラゴンの翼のアイマスクを身に着けた女性。
「フッ、この程度の扉など、私の暗黒魔法で……。」
と、金庫室の扉に手を掛けた時、
リリリ……。
セキュリティーに引っ掛かって非常ベルが鳴った。
しかし女は悠然として、作業を続けた。
「誰だ、そこにいるのは!?」
数名のガードマンが駆けつけて来て、その女に向かって叫んだ。
だが、その女は振り向きもせず、
「この家の主人・国東グループ会長の国東権蔵に伝えておけ。この金庫室の中にある『モルガンのティアラ』は頂くとな。」
と、言った。
「何ッ、『モルガンのティアラ』だと!?バカも休み休み言え!!そう簡単に渡せる訳が無かろう!?」
「ほう、嫌だというのか?」
「当たり前だ!何処の世界に、見ず知らずの者に装飾品を渡す間抜けがいる!?」
「フッ……、ならばやむを得まい……。」
その女は、懐から黒いオーブらしきものを取り出した。
「出でよ!!」
ピカアーッ。
「フォォーーーーッッ!!」
オーブの中から、異形の怪物が出現した。
「な……!?」
「バ、、バケモノだあーーっっ!!」
警備員達を威嚇するその怪物は、頭と前足がワシ、胴体と後足が虎という、正に異形を絵に描いたような姿だった。
「さあ、どうする?こやつの餌食になりたいか?」
「フォォ……。」
怪物は尚も警備員達を威嚇する。
「に、に、逃げろーーーっっ!!」
「うわああーーーっっ!!」
恐れをなした警備員達は、一目散に逃げて行った。
「フッ……。」
ずっと後ろを振り向かずにいた女は、軽く微笑んだ。そして、
「さあ、この扉を破壊しろ!」
「ハハッ!フォォーーーーッッ!!」
ブンッッ!
ガシャアーーーン!!
怪物の強大な前肢が、頑丈な金庫室の扉をあっさりと打ち破った。
「フフフ……。」
女は、扉が破壊された金庫室の中へと入っていった。
「ほう……。これが『モルガンのティアラ』か……。」
謎の女は、小さな宝石が散りばめられている黄金の装飾具『モルガンのティアラ』を手に取って見て、妖しげに微笑み、そして呟いた。
「残り後3つか……、フフフ……。」
|
一夜が明けて、午前10時……。
「するとその女は、何やら怪物らしきものを連れていたとか?」
国東邸へ現場検証に訪れた警視庁刑事部捜査二課の中森銀三警部が、警備員達に尋ねる。
「はい、そうです!!」
「我々は今までにあんな恐ろしい怪物等見た事もありません!!」
顔が未だに蒼ざめている警備員達。
「うーむ……。怪物か……、だが……。」
何か思い当たるフシがありながらも確証が取れずに考え込む中森警部。
だが、
「中森警部!」
部下が駆け寄る。
「ん、どうした?」
「トメさんの話だと、あの金庫室の扉は、どうやら爆弾で破壊されたものでは無いようなのです。」
「何だと!?」
「警部。」
鑑識課のトメさんが現れた。
「あっ、トメさん。」
「あれを見て下さい。」
トメさんは金庫室のある場所を指差した。
「ん、あの傷は?」
その場所には、抉り取られた様な深く長い傷が三本走っていた。
「詳しく調べないと断言は出来ませんが、あれは猛禽類の爪の痕に似ていますね。もっとも、実在の猛禽類の爪痕とは比較にならない程、桁違いに大きいですが……。」
「は!?」
「待って下さい、トメさん。あの頑丈な金庫室の扉を、一撃で破壊できるような巨大な鳥なんて……。」
二課の刑事が言った所、
「いや、待て。これはやはり……。」
「やはり、何ですか警部?」
「シャドウドール……。」
「えっ、シャドウドールって、一昨昨日、みなとみらいで大暴れした、あの怪物達ですか!?」
「ああ、そうだ。警備員の証言とも辻褄が合うしな。証言によると、頭と前足はワシのようだったと……つまり、猛禽類だろう?」
「本官も多分そうではないかと考えているのですが。なにしろ、あの扉の壊し方は、どう見ても異常ですからね。」
「うむ……、よし、ワシ等は一旦本庁に戻ろう。トメさん、引き続き鑑識の方を。」
「はい、任せてください。」
数名の部下を残し、中森警部達は本庁へと引き上げた。
☆☆☆
午前11時、警視庁捜査一課……。
「えっ、シャドウドールですって!?」
「それホントですか、中森警部!?」
中森警部から事情を聞いて驚く、高木警部補と佐藤警部。
「ああ。」
「まさか……、シャドウドールが……。」
「でも、疑ってみる必要はあるかもよ、高木君。その状況から見て、特殊能力犯罪の線が濃厚だから。」
「まあ、今回ばかりは、お前等特殊能力捜査部の力を仰がなければ、どうにもならんからな。服部警視長に良しなに頼む。」
そう言いながら中森警部は、現場の写真等の資料を高木警部補に渡した。
「わかりました、中森警部。」
「じゃあ高木君、早速初音の所へ。」
「はい!」
高木警部補と佐藤警部は足早に一課を後にした。
☆☆☆
数分後、特殊能力捜査部にて……。
「ほー、そないな事があったんか。」
高木警部補が持ってきた現場写真に目を通す初音。
「この現場写真を見る限りじゃ、確かに爆弾で破壊されたとは思えないわね。」
「やっぱり、シャドウエンパイアのシャドウドールの仕業でしょうか?」
「まず間違いないやろ。現世の動物で、こないな破壊力を持った奴なんぞおらへんからな。」
「でも、シャドウエンパイアがどうして『モルガンのティアラ』を狙ったのかしら?奴等の狙いはパンドラだった筈でしょ?」
「いや、美和子さん。別にパンドラだけとは限らない、ただ、それだけの事なのでは?持ち主が気付いてない魔法アイテムだったとか」
「ほお。渉、妙に冴えとるやんけ」
「そ、そうですかねえ」
初音に褒められて、ちょっと嬉しそうに照れ笑いをし、頭をかく高木警部補。
ちらりと美和子を見るが、美和子は別に感心した様子もなく考え込んでいた。
「う〜ん、このティアラって……何か足りない気がしない?」
「ちゅうと?」
「確かに、ティアラって大ぶりの宝石が使われる事は少ないんだけど、これって……この部分、何だか大きな宝石の台座のような気がするのよねえ」
「せやな……確かに」
「う〜ん、謎ですねえ」
3人共に、考え込んだ。
答がすぐそこにある筈なのに、見つけられないもどかしさに、3人共に首を捻っていた。
☆☆☆
その翌1月25日水曜日の放課後……。
「ねえ、新一。」
「ん?」
「あれからシャドウドールの捜査、どうなったのかしらね?」
「一向に手がかり無しだとさ。」
提向津川河川敷に座りながら会話するコナンと蘭。
「そう……、だとすると、シャドウドールって何の為に出現したのかな……。」
「シャドウドールを操っていた女は、『モルガンのティアラ』を盗んでいったそうだ。」
「女!?じゃあ、シャドウドールを操っていたのは女性なの!?」
「まあ、そう言う事だな。警備員の話によると、その女は『モルガンのティアラ』を貰って行くって言って、それを強奪していったんだ。」
「そうなの……。じゃあ、最初からその『モルガンのティアラ』って言う物凄い価値がある宝物が目当てだったのね、きっと。」
「それがね、蘭。」
「わわっ!?」
「そ、園子!?」
突然割って出て来た園子に驚く二人。
「オメー、びっくりさせんなよ!」
「何やってんの、園子!?」
「ごめんねえ、二人っきりで良い雰囲気だったとこを、邪魔する積りだったわけじゃないんだけどさ。」
「なななな何言ってんだ、オメーはよ!?」
「べべべ別に、そんな事言ってないじゃない!私達、ただ、事件の話をしていただけで!」
真っ赤になってしまうコナンと蘭、そして悪戯っぽく笑う園子。
園子に同行していた舞も、申し訳なさそうな顔をしながら割って入る。
「で、何の話なの、園子?」
蘭に問われて、園子はポケットから一枚の写真を取り出した。
「これが、その『モルガンのティアラ』よ。」
「「「えっ!?」」」
三人は、食い入るように写真を見詰めた。
そして三人とも首をかしげた。
「このティアラ……。」
「何か見た事あるのよねえ。」
「へ?オメー達もか?」
「そりゃ、そうよ。だって、シャッフルロマンスで蘭が演じた、ハート姫のティアラのモデルですもん。」
「「「ええっ!?」」」
園子の言葉に三人はまたまた驚いた。
「パパと一緒に行った国東の小父様の家で、このティアラを見た時、何か心に残ってね。写真を撮らせて貰ったの。」
「へえ。園子がそこまでするって事は、よっぽど価値あるものだったんだな……。」
コナンが感心したように呟くと、園子が手を横に振った。
「ううん、あれって別に、大して値がつくようなものじゃないわ。」
「へ?じゃあ、いくら位のものだったんだ?」
「精々200万程度。しかも、盗品だって分かるからあのままアンティーク装飾品でで売りさばけるようなもんじゃないし。かと言って散りばめられた宝石はいずれも小さいし、外して金属部分を潰したりすれば、それこそ二束三文、いくらも価値がなくなるわよ。」
「そうか……値段だけ見ると、わざわざシャドウドールを操って強奪するほどのシロモンとは言えねえな……。」
考え込むコナン。
「確かにあれは私が心惹かれた位だから綺麗なものなんだけどね。わざわざ手間隙かけて盗むような大層なものじゃないわね。」
「けど、何で『モルガンのティアラ』なんてご大層な名前がついてるの?」
「モルガンってのは、アーサー王伝説にも出て来るケルトの女神だよな。」
「国東の小父様は、元々イギリスの友人が亡くなった時に、『モルガンのティアラ』を預かったそうなのよ。その時の友人の遺言が、『正当な持ち主の手に渡るまではくれぐれも大切に守ってくれ』というもので。だからこそ、大した価値があるわけでもないあのティアラを、国東の小父様は後生大事に金庫に保管していたの。」
問いに答える園子。
「はあ、成る程〜」
「『正当な持ち主』……ってのが、引っ掛かるな。」
「私達には分からない何らかの謂れがあるのかも知れないわね。真ん中には、本来大きな宝石が嵌る筈の台座が空のままになっているから、そこら辺が何か関係してるのかも。」
「なるほど。それにしても、何でそのシャドウドールの女は『モルガンのティアラ』を強奪しに来たのかしら?」
「その『モルガンのティアラ』って、私達が探してるあの『パンドラ』と同じく、シャドウエンパイアが狙ってる物なのかもね。」
「えっ!?シャドウエンパイアが狙ってるのって、パンドラだけじゃないの!?」
「その可能性は大いにありそうだな。きっと、宝飾品としての価値とは関係ねえ何らかの魔道的価値があったんだろうぜ。どっちにしろ、何やらヤバい目的に使おうとしてるのはまず間違いなさそうだな。」
「なるほど。」
「じゃあ、あの女って、ダルクマドンナみたいな魔術師なのかしら?」
「まず間違いないわね。」
「奴等が何の目的なのかは解らねえが、とすると、この先もパンドラ以外の宝物が狙われる可能性ありって事だな。値段で検討がつかない分、厄介だ。」
「コナン君、流石は元々探偵だけあって、頼もしいわね。」
舞が褒めると、園子がすかさずそこに突っ込む。
「そーそー。そこに蘭が加わればそれこそ『鬼に金棒』で、頼もしい事この上ないわ。」
「もーっ、園子ったら!それって褒め言葉なの?」
むくれた顔をしてみせる蘭だが、その目は笑っていた。
「「「「プッ……くくくっ……ハハハ……。」」」」
耐え切れないように噴出し、大笑いする四人。
が、その時!
ドスーン……。
「え?」
コナン達は、背後で何かが地面に落っこちた様な大きな音を聞いた。
「な……?」
後ろを振り向く一同。
と、その時、
ビュンッ!!
「ぬうっ!?」
がしっっ!!
咄嗟に腕を交差させて、突然の攻撃を防ぐコナン。
その腕には瞬時に金の腕輪が装着されていた。
そしてコナンは、ゆっくりと顔を上げた。
「……な、こ、こいつは……!?」
「フォォ…………!!」
コナンの前にいる者、それは見た事も無い異形の生物。
彼が防いでいるのは、その異形の怪物が振り下ろした腕だった。
「な、何あれ!?」
「まさか……、シャドウドール……!?」
その時、
「危ない、新一!」
「え!?」
少し下を向いた瞬間、
「フォォーーーーッッ!!」
「おおっと!!」
怪物はもう一方の手でコナンを殴り飛ばそうとしたが、それよりも早くコナンはバックステップで退いた。
「新一!」
「新一君!」
「コナン君!」
がしっっ!
蘭は咄嗟に両手でマジカルフィールドを展開し、コナンを受け止めた。
彼女の左手首に装着された金の腕輪からも、ほのかな光が出ていた。
「サ、サンキュー、蘭。」
「大丈夫、新一!?」
「ああ、おかげさまでな。でも……。」
コナンは再び怪物の方を見た。
「こいつもしかして、国東グループ会長のトコから『モルガンのティアラ』を強奪してった奴じゃねえか……!?」
「あっ、そう言われて見れば!」
「何でそんな事がわかるの、新一君?」
「見てみろ、園子!あの化け物、全体像こそロボットっぽいけど、頭と前足がワシで胴体と後脚が虎だ。警備員達が目撃した化け物の特徴と完全に一致してるぜ!」
「あっ、ホントだ!」
「テメエ、シャドウドールだな!?」
「いかにも。俺はシャドウエンパイアのシャドウファイター、ティグリフォンだ。」
名乗りを上げるグリフォン型のシャドウファイター・機動合成獣ティグリフォン。
「でも新一、何でこんな化け物が私達のトコに現れたのよ!?」
「知るか、そんなの!」
「でも、早いトコやっつけないとやばいんじゃないの、コナン君!?」
「ああ、そうだな。」
「じゃあ園子、これ頼むわよ。」
「私のも。」
そう言いながら蘭と舞は、園子に荷物を預けた。
「ちょ、ちょっと!?」
「園子は、早く安全な所に避難するんだ。」
「う、うん!」
園子は、その場から離れ、橋桁の影へと逃げ込んだ。
「行ったみたいね、園子。」
「ああ。さあ、行くぜ、蘭、焔野!」
「OK!」
「了解!」
三人は怪物に向かって身構えた。
「貴様等の命、貰ったあ!フォォーーーーッッ!!」
怪物が先を切って、三人に襲いかかった。
「「「とおっ!」」」
瞬時に避ける三人。
「フォォーーーーッッ!!」
怪物は再び三人に向かって来た。
それに対し蘭は、
「はあっっ!!」
怪物に対し拳を繰り出す。が、
ガシッッ!!
「え!?」
「な!?」
なんとその怪物は、蘭の拳を左前足の手で受け止めた。
「そ、そんな!?」
そして、
「フオウッ!!」
「きゃあーーっっ!!」
怪物はそのまま蘭を投げ飛ばした。
「蘭!!」
「蘭ちゃん!」
が、
「おっとお!」
蘭は身を回転させて、体勢を立て直して上手く着地した。
「大丈夫か、蘭!?」
蘭に駆け寄るコナンと舞。
「だ、大丈夫よ。でも、なんて化け物なの、あれ……!?」
「さすがにシャドウファイタークラスだな。でも、だからと言ってこのまま大人しくやられっぱなしって訳にもいかねーからな。」
「確かにそうよね。でも、どうすれば?」
「こういう時は、力を合わせるのが一番よ。私達の空手の力で、コテンパンにしてやるわ!」
「なるほど!それなら。」
「じゃあ行きましょ、蘭ちゃん!」
「うん!」
蘭と舞が怪物に立ち向かった。
「フォォーーーーッッ!!」
「「たあーーっっ!!」」
ぶあきっっ!!
「フォーッ!!」
蘭と舞のダブルキックがティグリフォンにヒット!
「お、おのれえ、フォォーーーーッッ!!」
いきり立つ怪物は再び二人に突進する。
「「てえいっ!!」」
バキッッ!!
「フワオウッ!!」
今度は二人のパンチが同時にヒット!!
「ほう……、ティグリフォン相手になかなかやるな……。」
そう言いながら、天空から戦況を見つめる黒いドラゴンのマスクを着けた漆黒のチャイナドレスの女。
「だが、これではどうかな?」
女は懐から黒いオーブらしきものを取り出した。そして、
「出でよ、ギガヘカトーン!!」
ヒュンッ!
と言いながら、それを天に向かって投げ飛ばした。
ピカアーッッ!
その瞬間、オーブから黒い霧が噴き出すのと同時に、その黒い霧が巨人の形を取り始めた。
「グォォォーーッッ!!」
「ん!?」
天を見上げるコナン。
そして、
ドシィィィィィィィィンッッ……!!
黒い霧から生まれた巨人――ヘカトンケイル型のシャドウファイター・多腕巨人ギガヘカトーンが雄叫びを上げながら地上に降りてきた。
左右に三本づつの巨大な腕を持つその姿は、正に多腕巨人の別称に恥じぬものだった。
「グオオ……。」
「な、何あの巨人は!?」
「恐らく、二体目のシャドウファイターだろーよ。」
「二体目!?」
「ああ。しかし、二体目まで繰り出して来るなんて、シャドウエンパイアの奴等、本当に俺達の事を危険視してるみてーだな。でも、やるしかねーぜ!」
「うん!」
「そうね!」
再び身構えるコナンと蘭、舞。
が、その直後、
「グオウッッ!!」
「な!?」
バキッッ!!
「がはっっ……!」
「新一ぃ!?」
「コナン君!?」
コナンの目の前に瞬時に移動したギガヘカトーンは、三本の右腕でコナンを殴り飛ばした。
その攻撃を受けて遠くへと吹き飛ぶコナン。
「よくも……、よくも新一をーーーっっ!!」
「許さない!」
怒り狂った蘭と舞がギガヘカトーンに鉄拳を繰り出す。が、
「そうはさせんっ!フオウッ!!」
バキッッ!!
「ぐは……!」
「くうっ……!」
二人の前に現れたティグリフォンが、二人をクロー攻撃で吹き飛ばした。
「う、嘘でしょ、こんなの……!?」
コナン達の予想外の大苦戦に、恐怖に慄く園子。
「い、いったいどうすれば……んっ!?」
園子は、ブレザーのポケットから光が洩れているのに気づき、
「あっ、そうだ!私も……。」
ポケットから、光る黄金の腕輪を取り出した。
「ハア、ハア、ハア……、大丈夫か、蘭、焔野!?」
「な、何とかね……、ハア、ハア……。」
「あいつ等、この前のシャドウロードに匹敵するパワーを持ってるわね……。」
ようやく起き上がったコナンと蘭、舞に徐々に迫る二体のシャドウファイター。
「フフフフ、どうした、もう終わりか?」
「ならば、こちらから参る!」
ギガヘカトーンがコナン達の所に向かおうとした所、
「てえーーーーい!!」
ぶあきっっっ!!
「ごふぁっっっ!」
「な゛っ、オ、オメー!?」
「そっ、園子!?」
何と園子が、持っていたテニスラケットでギガヘカトーンを叩き飛ばした。
「そ、園子、どうして!?」
「忘れてもらっちゃ困るわね。私だってC-Kジェネレーションズの一員だって事を。」
「「「あ、確かに……。」」」
自信満々に答える園子に対し、今更ながらに気づく一同。
「お、おのれ小癪なあ、フォォーーーーッッ!!」
「はっ!?」
怒ったティグリフォンが、園子に襲い掛かってきたが、
「そうはさせないわよ!」
「グウォォォーーーーーーーーーッッッ!!!」
ボガッッ!!
「ごふぁっっっ!!」
舞が召喚したドラグファイヤーのテールクラッシュに跳ね飛ばされた。
「サンキュー、舞!」
親指を立てて感謝する園子。
「さあ、こんな奴等、私が一気に片付けてやるわ!」
そう言いながら舞は、バーニングドラゴンキックの構えを取ろうとした。
だが、
「そうはさせんぞ!」
ドゴーーーーン!!
「うわっと!?」
何者かが舞に火炎弾を打ち、その気配を寸前に感じた舞は瞬時に退避した。
「だっ、誰よ、邪魔すんのは!?」
『フフフ……、貴様等の力、とくと見させてもらったぞ!!』
「えっ!?」
「こ、この声は!?」
突如天空から声が響く。
そして次の瞬間、
ピカアーーッッ!
「な……、ま、魔法陣……!?」
「あ、あの色は……!?」
新一達の目の前に、突如闇色の魔法陣が出現し、そして
『ハハハ……!!』
笑い声と共に魔法陣から人影が迫り出す様に出現した。
「な、何!?」
「ひ、人が出てきた!?」
「誰なの、あなた!?」
「テメエ、一体何モンだ!?」
魔法陣から出て来た女性に対し、問い質すコナン達。
「フフフ……、私の名はシャドウマリア。シャドウエンパイアの女王、ダルクマドンナの一の部下なり……。」
「シャ、シャドウマリア……!?」
「ダルクマドンナの……一の部下……!?」
黒いチャイナドレスを身にまとい、顔には黒いドラゴンの翼のアイマスクを装着した女――シャドウマリアは凍りつくほどの闇のオーラをその身に漂わせていた。
それは正に体全体を包み込むかの様であった。
傍らでは、ティグリフォンやギガヘカトーンが傅いていた。
「貴女ね、あいつ等を使って『モルガンのティアラ』を強奪したのは!?」
「フッ、如何にも。」
「この感じからすると、テメエ、暗黒魔術師だな!?」
「えっ!?」
「ほう、さすがは江戸川コナン、いや、工藤新一。そこまで見抜くとは……。」
「改めて聞くけど、俺達に一体何の用だ?」
「用?フッ、決まっておろうが。貴様等の命、もらいに来たのだ!!」
「ほう……、で、理由は?」
「理由?そんな事いう必要があるのか?」
「ああ。こっちだって、何の理由もなしに襲われるなんて、真っ平御免だからな。」
「フッ……。まあ、よかろう。ならばこれだけは教えてやる。それは、我等シャドウエンパイアの宿願の為には貴様等の存在がどうしても邪魔だからだ!!」
「宿願ですって!?」
「その為にわざわざ俺達を消しに来るって事は、相当邪悪な宿願のようだな、シャドウマリア!!」
「邪悪?フフフ……、さすがにダークネスクイーンに勝っただけあって、凄い事を言ってくれるものだ。もっとも、貴様等から見れば確かに邪悪かもしれんがな。ハハハ……。」
シャドウマリアは妖しく微笑む。
「フッ、そこまで自覚してるたあ、ホントたいしたもんだぜ。」
皮肉を込めて感心するコナン。
が、その間にも二人はシャドウマリアに対してしっかりと身構えていた。
「ほう、そう言ってもらえるとは光栄だな。だが!その様な戯言が果たして何時までほざけるものかな?フフフ……。」
「冥土の土産に、もうひとつ教えてくれねえか?」
コナンが問う。
「フフフ、欲張りな坊やだねえ。けれど、確かにこのままでは死んでも死に切れまい。で、何が聞きたい?」
「昨日オメーが強奪した『モルガンのティアラ』、あれには、中央部分に入るべき宝石がなかったが。」
「ふん?」
「そこに嵌るべきなのは、もしかしてパンドラじゃねえのか?」
蘭達三人はコナンの言葉に驚きを隠せなかった。
シャドウマリアは、感心したような小馬鹿にしたような曖昧な態度で言った。
「ほう。流石だな。いかにもその通りだ。」
「でも、パンドラとモルガンのティアラに何の関係が?」
「決まっておろう。モルガンのティアラはパンドラと一体化して、初めてその力を発揮するレガリアだ。パンドラを狙う我々がそれらも求めるのも道理だろう?」
「レガリア?」
「『神器』って事か。じゃあ、宝石の台座だけ盗んでも、何にもならねえんじゃねえか?」
「確かに。だが、パンドラだけ持っていても、そのパワーは充分に発揮出来る訳ではない。だからお前達がたとえパンドラを手に入れたとしても、それを使いこなせる訳ではないのだ。」
シャドウマリアは嘲笑するように言ったが、コナンはそれに対するかのように、にやりと笑った。
「成る程な。4つのパンドラにはおそらく、それぞれに合ったレガリアがあって、一体となって初めてその力を発揮するという訳か。国東さんの友人の遺言にあった、『モルガンのティアラ』の正当な持ち主とは、『モルガンのティアラ』に対応するパンドラの持ち主という事で。逆に言えば、命の石パンドラは、石の方が持ち主を選ぶって事なんだろうな。俺達が今まで知らなかった、有用な情報を、ありがとうよ。」
「くっ……し、しまった!」
シャドウマリアは、コナンの誘導に乗り、つい喋り過ぎてしまった事を悟って歯噛みした。
「新一、流石ね!」
「やっぱり新一君ね、舌先三寸で相手から情報を引き出すとは。」
「いよっ、名探偵!」
「オメーら、褒め言葉に聞こえねえぞ……。」
「フフン、まあ良い、どうせお前達はここで死ぬのだから。情報を得たところで、使いこなせまい!」
「失礼ね!んなもん、やってみなきゃわかんないでしょ!」
園子は、ラケットを身構えながら、シャドウマリアに反論した。
「ほう、そこまで度胸を見せるとは、大したもんだ……だが!」
そう言うやシャドウマリアは、園子に向けて手のひらをかざした。
直後、
「きゃあっっ!?」
園子はシャドウマリアから発せられた何かの力で吹き飛ばされた。
「「「そ、園子!?」」」
「ぐ……!」
ダメージを受けた園子は、すぐに起き上がれず、ラケットも粉々に砕け散っていた。
「テメエ、よくも園子を!」
「許せないわ、シャドウマリア!」
「覚悟なさい!」
怒れるコナン達は、シャドウマリアに対して身構えた。
「そうはさせんぞ!」
「貴様等の相手は、この我々だ!」
ティグリフォンとギガヘカトーンが、シャドウマリアを守るように、コナン達の前に立ちはだかる。
「蘭、園子を守ってやれ!」
「えっ、で、でも……。」
「私達の事は大丈夫だから、園子を頼むわよ。こいつ等は私達が片付けてやるわ!」
「グウォォォーーーーーーーーーッッッ!!!」
ドラグファイヤーが舞をガードする。
「さあ、いくぞ!フォースウェポンセットアップ、グランドコナン!!」
ウェポン召喚言語を発動させたコナンは、フォトンスパイクを装着した。
「勝負だ、シャドウマリア!」
「行くわよ!」
「フッ、小癪な、やれ!」
「ハッ!フォォーーーーッッ!!」
「グォォォーーッッ!!」
コナンと舞に襲いかかるティグリフォンとギガヘカトーン。
が、
「「たあーっ!!」」
ブアキッッ!!
「フワウォォーーーッッ!!」
「グワオーーッッ!!」
コナンのドロップキックがティグリフォンに、舞のトゥーキックがギガヘカトーンにヒット!!
その威力の前に怪物達は遠くへと蹴り飛ばされた。
「凄い、凄いわよ、新一!!」
「舞、かっこいい!!」
コナンと舞を賞賛する蘭と園子。
「フオオ……。」
「ぐおお……。」
二人のキックで喰らったダメージが想像以上に大きく、ティグリフォンとギガヘカトーンはなかなか立ち上がれずにいた。
「よーし、今度は俺達の番だ!」
「そうね!」
二体のシャドウファイターの所へ駆け出す二人。
「フオオ……。」
ようやく立ち上がったティグリフォンは、駆け寄ってくるコナンに対し、クロー攻撃を仕掛ける。
だが、
「てえいっ!」
ガシャーーン!!
「フオオー――ッッ!!」
コナンのハイキックがバロン-ティグリフォンの右前足のクローを蹴り砕いた。
さて一方、舞の方は……。
「グオウッッ!」
ギガヘカトーンが舞に三本の右腕で殴りかかる。
が、
「とりゃあーーっっ!!」
舞も魔力をまとわせた右腕で殴りかかった。
そして、
ガシャーーンッッ!!
「グオオー――ッッ!!」
何と舞のパンチがバロン-ヘカトーンの右腕を三本いっぺんに木っ端微塵に打ち砕いた。
「す、すげえ……。やっぱし、蘭と並ぶ空手部のエースだけの事はあるな。」
舞の破壊力に息を呑むコナン。
「頑張って、新一、舞ちゃん!」
「よーし、いけーっ!!二人ともーっ!!一気にやっちゃえーっ!!」
蘭と園子の応援のボルテージが更に上がる。
「フオオ……。」
「グオオ……。」
コナンと舞の猛攻撃を受けた二体のシャドウファイターには、もう立ち上がる力が残っていなかった。
「いよいよケリをつけようぜ、焔野!!」
「OK!!」
そう言うやコナンは、腕を交差させて、両手から光の輪を出し、
「フォトン・ホールディング!!」
との一喝と同時に、二体の怪物に光の輪を投げつける。
フォンッッ!!
ガシッッ!!
「フワウォォーーーーッッ!!」
「グワオーーーーッッ!!」
光の輪が怪物にヒットして、動きを封じた。
「おお、成る程。シャドウファイターを動けなくして、命中精度を上げようとは。考えたわね、二人とも。」
「さあ、これで終わりだ!フォトンドライブシュート、セットアップ!!」
ギュゥゥゥゥゥゥゥゥン……。
コナンは膝をついて、右手で右足のキック力増強シューズのダイヤルをMAXにし、左手でボール射出ベルトのスイッチを入れた。
同時に、シューズに装着されたフォトンスパイクが強く光りだした。
また、舞の上空では、ドラグファイヤーが旋回している。
「フォトンドライブシュート、READY……GO!!」
と詠唱しながら、コナンはティグリフォンめがけてボールを力強く蹴った。
ドゴォォォォォォォォン!!!!!!
ドガァァァァァァァァン!!!!!!
「フワウォォーーーーッッ!!」
コナンのフォトンドライブシュートがティグリフォンにヒット!!
「はああああ……!」
舞はギガヘカトーンをしっかりと見据えながら、深呼吸をしながら身構えた。
そして、
「とおっっっ!」
上空のドラグファイヤーが旋回している中へとハイジャンプし、
「バーニングドラゴンキイーーック!」
と叫びながら一回転し、ドラグファイヤーからの炎を受け、
ドガッッッ!
「グワオーーーーッッ!!」
その勢いで一挙にギガヘカトーンにキックをヒットさせた。
ドゴォーーーン!!
ドガァーーーン!!
ドグァーーーーン!!
次々と誘爆を起こす二体のシャドウファイター。
「シャ、シャドウマリア様ーーーーッッ!!」
「グワーーーーオーーーーッッ!!」
ピカッ!
ドガァァァァァァァァァァァァン!!!!!!
誘爆の末、ティグリフォンとギガヘカトーンは木っ端微塵に吹き飛んだ。
「へっ、やったぜ!!」
「やったわ!!」
「すごい、凄いわ、二人とも!!」
二人の大勝利を喜ぶ蘭と園子。
そこへ、
「フフフフ、さすがだな、江戸川コナン。」
感心の笑みを浮かべるシャドウマリア。
「シャドウマリアか。さあ、次はテメエの番だ!」
「覚悟は出来てるでしょうね!?」
コナンと舞は、シャドウマリアに対して身構えた。
「フッ、やれるものなら、やってみるがいい!」
「なら行くぜ!フォトン・ホールディ……えっ!?」
「なっ、何!?」
「どうしたの、新一君!?」
何と、コナンがシャドウマリアにフォトン・ホールディングをかけようとした所、それが発生しなかった。
それに一同が驚いた。
「フッ、やはりな……。」
「どう言う事だ、シャドウマリア!?」
「簡単な事だ。光勇者に成り立ての貴様の光の力と、長期の鍛錬を積んだ私の魔力との容量の差は一目瞭然であろう。」
「ハッ、まさかそれを狙って、シャドウファイターを援護しなかったのか!?」
「今更気づいても遅いわ!ハアッッ!!」
「うわあーーーっっ!!」
「きゃあああーーーーっっ!!」
シャドウマリアの魔法念動力を食らい、飛ばされるコナンと舞。
「新一ーーーーっっ!!」
「舞ーーーーっっ!!」
青ざめる蘭と園子。
「ぐ……。」
「うう……。」
コナンと舞は、園子の時以上に強力な魔法念動力を受けた為に、起き上がれずにいた。
その時、
「さあ、次は貴様等の番だ!」
「「!」」
シャドウマリアが蘭や園子に狙いを定めてきた。
「に、逃げろ……蘭、園子……。」
「あ、あいつ……強すぎる……。」
ダメージを受けながらも、必死に蘭と園子を促すコナンと舞。
だが、
「ううん、私、逃げない!」
「私も同じよ!」
蘭と園子は立ち上がり、シャドウマリアに対して身構えた。
「なっ、ら、蘭!?」
「そ、園子!?」
血相を変えるコナンと舞。
それに対して、
「新一、舞ちゃん、光の誓いを忘れたの?」
「そうそう。誰かがピンチになったら、他の誰かが必ず助けに行く、でしょ?」
返す蘭と園子。
「ほう、なかなか良い度胸だな。ならば、死ねえい!!」
シャドウマリアが蘭と園子に魔法念動力を撃った。
だが、
「「とおっ!!」」
二人は散開して、これを避けた。
「ふっ、素直に食らっておけば、すぐにあの世に行けて、楽になれたものを。」
「残念だったわね、シャドウマリア!新一と舞ちゃんのおかげで、私達二人はまだ力を使ってないのよ。」
「ここからが本当の勝負よ!」
二人が力強く言った直後、二人の金の腕輪が光り始めた。
「フォースウェポンセットアップ、ファレノプシス!!」
「フォースウェポンセットアップ、メガスマッシャー!!」
ピカアーーーーーッッ!!
蘭と園子が叫ぶと同時に、腕輪が強烈に光りだし、二人の目の前に光り輝く魔法陣が出現した。
蘭が両手を交差させながら魔法陣に突っ込むと、その魔法陣は蘭の両手を包み込み、そしてグローブの形へと変化した。
園子も魔法陣に右手を突っ込み、その中から白地に黄金の縁取りをかたどったテニスラケットを取り出した。
「おおっ!!」
「あ、アレは!!」
コナンと舞は、フォースウェポンを装備した二人の神々しさに息を呑む。
「うわー、これが私のフォースウェポン……。」
そう言いながら蘭は、自身の両手に装備された白皮に金の縁取りがあしらわれたフォースウェポン――エンジェルグローブの馴染み具合を確かめる。
「へっへー。これで私も、立派な光勇者……ん!?」
園子は自慢げに、自分のフォースウェポン――ホーリーラケットを見ていたが、
「なっ、何よこれ!?ガットが全然貼られてないじゃないの!?」
「えっ、うそお!?」
ラケットには必ず貼られているはずのガットが無いのに気づき、顔が真っ赤になり、蘭も同様に驚いた。
「初音さん、まさか未完成品を寄こしたんじゃ……。」
「でも、召喚されたって事は、アレでも一応完成品なのかも……。」
呆れ気味にホーリーラケットを見るコナンと舞。
「ハッハッハッハッハッ!そのような役立たずな粗大ごみを送るとは、ブラウンフォックスも堕ちたものだな!!」
ホーリーラケットを嘲笑するシャドウマリア。
「失礼ね!んなもんやって見なきゃわかんないでしょ!!」
半ばヤケ気味にホーリーラケットを向ける園子。
「ならば防いでみろ!この私の攻撃を!!」
そう言うやシャドウマリアは、闇のフォースの玉を繰り出し、園子に撃ち出した。
「あぶない、園子!」
「避けて!!」
叫ぶコナンと舞。
だが、
「とりゃあーーーーーっっ!!」
ボンッッ!!
なんと園子は、ホーリーラケットで闇のフォースの玉を打ち返した。
「なっ!?」
打ち返された闇のフォースの玉を避けるシャドウマリア。
「えっ、何?何で打ち返せたの!?」
「あっ、園子、見て!」
自分でも分からずに目を点にしている園子の傍らで、蘭が何かに気づいた。
「えっ、あっ、これは!?」
ガットが張られていない筈のホーリーラケットに、光のガットが張られているのを見て、更に驚いた。
が、ホーリーラケットの光のガットは、すぐに消えてしまった。
「成る程、敵の弾を打ち返すときだけ、光のガットが張られる仕組みになってるのか。」
「この手の武器は、結構体力を消耗するから、ある意味省エネ的よね。」
コナン達は改めて、初音の武器開発能力の高さに舌を巻いていた。
「おのれえ、小癪なあ!!」
怒れるシャドウマリアが、園子に向かって突進してきた。
「きゃあ!」
その迫力に怯む園子。
だが、
「てええいっっ!!」
バキッッ!!
「がはっっ!!」
蘭がシャドウマリアを鉄拳を殴り飛ばした。
「アンタの相手は、この私よ!」
力強く身構える蘭。
「おお、すげえ!」
「さすがは関東の女子空手チャンピオン!」
「蘭、やるぅー。」
驚嘆する一同。
「こ、この私が……貴様等ごときにぃ!!」
更に激高するシャドウマリアは、闇のオーラを吹き上げながら、蘭達に向かって突進してきた。
「死ねえい!!」
「はいっ!」
シャドウマリアの鉄拳を右腕でガードする蘭。
「てえいっ!」
「何のっ!!」
すかさず蘭がキックをかますが、シャドウマリアはこれをかわす。
「おりゃあーーっっ!!」
「ぬうんっ!!」
園子がホーリーラケットをシャドウマリアに振り下ろすが、これも避けた。
「とおっ!」
「おおっとぉ!!」
返す刀でシャドウマリアが園子に鉄拳を向けるが、園子はホーリーラケットでブロックする。
「す、凄いわね、二人とも……。」
「ああ、蘭ばかりか、園子まで互角に渡り合うとは……。」
蘭と園子の戦いぶりに息を呑むコナンと舞。
「な、何て凄い動きなの、アンタ!本当に人間!!?」
シャドウマリアの連続攻撃をブロックし続けてきた園子は、息が上がってきた。
「フッ、そんな事は自分で確かめろ!」
「ひゃあっ!」
園子はシャドウマリアの鉄拳をすんでの所でかわした。
だがその時、
「うわあっ!?」
弾みで足を滑らせて倒れてしまう。
「もらったあ!!」
すかさずシャドウマリアが倒れている園子に鉄拳を繰り出してきた。
「きゃあっ!!」
「「「園子!」」」
蘭が猛ダッシュで駆け寄ろうとしたその時、
「させるかあ!フォトン・ホールディング!!」
ガシッッ!!
「なっ、何いっ!?」
コナンがシャドウマリアをフォトン・ホールディングで拘束した。
「えっ、新一!?」
「ばっ、馬鹿な!?貴様には光の力がもう残って……。」
「残念だったな、シャドウマリア。上手い具合にフォトン・ホールディングをかますだけの力が回復してな。」
「何か光の力って、想像以上に奥深いのね。」
感心する舞。
「さあ、今だ、蘭、園子!!」
「えっ、でも拘束している人間に必殺技をかましたら、死んじゃうんじゃ……。」
「その心配はいらねーよ。光の力はあくまでも『活人の力』であって、別に死んだり傷ついたりする訳じゃねーから安心しな。奴が本当に人間ならな。」
「えっ……て事は……?」
「まさか……シャドウドール!?」
驚きの目でシャドウマリアを見る蘭と園子。
「如何にも、私はシャドウドールの中でも最上級に位置する『ロイヤルドール』だ。」
「ホントに!?」
「でも、質感なんて、どう見たって、人間にしか見えないわよ!?」
「やっぱり、『ロイヤル』が付くだけの事はありそうね。」
「だが貴様……、何故私がシャドウドールだと判ったのだ!?」
「音だよ。」
「音?」
「そう。テメーの体から、かすかにロボットの機械音のような音が聞こえてたから、もしかしてと思ってたんだが、案の定だったって訳だ。」
「ほーっ、新一君って音を聞き分ける力が本当に優れているのね。」
「その反動でかな、歌が超音痴だけどね。」
「よけーなお世話だ、バーロー!!」
「……フフフフ、やはりダルクマドンナが危険視するだけの事はあるな。だが!」
ガシャーーーン!!
何と、シャドウマリアはフォトン・ホールディングを破壊して拘束を解いてしまった。
「なっ、何!?」
「フォトン・ホールディングを解いた!?」
驚く蘭達。
「私は暗黒魔術の粋を集めて生み出されたロイヤルドール、貴様等の光の力になぞ負けはしない!」
闇のオーラを噴き出しながら身構えるシャドウマリア。
が、
「なるほどな。やはり『特注品』だけあって、そう簡単にはいかねーか。」
コナンは予期していたのか、あまり驚くような風を見せなかった。
「園子!これはもうマジでやるしかないわね!」
「合点よ、蘭!!」
ロイヤルドールの力の凄さを目の当たりにして、蘭と園子は本気モードになった。
「行くぞ、光勇者ども!」
蘭達に突進するシャドウマリア。
が、
「「とおっ!!」」
「むっ!?」
二人はシャドウマリアを飛び越えて、背後に回った。
そして、
「ファレノプシス彗星拳、セットアップ!」
「パワードスマッシュ、セットアップ!」
必殺技発動言語を唱えると、蘭のエンジェルグローブに光の力が集結し、ある程度の光の玉が生成されると、蘭はシャドウマリアに対して身構えた。
一方、園子のホーリーラケットには、何も無い中心部に光のガットが貼られ、そこから光のボールが浮かび上がり、園子はその光のボールを手に、同じくシャドウマリアに対して身構えた。
その時、
「ダークネスフォースカノン!!」
ダアーーーーンッッ!!
シャドウマリアは振り向きざまに、闇の力の弾丸を発射した。
それに反応するように、
「「いっけえーーーーーっっ!!」」
ズドーーーーン!!
バコーーーーンッッ!!
蘭は光の闘気を撃ち、園子は光のボールを打った。
バチッ!バチバチッ!!
ぶつかり合う光と闇の力が激しい火花を散らした。
そして、
ドゴーーーーン!!
「ぐはっっっ……!」
蘭と園子の光の力が、シャドウマリアのダークネスフォースカノンを突き破り、そのままシャドウマリアにヒットした。
「やったあ!」
「やったわ!!」
「よしっっ!!」
「凄いわ、蘭ちゃん、園子!!」
強敵を打ち破り、大歓声を上げる蘭達。
「ぐっ……な、何て力だ……。」
光の力の直撃を食らったシャドウマリアは、体のあちらこちらで露出している機械部分から、火花をスパークさせていた。
「うわっ、ホントにシャドウドールだったんだ。」
「つーか、まんまロボットだな、ありゃ。」
「でも、それでも破壊できないなんて……。」
「さすがに暗黒魔術の粋を集めて作り出されただけの事はあるわね。防御能力も半端じゃないし。」
「この前のシャドウロードクラス以下だったら、まず木っ端微塵に吹っ飛んでるもんね。」
「ハア、ハア……ま、まだ負けた訳では……。」
シャドウマリアが身構えたその時、
『そこまでにしておけ、シャドウマリアよ。』
「ハッ!?」
また何処とも付かぬ所から、重々しい声が響き、シャドウマリアがそれに気づいた。
「な、何今の声!?」
「まだ誰かいるのか!?」
辺りを見回すコナン。
その時、
『なかなかやってくれるではないか、光の勇者よ……。』
の低い声と共に、怪しげな人影がコナン達の目の前に出現した。
「なっ、何あれ!?」
「何て怪しげなカッコなの!?」
「だっ、誰なのアンタ!?」
一同の前に現れた人影は、全身を漆黒のローブで包み、無表情な黄金のマスクをつけていた。
「フッ、ついに首領自身がお出ましか、シャドウエンパイア女帝・ダルクマドンナ。」
「えっ!?」
「あ、アレがダルクマドンナ!?」
「私達の……敵!?」
コナン以外の三人は、ダルクマドンナから発せられる強烈な暗黒のオーラに圧倒されていた。
『ほう、さすがは工藤新一、このわらわを見ても物怖じ一つしないとは……。やはり組織を壊滅に追い込んだだけの事はあるな。』
「フッ、最高の褒め言葉をありがとうよ。で、俺達に何かようか?」
『我がシャドウマリアが色々と世話になったようだな。それに免じて、今回だけは挨拶だけで済ませておこう。さあ、戻れ、シャドウマリアよ!』
「ハッ!光の勇者どもよ、次に会った時が貴様等の最後だ!!」
そういい残しながらシャドウマリアは、足元に展開した魔法陣の中に吸い込まれるように退却した。
それを見届けたダルクマドンナも、
『では、また会おう。』
と云いながらその場から消え去っていった。
「ねえ、新一!どうして攻撃しなかったの!?」
「今がチャンスだったじゃん!!」
「立体映像相手にんな事したって無駄だよ、なあ、焔野。」
「コナン君の言う通りね。」
「えっ、アレが立体映像!?」
「何かホントにいたって感じがしたけど!?」
「あんなの、ダルクマドンナからすれば、超初歩的な術さ。まあ、それにしても、アレだけ強力な暗黒魔術師が首領となると、俺達も決して油断は出来ねーぜ。」
「そうね、新一君。」
「私達ももっと気を引き締めなきゃ。」
「けど、私達の心に光がある限り、あんな敵には絶対に負けないわよね、新一。」
「ああ。これからも俺達みんなで張り切って行こうぜ!!」
「「「おーーーーっ!!」」」
コナンのゲキに、蘭達は威勢を上げた。
☆☆☆
「こ……これがダルクマドンナ……なの!?」
「そや。それがシャドウエンパイアの女帝で、ウチ等の最大の敵でもあるんや。」
阿笠邸にて、コナン達からダルクマドンナとレガリアの情報を受け取った初音は、ダルクマドンナのイメージ写真を哀と阿笠博士に見せ、二人は息を呑んでいた。
「しかし、見るからに禍々しいわね、このダルクマドンナ。」
「新一達は、こんな恐ろしげな敵と戦っとるのか。」
「コナン達だけやない、ウチ等もやろ、阿笠の爺さん。」
「あ、そ、そうじゃの……。って、誰が爺さんじゃ、ワシはまだ52歳じゃ!」
「ええやないか、そないな細かい事」
「細かくはないじゃろうが!」
「うっさいなあ、爺さんと言われとうなかったら、その喋り方を何とかせえや。……それにしてもシャドウエンパイアは、パンドラだけじゃなく、ウチらマジックギルドも知らんかったレガリアの存在まで知ってたんやな。レガリアだけ手に入れたかて、シャドウエンパイアにも使い道はあらへんやろうけど。パンドラがあってもレガリアがあらへんかったら、力が発揮でけへんから、ウチらの妨害の為もあるんやろうなあ。」
その時、
「あ、あの……。」
「ん、どした、蘭々?」
「もしかしたら、レガリアがパンドラを呼ぶとか、そういう事って考えられませんか?」
蘭がおずおずと切り出した言葉に、皆の視線が集まった。
「何やて!?蘭々!?」
「あ、あの……ごめんなさい、ただ思い付きを……。」
「いや、蘭。その可能性は大いにあるぜ!」
「せや、蘭々、パンドラとレガリアは本来対になるもんや、呼び合う可能性はあるで!」
「なるほど〜、パンドラがどこにあるか分からないから、まずは、所在確認が出来ているレガリアから、と。」
「そう考えると、1番シックリ来るわね」
納得する園子と舞。
「さすがは蘭君、新一の無二のパートナーじゃのう。なあ、哀君。」
「……博士、それ、分かってて話振ってるの?」
「分かってるって、何がじゃ?」
「ふう。いいわ、もう……。」
(哀君、君はもしや……ワシが危惧しておった通り?)
博士が一瞬、気遣わしげに哀を見たが、哀は既にいつものポーカーフェイスだった。
「レガリアとパンドラが呼び合うという可能性は充分ある、それにたとえパンドラがウチらの手に入ったとしても、レガリアがないと力が充分発揮出来んのは確か、ちゅう事は、シャドウエンパイアにとって、レガリアを狙うんは、充分過ぎる意味のある事や!」
初音の言葉に、一同が頷いた。
「レガリアは、おそらく残り3つ。出来れば先手を打ちたいところやけど、何分、ウチらにはその情報があらへん。」
初音が苦りきった表情で、言った。
「ま、あまり根を詰めて考え込んでも仕方がなかろう。ここらで一服してはどうじゃ?」
博士の言葉に誰も異論はなく。
博士は、皆の分のコーヒーを淹れて持って来た。
「おー、すまんな博士。」
「ふう。生き返るぜ。」
「……新一、さすがにうちでコーヒーって訳には行かないものね。お父さんに怒られるし。」
「やっぱり小父さんには、小学校1年生にコーヒーを飲ませないだけの分別があるものねえ。」
「ほお。自分は酒びたりヘビースモーカーでも、そこら辺の判断力はあんのやな。」
「ま、それが俺にはちと、厳しいんだけどな。」
「新一君、仕方ないじゃない、蘭との愛の夫婦生活の為だもん。」
「「ぶはーっっっ!!」」
園子の言葉に、コナンと蘭は、飲んでいたコーヒーを思いっきり吹き出してしまった。
「ななな何を言うんだ、オメーはよ!」
「そ、そうよ園子、変な事言わないでよ!」
「蘭々、はよ拭かんと、制服にしみが出来るで。」
「ほら、蘭ちゃん。」
初音が言って、舞がハンカチを差し出して蘭の制服を拭き出した。
「あ、ありがとう。」
「あら?蘭ちゃん、これ……。」
蘭の制服を拭いていた舞が、胸についていたブローチに気付いた。
上着に隠れる部分についていたので、今まで気付かなかったのだ。
「蘭、帝丹はアクセサリー禁止の筈だろ?」
「う、うん。だから、見つからないようにつけてたんだけど。」
「……それ、一体何なんだよ?」
「え?な、何って?」
コナンが険しい目付きで問うのに、蘭は訳が分からずオロオロした。
周囲の皆は、思わずにやついて2人を見る。
「ら〜ん、新一君はね〜。それが『他の男からのプレゼント』じゃないかって、勘繰ってるのよ〜。」
「えっ!?」
「なっ、そっ、園子っ!余計な事を!」
コナンは、首まで真っ赤になって怒鳴った。
「で?そのブローチは一体なあに?」
舞が問うと、蘭が今度は素直に答えた。
「お母さんから、もらったのよ。もう!私がいくら鈍いからって、他の男の人からアクセサリーもらったりするわけ、ないでしょう?」
「あ……ま、まあ、確かに。」
「心配しなくても、私はそんなにもてませんって。」
「お、おい、蘭!?そ、それはちょっと……違う……。」
微妙にずれている蘭の言葉に、コナンは目を白黒させていた。
「でも、このブローチって、ちょっとおかしくない?蘭のお母さんがくれたものにしては、何と言うか……バランスが悪いと言うか、貧相と言うか……。」
「うん、何か、ちょっとこう……足りないよね。」
園子と舞の言葉に、初音と哀も、そしてコナンと博士も、じっとブローチを見詰めた。
「この赤い大きな石は、メノウ……よね。これが、カメオ加工してあるとかなら、まあ分かるんだけど。メノウって、宝石と言うより貴石に分類される位の、まあ、あんまり高価じゃない石よね?」
「で、でも。私高校生だし、こんな大きな石は、その位が妥当なんじゃないの?」
「蘭。そりゃこのブローチ自体が、安っぽい金属製なら、分かるわよ。でもこれ……きちんと調べないと分からないけど、多分……プラチナ製だわ。」
「え……ええええ!?」
「それに、周りを囲んでいる小さな石は、どう見ても、本物のダイヤ。たかがメノウを、小さなダイヤが取り囲んでいるなんて、絶対おかしいわよ。」
「確かに……園子はさすがに、そういった目は持っているものね。だとすると、これは……。」
舞が、蘭からブローチを受け取って、詳細に見た。
横から覗き込んでいたコナンが、言った。
「ん?これって、メビウスの輪の形になってるよな?」
「どれ。ほう、確かにそうじゃな。」
「俺は、ブローチのデザインについてはよく分かんねえけど。あんま、こういったデザインにはしねえんじゃねえか?」
「ん〜、それは、そうとも言えないけど……メビウスの輪?って、何だっけ?」
「表も裏もない、無限の象徴とも言える形よ。」
「メビウスかあ……あ、そう言えば、お母さんが、このブローチの事を、『メビウスノルンブローチ』って呼んでたわ。」
哀の説明に、蘭が思いだしたように言った。
「ノルン……?北欧神話に登場する、運命の3姉妹の女神の事だな。」
「何やて!?」
「どうした、初音さん?」
「なあ、ウチ、今の聞いて、とても安直な事、思いついたんやけど。『モルガンのティアラ』のモルガンは、ケルト神話の3姉妹の女神の名前やったな!?」
「あ……!けど、そんな……あまりにも話が出来過ぎてねえか!?」
「新一、どういう事?」
「まさか、新一君、蘭の持ってるこれが、レガリアかも知れないって、そういう事なの!?」
「そんな事、ある訳が!」
「……蘭、ないとも言えないような気がするわ。だって、そのブローチ、メノウの部分を除けば、それ自体はものすごく高価なわけじゃないけど、ビッグジュエルをはめるに相応しい台座だもの!」
一同顔を見合わせ、信じられないという思いで、蘭の持っていたブローチを見詰めた。
舞が、蘭に尋ねる。
「ねえ、蘭ちゃん。このプローチの謂れ、小母様は何か仰ってなかったの?」
「……これはお母さんが、新一のお母さんから結婚祝いに貰ったもので。」
「母さんが!?」
「新一のお母さんは、元々これを……。」
言葉を濁す蘭を、皆が訝しそうに見た。
「ん、どうした?」
「新一。これがどういう符号なのか、分からない?」
「符号?」
「あのね、これ、元々は、シャロンさんが、新一のお母さんに渡したものだったんですって。」
「何だって!?シャロン・ヴィンヤード、あの人か!?」
「ええ。」
「まさか、ベルモットが!?」
哀が、大きく息を呑んだ。
「べ、ベルモットって……こないだ、新一君が言ってた、組織の女ボス!?あのアメリカの大女優のシャロン・ヴィンヤード!?」
驚く園子。
「ボスじゃなくて、大幹部だよ。」
「似たようなもんじゃない。」
「いや、それがな。ベルモットことシャロンさんは、組織の幹部だったが、組織を内部から切り崩し崩壊させるのに一役買ったんだ。」
「って事は、味方だったの?」
「ま、一応な。もっとも、彼女の罪も決して小さくないし、彼女自身、過去にジョディ先生の父親を消したりと、色々と手を血で汚しているしな。」
「なっ、そ、それ本当なの!?」
「ああ。だから今は、組織との決戦の際に負傷したのを治療する為に医療刑務所に居て、それらの裁判を受けているところさ。」
「その人が、コナン君のお母さんにブローチを渡したのって、随分昔なのよね。」
「ああ。」
「まさか、その当時からこうなる事を予期して?」
「いや、さすがにそれはない。俺と蘭が生まれる前だしよ。」
舞の問いに答えるコナン。
「如何にベルモットと言えど、予言者じゃないんだし、それはないでしょうね。」
「まあ、何らかの予感を覚えていた可能性までは、否定出来ねえが。」
「なるほど。そう言えば、国東の小父様も、元々、『いずれ正当な持ち主の手に』と期待して、『モルガンのティアラ』を預かったって言ってたし、受け継いでいく方もきっと、その先どうなるか予測まではしていないんじゃないかしらね。」
「園子、あんた、今日は妙に冴えとるなあ。まさかベルモットの変装やあらへんやろうなあ。」
「何言ってんのよ!この推理の女王『眠りの園子』様に対して!」
「はははは、そうやったなあ。頼もしいで、園子!」
(おいおい……。)
ジト目で園子と初音を見るコナン。
「その台座にはまる大きさの宝石……。」
ふと、哀が何事かを考えるような目付きになった。
突然、哀が奥の部屋へ駆けて行ったので、一同は何事かと首をかしげた。
ほどなく、戻って来た哀が手にしていたのは、石だった。
「哀君、それは?」
「宝石の原石らしいの。大きさが丁度その位かと思って。」
「どれ。」
初音が横から手を出して、哀が持って来た石を手に乗せる。
「ほおう。これは、ごっつ大きいクリソベリルやなあ。」
「おいおい、初音さん、ひと目見てそれが分かるなんて、バケモンだぜ。普通、きちんと鑑定しないと分からねえだろ?」
「バケモンは余計や!けど、これもウチの特技のひとつなんや。」
「クリソベリルって言ったら、ダイヤやルビー、サファイアに次ぐ、かなり硬度の高い良い石だよな?」
「せやな、こん大きさやったら、『ただのクリソベリル』でも、ごっつ高価やでえ。」
「『ただの』?って事は、これ、特殊なヤツなのか?」
「ほれ、これ、よう見てみい。こうやって、蛍光灯の光では青っぽく見えるやろ?けど、コナン、腕時計のライト、当ててみい。」
言われてコナンがライトを当ててみると。
「え!?」
「あ!?」
「あ、赤くなった!?」
「アレキサンドライトね!?」
園子が興奮して叫ぶ。
「アレキサンドライトってのは?」
「光によって、赤と青に色が変わる石よ!クリソベリルの中でも、すごく稀少で、高価だわ!」
「それだけやないで。ま、そっちは磨かんとハッキリ目では確認でけんやろけど。」
「それだけやないって、初音さん、まさかそれって、『アレキサンドライトキャッツアイ』!?」
「は?園子、何その、アレキサンドライトキャ……って?」
「和名猫目石。と言えば、分かる?」
「うん、宝石の中に、猫の目みたいな形の光が現れる、アレでしょ?」
「猫目石は、いろいろな宝石で見られるけれど、クリソベリルのキャッツアイが特に最上とされているの。そして、これは、変色効果があり、同時に宝石の中に猫目の光も現れるという、なまじのダイヤよりずっと希少価値が高い、アレキサンドライトキャッツアイと言われる宝石な訳。」
「へえ、これってそんなに凄いんだ……。」
アレキサンドライトキャッツアイの原石の希少性に息を呑む舞。
「色も綺麗だし、この大きさだから、きちんと磨けば、ヘタすると天文学的な値がつくわね。」
「この石が……。」
園子の説明に、さすがにものに動じない哀も、この事態には驚いていた。
「なあ、灰原。オメー、これ、どうしたんだよ?」
「母から、譲り受けたのよ。」
「オメーのお袋さんから?けど、オメー、組織から逃げ出す際は、んなの持って逃げる余裕なかっただろ?」
「ええ。でも実は、前に行った私の旧宅の中で、工藤君と一緒に見つけた、お母さんの声が入ったテープと共に、これもあったのよ。」
「なるほどな。それも明美さんが守った、お袋さんの遺品だったって訳か。」
「ええ。」
「ほう。あのエレーナさんが、哀君にこれを残しておったのか……。母親の愛じゃのう。」
「せやったら、この石の名前は、『エレーナの温もり』で決まりやな。どや?」
「はああ?初音さん、何だよ、それ!?」
「ええやんか。そもそも、ビッグジュエルには、名前があるんが普通やで?」
「新一君、それは確かだわよ。この石には、名前があってしかるべき価値があるわ。」
「そういうもんなのか。」
「せや。で、どうや、ええ名やろ?」
「そうね。私は気に入ったわ。」
そのやり取りで、宝石の名前は決まった。
園子がひょいと宝石を取り上げ、蘭のブローチに当ててみる。
「う〜ん、ここには合わないみたいねえ。」
「まあ、これが台座とはちゃう、いう事やろな。これは、ええ宝石やけど、パンドラやあらへんし。なあ、これ、ウチに預からせてくれへんか?綺麗に磨き上げてやるで。」
「初音さんは、技術力が意外と高いから、いいものに仕上げてくると思うぜ。どうだ、灰原?」
「そうね。私は宝石屋に知り合いも居ないし、お任せするわ。」
「初音さん、まさか売り飛ばしはしないわよね?」
「ギクッ……!!……何言わすねん、アホ!こんなん、売り飛ばそうなんてしたら、すぐ足がついてまうで!」
「あはははは。」
「うふふふふふ。」
「おほほほほほ。」
深刻な話をしていた一同だったが、和やかなムードになって、その場はおさまったのであった。
(これが、レガリアかも知れない?まさか、よね。)
蘭は、半信半疑ながらも、『メビウスノルンブローチ』を今迄以上に大切に守って行こうと思ったのである。
(お母さんが残してくれた宝石が、そんなに価値があるものだとは……。)
哀は、『エレーナの温もり』を見詰めながら、殆ど接する事もなかった母親の愛を噛み締めていた。
そして。
この時現れた蘭のブローチと、哀の宝石が、後々、C‐Kジェネレーションズの戦いに大きな意味を持って来る事になるとは、誰も予想だにしていなかった。
To be continued…….
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