BLACK




By 茶会幽亮様


第5話 奇跡と軌跡



白昼の出来事のはずなのに野次馬が一人も来ない。
男が持っていたサイレンサーのせいで誰も銃声に気付かなかった。

4人は固まっていた。だが誰も怖がってはいなかった。

??「ほう、さすがは探偵だな。銃を見せても全くおどろかねーとは。」
平次「おい、お前何なんや!?」
平次は思わず怒鳴った。
男はピクリともせずに言った。
??「なんなんだとは失礼な...。俺はそいつを始末しに来ただけさ。」
男は新一の方に指差した。
ジョニー「お前が・・・組織の...」
??「そうさ、俺はスプリッツァー。射殺専門のエキスパートさ。」
そういってスプリッツァーは銃を新一に向けた。
スプリッツァー「こんなに任務が簡単だったとはな。呆れちまうが・・・仕事は仕事だ。」
そう言ってスプリッツァーは銃を撃とうとした。だが・・・
蘭「新一、大丈夫!?」
家から蘭が近づいてきた。
新一「ら、蘭!こっちに来るな!!」
スプリッツァーは無言で銃を蘭に向けようとしたその時!!

ガァキーン!!!

銃から火花が散り、思わずスプリッツァーは目を伏せた。
そして見ると・・・サイレンサーの先端が粉々になっていた。
スプリッツァー「なっ、これは!?」
サイレンサーに我を忘れていた快斗は横で銃を構えたジョニーに気付いた。
スプリッツァー「けっ、今日は生き残れたかもしれねーが次はないからな!!」
使い物にならなくなったサイレンサーを捨て、スプリッツァーは逃げていった。
ジョニーは煙が出なくなった銃をコートの内ポケットにしまった。
快斗「ま、まさか・・・あんたがそれで?」
ジョニー「ああ、まさか銃口に当たるとはな・・・」
ジョニーはスプリッツァーが蘭に銃を向けようとした時、咄嗟に銃を構えた。撃った本人自身も銃口に当てるつもりはなかったのだが・・・偶然にも銃口のど真ん中に当たりあのようになったのだ。
平次「あんた、並の刑事とはごっつう違うてるな...。」
ジョニー「俺は並の刑事になっても、なろうともしていないさ。」
ジョニーはそっけなく言った。
さて当の新一はというと・・・
蘭「新一、大丈夫?ケガはない?」
新一「ああ、大丈夫。ごめん、蘭。俺のせいで車が...」
自己責任を感じた新一は俯いてしまった。
蘭「うんうん、私は新一が無事なら・・・。」
新一「蘭・・・。ありがとうな。」
新一は蘭をしっかり抱きしめた。
他の3人はさっさと新一亭に戻っていった。
5分後、誰かが呼んだのか消防が到着。すぐに消火された。

家に戻った5人は少し疲れ気味の表情を出していた。
和葉「大丈夫だった?平次。」
平次「ああ、何処も撃たれてへんわ。」
青子「快斗、さっき銃声が・・・」
快斗「大丈夫、ジョニーさんが敵に撃っただけだから。」
案の定、さっきまで危険な状態だった人たちを心配してきた。
ただ一人を除いて・・・
ジョニー「....................」
ジョニーはただ黙っていた。誰にも慰められずにいる事からの嫉妬かもしれない。だが、なにか寂しそうだった。
これに気付いたのか蘭が声を掛けてきた。
蘭「どうしたんですか?ジョニーさん。」
ジョニー「へ?あ、いやなんでもない。」
新一「どうせ俺達に嫉妬してるんじゃないのか?」
ジョニー「ちぇ、言ってろ。」

その後、夕食をとっていたジョニーは1人、タバコを吹かすためにベランダに出た。それを見た蘭はついていくように外に出た。
蘭「どうしたんですか?本当に。」
ジョニー「蘭さんは優しいんだな。こりゃ新一が独り占めしたくなるよ。」
とジョニーは呟いた。蘭は頬を赤色に染めていた。
ジョニー「うーん、これから奴らに対抗する為の対策を考えていたって所かな?」
蘭「そう、ですか・・・。でも、新一達が帰ってきたときは寂しそうでしたけど?」
ジョニー「ハハハ、こりゃ蘭さんには隠し事はできないな。」
ジョニーは頭を掻き、苦笑しながら言った。
新一はその会話を窓越しに見ていた。残念ながらその声は拾えないが・・・
新一「(くっそー、あいつ蘭と楽しそうに。)」
当然ながら女房と楽しそうに会話しているように見えるジョニーを嫉妬していた。
実際はそうではないのだが............
ジョニー「6年前の話だ。親父がある事件を追っている時に女の子に出会って...。俺より2歳下だったかな。それで......」
ジョニーの父親がまだロス市警の敏腕刑事だった頃、彼は黒の組織関連の事件を追いかけていた。
『科学者の誘拐・殺人、これらは全て奴らが関わっている。』そう父は思っていたという。
その時に両親を誘拐された女性について調べていた矢先、彼女にまで組織の魔の手が...。
なんとか彼女をジョニーは守ろうとして左肩を負傷。
それから彼女と仲良くなり、いつしか恋人になっていたとか......。
ところがまたしても組織の魔の手が...。しかし彼女はジョニーがいない間に去ってしまった。それ以降、連絡がつかなくなってしまったという。

話を言い終わって蘭を見たジョニーは驚いた。
泣いているのだ。
今までにこの話をして同情してくれた人はいたが、ここまで号泣する人はさすがにいなかった。
蘭「とても、悲しい話ですね・・・。」
蘭にそう言われてジョニーはハッと我に返った。
ジョニー「えっ、あ、ああ。その理由もあって、インターポールに入ったんだ。」
蘭「そうだったんですか・・・。」
蘭はまだ感動の涙を流していた。
ジョニー「泣かないでくれよ。悲しいのは分かるけど・・・。」
そう言ってジョニーが蘭の涙で濡れた頬を拭こうとした瞬間!!!新一が窓を開けて乱入してきた。
新一「こら、ジョニー!!!!てめぇ、人の女房に何しやがる!!!!!!!」
もの凄い剣幕にもの凄い大声を出した為にジョニーや蘭は勿論、中にいた平次・和葉・快斗・青子・探・工藤優作、有希子夫妻・毛利夫妻まで驚いた。
ジョニー「ビクった。な、何もそこまで・・・。」
新一「てめーは加害者だからそういう事が言えるんだろうが!!!!!!」
たぶん、どんなに説得力がある交渉人が話しても頑として新一は聞かないだろう。
蘭「今、すっごい悲しくて、良い話をしてたのよ!?そこになんで割り込むわけ!?」
新一「ら、蘭・・・」
「誰も」ではなく「蘭以外は」と訂正しよう。
優作「新一、もう夜なんだからそんな大声を出さないでくれ。うるさいじゃないか・・・。」
有希子「そうよ。いくら蘭ちゃんがらみとはいえ大人気ないわよ。」
新一「うう・・・。」
こてっぱしに言われてしまい、新一の居場所はもうなかった。
そんな新一を中にいた7人は面白がっていた。
蘭「あっそうだ、どんな人だったんですか?その人。」
ジョニー「ああ、髪は栗色で、妙に冷たい性格で・・・確か日本人だったな。」
蘭「へぇー。(あれ、どっかで見たことがあるような・・・)」
蘭はジョニーが言った格好をイメージして首をかしげた。
平次「げっ、もう11時やん。はよ寝なあかんな。」
新一「えっ、なんでだ?」
快斗「隣の阿笠博士が早朝に来いって電話があったんだ。新一、平次、俺にキザ野郎にジョニーさんが来いってさ。」
探「黒羽君、キザ野郎って僕のことですか?」
快斗「他に誰がいるんだよ?」
探「あなただって・・・」
ジョニー「まあまあ、喧嘩はやめて早く明日に備えよう。」
いつも通りに先輩のジョニーが宥めて・・・
全員2階の寝室に寝る事になった。ちなみに一部屋に2人ずつ、新一と蘭・平次と和葉・快斗と青子・優作と有希子・小五郎と英理という組み合わせだ。ちなみに探は優作の書斎で、ジョニーはリビングのソファーで寝る事になった。

蘭「ねぇ、新一。」
新一「ん?」
蘭「絶対に何処にも行かないでよ?新一がいなかったら・・・。」
新一「何度も言わせるな。」
そう言って新一は優しく蘭を抱きしめた。
新一「俺は絶対にお前をおいては行かないぜ。」
蘭「新一...........。」
二人の顔は徐々に近づいていった。

和葉「なぁ、平次。」
平次「ああ、なんや?」
和葉「工藤君、大丈夫やろか・・・。」
平次「大丈夫や。あいつは悪運強いんやから・・・。女房役もいるんやから。」
そういった平次に和葉は首をかしげた。
和葉「女房役?誰や、それ。」
平次「そりゃ俺やないか・・・。」
和葉は思わずズッコケた。
和葉「余計に心配やわ...。」
平次「なんやとコラ!それになんで工藤ばっかり心配するんや!?」
和葉「うっさいわボケ!!」
こちらは口喧嘩が始まった。

探「やれやれ、騒々しいですね。」
探は書斎にある小説を読んでいた。新一は全部読んでしまった物ばかりだが、他人から見れば宝の山にも見えるのだ。
探「しかし、羨ましいですね、工藤君は。」
全く金をかけずにこれだけの本、しかも売れば何十万もする物まであるのだ。誰だって羨むだろう。

青子「ん、快斗・・・。」
青子は既に夢の中。そんな彼女の寝顔を快斗はじっと見つめていた。
快斗「(青子・・・、くぁわいいーー!)」
既に彼女の特色にハマッてしまっていた。
快斗は青子の頬に口付けした。
快斗「おやすみ、青子。」
こっちは良い夢の中・・・。

ジョニー「...。」
リビングにいたジョニーは銃のチェックをしていた。
彼は本物と空砲、あわせて5丁ある。(オートマチック・C34(空砲)、オートマチック・ワルサーPPKS、マグナム、ショットガン、スナイパーライフル)もちろん、全部弾は抜いてあるが・・・。
ジョニー「ふぅー。」
一息入れたジョニーはそれぞれの弾を確認し始めた。
ジョニー「(これからもっとひどくなるんだよな・・・。俺もしっかりしねーとな。)」
そう気合を入れながらジョニーは弾をチェックしていた。


第6話に続く




第4話「後ろの正面だあれだ?」に戻る。  第6話「再会、喪失」に続く。