BLACK



By 茶会幽亮様



第17話 悲劇の引き金


あれから2日、ビフィーターの狂気は収まることなく続き、ついに彼によってこの世を去った人は3人を超えてしまった。特殊部隊も奮闘はしたのだが、残念ながら彼にはハエのような存在でしかなく、ことごとく敗走していった。

午後3時・・・。
事態を重く見た政府は「非常厳戒態勢」を発令。空港や港は完全封鎖、交通機関では検問が当たり前のようになり、しまいには5メートル間隔に完全武装した兵隊が立つ様にまでなってしまった。
そのことを速報として取り上げていたニュースを新一達はテレビで見ていた。
快斗「ようやく重い腰を上げたか・・・。」
快斗がポツリと呟いた。
探「まるで、占領下の都市みたいですね。」
町の様子を伝えている時に、探が皮肉った。
和葉「でも、こんな事で事件が止むんやろか??」
平次「さあ、少なくとも他人には抑制になるんちゃうか??」
本当の目的がかなうはずがないとでも言いたげに平次ははき捨てた。
蘭「・・・結局、その人は何が目的なの??」
新一「・・・さあな、ジョニーはどうだ??」
と言って、新一はジョニーの方に振り返ってみた。が、彼はただ黙々とノートパソコンで何かを調べていた。
新一は気になってジョニーの背後に近づいてみた。パソコンの画面には、英語で文章が書き連ねておりビフィーターの写真もあった。
新一「・・・なんだ、これ??」
ジョニー「ロス市警の容疑者プロファイルだ。参考になるかなと思って。」
小五郎「ほお、プロファイリングって奴か・・・。」
この日は、毛利夫妻・工藤両親・目暮警部が来ていた。目暮警部はこの日にジョニーが頼んでおいた面会を行うため、ジョニーを迎えに来ていた。面会は午後6時からだった。
ジョニー「2003年12月1日・・・突然Bが迷走し始め、13日もの間に6人を殺害。・・・14日目にそれが止まり、今度は予告してからの殺害を始める、か。・・・ちっ、とことん死神気取りだな、あいつは。」
ジョニーの最後の言葉に新一は引っかかった。そして、そのことを尋ねてみた。
新一「それ、どういうことだ??」
ジョニー「考えてみな、12月1日の月日を足すと『13』。13日はキリストの命日で、『6』は曜日を日曜から数えると金曜日。『13日の金曜日』・・・ほとんどのアメリカ人が一番嫌う日だよ。」
新一「な、なるほど・・・。」
少々強引な説明ではあったが、それ以外に説明は出来ないので新一は頷くしかなかった。
その説明を聞いていた優作が言った。
優作「ということは、奴は同じ事をするつもりなのか??」
ジョニー「・・・おそらくは。」
ジョニーはノートパソコンを閉じた。
目暮「なんてこった、完全に愉快犯じゃないか。」
ジョニー「そう捉えることも出来ますが・・・奴にはそれしかできなくなってしまったんです。黒の組織と関わってしまったがゆえに・・・。」
リビングにはテレビから聞こえるアナウンサーの声しか聞こえなくなった。しばらく沈黙が続いた。

時計の針は、すでに4時半を指していた・・・。
目暮警部は時計を見ると、面会のことを思い出した。ジョニーにそのことを伝え、彼を連れて外へ出た。そして、乗ってきた覆面パトカーに乗り込んだ。面会のことを聞いて、小五郎と優作が同行した。
車内はしばらく沈黙が続いた。首都環状高速へ入ろうとしたとき、ジョニーが沈黙を破った。
ジョニー「目暮警部、高木刑事のことはすいませんでした。」
目暮「何を言うんだね、何も君が謝ることはないんだよ。高木君が少し突っ走り過ぎただけなんだから・・・。」
ジョニー「し、しかし・・・。」
ジョニーがしゃべろうとした時、優作が割って入った。
優作「ジョニー君、君は少し責任感を感じすぎだよ。それではすぐに身がまいってしまうよ。確かにビフィーターはジョニー君の問題ではあるが、もう君だけの問題ではないんだ。一人で抱えようとするのは、これからは控えた方が良いよ。」
ジョニー「・・・。」
車は西日の方向に走っていった。


午後5時50分・・・。
駐車場に車を止め、一行は警視庁の中に入った。中は非常厳戒態勢をしかれたこともあり、いつも以上に張り詰めていた。
面会室の前には、小田切刑事部長がいた。
目暮「あっ、刑事部長殿。」
目暮警部達は小田切氏に敬礼した。彼は黙って頷いた。
小田切「今回はスコットもいる。ジョニー君、君に話したいことがあるそうだ。」
ジョニー「僕に・・・にですか。」
小田切「まあ、詳しいことは本人から聞いてくれ。それでは、中に入ってくれ。」
小田切刑事部長は面会室と書かれたドアを開けた。ジョニー・目暮警部・小五郎・優作の順に入っていった。

ジョニーは中にいた管理官にある部屋に案内された。そこには・・・直立不動で立つ警備員と、逮捕されたスコットが一枚のアクリルガラスの向こうにいた。ジョニーは用意されていた椅子に座った。
ジョニー「お久しぶりです、スコット捜査官。」
スコット「ジョニー君、その呼び方はやめてくれ。もう私はFBIの捜査官ではないんだ。」
その後、少し沈黙が続いた。そして、ジョニーが口を開いた。
ジョニー「・・・それで、話っていうのは??」
すると、スコットは両手を机におき、頭を下げた。
スコット「・・・まず、君に謝らせてくれ。すまなかった。」
突然頭を下げてきたスコットに、ジョニーは何がなんだかわからなかった。
ジョニー「ど、どうしたんすか??いきなり。」
スコット「奴を・・・ビフィーターをあんなふうにしてしまったのは・・・私なんだ・・・。」
ジョニー「・・・えっ??」
全く話が理解できなかった。だが、さらにスコットは続けた。
スコット「まだ私が警察官になったばかりの頃の話だ。私は・・・」

スコットが警察官として配置されたワシントン州・シアトルでは、麻薬の密売が発覚してその元を捕まえようと市警は躍起になっていた。そして、ついにその大元を突き止められた。だが、ボスは逃走し、カーチェイスの末、民間の車と正面衝突。両車両に乗っていた3人は即死だった。

スコット「私は必死にボスを車で追いかけ回し、あんな結果になってしまった。その時にぶつけられて亡くなった男女には子供がいたんだ。」
ジョニー「ま、まさか・・・。」
ジョニーに悪い予感がよぎった。
スコット「ああ、その子が今のビフィーターだ。」
ジョニーは全く信じられなかった。殺すことに快感を感じるようになってしまった死神は、本当の死神によって両親を失った。もう述べる感想など出てくるはずもなかった。20年前に起こったその事件のことは知っていたが・・・まさか、その被害者がやつだったなんて・・・。考え付くことがないのも当たり前だった。
スコット「小田切から君のことは既に聞いている。私があんなことをしなければ・・・こんなことには・・・。」
ジョニー「・・・。」
ジョニーは今すぐにでもスコットの胸倉をつかみたくなった。
悲劇の引き金というものは、唐突に放たれる。そして、悲劇はさらに他人に悲劇を呼び、その連鎖はどんどん大きくなっていく。まさに、悪循環なのだ。
ジョニー「・・・お話してくださいましてありがとうございます。」
ジョニーはそういい終えると、その場を後にした・・・。


話は変わって、優作と小五郎達。
彼らはビフィーターの弟であるジンに面会をしていた。
優作「・・・さあ、ビフィーターのことを話してくれないか???」
ジン「・・・。」
しかし、ジンは何もしゃべろうとはしない。段々と小五郎の怒りが募ってきた。
小五郎「てめえ、このまま何もしゃべらずに終わらせたらただじゃすまさねぇぞ!!!」
慌てて優作が小五郎をなだめた。と、ここでようやくジンが口を開いた。
ジン「・・・・・・わりぃ、奴のことは話させないでくれねぇか。」
小五郎「何ぃ!!?」
ジン「・・・もうあいつと関わりたかねぇんだ。だから、頼む。」
いつもは冷たい目で人を睨みつけるジンが頭を下げてきた。よほどビフィーターのことを恐れているのだろう。
優作「・・・。」
優作達はただ黙るしかなかった。

残った目暮警部と小田切刑事部長は再度、ベルモットに面会していた。
ベルモット「だから話すことはないって言って・・・。」
小田切「今日はビフィーターについて聞きに来た。」
ベルモットが吐き捨て終わる前に、小田切氏が話し出した。
すると、ベルモットは口を閉じ、ため息をついた。
ベルモット「・・・あいつの事は話したくない。たぶんジンだってそういうわよ。」
だが、何も聞かないで終わるわけにはいかない。
その後、数十分間に渡って尋問が続いた。


午後10時・・・。
ようやくジョニー達が工藤亭に戻ってきた。
リビングに入ってくると、彼らはどっとソファに座った。
ちなみにすでに快斗・青子・園子・真は就寝している。
優作「すまない、先に上がらせてもらうよ。」
小五郎「じゃあ俺も、今日はちぃ〜と疲れちまった。」
と言って、小五郎は大きく口を開けてあくびをした。
ジョニー「・・・おやすみなさい。」
ジョニーは上に上がっていく2人に挨拶し、テーブルに灰皿があったのでタバコに火をつけた。
ジョニー「・・・。」
黙って天井を見つめ、煙を吐いた。煙は天井に当たると周りに散っていき、やがて見えなくなっていった。


第18話に続く



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