BLACK



By 茶会幽亮様



第18話 __KATTOU


あれから10日・・・
年も明け、普段は新年の初詣で神社等がにぎわっているはずなのだが、ビフィーターや非常厳戒態勢の理由もあってか閑散としていた。
午前6時・・・
工藤亭のリビングでは、ジョニーが膝にひじを乗せ、手を前頭に当てて考え込んでいた。よほどスコットの言葉がショックだったのだろうか・・・なんと、今でも寝つけていない。今のジョニーは、睡魔よりショックからの悲しみが強いのだろう。
と、2階から有紀子が降りてきた。
有紀子「おっはよう!!」
ジョニー「・・・おはようございます。」
ジョニーはその声に振り向き、笑みを浮かべて挨拶した。が、その顔を見て有紀子は危うく悲鳴をあげそうになった。
どう見たって今のジョニーは元気なんて言えたもんじゃない。睡眠不足により、目のクマはくっきり。少し前まで気丈に振舞っていたのだが、全くない。・・・一言で言えば「目標を失ってしまった」と言っても過言ではなかった。
有紀子「大丈夫、ジョニーちゃん??あなた顔が真っ青よ。」
ジョニー「・・・大丈夫です。」
全身にくる重力にさえ、今のジョニーには負荷となる。彼はだるそうに立ち上がると、眠気覚ましも兼ねて顔を洗いに行った。有紀子はそんなジョニーを心配そうに見つめていた。

皆が起き出した頃、ようやく全員分の朝食が出来た。炊き立てのご飯に、豆腐の味噌汁、それにサラダだ。シンプルではあるが量が量だけに、有紀子は「あ〜疲れた」となんども愚痴っていた。
その朝食中、有紀子は新一と優作を呼び出した。
新一「なんだよ、いきなり呼び出して??」
有紀子「ジョニーちゃんのことなんだけど・・・。」
優作はそれを聞いてちらりと彼の方を見た。当のジョニーはというと、ベランダに出てタバコを吹かしていた。
新一「・・・別に、普通じゃねぇか??」
有紀子「もう、新ちゃんは蘭ちゃん以外はそういうことに鈍感なんだから。」
新一は「っるせー!!!」と反論しようとしたが、したところで彼女の術中にはまってしまうのがオチだと思い、口に出すのをやめた。
優作「・・・確かに、なんだか彼らしくないな。」
優作はかつて、亡くなったジョニーの父親から、いろいろと彼について聞いていたことを思い出した。正義感が強いが、なにかに縛られるのは大の苦手。誰よりも人の不幸を悲しみ、励まそうとする。すぐに手が出てしまうのが玉にキズ。・・・優作はふと気が付いた。
有紀子「・・・あなた、何か分かったの??」
優作は有紀子の方に振り向き、頷いた。
優作「かれはたぶん・・・誰かに起きた不幸を悲しんでいるんだろう。」
新一「・・・じゃあ、一体それは誰なんだ??」
優作は「分からない。」と言って首を横に振った。

その頃、話題の的になっているジョニーは、タバコを吹かしながら壁に寄りかかり、空を見ていた。今日の予報は曇りといっていたが、実際は雪・・・。だが、そんなことはジョニーには関係がなかった。ただ呆然とタバコの煙が同化してゆく灰色の空を見つめていた。
と、窓が開く音が聞こえた。ジョニーが振り返ってみると、そこには志保がいた。
ジョニー「どうしたんだ、志保??」
志保「あの・・・そこにいたら風邪を引きますよ?」
ジョニーはタバコの煙を一吹きした。
ジョニー「大丈夫、寒さには慣れているから。」
彼はいつものように喋り、前に振り向きなおした。だがそれは、あからさまな演技だということが一目瞭然だった。
彼女は彼の隣に腰をかけた。それに驚いたジョニーは思わず彼女の方を向いた。
ジョニー「おいおい、そっちこそ大・・・。」
志保「人の心配をするなら、自分の心配をしたらどうですか??」
ジョニーが話し終える前に、志保が割って話してきた。ごもっともな意見なので、彼に返す言葉は残されていなかった。渋々それを受け止めた彼は前に向きなおした。
3分ほどの沈黙の後、ジョニーが思い出したように口を開いた。
ジョニー「・・・言い忘れてたが、これからは俺に対して敬語の使用は禁止。それから他の奴と同じように接してくれ。」
志保「えっ??・・・どうして、いきなりそんなことを??」
彼女がそう言うと、ジョニーは立ち上がった。そして中に入ろうとした際、彼は立ち止まってこう言った。
ジョニー「それが俺の滋養強壮剤なんだよ。」
志保「・・・それじゃあ生憎だけど、それはお断りさせていただくわ。」
志保はスッと立ち上がり、そういい残してさっさと中に入ってしまった。
ジョニー「・・・ちっ、憎まれ口を叩きやがって。」
だが彼はそう言い終わると、笑みをこぼした。彼女との関係が黒の組織によって断ち切られる以前の状態に段々戻りつつあることにジョニーは嬉しくなったのだろう。ここのところ、悲しい話しか聞くことがなかったから・・・。
ジョニーと志保の関係はだんだん親密なものになっていった。だが、彼女に記憶が戻らない限り完全には元に戻らない。彼はそれを覚悟していた。しかし・・・その問題は思いもよらぬ方向をたどっていくこととなる。

翌日・・・ジョニーは睡眠できたものの、たった4時間しか眠れなかった。だが彼は、今までそんなことはしょっちゅうあったがそれで失敗したことは奇跡的に一度もなかったので気にとめることはなかった。
午後4時・・・。新一達はいつも変わらぬ感じで談話をしていた。
と突然、2階からガラスが割れる音が聞こえた。
新一「な、なんだ??」
平次「今、2階から聞こえたで。」
皆に悪い予感がよぎった。2階にはついさっき志保を寝かせたのだ。まさか・・・、そう思った皆はすぐさま志保が寝ている寝室へ向かった。そして、部屋のドアを開けると・・・
新一「ビ、ビフィーター!!!」
ビフィーター「ごきげんよう、組織を壊滅させた英雄諸君。」
奴の腕には志保が抱えられていた。
ジョニー「き、貴様!!!志保を放せ!!!!」
ジョニーはそう怒鳴ると、胸ポケットからオートマチック銃を取り出してビフィーターに銃口を向けた。
ビフィーター「威勢が良いねぇ。だがこいつに当たっちまうぜ??」
ビフィーターは見下ろすように言った。ジョニーは仕方なく、銃を降ろした。
快斗「志保さんに一体何をするんだ???」
ビフィーター「ふっ、裏切り者の始末に決まってんだろ。」
ジョニー「な、何!?」
ビフィーター「俺は人を殺さねぇと気がすまないんでね。それではこの前の場所で待っているから
無駄な足掻きでもしてくるんだな、ハーハッハッハッハ!!!!!」
大きく高笑いしたビフィーターは窓の下に飛び降りた。新一はすかさず窓の下に眼を下ろしたのだが・・・そこには誰もいなかった。
新一「・・・なんてやつだ、あいつは。」
蘭「志保さん・・・。」
全員が口を閉ざした。とりわけジョニーは拳を強く握っていた。そして彼は意を決すると、すぐに部屋を出た。
平次が彼を追いかけると、彼は武器の準備をしていた。
平次「じょ、ジョニーはん・・・まさか・・・。」
ジョニー「あいつは・・・俺1人で倒す。」
後から駆けつけた新一達が話し掛けてきた。
新一「無茶言うんじゃねぇ!!!人間じゃない奴に1人で突っ込んだって自殺行為にしかならないんだぞ?!」
ジョニー「これは俺だけの問題だ!!!元々お前らには関係ねぇんだよ!!」
と、新一が思い切りジョニーの顔を殴った。よろけたジョニーは反撃を食らわせようとしたが、平次と真に止められてしまった。
新一「関係はある!!!志保は俺達の仲間だ!!!お前にもそれはわかってるだろうが!!!」
ジョニー「他人をあの「死神」に巻き込みたかねぇんだ!!!お前こそわかんねぇのか?!!」
両者がにらみ合いを続けていると、突然叫び声が聞こえた。声の主は蘭だった。
蘭「もうやめてよ、2人とも。2人の言うことは間違ってない。でも、どうしてそんなことでけんかになってしまうのよ?!なんで相手の気持ちをわかろうとしないのよ!!?」
英理「蘭・・・。」
蘭の言葉に2人は黙り込んでしまった。カッとなってしまい、そんなことも出来なかったことを後悔した。
新一「・・・悪かった・・・。」
新一が先に謝ってきた。すると、ジョニーは2人に離してもらってからすぐに頭を下げた。
ジョニー「俺こそ、すまない。・・・そうだよな、もうみんなの問題なんだよな。何考えてるんだよ、俺。」
真「ジョニーさん・・・。」
ジョニーはソファに腰掛けた。そして、ひじを膝の上におき、手を顔に当てた。しばらくの沈黙の後、彼は顔を上げた。
ジョニー「・・・みなさん。俺、どうかしてました。今からはみなさんにも協力をしていただきたい。・・・お願いします。」
そう言うと、彼はまた頭を下げた。
平次「何を言うとるんや、ジョニーはん。協力せん奴がどこにおんねん。」
探「そうです、だから頭を上げてください。」
他の皆も賛同をした。ジョニーは皆に感謝の言葉を何べんも口にした。目は水で潤っていた。


「不死身の死神」と名指しされた凶悪犯罪者が捕まる日もそう遠くはない・・・。


第19話に続く



第17話「悲劇の引き金」に戻る。  第19話「悪魔か、死神か」に続く。