C-K Generations Alpha to Ωmega



By 東海帝皇(制作協力 ドミ)



第二部 勇者激闘編



Vol.2 式神でGO!開かれた非日常への扉



提向津川河川敷でのダルクマドンナとの初邂逅の翌1月26日木曜日の午後四時。



「……。」

帝丹小学校から戻ってきたコナンは、事務所内にて、工藤邸から持ってきた推理小説を黙読していた。
ちなみに小五郎は仕事で出かけていて留守だった。

その時、

「ただ今ー、新一。」

蘭が帝丹高校から戻って来た。

「よー、お帰り。」

返事をするコナンだが、視線は小説に釘付けになっていた。

そこへ。

「「「こんにちは〜。」」」

瑛祐・園子・舞の三人が、訪れてきた。

「ななっ、オ、オメーら。何しに来たんだ?」

びっくりしたコナンが三人に尋ねると、

「見ての通り、遊びに来たんですけど。」
「別に、いつも蘭と二人きりじゃなくても、良いでしょ?」
「そうそう、いっつも二人きりだと、飽きるわよ?」
「おいおい、何言ってんだ、オメーら!俺は別に、そういう事を言ってんじゃなくて!」

園子と舞のツッコミに、顔を真っ赤にするコナン。

「新一君、最近余計にからかい甲斐があるようになったわ。」
「蘭ちゃんと晴れて恋人同士になったからでしょうね。」
「おいおい……。」

コナンは、あっさりと園子と舞にかわされて、ガックリとうな垂れる。

「もう、人が悪いわよ、二人とも。」
「にゃはは、ごめーん。」
「あんまり奥さんを怒らせるのも何だしね。」
「ななな、何つー事言うのよ、舞ちゃん!?」
「焔野、オメー完全に園子に汚染されたな……。つったく、こんな様子を王子様に言ったら……。」

とコナンが呆れた瞬間、

「何ですって〜〜〜〜〜っっ!!!?」

舞が鬼のような形相でコナンを高く締め上げた。

「ぐぐぐ……。」
「わーっ、お、落ち着いて下さい、舞さん!!」
「チョーク、チョーク!!」

血相を変えて舞をたしなめる瑛祐と園子。

その時、

「ねえ、舞ちゃん、今の様子を撮って、陽介さんに送ってあげましょうか……?」

蘭がケータイ片手に、普段とは想像も付かないほどの乏しい表情と低い声で舞を威嚇した。

「わーーーっ、ちょ、ちょっと待って!!」
「おわっ!!」

蘭に気圧された舞は、コナンを思わず手放した。
いきなり放されたコナンは、受け身をとる間もなくそのまま落下した。

「いててててて……。」

腰をさするコナンに、さらに追い打ちをかけるように、

「ちょっと、新一君?舞が私に汚染されたって、どういう事よ!?」
「さすがにそれは、私も聞き捨てならないわね!」

今度は園子が仁王立ちになってコナンに迫る。
蘭もこの件に関しては、園子の味方だ。

「あ、や、だ、だから、それはだな……。」

今度はコナンが冷や汗をかく場面だった。

「ははは……(何か、女の人って怖いんですねえ。)」

瑛祐が、無意識の内に目を逸らすと。

「ん?」

ふと、コナンが読んでいた推理小説を手にとって見た。
すると、

「ゲッ、な、何ですか、これは!?」

突然仰天したような顔つきになった。

「どうしたの、瑛祐君?」
「ちょっとこれ、見て下さいよ!」

瑛祐が園子や舞に小説を渡した。

「うげっ、こ、これは……!?」
「全文英語だらけじゃないの!」

小説を見た二人も、大いに驚いた。

「いやあ、ちと退屈しのぎに家から持ってきたんだけど。」

事も無げに答えるコナン。

「た、退屈しのぎってアンタ……。」
「私、こんなの絶対読めないわね……。」

ジト目でコナンを見る園子と舞。

その時、チャイムが鳴った。

「すみません、宅配便で〜す!」

蘭が受け取りに出て、すぐに戻って来た。

「新一、大阪の菫ちゃんから何か届いているわよ。」
「菫ちゃんが?わざわざ宅配便で俺に?珍しいな、一体?」
「この大きさなら、メール便の方が安いのに。あのケチな菫ちゃんが、珍しいわね。」
「さすがの菫ちゃんもメール便はためらう位、大切なものなんじゃないの?」

中には冊子のような物が入っている様子。
コナンが開封すると、和紙が数枚入っていて、それは皆簡略な人型をしていた。

「な、何だこれ!?」
「アニメとか漫画ではよく、こんな形の紙が『式神』として使われてるわよね。」
「おいおい……まさか、本当にそれかよ?」

コナンは、半目になって、一滴汗を垂らしながら、その怪しげな紙を一つ手にとって見ていた。

「ねえ、舞ちゃん。式神みたいなこれ、なんだか分かる?」

蘭は、人型の紙を指し示しながら言った。

「どれどれ。」

舞が、人型の紙を手に取って、仔細に見てみた。

「蘭ちゃん、コナン君、これ、式神みたいじゃなくて、もろ、式神だと思うわ。」
「え!!?」
「焔野、それ、ホントか!?」
「ええ。これ、神鳴流でもよく式神として使われる、人型だもの。」
「ははは、そう言えば菫ちゃんは、神鳴流剣士だったよな。でも何で、これを俺に?」

その時、封筒の中を覗いていた瑛祐が口を開いた。

「あれ?中に他の紙が、入ってますよ?」

そう言って、瑛祐が取り出した紙は、和紙で作られた便箋。
けれどそれは……。

「何も書いてねえな。」
「ん〜、もしかしたら、探偵である新一には分かるような仕掛けがあるんじゃないの?」
「あぶり出しとか?」
「水につけたら文字が浮き出るとか?」
「う〜〜〜ん……そういう可能性も、なくもないが……菫ちゃんが送って来たもんだからなあ、もしかして……」

そう言ってコナンは、光の腕輪を発動させ、左腕を紙の上にかざした。
すると……。

「おお!」
「あ、何か、文字が出て来ましたよ!」
「ははは、魔法の力で浮き出る仕掛けだったのか……(俺、普通の探偵に戻れる日が来るんだろうか?)」

コナンは、一抹の不安を覚えながらも、文面に目を通した。


『ヤッホー。元気ですかあ?
今回は、コナン君に超役立つアイテムを送ったで。
これは、名前を書き込むと、自分と同じ姿に変形してくれる式神なんや。
もち、魔力ゼロの一般人には使いこなせへんけど、コナン君やったらきっと大丈夫やろ。
詳しい事は、初姉さんや舞ちゃん達にでも、聞いたってや。
ほな、これで。

By すみれ


追伸。

なお、この手紙は読み終わると自動的に消滅するで。』



コナンが手紙を読み終わった途端に。

ボン!

「うわわっ!?」

手紙は煙を発して消滅した。

「ええええ!?何て書いてあったの?」
「半分も読めませんでしたよ。」

コナンは速読が出来るので、脇から見ていた他の者が読み終わる前に既に読み終わっていた。
手紙はご丁寧に、宛先であるコナン自身が読み終わると、即座に消滅するように魔法がかかっていたらしい。

「ははは……。」

コナンは、笑うしかなかった。

内容としては、ごく簡単な事だったので、コナンは周囲の者に説明する。

「はああ。式神ねえ。確かに、使いこなせれば便利なんだろうけど。」
「工藤新一と、江戸川コナンと。どっちの名前書いたら良いんだよ?」
「紙は沢山あるから、両方試してみたら?」

それに対して、蘭が言った。

「ねえ、『自分と同じ姿に』なるって、手紙には書いてあったんでしょ?だったら、新一の姿にしたい時は工藤新一で、コナン君の姿にしたい時は江戸川コナンで、良いんじゃないの?」
「あ、なるほど。」
「じゃあ、早速試してみましょうよ。」
「蘭?オメー、妙にウキウキしてねえか?」
「ええ!?そ、そんな事、ある訳ないでしょ!?(仮初でも、新一の姿が見られたら嬉しいなんて、新一本人を前にして、言えないわよねえ)」
「ま、いいや。せっかくだから、試してみよう。」

そう言って、コナンは人型のひとつに、「工藤新一」と書き込んだ。
すると。

ボン!

人型の紙は、音と同時に煙を発し。

「うわっ!」

思わずのけぞるコナンの目の前で、工藤新一の姿を取った。


「うわあああ!」
「ほ、本当に人の形になった!」

驚く園子と瑛祐。
が、

「おい園子、オメー、一体何やってんだ?」
「え?い、いや、元が紙だから、引っ張ったらどうなるかと思って。」

園子はすぐ、式神のヘタの部分を引っ張っていた。

「でも、感触もリアルだし、引っ張っても簡単にちぎれないわね〜。」
「園子……オメーなあ……。」

コナンは、呆れた目で園子を見ていた。

「でも。やっぱり、紙ですね。」

瑛祐が言った。

「ん?瑛祐、どういう意味だ?」
「だって、引っ張られても何の反応もないですもん。痛みも何も感じないんでしょうね。普通の人でもすぐに変だって、分かっちゃいますよ。」
「おお、なるほど。そう言われて見れば。」
「瑛祐君、ドジっ子のクセに、鋭いわよねえ。」
「ほっといて下さい!」

コナンが腕組みをして考え込む。

「けど、確かにこれだと、使いにくいよな。なあ、焔野、これ、どうやって動かすんだ?」
「これはね、術者が指令を与えないといけないのよ。」
「指令?」
「簡単に言えば、脳波コントロールで動かすの。」
「全然簡単そうじゃねえな、それ。」
「まるで、ガンダムのサイコミュ兵器みたいですね!」
「瑛祐……オメー意外と、オタクだったのな。」
「オタクじゃなくても、ガンダムファンなら、こんなの常識ですよ!」
「……あ、そう。」
「ま、とにかく、式神が動くように、心の中で念じてみてよ。多分、コナン君なら、短期間に出来るようになると思う。」

舞に促されてコナンは目を瞑り、少しの間考え事をしているかのようなポーズを取った。
すると。

「よお、蘭!」
「わわわっ!」

式神が、まさしく新一の表情と声で、蘭に向かって声をかけたので。
一同は驚く。

「いやいやいや、本当に新一君みたい。」
「あの。ホンモノの工藤君って、ああいう風な眼差しで、蘭さんを見詰めるんですか?」
「そうなのよ〜。気付いてないのは当人達位で。」
「おい、オメーら!」

コナンが、額に青筋を立てながらも、顔を赤くしていた。

「けど、一々こうやって念じないと動かせねえなら、滅多に使いどころはねえな。」
「ううん、コナン君、そうでもないわよ。」
「それ、どういう事だ、焔野?」
「暫く使っている内に、式神は術者の行動パターンを覚えて行くから、段々直接念じなくても簡単な事だったら出来るようになって行くわ。それに、式神が見聞きしている情報は、常に術者に自動的に流れて行くから。それに応じて、必要なときに指令を与えれば良いのよ。」
「おお、なるほど。」
「ある程度慣らして行けば、学校での身代わり位には使えるようになるわ。」
「へっ!?」
「だって……このままだと、工藤新一は、出席日数も足りず、試験も受けられないから、進級出来ないでしょ?」
「な、なるほど!その為の……俺に超役立つってのは、確かに本当だな。」

感心するコナン。

「それにしても、菫ちゃんも、随分気が利くと言うか……。」
「新一、もしかしてこれを菫ちゃんに頼んだのは、服部君辺りじゃないの?」
「……かもな。あいつも、妙なところで気を回す男だからな。」
「そうね。ちょっと、妬けるかな?」
「ば、バーロ!何言ってやがる!」
「男同士の友情ってヤツ?には、女には入って行けないものを感じちゃうもん。」

その時。
園子がガバッと蘭に抱きついて来た。

「何言ってるの、蘭!女同士の友情の固さは、男同士のそれなんか、足下にも及ばないわよ!」
「……そうね。ごめん、園子……。」
「園子の言う通りよ!私達の友情は、永遠に不滅よね!」

舞も、園子と蘭の二人に抱きついて、言った。

「友情って……美しいもんなんですねえ……。」

感涙に咽ぶ瑛祐。

(ははは。俺には付いて行けない世界だ……。)

そして、一人取り残され、脱力しているコナン。
丁度、折よく、夕陽が毛利探偵事務所の窓から中を照らしていた……。



  ☆☆☆



「じゃあ、まず、手足を動かす練習を、やってみましょう。」

舞の指導で、コナンの式神操作訓練が、始まった。
だが。

「もう!つまんな〜い!」

すぐに舞が音を上げた。

「もっとスパルタびしびし行こうと、楽しみにしてたのに!すぐに覚えてしまうから、つまんない!」

そう言って、舞がむくれる。

「おいおい、何言ってんだ、焔野。」

呆れたようにそう言っているのは、工藤新一の形をした式神である。

「うわ、新一、すごいじゃない!」
「しかも、目を瞑らず、表情を変えずに、上手に式神を動かしてますよ。」

感心する蘭と瑛祐。

「ここまで来れば、明日からでも、代わりに学校に行かせる事が出来るんじゃない?」

園子が言った。

「いや、でも流石に、ぶっつけ本番では……。」
「大丈夫だって、学校では、蘭も私達もフォローするからさあ。」
「ああ、頼りにしてるぜ。けど、1度表での練習をしてみねえと。」
「じゃ、早速行って見ましょうよ。」

園子の提案で、一同は式神と共に表へ出て行った。



  ☆☆☆



いくら、魔法世界に浸かり始めた感のある江戸川コナンこと工藤新一であっても。
事件を呼ぶ体質だけは、変わる事がなかったようである。


まず、一同が遭遇したのは、少年探偵団一行であった。

「コナン君!」
「おい、コナン。」
「コナン君、こんな時間に、お出かけですか?」

少年探偵団は遊びに行った帰り道のようである。

(そう言えば、あいつら、今日は米花公園でサッカーの練習をやると言っていたな。)

コナンが最近付き合いが悪い事に、少年探偵団の面々は、少しおかんむりである。


(え!?あれは!?)

三人に少し遅れて歩いていた哀が、驚愕の目をして、コナンと式神を見比べていた。

「ねえ、工藤君、あれは……もしかして、黒羽君の変装?」

哀が小声でコナンに囁く。

「いや。これは、式神だよ。」
「式神?その存在は聞いた事はあるけど、これが?」

哀は、初めて目にする式神を、驚いたような表情で見上げた。


「この兄ちゃん、誰だっけ?」
「やだなあ、元太君、忘れたんですか?」
「蘭お姉さんの恋人の、高校生探偵工藤新一さんよ!」
「あ、あの幽霊屋敷のエトウさんか!」

(おいおい……。)
「おいおい、勘弁してくれよ。エトウじゃなくて、工藤。古いけど、幽霊屋敷なんかじゃねえぜ。」

式神新一が、コナンの心を代弁する。
しかも、子供目線に合わせて屈み、苦笑いの表情を浮かべるという芸当までやって見せた。

「あら。本当に工藤君本人みたいじゃない。」

哀が、感心して呟いた。

「いや、ホント、明日から学校に行かせて大丈夫そうよね。」

園子が、感心しながら頷いて言った。


「俺、ちょっと新一兄ちゃん達と、行くところがあるんで。またな。」

コナンが、少年探偵団に笑顔を見せて、一同は去って行った。


「コナン君、最近本当に付き合いが悪くなりましたよね。」
「きっと、大人と付き合って背伸びしているのよ。」

哀が、溜め息をつきながらそう言った。
哀としては、多少のフォローの積りである。

「蘭お姉さんの恋人は、新一お兄さんなのに。邪魔しなけりゃ、良いけど。」

歩美が呟き、哀はもう1度、深い溜め息をついた。



  ☆☆☆



一同が更に米花町市街地を歩いていると。

「ん?」

今度は、人だかりがしている場所に行き当たった。

「何でしょうかね、アレ?」
「パトカーが止まって赤色灯が回っている所を見ると、何らかの事件が起こったみてーだな。」

そうコナンが言った瞬間、

「よし、ちょっと試してみっか。」

式神新一を現場へと向かわせた。

「えっ、ちょ、ちょっと新一!?」
「い、いくら何でもいきなり……。」

蘭達が止めようとするが、

「まあ、いいから見てなって。」

コナンは意に介さずに、軽く瞑想の体制をとった。


「こんにちわ、目暮警部。」
「おお!工藤君じゃないかね!」

挨拶を受けた目暮警部が、喜色満面で駆け寄って来た。

「どうも。お久し振りです。」

式神新一は、そつなく挨拶する。

高木警部補が、式神を見て。その後、コナンの姿を認めて。

「え!?え!?ええええええっ!?」

式神を指差して、大声を上げた。

「ど、どうしたんだね、高木君!?」
「あ、い、いや……そのあの……。」
「妙なヤツだな、君は。」
「す、すみません、ははは……(蘭さんや、他の人達も平然とこの場に居るって事は、これはもしかして、何か魔法のトリックかな?きっとそうだよな……)。」

「高木刑事も、お久し振りです。最近のご活躍は、コナンから聞いてますよ。」

笑顔で言う式神新一に、

「は、はあ、どうも……。」

高木警部補はしどろもどろになった。

その後、式神新一は、目暮警部に向き直って言った。

「ところで。1課が出て来ている所を見ると、殺人事件ですか?」
「そうなんだよ。丁度、毛利君にでも応援を頼もうかと思っていたところだった。」

目暮警部が説明するのを、式神新一は仔細に聞きながら、現場のあちこちに目をやって、観察する。
勿論、これは、コナンが知りたい情報を伝える為に、式神がコナンの指令を受けながらしている事だ。
当のコナンは、流石に瞑想のようなポーズに入ったまま。

「うわあ。すごい。仕草ひとつひとつが、本当に新一君みたい。」
「この分だと、その内コナン君が傍に居なくても、遠隔操作で事件現場の捜査も出来るようになるんじゃないかな。」
「じゃあ、学校だけじゃなくて、事件でも、代わりが務まるじゃないの。」
「とは言っても、流石に、コナン君が戦いつつ、同時に指令を送るのは無理だから。やっぱり、限られた機会になると思うけどね。」

園子と舞が、会話をしていた。

その一方で、

「うわあ、何だか凄いですね……。」

瑛祐は、仮初の姿とは言え、工藤新一の捜査姿を、ワクワクした様子で見守っている。

そのまた一方で蘭は、最初感心しながら式神を見ていたが、コナンが瞑想状態のようになっているのを見て、そちらを見守り始めた。
今、式神を動かしているのは、コナンで。
コナンの精神集中を、誰にも邪魔させてはならないと、思ったからである。


やがて、捜査が一通り終わり。
コナンの中で、ひとつの結論が出たようである。


式神工藤新一は、関係者一同の目の前で。

「犯人は、あなたです!」

とある人物を指差し。

その後、推理した事を、語り始めた。

犯人は、ガックリとうな垂れて、罪を認めたが。
高木刑事がその手に手錠をかけようとすると、いきなり動いた。


「あっ!」

犯人は、猛スピードで駆け出し、向かった先は、コナン達の居る方だった。

「どけどけえ!!」

手にナイフを握って駆けて来る犯人の姿に、一瞬皆息を呑み、しかし、次の瞬間、蘭も舞も、身構えた。

が。
瞑想のように目を瞑っていたコナンが、目を見開き。
素早い動きで、キック力増強シューズのスイッチを入れ、ボール射出ベルトからボールを出すと、

「行っけええええ!!」

サッカーボールを蹴り上げた。
すごい勢いで跳んだボールは、狙いあやまたず、犯人を直撃。
犯人はその場に倒れ込んだ。


「確保だああ!」

目暮警部が叫び、警察官一同が、犯人を取り押さえた。


「流石に、咄嗟の時は、本人が動くわね。」
「それは、仕方がないんじゃない?」

式神新一は、今は本当に人形のようになってしまい、ピクリとも動いてない。

「やっぱり、術者本人が別の事に気を取られている最中は、操るのが難しいわよね。」
「だから、まあ。学校では私達がフォローしなくちゃね。」

幸い、警察関係者は皆、犯人の方に意識が向いていたから、突然動かなくなった式神新一に気付いた者は、誰も居なかった。



「いやあ、工藤君。お陰で助かったよ。」
「いえいえ。また難事件があれば、この工藤新一に、ご依頼を。」

式神新一は、しれしれとそう言った。

「あらあら、良いのかしら、あんな事言わせて。」
「ホント、推理馬鹿……。」

先ほどまで感心していた園子と舞は、呆れたようにそう言った。

「え?でも、良いんじゃないですか?推理は、本物の工藤君であるコナン君が、する訳でしょう?」
「でも。コナン君が自分の方で手一杯の状況の時は、式神を操る余裕もないでしょ。」
「???」
「だから、シャドウエンパイアと戦ってる最中とか、どうするのかって話よ。」
「あ、な、なるほど。」
「そういう時は、式神に失踪してもらうしかないわよね。」
「やっぱり色々と、大変なんですね……。」

「それよりも。早くこの場を去った方が、良くない?」

蘭が、一同に声をかけて来た。

「え?何で?」
「落ち着いて来たら、コナン君が蹴ったボールの事とか、あれが小学生のレベルじゃない事とか、追求されると思うの。」
「あ、た、確かに。」
「そうね、じゃ、後のフォローは高木刑事に任せて。」
「ずらかるとしますか。」
「式神は、どうするの?」
「コナン君が、適当に操るんじゃない?」
「瑛祐君、コナン君を抱えて行ってくれる?」
「良いですけど……普通、蘭さんがやる事じゃ?」
「馬鹿ね。蘭が抱えたんじゃ、コナン君は煩悩で、式神を操る事が出来なくなっちゃうでしょ?」
「あ、た、確かに。それじゃ。」
「わわわっ!」

瑛祐がよっこらしょとコナンを抱え。
一同は、その場を後にしたのである。

コナンがどういう風に場を誤魔化したものか、やがて式神新一が、一同の後を追って来た。



  ☆☆☆



「もう、真っ暗になっちゃいましたね。」
「練習はこれ位にして、帰りましょう。」
「そうだな。」

一同が、毛利探偵事務所に向かっていると。
今度は、

「あら?蘭、それに、新一君?」

蘭の母親である英理に遭遇した。

「あら、お母さん。」
(げっ!何でおばさんがここに!?)

コナンが内心焦りまくるが、よく考えるとここは、英理のマンションからほど近いところだった。
困った事に、コナンが驚いたりした時は、式神の操作がおろそかになってしまうらしく、式神新一は一瞬、無表情だった。

「お久し振りです、おばさん。」

式神新一が、ちょっと引きつったような笑顔を作って、挨拶した。

「どうせ操るなら、あそこまでリアルにせずに、心からの笑顔を作れば良いのに。」
「そりゃ流石に、ちょっと無理があるわよ、舞。」

舞と園子が、こそこそと囁き交わす。
その時、

「園子さん、あの人は?」

瑛祐が尋ねた。

「蘭のお母さんの妃英理さんよ。」
「へー、ずいぶん綺麗な人ですね。あ、そう言えば毛利探偵と何か姓が違ってますけど、夫婦別姓なんですかね。」
「ちょ、ちょっと瑛祐君!人には色々と事情があるんだから、そっとしといてあげたほうが……。」

たしなめる舞だが、

「いや、アレは単に、ペンネームやハンドルネームのように、仕事上の名前なだけよ。」
「あ、そうなんですか。」
「え、そ、そうなの?それは知らなかったわ。」
「あのね、舞。あの二人は単に別居してるだけで、別に離婚してる訳じゃないのよ。」
「えっ、そ、そうなの!?私、初めて知ったわ!!」
「アンタみたく、そういう下衆の勘繰りをする人がいるから、蘭が苦労するのよね〜。」
「……。」

己の無知っぷりに、赤面する舞であった。


「新一君、蘭が心配してたわよ。一体どうしてたの?あの難事件は、とっくに解決したんでしょう?」
「いや、それが、色々と事後処理がありまして……。」
「そ、そうなのよ、お母さん。」
「蘭には、連絡が来てたの?」
「え、ええ……。」
(ははは。単に、正体ばらしただけだけどな。)
「それなら、良いけど。あんまり、心配かけさせないでよ。有希子や優作さんにもね。」
「は、はい。肝に銘じます。」
「ところで、お母さん、どうしたの?」
「この子を、病院に連れて行った帰りなの。」

英理が手に持っているのは、ペットを運ぶ籐製のキャリーバッグ。

「ゴロちゃん、具合が悪かったの?」
「ううん、連れて行ったら別に大した事なくて、ホッとしたわ。ついでに、予防接種もしてもらったけど。」

蘭と並んで、式神新一も、キャリーバッグを覗き込んだ。
すると。

「フーッ!!」

ゴロの威嚇の声が、キャリーバッグから聞こえて来た。

「わわっ!」
「「「「!」」」」

式神新一が、慌てて離れる。
蘭達もその様子に驚いた。

「あらあらあら。新一君、あなたってよっぽど、腹黒なのかしら?」

英理に言われて、式神新一は苦笑いの表情を浮かべた。
コナンは内心、冷や汗をかく。

(人外の者であると気取られたか。迂闊だったな。)

「冗談よ。この子、最近人見知りをするようになったから。」
「え?そうなの?」
「先代のゴロと違って、この子はちょっと神経が細いみたいね。」
「そうなんだ〜。」

蘭は、何でもないように言いながら、内心でホッとしていた。
一堂は皆、ゴロが何故式神新一に反応したのか、分かっていたが。
英理がそれを「人見知り」の所為だと思って、深く追求しなかったので、助かったと思ったのである。


この後、コナンと蘭は、英理や園子達と別れて、事務所へと戻っていった。



  ☆☆☆



午後七時……。



「ふわあ〜、さすがに疲れたぜ。」

ソファーに沈み込むコナン。

「やっぱり式神を動かすにも、エネルギーが要るのね。」
「そーみてーだな。まあ、この式神を帝丹高校に送る時は、蘭や園子、瑛祐や焔野にエネルギー源になってもらおうかな。」
「そんな事が出来るの?」
「ああ、あの後焔野にその方法を教えてもらったんだ。」
「それなら、問題ないわね。」
「後は、この式神を動かしてる授業中に、シャドウエンパイアの奴等が襲ってこない事を祈るばかりだな。」

そう言いながらコナンが、ニュースを見ようとテレビのスイッチを入れると、

「こんばんわ、七時のニュースです。先日、神奈川県横浜市のみなとみらい地区に出現した、巨大なアリの大群についての記者会見が、これより警視庁にて行われる事になりました。」

「!」

コナンと蘭は、アナウンサーの言葉に驚き、テレビに目が釘付けになった。
そして、会見場に現れた人物を見て、さらに驚く。


この日の会見は、日本だけでなく全世界を驚天動地のるつぼに放り込むものだった。



To be continued…….





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