BLACK
By 茶会幽亮様
第15話 memorys(__回想)
電話越しに聞こえたおぞましい言葉の主は誰だったのか? そもそも、一体工藤亭で何が起こっていたのか??
それは、さかのぼること10分前・・・
リビングにいたメンバーはくつろいでいた。喋りあったり、ふざけあったり・・・さきほどまで必死に戦い抜いた人がいるとは思えない光景だった。これがまだ「虚空の終幕」とも知らずに・・・。だが、そんなムードも長くは続かなかった。 突然、2階から大きな音がした。1回きりではなく、何度も。初めは「いつもの喧嘩だろう」と気にしてはいなかったが、だんだんそれがおかしいことに気付き始める。 試しに和葉・青子・園子の3人が2階へ・・・すると突然悲鳴が上がった。 平次「和葉!?」 快斗「青子!?」 真「園子さん!?」 すぐさま平次達3人が2階へ駆け上がった。すると、青子が腰を抜かしていた。その光景を見てすぐ、快斗が駆け寄ってきた。 快斗「どうした、青子!?一体何があったんだ!?」 青子「あ・・・、あ、あれ・・・。」 青子はこわばった表情で前を指差した。 快斗がその方向を見ると・・・途端に青ざめた。
そこにはなんと、蘭が銃を持って新一を狙っていたではないか!!!! 新一「どうしたんだ、蘭!?俺が分からねぇのか?!」 新一の問いかけも蘭には届いていない。 蘭「・・・。」 そこにいた「蘭」は、いつもの蘭とは思えない様子だった。冷たい目で新一を狙い、無表情で、無言で銃を構えていた。まるで、誰かのように...。 和葉「蘭ちゃん?!どうしたんや!!?」 和葉が蘭に叫ぶと、いきなり蘭が和葉に発砲してきた!! 2階の廊下に銃声が響き渡った。 平次「和葉?!」 すかさず平次が和葉に駆け寄った。 幸い、弾はそれていき、和葉は無傷で済んだ。しかし、和葉は膝を落として何が起こっているのか分からなくなっていた。 新一「クッ!!」 蘭の行動に耐え切れなくなった新一は、蘭へと突進していった。そして、溝に回し蹴りを食らわせようとしたが・・・空手の有段者である蘭に効くはずがなく、サッと受け止められてしまった。 蘭「・・・。」 そのまま新一の足をつかみ、階段の方へ投げた。 だが、新一はこのとき、細々と蘭の声を耳にした。「逃げて」と・・・。 真が新一を受け止め、間一髪で新一が1階へ落ちるのを防いだ。 新一「ここじゃ危ない、1階へ行こう。」 新一は皆に呼びかけ、1階へ降りていった。すぐに、蘭も後を追っていった。 平次「あかん、はよジョニーはんに連絡せな!!」 平次は携帯を取り出して、ジョニーに連絡した。
ここで、あのおぞましい声が聞こえたのだ。そう・・・蘭の口から。
新一は必死に蘭の追行から逃げていた。すぐに銃は弾切れにはなったが、如何せん彼女自身が凶器にもなりえるのだ。どうしようにもなかった。 園子「蘭、もうやめてよ!!」 親友の声さえ、蘭は聞いてはいない。 真が蘭を黙らせようと技をかけるが、全て受け止められてしまい逆に押し飛ばされてしまった。 園子「真さん?!」 幸い、真は無傷だった。 銃がつかえなくなろうと、蘭は未だに新一を亡き者にしようとしていた。 と、新一がバランスを崩して手をついてしまった。それを見た蘭はとどめをかけようとした。 だが・・・一発の銃声がそれを防いだ。すぐに蘭が倒れた。 新一「ら、蘭?!」 新一は蘭に駆け寄った。右肩を撃たれてはいるが、それほど出血してはいない。それに・・・すやすやと寝息を立てている。 発砲したのはジョニーだった。ジョニーは愛用のマグナムを胸ポケットにしまった。 ジョニー「一体なにがあったんだ??」 遅れて志保もやって来た。 リビングの光景に外から帰ってきた2人は唖然としていた。 園子がそれまでの出来事を全て2人に説明した。 最初は信じられなかったが、電話越しに聞こえたあの言葉や目の前の光景では信じるしかなかった。 その後、蘭は再び紅子の治療を受けて新一に抱かれて寝室へ運ばれた。 沈黙したリビング・・・、誰もさきほどのように振舞おうとはしなかった。
新一「(蘭、いったいどうして・・・。)」 寝室にて蘭を寝かせた後、新一は書斎の椅子に座って頭を抱えていた。あんなに自分のことを好きになってくれた蘭がなぜ・・・、こればかりはどう考えても結論は出せなかった。とそこへ、書斎のドアをノックする音が聞こえた。 新一が重い腰を挙げ、ドアを開けてみると・・・ジョニーがいた。 ジョニー「話さなくちゃならないことがあるんだ、下にきてくれないか??」 ジョニーの問いかけに新一はうなづき、無言で部屋を後にした。
リビングには元からいたメンバーのほかに、毛利夫妻・有紀子・阿笠博士・目暮警部がいた。志保が事前に電話で連絡しておいたのだ。ちなみに優作はというと、本当は来るはずだったのだが、小説の出版社が押し寄せてきてしまい、手が離せなくなってしまったのだ。 そして、志保は公園でジョニーに話したことをそのまま話した。あまりの非現実的な話に 目を白黒させている者、ビフィーターが死んでいないことにぬか喜びだったのかと落胆する者は出たが、誰も志保を責めたりはしなかった。 志保「・・・私のせいでこんなことになってしまった。ごめんなさい。」 と話し終えると、志保は深々と頭を下げた。その光景を見て園子・和葉・青子がサッと志保に駆け寄った。 青子「志保さん、頭を上げて。あなたは何も悪くないんですよ??」 和葉「そうや!!みんな組織が悪いんや!!」 志保「で、でも・・・。」 園子「蘭から聞きました。組織に入るときに記憶を抜き取られたって。それなら、それはあなたがやったことじゃない。組織にやらされたんです。だから、自分を責めないでください。」 志保「......ありがとう。」 志保は膝を落とし、顔を手で押さえた。その瞬間、こらえていたものが一気に吹き出した。 志保が心を落ち着かせると、今度はジョニーが話し始めた。
前回で話した通り、ビフィーターは文字通り「不死身の死神」へと変わってしまった。ロスでの奴の犯行はさらに残虐になり、警察は奴の逮捕に全力をあげた。そして、ジョニーの父親であるジェームズ・ランバーソンと、当時まだ新米だったジョニーがいた刑事一課はついにビフィーターの居場所を突き止め、逮捕の目前まで迫った。が・・・ジェームズら数人が殉職し、ジョニーも瀕死の傷を追ったが、一命は取り留めた。 その後、ジョニーはインターポールに入り、志保とビフィーターをずっと捜していた。だが今度は、蘭のようにビフィーターに操られてしまった同僚が暴走し、ジョニーの親友ら5人が死傷。ジョニーは無傷で済んだが、操られた同僚はその時に亡くなった。 親や親友を殺されたジョニーはビフィーターへの復讐を誓ったのだ。
ジョニー「だから・・・あいつは俺が殺す。これ以上犠牲者を出さないためにも・・・。」 新一「悪いが・・・、それはさせられない。」 新一の思わぬ反論にじょにーは少し戸惑った。だが、すぐに冷静になった。 ジョニー「なぜだ、新一??」 新一「あいつは裁判所で死なせる。だから、絶対に逮捕する。」 新一の言葉にジョニーは怒り心頭し、新一の胸倉をつかんだ。 快斗「じょ、ジョニーさん?!」 ジョニー「ふざけたこと言ってんじゃねぇ!!!いったいどれだけの人があいつに葬り去られたと思ってんだ!!!あいつはすぐにでも死なねばいけない奴なんだぞ、分かってんのか!!?」 これまで以上に厳しい剣幕を見せるジョニーに、皆圧倒されていた。 新一「じゃあなんでお前がやるんだ?!お前じゃなくてもいいじゃねえか!!?」 だが、新一は全く動じてはいなかった。さらに、檄を飛ばした。 ジョニー「こんのヤロウが!!」 ジョニーが新一の顔に渾身のストレートを食らわせようとした。 新一は目をつぶった。・・・が、体の何処にも殴られたという感じはしなかった。新一が目を開けてみると・・・そこには志保が立っていた。 ジョニー「邪魔だ、志保!!そこの分からず屋に制裁を食らわせ・・・。」 志保「もうやめて!!!」 ジョニーが叫び終える前に、志保が割り込むように叫んだ。 志保「あなたの言っていることは間違っていない。でも工藤君の言う通り、あなただけがやる必要はないわ!!」 ジョニー「な、お前まで・・・。」 思わず、ジョニーはうろたえた。だが、志保はさらに叫んだ。 志保「工藤君だって、蘭さんに同じことをさせられそうになったのよ?!これはもう、あなただけの問題じゃないのよ!!」 ジョニー「・・・クソ!!!!!!!!!」 ジョニーは力強く握った右手を後ろにあった壁にに叩きつけた。鈍い衝撃音が回りに響いた。そして、そのまま2階へと上がっていった。
ジョニーはベランダにいた。自分の思うことが正しくはないのは既に気が付いてはいる。だが、なぜ新一がそこまで逮捕にこだわるか。それが全くわからなかった。 少しして、ジョニーは気分を落ち着かせるためにタバコを取り出した。 タバコを口にくわえ、持っていたジッポに火をつけようとしたのだが・・・なかなか火がつかない。しかたなくジッポを片付け、他のライターを探すが・・・これも見つからない。 と、隣でタバコをつける音が聞こえた。ジョニーがその方向へ振り向いてみると・・・そこには小五郎がいた。 ジョニー「ど、どうも。」 ジョニーは小五郎に火を貸してもらい、火がついたタバコを口にくわえた。すぐあとに、小五郎もタバコに火をつけた。 少し経った後、ジョニーが口を開いた。 ジョニー「・・・えっと、毛利さん・・・でしたっけ??」 小五郎「ああ、紹介が遅れたな。蘭の父親の、小五郎だ。」 そう述べると、小五郎は手を差し伸べてきた。ジョニーは戸惑いながら、彼と握手を交わした。 ジョニー「さっきは見苦しいところをお見せしてしまい、すいませんでした。」 小五郎「な〜に、俺がお前だったら同じことを考えていただろうな。」 小五郎は一吹きして、空を見上げた。 さらに3〜4分時間が過ぎた。さすがにジョニーもいつものノリではいられるはずがなかった。 ジョニー「毛利さん・・・。」 小五郎「なんだ??」 小五郎は空を見ながら、言った。 ジョニー「探偵というものは、犯人はみんな逮捕したがるもんなんですか??」 ジョニーは間接的ながら、自分の悩みを小五郎にぶつけてみた。 小五郎「まあだいたいはそうかもしれねえ。まああいつは特別だがな。」 小五郎は空に向かって煙を吐いて、言った。 ジョニー「特別・・・ですか。」 それから少し2人は沈黙した。そして、今度口を開いたのは小五郎だった。 小五郎「・・・新一はな、少し前まで別人に成りすましていやがってたんだ。」 ジョニーはその言葉があまり理解できなかった。 ジョニー「それって・・・どういう・・・。」 小五郎「お前らが追ってる連中に薬を飲まされたらしく、それで小学生ぐらいのガキになっちまったんだ。・・・まあ、最初に聞いた時は嘘かと思ったがな・・・。」 ジョニー「なるほど・・・。」 既に非現実的な人間、いや人造人間を見ているだけあって、ジョニーはこの話を素直に信じた。 小五郎「その時に、こんな事件が起こったんだ。」 小五郎は、月影島で起きた連続殺人事件についてジョニーに話した。犯人の浅井成実・もとい麻生成実が、逮捕されずに自殺していったことも・・・。 小五郎「あいつには、それがトラウマになっちまったんだろう。だから、どんな凶悪犯でも逮捕させるんだろうな。」 ジョニー「・・・。」 ジョニーは何も言えなかった。 小五郎「もしよ・・・、気があるんだったら・・・あいつに謝って来い。まあ別に、強制はしないが・・・。」 そう言うと小五郎は吸殻を下に落とし、火を足で消してその場を後にした。 ジョニーは水色の空を見つめ、口から煙を上向きに吐いた。
第16話に続く
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