C-K Generations Alpha to Ωmega
by東海帝皇&ドミ
第二部 勇者激闘編
Vol.9 煩悩大作戦
コナンと快斗を中心に、C‐Kジェネレーションズが結成され、シャドウエンパイアとの戦いが続いていた。
そんな2月3日の金曜日。
服部平次の従姉妹であり、警視庁特殊能力捜査部部長であり、マジックギルドナンバー1にして、アルファトゥオメガのリーダーでもあり、そして化学者・発明家でもある、服部初音警視長は、C‐Kジェネレーションズのリーダー・江戸川コナンを、阿笠研究所に呼びつけていた。
「なーなー、コナン。アンタこれ着けてみーや。」
初音はコナンに対し、ある物のテスターになるように頼んでいたのである。
「……これ、一体何だよ?」
「煩悩チェッカーや。」
「煩悩チェッカーあ?」
「せや。これをつけると、被験者の煩悩の程度に合わせて、数値化されたのがこっちのメーターに現れるんや。」
「また、下らねえもんを……。」
「何やて!?」
「わざわざ、煩悩を数値化して、何の意味があるってんだよ?」
コナンはジト目で初音を見ながら、冷たく言い捨てた。
「数値化するだけやのうて、数値が大きかったら爆発する仕掛けになってんのや。」
「はああ!?」
「この世から、ドスケベ男を一掃して、性犯罪を撲滅する事が出来る、どや、画期的な発明やろ?」
「あのなあ。この世の男がみんな、これをつける事を了承する訳ねえだろうが!」
「勿論、形は色々改良するで。けど、今の段階でちいと実験してみたいんや。」
「おいおい……俺は被験者になった挙句爆発なんて、ごめんだぜ。」
「心配あらへんで。これで酷い目ぇに遭うんは、ドスケベな男だけや。コナンやったら大丈夫やろ?」
「……断る!」
「ほーっ、つー事は、アンタは快斗みたいなスケベだったっつーのを自分で認めたっつー事かいな?」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺をあんなヤローと一緒にしないでくれよ。」
「凄い言われようね、快斗君。」
「まあ、真っ白い実話でござるからなあ。」
たまたま研究所に来ていた舞と風吹が二人のやり取りを見ていた。
「なら、着けれるやろ?」
「う゛……。」
にんまりとする初音に対し、一本とられたかのようなコナン。
「……わーったよ。着けりゃいーんだろ、着けりゃ。」
そう言いながらコナンはしぶしぶ煩悩チェッカーを装着した。
何のかんの言いながらコナンには、「黒羽と違って俺なら大丈夫」という自信があったのである。
そう、大丈夫な筈だった。
予定外の事さえなければ。
「よっしゃ!じゃあ早速テストや!!」
初音は、コナンに対してウィンクをして見せた。
しかし、
「……。」
「……あれ、何の反応もせえへんなあ……。」
煩悩チェッカーのメーターの針は、ピクリとも動かないのであった。
「なら、これはどや!?」
次に初音は、コナンに対して、岳野ユキの水着グラビア写真を見せた。
しかし、
「……。」
煩悩メーターはそれでも何の反応も示さなかった。
「おかしいなあ……、ならこれならどや!?」
初音は、更にたくさん、スタイルの良い美人女優達の、18禁グラビア写真をコナンに突きつけた。
が、
「……。」
「な゛っ、これを見て何も反応せえへんのんか!?」
「なあ、初音さん。これ壊れてんじゃねーのか?」
「そっ、そないな事あらへん!!ウチはそんなモン作った覚えなど無いわい!!」
発明品を貶されて激昂する初音。
コナンにしても、自分の煩悩がおそらく並より低いという自覚位はあったが、まさかメーターが全く動かないほどとまでは思って居なかったので。
機械が作動していないのではと考えていたのである。
「だってウンともスンともいわねーじゃねーか。」
「くー〜〜〜〜っ、ならこれならどや!?」
半ばヤケになった初音は、いきなり上半身の洋服を脱ぎ捨て、自らのナイスバディを晒した。
「ちょ、ちょっと初音さん!?」
「いくらなんでも、それはやり過ぎでは!?」
慌てふためく舞と風吹。
そこへ、
「そんなに慌てなくても良いわよ、二人とも。」
自室からやって来て、顛末を見ていた哀が、二人を宥める。
「えっ、でも……。」
「これではさすがのコナン殿も……。」
「まあ、見てなさい。」
哀は泰然とした心構えで、様子を見る。
「さあ、これなら動くやろ!?」
と、初音は捨て身で挑んでみたが、
「……それがどーしたんだ?」
コナンは半ば呆れたかのようにジト目で彼女を見た。
勿論煩悩メーターは動かぬまま。
「う゛〜〜〜〜っ。ウチこれでもスタイルに自身があったのにこの反応は何や〜〜〜〜っっ。」
初音は屈辱のあまり滝の如く涙を流した。
その時、
「ハッ、もしかしてアンタ、薬の影響で煩悩が消えたんや無いやろな?」
再び服を着ながら尋ねる初音。
「ハア?そうかあ?」
「だって、普通の男なら、これくらいのもん見たら、煩悩がいやでも出てくるもんなんやで!?」
「けどなあ、俺、コナンになる前からその手のモノを見ても何とも思わなかったけどなあ。」
こともなげに答えるコナン。
「ほーっ……、そこまで言い切るなら、舞、風吹!」
「えっ、何!?」
「何でござるか、初音殿?」
「アンタ等、この自信満々な坊主を陥してみいや。」
「「ええええ〜〜〜〜っ!!?」」
舞と風吹が叫ぶ。
「じょ、ジョーダンじゃないわよ!何で私達がそんな事を……。」
「お断りでござる!!」
これを見たコナンが言った。
「あのなあ。この2人が俺に対して、色仕掛けなんて出来る訳ねえだろ?」
ピクッ。
舞と風吹のこめかみが動いた。
「ふうん。コナン君は私なんかには、誘惑されないって訳?」
「コナン殿、自信満々でござるな。その鼻っ柱……。」
「へし折ってあげるわ(でござる)!」
「おいおい……俺はただ、二人とも陽介さん一筋だから無理だろうと思っただけで……。」
「「問答無用!!」」
自分の言葉が逆に二人の闘争心に火をつけてしまったと知ったコナンは慌てたが。
最早コナンの言い訳など耳に入らぬようになってしまった二人に、溜め息をつくしかなかった。
とは言え、流石に二人とも、初音ほど思い切った事が出来る訳もなく。
奥の部屋に引っ込んだ二人は、かなり際どいビキニの水着に着替えて出て来た。
二人とも、それぞれにプロポーションは抜群である。
並の男なら、二人がビキニの水着で並んで立っているのを見てしまえば、決して平静ではいられないであろう。
更に二人は、コナンを誘惑しようと、色っぽいと思える様々なポーズをとり始めた。
「さあ、どうかしら、コナン君?」
「これなら反応するでござろう?」
コナンに挑むようにたずねる二人。
これに対し、
「ははは……オメーら、何もそこまでむきにならなくても……。」
そう言って乾いた笑いを漏らすコナン。
勿論、煩悩メーターは、ピクリとも動かなかった。
「う、うっそーーーーっっ!?こ、こんな事って……!?」
「せっ、拙者これでも、自分の体にはそれなりの自信があったのでござるが…………はっ、初音殿!!やはりコナン殿は、子供の姿になった為に煩悩がなくなったのでござろう!」
「そうよ!でなきゃ、いくら蘭ちゃん一筋でも、こんなに反応しないなんて事ありえないわ!」
風吹と舞が悔しそうに言う。
「あら。そんな事はないと思うわ。江戸川君は、以前少年探偵団の皆と一緒に、伊豆に海水浴に行った時……。」
哀が口を挟みかけた。
『ゲッ!灰原のヤツ、まさかあの時の事を……。』
コナンが焦る。
哀はコナンを見やってフッと笑った。
「なっ、何!?」
「何でござるか、哀殿!?」
舞と風吹が、身を乗り出して哀の話に聞き入っている。
哀は、微妙に話題を変えた。
「実は以前、工藤新一が本当に死んだのか、組織の人と一緒に工藤邸の家捜しをした事があったのだけれど。その時、家中をしらみつぶしに探したのに、全然なかったのよ。年頃の男性の部屋にはあってしかるべきものが。」
「「「は?と言うと?」」」
初音と舞と風吹が、異口同音に聞いた。
「その手の、ビデオや本がね。全く、ひとつも、なかったの。」
「「「!!!!!!!?」」」
それを聞いた初音・舞・風吹は、顎が外れんばかりにあんぐりとした。
当のコナン本人が、哀の言葉に首をかしげた。
「灰原、どういう意味だ?年頃の男性の部屋にあってしかるべきビデオや本って?」
「フッ……江戸川君は知らなくても良い事よ。」
初音が、腕組みをして言った。
「う〜ん。そりゃ健全な男子高校生としてはまちごうとる思うで。」
「私もそう思うわ。」
「同感でござる。」
「おい!だから、何なんだよ!?そのビデオや本ってのはよ!?」
と、その時、
「こんにちわー。蘭、こっちに来てない?」
そう言って入って来たのは、園子である。
「園子、いらっしゃい。蘭々は来てないで?」
「そう?変ねえ。こっちに来るって聞いたんだけどなあ。」
「ゲッ!蘭が来るのかよ!?」
「あら?新一君じゃない。何よ、蘭が来ると何かまずい事でもある訳?」
「い、いや、そういう訳じゃ……。」
焦りを笑いでごまかすコナンであった。
「ところで、舞、風吹さん、その格好は?水着選びにはまだ早いんじゃない?」
「え゛、そ、それはその……。」
舞と風吹も、焦りを笑いでごまかした。
「ん〜?あんた達……蘭が来るって聞いて焦る新一君と言い……何か変ね!?もしや、二人で新一君を誘惑しようとしていた!?」
妙に鋭い園子の、当たらずと言えども遠からずの発言に、舞と紅葉も、コナンも、ビクビクと反応した。
哀が溜め息をついて、言った。
「ま、半分正解ってとこね。実は……。」
哀が園子に、煩悩チェッカーとその実験について、説明した。
聞き終わった園子は、大笑いして手を上下に振った。
「あはははは、ばっかねえ。新一君があなた達の誘惑に乗る訳ないっしょ!!」
「えっ、な、何で!?」
「どうしてでござる、園子殿!?」
プライドを傷付けられた舞と風吹が、園子に詰め寄った。
ちなみに二人は、既に普段着に着替え終えていた。
「だって、新一君ってさあ……。」
その時である。
入り口から、澄んだソプラノの声が聞こえた。
「こんにちわー。」
研究所に蘭がやって来たのである。
「おや、蘭々やんか。どないしたん?」
「ら、蘭!?どうしてここへ!?(今日は用事があったんじゃ?)」
笑顔で迎える初音と、対照的に慌てまくるコナン。
「あ、新一もここに居たんだ。家庭科でクッキーを作ってきたんで、初音さんにもお裾分けをと思ったんだけど。新一も、食べてくれるよね?」
極上の笑顔で答える蘭。
これを見たコナンは、
「か、可愛い……。」
思わず頬を染める。
その時、
ブーッ、ブーッ、ブーッ!!
と、煩悩チェッカーから警告音が発せられた。
「わっ、な、なんだよ、これ!?」
突然警告音が鳴り出した事に驚くコナン。
「こ、これってどう言う事や!?」
初音も煩悩チェッカーが急に動き出した事に驚きを隠せない。
「はっ、しまった!そういう事だったのか!」
コナンが焦った声で呟いた。
コナン自身、自分は煩悩チェッカーにかけられても大丈夫だと言う自信があったのだが。
そこには例外がある事も、実は分かっていたのである。
ただ、流石に水着姿でもない蘭に対して「警告音を発する程」の事態になるとは、想定外の出来事であった。
「や、やべえ……今日は蘭が用があるって言ってたから安心してたのによ。早く蘭から意識を逸らさねーと。」
けれど、意識しまいとすればするほど、逆に蘭を余計に意識してしまうコナンであった。
背中を冷たい汗が流れ始める。
お願いだから今はこっちを向いてくれるなというコナンの願いも空しく、蘭が近付いて来た。
「どうしたの、新一?顔色が悪いわよ?」
蘭が心配そうにコナンを覗き込んだ。
「ら、蘭、駄目え!!」
「蘭さん、工藤君から離れて!」
事態に気付いた園子と哀が、焦った声で蘭を止めたが、遅かった。
「う゛っ……。」
間近に迫った蘭の顔に、コナンが更に頬を染める。
その時、
「エマージェンシー、エマージェンシー!煩悩レベル200%、煩悩レベル200%。」
「ゲッ、ちょ、ちょっと待てよ、おい!?」
煩悩レベルが最高値を超えた事を知らせる警告音を聞いて急に真っ青になるコナン。
「え?新一、どうしたの、一体?」
「蘭!やばいわ!こっちへ!」
「蘭さん、危ないわ!」
園子と哀が有無を言わさず蘭の手を取って、地下室へと駆け出した。
「ちょ、ちょっと園子!?哀ちゃん!?」
蘭は、訳が分からないままに園子と哀に引きずられ、地下のフォースウェポン安置室へ向かった。
更に、
「あっ、待って、蘭ちゃん!」
「せ、拙者も!」
いまだ訳が分からないまでも、危うい事態になっている事を瞬時に悟った舞と風吹も、園子と蘭と哀の後を追った。
初音も遅れて五人の後を追おうとしたが。
後ろからむんずとコナンに襟首を引っ掴まれた。
「これを止めろーーーーっっ!!」
コナンが血相を変えて初音に迫った。
「うわあーーーっっ、寄るなやーーーーっっ!!!」
顔を真っ青にして、初音は逆方向に逃げ出し、研究室から飛び出した。
コナンもその後を追って、飛び出して行った。
有無を言わさず地下の安置室に引きずり込まれた蘭が、
「ねえ、これって一体どういう事なの!?」
園子と哀に問い質した。
「初音さんの開発した機械が、新一君に取り付けられたんだけど、それが爆発しそうになったのよ。」
「ええっ!?そんな……新一っ!」
「蘭さん、行っちゃ駄目!」
「そ、そんな事言われたって!新一がまだ上に……!」
蘭が止める園子と哀を振り切って、再び元の部屋に戻った時には、既にコナンと初音は研究所を飛び出して、どちらに向かったのか分からなかった。
コナンを心配して探し回った蘭が、ようやく二人の行方を知った時には。
全てが終わった後だった。
補足しておくと、この日蘭がコナンに「用事がある」と言っていたのは、家庭科でのクッキー作りが上手く行ったら一番に新一に届けて食べて貰おうと、ささやかなサプライズを計画していた為で。
帰宅した時コナンが毛利探偵事務所に居なかったから、きっと阿笠研究所に居るだろうと、目星をつけてやって来たのだった。
それがこういった形で裏目に出るとは、夢にも思って居なかった蘭である。
☆☆☆
「今日は初音さんのトコで何か面白い発明品でも見てこーかなあ。」
と言いながら、米花町界隈を歩いている快斗。
今はキッドの獲物になるような宝石もなく、青子も今日は恵子達と遊びに行ってしまった為、早い話、快斗は暇だったのである。
その時、
「止めてくれーーーっっ!!」
「来るなやーーーーっっ!!」
と言う叫び声が快斗の耳に入って来た。
「え?」
快斗が顔を上げると、
どんっっ!!!
何かが快斗にぶつかって来て、彼は倒れてしまう。
「いててて……、何だよ、一体……!?」
快斗が見てみると、
「あれ、初音さん?」
「な、何や、快斗やんか。」
ぶつかって来た初音が答えた。
直後、
「やっと捕まえたぜ、初音さん!」
彼女を追ってきたコナンが追いついてきた。
「ゲゲッ!?」
「ん、どーしたんだよ、二人とも?」
事情を知らぬ快斗が尋ねると、
「初音さんにこれを外してもらおうと追いかけたんだよ。」
コナンは快斗に、腕につけられた煩悩チェッカーを見せた。
そこから、
「エマージェンシー、エマージェンシー!煩悩レベル200%、煩悩レベル200%。間もなく爆発します。」
との警告音が。
「わ゛ーーーーっ、ちょ、ちょっと待てえ!!」
警告音を聞いて血相を変える快斗。
「頼むからあっち行きいや!!」
「何言ってんだよ、こんなもん着けさせといて、今更それはねーだろ!!」
初音とコナンが言い争いになる。
「ジョーダンじゃねえ!そんなモンに巻き込まれてたまるか!!」
快斗が逃げ出そうとした時、
「ちょっと待ってえな、快斗!」
初音が快斗の服を掴んだ。
「は、離せよっ!」
快斗がマジックで鍛えた腕ですり抜けようとすれば、初音は負けじと魔法の力まで使って快斗を拘束する。
「初音さん、んな力があるんなら、コナンから逃げる方に使ってくれ!」
「そんなん、とっくに試したけど、コナンの執念には勝てへん!けど、ウチだけこないな目に遭うのはシャクや、アンタも道連れにしたる!」
「そっ、そんな、理不尽な!」
三人が言い争っているところに、また、間の悪い男が現れた。
高木渉警部補である。
「あれ?初音さん、それにコナン君に快斗君?一体こんな所で何を……。」
「高木刑事、危ねーから寄るな!」
「コナン、酷いやないか!渉だけ庇うんか!?」
「アンタは元凶で、高木刑事は部外者だろ!」
「新一、俺も部外者だろうがよ!」
「オメーは殺しても死なねえだろ。それにC‐Kジェネレーションズのサブリーダーだし、一蓮托生だ!」
「ひでえ!んな事、今関係ねえだろ!?」
高木警部補が訳が分からず、オロオロしている間に。
いつの間にか初音に拘束されてしまっていた。
「こ、これは一体……?」
訳が分からず呟く高木警部補。
しかし、
「エマージェンシー、エマージェンシー!煩悩レベル200%、煩悩レベル200%。間もなく爆発します。」
「ひいいい!た、助けて〜〜っっ!」
コナンの腕に取り付けられた煩悩チェッカーからの警告音で、真っ青になった。
「渉!仮にもウチの配下の警視庁特殊能力捜査部の警部補が、情けない声出すなや!」
「……そこら辺は初音さんも似たようなもんじゃ……?」
「コナン?何か言うたか?」
「ああ、言ったけど、それがどうした?」
コナンが初音をギロリと睨んだ。
今回ばかりは、初音の方が分が悪い。
何しろコナンの腕にはいつ爆発するか分からない代物が着いているのであるから。
「コナン!オメー、蘭ちゃんがここに居ないのに、何で煩悩レベルがそこまで上がるんだよ!」
「……このチェッカー、一旦メーターが振り切ると、元に戻んねえんだよ!蘭とはとっくに離れて煩悩はゼロになってる筈なのに、エマージェンシーが解除しねえんだ!」
「ははははは……初音さん、よりによって何故そんな設定に……?」
「その方が煩悩の抑止力になる思うたんや〜〜〜!」
「バーローッ!んな訳ねえだろうがっ!!」
彼らはそのような会話をしながらも、コナンが初音を追い、初音が高木警部補と快斗とを引きずる形で、米花町内を走り回っていた。
すると、彼らの目の前に、更に間の悪い男が出現した。
本堂瑛祐が、偶然彼らの行く先を歩いていたのである。
蘭・園子・舞のクラスメートである瑛祐は、ちょっと見は女の子のように見える可愛い外観だが、一応その能力が認められてC‐Kジェネレーションズの一員であった。
しかしながら、その能力以上に、そのドジっぷりは折り紙つきである。
「瑛祐、危ない、どけ〜〜〜っ!」
「え?」
コナンが叫んだが、ドジな瑛祐がよけられる筈もなく、むしろ自分からぶつかり易い位置に動いてしまったのであった。
「うわっ!?」
ドンッ!
「いてててて……、な、なんですか、いきなり……。」
突然コナン達に衝突された瑛祐が起き上がろうとするが、
「な、何だこれ、おい!?」
「何か絡まってるぜ!?」
コナン達は、瑛祐と衝突した弾みで、彼が持っていた縄跳びの紐が絡まってしまった。
今や五人が一塊となり、どうにも身動きがとれず逃れようがない。
「瑛祐、これは一体!?」
「あ……瑛海姉さんに頼まれて持って行こうとしていた、縄跳びの紐です……。」
「ははは……どうしてよりによって、んなもの持ってんだよ……。」
「なっ、なんちゅーこっちゃ……。」
逃げられないと悟った初音が、ガックリとうな垂れた。
コナンが、初音に詰め寄る。
「とにかく外してくれよ、これ!!」
「外して言われたかて、無理なんや!」
「どういう事だよ!?」
「エマージェンシー発動してしもうたら、それはもう外せへんように設計されてるんや!」
「なっ、何〜〜〜っ!?」
「どうしてそんな危ないもの作るんですか!?」
「ぼ、僕がいくらドジっ子だからって、何でこんな目に!?」
巻き込まれてしまった快斗と高木警部補と瑛祐が、口々に初音を非難した。
「今そないな事言われたかて、どないもこないもでけへんで!」
「うわ〜〜っ、この縄を解いてくれ、切ってくれ〜〜〜!」
「快斗君、得意のマジックで何とかならないのかい!?」
「さっきからやってんだけど、この縄、ただの縄跳び紐じゃねえ!」
「あ、それ、伸縮自在で絶対切れない特別製ですから。」
「だ〜〜っ、んなもん何でこんな時に持ってんだよ!?」
「ひ、酷い……!ボクは被害者なのに、そんなに責めなくたってイイじゃないですかあ!」
切羽詰った状況の中、言い争いになる五人。
そして、
「エマージェンシー、エマージェンシー!煩悩レベル200%、煩悩レベル200%。ファイヤーーー!!!」
「「「「「ゲッ……!」」」」」
どかーーーーーーーーーーんんっっっ…………!
その日、米花町内に一瞬だけ高々と爆炎があがったそうな。
合掌。
☆☆☆
翌週の2月6日の月曜日……。
「聞いたで、初音ちゃん。この前の騒ぎの事は。」
大阪府警本部長室にて。
初音は本部長相手に、神妙な顔をして畏まっていた。
数日前の米花町での爆発が、初音の開発した煩悩チェッカーによるものである事を、初音の叔父でもある服部平蔵本部長が聞き、その元凶を大阪府警に呼び出したのである。
この同じ場所に、初音の研究や発明の協力者である灰原哀も呼び出されており、初音の横で、こっそり溜め息をついていた。
哀が初音の研究に協力するのは、アポトキシン4869の解毒剤・エクスキュアーズ開発の為であり、初音の才能や心意気に感心したからでもあったが。もう一つ、「すぐに最初の目的を忘れ、手段が目的化し暴走してしまう初音」の暴走を止める為もあったのである。
このような騒ぎを繰り返す初音に、哀の口から溜め息が出ても、無理からぬ事であったろう。
初音としては、爆発で皆何故か軽傷で済んだものの、あの後、同僚の美和子や侍女の葉槻など、あらゆる人から責め立てられ、特にコナンを実験台にされた蘭の怒りが大きく、いまだ許して貰えず、散々な目に遭った後だったので、面白くなかった。
「せやけどあれはコナンが……!」
「ほう?コナン君が悪いのか?」
「せや。蘭々相手に煩悩を抑え切れんヤツの未熟さが、今回の爆発の原因で……。」
「ちょお待て初姉!アンタ、自分でやった事棚に上げて、工藤の所為にするんか!?」
同室していた平次が、思わず口を出した。
が、
「ん?」
「う゛……。」
平蔵は静かに平次を一瞥し、その迫力に、平次は口をつぐんでしまう。
平蔵は静かな声で、初音に質した。
「初音ちゃん。コナン君が毛利探偵の娘さんに並々ならぬ煩悩を抱いている事はよう分かった。で、コナン君は煩悩のままに、普段から蘭君に悪さをしていると、そう言うんやな?」
「そ、そないな事は!」
「何や、違うんか?」
「アイツは普段、蘭々を大事にしとるし、何かあったら身を挺して守るし……。」
「ほおう、なら何も問題あらへんやないか?」
「け、けど、あんなに煩悩が強いんやから、きっと腹ん中ではいやらしい事ぎょうさん考えてんで!ウチがあの機械を発明したんは、煩悩が出て来んように訓練する為や。煩悩が出たら爆発するんやから、あれをつけて訓練したら煩悩も鎮まるやろ思うたんや。けど、コナンの煩悩は爆発の恐れ位では治まらんやった。」
「……それが、そないに問題になる事なんか?」
「へ?」
平蔵は、ゆっくりと初音に向き直り、向かい側のソファに腰かけた。
「初音ちゃんは気立てはごっつええし、暴走するきらいはあっても、正義感に溢れとる。けど、男っちゅうもんを分かっとらん。」
初音は真っ赤になった。
実は初音は今迄特定の男性と恋人付き合いをした事はなく、男性体験皆無だったのである。
「ウチは男を知らへんけど、それがそないにあかんのか?」
「アホ。そっちの話やない。そうやのうて、男という生き物を分かっとらん言うてんのや。人間ちゅうもんは、綺麗なもんやあらへんで?腹ん中はドロドロなもんや。せやけど、己の醜い欲望を律し、清く正しく生きようと頑張っとる、それが正しい人間の道いうもんや。」
平蔵の真摯な言葉に、初音も哀も、同室していた平次と和葉と菫も、居住まいを正し、黙って聞き入っていた。
「男っちゅうもんはな。煩悩の塊言うても間違いあらへん。けどまともな男やったら、煩悩のままに暴走せんよう、常に自己を律しとるもんなんや。人の道に外れんように、大事な人を傷付けんように、我慢しとるもんや。それは、煩悩自体を消し去るより、ずっと尊い事やと思わんか?」
(オヤジ、結構言うやんか……。)
平蔵の説得力ある話に、感心する平次。
「うう、初ちゃん、本部長にあんなに絞られて、大丈夫やろか……。」
本部長室の外では、特殊能力捜査の近畿ブロックの責任者で、大阪府警察本部刑事部特殊能力課の課長・大滝悟郎警視が心配そうに、様子をのぞいていた。
そこへ、
「おい大滝。お前そないなトコで何しとんねや?」
「げっ、お、おやっさん!?」
遠山銀司郎刑事部長に呼びかけられて、驚く大滝警視。
更に、
「大滝君、アカンねえ。勝手に覗いちゃ。」
「み、御剣の大将……!」
菫の父親の、御剣一夫生活安全部長ににこやかに呼びかけられて、更に青ざめる大滝警視。
「い、いやあ、オレ昔初ちゃんの推理で色々と助けられた事があるんで、本部長に呼び出しを食らったのを聞いて、ごっつ心配になってそれで……。」
「そう言やあ、オレや平蔵も、初音ちゃんの推理には大いに助けられたなあ。」
「あの当時、初音ちゃんは『名探偵寝屋川の大食い女王』として、関西圏では結構持て囃されとったよねえ。そんな彼女が、まさか婦人警官、それもボクや遠山君と同じクラスの警視長になるなんて、夢にも思わんかったよ。」
「そうでんな。けど……。」
大滝警視は、再び心配そうに本部長室のドアを見やった。
「なあ大滝、初音ちゃんが、気立てはごっつええけど、よう暴走してまうっちゅう事は、オマエもようわかっとるやろ?」
「はあ、まあ……。」
「心配あらへん。平蔵君は、大滝君や僕らよりもずっと、初音ちゃんの事、大切に思うとる。そん平蔵君に絞られるんも、初音ちゃんの為に必要な事や。他には初音ちゃん止められるもんも、諌められるお人も、おらへんさかいなあ。」
「一夫の言う通りや。ここは平蔵に任せとき。」
「は、はあ……。」
遠山刑事部長や御剣生活安全部長に促されて、大滝警視は彼等と共にその場を後にした。
「初音ちゃん。ワシ等警察官は、犯罪者を捕まえるんが大きな仕事やな。」
「は、はあ……。」
「犯罪者と、まっとうな市民との違いは、煩悩や欲望の差やあらへんのやで?誰しも、欲望・煩悩・ドロドロしたもんを、山ほど腹ん中に抱えとる。けど、それを理性で抑えるんが、まっとうな人間いうもんや。」
「そういうもんやろか?」
「初音ちゃんのように、欲望が少のうて腹ん中が綺麗なやつは、逆にそこが理解でけへんとこやろうけど。腹ん中の汚いもんは、許してやれんとあかんで?それがホンマの優しさ言うもんや。」
「……叔父ちゃん。」
「まっとうな男は、煩悩を表に出さんと、女性を大切にするもんなんや。コナン君はホンマやったら平次と同い年、毛利君の娘御にそこまで惚れてんのやったら、煩悩も半端やあらへんやろ。けど、大事な女(ひと)やからこそ、それを微塵も出さんと、余計に痩せ我慢しとる男の気持ち、分かったれ。ええな?」
「平蔵の叔父ちゃん、分かったで。ウチの考え違いやった。堪忍な。」
初音が笑顔で大きく頷いて。
そこに居た面々は、一様にホッとした顔をした。
☆☆☆
初音が、「迷惑をかけた面々へのお詫び」と称して、下宿先の工藤邸にて女の子達を集めたお茶会を開いたのは、それから程無い2月11日の土曜日である。
ここに集まったのは、蘭・青子・和葉・園子・恵子・哀・紅子のC‐Kジェネレーションズ、舞・風吹・菫のアルファトゥオメガ、そして佐藤美和子警部や侍女の越水葉槻である。
「私は良いけど、新一にちゃんと謝ってよね。酷い目に遭わせたんだから。」
「快斗や瑛祐君達にもだよ。巻き添え食わせたんだから。」
「勿論、高木君にも、ちゃんと謝るのよ。」
蘭と青子、美和子が口を尖らせてそう言った。
「堪忍な。コナンと爆発に巻き込んだ渉・快斗・瑛祐には、ちゃんとお詫びしたで。今日のは、お詫びのお茶会は表向き、実は煩悩チェッカーの調査結果発表なんや。」
その言葉に、蘭と青子のこめかみがピクピクと動いた。
「初音さん、性懲りもなく、また?」
「全然反省してないじゃない!」
「ちゃうちゃう、今回の煩悩チェッカーは、本当に調査に使うただけで、爆発も電流もなしやで。アンタら、男の煩悩がどないなものか、知りたいと思わへんか?」
お茶会参加の面々は、皆顔を見合わせた。
そして、初音の方を見てかすかに頷いた。
彼女等もそれぞれに、愛しい男性の煩悩の程を、知りたい気持ちがあったのだった。
「今回の煩悩チェッカーは、完全に腕時計と一体化しとってな。あ、心配せんかて、今回のはホンマにただのチェッカーで、電流も爆発もなしや。結果は全部、ウチのパソコンに送り届けられてる。
サンプルも沢山とったから、平均と比べてどうなんか一目瞭然や。こっちが平均値グラフで、これに重ね合わせると、ターゲットの傾向がよう分かるで?」
遮光カーテンが閉じられ、パソコンの画面がスクリーンに映し出される。
まずは、男子高校生の平均値がそこに映し出された。
ティーンエイジャーの若い男性達は、「本命」への煩悩が突出してはいるものの、他の女性にも少なからす煩悩を抱いているという事実を、目の当たりにして。
このお茶会に参加している女性陣からは、呆れとも諦めとも驚きともつかぬ溜め息が漏れた。
20代30代男性のグラフが、続いてそこに重ねられる。
年齢と共に、全体的に煩悩値は落ち着いて行くが、傾向としては10代の頃と同じ。
本命以外にも煩悩があるのが、普通の男性だと言えた。
「さて。アンタ等が気になっている相手の結果を表示するで」
蘭・青子・和葉……皆、食い入るようにスクリーンを見詰めた。
見たくない、怖いと思いながら、見ずには居られない。
「まずは、超ドスケベエの、黒羽快斗からや!」
映し出されたグラフを見て、皆、ざわめく。
あんなにスケベな快斗だから、きっと平均値よりずっと煩悩が高いと思っていたのに、結果は。
「傾向は、17歳の他の男達と一緒やな。けど……。」
平均値のグラフと比較すると、明らかに低い。
「な、何で!?」
快斗の恋人である青子にも、これは意外な結果であった。
「快斗は、普段スケベしとる分、意外と溜め込まんと発散しとんのやな。やから煩悩値が低いんや。けど、ここだけは平均値よりちと高め。これは本命への煩悩値、青子、アンタや。」
言われて青子は、少し複雑な気持ちであった。
「スケベと思ってた快斗が、意外とそうでもないって知って、ホッとしたような気もするけど……やっぱり快斗は、本質的に女好きなんだよね……。」
女性陣は、それぞれに顔を見合わせる。
「やっぱり、男って……。」
「恋愛感情と欲望は別って、聞いた事はあるけど。」
「こうやって数値で見せられると、何だかねえ。」
「男は信用でけんって気になってまうな。」
「わ〜ん、男性不信になりそう!」
けれど、初音は少し違った視点で発言した。
「これ見て、ウチは平蔵のオッチャンの言った事がようわかったで。煩悩がある事が問題なんやない、行動に移すんが問題やってな」
「ねえじゃあ、初音さんも、服部君のお父さんも、浮気は男の甲斐性だから認めろって言うの?」
いまだ特定の相手が居ない恵子が、初音の言葉に反発し、恋愛への夢を無くして幻滅したような顔で言った。
「ちゃうちゃう、そういう意味やあらへん。男は本質的に浮気もんやけど、まともな男はそれを実行せえへんな?浮気心を抑えて余所見せんと本命一筋、けど本命にも、煩悩のままに手ぇ出す事はせんで大切にする。煩悩は煩悩で態度に出さへん、そないな男の心意気を汲んだったれや、そうゆうこっちゃな。」
「あ、なるほど〜。」
「そういう事でござるか。」
「それなら、分かる。」
「うんうん。」
「せやな。」
「そうだね。」
女性陣は、ようやく少し得心が行ったような顔でそれぞれに頷いた。
「つまり、男の人って、我慢してるって事よね。」
「いやいや、我慢が出来ない最低の男も、世の中には多いでござるよ。」
「アタシらの周りには、忍耐力のある我慢強い男が多いって事なんやね。」
「そして、これが渉の結果。」
「えっ、これって……!?」
思わず佐藤警部が喉を鳴らして画面を見詰めた。
彼の煩悩は全体的に、20代後半男性の平均より、やや低目という結果が出た。
本命の美和子への煩悩は、それなりの高値を示していたが。
煩悩そのものより行動が大事だと、頭では分かっていても。
渉の煩悩が並以上ではなく、けれど美和子に対しての煩悩はそれなりに高いと知って、ホッとした美和子であった。
「これは、陽介の結果や。」
今度は、舞・風吹・菫の三人が、息を呑んで画面を見詰める。
陽介は、18歳男子としてはごくごく平均的な結果を示していた。
そして、
「なっ、何よこれえ!?」
「ちょ、ちょっとこれは!?」
「う、嘘やろ!?」
陽介の三人への煩悩は、他の女の子に対してより僅かに高い程度と知り、
「あうう〜〜、そんな王子様〜〜〜っ。」
「主殿〜〜〜〜っ。」
「ダ〜〜〜リ〜〜〜ン〜〜〜っ。」
三人共にガックリとうな垂れ、滝の涙を流していた。
「陽介には今のところ、本命はおらへんようやな〜。次は瑛祐や。」
映し出された瑛祐の結果も、17歳男子平均とほぼ同じであった。
それを見て、思わず感心したように呟いたのは園子である。
「あら〜、瑛祐君もやっぱり男の子だったのね〜。」
本人が聞いたら泣いてしまいそうな失礼極まりないコメントであった。
その時、
「あれ……、瑛祐君一つだけやや突出しているのがあるけど……。」
蘭が瑛祐の結果を見て気づいた。
「あ、ホントだ。」
「あっ、これ葉槻ちゃんじゃないの!?」
「えっ、あらまあ!」
驚く葉槻。
「ほー、彼にもいよいよ春が近づいたってわけね。」
「あの女顔でなかなかやるじゃない。」
「え、瑛祐さんたら……。」
葉槻は思わず頬を染める。
「これから示す四人は、ちょお特異的な結果になったで。いや、探偵っちゅうのんは、変わりもんばっかりやなあ。一人だけ探偵やないお人も混じっとるけどな。まずは、白馬っち。」
白馬探は、10代男性としては並外れて煩悩が低いという結果が出た。
「彼もフェミニストやけど、そん割に女好きやないっちゅうこっちゃな。けど、一人に対してだけは、かなり高いでえ。それは紅子、アンタや」
「まあ、探さんたら……。」
探と既に恋人同士になっていた紅子は、その結果にホッとしつつ、頬を染めた。
「で、これはまこちんの結果や。どや、すごいやろ?」
「!」
「こ、これは……。」
園子だけでなく、皆が大きく息を呑む。
京極真は、本当に18歳男子かと思われる程、女性に対しての煩悩が皆無に近かった。
勿論、ただ一人、園子に対する煩悩だけは突出しているが。
「この後の二人も、似たようなもんやな。」
次いで示されたのは、服部平次。
真と同じく、女性に対しての煩悩は皆無に近く、ただ一人、和葉に対しての煩悩だけが突出している。
「良かったねえ、和葉ちゃん。へーたんはやっぱり和葉ちゃん一筋なんやわあ。」
「ななっ、ア、アイツがそないな事……。」
顔を真っ赤にしながら否定する和葉だが、そんなに強い調子ではなかった。
「んで、最後の一人、こいつはホンマ驚くでえ」
最後に示されたのは、江戸川コナンである。
「ヤツは見た目は7歳の子供、けど煩悩は本来の姿のままや。……で、結果がこれなんや。」
皆、思わず「はあ」「ほう」と感嘆の声を上げた。
コナンは、女性に対しての煩悩が、本当に全く、なかったのである。
「思わず機械が壊れたか思う位に、メーターの針がピクリともせえへん。これは流石に他に居らんで。けどその分……。」
たった一人、毛利蘭に対しての煩悩値は。
桁外れにものすごく大きな値を示していて、グラフ内に収まり切れない程であった。
今度は皆思わず「おおおっ」と、感動の声を上げた。
蘭はその結果を見て、真っ赤になった。
「はああ、新一君ったら……ここまで、痩せ我慢していたのねえ。」
「す、すごい……蘭ちゃん一筋とは知ってたけど、こんなに煩悩を抱えていたとまでは気付かなかったわ。」
「いや、この煩悩の強さでいまだにキス止まりとは、コナン殿の忍耐力も大したものでござる。」
「って言うか、子供の姿だから、それ以上無理でしょ?」
「でも、アヤツ、ガキンチョの姿になってしまう前から、蘭があの家に泊まっても、全く欠片も、そんな素振り見せなかったのよね?」
園子に話を振られ、蘭は真っ赤になりながら、頷いた。
「うん……。だから私、新一が私の事、女の子と意識して好きでいてくれてるなんて、全然、気付かなかったんだもん……。」
「うむむ、蘭殿は特別鈍いのではござらぬか?」
「いや、この私だって、そりゃ新一君の気持ちには気付いてたけどさ、そんなヤラシイ気持ちで蘭を見てたなんて、全く気付かなかったわよ?」
「それに子供の姿でも、快斗みたくスカートめくりしたりタッチしたりは出来るけど、新一君はそんな事しないでしょ?」
「あははは〜、正体知られてないのをいい事に、いつもちゃっかり蘭の膝の上が指定席だったけどねえ。」
「……けどそれ、中身17歳高校生男子には、天国と地獄やったかも知れへんな……。」
「江戸川君にとって、蘭さんは欲望の対象である以上に、とても大切な存在なのよ。」
女の子達から色々言われて、蘭は真っ赤になって縮こまっていた。
「ねえねえ、服部本部長とか遠山刑事部長とかの結果はないの?あったら面白いのに。」
舞の言葉に、初音は青くなって身を震わせ、真顔で言った。
「恐ろしい事言いなや。あの二人にそないな事したら、ウチ、もう日本に居られんようになってまう。」
初音の言葉に、一堂はさもありなんと深く頷いたのであった。
「ウチも、コナンにはホンマ悪い事した思うたで?哀々の言った通り、コナンは蘭々に桁外れの煩悩を持っとるけど、それ以上に大切に思う気持ちがあんのや。ウチは、コナンの蘭々への深い気持ちを、結果的に茶化してもうたんやからなあ。
アンタら、ここで知った事は、男性陣にはオフレコやで?男の人は、大きな煩悩を持っとるけど、大切な女の子には痩せ我慢してそれを出してへんのやって事、心の中だけで分かっといてやんのやで?ええな。」
初音の締めくくりの言葉に、一同は深く頷いたのであった。
だがその時、蘭が真っ赤な顔をしながらも、どこか思い詰めたような憂い顔になっていた事に、誰も気付かなかった。
実は、コナンのグラフには、蘭以外の女性で一人だけ、僅かにだが煩悩チェッカーのメーターが動いた相手が居た事が示されていたのである。
蘭は思わず、本来は自分達と変わらぬ妙齢の女性である筈の、哀を見詰めていた。
『哀ちゃんは、新一と同じ立場の、新一の最大の理解者。それに、今の姿もとても可愛らしいけれど、本来の姿だとどんなに綺麗な女性なんだろう?もしかしたら、新一がいつか……気持ちを揺らす日が来るのかも知れない……。』
初音は、場を混乱させない為にその事はあえて黙っていたのであるが、実はコナンが僅かに反応した相手というのは、青子だったのである。
初音には、コナンが青子本人に反応したのではなく、青子とよく似た顔である蘭を連想してしまって反応しただけであるという事が、分かっていた。
けれど、蘭はそれを知らなかったから、今は蘭一筋に見えるコナンが、他の誰かに僅かにでも気持ちを揺らし始めているのかも知れないと、心痛めていたのであった。
それが後に、C‐Kジェネレーションズの戦いに陰を落とす事になるのであるが。
今は誰もそれに気付いていなかった。
☆☆☆
翌2月12日日曜日の午後、阿笠研究所にて……。
「へえ……、そんな事があったのか。」
『ああ、そや。』
コナンはケータイで、大阪に居る平次と話をしていた。
「まあ、今の本庁には、初音さんの暴走を抑えられる警官なんて誰もいねーからな。ある意味、本部長は適役だったな。」
『そーそー。で、流石に初姉も、お父んにきつう言われて、堪えたったようやで。』
「それなら良いんだけどよ。ったく、それに懲りて大人しくなってくれれば……。」
『せやなあ。ま、当分は大丈夫ちゃうか?』
「ああ、そう願いたいね。」
そこへ、
「なーなー、コナン。またおもろいモン発明したんやけど、テスターになってくれへんか?」
と、何やら怪しげなコアラのパジャマを手に初音が駆け込んで来た。
「服部ぃ!全然懲りてねーじゃねーかあ!!!」
『初姉〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!』
「ふう……、『バカは死んでも治らない』とはよく言ったものね……。」
「ハ、ハハハハハ……。」
同席していた哀や蘭もさすがに、ため息ついたり、苦笑いせずにはいられなかった。
まだまだコナン達の苦労は絶えそうに無い。
To be continued…….
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