C-K Generations Alpha to Ωmega



By 東海帝皇(制作協力 ドミ)



第二部 勇者激闘編



Vol.4 工藤邸の新住人



1月28日土曜日の宵の口、某所にて……。



カッ、カッ、カッ……。


松明が仄かに光る回廊を歩く、黄金の仮面と漆黒のローブに身を包んだ異形の者、シャドウエンパイア女帝・ダルクマドンナ。

彼女は、とある部屋の前に着くと、その重々しい扉を開いた。


コポコポ……。

その部屋は、見るからに怪しげな円筒形の大型機器が整然と並べられており、その中には、生物を人型にした様なモノが入っていた。

その中を更に奥へと進んでいくダルクマドンナ。
そして、とある円筒形機器の前で立ち止まり、そこで作業をしていた女性に話しかけた。

「シャドウマリアよ。」
「はっ、ダルクマドンナ様。」

会釈するシャドウマリア。

「ドゥームギラファを服部平次抹殺に遣わしたが、逆に破壊されてしまった。」
「な、何と!?」
「我々が作り上げたシャドウロードは、いかなる魔法攻撃も通用しない自慢の魔法兵器だ。しかし、ブラウンフォックスめ、まさか心の光のエネルギーで攻撃する武器を造り上げるとは……。」
「あれは正に盲点でした……。」

シャドウマリアは、自身もその武器で破壊されそうになった事があるだけに、ダルクマドンナの話に頷いた。
そこへ、

「ダルクマドンナ様。」
「おお、ゲインズボロースミロドンか。」

巨人のようなサーベルタイガー型のロイヤルドール・暗黒獣神ゲインズボロースミロドンが現れた。

「話は聞きました。その生意気なC-Kジェネレーションズ討伐を是非ともこの私めにお命じ下さい。」

とダルクマドンナに頼むが、そこへ、

「いや、ここはこのディムグレイガルーダに任せて下されば。」

オウギワシ型のロイヤルドール・暗黒鳥神ディムグレイガルーダも現れて、自薦する。

「何を言うか!先に頼んだのは、この私だ。貴様は引っ込んでおれ!」
「何を抜かす!?奴等を倒せるのはこの俺だ!!」


二体が言い争いを始めたその時、

「やめんか、お前等!!ダルクマドンナ様の御前だぞ!!」

と、巨大なワニガメ型のロイヤルドール・暗黒亀神アイアンスナッパーが、重厚な足音を立てながら現れ、二体を制止する。

「そ、そうだったな。」
「これはすまねえ。


一歩退く二体。

「まあ、落ち着け、お主達。さて、我等シャドウエンパイアの存在が、あのブラウンフォックスに暴かれてしまった訳だが。」
「あの忌々しい女狐が……!!」
「お陰で、俺達の仕事がやりづらくなったわ!!」
「あ奴め、何を考えておるのか……!!」


口々に初音への恨み言を出すロイヤルドール。

「だが、いくら我々の存在が発覚した所で、この我等を止められる術など、まだある訳でもありますまい。」
「その通りだ、シャドウマリア。いずれにしても、我等が全てのパンドラとレガリアを得てしまえば、それで勝負ありだ。」
「そうですな。」
「では、おぬし等よ。準備が整い次第、パンドラとレガリアの探索を再開するのだ!!」
「「「ハハッ!」」」
「お任せを……。」

立ち去るダルクマドンナに一礼するロイヤルドール。



その直後、シャドウマリアは、

「フッ、時期が来たら、お前にも手伝ってもらおうか……。」

円筒形の機器の中で、全身を光ファイバーのようなものでつながれている全裸の女性に語りかけた。
その女性の機器のプレートには、

AKEMI MIYANO

の名前が記されていた。










土曜日の朝の毛利探偵事務所……。



「えっ!?大阪にもシャドウドールが!?」
「ああ。それもシャドウロードを送り込んで来やがったそうだ。」

朝食を食べながら会話するコナンと蘭。
ちなみに小五郎は、泊りがけの仕事に出向いていて、留守だった。

「シャドウロードって、先週の土曜深夜のみなとみらいで、私達が戦ったヤツでしょ?」
「そう、再生能力があって、焔野達の魔法の力でも倒せないヤツだ。」
「和葉ちゃん達、大丈夫だったの?」
「それについてだけど、服部と和葉ちゃんが、初音さんが作ったフォースウェポンでシャドウロードを撃破したそうだ。」
「ああ、それは良かった。」

安堵する蘭。

「ただ、菫ちゃんがそん時のバトルで負傷して、今週はこっちには来れねえそうだ。」
「えっ、そうなの!?」
「ああ。もし来たら、こないだの式神の礼をしようと思ったのに残念だぜ。」
「そんな事より、菫ちゃん、大丈夫なの?」
「ああ。服部の話によると、てっちりが中止になった精神的ダメージの方が大きかったらしいぜ。」
「もう、そんな言い方!でも、食欲があるのなら、大丈夫ね。良かった。ところで、和葉ちゃんや服部君は何時頃来るかしら?」
「昼前位には来るそうだ。」
「じゃあ、その辺りで東京駅に迎えに行こうか?」
「それには及ばねーぜ。アイツ等、じかに工藤邸に来るそうだ。」
「へー。でも、何でまた?」
「初音さんが工藤邸で何か用があるとか。」
「そうなの。なら、私達も後で工藤邸に行きましょ。」
「そうだな。」

コナンと蘭は、この後も色々と話しながら、朝食を続けた。



  ☆☆☆



午前10時ごろ、米花町界隈にて……。



「ねえねえ、昨日の夜、大阪の方にも、シャドウドールが現れたんだって!」
「僕もそれ、テレビで見ましたよ。」
「みなとみらいん時は、でっけーアリだったけど、昨日のは、でっけーカナブンだったよな!」

小学校低学年と思われる子供が三人(二人は男の子で、一人は女の子)、話をしながら道を歩いていた。

「警察の偉い人、女の人だったけど、見たの初めてだったね。」
「ええ。それにしても、魔法が本当にあるなんて、信じられません。コナン君もいつも、非科学的な事は否定していましたしね。」
「けどよー。こないだ新宿御苑で会った怪物達、魔法で動いてるって方が、説明つくって思うんだけどよ。」
「そうね。コナン君、あのテレビ見て、なんて思ってるかな?」
「灰原さんの意見も、ぜひ聞いてみたいものですね。」

三人は勿論、少年探偵団である。
阿笠博士の家に向かっていた。
休日を、阿笠博士の家で、少年探偵団の仲間である哀とコナンと、五人で過ごしたいと思っていたのである。

最近、哀とコナンは付き合いが悪くなり、三人はとても寂しい思いをしていた。

三人が阿笠邸に着いた時。


「おい、見ろよ、隣のお化け屋敷。」
「あ、エトウさんの家ですね。」
「もう、二人とも!あそこは蘭お姉さんの恋人の、工藤新一お兄さんの家だって、ついこないだ、教えてもらったばっかりじゃない!」
「あ、そう言えばそうでしたね。エトウじゃなくて工藤って読むんだって、教えてもらったんでしたよね。」
「やたらと難しい名前なのは、高校生探偵だからか?」
「元太君、それは違うと思いますよ。土地の名前や人の名前は、読み方が難しいものが多いって、工藤探偵が教えてくれました!」
「まあ、それはどっちでもいいんだけどよ。あの赤いトラック、何だろう?」

歩美と光彦が、元太の指さす方を見ると。
工藤邸の前に、大きな赤いトラックが泊っていた。

「誰か、引っ越して来るのかな?」
「でも、あそこには、工藤探偵が住んでる筈ですよ。」
「蘭姉ちゃんのお嫁入りか?」
「まだ高校生だから、それはないでしょう。」
「じゃあ、一体何なのかしら?」
「ちょっと覗きに行こうぜ。」

好奇心と冒険心に溢れた三人だから、こういう時誰も止める者はいない。
そのまま行き先を変更して、赤いトラックに向かう。
三人は単純にトラックと思っていたが、それは大きなトレーラーハウスだった。

トレーラーハウスの横に立ち、ドアらしきものをトントンと叩く。

「すみません、誰かいませんか?」

すると、

「何や!?」

女性の声と共にあっさりドアが開き、中から出て来た人物を見て、三人は驚いた。

「あー!テレビに出てた!」
「警察の偉いお姉さん!」
「キッドをやっつけた姉ちゃんだぜ!」

その女性・初音は、三人を見ると、

「お。お前ら、少年探偵団やな。」

と、あっさり言った。

「すごおい!お姉さん、私達の事、知ってるの?」
「それも、魔法の力ですか?」
「すげーなあ。俺達、有名人だぜ!」

三人が口々に感嘆の声をあげるのに対して、初音は。

「いや、あんた達の事は、コナンや哀から聞いたんや。」

と、あっさり否定してみせた。

「哀ちゃんとコナン君から?」
「コナンのヤツ、やっぱり抜け駆けかよ。」
「コナン君はともかく、灰原さんまで……。」

そこへ、更に別の声がした。

「私がどうかしたの?」
「哀ちゃん!」
「灰原さん!」
「灰原。」

いつの間にか、哀がそこにやって来ていたのである。

「よう、おはよう、哀哀。」
「その、中国人みたいな名前の呼び方、止めてくれる?」
「お、哀哀は、中国人蔑視か?」
「そ、そんな事言ってるんじゃないわ!」

哀が、調子を狂わせている様子を、少年探偵団の三人は、不思議そうに見ていた。

「哀哀って、パンダみたいな呼び方だな。」
「だから、灰原さんがそう言ってるじゃないですか、中国人みたいだって。」
「パンダって、中国人なのか?」
「中国の、動物です。」

いつまでも「哀哀」から話題が動かない事に焦れて、哀が言った。

「もう、そこから話題は離してくれない?所で初音さん、あなた一体、こんな所で何を?」
「ああ、簡単な事や。こっちに引っ越して来たんや。」

初音があっさり言った。

「え?引っ越しって……。」

哀が、驚いた顔で問い返したが。
少年探偵団は別の意味で反応したようである。

「ま、まさか、新一お兄さんが浮気!?」
「これは、大事件ですよ!」
「他の女を嫁に貰うのか!?これは、蘭姉ちゃんに知らせねえと!」

そこへ、また別の声がした。

「おい、誰が浮気だって!?」

コナンが蘭と共に、額に青筋を立てながら立っていた。

「新一お兄さんの事よ!」
「蘭さん、工藤探偵は、浮気者です!探偵としては立派かも知れませんが、止めておいた方が良いですよ!」

蘭は、苦笑いをしながらそれを聞いていた。
コナンが、相変わらず青筋を立てながら、言った。

「勝手な事言うんじゃねえ!俺……あ、いや、新一兄ちゃんは、蘭姉ちゃん一筋だ!」
「でも、この姉ちゃんが、ここに引っ越して来たって言ってたぜ!ここには、新一兄ちゃんが住んでんだろ?って事は、嫁に来たって事なんじゃねえのか!?」

元太が詰るように言って、コナンは驚いた。

「なっ!?初音さんが、ここに引っ越し!?」
「せや。」
「おい!何を考えてんだよ!?俺……いや、新一兄ちゃんに無断で!」
「ここの持ち主は工藤新一やのうて、工藤優作センセーやろ?ウチはちゃんと、家主に許可を得てんのやで。」

そう言って初音は、鍵と、書類を示した。

「ん?これは?」
「賃貸契約書。どや、これで文句はあらへんやろ?」
「ははは……確かに、あんたに文句は言えねえよな……(あんの、クソ親父〜〜!一体何考えてんだ!?第一、初音さんの立場と経済力なら、いくらでも家やマンションを借りられる筈……ハッ……まさか……)。初音さん。もしやここ、魔法とか実験とかの場として、使う気じゃねえだろうな!?」
「ご名答。普通の賃貸住宅やマンションやったら、そんなん許されへんからなあ。その他にも、隣の阿笠のじーさんトコの設備も借りれるし。」
「あなた、ホントーに図々しいわね……。」

ジト目で呆れる哀。

「はっはっは……(事情は分かる。分かるが……俺の居場所はどうなるんだよ〜〜!?)」

コナンが自嘲的に笑うのを、蘭が心配そうに見ていた。

「でも、良いんでしょうか?工藤新一さんが住んでいる所に、一緒に住んだりして?」
「そうだよな。男と女が同じところに住んでると、うしとらって言われるんだよな。」
「それを言うなら、ふしだらでしょ?でも、何でかなあ?」
「……あなた達は、まだ知らなくて良い事よ。」
「ねえ、蘭さん、工藤探偵がこの女性と一緒に暮らすのは、やっぱり浮気に見えませんか?」

突然話を振られて、蘭は焦る。

「あ、あの。べ、別に、私は。新一の事、信頼してるから。」
「信頼してたら、一緒に住んでも大丈夫なの?」

歩美の無邪気な質問に、蘭は詰まる。
そもそも、男女が一緒に住むと何故問題なのかも分からない少年探偵団に、逆に何故大丈夫なのかを説明するのも、難しかった。
そこへ、初音が言った。

「ああ、心配あらへん。あいつは元々、殆どこの家には帰って来えへんかんな。」
「えっ!?」
「まあ確かに、あんまり帰って来ないから、行方不明と噂が立ったり、してますけどねえ。」
「じゃあ、新一にーちゃん、いつも何処で寝泊りしてんだ?」
「それなんやけどな、実はあいつ、他の女のとこにいつも泊まり込んでるんや。」

初音の爆弾投下発言に三人は、

「「「えええええ〜〜〜〜〜っ!?」」」

大声を上げ。

「「!!!」」

コナンと蘭は、石化してしまった。

「じゃ、じゃあ、本当に浮気!?」
「蘭さん、考え直した方が良いですよ!」
「男の風上にもおけないヤローだな!」

「あ、あのね。新一は、そんなんじゃなくて……。」
「ははははは……(間違いじゃねえけど、間違いじゃねえけど……フォローのしようがない言葉を言ってくれて、どうすんだよ!?)」

皆の様子を見て、哀は、

(初音さんって、本当にトラブルメーカーなんだから……。)

と溜息をついていた。

そこへ、更に現れたのは。

「初姉、こんなところで何してんのや?」
「何や、賑やかな事になってんね。」

平次と和葉だった。

「あっ、平次お兄さんに和葉お姉さん。」
「ちょっと聞いて下さいよ!工藤探偵、他の女性の所で寝泊りしてたんですよ!」
「「え゛っ!!?」」

面食らったような平次と和葉。

「全く、あんな浮気モノが名探偵だなんて、ホント信じられねーぜ。」
「ま、まあ、落ち着きいな。工藤君かて、色々と事情があるんやから。」

宥める和葉。

「せやなあ、あいつ、卑怯もんやからなあ。今頃、どこぞの女といちゃついとるかも、知れへんなあ。」

平次が、からかうような目つきで、コナンと蘭を見て、言った。

「い、いちゃついてなんかないわよ!」

蘭が真っ赤になって言う。

「蘭さんが、何故赤くなってんでしょう?」
「あんまり腹が立ってるから、赤くなってるんじゃない?」
「蘭姉ちゃん、可哀そうだな……。」

少年探偵団が、蘭の言動を誤解して同情に満ちた眼差しを送った。

「平次……あんた、火に油注いでどないすんねん……。」

今迄の話の流れが分からなくても、平次が事態を混乱させる言葉を吐いてしまった事だけはよく分かるので、和葉は額を抑えて溜息をついた。

そこへ、

「オメーら、勝手な事言ってんじゃねえよ!」
『!!?』

その場に突然「工藤新一」が現れ、一同は驚いた。

「初音さん。あんまり、ない事ない事ほざくようだったら、こちらにも考えがあるが?」

新一は、初音をぎろりと睨んだ。
勿論この新一は、コナンが事態を収拾する為に繰り出した式神である。
だが、

「ほおお。睨む視線まで、短期間にマスターしよったか。」

初音は、動じる事なく、感心したように言った。


一方、平次と和葉は、思わずコナンと式神新一を見比べていた。
コナンは、半瞑想のような状態になっている。

「こ、これって多分、アレ……やろうな?」
「御剣が前に送ったと言ってたから、間違いないやろ。」


「ねえ、新一お兄さん。本当に、浮気はしてないの?」

歩美が、真剣な眼差しで式神新一を見上げて言った。
式神新一は、優しい眼差しで歩美を見る。
分かっていても、思わず蘭が嫉妬してしまう位に、優しい目付きだった。

「ああ。俺は、蘭一筋なんでね。」

コナンが式神の口を借りて告げた言葉に、皆、赤くなって口をパクパクさせた。
蘭も真っ赤になる。

「おーおー、ご馳走さん」

平次が口笛を吹いて言ったが、

「茶々入れるんじゃねえ……!」
「ぐぐぐ……!」

式神新一にぎろりと睨まれ、首を縮められた。

「でも、新一さんは、ここにあまり戻らないって、聞きましたが?」
「女のとこに泊ってるって話は、どうなのかよ?」

光彦と元太が、式神新一に迫る。

「実は、あの黒の組織絡みの事と、それに連なるシャドウエンパイアの事で、泊まりがけて捜査する事が多くてな。なかなか家には帰れねーんだよ。」
「あ、そうだったんですね。」
「シャドウエンパイアにも、捜査を協力するメンバーにも、女性も多いが男性も多い。だから、他の女も居るところで寝泊まりするのは、本当だけど、女性と2人同じ部屋でって事じゃない。いつも同室者は、男性だよ。」
「なんだ、そういう事かよ。ビックリしたぜ。」
「せやなあ、おっさんのイビキがうるそうて眠れへんって、前に言っとったなあ。」

その平次の台詞に、式神新一はゴインと拳を入れた。

「あたた〜〜〜!!」
「調子いいんだよ、オメーはよ!」
「感触も、リアルやなあ。とても紙とは思えへんわ……。」

もう一度式神新一の拳が飛んで来そうになったので、平次は慌ててそれを避けた。

「まあ、この家に帰って来る時も、寝る部屋は初音さんとは全く別だから。アパートみたいに、部屋を貸すだけの関係だよ。」

式神新一の言葉に、少年探偵団はしっかり納得した様子で、頷いた。


そこへ。

「こんちは。おや、こりゃまた、皆さんお揃いで。」
「こんにちは〜。大阪の人達が来るって聞いたから、青子達も遊びに来たよ。」

快斗と青子が、姿を現した。

「よお、黒羽に青子ちゃん。」
「へっ!!?く、工藤!?」
「ええっ!?工藤君、どうして!?」

挨拶をしたのが式神新一だったので、2人は飛び上って驚いた。

「俺は、留守がちって言っても、この家の住人だぜ。そんなに驚かなくても。なあ、坊主?」

式神新一がコナンを振り返って言った。

「うん!新一兄ちゃん、捜査がとりあえずひと段落して、これからは学校に通えそうなんだよね。」

快斗と青子は、目を白黒させていたが。
この場に、コナンと新一が同時に居る事態に、秘密を知っている筈の面々が全く動じていない様子を見て、何かがあるのだろうとピンときた。

「……これ、何の魔法な訳?」

快斗が、平次の耳に囁くと。
平次は簡潔に

「式神や。」

と答えた。
それだけで、膨大な知識を持つ快斗は、全てを了解する。

青子は青子で、蘭から詳しく耳打ちされて、頷いていた。

「それにしても、式神と自分自身とで掛け合いまでやれるとは。この短期間に、よくもまあそこまでマスターしたもんだな。」

快斗が、感心したように頷きながら言った。

「菫ちゃんにも、この様子、見せてやりたかったで。」

和葉がそう言ってため息をついた。

「え?菫ちゃん、どうしたの?」

と訊く青子。

「昨日、住之江公園でシャドウドールとバトルがあってな。少し、ダメージを喰らってもうて、こっちに来れへんのや。」
「えっ、そうなの!?」

驚く青子。
そこへ、

「ええ!?菫さんって、この前新宿御苑で、剣を振り回してた、あの人?」
「シャドウドールと闘っていた、カッコいいお姉さんですよね!?」
「大丈夫なのか!?」

少年探偵団が、話に割り込んで来た。

「大丈夫やろ。食欲はあんのやから。」
「うな重食べたら、元気になんねえか?」
「せやな。帰ったら、うな重でも食わせたろ。」

「大した事がないのなら、良かったわ。」

青子が言った。
そして今度は、平次が快斗と青子に向かって問いかける。

「あの、忍者姉ちゃんと眼鏡の姉ちゃんは、今日はどないしたんや?一緒やあらへんのか?」
「ああ、風吹なら伊賀に帰ってるぜ。何でも、棟梁にシャドウエンパイアの件について報告するんだとか。それに恵子は確か、コンサートとか言ってたなあ。」
「成る程。」


「お、話は落ち着いたようやな。」

と、突然にこやかに言う初音。

(そもそもあんたが、話をややこしくさせた張本人じゃねえかよ。)

内心突っ込みを入れるコナン。

「皆を集めたのは、他でもない。手伝うて欲しい事があるからや。」

一同は、真面目な顔付きになって、初音の次の言葉を待った。

「こん屋敷、普段人がおらん事が多いやろ?うちが使わせて貰う部屋は、何年も使うてへんから、更に埃だらけなんや。一人だけではよう掃除でけへんから、手伝うてや。」

初音がにっこり笑ってそう言った。
おまけに。

「おい、何だよこれ!?」
「いつの間に!?」

何故か、全員の手に、バケツや雑巾やハタキやモップといった掃除用具が、握られていたのである。

「これも、ひょっとして魔法か?」
「んな魔法が使えんのなら、掃除に使えよ。」

口々にブーたれる一同。
更に。

「ええ!?まさか、僕達もですか!?」
「うっそー!」
「マジかよ……。」

少年探偵団の手にも、それぞれ箒が持たせられていた。

「立っているものは親でも使えって格言もあるやろ。ここに来たのも、何かの縁、しっかり手伝うて貰うで。」

にこやかに言う初音。

「俺達、親じゃなくて、子供だぜ。」
「まーまー、そんな堅い事言わへんと。」
「堅い柔らかいの問題じゃないですよ!」

溜息をつき文句を言いながら、少年探偵団も屋敷の中に入って行く。

「……あいつらも、人が良いからなあ……。」

コナンも諦め顔で、続いて入った。

「そもそも、お前が普段掃除してへんからやろ!」

平次からの突っ込みに、式神新一がぎろりと睨む。

「普段、ぜってー掃除してねえオメーに言われる筋合いはねえ!それに、俺が何で、自分が使う範囲以外の掃除までしなきゃなんねえんだよ!このばかでかい屋敷、毎日まともに掃除してたら、学校にも通えねえぜ。」
「まあ、初音さんが住むんじゃなかったら、必要なかった事だもんね。今回の責任はむしろ、新一よりも、初音さんの従弟の服部君にあるんじゃないの?」
「ななな、何言うてんねん!姉ちゃん!」
「……蘭ちゃんの前で工藤君を悪く言う、平次が間違うとる。」

文句タラタラの平次を、和葉が引きずって、屋敷に入った。

ずっと傍観していた快斗が、ボソリと言う。

「コナンのヤツ、式神を随分巧妙に操れるようになってるな。いや、感心感心。」
「ホラ、快斗も行くよ!」

青子が言って、快斗の手を引っ張る。
青子の手には、当然の如く、モップが握られていた。


   ☆☆☆


工藤邸は、外から見ても馬鹿でかいが。
中に入っても、やはり馬鹿でかかった。


「うちが使わせてもらうんは、この部屋や。」

そう言って初音が歩き、一同を案内する。
そして入ったところは、かなり広めのワンルームといった感じの部屋だった。

「わあ!台所がついてますよ!」
「ホント、すごいわね、新一お兄さんが同居じゃないって言ったのも、これならわかるよ。」

少年探偵団は、思いがけない広いゲストルームに、歓声を上げていた。


「ほお、工藤の家には、こないな部屋まであったんかいな。まるでマンションやないけ。」

平次がそう言って口笛を吹く。

「……オメーんちだって、馬鹿でかいだろうに、何を言ってる?」

そう突っ込みを入れるのは、式神新一だ。

「日本家屋がでかいのと、洋館がでかくて独立したキッチン付きの部屋があんのとでは、意味が違うわ。」

「……私も、工藤邸にこんな部屋があるとは、知らなかったわ。」
「ええ!?蘭ちゃんが!?」
「そりゃそうだろ。俺だって滅多に入った事がねえ部屋なんだからよ。ここ使うのって、何年ぶりだ?」
「確かに、埃だらけやな……。」

良く見ると、その部屋は、埃が積もっている上に、クモの巣まで張っていたりした。

「やっぱりお化け屋敷だったんだな。」

ひとり感心する元太。


「さ、皆、張り切って掃除して貰うで〜!」
「って、初姉は、掃除せえへんのかい!?」
「いくらうちが図々しいからって、あんたらだけに働けとはよう言わん。うちには、作業があんのや。」

そう言って初音が取りだしたのは、本格的な工具箱であった。


「初音さん、それは一体?」
「これから、ガス栓と蛇口の交換、それに照明用具一式の取り付けや!」
「が、ガス栓の交換!?おい、止めてくれ、うち……いや、新一兄ちゃんちを、壊す気か!?」

たまらずに、式神を使うのも忘れて初音に詰め寄るコナン。

「何でや?うちの腕は、そこらの工務店より確かやで?それに、改造許可は、家主からちゃーんと得とるし。」
「大体、ガス配管関係の工事は、資格が要るだろ!?」
「あ、それなら、これがうちの免許証や。ちゃんとガス配管取扱いの資格持っとんのやから、心配あらへん。」
「……は、初音さん、一体いつの間に……。」
「初姉は、資格マニアやからな。」
「マニア言うな!集めるだけが能のマニアとは違うで、ちゃんと実践積んどんのや!」

そうまで言われては、 認めるしかない。

コナンはしぶしぶ折れて、掃除をしながら初音を見張っていたが、確かに言うだけあって、腕は確かなようだった。
別に爆発する事もなく、テキパキと作業が進んで行く。


「いや、初音さんも凄いな〜。」
「何でも出来るのね。」

感心しているのは、快青の二人。

「何年も使ってなかったってのは、確からしいな。埃だけじゃなくて、設備が旧式だ。」
「ここのお屋敷って、工藤君一人だけなら勿論、親子三人でも大き過ぎるんじゃないの?」
「親父は、莫大な蔵書を納められる書庫が欲しかったらしいから、この位の家は必要だったらしいけどな。」
「優作センセーは、魔法関係の蔵書も沢山持ってはるで。」
「げ。親父の蔵書は皆知ってる筈だったけど、それは見た事ねえ。さては、隠し書庫があったな。」
「新一も知らない秘密が、あったのね。」
「やっぱ、伝説の勇者だけの事はあるな。」

掃除をしながら、何となく聞き耳を立てていたらしい少年探偵団。

「伝説の勇者って、何の話ですか?」

光彦が、横やりを入れて来た。

「んなの、知らなくて良いんだよ。ホレ光彦、さっきから手が動いてねえぞ。」

コナンが仏頂面でそう言った。

(式神を動かしながら、ちゃんと掃除もしとるんやな。よう使いこなしとるで、感心感心。)

初音がそのような事を考えているなど、コナンは気付いていない。


工藤邸は、一階と二階に風呂場が一つずつあり、台所もメインのものがある。
初音は、基本的に二階の風呂と、キッチン付きのゲストルームを使う事になっているという事だった。

「たまに、凝った料理をしたりする時は、メインのキッチンを使うてもええって、有希子はんが言うてくれたで。」

初音が嬉々として言った。

「凝った料理って……初音さん、そもそも料理なんか出来んのか?」

コナンが思わず突っ込みを入れる。
それに対して和葉が、

「初ちゃんはこう見えても、静華オバチャン仕込みで、料理は得意なんや。」

と補足する。

「……そうなのか、ははは。(本当に、見かけによらねえぜ)けど、警察官とマジックギルドの仕事で忙しくて、料理どころじゃねえんじゃないか?」
「C‐Kジェネレーションズとアルファトゥオメガの親睦を深める為に、たまには腕を揮わんとなあ。」
「あ、そ。」



そして、一通りの掃除も終了し、初音は再び工藤邸前のランドフォートレスへと向かった。
それに続くコナンと平次達。
その一方で蘭達女性陣は、お茶の用意をしている。


「さて、そろそろ荷物の搬入を始めるで。」

そう言いながら初音は、ランドフォートレスの後部扉を開けて、車内に飛び乗った。

「荷物の搬入って……オレ等が運ぶんかい?」
「いーや、その必要は無いで。」

平次の問いに答えた初音は、

「…………。」

何事か呪文らしきものを唱え始めた。

「ん?何やってんだろ?」

快斗がトラックを覗いた瞬間、

ガンッッ!!

「ぶふっ!」

何かに顔をぶつけてしまった。

「黒羽!」
「いててて……。」

たまらず鼻を押さえる快斗。

「な、なんだあ、今のは……って、ええっ!!?」
『ななっ!?』

一同はトラックを見て驚く。
何故なら、

「た、たんすが浮いてる!?」
「ベ、ベッドも!?」

荷台から大型家具が次々と浮遊しながら出てきたからだ。

「おーい、そんなトコに立っとると、ぶつかるでー。」
「もうぶつかってるって……。」

鼻を押さえながら嘆く快斗。

「しっかし、何やこれ!?あんなでっかい家具が浮いてるなんて!?」
「浮遊魔法……。」
「え?」
「恐らく、家具に浮遊魔法をかけて、運びやすくしてるんじゃねーか?」
「おお、さすがやな、コナン。」

コナンの推察力に感心する初音。

「こ、これが魔法なの……?」
「うっわー、すっげーなあ……。」
「一昨日、初音さんが言ってた事は、やっぱりホントだったんですね……。」

少年探偵団は、実際に魔法を目の当たりにして、大いに驚いていた。

「ささ、こいつ等を搬入せな。」

そう言いながら初音が工藤邸の敷地に入った時、

「うわっ!か、家具が初姉についてっとるで!!」
「おいおい、マジかよ……。」

家具類が続いていくのを見て、更に驚く一同。
コナンがボソリと呟いた。

「……こんな事が魔法で出来るんだったら、掃除要員の必要性は、全くなかったんじゃねえか?」

平次が、コナンの頭をぽんと叩いて、悟りを開いたような顔で言う。

「工藤。当たり前やろうが。あの初姉が、俺らの手を借りる必要、ホンマにあると思うとるんか?」
「いや。でも、じゃあ、何でだ?」

話に割って入ったのは快斗である。

「嫌がらせとかじゃねえよな?」
「それはあらへんやろうけど、俺らを困らせて遊ぶ気ぃ位は、あったかも知れんと思うで。」

三人は別に、内緒話をしていた訳ではなく、初音に聞かせる気で話していたので、初音はすぐに聞きつけて突っ込んで来た。

「アホ抜かせ、うちがそんな事の為に、あんたらを使うと思うてんのか?」
「思いっきり、思う。」

即座にそう返事した快斗は、ポカリと初音の拳を受けた。

「掃除のような細かい作業は、魔法で出来ん事はあらへんけど、ごっつ魔力と体力を使うから、もろ疲れるんや。」
「……だったら、初音さんが普通に掃除すれば良いじゃん。」

どうも、今日の快斗は反抗的である。
コナンがあごに手をかけて、少し考え込んだ。

「初音さん。もしや、初音さんの魔法は、大技が得意だけど、細かい作業は苦手……つまり、不器用なのか?」

コナンの言葉に、ピクリとするかと思いきや、初音は満面の笑みで、

「さあさあさあ、家具の配置せえへんとな。」

と言いながら、再び工藤邸へと入って行った。


「……どうやら、図星だったようだな。」
「都合が悪いから、逃げたんやろな。けど工藤、ようやったで。あの初姉に一矢報いたんは、オヤジと遠山のおやっさんを除いたら、お前が初めてや。」
「おいおいおい。あの程度で一矢報いた……って……。」
「苦労したんだなあ、服部。」

快斗が、同情に満ちた眼差しを、平次に向けた。



  ☆☆☆



『いっただーきまーす★』

引っ越し作業も一段落し、コナン達は工藤邸のリビングで一服していた。

女性陣が、皆に紅茶を淹れた。
さすがに王女様と言うべきか、紅茶の葉は最高級のダージリンで、その香りの良さには皆感服していた。

そして、お茶うけに出たのはクッキーだった。

「お、美味いなこれ。」
「ホント、すっごく美味しい。」
「どこの店で売ってるのかしら?」

クッキーの美味しさに、皆舌鼓を打ちながら褒めていた。
すると。

「あ、それ、うちが作ったんや。」
『えええ!?初音さんが!?』

平次と和葉以外の全員が驚いた。

「信じられねーけど、料理上手はあながちデタラメでもなかったんだな……。」
「コナン、そこまで大仰に驚く事あらへんやろ!」
「いや、これでも褒めたんだぜ。」
「そうよね、初音さん、新一君は蘭の美味しい料理で舌が肥えちゃって、味に関してはうるさいのよ。何しろ、麻美先輩のレモンパイすら、不味いって言った新一君だもんねえ。」
「もう、園子ったら!って、え!?園子、いつの間に!?」

掃除の段階では居なかった筈の園子が、いつの間にか混ざり込んで、一緒にお茶を飲んでいたのであった。

「園子姉ちゃんなら、蘭姉ちゃん達がお茶を入れている間に、お邪魔しますって言って来てたぜ。」

と、珍しくフォローを入れる元太。

「ところでオメー、何しにここへ?」

式神新一が尋ねると。

「あ、蘭のとこに行こうと思ってメールを入れたら、蘭から初音さんの引っ越しと、こっちに来ている旨、返信があったのよ。」
「そっか、なるほど。」
「それにしても。ますます、式神操り、慣れたようねえ。」

園子が、感心したように式神新一を見詰めた。
そこへ、

「式神操りに慣れたって、何の話ですか?」

光彦が突っ込みを入れて来た。

「あ、高校生の間で最近人気のマンガの話なの。」
「小学生には、難しいのか?」
「そうねえ。あんた達には、まだちょーっと、早いかもねえ。」

「園子のヤツ、ずいぶんアドリブが上手くなったな。」

と感心して蘭に小声で囁くコナン。

「だって園子も、C−Kジェネレーションズの一員ですもの。」
「確かにな。」

そこへ平次が、

「ところで、あの巫女姉ちゃんは、今日は一緒やあらへんのか?」

と、尋ねて来た。

「あ、舞なら、今日は精進の日だとかで、神社に籠ってるわ。」

と答える園子。
すると。

「舞さんって、化け物をお札で攻撃してた、カッコいいお姉さんだよね。」
「もしかして、舞さんは、魔法で戦う力を持ってるんですか?」
「手裏剣づかいのくのいち姉ちゃんも、大阪の剣術姉ちゃんも、すっげーカッコ良かったよな。もしかして、あの二人も、化け物と闘ったって事は、魔法の力を持ってんのか?」

コナン達は、少年探偵団の鋭さに、思わず驚いていた。
初音が、ニヤッと笑って言う。

「ほう。あんた達、なかなか鋭いやん。ええとこ突いてるで。」
「じゃあ、やっぱり、あの人達は、服部警視長がテレビで言った、魔法の力で戦える、善の存在なんですね。」
「すっごーい!美人で、強くて、魔法の力も持ってるなんて!」
「仮面ヤイバーみてえだよな。」

ヤイバーファンの元太にとって、「仮面ヤイバーみたい」は褒め言葉である。

「僕達も、化け物と戦える力が、欲しいです……。」
「うん、化け物が出てきたら、私達って、足手まといだもんね。」
「そうだよなあ、俺も、仮面ヤイバーみたいな力、欲しいよなあ。」


子供達の言葉は真剣だが、普通だったら「微笑ましい戯言」として、聞き流されるところだろう。
しかし。



「そうかそうか、あんた達も、化け物と対等に戦いたいのか。なら、あんた達にええもんやるで。」

『!!!!!』


C−Kジェネレーションズのメンバー全てが、ハッとして息を呑む。

何故なら、初音がおもむろに取り出したものは、コナン達に与えたものと同じ、三つの光の腕輪だったからだ。



To be continued…….





Vol.3「大阪住之江公園大会戦!」に戻る。  Vol.5「東京BAY-Dancing night」に続く。