C-K Generations Alpha to Ωmega



By 東海帝皇(制作協力 ドミ)



第二部 勇者激闘編




Vol.12 お台場大空爆!江古田組絶体絶命!!




某所にて……。



「ええい、何と言うザマだ!!」

四幹部たちに対して激高するダルクマドンナ。

「パンドラ取得どころか、我が兵どもが次々と倒されていくこの現状はどう言う事か!?」
「ブラウンフォックスは、全国の警察組織内に、対特殊能力の捜査を行う部門を設置して、それらにシャドウドールの討伐を行わせているようです。」

説明するシャドウマリア。

「しかもそれらは、シャドウファイタークラスのドールをも撃破するほど強力で。」

補足するゲインズボロースミロドン。

「シャドウロードは簡単に生産が利かない物故、大量投入する訳にはいかんのです。」

アイアンスナッパーが続く。

「ぐぐぐ……、何か良いアイデアは無いのか!?」

とのダルクマドンナの問いに、

「もし宜しければ、この俺に任せては頂けませぬか。」

と力強く応ずる者が。

「ほう、ディムグレイガルーダか。」
「何か方策はあるのか?」
「恐れながら申し上げます。俺は今までの奴らとの戦いを見て、ある事に気付きまして。」
「ある事とは?」
「それは実際に見て頂ければ分かります。どうか俺に出撃の許可を。」


傅くディムグレイガルーダ。

「ほう、そこまで言い切るからには期待しても良さそうだな。よかろう、行け!!」

「ハハッ!!」


一礼したディムグレイガルーダは、その場を退く。


「あやつめ、何に気付いたというのか……。」

呟くアイアンスナッパー。

「まあ、お手並み拝見と行こうではないか。」

「大口を叩いて失敗せねば良いがな。」


シャドウマリアやゲインズボロースミロドンが続いた。






3月10日土曜日、午前10時。



お台場エンジョイポリス。
ここは、巨大室内アトラクションが中心の、ゲームセンターと遊園地が一体になったような施設である。

そこに、C−Kジェネレーションズの江古田メンバーが、遊びに来ていた。

「うげ……すげー人混み……。」
「ホントホント。トロピカルランドよりマシかと思ってたけど、とんでもなかったわね。」
「青子、元気だな〜。」
「お子様だからでござろう。」

遊ぶより先に、人(それも子供)の多さに、辟易している、快斗・恵子・風吹。
今日はここに来るまでの間に、かなりのラッシュを体験したので、仕方がないと言えよう。

が、既に疲れモードになっている3人をよそに。

「みんな〜、早く遊ぼうよ〜。」

ひとり張り切っている青子であった。

「元はと言えば、快斗君が商店街の福引で、1グループ6人までのデイパスポートを当てたからでしょ。まあ、せっかくだから、遊ばないと勿体ないよね〜。」
「6人までという事で、コナン殿達には内緒で拙者達だけで来たのでござるからな。」
「風吹が、舞ちゃんに内緒ってのも、珍しいよね。」
「そりゃあ。風吹は、すぐそこのフジサンテレビで、陽介さんのテレビ出演生放送があるから、あわよくばと思って来たんだもんなあ。アトラクションには興味なし、舞ちゃんにも内緒ってのは、そういう訳だろ?」
「快斗殿。余計な事を言うのは、この口でござるか?」
「い゛い゛っっ!!?」

快斗の口元には、いつの間にかくない(忍者の小型武器)が、当てられていた。
と、そこへ。
アトラクションに向かった筈の青子が現れて、言った。

「もお!せっかくここまで来たのに、快斗達、何やって遊んでんのよ!?」
「……おい、アホ子。これが、遊んでるように見えんのか?」
「うん。見える。」

青子にあっさり言われて、快斗はいじける。

「ねえ、青子。白馬君と紅子さんは、どうしたの?」
「おっかしいなあ。待ち合わせの時間は伝えて、紅子ちゃんは『分かりましたわ』って言ってたんだけどなあ。」
「……どうせ、2人でいちゃいちゃしてて、待ち合わせ時間も忘れてんだろうよ。」
「もう!バ快斗はどうしてそう、下卑た想像しか出来ないの!?」

青子にモップの一撃を食らいそうになりながらいつも通り避けていた快斗だが。
実は、快斗の想像が的外れでもなかった事が、後から分かるのである。

それはさて置き。

「青子、あのモップ、どこに隠し持ってたのかしら?」
「あれは、青子殿の持ち武器、アルティマモップでござるな。」
「ええっ!?じゃあ、あれも、魔法アイテム!?」
「その通りでござるよ。」
「あれ作ったのは、初音さんなんだよね?一体、どんなセンスしてんのかしら?」
「まんま、青子殿のいつものパターンそのままでござろう。」
「初音さん……恐ろしい人……。」


土曜日なので子供が多いが、カップル客も沢山いる。
恵子と風吹は、カップルの中に、ひときわ目を引くひと組を見つけた。


「ねえ、あ、あれって……!」
「ほう。パララケルス王太子殿下殿と、桐華殿でござるな。」
「な……!あの2人……デートよね?どう見ても、デートよね!?」
「そのようでござるが……それがどうかしたでござるか?」
「ど、どうかしたかって……!一国の王太子殿下と、日本女性のデートよっ!?それも、鈴木財閥と並ぶかのミカエルグループ、日本屈指の財閥令嬢と!」
「それが、問題なのでござるか?」
「ハア……忍者にこの話を振ったのが、バカだったわ……。」

壁にもたれかかって溜息をつく恵子。
そこへ、ようやくモップバトルを終えた快斗と青子が合流してくる。

「お?あれは、レオン王太子と桐華さん。あの二人も来てたのか。」
「クイーンセリザベス号でとてもいい雰囲気だったもの。今は正式にお付き合いを始めたのかな?」
「ああ、ひな祭りの時に言ってた、鈴木財閥での婚約披露パーティーでの件ね。」

思い出す恵子。

「お、そう言えば、恵子オメー、あの時クイーンセリザベス号に来てなかったんだっけ。」
「だってだって!あの日は、TWO‐MIXのコンサートだったんですもの〜!!(注:TWO‐MIXは現実世界では休止中ですが、物語世界では活動中の設定)」
「ああ。あの、コナンと同じ声の高山みなみさんの……。」
「それはそうと、クイーンセリザベス号で、主殿は……。」

悶々とした表情になる風吹。

「あらら……、例の初音さんとの件を思い出したのね。でも……風吹には気の毒だけど、相手が悪いんじゃない?」
「あの雰囲気を見たら、ちょっとねえ。可哀相だけど……。」

同情する恵子と青子。


と、そこへ。

「あら。あなた方。」
「「「「!」」」」

桐華から声をかけられ、4人は飛び上がる。

「やあ。お久し振りですね。」

レオン王太子が、ニッコリ笑って一同に声をかけた。

「お2人は、デートですか?」
「まあ、そうですね。」
「お邪魔だと思って、声をかけなかったのに。」
「いや、閑静な場所でならともかく、こういう場所で、邪魔も何もないでしょう。」
「そういうもんですか?」
「あなた達さえ良ければ、一緒にアトラクションを回りませんか?」

桐華が誘う。

「そりゃ、こっちは全然構いませんけど。なあ?」
「うん、大勢の方が楽しいですもん!」
「拙者も別に構わんでござる。」
「良いわね、賛成!」
「後から、白馬と紅子も合流する筈ですから。」
「それは、楽しくなりそうね。」

一同、和気あいあいと、アトラクションに向かって行った。



   ☆☆☆



ちょうど同じ頃、ゆりかもめお台場駅近辺では……。



高木警部補と佐藤警部は、ようやく訪れたオフ日を、2人で楽しもうとしていた。

「今日は、そこのフジサンテレビで、ミュージックアフタヌーンの生中継を見に行きましょう。」
「高木君、よくそんなチケット、手に入れられたわね。」
「はは、実は今日、陽介さんが出演する日で、そのコネで。」
「ああ、なるほど。でも、良いのかしら?バトル仲間って事で、そこまで甘えて。」
「これは、彼の方から、好意でくれたんですよ。」
「そう?陽介君って、案外気配りが良いのね。じゃあ、折角だから、楽しませて頂こうかしら。」

2人、仲良く会話していると、突然声が掛けられた。

「もしもし?特殊能力捜査部の高木警部補と佐藤警部ですね?」
「「!」」

その呼びかけに、2人は警戒心も露わに声をかけた女性に相対する。
歳の頃は佐藤警部と同じ位か?
藍色のミドルヘアーで、初音を上回るナイスバディの美女である。

「ああ、ぶしつけにごめんなさい。わたしは、こういう者です。」

その女性が2人に示したのは、警察手帳で。
2人は警戒を緩めた。

「福岡県警刑事部の特殊能力捜査課・高千穂晴香警視……あなたが……。」
「も、もしや!ここで何か魔法関係の事件が!?」

色めく高木警部補。

「……落ち着いて下さい。もしそうであれば、まずはあなた達の方に話がある筈でしょ?」
「あ、はあまあ、そうですね。」
「こちらには、福岡で捕まえた魔法犯罪者を護送して来て。その後、フリーの時間を楽しもうと思っただけよ。で、たまたま、あなた方を見かけたから、声をかけたの。」
「ああ、そうでしたね。魔法犯罪者に限っては、脱走の懸念がある事から、東京にある特殊拘置所を経由して、ウェールズにあるICPOの特殊能力裁判所に送る決まりになっていましたから。」
「魔法犯罪者は、むしろ東京ではあまり見かけずに、地方に多いとは聞いていたけれど。各地の特殊捜査課の刑事さん達は、かなり大変そうですね。」
「まあ、激務と言えば激務だけど。公務で東京に来られるという楽しみもあるしね。」
「楽しみ……というと?やっぱ、趣味の方面とか?」
「そりゃ。東京にはイイ男が沢山いるんですもの。九州男児なんかくそくらえだわ!」
「「はあ!?」」

高木警部補と佐藤警部は、高千穂警視の言に面食らったような顔付きになる。

「東京には、優しくてイイ男が多くて、天国だわあ。」
「なら。いっそ、東京に就職なされば良かったのに。」
「分かってないわね。普段は田舎にいて、たまに東京に来るから、良いんじゃないの。」
「……福岡市って、田舎なんですか?」
「都会風に見えるのは中心部だけ。鉄道なんて、私鉄は殆どないも同然だし、ちょっと走れば窓の外には田園風景、山と海。まあ、都会と田舎と両方の生活を味わえる、良い場所ではあるわよね。でも、男は何と言っても関東よ!」
「「は……はあ……。」」

言葉もない、高木警部補と佐藤警部。

「あ、お楽しみのところ邪魔して悪かったわね。また、縁があったら会いましょう。」

そう言って、高千穂警視は去って行った。

「な、何だったんでしょう今のは。」
「さあ。知らない方がいいような気がするわ。」

毒気が抜けたような顔でしばし佇む2人であった。



   ☆☆☆



午後1時。


「次は、あの巨大観覧車に乗りたい!」
「オメー、元気だなあ。あれだけ散々遊び倒して、まだ遊び足りねえのかよ?」
「遊び人のバ快斗に、言われたくないもん!」
「オメー……遊び人の意味、分かってんのかよ?」
「でも、青子さんの言う通りだと思いますわよ。」
「黒羽君は、別の意味でも『遊び人』ですからね。」

青子に相槌を打つ紅子と探。
二人は後から合流して、共にお台場エンジョイポリスで、散々色々なアトラクションを楽しんだ。

その後一同は、すぐ近くのパレットシティに移動しようとしていた。
何と言っても、福引で当てたチケットが、両方の施設共通のパスポートだったからである。

「……寝坊して遅れたテメーらに言われたかねーよ……。」

ジト眼で答える快斗。

そこへレオン王太子が、宥めるように快斗と青子達の間に割って入った。

「まあまあ、折角来たんですから、喧嘩なんかせずに……。」

すると、恵子と風吹がレオンの肩に手を当てて言った。

「殿下。この2人の喧嘩、割って入るとバカを見ますよ。」
「そうそう、犬も食わない何とやらでござる。」
「あ。そういう仲だったんですか……。」
「「違います殿下、俺(青子)とアホ子(バ快斗)は、ただの幼馴染みです!」」

途端に、息の合った反論を行う快斗と青子。

「アンタ達……正式に付き合い始めても、いつもそう言うんだから……。」
「もう、口癖になってしまっているでござるな。」
「全く、相変わらず進歩がありませんわね。」
「同感です。」

呆れる恵子と風吹、紅子、探。

「うふふふ。まあ、パレットシティには、女性に人気のアトラクションが沢山あるそうですわよ。楽しみですわ。」

桐華がそう言って華やかに笑う。

「あ!知ってます!女性向けショップやアトラクションがいっぱいの、アフロディーテフォートとか、あるんですよね!」

情報通の恵子が言った。

「まあ、観覧車はかなり遠くまで見渡せるようですから、まずはそこに行きましょう。」

桐華の提案に、誰も異を唱える事はなく、そちらへと向かった。

「それにしても。東京って本当に、カラスが多いですわね。」
「ユリカモメも沢山いるけど……まあ、海辺だからな。」
「日本にはカラスが異常に多いと感じていましたが、これは東京固有の現象なのですか?」
「東京固有って訳じゃないですけど、生ゴミを狙って、都会ではカラスが多くなりましたね。」
「なるほど。」

実際、今日は特に、カラスが多く。
一同は、カラスからじっと見詰められているような薄気味悪さを感じていた。




そうこう言っている内に、一同はパレットシティにたどり着いていた。

「観覧車、30分待ちらしいぜ。」
「今日は土曜日で人が多いですからね。」
「じゃあ、交代で並んで、何か飲み物買って来よう。喉が乾いちゃった。」

恵子の言葉に、一同から賛同の声が上がる。

「じゃあ、ここは私が。」

名乗りを上げたのは、レオンだった。

「ええっ!?いや、王太子様にそんな使い走りをさせる訳には!」
「青子が買いに行きます!」
「いや、ちょっと待って下さい。私はここに、お忍びで来ているんですよ?こういう時、飲み物を買うのは男性の役目でしょ?私がレディ達に飲み物を買わせて泰然としていたりしたら、身分がバレバレです。」
「じゃ、じゃあ俺が……。」
「いや、ここは僕が……。」
「いやいや、私も買いだしというものを、いっぺんやってみたかったんです。だから、ここは私に。」

一同、何となく釈然としないものがあったが、ここまで言われたら、それでも固辞するのも憚られた。

「じゃあ、行って来ます。」

そう言ってレオンは去って行った。



   ☆☆☆



自販機前にて。
数人並んでいる後ろに立ちながら。

「ああっ!しまった!そう言えば、誰が何を飲みたいのか聞くのを、すっかり忘れていた!」

思わず頭を抱えるレオン。

「仕方がない。当たり障りのないものを……しかし、どれが当たり障りのないものかな?これも、国王になる為の試練だ。」

冷静に考えれば、国王になる試練として必要とも思えないが、レオンは妙に律義で天然な所があった。
と、その時。

「きゃああっ!コインが!」

レオンの前に並んでいた女性が、悲鳴を上げた。
そして、慌てて自分のバッグから財布を取り出して確かめていた。

「あうう……もう、お財布の中にはカードと万札しか……。」
「どうしました?」

捨て置けずに、レオン王太子がその女性に声をかけた。

「こ、コインが転がって自販機の下に入ってしまって……あの隙間、とても取れそうになくて……。」
「お任せ下さい!」

レオンは、やおら自販機の前に屈み込むと、そこにコインが落ちている事を確認した。
確かに、とても手で取れそうにはない。
そこでレオンは、浮遊魔法を使ってコインを引き出した。

「さあ、どうぞ。」

そう言って、女性に差し出した。

「ありがとうございます。」

ニッコリ笑った女性の顔を見て、レオンはドキリとする。
レオンより年上らしいその女性は、成熟した女性の色香を湛えていた。

(桐華さんとは違うタイプだが……美人だなあ……。)

すると。

「おいおい、兄さん、後ろに並んでんだから、早くしてくれよ!」

と、イラついた声がかかった。

「あ、し、失礼しました!」

レオンが謝っている間に、その女性は目当ての飲み物を首尾よく購入していた。
レオンは慌てて、次の人に場所を譲る。

すると、今の女性がそっと声をかけて来た。

「本当にありがとうございました、レオン王太子殿下。」
「えっ!?あ、あなたは!?」

レオンは驚いて、まじまじとその女性を見詰めた。

「あなた様の事は、服部初音警視長からよく伺ってますわ。警視長は、あなた様の義姉上様なのですわよね。」
「!ちょ、ちょっと……ここでその話は何ですから!」

そう言ってレオンは、女性を人気のない所まで引っ張って行った。




「あなたは、一体、何者なんですか?」
「あら、どうして?」
「何故、私の事をご存じなんです?」
「あら。パララケルス王国の王太子殿下ですもの、知ってる者は知ってますわよ。」
「そうじゃなくて!初音義姉上との事は、限られた者しか知らない筈です!」
「だって、わたしは、こういう者ですから。」

そう言って女性が差し出したのは、警察手帳だった。

「福岡県警察本部刑事部特殊能力課警視・高千穂晴香……じゃあ、あなたは……。」
「たかだかコインを取る為だけに、人前で魔法を使ったりしてはいけませんわ。」
「あわわわ……そ、それは!」

慌てるレオン。

「でも、ありがとうございます。殿下の事は、心に留めておきますわ。ところで、殿下は、何か飲み物を買いにいらしたのではなかったのですか?」
「あ!そ、そうでした!では私は、これで失礼します!」

そう言ってレオンは再び自販機へと向かった。
それを見送りながら高千穂警視が笑みを浮かべて呟いた言葉は、レオンの耳に入る事はなかった。



「ふっふふふふふふ……ついに……ついに見つけたわ!わたしの理想の男!!!」



   ☆☆☆



午後3時。



「いやあ、結構楽しかったね♪」
「そうねー♪」

一通りのアトラクションを楽しんだ一同は、お台場海浜公園の浜辺でゆっくりとくつろいでいた。

「この辺りは夏になると、海水浴をする客で結構混むんだよな。」
「今はまだ3月だから、そう言う訳には行かないけどね。」
「あ、ところで夜ご飯どうしよう?一応昼は軽めに済ませたけど。」
「もし宜しければ、ワタクシ達とご一緒にディナーに行きませんか?良い所を知ってますので。」

恵子に対して、誘いをかける桐華。

「あっ、それ良いわね!!」
「桐華さん、太っ腹じゃん!!」

賛同する恵子と快斗。



その時、お台場海浜公園上空では、

「カッカッカッカッ、こんな所にいようとはな。まずは貴様等を始末してやろう。」

オウギワシ型の怪鳥人が、眼下の快斗達を見据えながら高笑いしていた。

「さあ、出でよ!!」

怪鳥人が右手をかざした瞬間、黒いフォースの玉が現れ、

「カアー!」
「アフォー!」


そこから全身漆黒の別の怪鳥が多数出現した。


「ん!?」

何かに気付いた快斗が空を見上げる。
すると。

「な、何だありゃ!?」
「ちょ、ちょっと何!?」
「な、何なのアレ!?」

青子と恵子も、空を飛び交う異形の怪物達を見て驚く。

「カアー!」
「アフォー!」

「カ、カラスでござるよな……。」
「つーか、あんなデカいカラスなんていませんわよね……。」
「って事は、シャドウドール!?」

警戒して身構えるレオン。

その時、

「なっ、何だアレは!?」
「まっ、まさかシャドウエンパイア!?」
「ばっ、化け物ーーっっ!!」
「きゃあーーーっっ!!」
「逃げろーーーーっっ!!」

お台場一帯は、上空に突然現れたシャドウドールを見て、パニック状態に陥った。


「おいおい、こりゃやべーだろ!」
「このパニックをなんとかしないと!!」
「私達、まともに戦えないわ!!」

周囲のパニックに困惑する快斗達。
その時、

『ただ今、お台場一帯にシャドウドールが出現しました。付近にいる方々は安全の為、東京ビッグサイト方面や暁埠頭公園に避難して下さい。なお、お車をご利用の方は、首都高湾岸線はご利用なさらず、暁埠頭公園から第二航路海底トンネルをご利用の上、八潮方面に抜けて下さい。繰り返します……。』

とのアナウンスが周囲に流れた。

「おっ、早速退避のアナウンスが流れたな。」
「初音さん、すぐに情報をキャッチしたのかな?」
「あの人、ホント仕事が速いよねー。」

感心する一同。

「だけど、あんなアナウンスを流しても、シャドウドール達が、逃げた人達を追って移動して大混乱……って事には、ならないのかな?」
「その事ですが恵子さん。シャドウドール達が現れる時は、その場所に何らかの狙いがあるのが普通だそうで。それに彼らはただの機械、一般人を追って移動するって事はないらしいとか。」

説明する探。

「なるほど、じゃあ、退避させたら取りあえず安全……って事は、ヤツらには何らかの狙いがあってココに来たって事!?」
「その狙いは、何でござろう?」
「俺、どうも嫌な予感が……。」
「快斗、予知能力に目覚めたの!?」
「んな訳ねえだろ!どうも、危急の時もずれてる女だなあ、アホ子!」
「何よう、バ快斗が予感なんて言うからっ!」

と、その時。

「カーッカッカッカ!!さすがの貴様等も、この陣容には驚いたようだな!!」

快斗達が上空を見上げると、カラスの怪物集団の中心で、腕を組んで高笑いする者の姿があった。

「なっ、何だアイツは!?」
「カラス達よりもでっかい!!」
「誰だテメェは!?」
「俺の名は暗黒鳥神ディムグレイガルーダ。シャドウエンパイアのロイヤルドールだ!!」

見下すような目つきで自己紹介する。

「ロ、ロイヤルドール!?」
「って事は、シャドウマリアやゲインズボロースミロドンと同じ大幹部なの!?」
「た、確かに他のドールとは雰囲気がまるで違うでござるな……!」

息を呑む一同。

「フン、あのような輩共、このワタクシの百鬼夜行桐華組が……。」

桐華が胸元から札を出そうとしたが、

「ハッ、し、しまった!今日は札の魔力チャージで持ってませんでしたわ!!」

思わず頭を両手で抱えて絶叫する。

「な゛っ、何ーーっっ!?」
「何でこんな時に限ってーーーっっ!?」

同様に頭を両手で抑えて絶叫する快斗と恵子。

その時、

「さあやれ、デッドクロウ達よ!あやつ等を貴様達の嘴の餌食にしてやれ!!」
「カアー!」
「アフォー!」


ディムグレイガルーダの指示を受け、ハシブトガラス型のシャドウソルジャー・暗黒闇烏デッドクロウが上空から一斉に降下を始めた。

「ちいっ、狙いはやっぱ俺達か!」
「みんな気をつけて!!」

今までのドールとは毛色がまるで違う事に警戒する快斗達。

「くっ……でも、札が無くとも、戦えない訳ではありませんわ!アデアット、クイーンビュート!!
「私も戦います、アデアット、ミョルニルハーケン!!

キティタイガー・虎姫桐華と、ライオプリンス・レオン・ライア・レムーティスは、魔法陣を展開させて、鞭と斧を呼び寄せて装備した。


「俺達も行くぜ!フォースウェポンセットアップ、キッドジュニア!
フォースウェポンセットアップ、ブループリンセス!
フォースウェポンセットアップ、ピーチアーチャー!
アデアット、南十字星!

それぞれウェポンを呼び出す快斗・青子・恵子・風吹。
が。

「あれ、白馬と紅子、オメー等はウェポン付けねーのか?」
「ウェポンはエネルギーの消費が大きいので、シャドウファイター以上のクラスが来たら呼び出します。」
「大量のシャドウソルジャーには、攻撃魔法で一気に攻めるのが効果的ですわ。」
「なるほどな。さあ、来るぞ!」

身構える一同。



「カアーッ!」
「おおっと!!」

ズドーン!!

「くかあっ!!」

快斗は降下したデッドクロウの嘴攻撃を避け、すかさずムーンマグナムでデッドクロウを撃ち落とす。



「このお!」

バキッッ!!

「くあーーっっ!!」

青子はアルティマモップでデッドクロウを叩き落した。



「えいっっ!!」

バキッッ!!

「かあーーっっ!!」

恵子も、打撃武器としても使えるストリームボウでデッドクロウを叩き落す。



「とおっ!!」

ぐさっっ!!

「ぐがあっ!!」

風吹はクナイを投げて、デッドクロウを次々と撃破した。



「とあーーーっっ!!」

バキッッ!!

「があっっ!!」

探は伸縮式のアルミ製の特殊警棒でデッドクロウを片っ端から叩き伏せる。



「ホーッホッホッホッ!!」

ババババババ……!!

「くかあーーーっっ!!」
「ぎゃーーーっっ!!」


紅子は高笑いしながら、電撃魔法でデッドクロウを徹底的に破壊していく。



「ハイッ!ヤアッ!!たあーーっ!!」

バシッ、バシバシッ!!

「くあーーっっ!!」
「かあーーーーっっ!!」


桐華はクイーンビュートを縦横無尽に振り回し、デッドクロウを次々と叩き落していく。



「とりゃあーーーーっっ!!」

バシュッ、バシュッ、バシュッ!!

「くかーーっっ!!」
「があーーーーっっ!!」


レオンはミョルニルハーケンを脳波コントロールで操り、デッドクロウを片っ端から撃墜していった。



  ☆☆☆



同じ頃、毛利探偵事務所。



「ヨーコちゅわわわわん!!」

フジサンテレビのミュージックアフタヌーンに出演している沖野ヨーコに、相好を崩し声援を送っている毛利小五郎。

「まったく、一体真っ昼間っから何をやってるのかしら、お父さん?」
「依頼もないから、暇なんじゃないの?」
「だからと言って!こんな醜態を晒してたんじゃ、来る依頼も来なくなってしまうわよ!はあ、情けない……お母さんが呆れる気持ち、ちょっと分かるわ……。」
「ははは……。」
「新一がもし、のんべになったら、その時は……!」

蘭の目がマジで、コナンはビクッとなる。

(おいおいおい。冗談じゃねえぜ。俺をあの酔っ払いと一緒にしないでくれ。)

心の中で呟くコナン。
勿論、口に出して言うような命知らずな事はしない。

と、その時。


『臨時ニュースを申し上げます。』

テレビの画面が切り替わり、男性アナウンサーの姿が画面に映った。

「ぬわに〜〜!?ヨーコちゃんはどうした、ヨーコちゃんを出せええ!」
「「!」」

テレビにかじり付いて怒鳴る小五郎と、対照的にハッとした表情になるコナンと蘭。

『本日、お台場一帯に、シャドウエンパイアの怪物らしき巨大な鳥が、多数出現しました。今も、お台場近辺はその怪物がいて、C−Kジェネレーションズのメンバーらしき人達が、戦っております。』

そして、画面にその様子が映し出された。

「うがあああ!こんなヤツらより、ヨーコちゃんを出せえええ!」

なおもテレビにかじり付いて怒鳴る小五郎。

そして、コナンと蘭は、既にその場にいなかった。



  ☆☆☆



再びお台場にて……。



「ほほう、至近距離では互角か。ならば!!」

上空から戦況を見ていたディムグレイガルーダは、右手を上げる。
瞬間、デッドクロウ達は再び上空へと飛び上がった。

「あのカラス達、空に逃げたけど。」
「私達の力に恐れ入ったのかしらね。」

得意げな恵子。
が、

「いや、なんか違うぞ!!」
「何か陣形を組んでるでござる!!」
「気をつけて下さい!」

快斗と風吹、探は警戒する。


ディムグレイガルーダは、デッドクロウ達が陣形を組んだのを確認し、

「さあ、やれ!!」

との命を下す。
すると、

「カアーーーッ!!」

ドーン!!
ズドーン!!


デッドクロウ達は、嘴から魔力弾を次々と撃ち始めた。

「やべえ、避けろ!!」

快斗は瞬時に青子達に指示を下す。

ドカーーーーン!!
ドカーーーーン!!
ドカーーーーン!!


「きゃーーーっっ!!」
「ちょ、ちょっと、こんなのあり!?」
「おわあっと!!」

快斗達は必死にデッドクロウの魔力弾を避ける。

が、その一方で、

ドカーーーーン!!

デッドクロウが放った魔力弾の流れ弾が、次々と建物に命中し、損壊していった。

「きゃあーーっっ!!」
「うわあーーーっっ!!」

更にパニックに陥る一般人達。


「カーッカッカッカ!!この攻撃をいつまで避けきれるかな?」

高笑いするディムグレイガルーダ。

「くっそー、あの野郎!!俺達の攻撃の手が届かないトコから攻撃しやがって!!」

歯噛みする快斗。

「どうしよう、このままじゃ他の建物が更に壊れちゃうよお!!」
「お台場が廃墟になっちゃう!!」

悲痛な声を上げる青子と恵子。

「フッ、空を飛ぶ手立てを持たぬ貴様等にこの俺達を倒す事など不可能だ!カーッカッカッカ!!」

ディムグレイガルーダは勝ち誇ったかのように更に高笑いする。

だが、その時!

バババババ……。

「カアーーーッッ!!」
「クワアーーーッッ!!」
「クカアーーーッッ!!」


ドガーン!!
ドガーン!!
ドガーン!!


何処からの電撃を食らって、デッドクロウ達が次々と爆散した。

「なっ、こ、これは!?」

予想外の事態に驚くディムグレイガルーダ。

「ど、どうしたの、一体!?」
「この青空に雷など……!!」

恵子や風吹も驚く。

「青空に雷……ハッ、もしや!?」

快斗がある事に気付いた時、

「あっ、アレは!?」

青子が空を指差した。
そこには、

「おーっほっほっほっ!!空中戦はあなた方の専売特許ではありませんわ。」

魔法の箒に跨って、高笑いする紅子の姿があった。
その右手には、電撃魔法を放ち終えた後のスパークが火花を立てていた。

「あ、紅子!!」
「紅子ちゃん、やるうー♪」
「ほーっ、助かったあ……。」

安堵する一同。

「しかし、まさか空中戦を仕掛けてくるとはな。」
「そうですね、黒羽君。飛行装備さえ出来れば、僕も参戦するのですが。」

探は、空を見上げて奥歯を噛みしめる。

(なるほど……こいつ、紅子に対して本気なんだな……愛しい女性を一人戦わせて何も出来ない己が、悔しくて仕方がないんだ。)

さすがに、そのような羽目に陥った事がまだない快斗は、冷静にそういう事を考えていた。

「けど、紅子殿一人に任せ切りにするのも危険でござるな。」
「空を飛べれば紅子ちゃんの援軍に出向けるのに。」

青子が嘆息した時、

「ハッ、そうだ!おい、風吹!!」
「いかがしたでござるか?」

快斗は風吹を呼び寄せ、耳打ちをした。

「……ほう、その手がござったか。」

説明に会得する風吹。

「どしたの、二人とも?」
「今から紅子の援軍に行って来るぜ。」
「えっ、空を飛べる手段なんて……。」
「あるでござるよ、アデアット、南十字星!!」

恵子の心配をよそに、風吹は持ち武器の巨大手裏剣を召喚し、高く掲げた。
すると、

フォンフォンフォン……。

南十字星のブレード部分が勢い良く回転を始める。

「では、行ってくるでござる!!」

風吹はそのまま上空へと飛んで行った。

「なるほど!あのでっかい手裏剣をヘリコプターの要領で使ったのね!!」
「さすがは快斗君ねー。」

感心する恵子。
その時、

ふわっっ!!

二人は背後から何かが飛び去るのを感じた。

「えっ!?」
「あっ、あれは!?」

見ると、

「「か、怪盗キッド!?」」

快斗がキッドの扮装で、ハングライダーで飛翔していくではないか。

「ほほう、ハングライダーとは考えましたな。」
「この辺りは海風がありますから、正にうってつけですわね。」

感心するレオンと桐華。

「いける!これならいけるわ!!」
「がんばれー!!」
「頼みましたよ、黒羽君、風吹さん!!」

恵子と青子と探は、声援を上げて快斗と紅葉を見送った。



  ☆☆☆



バババババ……。

「カアーーーッッ!!」
「クワアーーーッッ!!」
「クカアーーーッッ!!」


ドガーン!!
ドガーン!!
ドガーン!!


「ほーっほっほっほっ!!」

紅子の電撃魔法の前に、デッドクロウの大群は次々と爆散していく。

「ええい、まさか本物の魔女まで参戦してたとは!!」

目算が崩れた事に憤るディムグレイガルーダ。

そこへ、

「とりゃーーーっっ!!」

ザクッ!!
ザクッ!!
ザクッ!!


「カアーーーッッ!!」
「クワアーーーッッ!!」
「クカアーーーッッ!!」


ドガーン!!
ドガーン!!
ドガーン!!


風吹が駆る南十字星の刃が、デッドクロウを次々と切り裂き、爆散させる。

そして更に、

「どこ見てやがる!!」
「むっ!?」

快斗がディムグレイガルーダに迫り、

ドキューーーン!!

ドカーーン!!

「ごはあっ!!」

ムーンマグナムで一撃を食らわした。



  ☆☆☆



同じ頃、捜査二課にて……。



「中森警部!テレビを見て下さい!」
「んあ?何かキッドがらみの事件でもあったのかね?」
「ええっと……事件と言えば事件ですし、キッドが絡んでいると言えば絡んでいますが……。」
「ええい!煮え切らんヤツだな!」

部下の進言に苛立ちながら、中森警部はテレビをつけた。
すると。


『キッドです!怪盗キッドが、バトルに参戦しています!』

画面には、デッドクロウを次々と撃ち落としていく、ハンググライダーを操るキッドの姿が映っていた。

「な、なにぃ!?」
『見物客……もとい、避難している人々の間から、期せずしてキッド頑張れコールが起きています。怪盗キッドは、シャドウエンパイアとの戦いに、協力参戦する模様!』
『それはまあ、怪盗キッドといえど人間ですからな。人間の味方をして当たり前でしょう。』

いつも無責任な煽り発言を繰り返すコメンテーターの言葉に、中森警部は不機嫌も露わになる。

「こいつ!何言ってんだ!?」
「でも、一理ありますよ、中森警部。」
「あのな!だからと言って、わざわざキッドの姿で参戦する意味がどこにある!売名行為以外の何物でもないだろうが!ヘリを出せ!ワシが現場まで行って、キッドをとっ捕まえてくれる!」
「え、ええっと……この場合、魔法戦の邪魔をしたら、悪者になってしまうのは中森警部の方では……。」
「つべこべ抜かすなあ!さっさとヘリの手配をせんかあ!」
「は、はいいい!!」

中森警部の部下は、慌てて電話を取り、ヘリの手配をしようとした。
ところが。

「だ、駄目です、中森警部!ヘリコプター出動の要請は、出来ません!」
「何!?何故だ!?」
「……服部警視長から、ストップがかかっているようです。空中の魔法戦が行われている時に、ヘリを出すのは危険だと言って。」
「……あんの、女狐!そもそも、前にキッドに襲われたのだって、グルになっての芝居だったのかもしれん!真意を問いただしてくれる!」
「な、中森警部!」
「ええい!止めるな!」
「そ、それが……中森警部にお電話です。」
「ちっ!このくそ忙しい時に!誰からだ!?」
「そ、その……。服部警視長からです……。」
「ぬわに〜〜〜!?」

憤怒の表情で電話を取る中森警部。

『よう、中森のおっさん、元気かあ?』
「……たった今、すこぶる具合が悪くなった。」
『そら、あかんなあ。うちのお手製のサンドイッチでも食うて、元気だしなはれ。』
「いらん!ワシは命が惜しい。」
『まるでうちが毒でも仕込むかのような言い草やなあ。』
「毒の方が、まだマシかもしれん。」

そこで、青くなった茶木警視が飛んできて、中森警部に声をかけた。

「なっ、中森!仮にも警視長殿に対して、何という口の利き方だ!?少しは……。」
「茶木警視は黙っていて下さい!あの女の最近のやりようには、我慢がならんのです!」
「おいおい。我々は捜査二課だが……シャドウエンパイアの陰謀には、日本警察総出でかからねばならんのは事実だろうが。そして、それが出来るのは、今のところ服部警視長しかおらん。だからここは……。」
「ですが!泥棒や犯罪者が大手を振って共に闘われたのでは、正義を守るべき警察としての、示しがつかないではありませんか!」

『まあ、そないな固い事言うなや、中森のおっさん。ハッキリ言って、アンタが行ったところで、邪魔者以外の何者でもあらへんで!』
「くっ……!」
『親父殿より娘さんの方が、数万倍出来がええなあ。』
「それは、どういう事ですか!?」
『はは。それはこっちの話や。毛利のおっさんといい、中森のおっさんといい、とんびが鷹を生んだのは共通やなあ。』
「で?何の用だ?」

中森警部は、数回深呼吸をして何とか気持ちを落ち着けて言った。

『は?用?たった今、あんたが自分で言ったやろ。いや、茶木警視の方やったかな、言ったんは。ま、どっちゃでもええわ。魔法戦に、二課の手出しは無用。たとえ、泥棒が参戦しとっても、や。』
「ぐっ……!!」

以前、自分が言った事を返されて歯噛みする中森警部。

『冗談抜きで、事態はキッドの手も借りたい状況なんや。この戦いが終わったら、また何ぼでも、怪盗キッドを追いかけなはれ。』

ふざけたもの言いだが、その言葉の中に、真摯な響きを感じ取って、中森警部はしばし黙った。

「なあ。聞きたいんだが……いや、聞きたいんですが。」
『ん?何や?』
「戦いが終わったら。と仰るが。終わるんですか?」
『……難しいなあ。それに、終わった時はこちらの負け、いう可能性も……。』
「ば、バカな!」
『心配せんでも、絶対終わらせたるわ!正義の大勝利でな!』
「……ワシはまだ、アンタを完全に信用出来ない。だが、信用出来た暁には……。」
『ん?』
「キッドを追うのを、暫く休みます。」
『……ああ、分かった。信用させて見せるで。ほな。』

電話を切った中森警部は、苦笑していた。
自分でも、何故ああ言ったのか、分からなかった。

結局、中森警部は根っからの警察官で、何よりも、「正義の味方」だったのだ。



   ☆☆☆



そしてまた同じ頃、工藤邸では……。



「当然だが、初音さんは警視庁、陽介さんはフジサンテレビの生中継中でお台場だな。」
「陽介さんは、参戦するかしら?」
「いや。状況から見て、それは無理だろう。むしろ、人々の動揺を鎮め、避難させる方向で動くんじゃねえか?」
「そうね。私達も、助けに……。」
「待ってろ、今、招集をかけてっから。」

コナンの言葉に応じたかのように、少年探偵団と園子が、工藤邸に現れた。

「コナンくううん!今、カラスの大群が!」
「何っ!?襲われたのか!?」
「いえ、そうじゃないですけど、まるで僕達を見張るかのように……。」
「不気味だったよな。」
「うん!」
「……シャドウドールらしかったのか?」
「普通のカラスに見えたけど……。」
「そっか……(偶然なのか?)」

コナンが考え込む。

「園子。舞ちゃんは?」
「それが、今日はあの日で、体調絶不調で寝込んでるわ……。」
「そうなの。それじゃ、手助けは無理ね……。」
「……焔野は、神官の家系だったよな?」

式神新一が口を開いた。

「うん、そうだけど。それがどうかしたの?」
「いや、巫女さんは、あの日には確か神通力を失うとか……。」
「そうか!私達は、単に体調不良だと思ってたけど。たとえ体調が良くても、全く戦えない……って事ね。」
「ああ。だとしたら、今後、焔野の周期は、把握しておいた方が良いかもしれない。」
「……新一君。そういうデリカシーない事を平気で言えるのは、アンタ位なもんよね。」
「で、デリカシーないって!当然心配しなきゃいけねえ事だろ!?」
「じゃあさ。アンタ、蘭が他の男にそんなの知られて、平気なの?」
「そっ、それはっ!」

さすがに慌てる式神新一。
と、そこへ。

「ねえねえ、舞お姉さん、大丈夫なの?」
「まさか、不治の病とか、言いませんよね?」
「寝込むって、俺に経験ないからよく分からないんだけどよ、やっぱ、女の人なんだな、バトルが強くても、か弱いんだな。」

少年探偵団の3人が、心配そうな顔で言った。

「大丈夫よ。2〜3日もすれば、よくなるわ。」
「哀ちゃん、ホント?」
「灰原さん、どうしてそんな事が分かるんですか?」
「大人の女の人は、月に1回位、体調不良になるものなのよ。」
「そっかあ、哀ちゃん、物知りだね。」
「そう言えば、僕のお母さんも、月に1回位仕事を休む事がありますね。お姉さんも、部活を休む事が……。」
「そっか。そう言えば、うちの母ちゃんも……。」

(おいおい……。)

少年探偵団の茶々で、自分への矛先は免れたコナンだが、複雑な気持ちで哀と探偵団とのやり取りを見ていた。

「にしても。今回の敵に対して焔野のドラグファイヤーが使えないのは、痛いな……。」
「そっか。あれが使えれば、お台場までひとっ飛びだし、空中戦も出来るのに……。」
「し……コナン君も私も、基本地上戦だし、蘭なんか接近戦だものね。」
「そうだ!哀ちゃんのリトルアームズは、確か空中戦が出来るよね!」
「一応、可能だけど。あまりに高度が高いと、ちょっと無理かも。」
「四の五の考えてても仕方がねえ。とりあえず、お台場に行くぞ!」

コナンの声で、一同は工藤邸を出る。

「ところで、どうやってお台場まで行くの?道路も鉄道も使えないのに?」
「堤無津港に、初音さんが手配した警察の警備艇が停泊中だ。」
「じゃあ、警察の人が操縦してくれるの?」
「いや、それは俺が。日本での船の運転免許はねえが、危急の時だからな。」
「新一お兄さん、お船の運転が出来るの!?」
「ああ。ハワイで親父に教わってな。」
「お船の運転が出来るなんて、コナン君とおんなじだね!」

歩美の無邪気な言葉に、コナンは背中に汗を貼りつかせ。
一同がジト目でにらんだのは、言うまでもない。

そう言った会話をしながら、一同は堤無津港へと向かった。



   ☆☆☆



再びお台場海浜公園上空にて……。



「さあ、とっとと観念しな!!」
「残るはあなただけですわよ!!」
「おとなしくするでござる!!」

デッドクロウを全て破壊した快斗・紅子・風吹は、旋回してディムグレイガルーダを取り囲む。
これに対し、

「フッ、観念だと?そのような戯言……。」

そう言いかけたディムグレイガルーダは、両手から6つの黒い宝珠を出し、

「こやつ等を倒してから言え!!」

と叫びながら宝珠を天に投げた。
すると、

「キィーーーーーッッ!!」
「ボーーーッ、ボーーーーッ!!」
「ボッボーーッ、ボッボォーーーーッ!!」
「カタカタカタカタ……!!」
「ミャーーッ、ミャーーーッッ!!」
「ガーーーッ、ガーーーーッッ!!」


6つの宝珠は、鳴き声をあげながら巨大な鳥人の形へと変化した。

「なっ、何だこいつ等!?」
「新手でござるか!?」
「気をつけて、お二人とも!!」

警戒する三人。



「ちょ、ちょっと何アレ!?」
「さっきのカラスとは全然違うじゃない!!」

新手のシャドウドールの出現に驚く青子と恵子。

「これは……!!」
「どうしました、白馬さん!?」

声をかけるレオン。

「ディムグレイガルーダが繰り出したアレは、シャドウファイターです!!」
「シャドウファイター?」
「シャドウファイターなら、ワタクシ達でも倒せそうですが。」
「ええ。でもあのシャドウファイターは空中格闘戦をする為のモノです。」
「く、空中格闘戦って……。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!空中でガチンコバトルなんて、出来る訳ないじゃない!!」

血相を変える恵子。

「地上戦なら私達でも何とかなるのに……!!」
「本当にただ見てるだけしか出来ないのですか……!!」

歯噛みするレオンと桐華。

「出来る事なら、黒羽君達があの怪鳥達を地上に叩き落してくれたら……。」

探は空を睨みながら、一縷の望みを託した。



「さあ行け、我が下僕共よ!C-Kジェネレーションズ達を皆殺しにして来い!!」
「「「「「「ハハッ!」」」」」」


ディムグレイガルーダの命を受けた6体の怪鳥人達は、一斉に飛び立った。



「ボッボーーッ!!」

紅子に迫り来る、カンムリバト型のシャドウファイター・暗黒魔冠鳩ブラッククラウン。

「くっ!」

紅子は電撃魔法をブラッククラウンに食らわせた。
だが、

「ボッボーーッ!!」
「ええっ!?」

ブラッククラウンは腹部の角で電撃魔法を吸収した。
それに面食らう紅子。
更に、

「食らえ、ボッボーーッ!!」

バババババ……!

「きゃあああーーーーっっ!!」

その腹部の角から、吸収した電撃魔法を放ち、紅子は大ダメージを受けてしまう。


「紅子さん!」

真っ青になり、紅子の方向へ駆け出す探。
そこへ、

「ガーーーッ!!」

コクチョウ型のシャドウファイター・闇魔黒鳥キラースワンが空から舞い降り、探に襲い掛かった。

「くっ!」

バックステップで避ける探。
が、

「死ねえ!!」

キラースワンが漆黒の翼を探に向けた瞬間、

ダダダダダ……。

黒い羽がマシンガンの如く発射された。

ドガーン!!

「ぐはっ……!」

直撃を食らった探は、倒れてしまう。

「「は、白馬君!」」
「「白馬さん!!」」

血相を変える青子・恵子・桐華、そしてレオン。

そこへ更に、

「キィーーーーーッッ!!」

全身骨だらけのクロハゲワシ型のシャドウファイター・凶骨禿鷲バルチャーボーンが桐華の前に舞い降りた。

「てえいっ!!」

がしゃーーーん!!

桐華がクイーンビュートを一振りすると、バルチャーボーンはバラバラになった。

「おお!」
「凄い!!」
「フッ、口ほどにもありませんわね。」

鼻で笑う桐華。
が、

「ハッハッハ、それで勝ったつもりか!?」

バルチャーボーンの頭蓋骨が笑い返した瞬間、

「なっ!?」

バラバラになったバルチャーボーンの骨が再集結し、元通りに戻った。
それに驚く桐華。

「さあ、今度はこっちの番だ!!キィーーーーーッッ!!」

再び桐華に襲い掛かるバルチャーボーン。

「くっ、何の!!」

桐華はバルチャーボーンに対し、クイーンビュートを振り回し、その脚に絡めた。
だが、次の瞬間、

「キィーーーーーッッ!!」

どがーーんっっ!!

「はうっ!!」

バルチャーボーンが桐華に暗黒のフォース弾を撃った。
その直撃を食らった桐華は倒れてしまう。

「「桐華さん!」」

更に真っ青になる青子とレオン。

「くっ、この骨骨野郎!」

恵子はストリームボウをバルチャーボーンに向けた。
が、

「カタカタカタカタ、そうはさせんぞ!!」
「な゛っ!?」

恵子の目前に、アフリカハゲコウ型のシャドウファイター・妖巨嘴鸛テラーストークが立ちはだかった。
それに面食らう恵子。
直後、

「ていっっ!!」

ばしっっ!!

「あうっっ!!」

恵子はテラーストークの翼に叩き飛ばされてしまう。


「け、恵子まで……!」

仲間達が次々と倒れていく有様に震える青子。

「か、快斗……。」

青子は不安げに上空を見上げる。


「な、何と言う事でござるか……!」

眼下の仲間達が次々とやられた事に動揺する風吹。
そこへ、

「どこを見とる、ボーーーッ!!」

どがっっ!!

「ぐはあっっ……!」

ワシミミズク型のシャドウファイター・魔眼梟ヘルズブーボーの体当たりを食らい、風吹もダメージを受ける。


「風吹!!」

ディムグレイガルーダと空中戦を繰り広げている快斗も、仲間達が次々とやられている惨状に、歯軋りする。
そこへ、

「もらったあ!!」

がしっっ!!!

「ぐうっ!!」

下からディムグレイガルーダが、快斗の首を締め上げる。

「カーッカッカッカ!!このまま絶望の中で死んでいけえい!!」

快斗を締め上げながら高笑いするディムグレイガルーダ。

「あ、あお……こ……。」

強烈な締め上げで意識が混濁し始めた快斗は、眼下の青子に対して、無意識の内に手を伸ばした。



「か、快斗ーーーーっっ!!」

地上から空中の様子を見ていた青子が思わず絶叫する。



「な、何と言う事だ……!」

狂翼海猫マッドシーガルと戦っていたレオンも、この事態に青ざめる。
そこへ、

「余所見をするな!ミャーーーッッ!!」

どがっっ!!

「ぐはっ!!」

マッドシーガルがレオンを体当たりで叩き飛ばした。


「王太子様!!」
「さあ、次はお前の番だ!!」
「ひいっ!」

マッドシーガルが青子に狙いを定めてきた。
さらに、

「貴様の肉を喰らうてやろう。」
「さぞや旨い事だろうて。」
「グワッグワッグワッ……。」


テラーストークやバルチャーボーン、キラースワンも青子に近づいてきた。

「ど、どうしよう……。」

恐怖で身動きが取れない青子。

「あ、青子……に、逃げて……。」
「あ、青子さん……。」

倒れ伏している恵子や探が呼びかける。

「こ、このままでは……。」
「くっ……!」

立ち上がれずに憤るレオンと桐華。

「あ……あお……こ……にげ……ろ……。」

快斗は、自身締めあげられながら、必死で青子の方へと手を伸ばす。

「か、快斗っ!青子も……青子も空が飛べたらあんな奴ら、一気に倒せるのに……!」

そう青子が念じた瞬間、

ふわっ……。

「えっ……!?」

手に持っているアルティマモップの変化に気付いた。

「も、もしかしてこれ……!!」

青子が何かに気付いた瞬間、

「死ねえーーーーっっ!!」

マッドシーガルが飛び掛ってきた!!



To be continued…….





Vol.11「工藤邸の新住人2」に戻る。  Vol.13「空飛ぶ魔法のモップと天津神の神子」に続く。