C-K Generations Alpha to Ωmega



By 東海帝皇(制作協力 ドミ)



第二部 勇者激闘編



Vol.13 空飛ぶ魔法のモップと天津神の神子



お台場海浜公園。


C-Kジェネレーションズの江古田組は、シャドウエンパイアの暗黒鳥神ディムグレイガルーダが率いる魔鳥軍団の前に、大ピンチに陥っていた。




「死ねえーーーーっっ!!」
『!』

青子に迫っていたマッドシーガルが飛び掛り、一同がもうダメかと思った時!

どがっっ!!!

「ご……は……!!」

アルティマモップに跨った青子が、そのまま飛翔してマッドシーガルを跳ね飛ばし、一気に上空へと舞い上がった。

「なっ!?」
「何と!?」
「こ、これは!?」


まさかの事態に驚くテラーストークとキラースワン、バルチャーボーン。

「あ、青子!?」
「あっ、アレは!?」
「あのモップにあんな機能が……!」

恵子やレオン、探もアルティマモップの隠された機能に目を見張る。


「なっ、何だアレは……!!」

快斗を締め上げていたディムグレイガルーダは、アルティマモップに跨った青子が急接近した事に驚いていた。
そこへ、

「フッ、どうやらテメーの運もそこまでのようだな……!」

苦しい息の下で快斗がにやりと微笑んだ瞬間、

どーーん!!
どーーん!!


「ぐはっっ!!」

ディムグレイガルーダにムーンマグナムを撃ち、首から手を離させた。

「くっ、こ、小癪なあ!!」

顔をゆがめるディムグレイガルーダ。
そこへ、

「快斗ーーーーーっっ!!」

ドガアーーーーーンッッ!!

「ぐ……が……!!」

アルティマモップに跨った青子がディムグレイガルーダに猛突進し、はるか先の埋立地へと豪快に跳ね飛ばした。



「ディ、ディムグレイガルーダ様!!」
「おのれ小娘ーーーーっっ!!」


跳ね飛ばされて激高したマッドシーガルがバルチャーボーンと共に飛び立とうとした時、

「そうはさせない!」
「あちらへは行かせませんわ!!」

ざくっっ!!
ばしゅっっ!!


「ぐはっっ!!」
「ごはあーーっっ!!」


レオンがミョルニルハーケンを投げて、マッドシーガルの翼を切り落とし、落下させた。
桐華もクイーンビュートから炎を吹き出し、その力でバルチャーボーンを火達磨にする。

そして、戻って来たミョルニルハーケンを再び手にしてハイジャンプし、

「ロイヤルスプラッシュ!!」

がしゃっっっ!!

「ご……はあ……っっ!!」

マッドシーガルの脳天にミョルニルハーケンを打ち込んだ。
瞬間、

ドカーーーーーンン!!

マッドシーガルは大爆発した。


「さあ、あの世にお逝きなさい!フレイムブレイク!!

バシイッッッ!!

「キィーーーーーッッ!!」

桐華が炎のクイーンビュートをバルチャーボーンに振り下ろした。
と同時に、

チュドーーーン!!

バルチャーボーンは木っ端微塵に砕け散った。


「マ、マッドシーガル、バルチャーボーン!!」

まさかの急展開に動揺するテラーストーク。
そこへ、

「さっきはよくもやってくれたわね!!」

恵子がテラーストークに狙いを定めて、ストリームボウを身構えた。

「おっ、おのれえ!!」

テラーストークは再び飛び立とうと翼を広げる。
が、

「ストリームショット!!」

グサッッ!!

「ごふあっっ……!!」

恵子がいち早く光の矢を放ち、テラーストークに命中した。

「ぐ……そ、そんなバカ……な……!」

ドカーーーーーンン!!

テラーストークは木っ端微塵に吹き飛んだ。

「……あとは頑張って、青子!」

恵子は上空へと向かった青子への応援の言葉を投げかけた。


「なっ、なんと!?」

マッドシーガルやバルチャーボーン、テラーストークがやられた事に驚くキラースワン。

「今だ!フォースウェポンセットアップ、スターロード!!

キラースワンの羽根爆弾を避け続けていた探は、一瞬の隙を利用し、足下の魔法陣から現れたスターソードを装備して身構えた。

「くっ、このお!!」

キラースワンが翼を展開して、羽根爆弾をマシンガンの如く発射した。
だが、

「てえいっ!!」

探がスターソードを一振りすると、風が起こり、羽根爆弾を吹き飛ばした。
そして、

どがーーん!!
どがーーん!!


「がはっっ!!」

吹き飛ばされた羽根爆弾が、そのままキラースワンに返って爆発し、キラースワンは大ダメージを受ける。

「さあ、これで終わりにしましょう!」

探はスターソードを再び身構え、一気に駆け出した。
そして、

「スターブレイク!!」

バシュッ!!

「があっっ!!」

必殺技をキラースワンにヒットさせる。

「ぐ……が……お、おの……れ……。」

ドカーーーーーンン!!

キラースワンも木っ端微塵に爆散した。


「青子さん、紅子さんを宜しくお願いします……!」

探は祈るような気持ちで上空を見つめた。




「快斗、大丈夫!?快斗!!?」
「ハア、お陰で助かったぜ……。」
「良かった……。」

安堵する青子。

「それよりも紅子と風吹を助けに行ってくれ。俺はもう大丈夫だ。」
「うん、わかった!」

青子は快斗から離れ、一目散に紅子達の所へと飛び去った。

「しかし、空飛ぶモップなんて、アレを作った初音さん、相当センスがぶっ飛んでるな……。」





「ええい、逃げるなあ!!」
「くっ!!」

ダーククラウンの追跡から逃げている紅子。
敵は攻撃魔法を吸収して倍返しにするため、紅子は攻めあぐねていた。
そこへ、

「紅子ちゃあーーーーんんっっ!!」
「えっ、あ、青子さん!?」

紅子は、モップに乗って飛んできた青子に思わず面を食らう。

「なっ、なんだアレは!?」

ダーククラウンも同様に驚き、紅子の追跡を止めてしまう。

「大丈夫、紅子ちゃん!?」
「え、ええ……。」

命拾いした紅子だが、モップの方に眼がいって、そこまで意識が回らなかった。

「貴様、そのようなふざけたモノに乗って、この我輩と戦おうというのか?」
「そうよ、悪い?」
「そうか。なら、死ねえい!!」

ヒュンヒュン!!

ダーククラウンは、頭の冠羽を青子に向けて発射した。

「青子さん!!」
「なんのおっ!!」

青子はアルティマモップに跨ったまま回転する。
そして、

「とりゃあーーーーっっ!!」

何と、地上にいる時と同様に、アルティマモップを自在に振り回して、冠羽を次々と叩き落した。

「ええっ!?」
「そ、そんなバカな!?」

一様に驚く紅子とダーククラウン。
なぜなら、青子はアルティマモップに跨らずに、両手に持っているだけで高高度浮遊しているからだ。

青子はそこをすかさず、

「えーーーいっ!!」

バキッッ!!

「ぐおわあっっ!!」

アルティマモップでダーククラウンを叩き飛ばした。

「す、凄い……。」

アルティマモップの威力に改めて息を呑む紅子。



「な、何だアレは!?」
「おお、青子殿!!」

風吹との空中バトルを繰り広げていたヘルズブーボーが、浮遊してバトルをする青子に驚く。
かたや風吹は、戦闘が押され気味だった事もあり、安堵の表情を見せた。
そこへ、

「えーーーーいっ!!」

バキッッ!!

「ごふわあっっ!!」

青子が急接近して、ヘルズブーボーを叩き飛ばした。


「風吹ちゃんも大丈夫!?」
「いやいや、お陰で助かったでござるよ、青子殿。」
「ああ、良かった。」

一安心する青子。

その時、

「おのれ小娘えーーーーっっ!!」
「許さあーーーーんっ!!」


激高したダーククラウンやヘルズブーボーが、青子に向かって飛び掛った。
だが、

「そうはさせませんわ!フォースウェポンセットアップ、クリムゾンウィッチ!!

紅子がウェポン召喚言語を唱え、頭上に出現した魔法陣から降下した魔法の鎌・ディメンションサイズを掴んだ。
そして、魔法の箒を飛ばして、

「ディメンションリーピング!!」

ザクッッ!!

「ご……は……!!」

ダーククラウンとのすれ違いざまに、ディメンションサイズで横一刀両断にする。
瞬間、

ドカーーーーーンン!!

真っ二つになったダーククラウンの体はそれぞれ大爆発した。


「な゛っ、ダーククラウンが!!」

驚愕するヘルズブーボー。
そこへ、

「伊賀忍法奥義・彗星斬!」

ぐさっっ……!!

「ぐふっ……!!」

上空から降下した風吹が、ヘルズブーボーに南十字星を突き刺した。
同時にヘルズブーボーの全身が氷結していく。

「こ、こんな……こと……が……!!」

ガシャーーーーン……!!

氷結したヘルズブーボーはガラスの如く粉々に砕け散った。


「はー、な、何とかやりましたわね……。」
「さすがに空中戦はキツイでござるよ……。」

疲労の色が見える紅子と風吹。

「いや、ホントにご苦労だったな、紅子、風吹、そして青子。」

ねぎらう快斗。

「ありがと。ところでもうこれで終わりかな?」
「いや、まだ最後の後始末が残ってるぜ、ホレ。」
「え?」

見ると、

「おーーーのーーーーれーーーーーっっ!!!」

ディムグレイガルーダが、鬼のような形相で埋立地から再び飛んで来た。

「くっ!」
「まだやりますか!?」

身構える風吹と紅子。
だが、

「わりぃけど、もうオメー等は離脱しろ。」
「えっ、でも相手はロイヤルドールですわよ!?」
「二人だけでは危険でござる!!」
「大丈夫だって、紅子ちゃん、風吹ちゃん。青子と快斗がいれば、あんなのお茶の子さいさいだもん。」
「ハハハハ、すげー自信だな……。」

苦笑する快斗。

「では、ここは二人にお任せしますわ。」
「健闘を祈るでござる!!」

紅子と風吹は、後の事を二人に託し、降下していった。


「貴様等、ぶっ殺してやる!!!」

激高して、乱暴な言葉遣いになるディムグレイガルーダ。
が、

「へっ、やれるもんならやって見やがれ、この焼き鳥野郎!!」
「なっ、何い!?」
「アンタなんかぺぺぺのぺーだ!!」
「ぐぐぐぐ……くかあーーーーーーっっ!!」

怒りで完全に我を忘れたディムグレイガルーダが快斗や青子に襲い掛かる。
だが、

「ていやあーーーっっ!!!」

バキッ!!

「ぐはあっっ!!」

青子が振り回したアルティマモップが、ディムグレイガルーダの顔面にヒットする。

「とおっ!やあっ!!たあっっ!!!」

ドガッ!
バキッッ!!
グシャッッッ!!!


「ゲハッ!ぐほっ!!ごがあっっ!!!」

青子はディムグレイガルーダに次々とアルティマモップを打ち込んでいく。

「あ、青子凄すぎ……。」

さすがの快斗も、青子の勢いに脱帽する。





「あっ、降りてきましたわ!」
「行きましょう!!」

お台場海浜公園のおだいばビーチに降下してきた紅子と風吹に駆け寄る一同。

「紅子さん、風吹!!」
「大丈夫ですか!?」
「ええ、なんとか。あ……。」
「おおっと!」

疲労で倒れかけた紅子を抱きとめる探。

「いやいや、本当によく頑張りましたね。」
「ありがとう、探さん……。」

ちょっとラブラブな雰囲気になる二人。


「ハア、うらやましいでござるな。拙者も主殿に……。」

疲労困憊で座り込んでいる風吹がそう思った時、

「大丈夫だったか、風吹さん。」

手を差し伸べる者が。

「あ……主殿!!」

顔を上げた風吹は、たまらず陽介の手を握る。

「拙者をわざわざ労いに来て下さるとは、超感激でござる!!!」

感涙する風吹。

「ハハハハ……なんて大げさな。でも、ちょっぴり羨ましいかも……。」

呆れながらも、少し寂しげな恵子。
その時、

「白馬君、みんな!!」
「大丈夫だった!?」

渉と美和子が、ライフリボルバーを手に、探達の所へやってきた。

「あっ、佐藤警部に高木警部補!」
「なぜそこもと達が?」
「たまたまフジサンテレビにミュージックアフタヌーンの見学に来てたら、この騒ぎに巻き込まれたのよ。」
「で、俺と佐藤さん、陽介さんとで避難誘導をしてたんですよ。」
「それが一息ついたので、俺達も合流したって訳さ。」
「なるほど。」

納得する探。

「さあ、後はあいつだけだ!みんな、気を抜くなよ!」
「分かったでござる!」

陽介の檄に頷く風吹。

「先の戦闘でダメージを食らったメンバーは、後方支援に。俺は空中戦が出来ないが、あの野郎がイーグルウィングの射程に入ったらすかさず攻撃する!高木警部補と佐藤警部も、よろしくお願いします!」
「OK、分かったわ!」
「ライフリボルバーの圏内に入ったら、すかさず撃ちます!」
「主殿……心遣い、嬉しいでござるが。拙者の事など、気に留めて下さるな。拙者も充分、戦えるでござるよ!」
「……風吹さん……まあ、無理がない程度にね。」
「合点!」

皆、残る敵が1体と思い、総力戦の構えを取った。

と、その時、

「!」

陽介が何かに気付いたかのように、海面を見る。

「如何したでござるか、主殿?」
「あの中に……何かがいる!!」
「な、何と!?」

イーグルウィングを身構える陽介に驚く風吹。

「高木君!」
「はい、佐藤さん!!」

海面にライフリボルバーを向ける佐藤警部と高木警部補。

「ちょ、ちょっと、冗談じゃないわ!もう私、バトルするだけのエネルギーが……。」
「いや、恵子さん。陽介さんもいるし。それに、シャドウファイタークラスのドールなら、佐藤警部、高木警部補でも倒す事が出来ますよ。」
「ああ、それならいいんだけど。」
「でも何やら嫌な予感が……。」

紅子は不安げに海面を見つめる。




「とうりゃあーーーーっっ!!」

バキイッッ!!

「がはあっっ……!」

ディムグレイガルーダに更なる一撃を食らわせる青子。

「よし、次でケリをつけるぜ、青子!」
「了解!」

フォースウェポンを改めて身構える快斗と青子。

「ぐっ、お、おのれ……!」

屈辱で身を震わせるディムグレイガルーダ。

と、その時、

「くあーーーーーーーっっ!!」

海面から何かが飛び出し、

ドーーーーーン!!

何かを発射して再び海中へと潜った。



「なっ、あ、アレは!?」
「青子、危ない!!」

突然の事態に驚く一同。



「青子、危ねえ!!」
「ハッ!?」

青子が反応する前に、快斗がすかさずハンググライダーを動かし、青子を抱きかかえるようにしてその場を離れた。
間一髪、

ギュイーーーン!!

水流弾の様なモノが通過した。

「ちょ、ちょっと何今の!?」

眼を丸くする青子。

「下の海中にまだ何かいる!そいつが撃ちやがった!!」


「おお、アレは!!!」

一転して歓喜の表情になるディムグレイガルーダ。


「ねえ、やっぱりあの海の中に何かいるわよ!」
「しかも何か、デカかったでござる!!」

新たなる突然の事態に血相を変える恵子と風吹。

その時、

どーーーーん!!

海中から何かが勢い良く飛び出してきた。

「や、やばい!!こっちに来るぞ!!!」
「高木君、みんな退避して!!」

佐藤警部の指示でその場から駆け出す一同。
直後、

ズドーーーーーン……!!!

海中から飛び出してきた何かが、地響きを立てておだいばビーチに着地し、

「くあーーーっ、くあーーーーーーっ!!」

フリッパー状の翼を広げて野太い鳴き声をあげた。


「な……なにアレ……?」
「ペ……ペンギン……ですよね?」

佐藤警部と高木警部補は、目の前にいる身の丈5mはあろうかと思われる首と嘴がやや長い異形の超巨大ペンギンの姿に度肝を抜かれる。

「ペンギンじゃないわっ!顔が可愛くない!」

思わず、場違いな事を叫ぶ恵子。

「アレは……ジャイアントペンギン!」
「ジャイアントペンギン!?」
「何ですか、それは?」

探に尋ねるレオン。

「ジャイアントペンギンは、今から4000万年前に実際に生息していた文字通り巨大なペンギンです。ですが、身の丈は人間よりやや低い程度で、あんな巨大なのは……。」
「しかも、水流弾まで吐いてたんだから、どう見てもシャドウドールじゃない!」
「なら、倒すまでの事だ!」

イーグルウィングを身構える陽介。

「私達も行くわよ、高木君!」
「ハイ、佐藤さん!!」

再びライフリボルバーを身構えて散開する二人。

が、巨大ペンギンはそれらに見向きもせずに再び首を上げ、

「くあーーーっ!!」

ズドーーーーーン……!!!

水流弾を発射した。


ギュインッッ!!

「ひゃあっ!!」

ギュインッッ!!

「おわあっ!!」

眼下の巨大ペンギンが発射する水流弾を次々と避ける青子と快斗。


「こっ、このお!私達を無視するなんて!!こっち向けえ!!」

ドキューーンッッ!!
ドキューーンッッ!!


激高した佐藤警部は、高木警部補と共にライフリボルバーを巨大ペンギンに向けて発射した。
だが、

「えっ!?」
「う、うそお!?」

ライフブレッドは巨大ペンギンに弾かれてしまう。

「なら、これならどうだあ!!サイコスラッシャー!!!

陽介がジャンプしてイーグルウィングを投げた。

グサッッ!!

「よしっ!!」

イーグルウィングが巨大ペンギンの頭に命中して、ガッツポーズをとる陽介。

「さすがは主殿!」
「陽介さん、やるう!!」

称える風吹と恵子。

だが、

「フッ……その程度の攻撃で、このハイドロアンスロポルニスを倒そうというのか……。」

巨大ペンギンは、頭に刺さったイーグルウィングを翼で払い落とした。

「なにっ!?」

攻撃が効かない事に驚く陽介。
そして、

「なっ、何アイツ!?」
「傷口を修復してるでござる!!」
「って事は、あのドールは……!」
「シャドウロード……!!」

ジャイアントペンギン型のシャドウロード・大型暗黒潜水鳥ハイドロアンスロポルニスを前に、最悪の展開になった事に戦慄する一同。



「さあやれ、ハイドロアンスロポルニスよ!!そいつらを皆殺しにしろ!!!」
「了解。くあーーーっ!!」


ズドーーーーーン……!!!

ディムグレイガルーダの命を受け、ハイドロアンスロポルニスは陽介や探達に向けて、水流弾を発射した。

「危ない、逃げろ!!」

陽介が血相を変えて叫ぶ。
それに応じて逃げる一同。
直後、

ドカーーーーーンン!!

水流弾が炸裂するが、一同は退避していた為、無事だった。

ズシン、ズシン……。

ハイドロアンスロポルニスは、大きな足音を立てながら、進撃を開始した。


「くっ、このお!!」
「あっ、桐華さん!」

怒った桐華は、ハイドロアンスロポルニスを炎のクイーンビュートで打ち据えようと飛び掛った。
だが、

パクッ。

「えっ!?」

ハイドロアンスロポルニスは炎をものともせずにそれを嘴で銜えた。
そして、

どんっっ!!

「あうっ!!」

そのまま桐華を砂浜に打ち付けた。

「き、桐華さん!!」

青ざめるレオン。

「くあーーーっ!!」

ハイドロアンスロポルニスは嘴を桐華に向け、水流弾を撃とうとする。

「ぐっ……!」

桐華はダメージで動けず、歯噛みしてハイドロアンスロポルニスを睨みつける。



「桐華さん!」

危険を察知した青子は、すぐに助けに出向こうとアルティマモップに跨って降下しようとした。
だが、

「そうはさせんぞ!ハアッッ!!」

ズドーーン!!

ディムグレイガルーダが嘴から魔力弾を撃って妨げた。

「ひゃあっ!!」

すかさず避ける青子。



「桐華さん、危ない!」
「でっ、殿下!!」

駆け出すレオンに真っ青になる高木警部補。


ズドーーーーーン……!!!

ハイドロアンスロポルニスが桐華に向けて水流弾を発射した。
だが、

ドガーーン!!

「……!?」

レオンが桐華の前に立ちはだかり、身代わりになって水流弾の直撃を食らい、

「ぐ……は……!!」

そのまま仰向けになって倒れた。

「い……いやあーーーーーーっっっ!!」

目の前の事態に絶叫する桐華。

そして更に、

ばしっっ!!

「あうっっ!!」

ハイドロアンスロポルニスは翼で桐華を払い飛ばし、

どすっっ……。

「ぐはあっ!!」

右脚でレオンを踏みつけた。

「き、桐華殿!!」
「レオン殿下!!!」

更に顔が真っ青になる風吹と恵子。

「な、何と言う事だ……。」
「こ、こんな事って……。」

さすがの探や紅子も動揺を隠せない。

「さ、佐藤さん!」
「くっ、どうすれば……!!」

シャドウロードに苦慮する渉と美和子。

「俺にも光の力があれば、こんなヤツ……!」

陽介も歯噛みする。


「ど、どうしよう、このままだと王太子様が……!」

レオンを助けに行くか、ディムグレイガルーダを倒すかで悩む青子。
その時、

「さあ、ハイドロアンスロポルニスよ、そやつに止めを刺せ!」

青子や快斗の前に立ちはだかるディムグレイガルーダが更なる命を下した。

「まっ、待てーーっ!!」
「ハッ、だ、ダメーっ!!」

絶叫する快斗と青子。


「「「「「「「で、殿下!!」」」」」」」
「殿下……!」
「桐華さん……!」

もうダメかと思われたその時!


「ていやあーーーーーっっ!!!」

バキイッッッ!!

「くああーーーっ!!」

レオンを踏みつけていたハイドロアンスロポルニスを、何者かが棒のような物で叩き飛ばした。


「えっ!!?」
「なっ、何今の!?」

巨大なハイドロアンスロポルニスが軽々と吹き飛んだ事に驚く風吹と恵子。

「あっ、あの方は!?」
「ま、まさか!?」

その者を見て、渉と美和子も驚く。

「あ、あなたは……。」
「もう大丈夫よ、レオン。」
「は、晴香さん……!」

その女性――高千穂晴香警視は、優しい瞳で応えた。



「な……何だあの女は!?」

驚くディムグレイガルーダ。

「ああ、良かった。」

レオンが無事でホッとする青子。

「福岡県警の高千穂晴香警視、結構強えなあ……。」

その凄さに脱帽する快斗。



「しっかりして、レオン。今治してあげるから。」

晴香はレオンの体に右手を軽く乗せ、

「大地を司るオオヤマツミよ、汝の力をもって癒したまえ……。」

との詠唱をした。
すると、

「あ……。」

高千穂警視の右手から発せられる光で、レオンは見る見るうちに癒えてゆく。

「す、凄い……!」

晴香の力に目を見張る陽介。

「あの方はもしや……。」
「あの力、間違い無さそうですわね……。」

晴香の力を見て、何かに気付く探と紅子。

「どう、立てる?」
「は、はい、おかげ様で……ハッ、そう言えば桐華さんは!?」

傷が癒えたレオンは、桐華を心配して立ち上がる。

「桐華さんなら大丈夫よ!」
「安心するでござるよ!!」
「で、殿下……。」

恵子と風吹に介抱されながら、桐華はレオンに向かって微笑んだ。

「ほっ、良かった……。」



「ええい、何をしている、ハイドロアンスロポルニスよ!その女を抹殺しろ!!」
「くあーーーっ!!」


ズドーーーーーン……!!!

ハイドロアンスロポルニスは晴香に向けて、水流弾を発射した。
が、

「てえいっ!」

バシュッ!!

伊邪那岐の沼矛を振り回して、これを弾き散らした。

ズドーーーーーン……!!!
ズドーーーーーン……!!!


「てえいっ!やあっ!!」

バシュッ!!
バシュッ!!


晴香は連射される水流弾を、次々と弾き散らしていく。

「ちっ!鬱陶しいヤツね、一気に決めてやるわ!!」

晴香は伊邪那岐の沼矛の刃に手を載せ、

「大地を司るオオヤマツミよ、汝の力をもって敵を封じよ!!」

と詠唱するや、伊邪那岐の沼矛をハイドロアンスロポルニスに向けて振り上げた。

すると、

がしっっ!!

「くあーーーっ!!」

砂浜から、砂の綱が現れ、ハイドロアンスロポルニスを縛り上げた。


「うっわー、凄い!」
「光の力も無いのに、シャドウロードに対してあそこまで互角に戦えるとは!!」

更に目を見張る恵子と風吹。


晴香は伊邪那岐の沼矛を砂浜に立て、

「雷を司るタケミカヅチ、大地を司るオオヤマツミ、海を司るオオワタツミ、炎を司るヒノカグツチよ、汝等の力をもって敵を殲滅せん!!」

との必殺技発動言語を詠唱する。
すると、

「あ、アレは!?」

伊邪那岐の沼矛に力が集まるのを見て驚く高木警部補。

そして、晴香は伊邪那岐の沼矛をかまえ、

「とおっ!!」

一気にハイジャンプし、

「天津神大豪突!!」

グサッッ!!

「くああああーーーーーーっっ!!」

伊邪那岐の沼矛をハイドロアンスロポルニスに突き刺した。


「よしっ!!」
「やったあーーーっっ!!」

勝利を確信し、ガッツポーズをする一同。


「ひ、光の力を持たぬお前がここまでやるとは、い、一体何……も……の……。」

ドッガーーーーーン!!

ハイドロアンスロポルニスは木っ端微塵に爆散した。

「別に何者でもないわ。私は高千穂晴香。ただそれだけよ。」

伊邪那岐の沼矛を掴んだ晴香は、そう呟いた。




「そ……そんな……そんなバカな!?光の力を持たぬ者が、シャドウロードを倒すとは!!?」

予想外の事態に動転する、ディムグレイガルーダ。

そこへ、

「さあて、今度こそテメェの番だぜ。」
「みんなを痛めつけたお礼をたっぷりしてあげるわ!!」

快斗と青子が武器を身構えて凄んできた。

「ひいいっっ!!」

ディムグレイガルーダは二人の威圧感ある怒りを受け恐怖を感じ、そのまま飛び去ろうと踵を返した。
だが、

「そうは行かないわ!海を司るオオワタツミよ、邪悪なるモノを止めよ!!

おだいばビーチ上の晴香が、伊邪那岐の沼矛を海に向けて振り上げる。
すると、

バシャアッ!!
バシャアッ!!
バシャアッ!!


「ぐわあっ!?」

何と今度は海から水が次々と吹き上がり、それらがディムグレイガルーダを拘束した。

「ええい、はっ、離せえ!!」

もがくディムグレイガルーダ。


「すまねえ、高千穂警視!さあ、これで最後だ!!ムーンライトシュート、セットオン!!

快斗がムーンマグナムの照準をディムグレイガルーダに合わせた。
そして、

「いっけえーーーーーっっ!!」

ドキューーーーーン!!

光の銃弾が勢いよく火を噴き、

ドゴーーーン!!

「ぐはあっっ!!」

ディムグレイガルーダに命中した。


「いいぞ、快斗くーん!!」
「さすがでござる!!」
「そのままやっちゃえーーーっっ!!」

全力で声援を送る一同。

「青子!」
「了解!マジカルデリート、セットアップ!!

青子が必殺技発動言語を唱えると同時に、モップヘッドが回転を始める。

「ちょ、ちょっと待て、や、やめろーーーっっ!!」

必死に命乞いをするディムグレイガルーダ。
だが、

「問答無用、てえええええええいっっっ!!」

ガガガガガガ!!

「ごふあっっっ……!!!」

回転モップヘッドの直撃を食らって胴体が横真っ二つに割れたディムグレイガルーダは、そのままお台場の海へと真っ逆さまに落ちていった。


「や……やったあーーーー!!」
「やったでござる!!」
「さすがですわ、青子さん、黒羽君!!」
「二人共、本当に頑張りましたね。」

もろ手を挙げて二人を称える江古田組。

「やりましたわね、殿下……。」
「いやいや、本当に大したものですよ。」

桐華とレオンも二人の健闘を喜ぶ。

「いっやあー、あの二人なかなかやるじゃないですか。」
「とても立派だったわよね。」
「全くですね。」

高木警部補や佐藤警部、陽介も大いに感心する。

「正にグランマザーが言ってた通りの大活躍っぷりね。」

高千穂警視もご満悦の模様。



「ふー、やれやれ……。」
「なんか疲れちゃったねー……。」

疲労感丸出しで、快斗と青子がおだいばビーチに降下してきた。

「青子ーーっっ!!」
「快斗殿ーーっっ!!」

二人の元に、恵子と風吹が駆けつけて来た。

「凄い、凄いよ、あんた達!!」
「最高でござるよ、お二方!!」

恵子と風吹は、歓喜のあまり快斗と青子に抱きついた。

「この短期間に、よくもまあこれだけ成長したものでござるよ。」

風吹が興奮したように言った。

「普通は、高校生にもなってまだ目覚めぬ者は、無理なのでござるが……。マジックアイテムの力を借りたとしても、大したものでござる。」

風吹の言葉に、一同は(魔法を元から知っているメンバーを除いて)驚いていた。

「え!?そ、そういうものなの!?」
「そうだよ、俺達も幼い頃からどれだけ修業を積んでいる事か。服部警視長も、レオン王太子殿下だって、例外じゃないんだぜ。」
「たとえ潜在能力に優れていても、普通は有り得ませんわ。ある程度の年頃まで発揮されなかったその能力は、死ぬまで発動される事がない筈ですのよ。」

陽介と紅子が、言葉を継ぐ。

「じゃあ、マジックアイテムの力を借りて、普通は発動しない筈の力を発動させるようになったのが、我らC−Kジェネレーションズという訳なんですね?」

探が言う。

「拙者達アルファトゥオメガに編入ではなく、別チームを作ったのは、それが理由と聞いているでござる。ただ、どうもそれだけではないような気が……。」
「と言うと?」
「普通は有り得ないのでござるが、C−Kジェネレーションズの場合、進化をしているような……。」
『えっ!?』

一同が驚き、更に風吹に詳しく聞こうとした、その時。

プルルル、プルルル……。

いつのまにか、キッドの扮装を解いていた快斗の携帯が鳴り始めた。

「黒羽君、君、着信音は初期設定のままなんですか?」
「うっせーな!もしもし?ああ、くど・・・コナン君か。」

高千穂警視がその場にいる事を考えて、快斗は途中で呼びかけ方を変えた。
そして、携帯のスピーカーをオンにした。

『今、現場に向かってんだが、そっちはもう戦闘が終わったみてーだな。』
「ん?ああ、そうか。もう、見える所まで接近してんだな。」

快斗が海の方を見ると、皆それにならって、同じ方を向いた。
海からは、警備艇らしき船が近づいて来ているのが見える。

『それにしても、誰かすげえ技、隠し持ってたんだな。俺達の出る幕もねえ位に。』

今度は、式神新一の声が、携帯から聞こえた。

「ああ。あれは、Cジェネでもアルファトゥオメガでもねえよ。」

会話を交わしている間に、船は近付き。
そして、海上バス発着所の桟橋に着岸した。


船から、少年探偵団達と、帝丹組のメンバーが降りて来る。


「青子ちゃん、みんな!無事だったのね!」

真っ先に駆けて来て、青子に抱きついたのは、蘭であった。

「青子お姉さん、すっごーい!」
「あの、でっかい鳥を、まっぷたつにやっつけるところ、見てたぜ!」
「あのモップ、空も飛べたんですね!」

少年探偵団の3人が、興奮した口調で、口々に言った。

「あの、海水が盛り上がる技は、一体誰が……?」

式神新一が、問いかける。

「そちらにいる、お姉さんだよ。確か、高千穂晴香さんと名乗ってたかな?」
「……!福岡の、特殊能力捜査課の高千穂警視か!……って、オメーも知ってるクセに、空っとぼけんなよ。」
「新一達は、何で知ってるの?」
「そりゃまあ。この活動を始めるに当たって、その位は調べてるさ。」
「……なのに、何で私達には、教えてくれない訳?」
「教えても良いけど。多いぞ。覚えられるか?」
「う゛……。」

式神新一の意地悪いもの言いに、反論出来ず、蘭は押し黙る。

「けど、すっごい美人よねえ、蘭!」
「うん、そうだね。佐藤刑事……いや、佐藤警部と、同じ位……。ね、新一?」
「あん?そうか?」
「工藤。俺とオメーは、顔は似てても、こういうとこは全然違うなって思うぜ。すっげー美人じゃん。」
「あら、嬉しいわ。ありがとう。」
「おわあっ!?」

いつの間にか、高千穂警視がすぐ傍にいたので、一同飛び上がって驚く。

「成程、特殊能力捜査関係の刑事の中には、マジックギルドのメンバーがいるとは、聞いていたけど……あなたがそうなのか?」
「わたし、紙と口を利く趣味はないんだけど……。」

『わあああっ!』

式神の事を知っている面々が、慌てふためいて晴香の口を塞ごうとした。

「カミトクチキク?何の呪文ですか?」
「あ、きっと、新一お兄さんが推理の神様だから、神様とお話しするのがおそれ多いって事なんじゃない?」
「お、歩美、オメーすげー物知りだなー。」
「は、はははは……。」

少年探偵団の言葉に、コナンが乾いた笑いを洩らした。

「ああ、なるほど。このオチビちゃん達への配慮か。じゃ、今度からは配慮する事にするわ。」

高千穂警視が涼しい顔で言った。

「この人……服部警視長と通じるものを感じるわ……。」
「へっ?魔法の力の事か、灰原?」
「違うわ、図々しいところよ!」
「ははは……(目くそ鼻くそを笑うとは、よく言ったもんだぜ……。)。」

コナンが呆れる。

「あ、そう言えば……。」
「どうしました、元太君?」
「この周辺、人が全然いねーな。」
「そう言えばそうねー。」

探偵団がふと疑問に思った時、

「ああ、それなら、この周囲の半径2qから避難する命令が出たから、初音が解除しない限り、まだこのままよ。」

と美和子が説明する。

「なるほど。」
「住之江公園の時といい、割とスムースにいくものなのね。このテの話は、そう簡単にいくものでもないのに。」
「それだけシャドウエンパイアが、人々の間に恐怖対象として認識されてるって事だな。」

と、その時。

「!」

ふと何かを感じ取り、海の方を向く。

「どうしたの、コナン君?」
「蘭姉ちゃん、気をつけて。あそこに何かの気配が!!」
『ええっ!?』

驚く一同。

「ちょっと待って!さっきのお化けペンギン見たいのがまだいるってーの!?」
「いや、この感じはあのお化けペンギンの比じゃねえ!」

快斗が恵子にそう言ったその時!

ざばあーーーーん……。

海から何か岩のようなものが浮上し、

「くわあーーーーっ、くわあーーーーーっっ!!」

との雄叫びを上げた。


「なっ、何アレ!?」
「でっけえパックンガメだな!!」
「いや、アレどう見てもゴメラですよ!!」

海から浮上した大きなワニガメ型の怪物にざわめく探偵団。

「あの怪物ガメ……。」
「ああ、間違いねえ、アレはロイヤルドールだ!!」
『!』

一同の間に、一気に緊張の度合いが増す。


「じょ、冗談じゃないわよ!今さっきようやく苦労してロイヤルドール達を倒したというのに!!」

顔面蒼白の恵子。
が、

「安心しな、恵子さん。まだ俺達がいるぜ。」

式神新一が落ち着かせる。

「そうですよ!僕達はまだバトルしてないから、エネルギーは十分あります!」
「みんなで力を合わせれば、あんなお化けガメなんてイチコロよ!!」
「そうだそうだ!」

士気を鼓舞する探偵団。

「だから安心して良いのよ、恵子さん。」
「ここは私達が!」
「みんなを守るわ!!」

哀や園子、そして蘭がみんなを守るかのように身構える。

「俺達も手伝います!」
「みんなが頑張ってるのに、ただ突っ立ってる訳には行かないものね!!」

渉と美和子も、再びライフリボルバーを構える。


そこへ、

「ほほう、なかなか勇ましいな、C-Kジェネレーションズ、そしてアルファトゥオメガよ。」
『!』

大ガメが話しかけてきた。
これに警戒する一同。

「そなたは何者でござる!!」
「ワシの名は暗黒亀神アイアンスナッパー。シャドウエンパイアのロイヤルドールなり。」
「やっぱそうだったか!」
「また大幹部が現れるとはな!!」
「一体何の用なの!?」

佐藤警部がライフリボルバーをアイアンスナッパーに向けながら、鋭く問い質す。

「ワシの背中におるこの愚か者を拾いに来ただけだ。」
「ぐ……。」


見ると、アイアンスナッパーの背中に、青子との戦いに敗れて海に沈んだディムグレイガルーダの上半身が載っていた。

「見た所、まだ生きてるみてーだな。」
「やっぱりロイヤルドールは、一筋縄ではいかないか……。」

「き、貴様等……今度会った時には、全員皆殺しに……。」
「と、言う訳だ。今回は貴様等の健闘に敬意を表して、これにて失礼する。」


そう言ってアイアンスナッパーは、ディムグレイガルーダと共に海中へと潜って行った。

『……。』

一同は黙ってこれを見送った。

江古田組が先ほどのバトルで疲労困憊だった為、戦いを敢えて避けたのである。






「あ、ねえねえ。そう言えば、怪盗キッドはどこ行ったの?」
『!』

沈黙を破るかのような歩美の問いに思わずハッとなる一同。
少年探偵団の3人はキッドの正体を知らない為、一同はどう説明しようものかと苦慮したが、

「ああ、キッドなら降下した直後に、さっさとどっかに行ったぜ。後の事は頼むって。」

当の本人の快斗があっさりと答える。

「なるほど、いかにC-Kジェネレーションズに協力したといっても、泥棒である以上高千穂警視達に逮捕される恐れがありますものね。」
「キッドを取り逃すなんて怠慢だぞ、高木、佐藤警部。」
「「は、ははは……。」」

元太の突っ込みに、引きつった笑みを浮かべる高木警部補と佐藤警部。

「あら、じゃあ降下した直後に逮捕しとけば良かったかな。」
『!』

高千穂警視の言に、キッドの正体を知る者達は思わず固まってしまう。

「おいおい、冗談じゃねーぜ……!」
「この人、本気で言ってんのか、単なる遊びなのかわかんねーな……。」

快斗とコナンが、ジト目で高千穂警視に呆れていた。



  ☆☆☆



<オマケ>



「あーーっ!」

突然、桐華が、いつもに似合わぬ素っ頓狂な声を上げた。

「ど、どうしたんですか、桐華さん!?」

問いかける蘭。

「た、た、た、高千穂警視!そう言えばあなたは、先程レオン殿下を呼び捨てに……!どういう事ですの!?」
『!』

桐華の言葉に、一同耳をそばだてた。
先程の会話が聞こえていた者は「そう言えば」と思ったし、聞こえていなかった者やその場にいなかった者は「そんな事が」と驚いていた。

「えええ!?一体、何何!?」
「くふっ、スキャンダルの予感!」

園子と恵子が、目をキラキラさせて、見守っている。

「呼び捨て?ああ、したわね。わたしの未来の夫に。」
『げええええええっ!?』

これにはさすがに、一同全員、仰け反って驚いていた。

「なななな!?一体何を、あなたは!?」

レオンが真っ赤になって言った。

「妻が夫を呼び捨てするのは、当然の事だと思うわ。」
「ああああの。だから、私とあなたは、まだ出会ったばかりで……。」
「愛に、時間など関係ないわよ。」
『!』

一同は更に仰け反って驚き。
レオンは更に真っ赤になって頭から湯気を出し。
そして、桐華は。

「何を勝手な事を仰ってるの!?レオン王太子殿下の恋人は、この、ワタクシですわ!」
「恋人であって、妻ではないわよね。」
「な゛っ!?で、で、ですが!恋人がいるのに、別の女性と結婚なんて……!」
「パララケルス王国王室典範第三章12条。国王及び王位継承者は、王統保持の為に、正式な妻を複数持つ事が出来る。」
「えっ……!?」
「わたしは、第2第3の妻で、構わないわ。勿論、あなたが第1の妻でも、一向に気にしなくてよ。」
「な゛……、な゛……!」

あまりの事に、桐華は口をパクパクさせる。

「なあ、黒羽。知ってたか?」
「いんや。さすがに俺も、そこまでの知識はなかったなあ。」

式神新一と快斗が会話をする。
蘭達は、心配そうな表情で、成り行きを見ていた。

女性陣は勿論、気持ち的には、前からの知り合いである桐華の味方である。

桐華が、気持ちを奮い立たせながら、言った。

「で、で、でもっ!現国王陛下も、前国王陛下も、妻は王妃様お1人だけですわ!」
「ふっ。何をバカな事を。それ故に、王統が危うくなりかけたのよ。愚かな話よね。」
「な、何ですってえ!?」
「……わたしは、あなたにその器があるなら、第1の妻で気にしないと言ったけど。自分の恋心しか見えない狭量な女に、第1王妃になってもらうと、困るわね。パララケルス王国が。」
「うっ……!」

高千穂警視の言葉は、ある意味正論であったので、桐華は二の句が継げなくなる。

「ちょ、ちょっと待って下さいよ!まあ、その妻の数が法律で複数と認められているのは、置いといて。仮にも王妃として迎えられる為には、それなりの家柄が必要なんじゃないですか?」

高木警部補が、桐華の肩を持とうとして、別方向から反撃を試みる。

「おい、現王妃の服部優華さんって、多少は良い家柄でも、一応庶民じゃなかったか?」
「それは知ってるけど、ここで迂闊にんな事言うなよ。」
「ってか、おそらく高千穂警視もその事は知ってるだろうし、そこを突っ込まれるんじゃ?」

しかし。
反撃は、思いもかけぬ方向で行われた。

「ふふん。わたしはこんな事あんま言いたくはないんだけど、ミカエルグループだの財閥令嬢だのと言っても、所詮は成り上がり。わたしの家・高千穂家は、神話の時代まで家系が遡れる名門中の名門、明治維新後に貴族となった輩とは、家格が違うのよ!」
「ゲッ!!」
「ヒエッ!!」

さすがにこれには、また全員が驚いた。

「……もしかして、パララケルス王家より名門だったりして。」
「んな、九州の旧家のおひい様が、何で警察官なんかやってんだよ!?」
「さあ。趣味じゃねえのか?」

呆れ気味に快斗に話す式神新一。

「ふん!成り上がりが何だってのよ!鈴木財閥は、おじい様がその類稀な能力と努力で、一代で築き上げたものなんだから!成り上がりも、勲章よ!」

園子は、胸を張って言った。

(ははー。せっかく築き上げたものを、オメーが一代で潰さなきゃ良いけどな……。)

思わず、心の中で呟くコナン。

「私には、家柄がどうとか、そんなのは分からないけど。桐華さんは、能力も人柄も、そして容姿も素晴らしい女性なんだから、それで充分なんじゃないかと思うわ。」
「けど、その人柄が何だか狂わされてない?」
「そ、それはちょっと……心配だけど……。」

園子の指摘に、不安な面持ちの蘭。


「ちょっと、待って下さい!」

ようやくショックから立ち直ったレオンが、言った。

「パララケルス王家では、国民が認めたら、庶民の女性でも正式な王妃として迎える事が出来ます。昔と違い、今は立憲君主国なのですから。そして私は、この虎姫桐華さんを、心からあ、あ、愛しています!」
『おお!!』
「で、殿下……。」

一同から歓声と拍手が起こった。
はにかむ桐華。
しかし。

「まあ、だから。わたしは、レオンが桐華さんを妻にする事には、何の異も唱える気はないのよ。でも、わたしは絶対、あなたの妻になる。それは、覚えておいて。」
「な、何故ですの!?」

レオンの告白に立ち直った桐華が、再び高千穂警視に詰め寄った。

「何故って?簡単な事。彼とわたしとでは、霊気的和合に優れているから、良い子供が生まれる可能性が高い。そういう男性は少なくてねえ。探すのに苦労したわ。」
「霊気的に……じゃ、じゃあ、レオン殿下以外にも……たとえば、ここにいらっしゃるC−Kジェネレーションズやアルファトゥオメガのメンバーとか、あるいは高木警部補なんか……!」
「げっ!な、何で話をそっちに振る!?」
「あ、主殿は関係ないでござろう!?」
「ちょちょちょっと桐華さん!!?」

慌てふためく快斗と風吹、美和子。
今迄、桐華の味方をしていた筈の面々に、微妙な空気が生まれた。

「高木警部補はねー、そこまで霊力高くないけど。」
「ハア、さよですか……。」
「高木君、何残念そうな顔してるの?」
「えっ、い、いや別に、ただ単に霊力が弱いと言われて……。」

美和子にジト目で見られて、慌てふためく渉。

「まあ、単に、優れた霊気を持ってるだけでは駄目で、相性ってもんがあってね。それに、そこにいる子供なんか特にそうだけど……わたし相手にでは、子作りが出来そうにないんじゃない?」
「お、おい、ちょっと待て!それ以上は、表ではやばい!(何のかんの言って、青子以外駄目だって、見抜かれてんじゃん!)」
「……つーか、この姉さん、そこまで相手の本質を見てるのかよ?(蘭以外じゃ、無理だもんな……)」

快斗とコナンには、高千穂警視の言わんとしている事が一発で分かったが、幸か不幸か、他のメンバーはそこまで鋭くなかった。

「第2に。というか、こっちがメインだけどね。わたしは、レオンを愛している。」
『はああっ!?』

一同はまた仰け反った。
今日は一体何回仰け反る羽目になるんだろうと、コナンは頭の隅でちょっと考えていた。

「あ、あ、愛してるって!会ったばかりなのに!」
「あなたの存在自体は前に初音から聞いてたけど、さっき、パレットシティの自販機前で、実際に初めて会って、一目惚れしたのよ。その姿形にも、人柄にも、不器用な優しさにもね。レオンこそ、わたしが27年の生涯を送って、ついに見つけた理想の男!」
「……って、あなた……い、いえ、警視は、27歳だったんですか!?」

もっと若いと想像していた佐藤警部が、思わず驚きの声を出していた。


「おい。レオン兄ちゃんって、いくつだったっけ?」
「19歳ですよ。8歳差、随分姉さん女房ですね。」
「……コナン君と蘭お姉さんは、10歳差だよね……。」

歩美が、少し悲しげに眼を伏せた。

「だ、大丈夫ですよ、歩美ちゃん!蘭さんには新一さんという恋人が!」
「そうだぜ歩美、コナンが蘭姉ちゃんとひっつく事はねえって!」

そう言いながら、光彦と元太はコナンをギロリと睨んだ。

「おいおい……。」
「ははあ。もてて困りますねえ、色男!」

快斗がコナンの頭に手をおいて、ポンポンと叩き。
コナンがすかさず、思い切り蹴りをかました。
運動神経抜群の快斗なのに、その蹴りが入ってしまう。

「う、げほげほ。オメー本気で怒ったのか?」
「当り前だ、バーロ!新一の姿じゃなかった事を幸いに思え!」


Cジェネメンバーのささやかな内輪もめ(?)をよそに。
桐華は、レオンに寄り添って、更に言い募っていた。


「でも!殿下は、ワタクシを、ワタクシだけを、愛していると言って下さいました!あなたのような横取り泥棒ネコの年増女の入る余地は、どこにもありませんわ!」
「ふふふ。それはどうかしら?レオン、あなたも満更ではなかったわよね?」
「ええっ!?」
「……なっ!?」

レオンは思わずギクリとなっていた。

「ほ、本当ですの、殿下!?」
「い、いや、その、あの……。(み、見透かされている……?)」

父のレオ王や、叔父で養父のアストラ王のように、愛する女性はただ一人だけと、そしてその女性は虎姫桐華だと、心に決めていた筈だった。
しかし、目の前のこの女性は、確かに、そして既にレオンの心に忍び込んでいた。

「でも高千穂警視。アンタは天津神を信奉する高千穂家の神子、それも、俺達光の勇者が二人がかりでようやく破壊できるシャドウロードを、たった一人で倒した程の実力を持つ所から宗家当主級と見ていい。言わば次期当主候補とも言うべきアンタが異郷の男に恋して大丈夫なのか?」
「そうですわ!あなたがレオン殿下に恋する事は、長きに渡る高千穂家の天津神への祭祀を次期当主候補自らが破棄する事になりますわよ。それは正に、あなたの力の源である天津神への最大の裏切りではなくて?」

式神新一の問いに続くように、晴香に鋭く問い質す桐華。
が、

「あら、あなた達、天津神や国津神の事、ろくすっぽ知らないクセに、よく言うわね。一神教のような唯一絶対神ではなく、神々とは、この世のありとあらゆる所に存在している。だから、外国に行っても、異教の方と婚姻しても、八百万の神々を裏切る事になどならないのよ。それにわたしの代わりの次期当主候補なんて、いくらでもいるし。」

晴香は至って涼しい顔で答えた。

「この人、神様を何だと思ってるんですかね、佐藤さん……。」
「少なくとも、畏敬の対象として見てないのだけは確かのようね……。」

晴香の図太さに呆れる二人。

「天津神も国津神も、神社で祀ってあるような神々ですよね。」
「平たく言えば、そうなんじゃないの?」
「じゃあ、一神教の神とは異なっていても、やはり、人間より高位の存在で、畏敬の対象ですよね、普通。」
「でも、何だか高千穂警視は、八百万の神々もお友達のような感覚なんじゃないの?」

実は、佐藤警部の言った事は、かなり当を得ていたのだが。
そういう事を皆が実感するのは、また後日の事になる。


「じゃあ、いずれまた会いましょう。それでは。」

そう言って、高千穂警視が一堂に背を向けて歩き出した。


「あ!しまった!」
「どうしたの、し……コナン君!」
「僕、あのお姉さんにお礼言ってないや!」
「あ!みんなを助けてもらったのに、そう言えば!」
「げっ!俺は当事者だったのに、確かに……!」
「青子もだよー。すっごく失礼な事しちゃった!」
「ああっ!ワタクシとした事が!あの年増女……いや、あの警視に借りを作ってしまいましたわ!」

すると。
もう、遠ざかっていた晴香が振り返り。
その口が動くのが見え。

風が、警視の言葉を届ける。

「お礼なんか要らないわ。だって、シャドウエンパイアと戦うのは、わたしの使命だもの。」


「何のかんの言いながら、好感のもてる女性でござるよ。」
「そうですかしら?ワタクシは、あんな年増……女性は、いけ好かないですわ!」
「桐華さん。恋敵が現れて穏やかでないのは分かるけれど、嫉妬のあまり、相手の良い部分もきちんと評価できないのは、どうかと思うわ。」
「う゛っ……!!」

美和子の冷静な言葉に、桐華は言葉を詰まらせる。

「でも、気持ちは分かります。」
「うん、そうだよね。そこまで言いたくなる位、辛いんだよね。」

桐華に同情する、蘭と青子。

「あら。でも、蘭さんも青子さんも、恋敵の悪口を言うところ、聞いた事もないですわよ。」
「あ、紅子さん!」
「そうかもしれないけど!」
「桐華さん。イイ女はね、口で恋敵の悪口を言ったりしないものですわ。」

「紅子がまともな事を言うと、何か怖いものがあるな……。」
「ん?小泉さんて、そんな感じなのか?」
「黒羽君。何を言ってるんですか!?」

探が、額に青筋を立てて、快斗に迫った。
しかし、紅子の次の言葉に、目が点になる。

「恋敵は、影で呪うものですわ、おっほほほほ!」
『!!』

一同、探も含めて。

『聞かなかった事にしよう……。』

そう思ったのであった……。

が、

「それ、良さそうですわね。いざとなったら……。」
『!』

桐華がその意見に耳を貸した事に、石化する一同。

「き、桐華さん、それマジでマズイですよ!」
「『人を呪わば穴二つ』なんだから、絶対自分に返ってくるわよ!!」

血相を変えて諌める蘭と園子。
更に。

「呪いでござるか……。その手もござったな……。」
「そこ!アンタまで耳を貸してどーすんのよ!」

たまらず風吹にツッこむ恵子。



その時。

ブロロロロ……。

「あ、おい!今の、警備艇の発進音じゃねえか!?」
「誰が……って、高千穂警視!?」
「まあ、警察の警備艇だから、彼女が乗っても別に構わないと言えば、言えるけど……。」


警備艇は、遠く離れている筈なのに。
高千穂警視は風や光を魔法で操る為、その姿と声が届けられる。

「じゃあ、またねーvvチュ♪」

投げキッスの音と映像が、一同の元に届いた。
そして、レオン王太子は、

「晴香さん……。」

頬を染めて、遠ざかる警備艇の姿を見ていた。


「おいおい。これって、ひょっとして……。」
「ああ。レオン王太子の方も、その気ありと見た。」
「な!何ですってえ!?」
「「おわあっ!?」」

コナンと快斗の小声の会話に、背後からオドロ背景と共に桐華が割り込んで来た。

「じょおっだんじゃないわ、あんな女!ワタクシは絶対、許しませんからね!」
「えーっとお。現状、あなたに、許すも許さないも、権限はないと……。」
「ハア?権限ですって!?」
「い、いえ……。」

桐華にひと睨みされて、快斗は黙る。

「あああ、だから桐華さん、そのような事を口にしては……あくまで、影でよ!」
「紅子ちゃん……正直、それもどうかと思うよ……。」
「ホント、マズイですって!!!!」

諌める青子と探。


「ワタクシは、絶対に負けませんからねーーーっ!!」
「桐華さんが……燃えている……。」
「パララケルス王国次期国王をめぐる、大財閥令嬢と、神話時代からの名家次期当主の最強美人警視の争いかあ。何だか、面白そうな展開になって来たわ!」
「世界をまたに駆けた超スキャンダルよねー。」
「園子、恵子さん、何を他人事みたいに……!」
「だってー、他人事だもーん!」
「外野の者にとって、これ以上面白い話は無いからねー♪」

蘭の不安をよそに、更に目を輝かせる園子と恵子。


「……陽介さんばかりか、レオン殿下まで……。」
「まさかダブルで三角・四角関係が同時進行するとはね……。」
「陽介さんの場合は、勝手に惚れられてるみたいだけど、レオン殿下の場合……。」
「良い家柄の男性だから、案外、押しに弱いのかもね……。」

渉と美和子は、特殊能力捜査よりもずっと厄介な事態に自分達が巻き込まれている事を改めて実感していた。


「しかし、名門の矜持を持ちながらも、恋の為なら、それをも捨てる事など厭わない。ある意味、初音さんと並ぶ恐ろしい人ね、高千穂警視って。」
「服部警視長といい、高千穂警視といい、高い能力を持つ人はまともじゃない人が多いですよね。」
「それなんか分かるような気がする。」
「けど、どちらもバカ丸出しなのは間違いねーよなー。」

少年探偵団も、毒気を当てられたかのように呆れ気味になっていた。


「主殿、拙者が付いてるでござるから、安心して下され♪」
「ハア、レオン殿下の気持ちが分かるような気がする……。」

陽介は脱力感丸出しだった。


「こんなんで、これから先の戦いは、大丈夫なんだろうか?何か俺、頭痛がして来たぜ……。」
「同感……。」

思わず頭を抱えるコナンと快斗。


「レオン王太子殿下はワタクシのものよ!絶対に、あんな横取り泥棒ネコの年増女になんか渡しません事よーーーーっ!!」


夕陽が沈むお台場に、桐華の決意の雄叫びが響き渡った。



To be continued…….





Vol.12「お台場大空爆!江古田組絶体絶命!!」に戻る。  Vol.14「虎姫家の人々」に続く。