レジスタ!




By 泉智様



(22)



快斗が園子の仲介で青子との仲を修復してから数日後。本番想定試合の2試合目・マルタ戦が行われた。
1試合目のドイツ戦でいい感じでイケた為に、世界ランクで格下相手のこの試合は、日本の圧勝だとマスコミは楽観していた・・・のだが。

なんと結果は、文字通りの大敗に終わった。

スタメンは俗に言うところのレギュラー組。ドイツ戦でいい感じで勝利して波に乗ってるかと思いきや、何がどうしたのか?!というくらいに動きは別人のように鈍く、相手に押されまくっていた。しかも交代は後手後手に回った上に、交代すらも焼け石に水の状態だった。

この展開に、サポーターもマスコミも、代表選考試合で結果を出したが故に呼ばれた筈の新一や快斗なら流れを変えてくれるはず!と、二人の交代出場を期待したのだが。

ミノール監督の視線が二人に向けられる事も声が掛けられる事も一切合財無かったのであった。


「なんでこうなるんだ?!」
「ドイツには引き分けたじゃないか。あれはマグレだったのか?!」

強豪相手に目を剥くほどにいい試合をするかと思えば。楽勝と(マスコミ等、周囲が勝手に)見込んでいる相手に大敗してしまう代表の有様に、途端に手のひらを返したように、本番での結果を不安視するようになった。



  ☆☆☆



それから更に数日後。本番想定最終試合の3戦目・ボスニア戦が行われた。

世界ランクは日本より若干格上。実際の相手と実力伯仲。・・・と、想定相手としては最高の選択。

本番で大事な第2戦を戦う相手をイメージし、ドロー以上を狙っていつものメンバーで試合に臨んだ代表だったが。ドローどころか、大量失点こそ免れたものの、またしてもコテンパンにされたのであった。


「どうして固定メンバーに固執するんだ?!」
「もっと調子がイイやつだっていそうなもんだろうに!」

本番直前の想定試合の結果が、当初の予想をはるかに下回る戦績(2敗1分)に終わったことで、代表の実力を不安視する声が更に高まる一方で。

【大丈夫、大丈夫、きっとやってくれますよ!】

とワケのわからない根拠で不安を覆い隠そうとする報道がマスコミを席巻した。

それと同時に、鮮烈なA代表デビューを飾ってドイツ行きの切符を手にした新一・快斗をいまだ起用しないことへの、一部サポーターやマスコミの中に居るディープなサッカーファンの不満の声は、強引に下火にさせられたのであった。

「・・・茶番だな。」
「ホ〜ント。やってらんねー。」
「工藤や黒羽を何で使わねえんだよォ。あいつら、凄っげー足速いし、若手なのにタフだっつーのに。」
「なぁ?ワケ分かんねー。」
「TVじゃベスト8が狙えるだのどうこうって言ってるけどサ。本番前にコレじゃあ、案外3戦全敗もありえたりして?」
「うげ。それ、笑えねーぞ。」
「・・・ま、監督の気が変わることを願うしかねぇってか?」
「あ〜。ビミョーだな、神頼みってさ。」
「それって“神=監督”?それとも“=工藤と黒羽”?」
「ハハハ。」

街角の一部サポーターの間でそんな自虐的な話が交わされるのとは対照的に、報道は街角ボヤキとは間逆の当に大本営発表ヨロシイ状況で、本番までのカウントダウンが始まっていた。


そんな日本国内での報道の現状を、蘭も青子もわざわざ新一や快斗に伝えることはなかったが。
二人が属するサブ組の面々は、取材陣の顔色にメディアの本音を察し。
顔色を変えることなく、練習をこなしていった。



   ☆☆☆



「は〜。とうとう開幕か〜。」
「開催国ドイツと南米のエクアドル、サッカーの母国イングランドが勝利。勝ち点3か。順当な滑り出しだな。」

本番前の練習試合で、格下の日本にまさかのドローで気合が入ったのか。開催国のドイツはキッチリ修正すべきはして、見事開幕戦を当然の如く勝利で飾った。

ドイツとは異なる組に配された“サッカーの母国”イングランドも前評判どおりの勝利を収め、順調なスタートを切った。

「俺たちも、頑張らないとな。」
「そうだな。」

本番直前の練習試合で連敗を喫して意気消沈気味だった面々だったが、優勝候補の順当な滑り出しに気を取り直して引き締めあい。初戦での勝利を誓い合ったのであった。



   ☆☆☆



それから数日後。日本は本番初戦を迎えた。

ドイツ時間・午後3時(日本時間・午後11時)。対・オーストラリア戦。
日本からもかなりのサポーターが駆けつけてスタンドを埋め尽くす中、キックオフの笛が響いた。

この試合に勝利し勝ち点3を取る事が、2大会連続で決勝トーナメントに進出するためには最重要条件。
想定試合の内容はあくまで練習試合。それが今日の勝利の糧になれば問題なし。世界ランクは日本が上。九分九厘、日本の勝利だろうという予想で、サポーターもマスコミも、試合に臨んだ。

試合は日本ペースで進みながらも、なかなかチャンスをモノにできず。それでも前半終了間際に日本が先制した。

【前半43分。日本、先制〜っ!1−0!前半、攻めに攻めていた日本ですが。やっと1点をもぎとりました〜っ!】

この時点での世界ランキングは日本が上位ということもあり、日本が先取点を取った事もあって、日本の解説者も応援するメディアもサポーターたちも、日本の勝利を確信しきっていた。

だが。

その目論見は、後半、一挙に崩れさることとなった。

【ああ〜っ!後半23分、オーストラリア、1点を返しました。1−1!試合が振り出しに戻った!】
【・・でも、まだ時間は十分あります!切り替えて日本には点を取りにいってほしいですね!】


同点に追いつかれ、ショックが疲労感に追い討ちをかけたのか。後半途中から疲れが見えていた日本選手の足が、完全に止まってしまったのである。

【またもオーストラリアボールに変わった!日本、防戦一方!楢原・元宮らの必死のディフェンスで耐えています・・・っ!ああ〜っ!オーストラリアが先に追加点を上げた!後半35分、1−2!一点ビハインドに変わってしまいました!】

それでもピッチでは、指令塔のトシが中盤で孤軍奮闘していたが。元宮・楢原を中心とするディフェンス陣の疲労は色濃く、他のMFやFWはバテバテでどうしようもなくなっていた。

【ん?ミノール監督、選手交代するようです。後半37分。FW・高天原に代えて・・・MFの中野を投入(?!)するようです。】

「?!」

この交代劇には、解説者や現地あるいはTV前で観戦をしていたサポーターも、意図が読めず首をかしげ。当の中野も波に乗りきれないまま、無常に時間だけが過ぎ去っていった。

【ああ〜っ、後半40分、オーストラリアに更なる追加点!1−3!】

しかも、選手交代をした直後に更なる追加点が奪われてしまって点差は2に広がり。
試合終了間際にはダメ押しの4点目が入って点差は3になってしまったのであった。

【ああ〜っ、ここでタイムアップ!1−4、1−4で日本は痛い1敗を喫しました!これで日本は、4日後のクロアチア戦で何が何でも勝ち点3を取らなくてはならなくなりました!・・・本日の夜、クロアチアVSブラジルの試合が行われます・・・が、日本、決勝トーナメント進出に向け、かなり厳しいスタートとなりました!】





この敗戦を受け、日本のTVでは


【勝てる試合を落としましたね。チャンスは何度かあったんですが・・。】
【後半途中まではイイカンジだったんですが・・。完全に力負けしてしまいましたね。】
【ランクは日本が上だったし、後半途中まではイイカンジだったんですが・・・。後半途中から・・・ベンチワークの勝負が完全に負けていたように思います。ホント、完敗ですね。悔しいです。】


と意気消沈した様子のアナウンサーに、高天原に代えて中野を投入した監督の采配に若干苦言を呈するマスコミ関係者のコメントが加った。

しかしそれでは予選残り2試合、気分が盛り下がると見てか。

4日後に行われる次の試合への期待に切り替えて、ムリヤリ盛り上げる風にして特番を終えたのであった。



   ☆☆☆



「んも〜っ#!何で新一君や比護さんたちを使わないのよ〜っ###!」
『アハハ、それ、和葉ちゃんも言ってたよ。』
「当たり前じゃないっ!蘭はハラ立たないの?!」
『腹は立たないけど・・じれったいな〜とは思う。でも、一番じれったいのは新一だろうしね。兎に角、目一杯応援するって決めたんだ。』
「・・・優しいわねぇ〜。で、ダンナは元気?」
『ウン。8時間の時差だから、最初は朝と夜の挨拶が逆転しちゃってるのが不思議な気分だったな〜。こっちの朝の時間に合わせて、新一が掛けてくれて。新一の朝に合わせてワタシが掛けてるの。最初は国際電話の携帯なんてわざわざって思ったけど、やっぱ、あると使っちゃうねv。』
「ハイハイ、ご馳走様。」
『どういたしまして。でも、園子だってそのうちこのテの電話を持ち合うようになるかもよ?京極さんだってこの大会が終われば、遠からずA代表に選ばれるんだろうしね。』
「あ〜、そっかぁ〜。」
『うふふっ。』



  ☆☆☆



日本VSオーストラリア戦の翌朝。睡眠不足にも係わらずハイテンションな園子に苦笑しつつ、蘭はダイニングテーブルの上に置いたスポーツ紙の紙面を眺めていた。

東京に住んでいたころとは違い。大阪では、スポーツ紙の一面TOPは“年中何が何でも必ずジャガーズ関連の記事”なのだが。それでも一面の隅に掲載されているページ紹介欄には、時事的なモノだからか、2・3面見開きでサッカーWC特集が組まれている旨が示されていた。
ビッグ大阪からは新一と隆祐が選出されているためか、ベンチに控える二人の写真がデカデカと載せられ。

【比護・工藤、ガマンのベンチ生活。ビッグ大阪、否、日本最大の得点源コンビが火を噴く機会は巡ってくるのか?!硬直している監督の采配に、サポーターから疑問の声、激しく】

と、一面に負けず劣らずの大文字&カラー&大写真で、記事が展開され。

【想定外の敗戦・・・否・・・ベンチワークの敗戦】

という見出して、呆然自失する現地まで飛んだサポーターの姿を捉えた写真が掲載されていた。

「・・・しっかり、新一。」

蘭は、細い指で紙面の新一の写真をなぞりながら、遠く西の空の下にいる夫・新一を想うのであった。



   ☆☆☆



代表に向けるマスコミとサポーターの視線が期待と諦めと切望とが入り混じったものになっていく中。それでも戦うしかない面々は、予選第2試合目のクロアチア戦に向けてキモチを切り替え、練習に励んでいた。

が、しかし。現実は日本代表に更なる試練を課したのであった。

「何?大村が高熱(40℃)を出して倒れただと?!」
「疲れが溜まっていたようで、数日前から風邪気味だったそうです。今、点滴を打って安静にさせてますが、明日の試合は・・・。」

幸い、他のメンバーに体調不良の兆しは見えなかったが。スタメン組トップ下の日本のエースが倒れたという事実は、メンバーに動揺を与えた。

「監督、どうなされますか?」
「・・・明朝の診断結果を待つ。それでムリだと分かったら、代役を立てるまでのことだ。」
「分かりました。」

この事情はすぐにマスコミの知るところとなり。サポーターでなくても、予選突破に向けて黄信号→赤信号に変わったと思わずにはいられなかった。

「ヒデ、準備はしておけよ。」
「頼むな。」
「分かりました。元宮さん、トシさん。」

大村の代役−1の役目をあてがわれているヒデは、中盤の司令塔のトシ、ディフェンスの要でキャプテンの元宮に声をかけられ。いつも以上に入念に練習に取り組むこととなった。

そして迎えた翌朝。

「38.5℃。・・・下がりきらなかったか。」
「残念ですが、仕方がありませんね。」
「・・・すみません。」
「今は治す事に専念するんだ。まだブラジル戦が残っている。お前の力が必要なんだ。」
「・・・はい。」

ベッドに力なく横たわって無念の悔し涙を流す大村に慰めと激励を与えたミノールは、朝の練習でヒデにスタメンで行くと告げたのであった。





そして数時間後。

予選1試合目と同じ時間に、予選2試合目となる、対クロアチア戦が始まった。

この試合は、惜敗したとはいえ、実力が近似値のボスニアを想定相手にしておいたことが効を奏したのか。それとも急病で欠場の大村の分も頑張らなくては、とレギュラー陣の士気が上がったのか。若干押されぎみながらも耐えて走って決定的な場面を与えず、前半を0−0で持ちこたえ、折り返した。

後半は、1戦目で交代のタイミングを誤った反省からか、ミノール監督にしては早めかつ適切な手を打ったことで、先制点を得。同点に追いつかれるも、そのまま持ちこたえさせて、1−1で試合終了。なんとか面目を保つ勝ち点1を守りきることができたのであった。

「ふ〜っ、なんとか最終・ブラジル戦に望みを繋げたか・・・。」
「そうだな。」
「・・・。」

予選突破に必要な勝ち点3は得られなかった日本は、2試合終了した時点で、対戦済みのクロアチアと並ぶ勝ち点1で3位だった。
ちなみに日本が属する予選F組の順位は、1位ブラジル・勝ち点6、2位オーストラリア・勝ち点3。
下馬評では2位予想だったクロアチアを抑えてオーストラリアがそこにつけているという現実に、日本のサポーターの間には、既に“無念”の空気が広がっていた。


世界一のサッカー王国ブラジルが予選最後の相手。

普通に考えれば、大人と子どもの戦い・・・というのが衆目の一致するところなのだから。

2連勝したブラジルが、手を抜いてくれるなんてことがあれば・・・などという「ありえねー!」切望がナニゲに冗談めいてOAされるほどに、「日本の予選突破はもうムリ」というのがマスコミの言えない本音なのが、ミエミエになっていた。

そして、そんな空気は、ドイツで合宿中の代表チームの中にも蔓延していた。

「最後はブラジルだろ?勝てる相手じゃねーよ。」
「今の俺たちじゃ、ここまでか。」

ダルムードが蔓延し、諦めの気分がほとんどの選手たちを覆い。

それでも諦めずにJビレッジの頃からずっと走りこむのは、トシと新一ら若手4人。途中から元宮も加わって、でも合計6人だけ。

ドイツに来てそこに加わったのは、国内外のサブ組数人だけだった。

「・・・。」

選手たちの多くに蔓延するダルムードに、流石にミノール監督が怒り心頭し、宿舎のホテルの広い一室を急遽借りて全員を集め、雷を落としたのだが。

どれほど頑張っても、報われない(使われない)

という意識が深く植え込まれたサブ組の大半の心と、サブ組のみならずスタメン組にもある“王者ブラジルという看板に腰が引ける気持ち”は、たった1回の檄では変えることはできなかったのであった。



   ☆☆☆



「なんと、ナサケナイ。戦う前から諦めている・・・これで彼らはプロフェッショナルと言うのか?!」

雷を落としても何も帰ってこない無念さに歯噛みしたミノールは、落胆するキモチを抱えたまま、翌朝、いつもより早めに練習場に向かおうと早めに朝食会場のレストランに向かい、そこで目を瞠ることとなった。

「!・・・あれは!」

ホテルの目の前の広場にトシと新一ら若手4人、そして長くベンチを暖めている内外のベテランサブ組、合計7人が黙々と自主的に朝錬をしているのを見たからである。

一瞬、ミノールは“昨日の激が効いたのか?”と思いかけたが。
それはミノールに付き合って早めに朝食に来ていた通訳によってすぐさま打ち消された。


「ああ、トシと工藤たちですね。今日も張り切ってますよね。」
「あ?!・・ああ。」
「Jビレッジからずっと続けてますもんねェ、トシと工藤たち若手4人組は。ドイツ入り直前から元宮がそこに加わるようになって。オーストラリアに負けてからは、中野や稲田が加わって。・・・まだまだ諦めてませんよ、彼らは。」
「・・・そうだな。」

通訳は前々から気づいていた。
が、自分はこの日になるまで気づかなかった。

否、“見て”いなかった。

努力しても起用に結びつかない環境で、逆境にも諦めないでいる彼らの姿に。


そして。

リーダー格のトシや元宮に甘えて厳しいコーチングをせず。
怪我がちだからとサブ組にまわした中野にチャンスを与えず。
所属チームでのベンチ生活の長さに試合勘が薄いと分かっていて召集した稲田をベンチ漬けにし。
比護・赤木・工藤・黒羽ら若手の得点力・攻撃力・話題性を利用して、状態が不安定なチームへのバッシングをかわす見世物にした。

そんな自分こそがプロフェッショナルを率いる監督の責務を果たしていなかったことを。



   ☆☆☆



「えっ?!」
「以上が、今日のスタメンだ。」
「ええっ?!」

予選3試合目・ブラジル戦・本番前。発表されたスタメンに、チームも取材に訪れていたマスコミもどよめいた。

オーストラリア戦・クロアチア戦までとは異なり、此処に来て、メンバーを大幅に刷新したからである。

WC本番になった途端、調子が落ちた高天原、ここまで結果が出ていない一柳を下げ。

発熱で体力が戻っていない大村を外し。
ここまでベンチ生活だったメンバーを出す、しかも若手中心の構成に変わったことが明らかな布陣。

ミノール監督が“動いた”という驚愕は、試合開始前の入場シーンが映し出されてそれが本当だと視認できるまで、マスコミや詰め掛けたサポーターの間に広がった。

【泣いても笑っても、これが予選最後の試合となりました。王者ブラジルとの一戦。ミノール監督は、此処に来て急遽大幅にメンバーを入れ替えてきました。本日のスタメンは、およそ半分がサブ組としてこれまでベンチを暖めてきたメンバーです。中でも最・注目は工藤と黒羽がスタメンに起用されているということでしょう。中盤の底の工藤から黒羽を経由してヒデあるいは比護に、というライン。国内組最強の得点力を誇る線が、ようやくピッチにそろえられた、というカンジがします。この若手の攻撃力が、王者ブラジル相手にどこまで通じるか。彼らにとっては、4年後に向けてのいい経験になりそうです。】

「ピーッ!」

【さあ、今、日本のキックオフで試合が始まりました。スタジアムは、見事にジャパンブルーとカナリアに分かれ、盛り上がっています。】

日本ないしはブラジルから遠路はるばる駆けつけたサポーターの前で、試合は序盤から盛り上がった。というのも、スロー・スターターなブラジルに、日本が速攻を仕掛け、早め早めに点を取ろうと積極的に向かっていったからである。

「よっしゃあ〜っ!気合負けしてないぜ!」
「いいぞ!これが見たかったんだ!イケイケ、日本っ!」

攻撃の多くは百戦錬磨のブラジルディフェンス陣に苦も無く跳ね返されてしまうのだが。それでも何度も積極的に寄せていったこともあってか、中盤の奥からタマ出しをしている新一や何度もウラを突こうと仕掛けている快斗・隆祐・ヒデなどは、早々に攻略の糸口を見つけることができた。

「よし、行くぞ!」
「おうっ!」

そして前半終了間際の40分ごろ。ようやくそれが日の目を見ることとなったのである。

これまでの時間。積極的にドリブルで切り込んでバックラインを押し上げ。トシ・快斗・笠原・稲田らとパスを回しあってチャンスを窺っていた新一は、クロスを上げようとしている自分の動きに連動し、真っ直ぐにゴールへ向かおうとする日本選手らにつこうと動くブラジルディフェンス陣のタテの動きに逆らって、真横に飛び出させる判断を誘うパスを放った。
それにあわせてヨコに飛び出た隆祐が、ディフェンス陣を完全に振り切ってフリーとなり、貴重な先制点をゲット!

【ゴ―――ル!前半41分。日本、先制―っ!王者ブラジルから貴重な1点をもぎ取りました!】

「きゃああああっ、やったあっ!」
「よっしゃあぁぁぁぁぁっ!」
「日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!」
「うおぉぉぉぉぉぉ〜っ!比護〜〜〜っ、サイコーッ!」

世界一のブラジル相手に先制点を取った感激がサポーターを襲い、日本のサポーターが陣取るスタンドは、歓喜のウエーブと大歓声に地鳴りを感じるほどの勢いで揺れた。
隆祐は、喜びのガッツポーズをして味方とサポーターにアピール。
日本イレブンは満面の笑みで抱きついて祝福した。

【日本、王者ブラジルから1点を先制!このまま逃げ切り、決勝トーナメントへと望みを繋げることができるでしょうか?!】

解説も大歓喜の声で期待をあらわにしたこの1点。
だが、当然ながらコトはそう簡単にはいかなかった。
この1点は“スロー・スターター”のブラジルの“本気”を呼び起こし。

そして。

4年後の中心となる新一や快斗の、今後のサッカー人生への分岐点となる試合となった。



試合は、まさに“この時、始まった”のである。



to be countinued…….





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