C-K Generations Alpha to Ωmega



By 東海帝皇(制作協力 ドミ)



第二部 勇者激闘編



Vol.5 東京BAY-Dancing night



「うわあ、きれいですねえ。でも、僕達男だから……」
「高そうな腕輪だなあ。これで、鰻重何杯食えるかな?」
「きれい……でも、わたし達、まだ子供だし、アクセサリーは早いって、お母さんに言われないかなあ?」

初音から腕輪を差し出された少年探偵団は、その美しさに見とれながらも、それぞれ受け取るのはためらっていた。

コナンと哀は、血相を変えて初音に詰め寄った。

「ちょっと待て!こいつらを巻き込む気か!」
「初音さん、あなた何を考えてるの!?」

それに反応したのは、少年探偵団の三人である。

「コナン君、それに灰原さんまで。今気付いたけど、ちゃっかり腕輪をしてるじゃないですか。」
「何だ、またお前ら抜け駆けかよ!?」
「二人だけ、ずるーい!」

光彦・元太・歩美はそれぞれ、コナンと哀に詰め寄った。

「い、いや、こ、これはだな……。」
「別に、そういう事じゃ……。」

今度は、しどろもどろになってしまったコナンと哀。


「二人だけ、お揃いなの!?」
「歩美ちゃん、それは違うと思いますよ。見て下さい、蘭さんや園子さんや、他の皆さんも同じ腕輪をしています!」
「って事は、俺らだけ除け者かよ!」

『ギクッ!』

思わず慌てる一同。
そこへ、初音が落ち着いた声で言った。


「あんな、三人とも。これは、魔法の力で戦う為の、アイテムや。」
「え!?魔法のアイテム、ですか?」
「って事は、コナン君と哀ちゃんも?」
「やっぱ、抜け駆けじゃねえかよ!」


(は、初音さん、何て事を!)

更に慌てまくる一同。


「僕は、コナン君と灰原さんは、きっと魔法の存在を信じてないだろうなと思ってました。けれど、いつの間にかこんな……裏切られた気分です。」

目を伏せて悲しげに言う光彦。
コナンは、ようやく落ち着きを取り戻して、言った。

「それは違うよ、光彦。俺達も、ほんの少し前までは、魔法の存在なんか信じてなかった。オメー達も一緒だった、あの新宿御苑でのバトルの後、この初音さんから色々話を聞いて、ようやく分かって来たところなんだ。」
「それにね。魔法の戦いは、たとえアイテムがあっても、誰でも出来る訳じゃないの。私達には、誰が能力者なのか、知る術もない。初音さんにアイテムを渡されて『戦え』と言われて、ビックリしたのはこっちよ。あなた達を、仲間外れにした訳じゃないの。」

コナンと哀の言葉に、一旦納得したように見えた三人だったが。

「だって、今、コナン君と哀ちゃん、初音お姉さんに食ってかかったじゃない!」
「そうだぜ。俺達抜きにしようって、思ってたんだろ?」

「いや、そうじゃない、そうじゃないんだ。もし出来るものなら、魔法の戦いに巻き込まれず、平和に過ごしていた方が良い。俺はな……信じてくれるかどうか分からねえけど、オメー達を、守りてえんだ……。」
「魔法の戦いは、テレビを見てたのなら分かると思うけど、今までとは全く次元の異なる話なのよ。私も、本当だったら、関わらずに済むならそうしたかった。だから、仲間外れにしようと思ってたんじゃないの。」

コナンと哀の心からの言葉は、少年探偵団のみならず、一同の胸を打った。

「けど、やっぱ悔しいぜ。俺達、そんなに便りねえのかよ?コナンと灰原に守られてばっかりなんて、俺は嫌だぜ。」
「僕もです。」
「私も。守ってくれるのは、嬉しいと思うけど。」


三人がそれぞれに唇を噛んで、悔しそうに俯いた。
初音が、感心したように言う。

「ほう。三人とも、修羅場を何度も潜り抜けただけあるで。まだ子供なのに、肝の据わり方は一流やな。」
「初音さん!けど!」

更に抗議しようとしたコナンを制したのは、

「し……コナン君、それに哀ちゃん。あのね。日本全国、誰だって、いつ、魔法の戦いに巻き込まれたって不思議じゃない非常事態でしょ?コナン君と哀ちゃんが、いつでも元太君達を守れる訳でもない。だったら、自衛の手段は子供でも持っていた方が良いんじゃないかしら?」

何と蘭であった。

「ら、蘭!!……姉ちゃん。」
「蘭さん!?」

慌てまくるコナンと哀。
それに対して、

「さすが、蘭さんですね!」
「コナン達より話が分かるぜ!」
「ありがとう、蘭お姉さん!」

と喜ぶ三人。
平次が、コナンの肩をポンと叩いて言った。

「くど……いや、坊主。お前の負けや。こん三人を守ろう思うたら、蚊帳の外に置くより、むしろ仲間にしてもうた方がええと、俺も思うで。」
「ったく、人の気も知らねえで……。けど、こうなった以上、何も知らせず守るってのは、確かにもう、不可能だよな。」

平次に答えたのは、式神新一であった。


三人は、改めて初音から、腕輪を受け取った。

「学校に行く時、コナン君達はどうしてるんですか?」
「そりゃ、ポケットに入れたり、ペンダントみてえに首から下げて服の内側に入れたり、だな。」
「けどこれ、もし落としたりしたらどうすんだ?」
「それは心配あらへん、これは見た目おんなじ風やけど、ちゃんと一人一人に合わせて作ってあるんや、頭ん中で呼べばご主人様の所に跳んで来るようになっとる。」
「ご、ご主人様か……でへへへ。」

初音の説明に、夢見る顔になる元太。

「でも、初音お姉さん、なぜ、わたし達にこれを?」
「それは、あんたら三人も、グランマザーに選ばれたメンバーだからや。」
「グランマザー!?」
「簡単に言えば、我ら善の魔法戦士を束ねる、マジックギルドの長や。」
「じゃあ、ここに居る皆さんも?」
「そういう事よ。」

応えて胸を張る園子。

「じゃ、じゃあ、みなとみらいとか、住之江公園とかで、化け物と闘ったのは、コナン君達なの?」
「ああ、そうだぜ。と言っても、メンバーは多いから、全員が同じ時に揃っているとは限らねえけどな。」
「メンバーって、どの位いるんですか?」

そこで初音は改めて、アルファトゥオメガとC‐Kジェネレーションズの説明をする。
但し、C−KのKは、「黒羽快斗のK」という事になっていた。

(ははは、さすがに今はまだ、こいつらに快斗=キッドだって事は、話せねえか。)
(コナン=新一だって事も、当面は内緒なんだろうな。こいつらがいる間は、会話に気をつけねえと。特に、服部辺りが危ねえ……つーか、蘭もそうか?迂闊に「新一」と呼ばせねえようにしねえと。)


「えええ!?あの、風見原陽介さんも、アルファトゥオメガのメンバーだったの!?カッコいい!」
「工藤探偵や彼と並ぶ白馬探偵も、C‐Kジェネレーションズのメンバーだったんですね!」

歩美と光彦が、興奮して叫ぶ。
探偵団には、工藤新一もメンバーの一人であるが、例の組織の後始末等で、一緒に戦えない事が多いと説明されていた。

「おい、お前ら。工藤と並ぶ探偵は俺や!俺の存在、忘れんなや!」

平次がジト目で光彦を見て言った。
光彦が笑顔で返す。

「服部探偵は、工藤探偵を凌ぐ探偵じゃなかったんですか?」
「お、おう……せや、分かっとるやないか、坊主。」

思わず相好を崩す平次。

「ははは……光彦も世渡り上手だな……服部、掌で遊ばれてるじゃんか。」

力なく笑うコナン。

「なあなあ、アロンアルファ折り紙と、CCレモネードの事は、博士や、高木刑事達も、知ってたんだよな。」
「名前が違うやろ、元太!ま、警察内部でもこの事を知っとるんは、限られたメンバーや。勿論、高木佐藤両刑事は、知っとるで。二人とも、特殊能力捜査部を兼任しとるからなあ。」
「じゃあ、白鳥警部とか千葉刑事とかは知らないんですか?」
「ああ、せやで。だからあんたらは、白鳥警部や目暮警部よりも上なんや。」

初音の言葉に、思わず夢見る瞳になる三人。

(おいおい、良いのかよ?あんな事を言って調子づかせて。)

心の中でこっそりつぶやくコナンであった。
そして、やはり服部初音は、最強で最凶だと思った。


「ところで。シャドウエンパイアとやらは、何を企んでいるんですか?」
「世界征服じゃねえのか?」
「元太君、現実世界において、世界征服なんて非効率でバカバカしいですよ。」

(おいおい……光彦、オメー、本当に小学一年生かよ!?)

背中に冷や汗をかきながら、心の中で突っ込むコナン。

「お。ええとこに目ぇつけたなあ。そうや、悪者には悪者なりの、目的っちゅうんがあるもんや。」

初音が感心したように頷きながら言った。

「確か会見では、不老不死を狙っているとか言ってましたよね。だけど、アリンコやカナブンの化け物に町を荒らさせても、それで不老不死になれる筈ないですよね。」
「おお。光彦、あんた、天才やなあ。」
「コナン君なら、何か知ってるよね?」

歩美が信頼に満ちた眼差しで、コナンを見詰め、光彦と元太がジト目でコナンを見た。

「あ、いや、ここは……初音さんに説明を聞いた方が良いと思うよ、歩美ちゃん。」

コナンが、額に汗を貼りつかせながら言った。
これを聞いて、

(逃げたな、コイツ……。)

内心突っ込みを入れたのは、快斗である。
今迄の関わりの中で、コナン←歩美←元太・光彦の構図は、既に快斗の知るところとなっていた。(但し、現時点で、光彦→哀の構図まで含まれている事には、さすがの快斗も気付いていなかった。)


初音は少年探偵団に、シャドウエンパイアが不老不死を手に入れる為に、パンドラというビッグジュエルを狙っている事を、丁寧に説明した。

「へえ。でっけえ宝石のどれかに、そのパンダというヤツが、あるって事なんだな。」
「パンドラですよ、元太君。」
「ねえねえ、その、ビッグジュエルって、確か、怪盗キッドが狙っているのじゃなかった?」

歩美の素朴な疑問に、快斗はギクリとしてコーヒーを飲む手が一瞬止まった。

「ああ、あのコソ泥が狙うてるのは、まさしくパンドラや!」
「ブーーーーーッ!!!!」

初音が快斗の方を見てニヤニヤしながら言ったので、快斗は思わず飲みかけのコーヒーを吹いた。

(おいおい、初音さん……いくら何でも、その説明って、毒が利き過ぎてるだろ。)

コナンが、乾いた笑いをもらしながら、内心突っ込みを入れる。

「あん?コナン、何か言うたか?」
「……初音さん。あんた、テレパシー使えんのかよ?」
「アホ。んな事が出来るんやったら、うちは今頃世界征服しとるで。」
「確かに……(初音さんが言うと、冗談に聞こえないのが怖い。)。」


「でやな。我々、C−Kジェネレーションズと、アルファトゥオメガも、パンドラを追ってるんや。」
「それは、シャドウエンパイアの野望を阻止する為ですね!」
「正義の味方か、カッコ良いなあ。」
「私達、少年探偵団の出番ね!」
「オホン。それもあるけどな。それだけやない。ウチらには別の意味で、パンドラを欲しがる意味があるんや。」
「……やっぱり、初音さんも世界征服の為に?」
「ちゃ、ちゃうちゃう!さっきのは冗談やがな、本気にせんといてや!」

そして初音は、自分の母親の事を話し、同じ薬で犠牲になった者達の為に、解毒剤としてパンドラを必要としている事を、説明した。


「例の組織は、そんなとんでもない毒薬も、作ってたんですか!」
「ひどーい!」
「新一にーちゃん達が組織をやっつけても、毒にやられた人は、元に戻せないって事なんだよな。」
「ほお、元太も今日は、妙に冴えてるやないか。」
「い、いや、それほどでも……。」

初音に褒められて、元太は赤くなって頭をかいた。
和葉が、そこで口をはさんだ。

「アタシらも、優華おばちゃんの為に、色々頑張っとるんやで。」
「そうだったの。だったら和葉お姉さん、私達少年探偵団も頑張る!」
「……でも、危ない事はしないのよ。」
「灰原さん、それはお互い様じゃないですか。」
「お互い様って……。」
「灰原も、コナンと一緒で、抜け駆けして危ねえ事を結構やってるじゃねえか。」
「おいおい……けど、確かに。元太、オメー、何気に鋭いな。」
「哀ちゃんとコナン君と、みんなで力を合わせれば怖くないもん!」
「……コナン君。だから、あなた達二人も、少年探偵団を危ない目に遭わせない為にも、自分の身を守らなきゃね。」

(蘭……。くそ、こういう形で釘を刺しに来たか。)

「……ああ、そうだな。哀ちゃん、コナン、オメー達も、無茶するんじゃねえぞ。」
「ハーイ。」

式神新一とコナンとのやり取りに、その場にいた多くの面々は、呆れたような目を向けた。

「あの。あなたに哀ちゃんと呼ばれると、体が痒いんですけど。」

哀は、式神新一に向かって、半目でそう言った。

(おいおい……まさか、灰原と呼ぶ訳にもいかねーじゃんかよ。)

内心突っ込みを入れるコナン。
と、そこで。


「あ、そうだ!忘れるところだったわ!ビッグジュエルと言えばね。」

突然、園子が声を上げた。

「どうした、園子?」

式神新一が尋ねる。

「今日、クイーンセリザベス号が堤無津港に入港するんだけど。」
「あ、世界一周して、また日本に寄港するのね。」
「そうそう。で、今夜は鈴木財閥で借り切って、東京湾クルージングなの。」
「そうなんだ……で?」
「船上パーティの招待状、いくらでも持ってって良いって、パパに言われたから。あなた達全員、招待するわ。」

「「「「えーっ!」」」」

殆どのメンバーが、目を輝かせた。
しかし。

「あ、俺、興味ないから、パス。」
「俺も。」
「俺もや。」

快斗・コナン・平次の三人が、そう言った。

「えー!?コナン君……。」
「ひでーな、オメー!!」
「いくら何でも、それは無いでしょう!!」

涙ぐむ歩美と、それを見てキッとコナンを睨む元太・光彦。
それを呆れたように見詰める哀。

園子が、ふふんと笑って言った。

「良いのかなあ?そんな事言って。C−Kジェネレーションズのメンバー……ううん、リーダーと副リーダーともあろう面々が。」
「どういう事だよ?」
「今夜のパーティにはね。キッドが狙いそうなビッグジュエルを持ったお客さんが、見えるのよ。」
「狙ってねーよ!」

快斗が即座にそう返し、少年探偵団はきょとんとし、他のメンバーは呆れたように天を仰いだり快斗をジト目で睨んだりした。

「何で、黒羽君にそんな事が分かる訳?」
「あ、い、いや……だって、キッドだったら、狙った獲物があったら絶対、予告状出すだろ?」
「そうね……でも、今日、急に、パーティに参加する事が決まった人の事までは、さすがのキッドも把握してないんじゃないかしら?キッドに先立って、ビッグジュエルがパンドラかどうか確かめるのも、私達の大切な任務なんじゃないの、副リーダー?」
「ぐぐぐ……。」
(すげー。やるな、園子!)

園子と快斗のやり取りを、感心して見ているコナン。
青子が口を開いた。

「ねえねえ、園子ちゃん。それってどんな宝石なの?」
「スピネルよ。」
「……古来、よくルビーと間違われていたって言う、あれか?」
「そうそう。ガキンチョにしては、妙に詳しいわね、コナン君?」
(やべ。ここには、光彦達が居るんだった。園子の方が、心得てるよな。俺も気をつけねーと。)
「俺が今、コナンに教えたんだよ。で、やっぱり赤いやつか?」

式神新一が、フォローを入れる。

「ルビーと間違う位だから、赤いのが有名だけど、今回のは紫よ。持ち主は、富沢修さん。姉貴の旦那様になる富沢雄三さんの、叔父様に当たる方なの。」
「……富沢氏が持つ紫のスピネル……パープルストリームか!」
「そうそう、それよ、副リーダー。」
「だから、その副リーダーってのは、止めろよ。」
「それは、ビッグジュエルとしての資格充分な宝石なんか?」

平次が、快斗と園子を面白そうに見比べながら、言った。

「ああ、まあ、そうだな。大粒で、良い宝石だよ、あれは。富沢財閥も、先代の哲治さんが亡くなってから、色々と大変な時期だ。修さんは、あんまり表に出て来ない人だが、今回は甥の婚約者に会いに、出て来るって事だろうな。」
「ピンポーン♪」
「……ところで、園子。良いのかよ?これから親戚になる家なのに、キッドにもし、宝石が盗まれたら……。」
「良いのよ、もしそれがパンドラなら、当然シャドウエンパイアのヤツらも狙って来るって事でしょ?だったら、キッド様に盗まれる方が、宝石も本望って事よ。」
「おいおい……。」

そこへ、

「待って下さい!もしそれがパンドラなら、それから解毒剤を作らないと!」
「そうよ、でないと、初音さんのお母さん、治せないんでしょ?」
「シャドウ鉛筆屋の奴らに盗まれるのもシャクだけど、キッドに盗まれるのも嫌だよな。」

少年探偵団が待ったをかけるが、それに対し園子が、

「……だから、少年探偵団の諸君、怪盗キッドから宝石を守り通してくれたまえ。」
「分かりました!今回の少年探偵団の任務ですね!]
「キッドなんかに、負けないぜ!」
「エイエイオー!」

少年探偵団を煽り立て、それにつられて探偵団の士気が上がった。

これに快斗が顔をしかめ、

「どうでも良いけど、今の園子ちゃんの口調、白馬を思い出しちまうぜ」

と、ぶつくさ呟いていた。
ふと気付いたように、光彦が声を上げた。

「あ、そう言えば、どうも、メンバーには恋人同士の方が多いようですねえ。」

「あ、アホ言うな!俺と和葉はただの幼馴染の腐れ縁……!」

平次が思わず言いかけて、

「何か言うたか、平次……?」
「く、くくくくく……。」

額に青筋を立てた和葉から、首を絞められていた。
余計なひと言で墓穴を掘った平次に、呆れる一同。

(まあ、何にしても、三人とも妙に鋭いからな。とりあえず、今回は納得してくれたようで良かったぜ。それにしても……これから先、こいつらを誤魔化しながらの活動……苦労しそうだぜ……。)

一抹の不安を抱くコナンであった。


「ただ、鈴木財閥主催のパーティとなると、それなりの礼服が必要だよな。」
「そうね、大人の分の服は、一応うちで揃えられると思うけど、チビちゃんの分までは……。」

園子が不安げに言うと、

「園子、そういう事やったら、まかしとき!こんな事もあろうかと、アルファトゥオメガとC−Kジェネレーションズのメンバー達の礼服は、サイズも合わせて準備してあるで。勿論、少年探偵団の分もや!」

と言って、初音が自信ありげに胸を叩いた。

「へっ!?」
「当たり前やがな、前々から、少年探偵団も仲間に入れる予定やったんやから。」
「うわあ、そこまで考えてくれてたんですね!感激です!」
「俺、うな重の食い過ぎで太らねえようにしねえとな……。」
「初音お姉さん、ありがとう!」
(おいおい、いくらなんでも、周到過ぎねーか?)

少年探偵団は感激してはしゃぎ、更に呆れるコナン。

ともあれ、全員分の礼服が揃えられているというのは、この際ありがたかった。
家に帰って着替えていたのでは、時間もかかるし、親にも何を言われるか分かったものではないから。


「アホ子は、お子様だから、ドレスなんか着てもなあ。」

とほざいていた快斗が、ドレスアップした青子の姿を見て言葉をなくしたとか。
それぞれに、恋人の礼服姿を見て、惚れ直し合ったとか。
色々あるが、それはまあ、別の話で。



「じゃあ、者ども!クイーンセリザベスまで……出陣よ!」
『おー!』

園子の号令で、意気揚々と出発する一同。


「なあ、リーダーの人選、間違えたんじゃねえか?」
「ああ。俺もそう思うぜ……。園子・和葉ちゃん辺りで、S−Kジェネレーションズの方が良かったんじゃ?」
「同感や。どう考えても、あっちの方がバイタリティあるで……。」

そう言ってため息を付きながら後に続く、快斗・コナン・平次であった。



  ☆☆☆



午後五時、堤無津港にて……。

「うわあ、すごいですねえ。」
「でけえなあ。」
「端っこが見えないよね。」

光彦・元太・歩美の三人は、停泊中のクイーンセリザベス号を見上げて、感嘆の声を上げた。

「うわあ、快斗、すごいねえ。」

青子も、顔を上げ、感嘆の声を上げる。

「アホ子、恥ずかしいから、おのぼりさんのような真似、やめろよ。」
「えー、だってー。快斗は前にクイーンセリザベス号見た事あるけど、青子は初めてなんだもん!」
「いくら初めてったってよ……。」

そのやり取りを見ていたコナンは、ある事を思い出した。

(あ、そう言えばこいつ、以前……。)

思い出すと、むかむかと腹が立って来た。
そしてそれは、コナンだけではなかったようである。

「そう言えば……黒羽君……あなたよくもあの時……!」

蘭が構えの姿勢を取り、立ち上るオーラに、快斗はギクリとした。
青子がコナンに問いかける。

「ねえねえ。コナン君、一体何があったの?」
「あの時蘭は、キッドに眠らされて救命ボートに閉じ込められて、キッドは蘭の服を奪って蘭に変装して……。」
「えっ、ちょ、ちょっと待て……!それは事実と一部違うぞ!」

「か〜い〜と〜!?どういう事なの!?アンタ、蘭ちゃんに何したのよ!?」
「あ、い、いやそれは、あくまで仕事の為に……!」
「へえ、そう。仕事の為に蘭ちゃんを裸に?」
「だだだだから、それはやってねえって!」

蘭は、思いがけない成行きに、怒りを忘れて呆然としていた。

(くそっ、コナンのヤツ、脚色しやがって!嘘をつく時は、真実に嘘を少し混ぜると良いってのを、実地で行ったな、コイツ!)

快斗は、青子相手にしどろもどろになっており、コナンはその様子を見て、鼻で笑っていた。


「なあなあ、青子の姉ちゃん、何で怒ってんだ?」
「それは、あれよ。痴話喧嘩というやつでね。気にしちゃダメなのよ。」
「チワゲンカ?」
「ああ、僕知ってます。夫婦喧嘩の事ですよね。」
「……ちょっと違うけど、まあ、似たようなもんね。あの二人も、工藤君達と一緒で、夫婦の風格がありそうだし。」
「あの、灰原さん。時々、工藤探偵の事を工藤君と呼ぶのは、何故ですか?」
「ああ。だって彼、遠い親戚ですもの。」
「あ、そう言えばそうでしたね。」

幸い、少年探偵団からは、快青の会話が聞こえていなかったので。
キッド=快斗だという事が気付かれる事はなく、単に快斗と青子の喧嘩にしか見えていなかった。

「さ、さあ、こんなとこで立ち話もなんだし。船に乗り込もうぜ!」

快斗が、皆に声をかける。

「都合が悪いから、誤魔化したな……。」

コナンが、呆れたように呟いた。


   ☆☆☆


「皆さん、ようこそ」
「そ、園子!?」
「園子お姉さん!?」
「……園子、んなカッコしてたら、風邪引くぞ」

乗船した一同は、園子の格好を見て、次々に驚きの声を上げた。
園子は、肩と背中が大きく開いた、イヴニングドレスを着ていたのである。

客観的に見るならば、それは園子によく似合っており、いつにも増して、スタイルの良さが際立っていた。

「今日は、正装しているだけよ。蘭達にも……と思ったんだけど、鈴木家の身内でもない高校生だから、まだ早いって、ママに言われたの」
「……なるほどな。じゃあ、今夜は、格式のあるパーティって訳か?」

それに園子が答えようと口を開いた時。

「やあ、皆さん、お揃いで。」

小学四年生の子供、虎姫武琉が現れ、声をかけた。

「あら武琉君、いらっしゃい。」
「園子さん、お招きありがとうございます。」
「虎姫家の方達は、大切なお客様だもの。ゆっくりして行ってね。」
「ところで、このメンバーが揃っているという事は、シャドウエンパイアが関係しているんですか?」
「鋭いわね。まあ、今の所、そこまでの話じゃないけど、キッドが狙いそうなビッグジュエルがここに来るから、もしかしたら、って事でね。」
「な、成程。にしても、あの……子供達は?」

武琉が少年探偵団の方を向いて言った。

「紹介するわ。あのガキ……オホン、コナン君と哀ちゃんの同級生の、円谷光彦君・小島元太君・吉田歩美ちゃん。今回、C‐Kジェネレーションズの新メンバーになったの。」
「えっ!?」
「でね、こっちは、アルファトゥオメガのメンバーであるリトルジャガーこと虎姫武琉君よ。」

園子が武琉を紹介する。

「はじめまして。円谷光彦です。」
「小嶋元太だ。」
「吉田歩美です。」
「あ、こちらこそ、初めまして……って、あの!この子達は、正真正銘の小学校一年生じゃないですか!それが、C−Kジェネレーションズの一員なんて、一体何を考えてんですか!?」

思わず三人を指さして叫ぶ武琉。
これに対し、

「……コナン君達も、僕達と同い年で既にメンバーなんでしょう?」
「いや、コナン君と灰原さんは特別だから……。」
「特別って何だよ?俺達と同じ小学一年生じゃんかよ。」

少年探偵団がカウンターで返してきた。

それには皆、内心で、「あの二人は年誤魔化した偽者だから。」と突っ込んだが、勿論誰もそれを口には出せない。

「それに、武琉お兄さんだって、私達よりは上みたいだけど、やっぱり小学生の子供でしょ!?」
「服部警視長から聞きましたよ。あなただって、まだ小学校中学年ですよね?」
「何で俺達が駄目で、兄ちゃんがいいんだよ!?」
「い、いや、ですが……。」

三人に突っ込まれて、武琉はたじたじとなった。
そこへ。

「ごめんなさいね、弟が何か失礼をしでかしたかしら?」

あずき色の長い髪をした若い美人が、微笑んで三人に声をかけた。
その女性も、イヴニングドレスを着て、華やかに装っていた。

「あなたは!?」
「ワタクシは、キティタイガー虎姫桐華。弟と同じく、アルファトゥオメガの一員です。あなた方の事は、初音さんから色々と聞いていますわ。思いやりと勇気を持ち、仲間想いの素晴らしい子供たちだって。」

桐華にニッコリ笑って言われた三人は、思わず赤くなり。

「い、いやー、それほどでも……。」
「でへへ、初姉ちゃん、人を見る目があるぜ。」
「桐華お姉さん、ありがとう。」

それぞれに、桐華を信頼の眼差しで見て、言った。


「桐華姉さん。」
「武琉さん。この子達はね、こう見えても少年探偵団として、コナン君や灰原さんと共に、色々な修羅場をくぐり抜けて来た勇者達なのですよ。年齢だけを見て、侮ってはなりません。あなた自身が、それでどれだけ悔しい思いをして来たのか、それを考えれば、分かる事でしょう?」
「はい……。僕は今迄、チームでも最年少だったから、少し焦ってしまったのかも知れません。君達、失礼な事を言って、悪かったね。」
「い、いや、そ、そんな!!」

武琉に素直に頭を下げられ、恐縮する三人。

それを遠目に見ていた平次が、

「あの百鬼夜行の姉ちゃん、子供の扱いも慣れたもんやなあ。」

と感心していた。

「平次。百鬼夜行の姉ちゃんは、あんまり失礼な呼び方ちゃうか?」

呆れたように横から突っ込む和葉。

コナンが、皆のやり取りに笑いながら、視線を動かし初音を探す。
と、初音が誰かと談笑している様子が目に留まり、その相手がレオン王太子である事に気付いた。

「さすがは鈴木財閥、外国の王族まで招待するか。……にしても、園子の言う通り、このパーティ、何かがあっても不思議はねえのかもな。」

そう思うコナンの傍らでは、礼装スタイルの式神新一が帯同していた。
そこへ、

「ねえ、新一。何か初音さんとレオン王子の周りを、スーツ姿の人達がガードするように取り囲んでるけど。」

蘭がコナンに尋ねた。

「ああ、アレはパララケルス王国の諜報機関『パララケルスシークレットサービス』が護衛に付いてるのさ。」
「『パララケルスシークレットサービス』?」
「アメリカのCIAのようなモノさ。」
「って事は、スパイ組織みたいなもの?」
「それもあるけど、要人の護衛を勤めるのが主目的さ。」
「成る程ね。」

得心する蘭。


「あ、そう言えば……。」

コナンが何かに気づいた。

「なあ、園子。真さんはどうしたんだ?オメーの事だから、いの一番に招待状を送ってそうなんだが。」
「真さんなら、伊豆の実家に戻ってるわ。閑散期の今を利用して、旅館の整備を手伝うとかで。」
「もし京極さんが園子の格好を知ったら、他の男にそんな色っぽい姿を見られたと悔しがるでしょうね。」

蘭が言った時、

「そうかもしれねえな。」

と声をかけた者が。

「あっ、陽介さん!」
「よっ、こんばんわ♪」

コナン達と同じく、礼装に身を包んだ陽介が挨拶をした。

「陽介さんもクイーンセリザベス号に?」
「ああ。ディナーショーに出るんでね。」
「さすが、鈴木財閥。売れっ子タレントを、ディナーショーに招待するとは!」

そう言って快斗が口笛を吹いた。

「……売れっ子タレントよりも、ベテラン大物の方が、ギャラは高かったりするもんだよ、快斗。」
「ま、その位は知ってっけどな。どちらかと言えば、スケジュール抑える方が、ギャラそのものより大変かと思うけど?」
「俺も、任務絡みの仕事を優先する事が出来る程度の発言権は、プロダクションに対して持ってるし、何より社長も、俺の任務を最優先してくれる関係が出来ているから。」
「なるほど。メンバーじゃないが、協力者って事か?」
「まあ、元々が、社長は俺の両親の親友でもあるしな。」
「って事は、社長さんは、陽介さんのご両親が『伝説の勇者』だって事、知ってるのか?」
「勿論。そもそも、俺をタレントとして売り出した事自体が、そういう活動絡みで、なんだから。」
「そう言えば、確かアースレディースが所属しているプロダクションは、同じだったよな。」
「ああ、そうだね。更に言えば、その昔、俺の母親・星野希良々と、君の母親の藤峰有希子さんが所属していたのも、同じ所だよ。」
「……そうか。昔から、プロダクションとマジックギルドは、縁が強かったって事だな。」


コナンと陽介達が話をしている所へ、少年探偵団の3人が駆けて来た。

「あー、本物の風見原陽介さんだー!」
「コナン、また抜け駆けして、ずりいぞ!」
「ホントですよ!」

陽介が三人を見て、言った。

「おや、君達は、新宿御苑で……。」
「ええっ!?陽介さん、僕達を知ってるんですか!?」
「あ、そう言えば、俺が戦闘に参加した時には、君達は電気クラゲにやられて気絶中だったな。」
「えーっ!?そうだったの!?せっかく、陽介さんが戦っているとこ、見そびれちゃった!」
「残念ですねえ。」
「みっともねーとこ、見られちまったな。」

少年探偵団の三人が頬を染めて言うのを見て、コナンは乾いた笑いをもらした。

「ははは……(こいつら、根っからミーハーなんだな……)。」

陽介が、少し表情を改めて言った。

「ところで、君達。その腕輪をしているところを見ると、俺達の仲間になったんだな?」

「「「ハーイ!!」」」

少年探偵団は、にっこり笑うと、腕輪を誇らしげにかざして見せた。

「初音さんの言った通りか。頼りにしてるぜ、君達。頑張れよ。」

憧れのタレント・風見原陽介からそう言われて、三人はすっかり舞い上がって大はしゃぎしていた。

「ところで、これで今日の参加者は、全員揃ったのか?」

コナンが周囲を見回して言った。

「ああ。都合があったり遠方に居たりする者以外は、揃った筈だ。」

快斗が、頷いて言った。



  ☆☆☆



クイーンセリザベス号のディナーショーは、立食パーティ形式で行われた。

まずは、乾杯の後、暫く歓談の時間が続く。
その後は、ショーの時間に移ったが。
風見原陽介や他の大物タレント達の歌、そして、真田一三のマジックショーと、盛り沢山の内容だった。

「黒羽君、この次はママに頼んで、黒羽君のマジックショーのお膳立てをするから、宜しくね。」
「園子ちゃん……良いのかよ?俺、腕には自信があっけど、まだ正式にショーをした事ねえし、無名だぜ。」
「ふふん、そこは、鈴木家の力で、無名じゃないようにするわ。」
「ありがたい話だけど、考えとくよ。」
「黒羽君、最初のきっかけにコネを使うのは、決して恥ずべき事じゃないと、私は思うわ。」
「ああ、確かに。……君は確かにお嬢様だな、今日初めてそう思ったぜ。」
「何よそれ!?」

2人の会話を、コナンは苦笑しながら聞いていた。
普段はお嬢様らしくないように見える園子だが、確かに時折見せる貫録や、言葉の端々から、その大物ぶりがうかがえるのである。


歌が終わり、マジックショーに移る合間の休憩時間に、園子は富沢修を見つけ出し、皆に紹介した。

「富沢の小父様、私の友人達です。」
「おお、そうか。小さなお友達も居るようだね。」
「ハハハハ、あの三兄弟と父親にホントそっくりだな……。」

コナンが苦笑いした時、

「ん?き、君は!?」

修は、コナンを凝視して言った。

「君は確か、鈴木家のブラックスターと、次郎吉さんのブルーワンダーを、キッドから守ったという、毛利探偵のとこの小学生!?」
「うん!」

コナンは、すっかり板についた、「子供らしい得意げな顔」で、修に笑いかけた。

「ははははは……。」

今度は、快斗が乾いた笑いを洩らす番であった。



「今夜のパーティは、以前参加したのとは少し客層も趣向も違うようだな。」
「そうね……何か、年配の方ばかりで、私達場違いみたいだし。それに、今回は、みんな正装だしね。」

コナンと蘭が、壁際で会話をしていると、よく知った声が、割って入って来た。

「そりゃまあ、今回のは、姉貴の婚約披露パーティだからねえ。」
「そ、園子!」
「ははあ、だから、皆正装って訳なんだな。それに、富沢修さんがビッグジュエルを持って来た理由も、分かる気がするぜ。」
「ええ。鈴木家と縁続きになるんですからね。」
「でも、園子、良かったわね。婚約はとっくの昔だったけど、色々あって正式なお披露目は延び延びになってたんですものね。」
「ま、そこで、縁談が破談にならない所が、うちのパパの太っ腹なところだと思うわ。」
「でもよ。きっと、反対も色々あったろうに、娘の幸せの為に陰で苦労したんじゃねえのか?」
「ふん、まあ、そういうとこ、新一君の凄いとこだって、一応敬意を表しておくわ。次郎吉おじさんも色々と尽力してくれたみたいだし。まあ、私達には何も言わないけどね。」

船内に流れていた音楽が、いつの間にか途絶えたかと思うと。
テーブルが片付けられたホールでは、ヴァイオリンを中心としたピアノ五重奏の、アンサンブル演奏が、始められた。

「これから、何が始まるんだ?」
「社交ダンスよ。」
「だ、ダンス?」
「そ。蘭も、踊って来たら?」
「だけど、私、イヴニングドレスじゃないし……。」
「……それに、そもそも、誰と踊るんだ?社交ダンスってからには、一人じゃ無理だろ?」

コナンが園子を睨むようにして言うと、園子がニタリと笑った。

「ふふふふ……それは、相応しい相手がいるじゃない。」
「でも、園子、今の新一とだったら、ダンスをするには無理があると思うわ。」
「あら。別に眼鏡のガキンチョの事じゃないわよ。」
「園子!私、新一以外の人と踊る気は……!」
「そう、いきり立ちなさんなって。蘭も新一君も、蘭は新一君のものだって皆の前でお披露目してた方が、良いでしょ?」
「……話が見えねえんだが?」

そこへ、やって来た平次が、感心したように声を出した。

「ほう、鈴木の姉ちゃん、あんたおもろい事考えるなあ。」
「ふふ、分かる?」

平次と園子が、にやりと笑い交わし、コナンと蘭は、顔にはてなマークを貼りつけて、顔を見合わせた。

「だからさー、居るじゃないの、見た目は新一君、実態は紙、ってヤツが。」
「!そう言えば!すっかり存在を忘れてたぜ。」

コナンが慌てて、式神新一を探すと。
式神新一は、壁に寄りかかって、じっと首を左右に動かしていた。

「アホ。忘れたらあかんやんか。」
「んな事言ったってよ。常にあれを意識してんのも、疲れるんだぜ。」
「ま、ダンスのような高度な事をやらせる時は、あんたの方がどっかに隠れてなきゃ無理かしらね。」
「何なら、オレがおぶってやろか?」
「断る!」
「でも、新一、声掛けられたりしたら、やばいんじゃない?」
「そうだな……。なら、隅に寄せられたテーブルの下にでも、隠れておくか。」

そう言って、コナンは探偵団に見つからないように、こっそりとテーブルの下に潜り込んだ。
そして、式神新一は、今まで無表情だったのが、生気を取り戻したかのような顔付きになり。
蘭の元に歩み寄って、手を差し出した。

「ダンスを踊って頂けますか、お嬢さん。」
「あ……。」

相手が式神だとわかっていても、それを動かしているのは、コナン=新一である。
蘭は、思わず見惚れてボーっとなり、式神の差し出した手を取った。

「かーっ、ホンマ気障なやっちゃなあ!」
「全くだぜ。よくもまあ、素であんな歯が浮くようなセリフを言えるぜ!」

平次と、いつの間にかその場に来ていた快斗が、毒づいた。

「バ快斗。あんた、人の事言えないじゃない。一体、蘭ちゃんに何をしたのよ!?」
「い、いや、だから別に何もしてねえって……。」

青子の低い声に、快斗はビクビクとなった。

「……まだ、さっきのが尾を引いとったんかい!」

そちらにも呆れて突っ込んだ平次であった。


そうこうしている内に、ダンス曲の演奏が始まった。
式神新一が、蘭をエスコートして軽やかに踊り、それは皆の注目を集めていた。

C−Kジェネレーションズと、アルファトゥオメガの面々から、感嘆したような溜息が洩れた。

「蘭お姉さんと新一お兄さん、とっても素敵!」
「……そうか?俺、あんなのよくわかんねえぜ。」
「僕もダンスの事は良く分かりませんが、上手そうに見えますよね。美男美女で、よくお似合いですし。」
「ふうん。彼、音痴の割に、ダンスは上手なようね。割と息が合ってるじゃない。」
「灰原さん、新一さんも音痴なんですか!?」
「……まるで、コナン君みたい。」
「親戚だから、似るんじゃないの?」
「でも、灰原さんは音痴じゃないですよね。」
「灰原は、新一兄ちゃんやコナンと、顔が違うからな。」
「……何だか、微妙なコメントね。」


「工藤のヤツ、式神を上手く操っとんなあ。」
「ホンマやね。知らんかったら、ホンマの工藤君と蘭ちゃんのダンスにしか見えへんわ。」
「音痴とダンスの腕は、違ういうこっちゃろな。」
「工藤君は、運動神経は抜群やし、耳もええって事やから。逆に、音痴なんが不思議なんちゃう?」
「おい……。」
「?」

平次が渋面を作り、和葉はきょとんとした。
まさか、和葉が新一を褒めたから機嫌が悪くなったとは、全く気付いていない和葉であった。


「うわあ……似合いの二人……素敵ね、快斗。」
「どこが?あの工藤は、ただの紙だぜ。」
「でも、実際制御してるのは、コナン君じゃない。あんなに高度なダンスを、式神に踊らせる事が出来るなんて、工藤君ってすごいなあ。それに……。」
「何だよ?」

青子が新一を褒めたので、快斗の機嫌は急降下していた。

「式神なのに、蘭ちゃんを見詰める眼差しが、とっても熱くて優しいって思わない?あれは、工藤君本人と同じ眼差しだと思う。」
「……制御者の感情まで、式神に投影できるって事か。」
「バ快斗。あんなに蘭ちゃんを愛している工藤君が居るんだから、もう、手を出しちゃ駄目よ!」
「だ、だから!出してねえって!」

こちらは、再び紛争が始まりそうである。


その一方、

「桐華さん。ダンスのお相手をお願いできますか?」
「れ、レオン王子?」

武琉と共に、式神新一達のダンスを見ていた桐華に、手を差し出してダンスの申し込みをしたのは、パララケルス王太子レオンであった。

「よ、宜しいのですか?ワタクシのような者が、殿下のお相手など……。」
「桐華さん、今更何を仰いますか。私とあなたの仲ですのに。」
「け、けど……。」
「どうか私に、『ダンスを断られた男』となってしまう恥をかかせないで下さい。」
「で、殿下!わ、ワタクシで宜しければ、喜んで……。」

レオン王太子は、はにかむ桐華の手を取ってエスコートし、ダンスを始めた。
それはまた、一同の注目の的となった。

園子が、感心して二人を見る。

「桐華さんは、将来、パララケルス王国の王妃様かしらね。」


初音は、式神新一と蘭のダンスを見て、コナンの「式神操縦」に感心していたが。
レオン王太子と桐華のダンスを見て、また別の感慨を覚えていた。

(ほう。レオン、やるやないか。桐華なら、パララケルス次期王妃として、不足はあらへん。こんまま、攫ったり!押し倒しても構へんで!)

応援しているのだろうが、ずいぶん過激な事を心の中で言う王女様である。
そこへ。

「服部警視長……いえ、初音さん。」

と、声をかける者があった。

「何や、陽介か。何ぞうちに用事でも?」
「俺……い、いや、私と、ダンスを踊って頂けませんか?」
「へ!?ウチがダンス!?あかんあかん、あんなん、人間がやるもんやない!」

激しく首を振って断る初音。

「は、初音さん?俺では役者不足ですか?」
「は?何言うてんねや!?ウチが、ダンスなんかようせえへん、言うてんのや!」
「え?で、でも、王女様なら、教養にダンスも……。」
「陽介。ウチのトラウマを刺激して、楽しいんか!?」
「と、トラウマ!?」
「大抵の事は、マスターが早くて教師に褒められたウチが、なかなかマスターでけへんで、教師を嘆かせたんは。何を隠そう、礼儀作法とダンスなんや!」

「「「「「「「「えええええっ!?初音さんが、ダンスと礼儀作法は駄目!?」」」」」」」」

いつの間にか、初音と陽介の周りに、C‐Kジェネレーションズ一同と武琉が集まっていた。
ちなみに、平次と和葉もその場にいたが、二人は初音の事をよく知っていたので、別に驚かなかった。

「なな何やお前ら、いつの間に!?」

急に集まってきた一同に驚く初音。

「礼儀作法については分かるような気もするが、ダンスも苦手とは意外だな。」

と、呆れたとも感心ともつかない声を出した快斗。

「服部警視長って運動神経は抜群なのに、意外ですね。」

光彦が目を丸くして言った。
そこへ、青子が言った。

「快斗のスケートと一緒だよね?」
「ほっといてくれ!」

「えええ!?黒羽君って、スケート出来ひんの?」
「そら、工藤の音痴以上に意外やで!」

和葉と平次が、今度は驚いて大声を出した。

「ま……皆、何かしら、苦手な分野があるって事ね。」

哀が冷静にそう言った。
皆、それもそうかと思いながら。

(そう言えば、灰原さんの苦手分野ってあるんだろうか?)

と、光彦を初めとした一同はふと疑問に思い。
けれど、誰しも、怖くてその疑問を口に出せなかった。

「あれ、そう言えば……。」
「どうしました、元太君?」
「こんだけ大騒ぎしてるのに、周りの奴等、こっちに全然目が行ってねえぞ。」
「あ、確かに……。」

光彦は、他の全ての客がダンスに視線がいってるのを見て、ふと疑問に思った。
そこへ、

「ああ、それなら、私がこの周囲にジャミングフィールドを張ってるから、こっちの騒ぎなんか誰も注目しないわ。」

哀が光の腕輪を輝かせながら説明した。

「へー、光の腕輪にそんな機能が……。」

感心する光彦。

「まあ、超一流アイドルと、今をときめく最強警視長にしてパララケルスの王女が痴話喧嘩してたなんて、絶好のスキャンダルだからな。それを未然に防止して、トラブルを回避するのは悪くないぜ。」
「こらあ、何処が痴話喧嘩やねん!!」

快斗の説明にツッ込む初音。


周りの大騒ぎに暫く白くなりかけていた陽介が、ようやく気を取り直して、初音に向かって言った。

「初音さん。あなたは俺に合わせてくれるだけで良い。社交ダンスは本来、男性がリードするものなのですから。俺に任せて下さい。」
「おお、カッコいい!」

周りで皆が、拍手を送った。

「お、お前らな!ウチは、トラウマがあって苦手や言うてるやん!」

初音が怒鳴った。
が。

「初音さん、俺に恥をかかせないで下さいよ。」
「あっ、おい、ちょ、ちょっと!?」

陽介が強引に初音を引っ張り、初音も何故か逆らえず、結局エスコートされる形になった。

その瞬間、哀はジャミングを解いた。


「なあ、陽介さんって初音さんの事……。」
「だよね、きっと。」
「初姉も、満更でもないと見たで!」
「せやね、ホンマに嫌やったら、陽介さん今頃、血ぃみとるやろうし。」

ダンスを見ながら、ヒソヒソと話す一同。


ダンスが苦手と言った初音だが、陽介のリードが良いのか、まずまず上手く踊れている様子だった。
陽介が初音を見詰める眼差しが、蕩けそうなほどに熱く。
初音が陽介を見つめ返す眼差しが、いつもの初音に似ず、女性らしい艶を帯びたもので。

最初は色々言い合っていた、Cジェネとアルファトゥオメガの面々も、見惚れて、段々口数が少なくなって行く。
青子がボソリと呟いた。

「この二人の様子、紅葉ちゃんにはとても見せられないわね……。」

平次と和葉、園子も、頷いて言った。

「スミレちゃんにもな。」
「御剣、守口で寝込んどって正解やったで。」
「舞もよ……。今回、三人が居なかったのは、天の配剤かしら。」
「けど、いずれは知れる事になるんちゃうか?」
「その時の事を考えると、何や恐ろしゅうて、頭が痛いわ。」

三人が、頭を抱え込んでいるのとは別に。
武琉は、陽介と初音のダンスを見ながら。

(陽介さんは初音さんの事が好き?だったら、舞さんは陽介さんに失恋するって事、だよね。それは可哀想だけど、でも……もしかしたら、僕にもチャンスが?)

武琉が、色々と夢想を始めていると。

「武琉君。他力本願は良くないわよ。」
「うわわわわわ!!は、灰原さん、何で!?」

哀に声をかけられ、武琉は飛び上って驚いた。

「……顔に思いっきり、書いてあったわよ。」
「……。」

女性の勘の恐ろしさを思い知り。
顔が真っ赤になってしまった武琉であった。


式神新一と蘭。
レオン王太子と桐華。
陽介と初音。

それぞれのカップルは、皆の注目を集め。
そして、ダンスは終わった。






「……。」

クイーンセリザベス号の甲板上にて、一人東京の夜景を見て佇む武琉。
彼は社交ダンスを見終わった後、甲板に出ていたのだが、その彼の頭の中には、先ほど哀に言われた言葉がこだましていた。

「他力本願は良くないわよ……か、ふう……。」

そっとため息をつく武琉。
そこへ、

「よう、武琉にーちゃん!」
「わわっ、げ、元太君!?」

突然元太に話しかけられて驚く武琉。

「何やってんですか、こんな所で?」
「今の季節の夜風は寒いから、風邪引いちゃうわよ。」
「あ、いや、ど、どうも……。」

光彦や歩美にまで心配されて、武琉は思わず恐縮してしまう。

「あ、そう言えば何故君達がここに?コナン君や灰原さんは?」
「コナン君や灰原さんなら、新一さんと共に色々と話をしてますよ。」
「何かつまんないから、このクイーンセリザベス号を色々と見て回ってたの。」
「全く、コナンも灰原も抜け駆けしやがってよお。」
「いや、そう言うのは抜け駆けとは言わないのでは……。」

苦笑いする武琉。
だが、

「!」
「どうしました、武琉さん?」

武琉の様子が激変したのに気づいて、尋ねる光彦。

「いや、何かとてつもない魔力がこの船に集まってるような……。」
「!それってもしかして……。」
「シャドウエンパイアのですか!?」
「恐らく。けど、このでかい魔力は……。」

武琉が周囲を見回した途端、


ピカアーーーーーーッッ!!


「「「「!」」」」

甲板上に大きな闇色の魔法陣が出現し、四人はそれに驚く。

「な、なんだよ、アレ!?」
「何かすっごく禍々しいんですけど!?」
「な、何か怖い……!」
「このとてつもない魔力圧、もしかしてシャドウロード以上の……!?」

四人は魔法陣に対して身構える。

そして、

「ガルルルルルルル……!」
「「「「……!」」」」

魔法陣からせり出すように出現した、禍々しい威圧感を発するサーベルタイガーのような巨獣人を見て、四人の全身に恐怖感が走った。
そして、

「グゥウォンウォォォォォォーーーーーッッッ!!!」
「「うわあああーーーーっっ!!」」
「きゃあああーーーーっっ!!」
「……!」

月夜に吼える巨獣人を前に、探偵団は恐怖の絶叫をあげ、武琉は恐怖に震えつつも、拳を強く握り締めて更に身構えた。



To be continued…….





Vol.4「工藤邸の新住人」に戻る。  Vol.6「頑張れ!小さな勇者達」に続く。