BLACK



By 茶会幽亮様



第16話 __CURSE in Black(黒く染められた呪い)



翌日・・・
寝ぼけ眼の新一が2階から降りてきた。
1階にて銃のチェックなどをしながら徹夜をしたジョニーはそれに気付き、声をかけた。
ジョニー「おう・・・、新一。」
新一「おう・・・。」
やはり昨日の大喧嘩のせいか、イマイチ空気が重く感じられた。
2人はその後少しは全く口を開かずに、新一は朝食の準備をし、ジョニーはぐったりとソファにもたれかかった。
少しの沈黙の後、口を開いたのはジョニーだった。
ジョニー「ああ、新一・・・。」
新一「・・・なんだ?」
返答はしたものの、顔をこちらには向けていない。だが、ジョニーは構わずに続けた。
ジョニー「Mr.毛利から聞いた。・・・かなりの修羅場をくぐったらしいな。」
新一「・・・ああ。」
すると、ジョニーが立ち上がった。
ジョニー「そんなことも知らずに俺、あんなことを言っちまって・・・すまない!!!」
そう言うと、ジョニーは新一に頭を下げた。新一はその光景を見て、少し驚く表情を見せた。
新一「俺こそすまねぇ。自分の言い分を通そうとしちまって・・・。」
再び沈黙が訪れた。だが、すぐにそれは破られた・・・。
平次「はいはい、お2人さんその辺にしとき。」
起きたばかりの平次が階段の上から声をかけた。そして、ゆっくりと階段を下りてきた。
平次「しかし、ジョニーはんも気の毒やな。親父や仲間まで殺されてしもうたんやから。」
と、ジョニーが俯いてしまった。慌てた平次がジョニーに謝った。が、「気にしないでくれ」と言った。
ジョニー「実はな・・・あの話には続きがあるんだ。」
新一「続き??」
ジョニー「インターポールで仲間が操られた時・・・、俺も奴の人形にされちまったんだ。」
新一・平次「なんだって(やて)!!?」
2人とも同時に声をあげた。
ジョニー「その時に、俺も上司2人と後輩4人をやっちまった。幸い、すぐに解放されたが・・・。」
そういうと、ジョニーはシャツの左袖をめくり始めた。すると、中からは肌色ではなく、冷たく光る銀色の腕が出てきた。・・・紛れもない義足だった。そして、「これが代償だ・・・。」と最後に言った。
2人にはもうかける言葉がなかった。
ジョニーが立ち上がりお手洗いに行こうとした時、立ち止まってこういい残した。
ジョニー「ああ、今の話は誰にも話すんじゃねぇぞ。その内に俺が話す。」
新一達は黙ってうなづいた。
自分の要望を受けてくれた仲間に、ジョニーは感謝を込めて軽く敬礼をしてその場を後にした。


12時・・・、警視庁捜査一課。
事件の知らせ1つで慌しくなる彼らは、のんびりと過ごしていた。
目暮「ふぅ〜・・・。」
目暮警部が椅子に座り、天井を見ながらため息をついた。
高木刑事や佐藤警部たちは報告書をせっせと書いていたものの、そこに焦っている様子はなかった。
佐藤「はい、高木君。」
高木「あ、ああ、ありがとうございます。」
今や警視庁一のラブラブカップルとなった2人。そのような行動を横目に見ながらうらやましがる警察官も多数いる。
なかでも、いちばんひどいのは・・・白鳥警部だった。彼だけは、「横目に見る」というよりむしろ睨みつけていた。だが、当の2人はそれに全く気付かずに、談笑していた。
すると、目暮警部の携帯が鳴り出す。彼は携帯を入れた右ポケットに手を突っ込み、携帯を取り出した。
目暮「はい、目暮。・・・ああ、ジョニー君じゃないか。どうしたんだね??」
ジョニー「いや、実はちょっとお願いしたいことが・・・。」
目暮「なんだね??」
ジョニーのお願いとは、黒の組織だった奴との会談だった。
目暮「・・・う〜ん、会談か〜。できないことはないが、それは明日になってしまうが良いかね?」
と返答すると、ジョニーは「分かりました。ありがとうございます。」と言い、電話を切った。
目暮「う〜む、奴らはもう我々が逮捕したはずなのに・・・。」
ジョニーの意図が全く分からない目暮警部はそう呟いた。
・・・突然、捜査一課の電話が慌しく鳴り響いた。
千葉刑事が電話を取った。すると、突然立ち上がった。
千葉「何!?黒ずくめの男に5人が刺された!!?」
捜査一課の部屋にいた全員が耳を疑った。
黒ずくめの男・・・。そうだ、昨日捕まえた奴らも、アジトを見つけて一斉逮捕した奴らも黒ずくめ・・・。
渉「千葉、場所は?!」
千葉「米花町の駅前だ・・・。」
千葉刑事が言い終わる前に、高木刑事はコートを持って走り去っていった。だが、佐藤警部に一抹の不安があった。「彼に悪いことが起こるのでは・・・。」と。高木刑事を追いかけるように、佐藤警部も走り去った。
目暮警部は急いで携帯を取り出して、新一のところへ電話をかけた。


同じ頃、工藤亭の電話が慌しく鳴り響いた。
急いで新一が受話器を取った。ちなみにリビングには、平次・快斗・ジョニー・小五郎がいた。
新一「はい、工藤ですが・・・。ああ、目暮警部。・・・えっ!?」
平次「どないした、工藤??」
目暮警部からの驚くべき知らせに、4人は何か悪いことでも起きているのかと予感した。すぐに、電話のところへ集まった。
目暮「ああ!!米花駅で通り魔が出てきた。犯人は黒ずくめらしい・・・。」
目暮警部の声に耳を傾けていたジョニーは確信した。今いる組織の奴はあいつしかいない、と。そして、新一から電話を分捕った。
ジョニー「警部、今すぐ特殊部隊に出動要請を!!!それから、周辺の警察官は犯人に手を出さないように言ってください!!!」
目暮「だめだ、もう高木君たちがそっちに向かっておる!!」
その一言に、ジョニーは絶句した。奴に並みの人間では返り討ちに遭う。またあいつの犠牲者を出すのはもうごめんだ!!!荒々しく受話器を置いて、リビングにいた全員に叫んだ。
ジョニー「すぐに米花駅に行くぞ!!!念のために、京極君も起こしといてくれ!!!」
ジョニーはすぐに外へと出て行ってしまった。新一達は真と探を連れ、それぞれの武器を取り、工藤亭を後にした。


その10分後、米花駅・・・。
駅前は、大パニックとなっていた。いつもは活気にあふれたこの場所が、ある場所では子供が泣き叫び、ある所では倒れた人を誰も助けずに踏んでいたりと、まさに地獄絵図だった。その中に円を描いてスペースが開いていた。真ん中には、ビフィーターと腕を変えて作った剣をつきつけられた女性が立っていた。女性は何も出来ず、ただ助けてと叫んでいた。
警察官A「落ち着け、まずその剣を下に置け!!!」
数人の警察官が取り囲み、ビフィーターに向けて銃を構えていた。
ビフィーター「あいにく俺の剣は内臓式なんでな・・・。」
だが、ビフィーターには余裕すら感じられた。
と、ここで覆面パトカーが1台止まった。中から出てきたのは、高木刑事だった。
渉「警視庁の高木です。状況は?!」
近くにいた警官に警察手帳を見せて状況を聞いた。
警官に話を聞いた後、持っていた銃を取り出して人ごみを掻き分け、ビフィーターの前に立った。
犯人の説得はやったことはないが、今はそれどころではない。
ビフィーターはにやりと笑い、その光景に誰もが背筋を凍らせた。
高木「さあ、早く人質を渡すんだ。」
ビフィーター「ふっふっふ、日本警察は説得力があるって聞いたんだが、そうでもねぇみたいだな。」
ビフィーターの言葉に思わず高木刑事はムッと来たが、怒りを押し殺してさらに続けた。
高木「あなたは包囲されている。おとなしくその人を解放してください。」
すると、ビフィーターはため息をつき、言うことを聞いた。人質の女性は、ビフィーターに押されて高木刑事の前に立った。・・・これを、奴は待っていた。
高木「もう大丈夫。」
高木刑事は人質の女性を優しく抱いた。女性は「ありがとう」と言い、ただ泣きつづけた。
だが、次の瞬間・・・高木刑事の腹に激痛が走った。良く見ると、これ以上ないほどに不気味に笑っているビフィーターの右腕が・・・変形して、槍のようになっている。その腕がこちらに向けられている。後ろにも同じ物体があった・・・。ということは・・・。
ビフィーター「ことわざにもあるだろう??『油断大敵』ってな。」
ビフィーターは槍上の腕を元に戻した。高木刑事と女性は下半身に力が入らなくなり、そのままドサッと倒れた。
警官「う、撃て―!!!!」
警官たちが合図ともに、一斉に発砲した。駅前に、火薬の爆発音が何度も響き渡る。何十発もの弾がビフィーターの全身に当たった。だが・・・血しぶきなど飛ぶことなく、銀色の銃痕がみるみるうちに戻っていくではないか!!その光景に警官たちがうろたえ始めた。
ビフィーターはその後他人に何もせず、ただ駅前通を歩いていた。警察の通行規制により、駅前通りはガランとしていた。

ビフィーターがその場を後にしてすぐ、佐藤警部の赤色の車がやってきた。
彼女はすぐに車から降りて、人だかりの方へ走った。
そこにはビフィーターはいない。代わりに・・・腹部を真っ赤に染めた高木刑事と女性が横たわっていた。
美和子「高木君?!!」
その光景に慌てて美和子は渉の下へ駆け寄った。
同じ頃、ジョニーも現場にやって来た。
美和子「高木君、高木君!!しっかりして!!!」
ジョニー「高木刑事!!!」
高木刑事は必死にまぶたをこじ開けていた。
渉「さ・・佐・・藤・・・さん、やく・・・そ・・・く・・・、守れ・・・なく・・・て、・・・すい・・・ま・・・せん。」
高木刑事はそう言い終わると、目を閉じた。
美和子「高木君?高木君!?高木君!!?ねぇ、私をもう置いていかないで、お願い。目を覚まして、高木君!!」
美和子が目に涙を浮かべながら必死に叫ぶが・・・応答しない。
すぐさま、ジョニーはけが人2人の脈と呼吸を調べた。
ジョニー「まだ息はある。人質の方も大丈夫そうだ。・・・何してる!!!!さっさと救急車を呼べ、早く!!!」
さっきの光景に腰を抜かしていた警官に、ジョニーは思い切り怒鳴り散らした。慌ててその警官は無線で救急車を要請した。

5分くらい経った後、救急車が2台やって来た。すぐに中から隊員が飛び出してきて、高木刑事と女性を担架に乗せた。同じ頃に、新一達もやって来た。
新一「ジョニー、どうなってるんだ?!」
ジョニー「高木刑事と女性が腹を刺された。まだ息はあるが、油断は出来ない。」
高木刑事たちが乗せられた救急車はすぐさま米花総合病院へ向かった。新一達は、新一・小五郎・平次が佐藤警部の車に、ジョニー・快斗・探・真は高木刑事が乗ってきた車にキーがつけたままだったので、それに乗り込んだ。


12時15分、米花総合病院前・・・。
すでに目を覚ましていた蘭達と目暮警部たちが集まっていた。幸い、まだマスコミは駆け込んではいなかった。
ほどなくして、救急車がやってきた。
中から出てきたのは・・・高木刑事だった。
目暮「高木君!!」
千葉「高木!!」
警察関係者たちが高木刑事の下に集まってきた。
様態が悪化しつつある被害者2人は、すぐさま手術室へと運び込まれた。
救急車からけが人が搬送されてから数分後、佐藤警部たちも到着した。
目暮警部たちはすでに中に入っていた。佐藤警部は涙を堪えて、手術室へと向かった。
刺された2人はいずれも傷が脊椎近くを通っており、手術は困難を極め15時間もかかった。だが、佐藤警部にはそれ以上に長く感じられただろう。
翌日、深夜2時・・・。
15時間もずっと光っていた手術中を示すランプが消えた。前にいた人が皆立ち上がった。
そして、静かに銀色の鉄のドアが開いた。
美和子「先生、高木君は?!」
佐藤警部がかぶりつくように医者に尋ねた。
担当医「大丈夫、2人とも命に別状はありません。ただし、当分は昏睡状態が続くでしょう。」
美和子「そうですか・・・。」
彼女は俯いた。担当医は「それでは・・・。」と言い残し、15時間も神経を張り巡らせて疲れ果てた体を休めるため、その場を後にした。
やがて、彼女から雫がこぼれ出た。今度は嬉し涙だろう。自分が撃たれた時も、高木刑事はこんな風にしてくれたのだろう、と思いながら。
蘭「・・・ジョニーさん、一体何があったんですか??」
状況が全く把握できなかった蘭は、ジョニーに尋ねた。
ジョニー「ここで話すのもなんだから、ロビーに行きましょう。・・・あっ、佐藤警部、ちょっと良いですか??」
美和子は黙ってうなづいた。
それを見たジョニーは、皆を先にロビーに行かせた。

使命を終えて閉ざされた手術室前をしばらく沈黙が続いた。・・・やがて美和子が口を開いた。
美和子「・・・高木君も無茶してくれるわね。」
ジョニー「・・・ええ、全く。」
一歩間違えば殉職してしまっていた高木刑事。それでも警察官として奴に立ち向かった。ジョニーは少しだけ胸が熱くなっていた。
ジョニー「・・・後で聞いた話なんですけど、彼、人質を解放しようと自分から前に出て説得したらしいですよ。」
美和子「えっ??」
どんなに危険があろうと、人質を解放しようと自ら前に出た高木刑事。いつもおどおどしたばかりで、らしくない行動をしてくれた彼を美和子は「バカッ・・・。」と小さく呟いた。
ジョニー「・・・佐藤警部。後のことは我々に任せてください。あいつを生け捕りにして見せますよ。」
ジョニーは励ますつもりで、言った。だがこの発言で、美和子を少し怒らせてしまった。
美和子「ふざけないで。ジョニー君、私だって警察官だもん。自分のことばかり考えて市民を守れない警官なんて、そんなの警官じゃないわ。だから、私も最後まで協力させて。」
ジョニー「佐藤警部・・・。」
日本にもこれほどひた向きな警察官がいたんだ。ジョニーはそう思い知らされた。
ジョニー「・・・了解です。さあ、みんなのところへ行きましょう。」
美和子「ええ。」
二人は立ち上がり、ロビーへと走っていった。


ロビーの応接間のようなスペース皆は集まっていた。このとき、目暮警部たちや新一達はもちろん、優作や有紀子、それに小田切刑事部長と松本警視も来ていた。外には事件が目的なのか、それとも病院に集まったメンバーが目的なのか分からないマスコミを白鳥警部らがシャットアウトしていた。「佐藤さんを泣かせたまま、逝くようなことがあったらただじゃおかないぞ、高木。」と恨みながら・・・。
ジョニーは今までに話したことを改めて話した。ビフィーターのこと、奴によって降りかかったジョニーの災難、そして・・・自らが持った「代償」のことも・・・。
そこにいた皆が言葉を無くしていた。だが、ジョニーは続けた。
ジョニー「本当なら、自分は奴のところに行って復讐を果たしたい。だが・・・親友達に教わったんです。「どんなに恨みがあろうと、自分の手を黒く染めてはいけない」って。」
新一「ジョニー・・・。」
ジョニー「だから・・・、自分はあいつを監獄まで導きます。」
そう言い終わると、ジョニーは椅子に座った。
・・・少しずつ、拍手が沸き起こった。新一達はもちろん、ロビーにいた人全員がジョニーを称えた。ジョニーは、驚いて辺りを見回し、俯いてふっと笑みを浮かべると立ち上がり、それぞれの方向に向けて頭を下げた。


黒の組織によってこれまで何千人もの命が失われたり、危機にさらされた。しかし、正義を一身に貫いた世界中の人々が彼らを追い詰め、やがて捕らえることにも成功した。未だに傷つく人も出てはいるが、「黒の組織」という言葉が死語になる日もそう遠くはないはずだ。


第17話に続く




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