C-K Generations Alpha to Ωmega



By 東海帝皇&ドミ



第二部 勇者激闘編



Vol.11 工藤邸の新住人2



「引っ越し?」

ある日の事、阿笠博士の研究所にお忍びでやって来た陽介にコナンが聞き返した。

「ああ。」
「けど何でまた?」
「実は。勿論マスコミには伏せてあるんだけど、俺の家がかぎ付けられて、最近、盗撮や付きまといとかが、絶えなくてね。このままじゃ、両親にも少なからず迷惑が掛かるし……。」

そこへ哀が尋ねる。

「けど、あなたのご両親だって芸能関係、そんな事、今に始まった事ではないんじゃない?」
「いや、それが。数か月前から、ケタが違うようになってしまってさ。」
「初恋物語のドラマ辺りから、酷くなったって事か?」

コナンの問いに、陽介が頷く。

「人気が出るってのも、色々大変なんだな。で?住むトコの当てはあんのか?」
「そこなんだよ、問題は。出来る事なら、プライベートを邪魔されたくないようなトコに住みたいんだがな。」
「プロダクションの方で用意してくれたりしないのか?」
「う〜ん、それが。プロダクションが持ってるマンションが、最近のシャドウエンパイアとのバトルに巻き込まれて、居住不可能になってしまったんだ。」
「それは、大変だな……。」

考え込む一同。
そこへ、

「なあ、陽介さん。」
「何だ、コナン?」
「良かったら、俺んトコはどうだ?あそこなら、セキュリティもしっかりしてるしよ。」
「工藤君、でも、あそこには……。」
「別に、先住者がいても構わねえだろ?部屋は余ってんだし、それに初音さんが下宿するにあたって、実は各部屋鍵付き、キッチンも増設されてるしよ。」
「ええっ?そうだったの!?」
「だって、俺の両親や俺自身も、時々使うんだから。プライベート空間が確保されねえと、困るだろ?」
「新一は、女性に甘いかと思っておったが、男にも優しいんじゃのう。」
「は、博士!誤解を招くような言い方をするんじゃねえ!」
「……工藤邸への下宿に関しては、むしろ男性の方に優しいような気がするわね。」
「おお!そう言えば、前にも、沖矢昴君に……。」
「うっせーな!初音さんの場合は、騒動が日常茶飯事になりそうだったから、嫌だっただけだよ!今んとこは大丈夫みてえだけどな。」
「まあ、何にしろ、隣人が増えるのは、ワシとしては嬉しい限りじゃ。」

コナンと博士と哀のやり取りを尻目に、当の陽介は。

(初音さんと、同じ屋根の下かあ……イイかも。)

夢見る表情になっていた。


結局のところ。
陽介を工藤邸に住まわせる事で、ひと騒動もふた騒動も起きる事になるのだが、さすがのコナンも、そこまで読んではいなかった。



   ☆☆☆


そして、3月3日の土曜日。
雛祭りパーティを兼ねた、陽介の引っ越し祝いが、工藤邸で行われた。

そのパーティには、現工藤邸の住人である初音は勿論、大阪組を含めた、Cジェネとアルファトゥオメガのメンバーが、招かれていた。
都合がつかずに欠席した者もあったが、賑やかなパーティになった。

ちなみに今回の出席者は、

式神新一、蘭、園子、瑛祐、舞の帝丹高校組。
快斗、青子、恵子、風吹の江古田高校組。
平次、和葉、菫の改方学園組。
コナン、歩美、光彦、元太の少年探偵団(哀は所用で、博士と共に出かけていた)。
美和子、渉、初音の本庁組。
そして主賓の陽介。

である。


「私達まで参加させてもらって、良かったのかしら?」

美和子の言葉に、陽介は大きく頷いた。

「勿論ですよ!警視庁の皆様には、いつもお世話になっているんですから。」
「それにしても、純粋な芸能人である陽介君と、我々警察とが、密接な関係にならざるを得ない世の中ってのも、どうなのかなって気がしますけどね。」

最近のバトルで疲労気味の渉が、ため息をついて言った。

「ぼやかないの、渉君!それに、陽介君は、純粋な芸能人じゃなくて、元々戦士でもあるのよ、ね?」

美和子のウィンクに、陽介は少し顔を赤らめ、渉はちょっとだけムッとした。
すると、菫が突然、陽介と美和子の間に割って入った。

「美和ちん!あんたまさか、あの破壊ケーキでダーリンを亡き者にする積りやあらへんやろな!」

ガルルルと噛みつかんばかりの勢いで、美和子に食ってかかる菫。
この前の事が余程トラウマになっているようだ。
美和子も、さすがに脛に傷を持つ身という自覚があるので、苦笑する。

「今日のケーキは、私が作ったんじゃないから、大丈夫よ。」

と、そこへ。

「すっごい!美味しいわよ、このケーキ!」

園子が大絶賛する声が聞こえて来た。

「蘭、また腕をあげたわね。こんの、幸せ者〜!」

言いながら、園子はコナンを小突く。

コナンは、内心

(おいおい……。)

と思いながらも、実際に蘭の料理で幸せな思いをしているのは事実なので、顔がニヘラとなっている。

「すごく美味しいよ。ねえ、快斗?」
「ああ、まあな。良いんじゃねえ?」
「快斗、全然心が籠ってないよ!」
「い、いや……。(ここで、下手に絶賛しようもんなら、どうなる事か。俺は命は惜しいぞ、青子)」

皆、口々に、蘭の手作りのケーキを褒めていた。

「蘭さん、本当に美味しいですよ。家庭的で……理想だなあ。」

瑛祐が笑顔で言った。
コナンは、ムッとするが、少年探偵団の手前、動くのを憚る。
そして。

「はいはい、オメーの割り当ては一切れだけ。それ以上は駄目だからな。」

式神新一が、代わりに瑛祐に睨みを利かす。

「ええっ!?独り占めする気ですか、ずるいですよ工藤君!」
「オメーには、葉槻さんがいるだろうが!チクるぞ!」
「はわわわ、そ、それは……。」

式神新一の言葉に、瑛祐が慌てふためき始めた。
恵子が、横から突っ込みを入れる。

「そう言えば。あなた達、一体どこまで進んだのよ?」
「ど、どこまでも何も!ま、まだ、お友達ですよ!」
「まあまあ。そもそも、女の子みたいな瑛祐君が、恋をしただけでもビックリなんだからさあ。」

と、園子。

(おいおい。こいつは蘭に横恋慕してたっつーのに、園子のヤツ、何も気づいてなかったのかよ……。)

コナンの内心の呟きを余所に、他の面々は。

「まあ、確かに、驚きでござるな。」
「お付き合いを始めても、まるでレズビアンみたいなカップルになりそうよねえ。」

風吹と舞が、ズケズケと言った。

(おいおい。こいつ、女の子みたいなのは見てくれだけで、一応中身は健全な男なんだけど。さすがに気の毒になるな。)

「みんな、酷いですよう。僕は、男と愛を語る趣味はありません!」

涙目で訴える瑛祐であった。
これを見た平次は。

(ははは。こいつも、何や気の毒な男やなあ。まあ、警戒されんと女に近付ける利点はあるかもしらんが、その先が苦労しそうや。)

妙に同情的になっていた。


「いやあ、このケーキ、ホンマに美味いなあ。」

食に目がない菫が、至福な表情でケーキを次々平らげていく。

「御剣、お前ホンマによう食うなあ。お前の胃袋、ブラックホールになっとるんちゃうか?」
「まあ、ええやないの平次。甘いモンは別腹言うし。」

和葉も美味そうにケーキを平らげていった。

「ま、そらそうやけどな……。」

平次はこれ以上ツッ込むと、自身の生命の危機に及びそうなので、あえて静観している。




パーティは進み、皆、たらふく飲んで(一応、未成年が多い為ノンアルコールだが)、食べて。
和やかになって来たところで。


「なあなあ、コナン。」
「初音さん、どうしたんだ?」
「うち、どないしても納得いかへんのやけど!」

初音がコナンに絡み始めた。

(おいおい、初音さんがうわばみなのは知ってっけど、今日はノンアルコールだよな?白酒に見立てた甘酒しか飲んでねえ筈なのに、甘酒で酔っぱらったのか?)

コナンがたじたじとなる位、管を巻いてくる初音。

「なあ。うちが下宿する言うた時、アンタすごい反対したよなあ?なのに、陽介には、アンタの方から勧めた言うやないか!差別やでこれは!」
「ああ、その事か……。」

コナンは、ウンザリしたような表情を浮かべた。

「ウチの時は、何であないに、反対したんや!?言うてみ、ああ?」
「本当に、言っていいのか?」
「あ、当たり前やないか。何や、理由があったんかいな。」
「初音さんが下宿すると、騒動が巻き起こりそうだったからさ。」

コナンの言葉に、一同、深く頷いていた。

「コナン君、初音お姉さんが引っ越してきた時、何か変な感じだなあって思ってたけど、反対してたの?」
「あ?ああ、まあな……。」
「コナン君って、時々、新一お兄さんの代わりみたいな事、言う事あるよね?」
「は?(ドキッ!)そ、そうかな?」
「うん!ねえ、新一お兄さんがきっと嫌がるだろうと思って、コナン君は反対してたんだよね?」

歩美が、式神新一を見上げながら言った。

「……そうかもな。こいつ、結構、頼りになる事あるんだ。」

コナンの正体を知っているメンバーは、「自分で言うか!」と、内心突っ込みを入れていたが、勿論、口には出さない。

「ちょ、ちょお待て!なんや、ウチはトラブルメーカーとでも言いたいんか?」
「まんま、その通りじゃん。」

そう答えたのは、式神新一の方である。

「オレも工藤と同意見や。」
「初ちゃんには悪いけど、アタシもそう思うで。」

初音との付き合いが長い平次と和葉も同意する。

「なあ、光彦。トランプメーターって、何だ?」
「トラブルメーカーですよ。いつも騒動を起こす人の事です。」
「ああ、初姉ちゃんが騒動を起こす人っての、当たってるんじゃねえか?」
「僕も、そう思います。」

「でも、確かにねえ。私も、一晩泊める位ならともかく、私んちにずっと居座るとなったら、考えると思うわ。」
「美和子さん、そんな、身も蓋もない。でも、確かに……。」
「あ、アンタらまで……ウチの事、そないな風に見とったんかいな。」

滝涙を流す初音。
けれど、一同で、これに反論する者は、誰ひとりとしていなかった。

「新一お兄さんは、留守が多いからイイらしいけど。陽介さん、本当に大丈夫なの?」
「えっ!?だ、大丈夫だよ!初音さんは、すごく素敵な女性だし、俺はトラブルメーカーなんて思ってないから!」

と、歩美の問いに応える陽介。

「ダーリンは、強いから大丈夫やって!」
「主殿は、トラブルなど軽く受け流すでござるよ。」
「そうそう、王子様は、この程度の事位、軽く受け流せるから!」

3人娘が、心配そうな歩美に向って、笑ってそう言った。

「ま、同じ家の中言うても、居住空間は分けられてるいう話やし。」
「初音殿は、男には興味がなく、色恋沙汰には無縁でござるから、単に同じ建物の中に住むだけの関係でござろう。」
「だから、心配する事なんかないと思うわよ、歩美ちゃん。」

「え?初音お姉さん、男性に興味がないの?」

歩美が不思議そうに首をかしげた。

「いやもう、24歳にもなる言うのに、男の影が全くあらへんのや。」
「美人でナイスバディでござるのに、ここまで縁がないのも、不思議でござる。」
「もしかして、レズかもって噂が流れてる位なのよ。」

(おい、お前ら、ええ加減に……っても、ある意味事実やからなあ。けど、子供相手に言う話ちゃうやろ。)

呆れて見ている平次。


「でも。この前、クイーンセリザベス号のパーティで、陽介さんと初音お姉さん、すごく仲良さそうに踊ってたよ?」

『!!!』

歩美の爆弾発言に、それまで余裕の笑みだった3人娘が、いきなり埴輪になった。
そして、当時クイーンセリザベス号にいたコナン達も、凍りついた。

「そ、それは単に陽介さんがダンスする相手がいなくて、初音さんを無理やり連れ出しただけなのよ。」
「そうそう、その通りよ。」
「だってホラ、天下の風見原陽介さんよ?ヘタな女性とダンスなんかしたら、大騒動になっちゃうから、ねえ?」
「そうそう、その点、初ちゃんやったら、まあ今をときめく警視庁の大物警視長っつー事で……。」

園子の言い訳に相槌を打つ蘭達。
が、

「でもよ、あれは、ソーセージ愛っていうらしいぜ。」
「元太君。それを言うなら、相思相愛ですよ。でも、確かに、そんな雰囲気でしたね。」

元太と光彦が、それに気付かずに無邪気に火に油を注ぐ。

「ななな、何やて〜〜〜!?相思相愛やって、それどういうこっちゃねん!」
「主殿は、全ての女性が恋人で、特定の相手などいないと、明言してた筈でござる!」
「そそそ、それに、初音さんが、男に興味なんか、ある訳ないし!」

3人娘がそれぞれ激昂して怒鳴る。


そして、当の、渦中の2人はと言えば。
コナンに食ってかかっていた筈の初音は、何故か甘酒で酔っ払って、ソファーでグースカピーと眠りこけていた。
陽介は、僅かに頬を染めてはいたが、ふと何かを思い出したかのように、そっとリビングを後にした。


3人娘はそれぞれに、当時クイーンセリザベス号に乗っていたメンバーに、食ってかかっていた。

「へーたん!これどういうこっちゃねん!責任取ってくれへんか!?」
「お、おい!何でオレが責任取らなあかんねん!オレは見張係ちゃうで!」
「ちょ、ちょお、スミレちゃん、落ち着きいな!」

「快斗殿!歩美殿が言った事は、本当でござるか!?」
「あ、いやその、だから単にダンスパーティだから、立場上踊ってただけだって!」
「か、快斗の言う通りだよ、風吹ちゃん!本当に、ただダンスしただけだから、落ち着いて!」

「蘭ちゃん、園子、それに、コナン君!よくも私の事、騙してたわね!」
「ちょちょ、ちょっと待って!何も騙してなんか!だって……!」
「ただ、あそこでは男女ペアで踊らないと格好がつかないから、あの2人が躍っただけで、別に他意なんか……!」
「お、落ちつけよ、焔野!」

コナンは、式神新一に舞の相手をさせながら、さてどうしたものかと考えていた。

「ど、どうしましょう、佐藤さん!?」
「うーん……、こればかりは私もどうにもならないわね……。」

困惑する渉と美和子。


その傍らで瑛祐が、興味津々の顔で、歩美に聞く。

「で?実際のとこ、どんな感じだったの?」
「うんとね。まるで、映画みたいで、とってもロマンチックだったの!」
「そうそう、2人とも、頬を染めて見つめ合って。美男美女だと、絵になりますねえ。」
「ホント、お似合いだったぜ。」

『なっっ!!!?』

探偵団の話を聞いた3人娘はショックで石化してしまう。

「そういうカップルが三組もいたから、とっても目立ってたわ。」
「え?三組?」
「新一お兄さんと、蘭お姉さん。レオン王子様と桐華お姉さん。そして、陽介さんと初音お姉さん。」
「く、工藤君と……?」

興味ばかりだった瑛祐が、思わずムンクの叫びの顔になる。

「アンタ、何ショックを受けた顔してんのよ?」

同じく話を聞いていた恵子が、瑛祐に突っ込みを入れた。

「え……!?あ、や、やだなあ!ショックを受けてなんか!」
「怪しいわねえ。実は、ホの字だったんじゃないの?」
「だ、だから、そんな事は!」
「諦めなさいよ、相手が悪いわ。」
「……ううう。とっくに諦めてますよう。」
「それにしても、アンタ、趣味が悪いわね。」
「え!?な、何でですか!?」
「美人だとは思うけど、服部警視長は、アンタの手に負える相手じゃないわよ。」
「!!!ちょちょちょ、ちょっと待って下さい!」
「葉槻さんに恋をして、諦めようと思ったんでしょ。」
「あ、その部分は。って、だから!」
「大丈夫。誰にも言わないから。」

恵子に、憐れむような眼差しで見られて、瑛祐は複雑だった。
この際、誤解を解いた方が良いのか解かない方が良いのか。

背中に、ある視線を感じて、瑛祐は迷わず、誤解を解かない方を選んだ。

(あいつ……諦めたような事を言ってたクセに……油断も隙もありゃしない。)

コナンの怒りを買う位なら、恵子に見当違いの憐れみを受ける方が、千倍もマシだと思った瑛祐であった。




「ダーリン!下宿は考えなおした方がええで!……ダーリン?」
「主殿!工藤邸はやっぱり危険地帯でござるよ!……主殿?」
「王子様!焔野神社は、マスコミシャットアウトの秘術が……って、王子様?」

3人娘が陽介に詰め寄ろうとしたとき、陽介はすでにリビングにはいなかった。
初音は相変わらず、ソファーで寝息を立てている。


「ははは……(逃げたな)。」

コナンが乾いた笑いを洩らした。
その時、

「ならコナン君、私も工藤邸に下宿させてもらうわ!!」
「えっ!?」
「拙者もでござる!!」
「ちょ、ちょっと!?」
「ウチもやで!!」
「あ、あの!?」

3人娘に詰め寄られ、慌てふためくコナン。

「ちょっと舞、あんた同じ米花市に家あるんだから、下宿なんて必要ないじゃん。」
「えー、でもー。」
「そうでござるよ。拙者は元々伊賀市から単身東京に来た身故、この工藤邸に下宿する資格があるでござるよ。」
「オメー既に白馬邸に厄介になってんじゃねーかよ。」
「ウチもー。」
「ちょっと待て御剣。お前学校どうすんねや?」
「そらもう帝丹高校にでも転校して……。」
「アホかあーー!!」

と、取り留めの無い話が延々と続こうとした時、

「ちょっと待て!」

式神新一の一喝がとんだ。

「わりぃけど、工藤邸はこれ以上誰かを下宿させるような余裕はねえ!」
「え゛!?何で!?あんなに広くて部屋が余ってるじゃない!!」
「そうでござるよ、今も掃除が行き届かなくて埃だらけでござろう!」
「だったらウチが有効活用したってもええやん!」
「オメーらな。ここは、俺も住んでんの!それに、父さん達だって時々帰って来るし。」
「何言ってんの、アンタ今ここに住んでないじゃん、ウソつき!」
「そやそや!!新たん全然ここに戻ってけーへんて、へーたんが言うてたで!!」
「アホぉ!オレを引き合いに出すなや!!」
「いつも女の家に寝泊りしてるヒモが何を言うでござるか!!」
「ちょちょちょっと風吹さん!?」

血相を変えて慌てふためく蘭。


「おいおい、『女の家に寝泊りしてるヒモ』って、凄い言い方だな。まあ、真っ白い実話だけどな。」
「バ快斗!アンタ何て事言うのよ!!」
「それにしても風吹って、天然なくせして結構毒舌なのねー。」

風吹の言に反応する江古田組。


「ああ?俺は『留守がち』だが、ちゃんとここに住んでんだぜ、文句あっか!?」
「「「う゛……!」」」

式神とは言え、操演者の意識がストレートに反映される為、その眼差しの鋭さはホンモノと変わりなく、さすがの3人娘も、少しビビる。

「まあ、1人位だったら、何とかならない事もねえ。けどな。オメーら、3人の内で誰か1人と言われて、納得行くのか?」

それまで、結束しているかのように新一に向かっていた3人は、思わず顔を見合わせる。
時には結束が固い事もある3人だが、陽介を巡っては、お互いライバルでしかないのだ。

「せやったらここはやっぱり、遠方のウチが優先やろ。」
「何を言うでござる、遠方という意味では拙者も負けてござらん!」
「アンタ達、何勝手な事言ってんのよ!?工藤君のクラスメートである私に優先権が!」

途端に言い争いを始めた3人。
コナンはふっと口の端に笑いを浮かべた。


その様子を見て、3人娘と少年探偵団を除く一同は……。

(あんた<新一君><オメー><工藤君><工藤>が一番、悪魔だ<ね><やで><ですね>……。)

と、全員が思っていた。

また、探偵団は言い争う3人娘を見て、

「あんな大人には絶対なりたくないわねー。」
「みっともない事この上ないですもん。」
「ホント、バカ丸出しだよなー。」

と呆れていた。



そんなこんなで、結局、主役がいなくなった為に、パーティはそのままお開きになってしまった。



  ☆☆☆



「和葉ちゃん、悪いわね。遠いのに、後片付けまで付き合わせて。」
「心配あらへん、予定の新幹線まで、まだ時間があるんや。明日は日曜日やし。」
「まあ、俺達も手伝うから、早い内に終わるって。」

コナンと蘭、快斗と青子、平次と和葉、そして瑛祐と恵子は、それぞれに、パーティの後片付けをしていた。
ちなみに少年探偵団は、遅くならない時刻に、家に帰っている。
そして、美和子と渉は、明日が早番である為に、早々に帰って行った。

ちなみに舞と風吹、菫はショックが未だ覚めやらず、ほとんど惰性で洗い物を拭いていた。

その時、

「あ、もうパーティ終わりか。」

リビングからいなくなった陽介が、キッチンに現れた。

『陽介さん!』
「王子様!」
「主殿!」
「ダーリン!」

驚く一同。

「アンタ今までどこに行ってたんだ?リビングから突然いなくなって。」

快斗が尋ねる。

「いや、明日の引っ越し用に、魔法陣を設定してたんだけど。」
「魔法陣?」
「あ、なるほど、魔法陣テレポートで荷物を搬入しようと言う訳ね。」
「まあ、普通に引っ越し作業をしたら、この界隈が大騒ぎになるしねえ。」

真意を悟る園子と恵子。

「でも魔法陣なんて、この家のどこに設定したんだ?」
「もしかして、陽介さんが住むお部屋?」

との快斗や青子の問いに、

「いや、工藤邸に小部屋があったんで、そこに設定させてもらったぜ。」

と返す陽介。

「ところでその魔法陣、引っ越しをしたら撤収するの?」
「まあ、そのつもりだけど。」

それを聞いたコナンが、

「いや、設置したままで置いた方がいいんじゃねーか?」

と提案する。

「何で?」
「陽介さんが人目に付かずに行動するには丁度良いだろ?」
「ああ、なるほどね。」
『!』

これを聞いた3人娘は、何かを閃いた様な表情になる。

「じゃあ、家主の息子さんのお墨付きを得たから、そのままで置いとくかな。」
「通勤が楽になりますよねー。」

瑛祐も相槌を打つ。

しかしその時、

「うふふふ……。」
「ぐふふふ……。」
「へっへっへ……。」
(((!)))

コナンと快斗、平次は、3人娘の顔に浮かぶ、裏のありそうな笑みに気付いてしまっていた。
けれど、何を企んでいるのかまでは、この時点で知る由もなかった。



  ☆☆☆



翌3月4日の日曜日……。



「さて、今日は俺ん家に陽介さんが引っ越してくる日だな。」

工藤邸で陽介を待ち構えるコナン。
その目の前の小部屋の床には、陽介が設定した魔法陣があった。

「それにしても、見た所ただの魔法陣ぽいけど、陽介さんこれ設定するのにやけに時間がかかったよね。」

不思議そうに魔法陣を見る蘭。

「新規に魔法陣を設定したからですかね?」
「かもしんねーな。」

武琉に相槌を打つコナン。

ちなみに今工藤邸にいるのは、コナン、蘭、武琉の3人だけである。

「ところで、昨日のパーティではあんなに人が来たのに、今日はどうして誰も来ないのかしら?」
「まあ、警視庁組は皆仕事だし、大阪組はさすがに連日来るのは無理だろう。他のメンバーは……引越しの手伝いが嫌で逃げたんじゃねーのか?」
「え?でも、舞ちゃんや紅葉さんまで?」
「う〜〜ん。愛しの男性の為でも、引っ越し作業はやっぱり勘弁って事なのかな?」
「いや、やっぱり、陽介さんと初音さんの仲が良さそうなのを見て、ショックを受けたんじゃないですか?」
「なるほど。けど、武琉君、君はやけに、嬉しそうじゃねえか?」
「ええ!?そ、そうですかね?」
「……あのな。他力本願じゃどうにもならねえと思うぞ。たとえ陽介さんに失恋したからって、振り向いてくれるとは限らないだろうし。」
「はあ。灰原さんにも、同じ事を言われましたよ。」

そう言って、溜息をつく武琉。

「まあまあ、武琉君、思い続けていればいつか、舞ちゃんもその気持ちにほだされないとも限らないし。」
「そ、そうでしょうか。」
「うん。私も……あ……。」
「蘭。オメー、もしかして、オレの片思いにほだされたとか、言う訳?」
「え!?ち、違うわよ!だって、私も、片思いかもって、ずっと思ってたんだもん!でも、でも、新一がずっと私を大事にしてくれている事に、どこかで気付いてたんだって思うの!だ、だからね……。」
「あ、あのー。」

コナンと蘭が、果てしなく二人の世界に入りそうになっている姿を見て、武琉が困ったように口をはさむ。

「そろそろ、陽介さんの荷物が届く頃合いじゃないですか?」
「あ、もう、そんな時間だっけ!?」
「はあ。僕、すごく間が悪い時に来てしまったのかな……。」
「あ、い、いや!もうすぐ、荷物が届くだろうし、君がいてくれてホント助かるよ!他の連中は都合よく逃げてしまってるみてーだしな。……まあ、思い続ければ叶うとは限らないかもしんねえけど、ずっと、相手を大切にしていれば、もしかして通じるかもしれねえ。」
「コナンさん……いや、新一さんは、ずっと長い間、真心を尽くしてたんですね!そして、気持が実った。なら、僕もそれを信じて、頑張ります!」
「ああ。頑張れ。まずは……ほら、荷物が届くようだぞ。」

魔法陣が光を放ち、箪笥が現れた。
コナン達が身構える。

しかし。

「わわっ!」
「ええっ!?」
「おい!箪笥が勝手に動いて行くぞ!」

魔法陣から出た家具は、次々と、床の上僅かのところに浮いて滑るような動きで移動して行く。
それを見て驚く三人。
そして、それらは陽介の部屋へと入って行き、室内で勝手に配置されて行った。

「これも、魔法かよ!」
「でも、すごい!初音さんの時は、誘導してたのに、今回のこれって……。」
「ああ。フルオートだな。」
「あのう。僕は一体、何の為にここにいるんでしょうか?」

どうやら、荷物運びの用はなさそうだと分かり、武琉が戸惑っていた。

「せっかく来たのに……。」
「はは、確かにな。俺達も、こうだと知ってたら、手伝いになんか来なかったぜ……。」

コナンと武琉がこのような会話をしていると、魔法陣から、陽介本人が現れた。

「あれ?コナンに武琉、それに蘭ちゃん、何でここに?」
「いや、引っ越しの手伝いをしようかと思って来たんだけど、必要なかったようですね。」
「ああ!それはすまない事を!わざわざ来てくれるなんて思ってなかったから。断りも入れてなくて、すまない。」
「ははは。まあ、こっちが勝手に来たんだから、文句を言う気はねーですけど。」

コナンが苦笑する。

「陽介さんが、昨日魔法陣作りにやけに時間をかけてたのは、ここまでの機能を設定してたからなんですね。」
「ああ、まあ、そういう事。ただ荷物が届く設定だけなら簡単だったんだけど、自動的に部屋に収まってくれるようにしてたら、結構手間がかかってね。」

蘭と陽介が会話をしていると、再び魔法陣が光り出した。

「まだ、荷物が届くんですか?」
「いや、もう最後の筈だけど……。!まさか!侵入者か!?」
「ええっ!?そんな事が!?」
「強い魔力を持つものは、他の者が作った魔法陣を利用して移動する事が出来る!下がって!」

陽介が身構えた。
コナン達も合わせて身構える。
すると、魔法陣の中から現れたのは。


「王子様ぁ!」

魔法陣から飛び出て来た舞が、陽介に襲いかか……もとい、抱きついて来た。

「おわあああっ!舞ちゃん、どうしたんだ!?」
「!!」

叫ぶ陽介と、ムンクの「叫ぶ人」状態になった武琉。

「おい。焔野……オメー一体、何やってんだ?」
「もう引っ越しは終わったわよ、遅いわよ。」

呆れるコナンと蘭。
と、そこへ、

「ひえええええっ!?」

突然、けたたましい叫び声と共に、魔法陣からもう一人飛び出して来た。

「そ、園子っ!?」
「は、はあっはあっ……。ら、蘭。確かにここは、新一君ち?はあ……怖かった……。」
「おいおい。園子、オメーまで何で魔法陣から飛び出して来たんだよ?」
「そ、それは。舞が私を神社まで呼び出して、手伝ってくれって言うから……。」
「何だよ、その手伝いって。」
「舞が、焔野神社の社殿で、魔法陣を描いて、そこに私を引きずって入って……。気づいたら、ここに。」
「神社の聖域で、魔法陣なんか作っても良いのかよ?」

呆れたような声を出すコナン。
陽介は、ようやく舞を引き離した。
すると。

みたび魔法陣が光り始めた。
そして、

「主殿〜!」
「わわっ、ふ、風吹さん!?」

叫んで飛び出した風吹が、陽介に飛びついたのは、言うまでもない。

「なっ、あ、あんた、何やってんのよ!?離れなさいよ!」
「舞殿、お主、拙者より早くここに!?」
「はああああ。二人とも、やってる事は、同じか。」

コナンが溜息をつくと。

「まったくだぜ。」

声が聞こえ、コナン達がそちらを向くと。

憮然とした快斗と、目をまん丸にした青子。
呆れたように頭を抱える探と、呆れたように両手を広げてため息をつく紅子。
の四人が、魔法陣から出て来ていた。

「オメーらも、風吹さんに引きずられてここに?」
「それは違うでござる!紅子殿は、拙者の為に、快く魔法陣作りに協力してくれたでござるよ!」
「こ、快く作った訳では、ありませんわ!」
「……って事は、紅子さんが魔法陣を作ったのは、間違いないんだな?」
「う゛……。」

コナンに鋭いところを突かれて、たじろぐ紅子。

「これを見せたら、快く協力を申し出たでござるよ。」

風吹が懐から写真を取り出す。

「いやあああ!見せないでえ!」

紅子が血相を変えて風吹に詰め寄った。
それを見て、コナンはおおよその状況を察し、頭を抱えた。

「僕は、自分の家に魔法陣を作られてしまったので、文句を言っていたら、一緒に引きずり込まれて……。」

頭を抱えたままの探。

「ちなみに、黒羽達は何で?」
「いや、風吹から、手伝ってくれって頼まれてさあ。」
「違うわよ。バ快斗は、白馬君ちで面白い実験をやるからって聞かされて、いそいそと出かけてったんだよね?」
「……。」

そういう会話をしていると、四たび、魔法陣が光った。

もう、何が起こるかは予想がついて、コナン達は身構える気すら起こらなかった。


「ダーリ〜〜〜ン!」

予想通りの声が聞こえ、予想通りの人物が飛び出して、陽介に飛びかかる。
陽介も既に予想内の事だったので、溜息をついて菫を待ち構えた。

が。


「おい!菫ちゃん、どうしたっ!?」
「きゅううううう。」

菫は、陽介に飛びついた途端気絶してしまい、床にバッタリと倒れてしまった。

「えっ、ちょ、ちょっと!?」
「ど、どうしたの!?」

菫が突然倒れた事に慌てふためく蘭達。
その時、

「よう、工藤!」
「あ、蘭ちゃん!」

これまた、予想通りの二人が、魔法陣から現れた訳なのだが。

「は、服部!先に来た菫ちゃんが突然倒れて!」
「なっ、なんや……と……。」
「す、スミレちゃん……が……。」
「えっ、お、おい、服部!」
「和葉ちゃん!?」

平次と和葉も、到着するなり、目を回してバッタリと倒れてしまった。


「こ、これは一体!?」

大騒ぎになる一同。


「ああ。さすがに、大阪からのテレポートは、体力を使い果たしたんだな……。」
「え!?そうなのか!?」
「当り前だよ。魔法は、強い力を使う程、使った当人の力を削ぐ。魔法陣は便利だけど、遠方からの移動は、大きな力を使うんだ。」

説明する陽介。

「はああ。そういうもんなのか。」
「いえでも、慣れれば、体力の消費も少なくて済むようになりますし、国内の移動位では、さして負担にならないようになる筈ですわ。」

そう言ったのは、紅子である。

「偉大な魔法使いは、瞬き程度の体力で、地球上のどこでも移動できますしね。」
「早い話、こいつらは、まだ修行が足りんって事か?」
「普段、ジョギングもしない人がいきなりフルマラソンに挑むようなものですわね。」
「じゃあ、慣れれば……おい、まさかこいつら、この先も魔法陣を利用して大阪から行き来する気じゃ?」
「はっ!そうよ、そもそも舞ちゃん達は、何で魔法陣なんか作ろうと?」
「蘭。そりゃ、訊くだけ野暮ってもんだろ?昨日の会話を思い出せば、何を考えたか位、分かりそうなもんじゃねえか。」
「……つまりは、初音さんに陽介さんを取られないようにって事?」

「二人きりになんか、させてたまるものですか!」
「下宿が駄目なら、お客なら良いでござろう!」
「きゅうううう。」

力説する舞と風吹。
その傍らでのびたままの菫。

「おいおい!魔法陣を使って強制的に侵入して来るヤツが、お客とはまあ、厚顔無恥も甚だしいな。」

コナンは呆れて、眉をひくひくさせる。

「おい、そない言うなや、工藤。これで、工藤に何か遭ったらいつでも駆けつけられるで!俺の方に何か遭ったら、工藤、いつでも駆けつけてくれや。」
「オメー、たった今迄気絶してたんじゃねえのか?」
「修行して、魔法陣を使いこなせるようになったるわ!これからもよろしゅうな、工藤。」
「人の話、聞いてねえし。」
「平次は、ホンマに、工藤君の事が好きで好きでしゃあないんやな……。」

気絶から覚めた和葉が、溜息をつく。

「和葉ちゃん、良いの?」
「何とかにつける薬は、あらへんのや。しゃあないで。」


「これから、色々面白くなりそうだな。」
「快斗!他人事だと思って!」
「はあ。僕は、頭が痛いですよ。この仲間に入って本当に良かったんでしょうか?」
「わたくし、一世一代の不覚ですわ……。」
「紅子、一体、どんな写真……ぐわあああ!」
「写真?何の事かしら、おっほほほほ!」

快斗は不用意な一言で、紅子の電撃魔法を食らっていた。

「この先、新一君ちは、すごいスキャンダラスな場所になりそうよねえ♪」
「園子てめー、面白がってねーか?」
「面白がってるわよ、だって他人事だもん♪」
「そ、園子……。」

「とほほ、せっかく、陽介さんが初音さんとくっついて、舞さんが僕の方を見てくれるかもしれないと思ったのに……。」

ずんと落ち込む武琉。


「王子様、これから、いつでもよろしくね。」
「マスコミに嗅ぎ付かれる心配なく、二人きりになれるでござるな。」
「ダーリン、これで、距離の障害はなくなったで。」
「はは……まあ、よろしく(はあ。せっかく、初音さんとラブラブの生活が出来るかと思ったのに……)。」


「ははは……これから俺んちは、一体どうなっちまうんだか……。」

乾いた笑いを洩らすコナンであった。
しかし、コナンも、この先どんな恐ろしい事になるのか、分かっていなかったのである。



  ☆☆☆



オマケ:その1


「ところで、紅子があそこまで嫌がる写真って、どんなんだ?」

快斗が、風吹のポケットから、素早い動作で、先程の写真を取り出した。
マジシャンとしての手クセの悪さ……いや、技は、健在のようである。

「いやあああ!止めてえ!」

叫ぶ紅子をよそに、皆がその写真を覗き込んだ。

「……へ?これ?」
「な〜んだ。別に、そこまで血相変えて隠すほどのもんじゃ……。」

一同が、妙に脱力したように言った。
風吹が持っていた写真は、紅子が魔法薬を調合している時の、黒衣を着ておどろおどろしい表情をしている姿だったのである。
まあ確かに、紅子の、普段の楚々とした美女のイメージとはギャップがあるが。
ここにいるのは、紅子に特別夢を描いている者達ではなかったので、特に何とも思わなかった。

「青子は、もしかして、おヘソを出してだらしなく寝ている姿とかじゃないかって、思ってたよ。」
「それは、青子、オメーの事だろ?」
「あ、私はてっきり、大口開けてハンバーガーにかぶり付いている時の写真かなと。」
「それは、園子の事じゃないの?」

皆の言葉に、紅子はどよ〜んと落ち込んでいた。

「紅子さん、美しい……。」
『えええっっっ!!!?』

ひとり探だけが頬を染めて写真に見入り、周囲の者は思わず、ズササッと引いていた。

「でも、こんな写真程度にビビる事、なかったのに。」
「そうですわね。魔法陣を作ってくれないと、これをばらまくと言われて、つい……。わたくしとした事が……。」
「それにしても、紅子さんだって力のある魔女なんだろ?何でまた、風吹さんからそういう写真を取られる隙が?」
「そりゃ、風吹だって、魔法忍者だからな。紅子を出し抜いて盗撮する位の魔力はあるんだろうさ。」
「でも、自分では魔法陣を作れない?」
「いや、そうじゃなくて。白馬に阻止されずに魔法陣を作る為には、紅子に頼むのが手っ取り早いって思ったんじゃないの?」
「あ、なるほど〜。」


「はあ。わたくし、自己嫌悪ですわ……。こんな事でビビってしまった事も、風吹さんにしてやられた事も。」
「紅子さん。あなたは、この世で一番美しい女性であり、この世で最高の魔女です。自信を持って下さい。」
「まあ、探さんったら。」

探の言葉に、紅子は頬を染め、一同はあさっての方を見る。

「せっかくあなたが作ったのですから、我が家の魔法陣はそのままにして置きましょう。僕達も、色々使わせて頂いてよろしいですか?」
「はい。探さん。」

2人は、周りの者が見えていない甘い雰囲気に突入しかけていた。

「結局、白馬邸の魔法陣は設置したままになるのか?白馬や紅子さんは、それを使って俺んちに出入りするって事はねえだろうけど、何だかなあ。」

コナンは、一抹以上の不安を感じていた。



  ☆☆☆



オマケ:その2

その日の午後。
コナンと哀を含めた少年探偵団は、公園で遊んでいた。

「ねえねえ、コナン君。ヒモって、どういう意味?」
「ヒモって、ロープの事じゃないんですか?」
「そうなの、光彦君?でも、じゃあ、新一お兄さんがロープって、どういう意味?」
「そ、それは……。確かに、ロープでも、意味が通じませんねえ。」

コナンは、何と言ったものかと、口ごもる。
そこへ、哀が口をはさんだ。

「一体、何の話なの?」
「んとね、昨日のパーティで、風吹お姉さんが新一お兄さんの事、『女の家に寝泊まりするヒモ』だって、言ってたの。」
「ああ。なるほどね。ヒモってのは、女の人に生活の面倒を見てもらってる男の人の事よ。」

哀があっさりと言ったので、コナンは慌てる。

(ンニャロ。子供相手に、何て事言うんだよ!)

内心突っ込みを入れるコナン。
けれど、元々、昨日話を振ったのが風吹だった為に、迂闊な事も言えず歯噛みしていた。

「女の人に、生活の面倒を見てもらってる、男の人?」
「ええ、そう。」
「じゃあ……ご飯を作ってもらったり、掃除や洗濯をしてもらったりするの?」
「……まあ、そういう事だって思っていたら、いいんじゃない?」
「でも、それじゃ。お父さんは、お母さんからご飯作ってもらったり洗濯してもらったりするから、ヒモなの?」

歩美の無邪気な疑問に、哀もコナンも苦笑する。
ちなみに、歩美も元太も光彦も、先入観がない分、「ヒモ」という言葉に、マイナスイメージは全くない。

「歩美ちゃんのお父さんは、外でお仕事して、お金を稼いで来るでしょ。その分、お母さんが、お家の仕事をしている訳。だから、ヒモとは言わないの。」
「そう言えば、うちは、父ちゃんも母ちゃんもお店の仕事してるからって、父ちゃんもご飯作る事があるぜ。」
「あ、僕の家もそうです。共働きだから、男も家事をするのが当たり前だって、お父さんは言ってました。」
「そっかあ。じゃあ、ヒモって、お仕事してないのに、女の人からご飯食べさせてもらったり、洗濯してもらったりしてる、男の人の事なんだ。」

歩美は、納得顔で頷いた。

(結構、本質突いてんじゃねえか。子供だからって、侮れねえよな。)

内心、舌を巻くコナン。

「そうそう。誰かさんってば、いつも事件に首を突っ込む探偵気取りかもしれないけど。別に、それでお金を稼いでいる訳でもないのに、ご飯を作ってもらったり、洗濯をしてもらったり、散々、世話にだけなってるのよ。それを、ヒモと言わずして、何と言うのかしらねえ?」

哀が、皮肉気な眼差しでコナンを見やる。
コナンは、雷に打たれたような衝撃を受けた。

(た、確かに……蘭に生活全般の面倒見てもらって、何のお返しもしてねえ上に、いつも好き勝手している俺って……ヒモと言われて当然の存在なのか?)

コナンは、ガックリとうな垂れてしまった。
一方、歩美は、疑問が解けてスッキリしたのか、もう、「ヒモ」の事は頭から離れてしまったようで。

「次は、光彦君が投げる番よ。」
「OKです。じゃあ、行きますよ。」
「おう、任せとけ。」


楽しそうに遊ぶ三人をよそに、コナンは一人たそがれていた。
そして哀は、「ちょっと虐め過ぎたかしら?」と、一人舌を出していた。



To be continued…….





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