BLACK



By 茶会幽亮様



第21話 奪還、生還、帰還・・・



その後、暴走したジョニーは新一たちに何度も襲い掛かってきた。辺りには空の薬きょうが散乱し、使えなくなった銃などがいくつも捨てられていた。
かろうじて新一達は1人も被弾することなく、凌いでいた。ちなみに警察たちは、少し前にこの廃墟を脱出していた。
「くそっ、一体どうすれば・・・。」
成す術を無くしてしまった新一はひたすら脳をフル活用したが・・・出てくるアイデアは皆無だった。
「今こんな状況なんや。出てったらたちまち蜂の巣にされてまうで。」
と、銃弾が飛んでこなくなった。
志保が顔を出してみると・・・ジョニーが弾の補充で戸惑っていた。
それを見ると、彼女はいきなり外に飛び出した。男達がすかさず止めに入ったが、全く聞きもしなかった。
「ジョニー!!!」
出てきた志保は大声でジョニーの名前を叫んだ。ジョニーはその声に手を止めた。
「あぁ??誰だ、俺の名前を呼び捨てで呼んだ馬鹿野郎は??」
今自分の目の前にいるのはジョニーに他ならない。しかし、今はもうさっきとは別人だ。志保はそう言い聞かせていた。
「お願い、いい加減に元に戻ってよ!!!」
「へっ、何を言い出すんだと思えば・・・俺様はとっくに正気だぜ??狂ってるのはあんたのほうじゃねぇのか??」
志保は落ちていた銃を拾い、ジョニーに向けた。それはジョニーの愛用で、彼がいつも肌身離さず持っていたマグナムだった。建物の壁から差す光が銀色のマグナムを照らし、少しだけ神々しく見えた。
「もうやめて・・・。」
とても小さい声で彼女は呟いた。
「あぁ??」
彼女の目から、光る雫がこぼれ出ていた。
「・・・もう、やめて・・・。」
「何?今なんつった?」
その一言から10秒ほど、辺りは静寂に包まれた。そして、志保は意を決した。
彼女は流れる涙を堪えながら、大きく深呼吸をした。
「・・・もうやめてぇぇぇぇぇぇ!!!!」
彼女の悲痛な叫びが響き渡った直後、今度は機械の叫び声があがった。火を噴いた銃から打ち出された銃弾はジョニーの右肩に当たった。
「クッ!!!」
持っていた銃を落とし、ジョニーはひざまづいた。
「ジョニー!!!」
志保はマグナムを手から離し、彼のもとへ駆け寄った。彼は義手で右肩を押さえていた。義手は出血で赤く染まっていた。
「俺は・・・?」
彼は無事に正気になったようだ。それを確認すると、志保は彼に抱きついた。
「し、志保??」
「なんでもないわ、大丈夫・・・。」
志保は顔をジョニーの胸にうずめ、流している涙を隠した。責任感の高いジョニーに今のことを話したら何をしでかすのか分かったものではない。だから彼女はその後も、この経緯を彼に話す事はなかった。
「な、なぜだ!?なぜ俺の洗脳が解かれた!?」
上から降りてきたビフィーターが志保達に向かって狂ったように叫んだ。
「その2人は誰にも切れない赤い糸があるんだ。てめぇの半端な洗脳術じゃあ切れるはずがねぇんだよ!!!」
「そんなわけがねぇ!!!ちくしょう、てめぇらがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
狂気に満ちたビフィーターはいつの間にか修理をしていたデビルスコーピオンを取り出した。死神の鎌はジョニーと志保に向けられていた。
「くっ・・・。」
すると、志保はさっき置いたマグナムを持ってきてジョニーにそれを手渡した。
それを見てジョニーはゆっくりと頷き、義手の左腕に持ちビフィーターにその銃口を向けた。しかし、なかなか照準が合わない。
実は彼、左腕だけで銃を構えたことがなかったのだ。構える腕は右腕に、そして義手の左腕はただそえているに過ぎなかった。
すると、2本の細い腕が後ろから伸びてきた。その腕はマグナムをそっと、しかしがっちりと支えてくれた。腕は・・・志保のものだった。彼女は彼の方を見るとにこりと笑って頷いた。それを見た彼も、ゆっくりと頷いた。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
誰にもその狂いを止められなくなったビフィーターの叫び声があたりに響いた。
だが・・・死神の鎌が再び牙を向けることはなかった。
「ぎゃああああああああああ!!!!」
ジョニー達によって撃たれた銀色に光る2つの弾が、呪いを打ち破ったのだ。弾は死神の両肩に命中し、ビフィーターはその激痛で激しく絶叫した。
そこへ、
「これが今までの俺達からの礼だ。受け取れぇぇぇ!!!」
新一は、ボール射出ベルトから出したサッカーボールを、キック力増強シューズでビフィーターに強烈に打ち込んだ。そして、
「ごふぉっ・・・・・・!」
ボールはビフィーターの頭を直撃し、そのすさまじい衝撃で、ビフィーターは飛ばされるように倒れ伏し、二度と立ち上がる事は無かった。
「工藤、よっしゃあ!!」
「やったぜ!」
希代の怪物を遂に撃破し、ガッツポーズをとる平次と快斗達。
「ビフィーター、傷害の現行犯で逮捕する!!」
「ぐっ・・・そ・・・そんな・・・馬鹿な・・・!」
佐藤刑事に拘束されたビフィーターは、烈しい激痛と屈辱感、敗北感で血走った目でジョニーに向かって
「これで・・・これで終わったと思うなよ・・・!」
と歯軋りしながら一言吐き捨てた。奴はそのまま警察に連行されていき、蘭を抱えた新一も病院に直行していた。ついに戦いは終わったのだ。

ところが・・・
「ウッ!!!」
ジョニーに突然、耐えられぬ頭痛が襲ってきた。彼は頭を抱えたまま、横に倒れた。
「ジョニー!ジョニー!?」
慌てて志保が彼に駆け寄ってきた。他の3人も彼のもとへやって来た。
「おい、どうしたんやジョニーはん!!しっかりせんかい!!」
「し・・・志・・・保・・・。」
彼はそう口にした後、意識を失った。すぐさま、病院へ搬送された。

病院に着いたジョニーはすぐにMRAにかけられた。幸いなことに脳に損傷は見られなかったものの、一向に意識が戻らないため彼は個室のベッドに移された。
静かに寝ているジョニーの手を志保は両手でしっかりと握り締め、彼の回復を待った。
他の3人と蘭が運ばれたことを知って先に病院に来ていた和葉達は部屋の前の廊下でじっと待っていた。


一方、一足先に病院に着いていた新一は蘭のいる病室にいた。少し前から彼女の意識は戻っており、談話も出来るほどに回復していた。
ジョニーが倒れたことを新一は知っていたが、蘭には話せずにいた。
とそこへ、平次が息を切らしながらやってきた。部屋を出てくるように言われた新一は、蘭にすぐ戻ると伝えて渋々廊下に出た。
「一体なんなんだよ、そんなに急いで。」
せっかくの蘭との2人きりの時間を踏みにじられたことに腹を立てていた新一は、少々切れ気味に平次に言った。ようやく息を整えた平次は、
「ジョニーはんが目を覚ましたで!!!」
と言い、目くじらを立てている新一を半ば強引に連れ出した。
そして、2人がジョニーのいる病室の前に立ったとき、突然部屋から志保が飛び出していった。
平次が何事かを聞こうとしたが、全速力で廊下を走っていく志保に聞こえるはずがなかった。しかたなく2人が部屋に入ってみると・・・見舞いに来ていた皆が俯き、泣いている者もいた。
訳がわからなかった新一は体を起こしていたジョニーに声をかけた。だが、彼は二人が予想し得なかったことを言った。
「・・・あんた達、誰だ??」

死神の呪いというものは、そう簡単に抜け出せないものなのである。


第22話に続く



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