BLACK
By 茶会幽亮様
第9話 対面、すれ違い、そして…
12月20日、期限まであと4日。 午後12時。
ジョニーは再び警視庁を訪ねていた。そして向かった先は・・・留置場だった。
ジョニーは昨日、こんな頼みをしていた。 『ジンとベルモットに会わせてほしい・・・。』いわゆる面会の申し込みだ。 面会常には目暮警部と小田切刑事部長が付き添ってくれた。 ジョニー「・・・わざわざすいません。自分の野暮用のために・・・」 小田切「別に構わない。・・・私にも奴に聞きたい事があってな・・・。」 目暮「でもなんでジン達に面会を?」 目暮警部にそう聞かれると、ジョニーは少し黙ってしまった。 ジョニー「・・・対ビフィーターの対策ですかね・・・。」 ジョニーは上を向いて言った。
小田切「先日、申し込んだ小田切だ。」 監視官『分かりました。どうぞ。』 留置場への鉄格子が開いた。 ジョニーはジンへ、後の2人はベルモットがいる部屋へ行った。
ジョニー「初めまして、ジン。」 ジン「誰だか知らねーが、何も話すことはねーぞ。」 ガラス越しにジンはいた。金色の長い髪、あの冷たい目。間違いなかった。 ジョニーはふてぶてしく笑った。 ジン「何がおかしい?」 ジョニー「いや、何十人も殺してきた奴が目の前にいるからな。それも獄中にだぜ?」 今まで殺人鬼はもちろん、様々な国際犯罪者を追いつづけてきたジョニー。もちろんジンもその1人だ。そんな奴を先に日本警察+日本3大探偵に捕らえられてしまった。 犯罪者が捕まったのは嬉しい。だが自分が追い続けた奴が捕まったのは少しばかり悔しい。 そんな心境だった。
目暮警部と小田切刑事部長はベルモットと対談していた。 ベルモット「今更何の用?」 小田切「貴様に聞きたい事があってな・・・。」 小田切刑事部長はFBI捜査官、スコット・クロスフォードについて話した。 ベルモット「さあ?でもそういう奴がいたってことも知らなかったね。」 目暮「本当だろうな!?」 目暮は語調を強く怒鳴った。 ベルモット「そうだって言ってるでしょ?」 ベルモットは、かったるそうに言った。 小田切「そうか・・・。分かった。」 小田切は席を立ち、その場を後にした。目暮も後にした。 ベルモット「・・・。」 ベルモットはじっと座っていた。
その頃、工藤亭では・・・ 快斗「いよいよあと4日だな・・・。」 新一「ああ・・・。そういえばジョニーは?」 探「彼なら警視庁に行ってますよ。なんでも面会に行くとか・・・。」 平次「面会?いったい誰にや?」 新一「さあ?」 真「警察関係者にでしょうか・・・。」 とそこに女性陣が押しかけて来た。 そして和葉がこう叫んだ。 和葉「平次!!アタシらも蘭ちゃん救出に行く!!」 平次「な、なんやて!?」 平次はもちろん、他の男性陣も驚いた。いきなりこんな事を言われては・・・ 真「何をおっしゃるんですか、和葉さん。これは相当危険な事なんですよ?」 園子「でも!蘭は今でも捕まって閉じ込められているんだよ!?」 青子「私達だってなにかしたいの!!お願い、皆。」 和葉、青子、園子は頭を下げた。志保と紅子が説得してもダメだったと表すように2人は男性陣に首を横に振った。 新一「み、みんな・・・。」 新一は胸が熱くなった。そうだ、蘭を助けたいのは皆も同じなのだ。しかし・・・ 新一「みんな、ありがとう。・・・でも、今回は俺達に任せてほしい。」 青子「工藤君・・・。」 新一「・・・皆が蘭を助けに行きたいのはよく分かる。でもこれは、夫として俺がやらなきゃいけないんだ。」 和葉、青子、園子「・・・。」 3人は黙って聞いていた。
一方、ジョニーはというと・・・ ジョニー「わざわざ送っていただいてすいません。」 小田切「いやいや、これぐらいはどうってことはない。」 ジョニーは小田切刑事部長が運転する車で米花の工藤亭へ向かっていた。 小田切「私も協力者として会いたい人がいるんでな・・・。」 ジョニー「は、はあ・・・。」 車は枯れた桜トンネルを通っていた。
ジョニー達が工藤亭に着いた時は、既に午後4時を回っていた。 途中で渋滞に巻き込まれてしまい、ジョニーはどっと疲れた表情を見せていた。 一方の小田切刑事部長はというと、全く顔色ひとつ変えていなかった。
二人は工藤亭の中へ・・・ リビングには俯く男性陣と涙を流す女性陣がいた。 ジョニー「ただいま・・・ってどうしたんだ、新一。」 全く状況が読めていないジョニーは新一に尋ねた。 新一はさっき話したことをそっくりそのままジョニーに話した。
ジョニー「・・・なるほどな。だがな、お前は1つ勘違いをしているぞ。」 新一「はぁ?どういうことだよ?」 同情するかと思ったら意見を出してきたジョニーに新一は少しばかり反感を抱いた。 ジョニー「確かに蘭さんはお前が守るべきもの。しかしな、決して『お前だけ』じゃねーんだぜ?ここにいるお嬢さん方も、気障な探偵どもも、そして蘭さんの両親だってそうなんだぞ。1人でやらなくてはいけない事も世の中にはあるが、みんなが協力しないとできない事だってあんだぜ?」 新一「・・・。」 新一は黙ってジョニーの話を聞いていた。彼女達を巻き込みたくはない。だがいつの間にか自分だけの問題にしようとしていた。自分が気づかないうちに・・・。 小田切「彼の言うとおりだ、工藤君。」 後ろで話を聞いていた小田切も口をあけた。 小田切「焦る気持ちは痛いほど分かる。だが1人で突っ込んでいっても返り討ちに遭うだけ。最悪の場合、奴らは人質を既に・・・。」 青子「それ以上言わないで!!!」 突然青子が叫んだ。 青子「・・・蘭ちゃんは絶対に生きてます。なんにも証拠はないけど・・・私はそう思います。」 和葉「あたしも。」 園子「私もです。」 親友が死んだなんて絶対に信じたくはない。そんな気持ちが青子を叫ばせたのだろう。 ジョニー「なっ、蘭さんを助けたいのはテメェだけじゃねーんだぜ?」
午後18時。 新一達は小田切と談話をしていた。 小田切「まず犯人グループの特徴だが・・・。」 小田切は胸ポケットから6枚の写真を出した。残党一味の写真だった。 そして、彼らの特徴、いわゆる武器や性格を説明し始めた。
スプリッツァ− ジン達が所属していたグループで一番最初に入ったメンバー。武器はサイレンサーと銃3丁。(※サイレンサー:銃を撃った時になる音を最小限にさせるための装置。) 性格は他のメンバーに比べるといたって普通。
キュラソー 推定25歳程度の女性。武器は強化型スタンガン搭載の剣(※スタンガン:スイッチを押すと電流が放電され、人間に当てると気絶する。このスタンガンは電流が5倍流れるため、人間に当てると心臓発作を起こし死んでしまう。) 性格はベルモットとほぼ似ている。
バーボン とても体格が大きい男性。武器は巨大な日本刀。 性格はとても寡黙。
ビフィーター 茶髪でいつも野球帽をかぶっている男性。武器は複数有り。しかしそれを見て生還した人は誰もいなかった。 性格はジンより冷酷。そして人を殺すことに快感を感じる『イカれてしまっている』人間。
(キャンティ、ウォッカは省略)
新一達は改めて敵の戦力を確認した。特に・・・ビフィーターを。 平次「こりゃ覚悟はしといた方がええみたいやな・・・。」 快斗「ああ・・・。」 小田切「もちろん、我々も警察の意地にかけて協力は惜しまない。だが・・・」 真「気を締めていかないと・・・病院どころですまされなくなりますね。」 ジョニー「全くだ・・・。」 ジョニーはため息を入れた。 そこに志保がやって来た。 志保「ジョニーさん、ちょっといいですか?」 ジョニー「えっ?ああ、いいけど・・・」 ジョニーは小田切刑事部長に一礼し、その場を後にした。
志保はジョニーを連れて公園にやって来た。 ジョニー「いったいどうしたんだ?急に・・・。」 ジョニーは別に目的はなかったが辺りを見回していた。 辺りは中央にある電灯以外に明るいものはなく、真っ暗だった。 いつの間に降っていたのだろうか、雪が2〜3センチ積もっていた。 志保「あ、あの・・・ジョニーさん?」 ジョニー「ん?」 志保に声をかけられ、志保の顔を見る。少し暗い感じの表情だった・・・。 志保「あの・・・お願いがあるの・・・。」 ジョニー「どうしたんだ?いつもの『人を冷ややかに見る目』ががまるでないじゃないか・・・。」 確かにそうだった。すでに志保は普通の女になっていた。
志保はしばらく黙ってしまった。何かを言いたそうにしているのは分かるが、何かがつっかえているのか口が動かなかった。少しして志保の目から雫がこぼれ始めた。 ジョニー「志保・・・。」 ジョニーは優しく志保を抱き締めた。 それから5分ぐらい経っただろうか、ようやく志保が顔を上げ、口を開けた。 志保「ジョニーさん・・・アジトには・・・行かないで・・・。」 ジョニー「ハ、ハア!?」 ジョニーは思わず叫んでしまった。 4日後のために今まで様々な準備をしてきた彼だけにいきなりやめてほしいと言われて気が動転してしまったのだ。 ジョニー「な、なんで・・・そんなことを?」 それでも落ち着きを取り戻し、志保の爆弾発言の真相を聞いた。
志保はジョニーと『初めて』会った日の翌日に見た夢のことをすべて話した。 何者かに捕まっている志保、自分と引き換えに殺されてしまうジョニー・・・。何か良からぬ事の前兆のように彼女は思えた。 ジョニーはしばらく考え込んだ。そして、こう切り出した。 ジョニー「志保・・・、お前が言いたい事は分かる。だがな、男ってのはじっとしていられないんだなー、特に俺は。」 志保「ジョニー・・・さん・・・。」 ジョニー「・・・お前も1人の女なんだな。」 ジョニーがからかうと志保は頬を赤らめ、ジョニーの胸に顔を当てた。 ジョニー「心配すんな、俺は意外に悪運が強いから簡単に死にはしねーよ。」 ジョニーは志保の頭を優しく撫で、微笑んだ。 志保「分かった。・・・でも・・・もしものことがあったら・・・。」 ジョニー「そりゃもう神頼みだな・・・。」 ジョニーは冗談混じりに言った。 志保「ずいぶんなやり方ね・・・。」 ジョニー「へっ、ようやく性格が戻ってきたか・・・。」
午後8時。工藤亭にて。 ジョニー「ただいまー。」 ジョニーは志保を博士宅まで送り、少し気難しい表情で帰ってきた。 快斗「おっ、ジョニーさん。デートはどうでしたか?」 快斗は少し気障に言った。 ジョニー「デートじゃねーよ。馬鹿野郎が・・・。」 既に小田切刑事部長は警視庁に戻っていた。
一方、阿笠亭では・・・ 志保「・・・。」 志保は悩んでいた。 確かにあの時は了解したものの、やっぱり気がかりだった。このまま彼の言うことを従うか・・・、それとも・・・ 志保「・・・そうだ。」 志保は博士と共同で使っている地下の研究室に向かった。 そして自分の机から5つの銃弾を取り出した。外見はただのオートマチック用の弾だが・・・ 志保「これなら私だって・・・。」 志保は弾をポケットに閉まって、その場を後にした。
12月23日、期限まであと1日。 午前10時。 ジョニーはリビングの電話を借りていた。 ジョニー「ええ、オートマチックを2丁、ロケットランチャーを1丁です。・・・そうです。・・・ありがとうございます。それじゃあ当日に・・・。では・・・。」 ジョニーは工藤家のモダンな受話器を置いた。ちょうどその時、新一が上から降りてきた。 新一「・・・。」 ジョニー「よう、新一。・・・って寝付けなかったみてーだな。」 新一「ああ、ってかおめぇもくまがくっきりじゃねーか・・・。」 確かにそうだった。ジョニーもここ3日間は全く寝ていないのだ。これも仕事柄そうなったのだろうか? 新一「何してたんだ?いったい。」 ジョニー「武器の注文だよ。」 新一「そんなもん出前みたく頼むな!!」 思わず新一は突っ込んでしまった。 とそこにドアが開く音がした。 ジョニーは空砲の銃を取り出し、壁に寄りかかった。そして銃を構えてみると・・・そこには志保が立っていた。 ジョニー「なんだ、志保か・・・。」 志保「ちょっと、そんな言い方ないんじゃないの?」 志保はジョニーを睨みつけた。ジョニーも負けじと睨み返した。 新一「まあまあ、とにかくどうしたんだよ、こっちまで来て?」 慌てて新一は仲裁に入った。 志保「あ、そうだった・・・。工藤君達にお願いがあるの・・・。」 新一「あ?なんだよ、いったい?」 新一は素直に聞こうとしていた。しかし、ジョニーは昨日に公園での出来事を思い出していた。またあんなことを言おうとしているんじゃないか・・・。しかしその予想とは全く違った。いや、正反対だった。 志保「私を蘭さん救出に手伝わせてほしいの・・・。」 新一・ジョニー「ハア!!!?」 これには二人は度肝を抜かされてしまった。
新一達は説得を続けた。だが志保は頑として聞かなかった。しかも志保はこんなことまで言い出した。
昨日机から取り出した銃弾についてだ。あの弾の中に多量の睡眠薬が入っており、物に当たって中に入った瞬間に薬が飛び出る、という仕組みだ。しかもその量は睡眠薬というより麻酔薬に等しかった。 ジョニー「その銃弾の威力はよく分かった。だがな、志保。お前に銃を扱える自信はあるのか?」 志保「当たり前じゃない!!だからこうして・・・。」 と、突然ジョニーが志保の頬を平手打ちした。 とっさに新一が止めに入った。 新一「おい、ジョニー!!いくらなんでもそりゃねーだろ!!!」 ジョニー「俺達は遊びにでも、射撃訓練場にも行くわけじゃねーんだぞ!?銃撃戦にだってなりかねない所に乗り込んでいくんだぞ!?何考えてんだ、てめぇは!!」 かなりの形相でジョニーは志保を睨んだ。 一瞬志保は怯んだが、すぐに睨み返してこう答えた。 志保「それはあなただってそうでしょう!?相手はあのジンより上手なのよ!?突っ込んでいったって殺されるだけよ!!」 この騒ぎで2階から平次・快斗・探・真が降りてきた。 いったい何が起きているのかしばらくは分からなかったが、ジョニーが志保の胸倉をつかんだのを見るとすかさず止めに入った。 平次「おい、兄ちゃん!?何しとるんじゃ、ねーちゃんに!!」 快斗「いったいどうしたって言うんですか!!?」 真「いつも冷静に志保さんと付き合っていたあなたらしくないですよ。」 3人は暴れまわるジョニーを、探はわめく志保を落ち着かせていた。 2人がようやく落ち着き、一部始終を見ていた唯一の第3者だった新一はこのトラブルのことを全部話し始めた。 するとジョニーは3人を突き飛ばした。 ジョニー「もういい!!勝手にしろ!!!」 と志保に吐き捨ててリビングを去っていった。 その後、リビングには重い空気が漂った。
結局5人は何も言えずに終わった。二人の言っていることは最もだった。けちのつけようがないし、余計なことを言うともっと混乱しかねない。そう考えての結論だった。
その夜・・・ ジョニーは阿笠亭に泊まっていた。 阿笠「ほい、夕飯じゃぞ。」 ジョニー「すいません、こんなにしてもらっちゃって・・・。」 阿笠「いやいや。ところでジョニー君は和食は大丈夫なのかね?」 ジョニー「もちろん。納豆だって食べられますよ。」 忙しいためインターポールに入って以来、洋食しか手をつけていなかったのでジョニーには結構なご馳走だった。 阿笠「それで・・・志保君は明日・・・。」 味噌汁をすすりながら阿笠博士は今日のことについて尋ねた。さすがに隣だけあってジョニー達の大声は丸聞こえだった。 ジョニー「絶対に行かせません。なにがなんでも・・・」 怒り任せにあんなことを言ってしまった。だが今冷静に考えた答えはそれだった。
工藤亭、寝室にて・・・ 1人で寝ることにした志保はベッドで考え込んでいた。 志保「(ジョニーさん・・・。女だからって除け者扱いしないでよ。あなたには絶対に生きていてほしいのよ・・・)」 志保は枕で顔を覆った。目から涙がこぼれていた。
第10話へ続く
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