BLACK



By 茶会幽亮様



第6話 再会、喪失



翌朝の6時半。新一達は寝ぼけながら起きてきた。
すると、リビングにはもう朝食の用意ができていた。
狐色のトーストにちょっと焦げた目玉焼きだ。
不思議に思った新一はキッチンをのぞいてみた。
そこにはフライパンだけで器用に目玉焼きを裏返すジョニーがいた。
新一「へぇ、お前も料理できるんだ・・・。」
ジョニー「ったりめーだ。3年間一人暮らししてるんだ。料理も自然と上手くなっちまうよ。」
料理に集中しながら、吐き捨てるようにジョニーは言った。
蘭「スゴーい。お料理もできるんですね。」
ジョニー「ああ、まあね。」
答えたものの、ジョニーはずっとフライパンに集中していた。
新一「さて、あいつらを起こしてくるか。ジョニー、蘭になんかしたらただじゃすまねーからな。」
ジョニー「分かってますよ。」
新一は2階へ上がっていった。
ジョニー「ったく、結婚したら疑心暗鬼になっちまったのか?あいつ。」
そうジョニーは呟き、蘭はクスクス笑っていた。
ジョニー「蘭さん?」
蘭「えっ?ああ、すいません。何か手伝う事ってないですか?」
急に我に帰った蘭。少し耳と頬が赤くなった。
その表情にジョニーは少々心が揺れ、思わず蘭の頭を撫でた。
蘭「あの、ジョニーさん?」
ジョニー「あ、ああわりぃわりぃ。」
蘭が上目遣いになった。ご恒例になりつつもある『男殺しのテクニック』である。
この無意識に行うテクニックにはジョニーも目を背けてしまった。
ジョニー「(しんいちー、早く帰ってきてくれ〜。)」
心の中で嘆くジョニーであった。

その頃、少しキッチンを気にとめていた新一は・・・
新一「全く、言い出した奴が起きるだろう、普通。」
などとブツブツ言いながら快斗と青子が寝ている部屋の前に立った。
新一「おい、快斗。お前が言い出したんだろ?早く起きろ!」
相当いらついているらしく、かなり強めにドアを叩いた。
すると・・・
快斗「へいへい、今出るよ。」
すぐにドアを開いた。
だが、未だに青子はベッドで夢の中・・・。
快斗「あいつ、自分でしか起きられないから・・・。起こそうとしても無駄だぜ。」
新一「そうか・・・。次は平次か・・・」
青子のことを一番知っている人からの助言を聞きとめ、隣の平次の部屋の前に着いた。

そして、ドアを叩こうとした次の瞬間!!!
突然ドアが勢いよく開き、新一は2メートル吹っ飛ばされた。
快斗「だ、大丈夫か?新一。」
新一「痛てててて・・・、平次!てめ何しやがる!!!」
平次「は、話はあとや。今はちょっと大変なんや!!!」
和葉「待て、エロ探偵!!!!!!!!」
振り返るとものすごい形相で和葉がこちらを睨んでいた。
新一「え?エロ探偵?」
平次「ま、待たんか!和葉!これは誤解やて!!!」
和葉「問答無用!!!!!!」
すかさず和葉は平次に飛びかかった。そして、関節技をかけた。
和葉「こんの、どアホ!!なに人の胸触ろうとしてるんじゃい!ボケ!!」
新一「和葉ちゃん、それ平次じゃない・・・。」
和葉「へ?」
よーく見ると、そこには泡を吹いた快斗の姿が・・・。
和葉「か、快斗君!?大丈夫!?」

それから10分後・・・。
青子「快斗!?快斗!?」
リビングのソファーで快斗は休んでいた。蘭の異様な誘いに必死に耐えていたジョニーには天からの恵のようなもんだった。
快斗「う、うーん・・・。」
ようやく快斗が目覚めた。さっきの騒ぎで他の6人も起き出していた。
青子「快斗!?快斗ー。」
青子は涙目になって快斗にしがみついた。
快斗「あ、青子?」
いきなり和葉に飛びかかられ、今度は青子にしがみつかれ、なにがなんだか快斗には分からなかった。
和葉「ごめん、快斗君。勢い余って・・・。」
平次「そうやそうや、全く誰かも分からずに飛びかかりおって。」
和葉「元々はあんたのせいやろが!!」
ジョニー「はいはい、そこまで。せっかくの朝食が冷めちまうぞ!!!」
相変らずの喧嘩にやけになったジョニーはイライラをついぶつけてしまった。しかし、その場にいた全員が凍りついた。
朝食を済ませ、さっそく阿笠家に行った5人。だが蘭はジョニーが言っていた言葉が気になってついて行くことにした。

午前9時、阿笠亭前。
平次「いやー、ここに来るの久々やな。」
快斗「俺は・・・初めてだな。」
探「僕もですね。」
ジョニー「もちろん、俺もな!」
久々にストレス発散できて陽気なジョニーだった。
新一「さてと・・・。」

ピンポーン。

誰でも聞いた事があるインターホーンの音が鳴り、中から太っちょの男が出てきた。
阿笠「やあ、みんな。で君がジョニー君かい?」
ジョニー「は、はい。どうも・・・。」
阿笠「まぁそこで話すのもなんだから、あがってくれ。」
言われるがままに6人は家の中に。6人はソファーに座った。

新一「そういや、宮野は?」
阿笠「ああ、彼女なら部屋におるぞ。」
新一「ああ、そうか・・・。」
この時、ジョニーは少し聞き覚えがある名前に思えた。
その『宮野』という名前を・・・。

蘭にお茶を入れてもらって話をし始めて30分後・・・。地下への階段から博士が上がってきた。
阿笠「男性諸君、地下室に来てくれ。」
5人は言われるがままに地下室へ・・・。
阿笠「ほい、君たち専用の武器じゃ。」
新一「うわー、すげー・・・。」

地下室にあったのはいろいろな『武器』だった。
日本刀、剣と盾、いびつな形のピストル、リストバンドそして例の時計型麻酔銃があった。
阿笠「これらは本物に見えるように設計したんじゃ。剣類は当たったら気絶するように電流が流れるように、ピストルは煙幕と・・・空気砲じゃ」
快斗「このリストバンドは?」
阿笠「そいつは力を増加させる装置がついとる。足用に作ったんじゃ。」
探「それではそれは新一君用ですね。」
ジョニー「ああ、新一はサッカー仕込みの足があるからな。」
平次「んじゃ、ワイは日本刀に。」
快斗「それじゃ俺はピストル。」
探「では僕はこのセットですね。」
平次は『日本刀』を、快斗は『ピストル』、探は『剣と盾』、新一はリストバンドと時計型麻酔銃を取った。
平次「なんや、あんたはなんもないのか?」
ジョニー「俺は警視庁から銃を5丁もらっといたから。サイレンサーをぶっ壊したのも含めて」

その時。上の階から悲鳴とうめき声が聞こえた。
新一「この声・・・蘭と宮野だ!!!」
快斗「早く上に行こう!!!」

1階のリビングでは志保がうめき声を頭を抱えて倒れこんでいた。突然起きた事で何をしていいか分からず、蘭は戸惑っていた。
新一「蘭!!」
蘭「し、新一!志保さんが急に・・・。」
ジョニー「(し、志保!?宮野 志保だって!!!?)」
ジョニーに電撃が走った。この名前、そうだ!あいつだ!!心の中でそう呟いた。
快斗「志保さん!しっかりして!!」
快斗と探が志保を押えようとした。しかし志保は2人を突き飛ばした。
ジョニーはたまらず、志保に近づいて抱きしめた。
ジョニー「志保、俺だ。ジョニーだ、分かるか!?」
ジョニーは志保の顔を手で押えて見つめた。栗毛の髪、少し冷たい目、間違いはなかった。少しも変わっていなかった。
ある部分を除いて・・・。
ジョニー「懐かしいな、5年ぶりじゃないか・・・。少しも変わってないな。」
志保はパニック状態からだいぶ落ち着いて来た。そして初めて口を開いた。
だが、その言葉はジョニーの想像を遥かに覆す物だった。
志保「あなた...........誰?」
ジョニーは固まってしまった。5年のブランクは確かにある。だがそれにしてはその質問が矛盾してしまう。他の6人も黙ってしまっていた。

志保は部屋に運ばれた。新一達はどうして志保と関係があるのか全く分からなかった。唯一その話を聞いた蘭はジョニーに代わって説明した。
平次「なんちゅう悲しい話や、生き別れになってしかも再会したら記憶喪失だなんて・・・。」
探「とても悲しいお話です、本当に。」
快斗「ああ、そうだな・・・。」
新一「.........」
4人は口を濁らせてしまった。これだけの悲しい話はおそらく映画でもなかなかないだろう。蘭も当然、涙を流していた。
ジョニー「お前ら、何悲しんでんだ?」
ジョニーはそっけなく言った。
新一「何言ってんだ、お前が・・・」
ジョニー「悲しんでられないんだよ。それに死んで二度と同じ世界で逢えなくなったわけじゃねーんだ。きっと記憶は戻る、いや戻してやるさ。」
ジョニーは日が差す東側の窓を見ながら言った。絶望にも何もへこたれていない目だった。


その頃・・・組織残党のアジトでは・・・。
スプリッツァー「今度は成功させる。だから・・・頼む、ビフィーター!!」
昨日の失敗をとがめられた彼は首班的存在のビフィーターに弁明をしていた。
ビフィーター「分かった分かった。もう一度、チャンスをくれてやる。だが今度失敗したら・・・。」
スプリッツァー「あ、ありがとう!!!」
殺されずに済んで安心したスプリッツァーはすぐさまドアに駆け出していった。
??「いいのかい?ひょっとしたら裏切るかもしれないんだよ。」
ビフィーター「安心しろ、キャンティ。妙な真似をしたら・・・すぐにあの世に送ってやるよ。」
キャンティ「ふん、まあいいや。ウォッカ、そういえばキュラソーとバーボンは?」
ウォッカ「奴の死刑執行を待っているよ。どっかでな。」
ウォッカと名乗るサングラスにシルクハットの男性は吐き捨てた。
キャンティ「ふーん。」


午前11時、工藤亭にて。
新一達は家に帰っていた。ジョニーはしばらく志保を見ていたいと言ってそのまま残った。家には目暮警部と千葉・高木・佐藤刑事が来ていた。
新一「け、警部。来てたんですか・・・。」
突然の訪問客に新一達は驚いた。彼らはリビングで談話をしていた。
目暮「おお、工藤君。おや?服部君に白馬君まで。」
新一「ちょっと成り行きで・・・。」
目暮「まあいいか。それより皆こっちに来てくれ。」
目暮の言うとおりリビングに来てみるとテーブルの上に写真が置かれていた。
小五郎「ところで新一、服部。お前ら、この前言っていた依頼で依頼人の顔、覚えてるか?」
新一「そうですね・・・。」
新一は考え始めた。城崎 弥生と名乗った人物の顔・・・。
そんな矢先、服部は叫んだ。
平次「ああ!この女や!俺に依頼してきた奴は。」
小五郎「やっぱりそうか・・・。」
蘭「どうしたの?お父さん。」
英理「ええ、この前新一君に電話をかけた話のこと。」
新一「ああ、尋ね人の依頼についてでしたっけ?」
英理「そのことなんだけどね、この人この中に見たことがある奴がいるって言うのよ。」
新一「えっ!?」
新一は当然驚いた。無理もない、前にも見たことがある組織の残党組の写真に平次や小五郎が見たことがある奴がいると言うのだから。
新一「...そういや、この顔どっかで・・・あっ!依頼人1人目だ!!!」
新一はようやく城崎 弥生の顔を思い出した。確かにこの写真の中の女性にそっくりだった。
小五郎「やっぱりな。思ったとおりだ。」
高木「実は最近この人たちのような人を米花町で目撃したって人がいるんだ。」
千葉「確か・・・スプリッツァーとあとこのキュラソーだったよ。」
千葉刑事はそういって2枚の写真を取り上げた。スプリッツァーは小五郎の依頼人・河崎 哲義。キュラソーは新一の依頼人・城崎 弥生だった。
佐藤「本当かどうかは分からないけど・・・彼ら、この辺にいる可能性は高いわ。」
新一「いよいよ本腰をあげてきたってわけか・・・。」
平次「へっ、こっちも準備はできたんやし、そろそろ・・・」
優作「いや、それはまずいな。」
闘争心を燃やし始めた新一と平次に優作は水を指した。
新一「な、なんでだよ?」
優作「相手はあのジンよりも一歩上手なんだ。何をしてくるか分からないんだ。ここは待っていた方がいい。」
目暮「もちろん我々もできる限り協力はする。」
新一「警部・・・。」
自分を心配してくれる。そんな光景に新一は胸が一杯になった。
探「工藤君、これは言うとおりにした方がいいですね。」
快斗「俺も賛成だ。」
平次「わいもや。どうせ向こうからけしかけてくるんやし・・・。ここは『石の上にも三年』やで。」
新一「そ、そうだな。」
自分はコナンになってから本当に親友が増えたんだな。皮肉にもそう感じてしまう新一だった。

午後9時、阿笠亭。
志保の部屋はずっと暗かった。
ジョニーは志保をずっと見つめていた。
ジョニー「(志保、例え記憶がなくなっても俺は絶対にお前を忘れない。だからお前も思い出してほしい・・・。)」
そう呟くジョニーだった。
窓からは満月からの月光が明るかった。


第7話へ続く




第5話「奇跡と軌跡」に戻る。  第7話「a lover in her brain__」に続く。