BLACK



By 茶会幽亮様



第1話 心機一転



同年、4月、午後3時ごろ。

米花町にまた1つ新しい事務所が出来た。

「工藤探偵事務所」

看板にはそう書かれていた。
とは言ってもまだ開業はしておらず、荷物整理をしている所だった。
新一「よっと、結構かさばったもんだな。」
荷物を置いた新一はそう呟いた。
蘭「仕方ないでしょー、新一が部屋からあれもこれも持って来たんだからね。」
手伝いにきていた蘭は呆れた調子で答えた。
新一「へいへい、悪ーございました。」
園子「お二人さーん、早くこっちに来てー。」
この日、新一は蘭、園子、阿笠博士、志保、さらにちょうど2日前にロスから帰ってきた工藤両親と毛利両親に手伝ってもらっていた。
ほとんどが本なので、かなりの量なんだろう。
優作「やっぱり新一は探偵を続けるのか。まあ、それもいいんだけどね。」
新一「まぁね。やっぱり俺にはこれしかないから。」
有希子「でも新ちゃんはいいこと続きねー。来月にはついに蘭ちゃんと結婚だし。」
蘭「お、お義母さま・・・。」
思わず、蘭は顔を赤らめる。
そう、来月の5月6日には新一と蘭は結婚式を挙げるのだ。そこまでの道のりは小五郎の許しが出るまでが特に長かっただろう。
とそこへ不機嫌そうな顔をした当本人、小五郎がやってきた。
小五郎「新一、前みたいにいなくなって蘭を悲しませるような事があったらただじゃおかねーからな!」
一応許しは出したおじさんだが、結婚後も相当うるさくなるだろう。そう新一は考えた。
英理「あら、一度フィアンセを傷つけた人はどなたかしら?」
小五郎「うっ、そっそれは・・・。」
そんな小五郎も英理の口とあの激マズ料理にはかなわなかった。
英理「でもね新一君。私だってそう思ってるわよ。そこはちゃんと頭に入れておいてね。」
新一「はい、おばさん。」
新一は微笑んで答え、トラックに走って行った。
英理「あなたも、ほとんど男手ひとつで育てた宝石のような子供を手放すのが辛いのは分かるわよ。でも新一君は蘭の事を誰よりも一番大事にしてくれているみたいなんだからもう少し信じてみたら?」
小五郎「むぅー、しかしなぁー。」

3時間後、ようやく荷物整理が終了した。
博士「ふぅ、やっと終わったわい。3時間は疲れるのう。」
そういうと博士はどっと腰を落とした。
志保「でも本ばかりね。どれもこれも。」
新一「悪かったな。」
ばつの悪そうに新一は答えた。
新一「皆、今日はどうもありがとうございました。今日は自分がご馳走しますよ。」
園子「わーい。工藤君、太っ腹!」
優作「大丈夫なのか?こんな大人数で。」
新一「平気平気、知ってる限り4人は少食だから。」

その後、近くのレストランで夕食をすませ、皆は帰っていった。
予想外の金額に泣かされてしまった新一は蘭と一緒に事務所へ・・・。
新一「ちくしょう、まさか3万を超えるとはなー。おっさんもやけ食いし過ぎだっての!」
蘭「そういえば少しお腹抱えていたね、あれだけ食べ過ぎるなって言ったのに・・・」
小五郎の奥さん代わりをしていた蘭だけあって、彼女らしい言葉だ。
新一「まあ、過ぎたことだ。忘れよう・・・。」
普通なら誰だって引きずる所だが、とにかくこの空気から逃れたかった新一はサラッと流した。
とはいっても引きずっているのはバレバレだが・・・。
新一「これから新しい生活が待っているんだなー。」
新一はそう言って伸びをした。
蘭「そうね。」
新一「そして、蘭の名字も変わるんだよな。」
蘭「うーん、工藤蘭か・・・。案外良いかも。」
新一「案外とはなんだよ、案外とは。」
2人は楽しげに会話を弾ませた。すると・・・。
蘭「あっ、見て新一、桜吹雪。綺麗・・・。」
新一「そうだな。」
この辺は桜が街路樹として植えられており、街道の東にある丘から吹く風でこうした桜吹雪が見られることで有名だ。
ちなみに毛利探偵事務所から車で20分ぐらい。小五郎の仕事を取らないようにという新一の配慮だろう。
新一「おっと、もうこんな時間か。車で送るよ」
新一はガレージに止めた車に蘭を乗せ、桜街道を走った。
蘭「わー、すごーい。」
車による風でさらに桜が舞い上がった。
新一「ここら辺は『桜街道トンネル』なんていうあだ名もあるんだってさ。」
蘭「へー。」
『トンネル』を抜け、10分。毛利探偵事務所に到着した。
蘭「じゃあね。」
新一「おう。」
新一は蘭が階段を上って見えなくなるまで見届け、そして自分の事務所へ戻っていった。


続く




プロローグに戻る。  第2話「新しい生活、新しき事件」に続く。