C-K Generations Alpha to Ωmega



By 東海帝皇(制作協力 ドミ)



第二部 勇者激闘編



Vol.7 三人娘の家庭の事情



1月28日土曜日の夜、三重県伊賀市の某所。


里帰りしていた風吹は、伊賀くノ一・雪華流の頭領である百地ハナに、シャドウエンパイアについての報告をしていた。
百地ハナは、齢95の老婆であるが、頭領を務めるだけあり、今でも風吹よりずっと力量は上である。
風吹の修行の師匠は、今もハナだった。

「うううむ、シャドウエンパイア、恐るべき敵よのう。」
「何しろ、シャドウドールの上位クラスともなると、忍法が丸っきり通用しないでござる。」
「ふむ……風吹も、もう一つの力で戦わないと敵わないか。」
「もう一つの力を使ってさえ、やられそうになる事もあるでござるよ。」
「そうなると、お主が今出来る事は、光の勇者達と力を合わせる事じゃな。場合によっては、サポートに徹する必要もあろう。」
「おばば様。拙者もそれを心得てござるよ。」
「して、お主が見たところ、光の勇者達の見込みはどうじゃ?」
「幼い頃から修行を積んだ訳でもないのに、短期間でよく戦っていると思うでござる。」
「そうか……風吹にそう言わせるとは、なかなかのものよのう。」

ハナは、感心したように頷いた。
風吹は、自分が修練を積んだだけあって、他の者への評価は辛口なのである。

そこへ、同席していた上忍クラスの者達が、口を挟んだ。

「しかし、いくら風吹のお墨付きと言え、所詮は素人。どこまで信頼が置けるのか分かりませぬ。」
「いや、そんな事はござらぬ。彼らは素人とは言え、踏んだ修羅場の数は我らに勝るとも劣らんでござる。現に、光の勇者の中心人物は、我らが簡単に太刀打ち出来なかった、かの黒の組織を倒した人物でござるぞ。」
「工藤新一か。だが、ヤツは大勢の協力を得て、偶然の幸運もあり、辛くも勝利したと聞くぞ。」

そこへ、ハナが口を挟んだ。

「大勢の協力を得るのは、それだけの器量がなくてはかなわぬ。幸運を引き寄せる事が出来るのも天賦の才のひとつじゃ。その者の実力、侮れぬ。はっきり申すが、忍術だけで魔術の才のないこの里の者達よりも、遙かに上かも知れぬぞ。」

ハナに言われて、上忍達は、押し黙った。
今の時代、忍者としての修業を積んでも、実践で活躍している者はその中でも一握りなのである。
風吹のように最前線で戦うものは更に少ない。
上忍という地位に安住している者達に、ハナは釘を刺したのであった。


「時に風吹よ。忍者の中でも、己の忍術を悪用して、色々と悪事を働く者達が居る事は存じておろう。」
「ハイ。」
「その中の一部の者が、シャドウエンパイアとも通じているとの情報が入っている。くれぐれも、油断は禁物じゃ。」
「心得てござる。」

くそ真面目に、ハナと風吹のやり取りが続いていた。
ハナが、密談でもするかのように、風吹の耳に口を近づけたので、風吹は緊張した表情で、耳を傾けた。

「ところで、風吹。」
「ハイ。」
「都会でイイ男は見つかったかの?」
「は!?」
「だから、子種を貰えそうな優秀な男じゃよ。」
「お、お、お、おばば様!」

いきなりの話に、風吹は真っ赤になった。

「何を驚いておる?そなたは次期頭領の身。後継ぎを作るも、大切な役目であろうが。」
「は、そ、そうでござるが……。」
「そなたの眼鏡にかなう男がおったら、妻子持ちでも構わん、子種だけでも頂いて来なはれ。」

風吹は、目を白黒させた。
これは、別にふしだらな話ではなく。
くノ一の里では、結婚という制度は昔からなく、実力のある男を見込んで、その子種を貰うのが、里を繁栄させる方法だったのである。
しかも、この一族は、何故か滅多に男子が生まれる事はなかった。

後継ぎは必ず女性、たまに生まれた男子は、伊賀だけではなく、甲賀・風魔など、他の忍者の里に婿取りされるのが、習わしだったのである。

赤くなっていた風吹だったが、

「ハッ!?」

ふと、真顔になって、後ろを振り返った。

「風吹?いかがした?」
「いや……何だか嫌な気配を感じ取ったでござるよ……。」
「何!?ワシは何も感じぬが!?」
「この里に侵入者が、という事ではござらぬ。遠くの地で、何か良からぬ事が起こったような……。」
「ふむ、そうか……、それは一体……。」

とハナが言った時、

「頭領、大変です!!」

下忍のくノ一が飛び込んできた

「何事じゃ、そうぞうしい。」
「申し訳ございません、実は東京にまたしてもシャドウドールの大群が!」
「なっ!?」
「なんと!?」
「東京のどこじゃ!?」
「東京湾に浮かぶクイーンセリザベス号との事です!」
「何と!?クイーンセリザベス号は、確か主殿がディナーショーに出演する為に乗った船ではござらぬか!」

報告を受けて、風吹の顔色が変わった。
そして、

「主殿が危ない!」

風吹が思わず立ち上がった。
それを見てハナは、風吹が想いを寄せる男がいる事と、その男が今夜クイーンセリザベス号に乗っている事がピンと来た。

「これ、風吹、そなたどこに行くのじゃ!?」
「決まっておるでござるよ!主殿を助けに行くでござる!」
「まあ、落ち着きなされ。今更行ったところで、間に合う訳がなかろう。」
「で、ですが!」
「そもそも、東京じゃろ?アルファトゥオメガの東京残留組と、おぬしがさっき言っておった、C−Kジェネレーションズのメンバーとで、とうにカタをつけておろうよ。」

ハナに、冷静な口調で諭されて、風吹は渋々座った。

「じゃが、そなたの悪い予感もある事だし。そなた、急ぎ戻った方が良いやも知れぬな。明日は、一番に戻るが良いぞ。」
「ははっ!」

風吹は一礼した。
何か、割り切れない嫌な感じがあったのだが、それが何かは、風吹にも分からなかったのである。



   ☆☆☆



同じ頃、米花町焔野神社にて。
舞は、社殿に籠って、潔斎の祈りをささげていた。

焔野神社の祭神は、炎の竜神で、祈りをささげる際には、しばしば火を焚く。
舞は、炎に向かって、祈りをささげていた。
神火の中では、赤竜の護符が、決して火に焼かれる事なく、揺らめいている。


ようやく祈りがひと段落した舞の元に、神主であり舞の父親でもある焔野辰三と、母親である焔野芽衣が食膳を持って現れた。


「潔斎、御苦労であった、舞。」
「お父さん、お母さん。」
「疲れたでしょう。どうぞ、召し上がれ。」
「あー、嬉しい!私、もう、お腹ぺこぺこ!」
「こら、お行儀の悪い!」
「だって〜、一日潔斎してたら、腹減っちゃってさあ。」
「まったく、若い女の子が、そんな汚い言葉を……嘆かわしい。」

芽衣が嘆息すると、辰三が、

「まあまあ、固い事言わんでも良いじゃないか。舞も食べ盛りなのに、一日我慢して潔斎に励んでいたんだから。」

とりなすように言った。
芽衣が、辰三に向かって、少し睨むようにして言った。

「あなたったら、すぐそうやって甘やかす!大体、何日も断食するような修行をする人達だっているんですよ。一日の潔斎位、何ですか。」
「断食は、うちの流派じゃないだろうが……。」

「おいし〜い!」

両親の言い争いをよそに、舞は食べる事に夢中になっていた。
ようやく舞のお腹が膨れた頃、辰三は別の話を切り出した。

「ところで舞。シャドウエンパイアとの戦いは、どんな塩梅だね?」
「ハッキリ言って、超大変。何しろシャドウドールの中には、私の必殺技を食らっても、ぜんっぜん!平気なヤツもいるんだもん!それに、倒れたと思っても、すぐに復活してくるヤツもいて、ホント、卑怯よね!」
「それは、確かに卑怯だな。」
「もう!舞、あなた!卑怯なんて、悪者と闘うのにそんな事言ったって仕方がないじゃないの。どんな敵が来てもやられる事がないように、修行を積む事が必要でしょ。」
「もう、お母さん、厳しいなあ。」

舞も勿論、母の厳しさが娘の身を案じての事だと分かっているのだが。
そこは年頃の娘、ついつい、母親には反発もしたくなるのである。

「それだけ、強力な敵と戦える力を身につけるには……黄竜の力が、舞に宿ればなあ……。」

辰三が、溜め息をつきながら、言った。

「そうね……でも、あの力は、修行を積めば手に入るような、簡単なものではないですしね……。」
「歴代の神官の中でも、黄竜の力を身につける事が出来た者は、数えるほどしか居ないからなあ。」
「舞。光の勇者達と力を合わせて、闘うのよ。一人で何とかしようとしては駄目。」
「それは大丈夫よ。蘭ちゃんや園子、それにコナン君も私の事助けてくれるし。私も、みんなを助けて頑張ってるし。」
「いやいや、やっぱり持つべきものは友達だなあ。ところで舞。こっちの方はどうだ?」

辰三が突然、小指を立てて言った。

「ななな、何言ってんの、お父さん!?」
「そうですよ、あなた!舞はまだ高校生、愛だの恋だの早過ぎます!」
「いやお母さん、それはちっとも早くないと思うけど……。」
「舞、芽衣、神官の跡取りを作るのも大切な役目なのだぞ。その為には男が必要だろうが。どこぞの毛唐の宗教のように、処女受胎という訳にはいかんからなあ。」
「な……あなた!だから、まだまだ早過ぎますって!」
「……お父さん、何考えてんのよ?普通の父親なら、娘に虫がつくのを阻止しようとするんじゃないの?あの毛利探偵みたく。」
「そりゃ、後継ぎが必要ないからだろうが。」
「……まあ、探偵に後継ぎは必要ないかも知れないけれど。」



「ハックシュン!」
「毛利さん、風邪ですか?」
「いや、そんな筈は……。ちっ、誰か俺の噂を?はっ、もしや、ヨーコちゅわわわわん!」
「も、毛利探偵!?」

毛利小五郎は仕事中にしまりのない顔をして、依頼主に呆れられていた。



「で、舞?あなた、恋や愛は早くないと言ったわよね?という事は、もしや、誰かめぼしい相手がいるの!?」
「(ギクッ、母親の勘は鋭いなあ)い、いやまあ……好きな人くらいはいるけど、私の片想いで、告白も出来てないのよ。ライバルも多いしね。」
「そう。まあ、それなら安心ね。」
「安心って、何がよ?」
「嫁入りまでは、貞操を守るのよ!」
「お母さん、一体いつの生まれよ……。」

呆れたような目をしていた舞だったが、突然、ハッとしたように空を見た。

「舞!?どうしたんだ?」
「食べ過ぎたの!?」
「お母さん……どうして発想がそっちに!?いや、今、すごく嫌な感じがしたんだけど……。」
「何っ!?この、聖なる空間の中に、敵が!?」
「いや、別に敵が近付いた気配がする訳じゃ。ただ、どこかで何かのっぴきならない事が起こっているような、そんな気がしたの。」
「そうか……戦いの予兆かも知れんな。舞、潔斎も無事終了した事だし、明日は仲間達の元に向かうと良い。」
「うん、分かった、そうする。……あ、そうだ!メールチェックしとかなきゃ!」

舞は、袂から携帯を取り出して開き、操作を始めた。

「まあ、舞ったら!潔斎の場で、何ですか、行儀の悪い!」
「イイじゃないの、修行中はちゃんと電源切ってんだから!」
「……やれやれ。竜神様が怒らなきゃいいけど……。」

いくら神官の跡取りとして修業中とはいえ、そういう面では現代っ子の舞に対して、両親は溜息をついた。

ただ、どういう神通力か、舞の携帯には、特に設定はしてないのに、迷惑メールは一切入って来ない。

「あ!瑛祐君からメールが来てる!」
「何!?瑛祐って、男からか!?」

辰三が気色ばって言った。

「何言ってんのよ、お父さん。彼の場合、女の子のクラスメートと同じようなもんなんだから。」

当の瑛祐が聞いたら滝涙を流しそうな台詞を、舞は軽く言ってのけた。

「え?何何…………?へっ!?」

見る間に舞の顔色が変わった。
両親は何事かと、様子をうかがう。

「クイーンセリザベス号に、シャドウドールが!?大変、急いで行かなきゃ!」
「おいおい……舞、慌てて飛び出してどうするんだ?クイーンセリザベス号なら東京湾だから、他のメンバーがもう向かっているだろう。」
「あ……ホントだ。もう解決したって……。」
「それにしても、その瑛祐君とやらが、何でいち早く事件の事を知っているのかね?」
「だって彼も、C−Kジェネレーションズの一員だもの。」
「なんだ、仲間同士の連絡メールか。それを早く言いなさい。」

辰三はあからさまにホッとした顔をした。
どうも、心配するポイントがずれている。

「でも……事件は無事解決したのなら……さっきのあの嫌な予感、一体、何だったんだろう……。」

舞の独り言に、今は答えられる者はいなかった。



   ☆☆☆



そしてまた同じ頃、守口市にて……。



「う〜ん、てっちりいいい!ダーリ〜〜〜〜ン!!」

「昨夜から、ずっとうなされとるんですよ。」
「普通やったら、心配する所やろうが、どうもいま一つ、真剣に心配する気になれへんな。」

菫の父親の御剣一夫大阪府警生活安全部長と、その妻御剣桔梗は、唸り続ける一人娘を前に、困惑した表情で語りあっていた。

「あんた、何言うてはるん?こん子が、こんなんなったんも、てっちり食べさせへんかったんが原因やろ!?」
「い、いや、そう言われてもな。平蔵君と遠山君が、昨日の事件でてっちりどころやあらへんかったんやから。」
「そら、アタシかて、分かってますけどな。」

そこへ。

「菫ちゃん、大丈夫か?」

服部平蔵本部長が、見舞いに訪れた。

「あら、平蔵さん。」

桔梗が、愛想のいい笑顔を浮かべて、平蔵を出迎えた。
平蔵が、

「これ、見舞いや。」

と言って、差し出したものを見て。

「ちっ、フグやあらへんのか。」

舌打ちする、一夫。

「そら、普通見舞いにフグは持ってけえへんやろ。」
「平蔵君も、ケチやなあ。」

さすがの平蔵も、苦笑いをしていた。

「まあまあ、アンタ。お見舞いに来てくれはっただけでも、感謝せんと。」
「桔梗はん、あんたも、ホンマは同じ事、考えとんのとちゃうか?」
「あら、分かります?」
「……あんたんとこの湯呑茶碗を見たら、客を歓迎しとんのかどうか、分かりますわ。」

平蔵の前に置かれた茶は、一見、何の変哲もない客用湯呑茶碗だが。
長い付き合いの平蔵は、客によって、種類が変わる事に、気付いていたのである。

「けど、ホンマ、フグ買うとる暇あ、なかったんで、勘弁してや。」

平蔵にそこまで言われたら、一夫達も、大人げなかったかと反省した。


「おい、菫。平蔵小父さんが、美味しいお菓子を持って来てくれたで。」

一夫が、菫の耳元で声をかけると。

「ほ、ホンマ!?」

菫が、ガバッと起き上がった。

「わあ、おじちゃん、うちの大好きな、白虎堂の和菓子やな!ホンマ、おおきに!」

菫が、あっという間に、菓子折りの中身を半分以上空にした。

「ホンマに現金なやっちゃ。」

一夫が、呆れ果てたように我が娘を見た。

「いやいや、元気になって良かったなあ。菫ちゃん、今度こそてっちり食わせたるからな、早よ元気になりいや。」
「ホンマか!?約束やで!」
「「ハハハハ……。」」

いきなり元気になってしまった娘を見て、両親は喜ぶよりも、呆れて乾いた笑いをもらしていた。

「ところで、菫ちゃん。」

平蔵が、改まって声をかけた。

「はふや(なんや)、ほひはん(おじちゃん)。」

菫が、饅頭を頬張りながら返事をする。

「寝言で何やら、『ダーリン』ゆうとったようやけど、誰ぞ言い交わした相手でもおるんか?」
「!!は、はひを(なにを)!ウグググ!」

突然の平蔵の突っ込みに、菫は饅頭を詰まらせて、胸を叩きながら目を白黒させた。

「ホラホラ、慌ててもの食うからやろ。」

菫の母桔梗が、お茶を渡し、菫はそれを慌てて飲んだが。

「ゲホゴホガホ!」

今度はお茶でむせる始末。

「何!?菫、ホンマか!?お前、男がおんのか!?」

気色ばる一夫。
桔梗が呆れたように夫を見て言った。

「アンタ、菫がずっとダーリンて唸ってたんを、聞いてなかったんかいな?」
「せ、せやけど……菫の容体が心配で、そこまで気ぃ回らんかったんや!」
「まあまあ、二人とも。で、菫ちゃん、誰ぞええ人でも?」
「嫌やわ、堪忍してえな。うちの片想いなだけなんやから。」
「何!?うちの娘に片想いをさせるとは、どこのどいつや!叩き切ったる!」

思わず、顔色を変えて詰め寄る一夫。

「アンタ、そないな事言うてるけど、付き合うたら付き合うたで、相手の男を叩き切る積りなんやないの?」
「え゛……いや、そないな事は……。」
「菫はいずれ、神鳴流を継承させる為に、強い相手の子ぉを産む、大事な役目があんのやで?近寄る男をシャットアウトしとったら、どないもならへんがな。」
「た、確かに……せやけど、菫はまだ高校生……。」
「アンタ。そないな事を言うてると、あっと言う間に三十路、嫁き遅れや!」
「そ、そら極端な……。」
「極端やあらへんで!花の命は短いんや!」

両親の言い争いを、呆れて見ている菫。

「何や、うちの事置いてけぼりで、喧嘩しおってからに。」
「ホンマ、御剣も桔梗はんも、相変わらずやなあ……。」
「呆れてはるけど、ネタ振ったんは、おじちゃんやで?」
「あ、そら、済まんかったなあ。それにしても、菫ちゃんにもそないな相手が……。」

その時、平蔵の携帯の呼び出し音が鳴った。
取ってみると、遠山銀司郎刑事部長からの連絡である。

「俺や。遠山、何ぞあったんか?」

平蔵が銀司郎からの連絡を受けたと知り、喧嘩中だった二人も、菫も、真剣な顔になって平蔵の方を見た。

『平蔵!またしても東京にシャドウドールが出現したで!』
「な、何やて!?」

漏れ聞いた声で事態を知り、御剣家の三人も驚く。

「で?現れたんは、どこや?」
『鈴木財閥の令嬢の婚約披露パーティが行われとる、クイーンセリザベス号や!』

それを聞いた途端に、菫が血相を変えて立ち上がり、平蔵から携帯を奪い取った。

「銀司郎のおじちゃん、それ、ホンマなん!?」
『あ?す、菫ちゃんか!?』
「せや。ホンマにクイーンセリザベス号が襲われたんか!?」
『ホンマや。今、警視庁から連絡があって……。』

菫が携帯を平蔵に返し、駆け出そうとした。
一夫がそれを止める。

「菫、お前、どこに行くんや!?」
「決まっとるやないか、東京や!」
「む、無茶言うな!お前が今から行ったところで、とっくにカタはついとるがな。」
「で、でも!」

電話が終わった平蔵が、菫を制して言った。

「菫ちゃん、心配あらへん。あそこには、平次や和葉ちゃん、初音ちゃんがおるんやから。何も心配あらへんで。」
「せやけど、ダーリンが……。」
「何!?お前のダーリンとやらは、その船に乗っとるんか!?」

菫が頷くのを見て、一夫は何とも言えない渋い顔をした。

「そいつは一体、誰なんや!?」
「……うちと同じ、アルファトゥオメガの、風見原陽介はんや……。」
「おお!あの伝説の勇者『パララケルス7』の風見原明弘はんと星野希良々はんの息子はんか!」
「せや……。」
「そういう事やったら、菫、応援したるから、頑張れや!」
「へ!?」
「神鳴流後継者のお婿はんとしても、申し分ないで。」
「そ、そないな事言うても、うち、片想いやって……。」

現金にも、相手が陽介と聞いた途端に、豹変する一夫。
平蔵も、感慨深げに頷く。

「ほお。あの二人の息子はんか。そら、ええお相手やなあ。」
「お、おじちゃんまで!」

菫は真っ赤になった。

「菫。そのような方であれば、平ちゃんや和葉ちゃん達もついてるんやし、菫が行かなくても大丈夫やで。今のアンタが行っても足手まといになるんがオチやろ?せやから、今日はもう、休んどき。」
「う、うん……。」
「こん次は、足手まといにならんと、きちんと並んで戦えるように、自己管理を怠ったらあかんで。」
「うん、わかった。」
「やれやれ。結局、母が一番強い、言うこっちゃな。」

とりあえず、菫が納得して、寝床に向かったので、三人はホッとした。
この時、菫には太刀打ち出来ないような相手が、陽介に近付いていたのを、大人達は誰も気付いていなかった。
菫自身は

「けど何や、ごっつ嫌な予感がしたんやけどなあ……。」

と、本能の領域で気付いていたのだが。
体調不良の所為かと思い、この時はそれ以上突き詰めようとはしなかったのであった。



To be continued…….





Vol.6「頑張れ!小さな勇者達」に戻る。  Vol.8「カレーなるハマの休日」に続く。