レジスタ!



By 泉智様



(21)



「凄っげえ・・。」
「・・・だな。」

代表23人枠に入り込んだ新一と快斗は、同じく4年後の中心として期待されているヒデと隆祐と共に、関東北部にあるJビレッジで合宿生活に入った。
そこには4年前・開催国として出した“予選突破・ベスト16”以上の成績を期待するサポーターが、鈴なりの状態で見学に訪れていた。

本番まで残り1ヶ月。

1週間ほどJビレッジで合宿し、そのまま開催地のドイツに移動。
本番相手を想定した試合を3つ消化して本番に臨む・・・という予定になっており。選手たちはリラックスした雰囲気の中、調整に余念がなかった。


ここでは、サインを求める多くのサポーターに応じることはあっても、色よいコメントを求めて群がるマスコミは無く。そういう意味では落ち着いて練習に集中できた日々となった・・・が。それでも最終メンバー決定直前の3試合で“カミカゼ”の如くゴールを取った新一ら若手4人に向けられる熱視線はハンパなものではなく。“本番でしくじったら、帰れるかねえ〜?”という気分にさせてしまう程であった。



  ☆☆☆



「どうしたの?青子ちゃん。」
「園子ちゃん。」
「元気ないぞォ?・・・ここ、いいかな?」
「うん・・・。」

本番のため新一らがドイツへ発った日。

園子と同じく帝丹大に進学し、園子に誘われて恵子と一緒にテニスサークルに入った青子は、コートの横にあるベンチでボーっと掛けているところを、園子に声を掛けられた。
二人が掛けるベンチの前にあるコートでは、恵子が先輩男子とプレーを楽しんでいた。

「新一君と黒羽君、行っちゃったね。」
「・・・うん。」
「アヤツ、23人決定まで残り3試合しかないっちゅうのに。どうせ見せ玉・ポーズ枠の直前召集だって分かってるくせにサ。3試合中2試合も出て、点を取って、ドイツ行きの切符ゲットしちゃってサ。もうっ#!まだ新婚生活半年も経ってないのに、女房放っぽってほとんど家を開けっ放しじゃないっ!ワタシの蘭を取っといて何よ!あ〜、アヤツなんかに蘭を任すんじゃなかったワ!」
「プッ・・・クスクスクス、園子ちゃんヤキモチ?“工藤君以外に蘭ちゃんを任せられるヤツはいない”なんていつも言ってるくせに。おっかし〜。アハハハハ。」
「・・・良かった。やっと笑った。」
「へっ?!」
「青子ちゃん、淋しそうだな〜って思ってサ。・・・元気でた?」
「園子ちゃん。・・・・・もしかして、蘭ちゃんも?」
「ん・・・。突っ張ってるけどね、分かるんだ。和葉ちゃんにフォロー頼んでるけど。」
「・・・そっか。」

手にしたテニスボールを弄くりながら、“なにも青子を慰めるために工藤君をダシにしなくても・・”と園子らしさに苦笑しつつ。青子はぽつりぽつりと気持ちを吐き出した。

「でも・・・青子の“淋しい”と蘭ちゃんの“淋しい”は、ちょっと違うかも。」
「へっ?」
「工藤君は・・・蘭ちゃん一筋だって公言してるし。それに・・・どんなに家を空けても、絶対蘭ちゃんのところに帰ってくるって分かってるじゃない?でも、青子は・・・青子と快斗はそうじゃないから。」
「青子ちゃん?!」
「うまく言えないんだけど・・・快斗がトップデビューしてから、どんどん遠くなってく気がしてるんだ。手が届かない高みにどんどん上っちゃって。青子なんかじゃ、快斗に釣り合わないよねって・・・。」
「何言って・・・。そんなことないって!」
「園子ちゃん・・・。へへ、ありがと。」
「青子ちゃん。」
「分かってる。快斗が青子を好きだってキモチは本気だって。でも・・・自信がないんだ。快斗、凄くもてるし。快斗を応援してる女の子、イッパイ居るし。みんな綺麗だし、大人っぽいし。でも・・・あんなに沢山の綺麗な人たちをかきわけて快斗の傍に行くなんて、青子、とてもじゃないけどできないよ・・・。」
「もしかして、最近、応援に行ってない?試合、見てないの?」
「ん・・・直には。TVは見てるけど。」
「・・・。」
「色紙とかプレゼントとか持って出待ちしてる子、居るじゃない?」
「・・うん。」
「入学前にね、練習場に練習を見に行ったことがあるの。その時・・・見ちゃったんだ。」
「何を?」
「綺麗な女の人に囲まれて、沢山プレゼント貰ったり写真やサイン頼まれて、嬉しそうにしてる快斗。」
「ウゲッ!」
「快斗、マジシャンしてる小父様の影響なんだろうけど、ファンサービスが上手でね、特に女の人には優しいの。だから、そういうの、絶対に断らないんだ。いつも凄く素敵で優しい笑顔で、青子には絶対言わないような、凄く優しい言葉掛けてるの。だから、女の子たちはいっつも舞い上がってるの。・・・ホント、いつも。」
「(あっちゃ〜っ。)」
「練習や試合見に行くと、そういう子たちを見ることになるし。そういう子に愛想をふりまく快斗を見ることになるでしょ?だから・・・・・イライラするから行ってないの。大学入ってからずっと。」
「ええっ?!大学入ってからずっと、って2ヶ月になるじゃない!マジ?!じゃあ、オフ日にデートとかもしてないの?!」
「うん。快斗、代表に呼ばれちゃってるでしょ?チームと代表の掛け持ちで疲れてるだろうから、オフ日くらいしっかり休んで欲しいし。」
「電話は?」
「青子からはかけてない。・・・(疲れてるだろうから)悪いもん。」
「メールは?」
「何を書けばいいか分からなくて・・・青子からは打ってない。」
「ちょっと。2ヶ月近くその状態って・・流石にそれは不味いんじゃない?!」
「・・・。」

コート脇のベンチで青子と園子が話しているところに、練習を終えた恵子が寄ってきた。

「不味いって、何が?」
「恵子!」
「恵子ちゃん!」

キョトンとしていた恵子だが、園子から青子の只ならぬ恋愛状況を聞くやいなや、園子以上の大声を上げた。

「青子、マジ?!それは不味いよ。ファンはファン、青子は青子なんだからね!そんなことじゃ、黒羽君、誰かに取られちゃうよ?!それでもいいの?!」
「・・・よくないけど・・・。」
「ん?」
「でも・・・。」

これまで見たことがないほどに後ろ向きな青子の様子に、付き合いの長い恵子さえも、掛ける言葉を見出せず。席を立って更衣室に向かう青子を見送るしかなかった。

「黒羽君は青子ちゃんから電話もメールもないこの状態をオカシイと思ってないのかしらねえ?披露宴で会った時の印象からすると、“双子”よばわりされてるだけあって、新一君ばりに彼女命でヤキモチ妬きって思ったんだけど。」
「う〜ん。確かに青子が絡むとキャラが変わるわね、黒羽君って。」
「どんな風に?」
「さっきの青子の話。あれ、ただの外面よ“外面”。エンターテナーといえば聞こえはいいけど、単なる気障でスケベなお調子者なの。でも黒羽君。意外なことに青子に対しては純情でね、凄いオクテなの。表向き・仲良しの幼馴染、実質・夫婦でいた期間が長くって、告ってちゃんとカレカノになったのもプロデビューするかしないかって頃だって話だし。あの分じゃ〜、未だにキスを済ませてるかどうかさえアヤシイわね。」
「・・・。(顔だけじゃなくてパートナーとの関係まで共通点ありまくりってこと?!まさに“双子”って形容がピッタリね。)」
「でも変ねぇ〜。青子がおかしい時は、どんなに忙しくても、いの一番に気づいて何とかしてたんだけどな〜。あの黒羽君が、2ヶ月以上青子からの音沙汰が無くって、黙ってる筈がないんだけど。」
「つまり。黙ってられないんだけど、忙しすぎてどうしようもないってことかしら?・・はあ〜っ、仕方ないわね。探りを入れさせるとしますか。」
「探りって・・・園子ちゃん?」
「双子の“アニキ”の方に話してみるのよ。」
「“アニキ”って、ま、まさか・・・。工藤君もドイツでしょう?!連絡つけられるの?!」
「“仕事の充実は家庭円満から”だもの。アヤツが恋女房と音信不通で2日と持つわけがない!絶対に国際電話OKの携帯ぐらい買ってるって!」
「そ、そうなの?!」
「当然よ!そうと決まれば、早速蘭に電話だわ!青子ちゃんがあんなんで、黒羽君が普通にしてるはずがないでしょ?きっと今頃新一君も首を傾げてるはずよ!これも日本代表の好成績のため!善は急げよっ!」
「・・・。(持つべきものは友達ってこと?!)」

急に背後に気合の炎を背負った園子が意気揚々と更衣室に向かい。冷や汗を流す恵子がその後を追う形となった。



  ☆☆☆



そういう事情で新一が蘭との連絡用にと用意した(国際電話対応の)携帯に、蘭からではなく園子からの着信を受けたのは、園子が一念発起をしてから3日目のことだった。

「おう、何だよ#。」

事前に蘭から“お断り(事情説明)”を入れてもらったとはいえ。愛妻との連絡用にのみ使うつもりだった新一は、表示された番号を一瞥すると席を立って人気のない場所に移動し、不愉快な気持ちを隠すことなく電話に出た。

『う〜わ、感じワル〜。何、その声。』
「るっせえ#。この電話は蘭専用だったんだぞ!それをお前は・・(ブツブツブツ)・・。」
『あ〜、ハイハイ。分かってるわよ。でも、どうでもいい用事で私が二人のラブコールを邪魔するワケないでしょ?』
「どーだか。で?」
『披露宴に黒羽君が連れてきた彼女、覚えてる?』
「あ〜、青子ちゃん。蘭に似てるあの子だろ。覚えてるよ。」
『青子ちゃんとワタシ、同じ大学に通っててね。学部は違うけど、同じサークルに入ってるの。』
「ふ〜ん。お前のことだから、テニスサークルか?」
『まあね。・・で、その青子ちゃんなんだけど、元気がないの。話を聞いてみたら、かれこれ2ヶ月ちょっと黒羽君に連絡してないし練習も試合も見に行ってないって言ってて・・・。』
「・・・なるほどね。つまり、オレに快斗の様子を探ってチクれ、と。」
『そういうこと。流石、分かりが早いわね。』
「どういたしまして。」
『で、現状、どう?』
「ん〜、見た目は普通にしてるよ。でも何かにつけてネガティブ思考だな。それを忙しくして忘れようとしてるってカンジ。」
『やっぱ、青子ちゃんと連絡してないのが原因と見てよさそうなカンジ?』
「だろうな。」
『そっか。・・・ねえ。二人の連絡に、この番号使わせてもらったら・・ダメ?』
「はああああっ?!青子ちゃんにオレの番号を教えるってか?!あのなぁ〜。快斗に不倫疑われてシメられるのはゴメンだぜ?」
『バカ!なにも、アンタとの密会の手引きをしてるワケじゃないでしょうが!』
「分−ってるよ。・・・ま、いつまでも快斗の調子が出ないとチームとしても困るし。1回くらいならいいぜ。但し、園子からも蘭に断りを入れといてくれよな。それと、これは貸しな。高くつくぜ?!」
『ハイハイ。今度会った時、蘭にケーキバイキングをご馳走するってところでどう?』
「ん、了解。」
『じゃ、よろしく。』

園子との通話を切った新一は、ため息を一つ吐くと、難しい顔のまま前髪を掻き揚げた。


「・・・やれやれ。(どう切り出したもんかな・・・。)」

これがU−19代表なら、明るく入ってシメる時はシメられる・・例えば平次のようなキャラが居るのだが。今居るチームはA代表で、快斗と一番長い付き合いなのは新一なのである。

それに、新一の電番を青子に教えることを、蘭ならば了承するだろうが。
だからといって、青子が“はいそうですか、ありがとう、では早速”と電話してくる可能性は極めて低いというのが新一の本音だった。

「(ったく。だから、サッサと大事なモンはちゃんと確保しとけって言ってんだ#。)」

渋面を作った新一は、忌々しそうに頭をガシガシと掻くと、浮かない顔で皿を突く快斗の様子を見やったのだった。



  ☆☆☆



園子から新一に電話が入って数日後。

本番前の想定試合の1試合目・開催国ドイツ戦が行われた。

この試合も、これまでの起用法と変わらず、新一・快斗ら若手4人はベンチスタートだった。
が、試合は世界ランク遥か格上で優勝候補の一角のドイツ相手に、欧州組の高天原がハットトリックの大活躍。
後半に追いつかれたものの良いスコアを残せたことで、予選突破に向けてミノール・ジャパンは順調な仕上がりを見せている、とマスコミは喜色満面で報道した。

スタメン・レギュラー陣の活躍で、新参者の新一・快斗やサブ組の隆祐・ヒデに出番など巡ろうはずもなかったが、それでも4人は、他のベンチメンバーと共に会場の芝の固さ・球の走り具合、スタメンの足元・プレーの様子等をつぶさに頭に刻み込んだのであった。



  ☆☆☆



「よ〜し、この調子で頑張るぞ!」
「次のマルタ戦もいくぞ!」

練習試合とはいえ、優勝候補の一角である開催国ドイツに好成績を収めたメンバーは、ごく一部の面子を除き、喜色を前面に出して食事を摂っていた。
しかし、そんなメンバーたちから離れたところに席をとっていた快斗は、フォークでつまらなそうに皿を突きつつ、時折ポケットから携帯を取り出しては睨みつけるように見つめ、仕舞っていた。
同じテーブルに着き、快斗の挙動不審な様子に気づいていた新一は、園子から連絡を受けて事情を察しているにも係わらず、知らん振りをして快斗に声をかけた。

「快斗。何やってんだ?お前。」
「(ギクッ)!し、新一?!な、何でもねえよっ!」
「ふ〜ん?さっきから携帯を睨みつけて開け閉めしてるヤツのどこが“なんでもねえ”なんだ?ここはドイツだぜ。お前が持ってるソレが国際電話OKなやつなら兎も角そうじゃねーんなら、電源入れてるだけムダだっつーの。」
「なっ、余計なお世話!これは国際電話もできるヤツだよッ!」
「へ〜、国際電話もできるヤツ、ね。ってことは、青子ちゃんとの連絡用ってことか。お熱いこって。」
「///!お前に言われたくねえっ!毎日毎日ラブラブコールが貰えてるお前になんか・・っ!」
「・・・青子ちゃんから音沙汰なくなって、そろそろ3ヶ月目ってところか。園子が言ってたコト、本当の話だったんだ。」
「///#!新一っ、な、何でそのことをっ!」
「ドイツに着いて少しした頃に、園子から連絡貰ったんだよ。青子ちゃんの様子がオカシイから、快斗と何かあったんじゃねえか、探ってくれってな。」
「〜〜〜で#?」
「青子ちゃんの状況についてオレは、詳しい話を聞いてねえよ。ま、園子なら何か聞きだしてるんだろうけどな。」
「〜〜〜何で青子のことで、園子ちゃんからお前に連絡が入るんだよ#!」
「別に。アイツとオレはイトコ同士だし、アイツ、オレならアゴで使えるって思ってるみてーだかんな。それにアイツは蘭のダチだから、蘭からオレの電番聞き出すくらいわけねぇ、そんだけのことだよ。アイツがお前の連絡先を知ってたら、んな回りくどいことなんかしねーで直で掛けてきてるよ。絶対な。」
「・・・。」
「ホレ。これ、園子のメアドと直通の電番。青子ちゃんの様子、知りたいんだろ?電話すんなら、時差だけは気をつけろよ。ドイツ時間に8時間足したら日本時間になっから。」
「///!新一。」
「いつまでも携帯睨みつけてんじゃねーぞ。じゃな。」
「・・・サンキュ。」

後ろ手に手を振って部屋へと向かった新一の背を見送った快斗は、新一に握らされたメモ紙をみつめると、携帯を取り直した。
いつの間にかこんがらかった青子への道筋を解きほぐすために。



  ☆☆☆



「やだ・・・。黒羽君も国際通話可能な携帯持ってたの?!」

新一が快斗に園子の連絡先を教えた数時間後。
園子は、日本時間午前6時という早朝に快斗からの電話を貰い、驚きの声をあげた。

眠気を一気に吹き飛ばす意外な人物からの連絡に、“早朝から誰よ#”という怒りは吹きとび。殊勝な口ぶりで園子の連絡先を知った経緯を説明し、言いづらそうにしながらも本題に入った快斗の声色から心境を見切った園子は、手身近に、でも快斗を責めることなく淡々とした口調で青子の近況報告をし、電話を切った。その後、アゴに手をあてて何事か考える風にした園子は、手にしたままの携帯からとある人物にメールを送ると、満足そうに微笑んで、朝食を摂りに部屋を出たのであった。



  ☆☆☆



「園子ちゃん、お待たせ。」
「ううん、私も今来たトコ。」

昼食時間。大学構内のカフェテリアに青子を呼び出した園子は、単刀直入に話を切り出した。

「青子ちゃん、ゴメン。余計なお世話かもしれないんだけど・・・私、新一君に黒羽君の様子を聞いちゃったんだ。」
「えっ?!どうやって?!」
「アヤツね、蘭が居ないとす〜ぐヘタレになるからね。声だけでも繋がってたいからってホットラインを用意してんのよ。“結婚前からず〜っと”ね。」
「へ、へ〜っ///。」
「で、今回も例に漏れずで国際電話可能なヤツを用意してたってワケ。そこにお邪魔したのよ。」
「そ、そうなんだ///。」
「その時は知らなかったもんだから、新一君の回線を青子ちゃんと黒羽君の連絡用に使わせてくれないか〜なんて頼んでみたんだけど。」
「ええっ?!そ、そんなの悪いよっ///!」
「ウン。新一君も、流石にそれは不味いんじゃないかって言ってたわ。でもまあ、緊急避難・保険ってことで許してくれたけど。」
「・・・。」
「でも、その必要、なくなっちゃったのよね。黒羽君も国際電話可能な携帯を持ってるって分かったから。」
「!ど、どうして?!」
「今朝、新一君から私の電番を教えてもらったって電話が来たの。黒羽君もドイツに国際電話対応の携帯を持って行ったんですって。これがその番号とメアドよ。出発前、青子ちゃんの携帯にもこのことをメールしたそうなんだけど、待っても連絡が来ないから・・・改めて私から青子ちゃんに渡してくれって頼まれちゃった。」
「・・・。」
「余計なお世話だろうけど、その時、青子ちゃんが連絡入れないワケを喋っちゃったんだ。青子ちゃんの気持ちを知って・・・黒羽君、ショックを受けてたよ。」
「!」
「黒羽君。青子ちゃんから連絡がもらえなくって、凄く落ち込んでた。前に新一君に連絡を取った時、言ってたんだ。“快斗のヤツ。このままじゃ、ドイツに行ったのに出番なしで引き上げになりそうなぐらいに凹んでる”って。それがワタシにもマジホントだって思えるくらいにね。」
「///!」
「私も彼氏がプロサッカー選手で、凄い人気あるからサ。少しは青子ちゃんの気持ちが分かるんだ。黒羽君の気持ちも。なんとなく、だけどね。余計なお節介かもだけど。」
「・・・。」
「この前、恵子ちゃんが言ってたけどサ。“ファンはファン、彼女は彼女”だよ?蘭は新一君のオンリーワン。私は真さんのオンリーワン。黒羽君のオンリーワンは・・青子ちゃんなんだよ?」
「そんなこと・・。」
「あるの!い〜い?!“黒羽君が柄にもないヘタレっぷりで始末に終えない、このままじゃ本番戦えない”って新一君やチームの皆が困ってるんだって!彼がヘタレたプレーして日本中、否、世界中から笑いものになっても青子ちゃんはいいの?!平気なの?!」
「そ、そんなことないっ///!・・・ないよ。」
「だったら、俯いてないで、ちゃんと黒羽君と向き合おうよ。黒羽君のフェミニストぶりがイヤなら、ヤキモチ妬いてるなら、それを言っちゃえばいいのよ!このまま自分の気持ちにも、黒羽君にも向き合わないままでいて、ホントに黒羽君の心が他所に行っちゃったらイヤでしょう?!」
「///!」
「黒羽君は、ちゃんと、青子ちゃんが好きだって言ったんでしょう?!青子ちゃんも、黒羽君が好きだって言ったんでしょう?!」
「う・・・。あ、青子は言って・・ない///。」
「!じゃ、どうして両思いって分かったの?!」
「・・・か、快斗が告白してくれた時、青子は、“青子も・・”って頷くだけで精一杯だったんだもん///。」
「!・・それよ、それだわっ!“自分も好き”って言い切ってないから自信が出ないのよ!青子ちゃんの不安の原因もそれなのよ!」
「!・・・・・そうなのかな。」
「そうよ、絶対。」
「・・・。」
「多分、黒羽君も不安なんだよ。だから今ドイツでヘタレてるんだと思う。」
「(・・・快斗。)」
「黒羽君のこと、好きなんでしょ?大事なんでしょ?」
「うん。」
「だったら、これ以上好きな人を不安にさせちゃダメだよ。好きだってちゃんと言って、他の女に余計な愛想を振らないでって言わなくちゃ。ただでさえオトコは女心が分からないドンカンな生き物なんだからね。」
「園子ちゃん・・・。(プッ)それって、園子ちゃんの経験談?」
「う///。私の、でもあり。蘭の、でもあるわよ。」
「蘭ちゃんの?!ってことは・・・あの工藤君でさえ、ドンカンなの?!」
「そうよぉ〜。蘭がらみだと途端に頭の回転がトチ狂うのよぉ〜。ま、新一君の場合、その方が見てて楽しいからいいんだけどね♪」
「園子ちゃん・・・。(クスクス)それ、工藤君が聞いたら怒るんじゃない?」
「平気平気。(私がこう言うのは)いつものことだから♪」

そのまま二人思いっきり笑いあって。ひとしきりそうしたところで、青子は園子が示した快斗の国際電話の電番とメアドが書かれたメモを改めて見つめた。

「・・・ありがと、園子ちゃん。それに工藤君にも蘭ちゃんにも、お世話掛けちゃったね。」
「どういたしまして。お礼は、WCが終わって黒羽君が帰ってきて、二人揃ったところで貰うから。」
「うわ。高い?」
「ん〜。○○堂のケーキバイキングあたりで手を打とうかな?それでチャラね♪」
「(クスッ)分かった。・・・・じゃ、青子行くね?ありがとっ!」

笑顔で手を振る青子に、同じく笑顔で手を振り替えした園子は、大きく伸びをすると席を立った。

「さ〜て。蘭と新一君にお礼のメールでも打つとすっか。それにしても。園子様にここまでさせたんだから。これでヘタレたプレーしたら、ケーキバイキングだけじゃあ許さないわよ、黒羽君?!」

この後数時間〜遅くとも一日のうちにドイツと日本の距離を越えたラブラブな会話がなされるという確信を抱きながら。



  ☆☆☆



日本時間午後1時=ドイツ時間午前5時。



園子にドイツ時間の午後10時に連絡を入れた快斗は、まさに早朝と言える時間に携帯に起床用にセットしたアラームではなく着信音でたたき起こされた。

「うげっ?!誰だよ、こんな朝っぱらから・・・。」

同室のメンバーの睡眠を妨げてはマズイと慌てて電話を取った快斗は、起き抜けで足元をふらつかせつつも、なしうる限りで急いでバスルームに入ると、通話ボタンを押した。



そして・・・。



「・・・青子?!」

ようやく一番聞きたかった声を耳にすることができたのであった。


その後。

快斗が園子から聞いた青子の本音に対して思ったことを、拗ねた口調でグチり。
青子がソレに対して謝って。
きちんと“好き”だっていうキモチを言葉にして。
予想外の展開に舞い上がった快斗が、真っ赤な顔になり。
青子を不安にさせないよう努力すると誓って。
それからは、3ヶ月の音信不通を埋めるように、時が経つのも忘れて語り合って。

「黒羽〜。いつまでトイレに篭ってるんだ?ずいぶん長い○○○だな。」

と、同室のメンバーに大真面目な顔と声でドアをノックされて言われるまでのおおよそ1時間半弱。快斗はバスルームに篭りきったのであった。



  ☆☆☆



「おっはよっ、新一っ♪」
「・・・おっす。」

その後。慌ててバスルームから出て身支度を整え、朝食に向かった快斗は、前日までの凹みぶりから一転、誰もが認めるハイテンションで席に着いた。

だが。

自らのテンションの高さに呆れてしばし足を止めたために遅れて席に着いた新一が、快斗と同室のメンバーから早朝快斗がバスルームに篭っていたことを聞かされ。

「快斗。お前と同室の●●さんから聞いたんだけど。朝っぱらからトイレにお篭りだったんだってな。何度ノックしてもなかなか出てこなかったって聞いてるけど、随分とマァ大きな○○○だったんだなぁ〜♪」
「なっ?!○○・・って、ちっ、違っ///!」
「冗談だよ。8時間後の国からいい知らせが来たんだろ?・・・分かりやすいヤツ。」
「///!」

愛妻とのホットラインを(園子に)一時的に邪魔された新一が事情を察し、早速ネタにしたのは言うまでもない。

ともあれ。青子の声を聞いて浮上した快斗は、その日の練習から人が変わったように精彩を放ち始め、チームの仲間たちを安堵させた。



・・・が。

それがすぐさま“スタメン起用”に繋がることはなかった。

快斗や隆祐・ヒデ、そして新一ら、次世代のメンバーに光が当たる機会は、なかなか巡ってこなかったのである。



to be countinued…….





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