C-K Generations Alpha to Ωmega



By 東海帝皇&ドミ



第二部 勇者激闘編



Vol.3 大阪住之江公園大会戦!



1月26日木曜日、大阪府寝屋川市、服部邸にて。



平次は夕食を済ませた後、いつもの如く、テレビのニュースをチェックしていた。
すると、見慣れた建物が映し出された。

「お?警視庁……何ぞあったんか?」

レポーターが、興奮した様子で、マイクに向かっていた。

『只今より、先日みなとみらいで起きた怪事件に関して、警視庁での記者会見が行われます。それでは、会見場の様子を。』
「?」

ただならぬ様子に怪訝な顔つきの平次。
そして、テレビの画面が切り替わる。
記者が詰め掛けている中、会見場に現れた人物を見て、平次は引っ繰り返った。


「ははは、初姉!?」

会見場に現れたのは、平次の従姉である、服部初音警視長その人であった。



『服部警視長、みなとみらいでの怪事件とやらは、いまだに緘口令が敷かれ、その全貌が明らかにされていませんが。』
『せや。これは、今迄の常識から全く外れた事件やから、迂闊に真実を明らかにする事がでけへんかったんや。』
『今夜、それが明らかにされると、考えて宜しいのですね?』
『その通りや。けど、これは、日本国民全て、いや、全世界の人達に、覚悟を強いるもんでもある。ほんでも、真実を隠されて徒に憶測や流言に惑わされて、不安になるよりは、ずっとマシやろうと思う。』
『その、真実とは?』
『その前に。皆に知って欲しい事がある。この世には、魔法というもんが存在しとるっちゅう事をや。』

その場は、大きなざわめきに包まれた。

『魔法!?』
『馬鹿な!』
『ナンセンス!』
『そんな子供だましの話を聞かせる為に、我々を呼んだのですか!?』
『侮辱にも程がある!』

ざわめきの中から、揶揄の声や非難の声が浴びせられる。
初音は、平然とそれを受け流した。

『まあ、そういう反応をするんが、当たり前やろな。けど、実はその思い込みこそが、魔法使い達にとっては、絶好の隠れ蓑や!科学万能主義に侵された人間達は、信じられん出来事を目の当たりにしても、対応でけへんようになってまう。その間に、着々と陰謀は進められてるんやで!』

ざわめきは、更に大きくなった。

『元々、魔法は洋の東西を問わず、当たり前の存在やった。それを覆い隠してもうたんが、現代科学の発達や。ま、それ自体を否定はせえへんで。人類の進歩に、必要な事やってんからな。けど……。』

ここで初音は言葉を切り、一同を見回した。
テレビの画面を通してさえ感じ取れる初音のオーラに、いつの間にか記者達が呑まれて行く。

『権力者や、野心家と結びついて、裏の世界で魔法は脈々と受け継がれとった。各国警察も、ICPOも、非公式にやけど、魔法犯罪に対応する為の部署と専任捜査員が配置されてる。皆の記憶にも新しい、俗に言う黒の組織、実はあそこも、最先端の科学技術と共に、魔法の力も利用してたんや。』

会場は、再び大きなざわめきに包まれた。

『な、何と!』
『では、彼らが研究していた不老不死は……。』
『科学と同時に、黒魔法でも研究されていたという事ですか!?』

『そう、その通りや!』

初音が、大仰に頷く。

『という事は、もしやみなとみらいの怪事件は、組織の残党が魔法を使って!?』
『で、でも、その組織は滅んだ筈では!?』

『そう、確かに、間違いなく滅んだ。けど、組織の魔法データを元に、新たに組織を立ち上げた者達が居る。』

『な、何ですと!?』
『秘密魔法結社という事ですか!?』

軽く頷く初音。

『それは一体、何者なんですか!?』

記者達が口々に尋ねる。

『その組織の名は、シャドウエンパイア。暗黒魔導士ダルクマドンナが率いる、暗黒魔道帝国や。』

『そのダルクマドンナとは!?』
『最近出来たばかりなら、大した力がない筈では!?』
『黒の組織の残党は、もう雑魚しか残っていないのでは?』
『いつから、どこで、活動を始めたんです!?』

記者達から、次々に質問が飛び出した。

『ハッキリ言うで。何も、わかっとらん。』

初音の答に、会場は騒然となった。

『静かに!組織は確かに滅んだ筈やった。シャドウエンパイアは、組織の魔法データを利用しているが、全く別の存在。もしかしたら、何十年も前から、準備を整えていたんやないかとも思われる。何にしろ、その存在をICPOが掴んだ時には、既に各国警察の対魔法捜査班だけでは手に負えん位に、強大な組織やったんや。ダルクマドンナの正体も何も、全く謎のまま。わかっとるのは、その力が恐ろしく強大である事だけや!』

『で、では、みなとみらいの怪事件は、魔法によるものだったと?』
『その通りや。普通の火器も武器も、全く太刀打ちでけへん。』
『け、けれど、テレビ中継では、毛利探偵と中森警部達が、銃で怪物をやっつけていたようですが』
『そ、それと、日本の妖怪らしきものが援軍として……もしやあれが、警視庁の対魔法捜査班の?』

『ま、そん通りや。毛利探偵や中森警部は、魔法の力を持ってる訳やあらへんけど、自分の体力を力に変換する銃を渡して、闘ってもろうた。もちろん、その銃は、警視庁特殊能力捜査部特製のヤツで、一般人も使えるんやけどな。文字通り、命を削って闘ってもろうた訳や。』

『つ、つまり……打つ手は、警視庁特殊能力捜査部しかないと、そういう事なんですか!?』
『もし巻き込まれたら、自衛の方法はないと!?』
『我々は、一体どうしたら良いんですか!?その、特殊能力捜査部は、全国の警察本部にある訳ではないですよね!?』
『じゃあ、もし襲われたら、運命と諦めろと!?』

記者達から、悲鳴のような質問とも糾弾ともつかない言葉が次々と浴びせられる。

『静かに!黙って諦めて貰う為に、記者会見を開いた訳やあらへんで。』

初音のひと声は、大して大きかった訳ではないが、一同を鎮静させる。
テレビを見ていた平次は、妙に感心していた。

(成程な。初姉のあのオーラが、必要やったから、初姉自ら会見を開いた、っちゅうこっちゃな。同じ内容でも、他のもんが伝えたんでは、パニックになるばかりや。)


初音のオーラは、テレビ画面を通して、全国のお茶の間に流れている。
まさに、カリスマと言えよう。


『実は今まで表には出てへんけど、一般人の中に、魔法の力を善の方向に使っている者達は、全国に沢山居るんや。全国警察組織も、勿論人材を探して任に当てる。国民皆に分かって欲しい事は、恐れずに、そういう者達と協力して欲しい、いうこっちゃ。勿論、そういう場面にぶち当たった時は、とにかく全力で逃げてくれたらええ。まずは、パニックにならん事と、命を大切にする事や。可能な限り、各地の交番や警察署には結界を張って、いざという時の避難所にする。普通の犯罪と同じように、魔法犯罪からも、警察は全力で、市民の安全を守る存在となるべく、奮闘する決意や。力不足の事もあろうが、全力を尽くすから、協力を頼むで!』



普通の者だったら、こういう説明をしたところで、絵空事とせせら笑い、その決意も馬鹿にされるのがオチだっただろう。
しかし、服部初音は、普通の人ではなかった。

(わが従姉ながら……大したもんやで、初姉。)

平次は改めて、初音の凄さに感心していた。

(工藤も、このニュース見とんのやろか?早速電話して……。)

平次がケータイを取り出し、電話をかけようとしたちょうどその時。

ピロロロロ……。

平次のケータイが鳴った。

「はい、こちら服部。」
『平次!今の見たん!?』
「何や、和葉か。ああ、勿論見とったで。」
『何か遂に始まったって感じやね。』
「そやな。明日は世間一般はこの話題で更に大騒ぎになるやろ。」

短い会話で、電話を切る。
和葉も、今回は平次が多方面と連絡を取りたがっている事を察したのか、アッサリ引いた。

(その後和葉は、他の女性メンバーと次々連絡を取っていたようである。C−Kジェネレーションズとアルファトゥオメガの面々は、一時お互いに電話中で、あちこち混線していた。)

平次が改めてコナンに電話をかけようとすると、再びケータイが鳴った。

『おい、服部!今の放送、見てたよな!?』
「工藤か。丁度そっちに電話かけよう思うてたんや。そっちから先に連絡してくるやなんて、工藤の一番のダチは、オレやっちゅうこっちゃな。」
『バーロ。俺は先に黒羽と連絡してたぜ。』

思わず、ガーンとなる平次。

『何しろ、オメーの電話、話し中だったからな。』
「あ、さ、さよけ……。」
『服部、これから、大変な事になるぞ。まあ、動き易くなる面もあるだろうけどよ。』
「今、超党派で、魔法関係の犯罪も立証出来るよう、法整備も進んどるらしいで。」
『ただ、現実的に言って、敵の動きの方が、初音さんが言った防衛組織が整うよりも、早いだろうと思う。しばらく混乱が予想される。』
「ああ、せやろな。警察関係者にも、あれを明るみに出すんは時期尚早やっちゅう、反対意見が多かった筈や。オレも、今日の記者会見の事は知らんかった。初姉が強引に行ったんやろうな。」
『おそらくな。けど、決して時期尚早じゃねえと、俺は思うぜ。まあ、初音さんだから成功したんだとは思うけどな。他の誰かが発表したんじゃ、世の中パニックになってるだけだろう。』
「あのオーラ、工藤も気付いとったんか。」
『当たり前だ。まあ、普通の人は、気付かねえ内に、気持ちを動かされているんだろうけど、俺は仮にも、C−Kジェネレーションズのリーダーだからな。』

コナンも、自分自身の魔法的力を、大いに自覚するようになったものらしい。

『まあ、時期尚早とは思わねえ、むしろ、敵の動きに比べれば、後手後手に回っているだろう。けれど、しばらく混乱が予想されるのは、間違いない。オメーも用心しろよ。』
「アホ。オレを誰や思うてんねん。ほな、お休み。」
『ああ、それじゃな。』


憎まれ口を叩きながら、平次は電話を切った。
そして、

「はー、これからホンマに大変になってくるなあ。けど、男やったら、とことん突き進むまでや!」

と決意を新たにしていた。




   ☆☆☆



阿笠邸にて。
哀と共にテレビを見ていた阿笠博士は、溜め息をついて言った。

「哀君……これは、大変な事になりそうじゃのう。」
「……シャドウエンパイアは、かの組織の科学力を手に入れているって話だわ。という事は、きっと私の研究も……。」
「哀君?」
「落とし前をつける為にも、私もこの戦いから、逃げる訳には行かないのよ。」

哀は暗く不安な目つきで拳を握り締めながら、決意を新たにする。

「哀君、そこまで自分を責めるのは、やめなさい」
「博士?」
「君は、充分に頑張っておるよ。その事は、新一君達にも、よく分かっている筈じゃ。」
「博士……。」
「君が頑張ると言うのなら、ワシは協力は惜しまんよ。けれど、無理はしないでくれ。そして、自分を責めないでやって欲しい。何があっても、自分を守ると言う事を、忘れんでくれ。君が居なくなりでもしたら、悲しむ人間が、ワシを含めて何人もいる事を、分かって置いて欲しい。」

哀は、最初戸惑った顔をしていたが、はにかむような笑顔を浮かべた。

「博士。ありがとう……。」



   ☆☆☆




翌1月27日金曜日の正午の大阪改方学園の屋上……。



「いっただーきまーす♪」

菫が大きなお重に入った弁当を、美味そうに食べていた。

「しっかし御剣、お前相変わらずよう食うなあ。」
「そらしゃあないやん。腹が減っては戦は出来へんもん。」
「ハハハ、確かにそやね……。」

苦笑いをする和葉。

「それにしても平次。」
「ん?」
「昨日の初ちゃんの会見、ホンマにどえらい影響を及ぼしてるみたいやな。」
「そーそー。学校中あの話題で持ち切りやったもんね。」
「こないだの、みなとみらいん時も大騒ぎやったけど、今度んは、その比やあらへんかんな。」
「そら、今まで絵空事や思うとった『魔法』が、実はホンマに存在しとった言うんやから、今までの常識が根底から覆ったような有様になるんは当然やん。」
「ま、生まれた時から『魔法』等の特殊能力が当たり前の環境にいたウチからすれば、『何を今更』っつー感があるけどね。」
「アタシは、特殊能力とは無縁の生活やったで。」
「オレもや。親父達や初姉、御剣達が、特殊能力当たり前の環境におったっちゅう事も、知らんかったしな。」
「けど、この短期間で当たり前になってもうたっちゅうのんが、何か怖いような気がするで。」
「せやなあ……和葉、その感覚を忘れたらあかんで?」
「ん?へーたん、何でや?」
「当たり前になってまうと、見えるもんが見えんようになってまうからな。」
「そういうもんなん?」
「せやで。オレの首筋がチリチリして、気をつけろと言うとる、この感覚までのうなってしまうかも、知れへんからな。」

昼弁を食べながら、談話を続ける三人。

「せや、和葉、御剣、今夜うちでてっちりやで。遠山のおっちゃんにも、御剣のあんちゃんにも、もう話が行っとる筈や。」
「て、てっちり!?」

途端に、目を輝かせる菫。

「平次、いつも悪いなあ。」
「何を今更遠慮してんのや?おかんも皆が来るのを楽しみにしてんのやから、遠慮のう……あ、御剣は、少し遠慮してくれてもええで?」
「ぐへへへ、てっちり、てっちり……。」
「こらあかんわ、もう目がいっとる……。」
「平次、食べもんの話したら、スミレちゃんの人が変るんは、今に始まった事じゃあらへんやろ?」
「せやな。」

平次は溜息をつき、和葉は苦笑いし、菫は心ここにあらずだった。



   ☆☆☆



同じ頃、某所にて……。



「ステイツ(合衆国の事)からも、ICPOからも、我々4人はこちらに残るようにとの事だ。」

FBIのジェイムズ・ブラックは、赤井秀一とジョディ・スターリング、アンドレ・キャメルに向かって、そう言った。

「今、シャドウエンパイアは、全世界で警戒すべき敵だが。その活動は今現在、何故か日本が中心になっている。だから、我々もここで、日本の警察と協力し、シャドウエンパイアとの戦いに全力で当たるようにとの事だ。」
「日本の警察?というのは、表向きの事でしょう?」
「いや、そうでもない。この件に関しては、正式に、特殊能力捜査部が出来ているから、そこの警視長ハツネ・ハットリに、全面的に協力するようにとの事だ。」
「ボス、その警視長の従弟に、会った事あります。色黒でキャップをかぶった坊や。英語もなかなか堪能でしたわ。」
「あの、パララケルス王国のお姫様か。ご本人も色黒だぞ、ジョディ。」
「赤井さん、服部警視長の事をご存じなんですか?」
「まあな。」
「……実は、協力すべきは、警察組織だけではない。マジックギルドの存在は、君達も勿論、知っているね?」
「はい。」
「……と言うと?」
「ハツネ・ハットリは、警察の人間であると共に、マジックギルドの主要メンバーでもあり、グランマザーの後継者とも目されている。そして、日本国内で、マジックギルドの傘下とも言うべき組織を作っている。」
「そ、それは!?」
「ひとつは、アルファトゥオメガ。」

少し呆れたような顔で赤井は、

「アルファトゥオメガ?始まりから無限大?ふざけた名前だな……。」

と呟いた。

「こほん。もうひとつは、C−Kジェネレーションズ。」
「は!?」
「Cはコナン、Kはキッドの略だそうだ。」
「オウ、ボス、あのクールキッドですか!?」

ジョディは身を乗り出し、目を輝かせた。

「かの組織をつぶす際に、俺達が色々と世話になった少年だな。で、キッドとはまさかと思うが、怪盗キッドですか!?」
「いかにも、その通り。その2人を中心として作られた為に、そういうチーム名となった。」
「……泥棒に協力して、構わないのですか?」
「実は、今回の敵と戦うには、絶対に彼の力が必要だと言う事で。ICPOは既に、怪盗キッドから手を引くと、非公式にだが決定した。」
「……ま、良いでしょう。我々も、泥棒は管轄外だ。正直な話、たかだか石を守る為に警察が人材投入するのも、どうかと思いますんでね。」
「ボス。シャドウエンパイアは、あの組織の負の遺産を我が物にしていると聞いています。」
「いかにも、その通り。」
「確かに、そのような存在を、許して置く訳には行かないな。ただ、魔法が絡んでくるとは、思いませんでしたよ。」
「けど、先日のみなとみらいでの戦いや昨日の服部警視長の会見を見たら、それが現実だと思わない訳にはいかないでしょう。」

キャメルも続く。

「おそらく、シャドウエンパイアは、魔法と科学の力両方を手にして、野望を果たそうとしているのだろう。」
「成程。かの組織は、シャドウエンパイアに取って、科学力を手中にする為の捨石だったと。」
「おそらくは。」
「しかしボス、クールキッド……いえ、クールガイ達は、優秀な人材ではありましょうが、魔法との戦いは……?」
「ハツネ・ハットリが、彼らの秘められた魔法力も、引き出した。」
「我々も、魔法の戦いをしなければならない訳ですね。やれやれ。」
「秀一、不満か?」
「いえ。ボスのご命令……任務とあらば、いかようにも。」

かの黒の組織からも恐れられていた男・赤井秀一は、不敵に笑った。

「では、ひとまず解散としようか。」
「「「はい。」」」


ジェイムズの部屋から立ち去った赤井は、ふと立ち止まり、ケータイのメールを見て、呟いた。

(明美、今度こそ奴等の影を払拭してみせる……!)



(まだ、私の戦いは、終わらないわね……。)

ジョディは、ロケットにある父母の写真に向かい、心の中で語りかけていた。



   ☆☆☆



午後6時……。



剣道部・合気道部の部活もそれぞれに終わり、帰途に着いている平次・和葉・菫。


「さあ、これからへーたんトコでてっちりやな、グヘヘヘ……」

菫が涎を垂らさんばかりにして、嬉しそうに言った。

「おい、御剣。お前のその顔、一辺ダーリンに見せたらなあかんな。色気もくそもないで。」

平次が呆れたように言うと、

「へーたん、もう一辺言うてみいや!」

その首元に妖刀村雨が突き付けられた。

「ア、ア、アホォ!街中で真剣を抜くヤツがあるかい!!」
「ほんま、スミレちゃんは陽介さんの事になると、見境あらへんな。」

いつもの事なので、平次も和葉も今更動揺せず、呆れて溜息をついていた。

「全く、今からオカンに電話して、御剣の分のてっちりは無しにするわ。」
「わ〜〜っ、ちょ、ちょい待ちいな!それは勘弁!」

血相を変えて、村雨を仕舞う菫。

「ホンマ、色気なんか食い気なんか、分らんやっちゃ。」
「平次。スミレちゃんが色気を出すんは、陽介さんに対してだけや。」
「は、さよけ。」
「ところで平次、明日ホンマに東京に行くんか?」
「せや、初姉がせっかく新幹線の回数券をごっつ送ってくれたんやから、使わな損やないか。」
「回数券?って事は、アタシらも行ってええのん?」
「初姉もその積りで送って来たんやから、構へんで。それとも、和葉お前、週末何ぞ用でもあるんか?」

和葉は、ぶんぶんと首を横に振った。
和葉が、たとえ用があったとしてもそれを曲げるだろう事は、この唐変木男には分からない事実なのであった。


その時、平次の携帯に着信があった。

「大滝はんや・・・ハイ、こちら平次・・・住之江公園近くで?分かった、すぐ行くで。」

平次が携帯を切ると、和葉が心得顔で言った。

「平次、事件の応援要請やな。」
「ああ、行ってくるで。」
「ほな、アタシらは先に平次んちに行ってるで。」
「てっちり、オレの分は残しとけよ。」
「分かってるがな。へーたん。」
「御剣、お前が言うと何や信用でけへんなあ。」
「平次、アタシが見張っとるから、心配せんと、任せとき。」
「ほな、行ってくるで。」


そして、平次は住之江公園へ、和葉と菫は寝屋川の服部邸へと向かった。






「平ちゃん、おおきに。助かったで。」
「いやいや、困った時はお互い様や。」

住之江公園近辺で起こった事件は、平次の協力でスピード解決した。

「ほな、オレはこれで。」
「あっ、ちょい待ちいや。駅まで送ったるで。」

住之江公園駅に向かおうとした平次に対し、大滝悟郎警部が同行した。



「なあ、平ちゃん。昨日の初音ちゃんの会見、見たか?」
「勿論や。」
「あれからと言うもの、本部の方に問い合わせが殺到してんねや。しかも、一課の連中まで不安になっとんねん。」
「そら無理無いやろ。あんなん、前代未聞の事やさかいに。」
「でな、それについて初音ちゃんが、今朝方本部の方に来て、色々と本部長やおやっさん達と話し合いを重ねておったで。」
「初姉、来とったんか!?」

足を止める平次。

「ああ。ほんでもって、オレも初音ちゃんに呼ばれて、『近畿圏内の特殊能力事件』の責任者になってくれって、打診されたんや。」
「な、何やて!?」

大滝警部の話に目を丸くする平次。

「で、大滝はん、何て言うたんや?」
「あまりにも前例が無さ過ぎる事なんで、さすがにすぐには返事出来へんかったわ。」
「そらそやろな。でも、何で初姉は大滝はんに?」
「実はな、オレがまだ駆け出しだった頃に、初音ちゃんと組んで、色々と事件を解決したした事は知っとるやろ。」
「ああ。」
「でな、そん中の事件のいくつかが、初音ちゃんが言う所の『特殊能力』が関わる事件だったんや。」
「なっ、そ、そらホンマか!?」

驚く平次。

「ああ。それについては本部長やおやっさんが、じかに調べたんで、表沙汰にはなっとらんでな。」
「オヤジ、そないな事一言も言うてへんかったな……。」
「で、初音ちゃんがオレに打診したんは、そん時の実績を買うたからやろな。」
「そら間違いあらへんな。」


その時、

「!」

平次は何かの気配に感づき、足を止めて周囲を見回した。

「どしたん、平ちゃん?」
「大滝はん、気ぃつけえや。この辺りに何かおるで……。」
「え、何かおるって……。」

大滝警部も、改めて周囲を見回す。
と、突然、

「とりゃあーーーっっ!!」

公園の植え込みから、怪しげな影が平次達に飛び掛ってきた。

「おおっと!!」
「おわっ!!」

間一髪避ける二人。

「フッ、さすがはC-Kジェネレーションズの一員だけの事はあるな。このワシの一突きをかわすとは。」
「なっ、何やお前!?」

平次は、槍を構えたクワガタムシ風の鎧武者に驚く。

「ワシの名はドゥームギラファ。シャドウエンパイアのシャドウドールなり……。」
「なっ、シャ、シャドウエンパイアやと!?」

大滝警部も続けざまに驚く。

「おいお前!このオレに何の用じゃ!?」
「決まっておろう。ダルクマドンナ様の命により、貴様の命、貰い受ける!!」

再び槍を突き出すドゥームギラファ。

「おっとお!!」

既に光の腕輪を装備した平次は、これを難なくかわす。


「あ、あれが初音ちゃんが言うてた、実弾が利かないシャドウエンパイアの怪物かい……。」

大滝警部は改めて、シャドウドールの凄さを目の当たりにして、思わず息を呑んだ。

その時、

「大滝はん!」
「ど、どした、平ちゃん!?」
「大滝はんはすぐにオヤジか、遠山のおっちゃんに連絡して、この住之江公園を閉鎖させてくれや!!」

平次が大滝警部に促した。

「!ああ、わかったで、平ちゃん!!」

平次の意図を理解した大滝警部は、すぐさまその場から駆け出した。

「むっ、逃がすか!!」

ドゥームギラファは槍を大滝警部に向けようとしたが、

「てぇいっ!!」
「ぬうっ!!」

平次がドゥームギラファにキックを蹴り込み、ドゥームギラファがこれを槍でガードした。

その直後、

『公園内にいるお客様方に申し上げます。ただ今、当公園内に、シャドウエンパイアの怪物が進入致しました。危険ですので、大至急この公園から避難して下さい。繰り返し申し上げます。ただ今、当公園内に……。』

園内のスピーカーから、避難を促すアナウンスが流れてきた。

すると、

「うわあーーーっっ!!」
「きゃあーーーーっっ!!」

公園内の至る所から、大騒ぎで逃げ出す客達の悲鳴が響き渡った。
しかし中には、昨夜のニュースもそれに伴う人々の噂も知らず、騒ぎに驚いて右往左往する者もいた。

「な、何や、今の冗談は?」
「アホ、昨夜のテレビ見てへんのか!?ごたくは後や、早よ逃げるんや!!」

そういう者は、近くの者達が引きずるようにして避難させていた。
さすがに、人情の町である。


「大滝はん、中々味な事するやんか。」

平次は、ドゥームギラファに向かって身構えつつ、大滝警部の処置を称えた。

更に、

ファンファンファンファン……。

公園外から、パトカーのサイレンが多数聞こえてきた。

「フッ、警察の奴等め、あのような事をしても無駄だというに……。」
「ケッ、お前とサシの勝負をする為の絶好のお膳立てやないか。」
「ほほう、面白い。何の武器も無しにこのワシに挑むとは、大した度胸ではないか。」

そう言いながらドゥームギラファは、槍を振り回す。

「フッ、オレは別に武器が無くとも、素手での勝負も自身あるんやで!」

平次はドゥームギラファを見据えながら、身構える。
と、その時、

ピカアーーーーーッッ!!

「えっ!?」
「ぬっ!?」

平次の前に突然魔法陣が出現し、そこから、

「とりゃあーーーーっっ!!」
「平次ーーーーっっ!!」

菫と和葉が飛び出してきた。

「ななっ、御剣、和葉!?」

突然飛び出してきた二人に驚く平次。
そして、

「てえいっっ!!」
「ぬうんっ!!」

菫は飛び出した勢いで村雨をドゥームギラファに振り下ろし、ドゥームギラファはこれを槍先でブロックした。

「大丈夫か、平次!?」
「あ、ああ。けど、何でお前らが!?」
「この光の腕輪が、アンタの危機を知らせて来おってな。それでスミレちゃんとワープ魔法でこっちに来たんや。」
「『光の誓い』に則ってね♪」
「ア、アホかオマエ等!こんなん別に助けが無くとも……。」
「まーまー、へーたん。人の助けは素直に受けるもんやで。」
「そうやで、平次。スミレちゃんの言うとおりや。」
「あ、そうかい……。」

憎まれ口を叩きながらも、二人の心遣いに感謝する平次。


「さあ、このウチが一気にケリを着けたるで!!」

菫は村雨を下段に構える。

「ほう、面白い。ならば、来い!」

ドゥームギラファも、改めて槍を構える。


「冥府魔道がアンタを呼んどるで……。」

そう呟いた瞬間、彼女は目をカッと見開き、

「神鳴流奥義・菫刃魔破斬(きんじんまっはざん)!」

と猛スピードで突進し、

バシュッッッ!

すれ違いざまに村雨を振り上げ、ドゥームギラファを一刀両断にした。


「よっしゃあ!」
「やったで、スミレちゃん!!」

ガッツポーズをあげる平次と和葉。

「フッ……。」

軽く微笑む菫。

だが、

「フフフハハハ……、これでワシを倒したつもりか?」
「えっ!?」
「なっ!?」
「そ、そんなアホな!?」

真っ二つにされたはずのドゥームギラファが、高笑いをしているのを見て驚く四人。

「あ、あないな成りで高笑いするたあ、お前、シャドウロードやな!?」
「左様。」

そう答えながら、ギラファノコギリクワガタ型のシャドウロード・甲冑武者ドゥームギラファが体をくっ付ける。

「シャ、シャドウロードって、先週アタシ等がみなとみらいで戦ったあの女王アリみたいなヤツなん!?」
「そや、御剣の必殺技も通用せえへんかったヤツや。」
「くっ!でもウチは負けへん!!てやあーーーーっっ!!」

再びドゥームギラファに立ち向かう菫。
だが、

「ぬうんっ!」

ぶうぉんっ!!


「きゃあっ!」

ドゥームギラファは、槍で菫の村雨を払い飛ばしてしまう。
そして、

がしっっ!!

「がはっっ!!」

なんと、兜の両顎で、菫を挟み込み上げてしまった。

「み、御剣!」
「スミレちゃん!!」
「は、放せ、このアホタレ!」
「フッ、その減らず口を利けない様にしてやろう。」

ぎりぎりぎり……。


「ぐっ、あああーーーーーーーーっっ!!」

ドゥームギラファは、兜の両顎で、菫を更に締め上げる。

「み、御剣ーーっ!」
「スミレちゃぁーーーーん!!」

絶叫する二人。

「こっ、このドアホがあ!!御剣を放せぇ!!!」
「スミレちゃんに何すんねや!!」

激怒した二人は、ドゥームギラファに攻撃を仕掛ける。
だが、

「てぇいっ!!」

ぶうぉんっ!!


「ぐふぁっ!!」
「がはっ……!!」

ドゥームギラファは、平次と和葉を槍で薙ぎ飛ばしてしまう。

「ぐ……な、何つーヤツや、アイツは……。」
「つ、強すぎるで……。」

大ダメージを受けて、立ち上がれない二人。

「へ、へーたん、和葉ちゃん……。」

ドゥームギラファの強烈な締め上げで、菫の意識が混濁し始めた。

「フフフハハハ……。この娘を片付けたら、今度は貴様等の番だ。」

勝ち誇ったような笑みを浮かべるドゥームギラファ。

「くっ……、オ、オレにも工藤の様なフォースウェポンがあったら……。」
「あんなヤツ、ギッタギタにしてやるんに……。」

己の無力さに歯噛みする二人。
その時、

ピカッ!

「「!」」

平次と和葉は光の腕輪が光った事に気がついた。

「!こ、これは工藤ん時と……。」
「ハッ、も、もしかして……。」

二人はすかさず、腕輪に手を当てた。
そして、

「ヨッシャあ、いけるで!!」
「これならスミレちゃんを!」
「むっ!?」

二人は立ち上がったのに気づくドゥームギラファ。

「いくで、このクワガタ野郎!」
「今度はアタシ等の番や!!」

ドゥームギラファに対して身構えた二人は、

「フォースウェポンセットアップ、ライダー・ザ・ソード!!」
「フォースウェポンセットアップ、バトラー・ザ・ウエスト!!」


ピカアーーーーーッッ!!

叫ぶと同時に、腕輪が強烈に光り始め、平次の目の前や和葉の頭上に、光り輝く魔法陣が出現した。
平次はその魔法陣に手を突っ込み、中からスティックのような物を取り出した。
また、和葉の頭上の魔法陣からは、水晶のティアラのような物が降下して、彼女の額に装着された。

「あ、アレは……。」

徐々に意識が薄れつつも、菫は二人の勇ましい姿に驚嘆し、一つの確信を掴んだ。

「さあ、勝負や!」

平次がスティックを構えると同時に、スティックからビームサーベルのような刀身が現れた。

「スミレちゃんは返してもらうで!!」

和葉が身構えると同時に、ティアラの宝石が点滅を始めた。

「ええい、小癪な!!」

二人に向けて槍を向けるドゥームギラファ。

「うぉりぁーーーっっ!!」
「ぬうんっ!」

剣を構えながら突進してきた平次を槍でなぎ払おうとするドゥームギラファ。
だが、

「てえいっ!」
「何っ!?」

平次は槍を飛び越え、

「はあっ!」

スパッ!

「ぐがあっっ!!」

その勢いで、菫を挟み込む兜の両顎を斬り落とした。

「スミレちゃん!」

間髪いれずに和葉がハイジャンプで菫を抱き止める。

「ぐっ……お、おのれ……!!」

怒りの形相で、斬り落とされた両顎を復元するドゥームギラファ。
だが、

「復元速度が遅いっつー事は、やっぱしあん時の女王アリと一緒やな。」

平次は冷静に分析した。

「大丈夫、スミレちゃん!?」
「あ、あんがとな、和葉ちゃん……。」

抱きかかえられながらも、和葉に感謝する菫。

「さあて、今度はオレが相手になってやろうやんか。このラグナカリバーがあれば、オマエと互角、いや、オマエを倒す事も可能や!」

ドゥームギラファに対して、改めてラグナカリバーを身構える平次。

「ぐぬぬぬぬぬ……そうは……そうはいかんぞ!」

どがっっ!!

憤怒の表情を浮かべたドゥームギラファは、槍を地面に突き刺した。
すると、

ボコッ!
ドゴッッ!!


周囲の地面が突然盛り上がり、何者かが続々と這い出てきた。

「ギギギキ……。」
「ギギギギ……。」

「な、何やアレ!?」
「カ、カナブンのお化けやん!?」

全身緑色のカナブンの怪物に驚く和葉と菫。

「オイこらオマエ!そないなヤツ等を繰り出すなんて、卑怯もええトコやないか!!」
「何を言う!合戦に卑怯も糞もあるものか!!さあ、やれ、グリーンドローンよ!!」

ドゥームギラファは、カナブン型のシャドウソルジャー・甲虫魔兵グリーンドローンに平次達を攻撃するよう命じた。

「ギギッ!!」
「ギギッ!!」


平次達に飛び掛るグリーンドローン。

「チッ!」

ラグナカリバーを身構える平次。
そして、

「てえいっっ!!」
「グギャウッ!」

平次はグリーンドローンを一閃で葬った。

「とりゃあっ!!」
「グゴアッ!!」

和葉もグリーンドローンを一撃で破壊する。

その時、

「ギギギ……。」

一体のグリーンドローンが、横たわる菫の元にやって来た。

「あっ、御剣!!」
「スミレちゃん!!」

気づいた二人は、すぐに菫の元に駆け寄ろうとする。
が、

「グオーッ!」

グリーンドローンが、菫に向けて、腕を振り下ろそうとする。

「御剣ーーっ、早よ避けーーっっ!!」
「スミレちゃーーんっ!!」
「ぐっ……。」

が、ダメージが大きい菫は、避けるまでに回復していなかった。

「グオウッ!!」

グリーンドローンが腕を振り下ろそうとしたその時!

ズドーーーン!!!

「ギャワウッッ!!」

銃声が響いた瞬間、グリーンドローンが木っ端微塵に吹っ飛んだ。

「えっ!?」
「なっ、い、今のは……!?」

平次と和葉が、銃声がした方を見ると、

「大丈夫かいな、三人とも!!」
「「なっ……お、大滝はん!!?」」

大滝警部が、拳銃を構えているのが見えた。

「いやあ、このライフリボルバー、ホンマに凄い威力やな。さすがは初音ちゃんやで。」
「お、大滝のあんちゃん、おおきに……。」

菫は親指を立てて、感謝する。


「ええい、小癪な!グリーンドローンよ、あ奴も片付けてしまえ!」
「グオウッ!!」

激高したドゥームギラファが、グリーンドローンに大滝警部も攻撃するよう命じた。
それに対し、

「大阪府警をなめんなや!!」
「グオウッ!!」
「ギャワウッッ!!」


大滝警部もライフリボルバーでグリーンドローン達を一撃で撃破していく。

そして更に、

「神鳴流奥義・斬魔剣!!」

ブウォンッッ!!

「グガウッッ!!」
「グギャウッ!?」


突然グリーンドローンが吹き飛ばされ、爆散した。

「何っ!?」
「えっ!?」
「なっ!?」

驚いた平次と和葉、大滝警部が振り返ると、

「ハア、ハア、へ、へーたん達の邪魔は、ウチが許さへんで!!」
「み、御剣!?」
「ス、スミレちゃん!?」
「菫ちゃん!?」

菫が再び村雨を構えているのが見えた。

「き、貴様!アレだけのダメージを食らいながら!?」

ドゥームギラファも、信じられないものを見たかのように驚く。

「だ、大丈夫なん、スミレちゃん!?」
「フッ、ウチはこれでも神鳴流の剣士やで!あのカナブン達はウチ等に任せて、そこのクワガタムシをいてもうたってや!」
「菫ちゃんの言う通りや!ここはオレ等が食い止める!」
「おう、任せときい!」
「アタシ等も負けられへんでえ!!」

再び立ち上がった菫の元気な姿や、大滝警部の激励に安心した平次と和葉は、改めてドゥームギラファに対して身構えた。

「ええい、小癪な!ならば貴様等まとめて片付けてくれる!!」

ドゥームギラファは、槍を振り回しながら、平次と和葉に向かって突進してきた。

「てえいっ!!」

ブウォンッ!!


「「おおっと!」」

二人はすばやく散開して、槍をかわす。
そして、

「むっ!?」

和葉はドゥームギラファの懐深くまで近づき、

「ハアッッ!!」

どがっっ!

「ごふぁっっっ!!」

腹部にパンチを食らわせ、ドゥームギラファを叩き飛ばした。

「おお!」
「す、凄い!!」

目を見張る平次と菫。

「あ、あないに力が出るなんて、このクリスタルティアラ、凄いやん!!」

和葉は、額に装着されたクリスタルティアラに触れて、その凄さに息を呑んだ。

「ぐ、お、おのれ、小娘があ!!」

いきり立ったドゥームギラファが、再び槍を振り回して和葉に襲い掛かった。
しかし、

「てえーーーーいいっっ!!」

スパッ!!

「な!!?」

平次が和葉を守るように割って入り、ラグナカリバーでドゥームギラファの槍を切り落とした。
そして、

「おらあっ!!」

バシュッッ!!

「ごふあっっ!!」

間髪入れずに平次はラグナカリバーでドゥームギラファを斬り飛ばした。

「さあ、今や、和葉!」
「OK、平次!!
クリスタルスパーク、セットアップ!!

和葉が腕を交差させて、詠唱すると同時に、クリスタルティアラが輝き始め、中央の青いコアクリスタルに光が集まり始めた。
そして光が完全に集まった時、

「いっけーーーーーっっ!!」

ドーーン!!

「ごがああっっ!!」

和葉が交差させていた両腕を振り下ろすと同時に、クリスタルティアラのコアクリスタルから強烈な光が撃ち出され、ドゥームギラファを直撃した。

「よっしゃあ!」
「和葉ちゃん、やるやん!!!」
「さすがやで!!」

会心のガッツポーズを決める三人。

「さあ、これで終わりや!」

ブゥオンッッ!

平次がラグナカリバーを構えなおした瞬間、光の刃が更に大きくなった。

「ぐぐ……お、おのれ……!」

クリスタルスパークの直撃で大ダメージを受けたドゥームギラファは、ボロボロになりながらも鬼のような形相を浮かべながら、再び立ち上がった。
だが、

「おりゃあーーーーーっっ!!!」

グサッッッ!!

「ごふっっ!!」

平次はすかさず、ラグナカリバーでドゥームギラファを突き刺した。

「ぐ……が……。」

突き刺した部分の背後から、火花が噴き出した。
そして、

「ラグナブレイク!!」

バシュッ!

「がはっっっ!!」

平次は技発動言語を唱えながら、突き刺したラグナカリバーを一気に振り上げた。
その途端、

ドゴーーーン!!
ドガーーーーン!!
ドグォーーーーーン!!


ドゥームギラファの全身が爆発し始めた。

「やったあーーーっ!!」
「凄い、凄いで、平ちゃん!」
「へーたん、かっこえーー!」

「な、何と言う事だ……こ、この……ワ……シ……が……。」

ピカッ!


ドカアーーーーーーーーーーン!!


ドゥームギラファは大音響と共に木っ端微塵に爆散した。



パーン!
パパーン!!
パパパーン!!


ドゥームギラファが爆死した途端、グリーンドローンも全て消滅した。



「ふぅーー……。」

激闘を終えた平次は、ほっと一息を付いた。


「ようやったな、平ちゃん。」
「大滝はんこそ。ライフリボルバーをあないに使うても、ピンピンしとるやなんて、体力絶大やな!」
「平ちゃん……それは、褒める方向がちゃうで……。」

大滝警部は、思わず脱力して呟いた。

「何や大滝はん、やっぱり疲れたんちゃうか?」
「この疲れは、精神的なもんや……。」

溜息をつく大滝警部を、不思議そうに見つめる平次。

「スミレちゃん、大丈夫なん?」
「うん、バッチリ大丈夫や!」

あれだけダメージを受けたにも関わらず、菫は妙に元気だった。
平次と和葉は、ホッとしながらも首をかしげる。


「さあ、これからてっちりや!!」

先ほどの戦闘のダメージはどこへやら、菫は意気揚々と立ち上がった。

「はは、御剣の元気の元は、それかい!」

平次が思わず突っ込みを入れたその時、

ピロロロロロ……。

「ん、電話や。」

ケータイをとる平次。

「はい、こちら服部……あ、オカンか。……うん……うん……あ、そうか。そら残念やな。ほな、伝えとくわ。」
「どしたん、平次?」
「あのな。オヤジ達、今のシャドウエンパイアの事件で家戻れへんとオカンに連絡しとってな。それでてっちり中止になってもうたんや。」
「え゛?」

固まる菫。

「けど平次、てっちり中止にしてもうたら、材料が無駄になってまうやん。」

和葉が言った。

「せ、せや。おとん達があかんでも、うち達だけでも、てっちり食べたらあかんのん!?」

菫が、拳を振り上げて、力説した。

「すまんな、御剣。実は、服部家のてっちりは、いっつもオヤジが、懇意にしとる魚屋で、自分の目で見てフグを仕入れて来んのや。って事で、今夜家にあんのは、野菜と豆腐だけやで。」
「そ、そんな……アホ……な……。」

菫は、力なく言って、目が虚ろになったかと思うと、そのままバタッと後ろに倒れてしまった。
地面に激突する前に、かろうじて和葉がその頭を支えた。

「す、菫ちゃん!?」
「み、御剣!?」

これには、さすがの平次と和葉も、ビックリである。

「……御剣……こないにショックやったんか……。」
「菫ちゃんがこんなんで気絶する事実の方が、アタシにはショックやで。」


「菫ちゃんの食い意地は、筋金入りやからなあ。」

妙に感心している大滝警部。

「こら、明日御剣のヤツ、東京に行けるのか、不安やなあ。」
「東京に、てっちり以上の食べもんがあれば、ええんやけどな。」
「そら、あんまり期待でけへんのとちゃうか?」

大滝警部が、菫をよっこらしょと抱える。

「御剣の大将んとこに、オレが連れて行くわ。」
「大滝はん、頼んまっせ。」
「おう。ほな、平ちゃん、和葉ちゃん、またな。」


そして、一行は帰って行った。






平次が帰宅した後。

「平次。菫ちゃんが倒れたんは、クワガタに挟まれた所為やったんやで!食い意地の所為だけやと思うやなんて、お前もデリカシーちゅうもんがなさ過ぎや!」

平次は静華から、こってりと絞られる羽目になる。

「せやったんか。そら、悪い事したなあ。けど、おかん、てっちりを楽しみにしてたんに、気力が途切れてもうたんは事実やで。御剣の為を思うんやったら、てっちり中止せん方が良かったんちゃうか?」
「……それに関しては、私も反省せんとあかん思うてるわ。」



結局、菫は、戦闘のダメージとてっちりが食えなかった事のダブルショックが尾を引いて、この週末は寝込む事になり、東京へと同行出来なかったのであった。
更に、東京に行けなかった事で、愛しの陽介とも会えずに、菫にとってトリプルショックになった。


「うう〜〜〜!!てっちり〜〜〜〜!!ダーリ〜〜〜〜〜〜〜ン!!!!!」


御剣家のある守口市の空に、菫の絶叫が響いたとか、響かないとか。



その後、大滝警部は、初音の提案を受諾して、捜査一課兼務の上で、近畿地区の特殊能力捜査の責任者として、警視に昇格したそうな。



To be continued…….





Vol.2「式神でGO!開かれた非日常への扉」に戻る。  Vol.4「工藤邸の新住人」に続く。