BLACK
By 茶会幽亮様
第7話 a lover in her brain__
翌日、午前9時。もう10月になってしまい、あたりの木はほとんどハゲてしまっていた。 新一と蘭、博士はずっと空けてしまっていた事務所の掃除をするため一時帰ることに・・・。 阿笠博士にビードルを運転してもらった。 新一「この一件が解決したら、早く仕事を再開させねーと・・・。」 蘭「あんまり無理しないでよ。」 阿笠「そうじゃぞ、新一。それにあせっても仕事は来ないんじゃぞ。」 新一「分かってるけど・・・。」 これからの事に新一はどうすればいいか分からず、焦ってしまっていた。 蘭「そういえば、ジョニーさんは?」 阿笠「ああ、彼なら志保君と一緒にいるよ。なんでもいろいろと話をして記憶を戻す方法をやっているとか・・・」 新一「そんな事して意味あんのか?」 助手席に座っていた新一は頭に手を置いて言った。 蘭「そんなことわかんないけど・・・、恋人の為だもん。新一がもしそうなったら私だってなんでもやるもん。」 新一「ら、蘭。」 さりげなくありがたいことを言ってくれた蘭に心の中で感謝する新一だった。
一方、阿笠亭では・・・ 8時ごろに起きたジョニーは博士を送り出し、志保が寝ている間に2人分の朝食(ハムエッグ、サラダ、トーストという組み合わせ)を作っていた。 ジョニー「(2日連続で2人以上の朝食を作ったなんて久しぶりだな。何ヶ月ぶりだろう・・・)」 海外の往来が激しい仕事なので、朝食は軽めに、他は外食だけだった。 そのため、朝食用の軽い物しかジョニーは作れない。とはいっても、それで生きていられたんだから別に悪いわけではないが・・・。 ハムエッグを作り終わって、皿に盛ってテーブルに置いたジョニー。何やら少し考え始めた。
とても暗い所で志保は目が覚めた。 志保「ここは・・・どこ?」 身体を動かそうとしても、動かなかった。 そのうち、何者かに銃を突きつけられていることに気付く。 ??「ようやくお目覚めか・・・。」 銃を突きつけている男が呟いた。 ジョニー「志保!!」 目の前には昨日、見た男性がいた。 志保「(あなたは誰?)」 すると、男は銃を前に向けた。 志保「えっ?」 ??「約束だ。こいつを逃がす代わりに、お前が死ぬ。」 ジョニー「ああ、もう絶対に追いまわすんじゃねーぞ。」 男性は吐き捨てた。 志保「(また私のために・・・死ぬ人が出てしまうの?)」 姉やピスコが自分のために殺された。そのことで志保はもう二度と私のために誰も死なさせはしないと誓った。にも関わらず、目の前でそれが実行されようとしていたのだ。 志保「(いや、そんなのいや!!)逃げてー!!!」 志保は必死に叫んだ。誰かは知らない。でも生き延びてほしかった。だが男性は言った。 ジョニー「ヘッ、誰が逃げるかよ・・・。」 そして引き金が引かれた瞬間!!!
志保は現実に引き戻された。ベッドの上で寝ていた。 額には大量の汗が流れていた。 志保「ゆ、夢?」 志保は身体をゆっくり起こした。まだ頭痛が残っていた。昨日の錯乱状態の残りだろう。 すると1階から美味しそうな匂いが漂ってきた。 志保「博士かしら・・・。」 ドアを開けて志保は下を見た。さっき夢に出てきた男性がソファーに座ってタバコを吸っていた。 志保はゆっくりと階段を下りていった。
志保が階段を下りていくのに気付いたジョニーはすぐさまタバコを消した。 志保「あなた、昨日の・・・。」 志保は冷たげに言った。 ジョニー「やあ。覚えててくれたんだ。」 志保「感謝はしないわよ、別に助けてくれって言ったわけじゃないんだから。」 志保はやはり冷たげに、サラッと吐き捨てた。 ジョニー「ハハハ・・・。(全く変わってないじゃん。)」 ジョニーは6年前に知った性格が全く変わってないことにあきれつつも少し嬉しかった。 志保「あなたは誰なの?」 ジョニー「ああ、まだ言ってなかったっけ・・・。俺は・・・。」 ジョニーは一通り自己紹介と日本にいる理由を話した。あくまで初めて逢ったように、ジョニーはそう心がけて会話を進めた。 一方の志保は、ジョニーとは全く初めてなのに懐かしさを感じた。 志保「(なんでだろう、ジョニーさんとは初めて会ったはずなのに・・・なんか・・・懐かしい)」 ただし、性格上本当の気持ちを伝えるのが苦手な志保はそんなことは全く口にしなかった。
その頃、工藤探偵事務所では・・・ 新一「うっ、ごほっ!ごほっ!えほっ!」 久しぶりの掃除で溜まっていたほこりが飛び散り、新一はむせてしまった。 蘭「ちょっと新一大丈夫?」 それを見かねた蘭は新一の背中をさすった。 新一「あ、ああ。なんとか・・・。」 この時新一は悩んでいた。 自分の身も大事だが、そんなことしてたって残党どもには近づけない。それに第一そのために犯罪が解決しなくなっては苛立ちが募るばかりだ。しかし、もし自分の身になにかがあったら・・・蘭は後を追うかもしれない。あの天使の笑顔を二度と出さなくなってしまうかもしれない。 犯罪と蘭、すなわち探偵と愛妻。新一には二つに一つ、選べるはずがなかった。
掃除が終わり、工藤亭に戻った新一は優作に声をかけた。
新一「父さん、少しいいか?」 優作「ああ、いいけど・・・。」 優作を連れて新一は外へ・・・。そしてこう切り出した。 新一「父さんは仕事と母さんのどっちが大事?」 聞くまでもなかった。九分九厘、母さんと言うに違いない。そう新一は予測していた。案の定、優作はそう答えた。 優作「どうしたんだ?急に・・・。まさか残党狩りのことで」 新一「実は...父さん。俺、・・・探偵を再開したいんだ。」 優作自身もある程度予測していたんだろうか顔色一つ変えなかった。 優作「新一。君が探偵をどれだけやっていきたいかは分かる。だが好きな事をやめなきゃいけない時だってあるんだぞ。」 新一「そんな簡単な理屈でやりたいんじゃねーんだよ!!!! 」 苛立ちを隠せなくなり、新一は怒鳴ってしまった。 新一「確かに探偵は好きだ。けどそれだけじゃねー。俺が探偵をしないと解決しねー事件がもっと増えちまう。その事件の被害者は少しも心が軽くならねーまま、一生その事を記憶していくんだぜ。そんなの俺は許さねー。犯人はやったことを後悔しなきゃいけねーんだ。例えどんな理由があろうとも・・・。」 優作「・・・。」 優作はしばらく黙って考え込んだ。ここまで考えていたなんて・・・。そう思った。 そして、 優作「分かった。警部とかに説得してみるよ。ただし、蘭さんを巻き添えには絶対にさせるんじゃないぞ。」 新一「ありがとう、父さん。」 とりあえず許しをもらえ、新一はホッと一息入れた。
優作は目暮警部にこのことを伝えた。 もちろん、警部も驚いた。だがそんな真っ直ぐな意見を持っているなら止める事は無理だと判断し、協力を約束した。
その後、警部は夕食の時に全員にこのことを伝えた。 するといつも茶化してくる3人+1が新一の所へやってきた。 平次「工藤、大丈夫なんか?探偵をやって。余計に狙われるようなるぞ。」 新一「ああ、その点については警部がガードマンを置いてくれるってさ。」 快斗「蘭ちゃんが許してくれんのか?」 新一「さあな。まあでも許してもらわないと本末転倒だからな。」 探「まあ何はともあれ、工藤君らしくなるんだからいいんじゃないんですか?」 ジョニー「そうそう。お前から『探偵』を抜いたら只のキザ野郎になっちまうからな。」 新一「余計なお世話だ。」 ようやく慣れてきたのだろうか、ジョニーもメンバーの一員になっていた。
3日後。 新一と蘭は事務所の前にいた。 新一「やっとこっちに戻れたー。まだ安心はできねーけど。」 蘭「でもやっぱり我が家が一番!!」 2人は陽気に事務所に入っていった。 これから起こる事も知らずに............
第8話に続く
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