レジスタ!




By 泉智様



(23)



【ゴ―――ル!前半41分。日本、先制―っ!王者ブラジルから貴重な1点をもぎ取りました!】

「きゃああああっ、やったあっ!」
「よっしゃあぁぁぁぁぁっ!」
「日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!」
「うおぉぉぉぉぉぉ〜っ!比護〜〜〜っ、サイコーッ!」

世界一のブラジル相手に先制点を取った感激がサポーターを襲い、日本のサポーターが陣取るスタンドは、歓喜のウエーブと大歓声に地鳴りを感じるほどの勢いで揺れた。
隆祐は、喜びのガッツポーズをして味方とサポーターにアピール。
日本イレブンは満面の笑みで抱きついて祝福した。



そんな日本イレブンを見つめるブラジル代表の瞳に本気が宿ったことも気づかぬままに。



そのブラジルの“本気”は、前半終了間際に示された。


【ゴ―――ル!前半45分。ブラジル、同点に追いつきました!今大会、不調が囁かれていたエースが目覚めた!ディフェンスを振り切って完全にフリーな状態で完璧なシュート!1−1!流石、王者・ブラジル!前半のうちに試合を振り出しに戻しました!】

「ああ〜っ!」
「きゃああああっ!そんなぁ〜〜〜っ!」

日本のサポーターが陣取るスタンドから絶望の悲鳴がこだまする中、1分ほどしかなかったロスタイムはすぐさま過ぎ去り。日本VSブラジルの試合は前半を1−1で折り返した。



   ☆☆☆



「あっという間に同点か。」
「流石、ブラジルだな。簡単にはいかせないってか。」

先制点の歓喜も一瞬のこと。余韻に浸る間もないままに同点に追いつかれ、試合を振り出しに戻されたことで、イレブンの一部には諦めの声をあげる者も居た。

だが。

「流石、ブラジルだよな〜。簡単には勝たせてくれねえなぁ。」
「ったりめぇだ。そうじゃなきゃ“王者”じゃねえっつーの。」
「後半はマジ本気だしてくるだろうな〜。」
「だな。ま、こっちもマジ全開でいくけどな。」
「いやはや、楽しみ楽しみ♪」
「だな♪」
「それにしてもサ、あのタマ出しは効いたよなぁ〜。後半もそのへんは突けるんじゃない?」
「そうだな。あと・・サイド攻撃を徹底して。後ろからもっと押し上げてプレッシャーをかけ続けねーと。・・・どうでしょう、トシさん。元宮さん。」
「そうだな。比護(リュウ)とヒデは・・・で、笠原(カサ)と快斗(カイ)がこう・・・で、オレがこういって、工藤(シン)と稲田(イナ)は・・・」
「梶尾とアレクの上がるタイミングは・・・そん時シンとイナは・・・で、坪田とオレはこう・・・」



〜議論白熱中〜



「よし、後半も攻めて攻めて攻めまくるぞ!」
「足、止めんなよ!」
「無用のスペースを作らないように!フォローしあっていくぞ!」
「オウ!」

といった風に。

一番の“新人”の新一と快斗が諦めるどころか、ケロリとした顔でブラジルの力量を称え。
しかも顔を見合わせて楽しそうに笑って、リーダーのトシと元宮を巻き込んで作戦を立てているものだから。
弱音を吐いている自分が恥ずかしくなってしまうと同時に、二人の新人らしからぬ負けん気・度胸・視野とに対する空恐ろしさを禁じえなかったのだった。

そのへんは、様子をそんなロッカールームの様子を見ていたミノールも同様で。

「(この二人はなんと強い心臓の持ち主なんだ。初のA代表、しかも初のWCの舞台だというのに!)」

(自分が起用しなかったというイミでの)逆境に屈しないばかりか、大舞台にも臆しない度胸の持ち主。しかもまだ19歳という若手でありながら、イレブンの他の誰よりも堂々として見える現実に、二人が“とんだ拾い物”かもしれないと背筋が震える思いをしていた。

そして、その思いは、後半益々強まることとなった。



   ☆☆☆



【両チーム、出てまいりました。日本、この試合に勝たなくては後がありません。泣いても笑っても、これが最終試合。間もなく後半が始まります。後半のメンバー、両チームともに変更はありません。ここまで予選2試合を消化して無失点できたブラジルに始めて土をつけたのは、我等が日本でした。が、1点リードもすぐさま追いつかれ、1−1の同点で後半を迎えます。ミノール・ジャパン。今日がドイツでの最後の試合となるか?!後半、間もなくキックオフです。】



試合は、ドイツ時間午後8時台、日本時間午前3時台開始のモノだった。前半45分+ハーフタイム15分を過ぎて、時計は午前5時前。

日本各地の各家庭あるいはスタジアムを開放してライブビジョン観戦している面々は、未明からの試合を目を血走らせながら見入り、現地に詰めかけたサポーターと共に応援の声援を送っていた。



「工藤−っ、黒羽−っ!頼むぞーっ!」
「日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!」
「日本〜♪日本〜♪日本〜♪日本〜♪オレタチの日本〜♪」
「日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!」
「うおぉぉぉぉぉ〜っ日本!うおぉぉぉぉぉ〜っ日本!」
「日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!」


わが想い、ドイツに届け!・・・とばかりに。



   ☆☆☆



そして、そんな想いで見つめる瞳は、彼ないし夫を代表に送り出している身内も例外ではなかった。

「よっしゃぁ〜っ、後半も頼むで。工藤君っ!」
「そうよっ!蘭も応援してんだかんねっ!気合入れていきなさいよぉっ!」

蘭を一人で観戦させては淋しかろうと試合開催日は泊りに来る和葉と。この試合に新一が出るらしいという情報を掴んで急遽大阪に飛んできた園子を迎えた、大阪の工藤家(マンション)のリビングは、スタジアムほどの大声は出ていないが、気合・雰囲気だけはスタジアムにも現地にも負けていなかったのだから。



   ☆☆☆



【今、後半のキックオフ。両チームともにメンバーの変更はありません。・・・!後半開始早々、ブラジルの素早い攻撃!ですが、日本も負けていません!早め早めにチェックに入る。・・・タッチに逃れました!】

「気を引き締めて行け!」
「点を遣るなよ!」

サッカーで点の入りやすい時間帯・・・試合の立ち上がり5分と終わりがけ5分・・・に点を取られ、出鼻をくじかれるわけにはいかない、と攻められている日本側は、気を引き締めて掛かった。

「負けて帰れるか!」
「失うものは無いんだ!」

新一と快斗は、王者の胸を借りるつもりで全力でぶつかっていった。

『!・・こいつ!』
『?!・・・このっ!』

日本は、立ち上がり間際に失点・・・とはならなかったが。後半10分とたたないうちに、ブラジルに先行された。

『そうこなくっちゃ、面白くねえっ!』

【工藤、Kからのパスを読んでカット!ものすごいスピードで駆け上がる!トシ、笠原とワンタッチで早いパスワーク!工藤、戻ってきたボールを中に入れた!

しかし、その都度、新一が起点となる球出しをし。

【おおおっ!本家のお株を奪う素晴らしいテクニック!黒羽、マルセイユ・ターン(ボールの上に片足置いて中心軸にし、ディフェンスの間をターンして突破するワザ)でディフェンス二人を一挙に抜き去って・・シュート!】

快斗が大暴れに暴れまくってディフェンス陣を引っ掻き回した。

【工藤―トシと来て黒羽に渡る!黒羽、リフティングでマークを外し、振り向きざまシュート!】

時に自らゴールを奪い。

【黒羽、工藤からのクロスを流した!飛び込んできた比護、ノーマーク!】
【工藤―笠原また工藤。今度は工藤―トシー黒羽ときて、最後はヒデにわたった!】


あるいは時にお膳立てもして、突き放そうとするブラジルに喰らいついていった。

【日本、突き放そうとするブラジルを間髪いれずに追っていきます!ブラジル、なかなか日本をチギレません!ただ今後半30分が経過。両チーム共に疲れが見えますが、日本、予想外の、王者相手にガップリ四つの展開!4−4!大健闘中です!】

ブラジルディフェンス陣の要のRC、中盤の重戦車A、貴公子K、魔術師RD、期待の新人RB、エースR・・・日本でも人気の有名選手相手に大奮戦。

『!この・・っ!』
『!ヒューッ、やるねっ!』

【おおっ!工藤、Kに競り勝った!・・・RCを抜いたぞっ!“エラシコ(身体の軸はそのままに、上半身を左右に揺さぶって相手に進行方向を誤認させ、突破するワザ)”だっ!】
【おおっ!黒羽は本家のお株を奪う“ぺダラーダ(ボールを細かなステップで跨ぎながらボールキープして突破するワザ)”!日本、チャーンス!】


時には“本家本元”を目の前に“ワザ”を魅せて突破。

時間とともに執拗になるマークをものともせず、諦めることなく何度もゴールを脅かし、益々ブラジルの本気を煽った。

しかし。
刻一刻、時間が経過するとともに。

日本イレブンの中で、コツコツ時間外に地道にトレーニングを積み重ねて来た面子とそうでない面子の差が鮮明になってきた。

『!』
「ああっ!」

【ああっ!工藤が出したボールは・・・アレク、追いつかなかった!】
【ああ〜っ、RDがディフェンスを振り切った!日本、ゴール前のカバーが追いつかない!】


試合時間90分間、全力で縦横無尽に走れる選手と。65分(後半20分)ほどになってきたところから、足が止まって前にあるスペースめがけて走れない選手の差が、徐々にサポーターの目にも分かる形で明らかになってきたのである。後半30分を過ぎる頃には、それはもう隠しようもなくなっていたのであった。

『どうやら、日本の頑張りもココまでのようだね。』
『ああ。敵ながらあの双子のプレーは賞賛に値するが、それ以外の面子は、この舞台に立つにはまだまだ役者不足と言ってもよさそうだね。』
『そろそろ本気で“格の違い”を見せ付けるとするか?』
『オッケー♪』

そして、後半残り10分強となったところで、日本の選手個々の“体力差”によってもたらされたスペースが、一気にブラジルに侵食されたのであった。

【ああ〜っ、またも稲田とアレクの間にスペースが開いた!そこにすかさずブラジルが突っ込んでくる!工藤とトシが戻るが・・・おおっ!ギリギリ間に合った!だが、コーナーキックです。ブラジルのチャンスはまだ続きます!】

まだまだ負ける気はない新一ら数名と、もう付いていけない状況のそれ以外の選手。
ハッキリ運動量に明暗が分かれたことは、対するブラジルにとって漬け込むスキマがありまくりな状況になっていることに直結していた。

【ゴール!後半残り10分を切ったところでブラジル5点目!】

コーナーキックは、アッサリとブラジルがモノにし。

【ブラジル、5点目を取ったところで、選手交代です。FWの選手に変えて、DFの選手を投入してきました。どうやら守りを固める模様です。対する日本ベンチは、まだ動く様子がありません。

しかも、日本より先に、どんどん選手を変えていった。

【ああ〜っ、またしてもブラジル追加点!6−4!後半85分、一挙2点差になった!どうした日本!足が止まっているぞ!・・ブラジル、またも選手交代です。KとRDを下げました。】

ゆっくりと時間を稼ぐように交代選手と第4審が待つタッチライン際に向かったKとRDに、カナリア色に染まったスタンドから、大歓声と大拍手が贈られた。それににこやかな微笑みで応えるKとRDの姿に、誰もが試合の行く末を確信したのであった。

『ここまでか・・。』
『くそ・・っ!』

新一と快斗に引っ張られる格好でここまで善戦してきた日本代表の多くは、残り時間5分・2点ビハインドという絶望的状況に、試合を諦めていた。

しかし、それでも新一と快斗はまだ諦めてはいなかった。

『・・っハアッ、ハアッ。流石・・っハアッ、ブラジルだな。』
『・・っハアッ、ハアッ。・・だな。でも、オレ、何だか・・っハアッ、凄っげー楽しい。』
『・・っハアッ。オレも。こんな嬉しくて楽しい試合・・っハアッ、初めてだぜ。』
『・・っハアッ。・・・へへっv。あと5分少々でそれも終わっちまうのかと思うと・・っハアッ、何かモノ足りねえ・・っハアッ。』
『・・っハアッ。まだ5分、ちょっとあるんだ・・っハアッ。もうちょっと、冷や汗かかせて終わらせてやろうぜ・・っハアッ。』
『りっ・・っハアッ、了解・・っハアッ。』

経口で水分補給をして、頭からザブッと被って。

息を切らせながらも不敵な笑みを交し合った二人を、同じピッチに立つトシと元宮、ベンチからミノールが、同じ思いを抱いて見つめていた。

『(この二人は、まだ諦めてないのか?!)』

ミノールは、不敵な笑みを交し合った若手の二人が仲間に声を掛けに行く様子を目で追い、ピッチの様子を見直すと、自分の傍近くに座っていた選手に声を掛け、審判に申し出た。

『中野。出番だ。』
『えっ・・は、ハイッ!』
『審判、選手交代を申請します。アレクに変えて中野を。』

【日本ベンチ、動きました。後半87分。アレクに変えて中野を投入です。】

『中野さん!』
『工藤、黒羽。今日がこのWC最後の試合なんだ。思い切っていけ。オレがフォローする!』
『ハイッ!』
『トシ、元宮さん。こいつ等に行かせっから、あとはよろしくな。』
『中野・・。』
『OK。思いっきり行け!後ろは任せろ!』

【日本、後半残り3分というところで左SBのポジションに中野を投入してきました。最後に一矢報いるつもりでしょうか?!】

「よ〜っし、応援するぞ!」
「日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!」
「中野(拍手X3)!中野(拍手X3)!中野(拍手X3)!中野(拍手X3)!」
「日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!」
「工藤(拍手X3)!工藤(拍手X3)!工藤(拍手X3)!工藤(拍手X3)!」
「日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!」
「黒羽(拍手X3)!黒羽(拍手X3)!黒羽(拍手X3)!黒羽(拍手X3)!」
「日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!」

日本サポーターが陣取るスタンドからは、これが最後とばかりの大声援が送られ。ピッチに立つ選手たちの背中を押した。

【日本サポーター、最後の大声援!サポーターは諦めてません!そして選手も諦めていません!中野、工藤のフォローに入る!工藤、中野とワンツーの後、大きく逆サイドに振った!そこに笠原が待っている!笠原、素早くトシにはたく。トシ、ノールックで黒羽に渡す!】

「うおおおおおっ!」
「日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!日本(拍手X3)!」

【凄まじい大声援です!ここでロスタイム表示が出ました!ロスタイムは2分!2分です!十分一矢報える時間があります!・・・黒羽、ボールを必死にキープ!】

『快斗!』
『(新一!)』

【黒羽、ノールックで後ろから来た工藤にパス!工藤、そのままシュート!キーパーが弾いた!コーナーキックです!これが日本最後のチャンスか?!】

『工藤、オレに任せろ。』
『中野さん。お願いします。』

【キッカーは中野!時間はロスタイム残り1分を切りました!これが最後のチャンス!中野、蹴った!】

『よしっ!』

【ゴール前、大混戦!しかしキーパーが抑えた!ブラジルGKのRC、大きく蹴りだした・・・と、ああ〜っ、ここで試合終了の笛!6−4、6−4でブラジルが日本を下して決勝トーナメント進出!日本、勝ち点1で予選リーグ敗退です!】

「あああ〜っ。」

「きゃああああ〜っ、そんなあ〜っ。」

試合終了の笛と共に、日本のサポーターが陣取るスタンドからは絶望の悲鳴が上がり。ブラジルのサポーターが陣取るスタンドからは、歓喜の大歓声がこだました。

試合終了と共にピッチに崩れ落ちて項垂れる日本選手が多い中。新一と快斗は、腰に手を当てて大きく息を吐き出すも、涙を見せるどころか、スッキリとした表情で互いの肩を叩きあい、健闘を称えあっていた。
そんな二人に、ブラジルのベンチから飛び出して歓喜の輪に加わっていた選手が数人近づき、手を差し出して健闘を称えると、ユニフォームを脱いで、二人に差し出した。

『・・・。』

新一と快斗は互いに顔を見合わせると、笑顔でユニフォーム交換に応じ、交換相手と軽く抱き合って分かれた。そして、項垂れている選手たちに声をかけている元宮らの中に混じると、最後まで応援してくれた日本サポーターに挨拶をし、ロッカールームに引き上げていったのであった。

『は〜っ。まだ全然及ばなかったなぁ〜。やっぱブラジルは強いや。』
『だな。・・・でも、凄っげー楽しい試合だった。今日使ってもらえて、世界一のレベルを体感できて、凄っげー嬉しい。負けたのは悔しいんだけど、でもそれだけじゃないんだ。』
『あ〜、それ分かる。目標ができたってカンジだよな。』
『ああ。・・・チームに戻ったら、もっと頑張んねーとな。』
『だね。今のオレ達の力がどんなもんか凄っげー分かったもんな。4年後に向けて、今から競争だね、新一。』
『オウ。今始まったんだ。負けねーぞ、快斗。』
『今度こそ、予選突破めざして頑張ろうぜ!』
『ああ。しかもダントツ余裕の突破目指してな!』

4年後の目標ができた二人を見送る視線は、スタンド・ピッチ・TVカメラと実に沢山あった。

そして、その中には、大勢の両国サポーターの中に紛れて試合を観戦していた、欧州のクラブチーム・スカウトのモノも混じっていた。

「想像以上の逸材がこんな極東の国にいたとはね。」
「このまま極東の地に埋もれさせておくのは惜しいですね。」
「リサーチを進めなくては。」
「クラブに獲得を進言してみましょう。」

欧州ではオフシーズンの夏に行われるWC。
大抵のクラブでは戦力補強は終わっているのだが。
それでもスカウトの視線は年中世界各国に飛んでいる。

その視線が、各国の代表が集うWCに集まるのは当然のことで。
それを狙ってアピールする選手がいるのもごく自然なことだった。



新一と快斗は、容姿をいじってアピールする、ということはしなかったし。
WCに臨むにあたって、まだ海外移籍を念頭においてなどいなかったのだが。

王者・ブラジル相手に八面六臂の大活躍をしたことで。
タイマン張って突破した相手が相手(超有名選手)だったことで。

当人たちのあずかり知らぬところで“いい評価”がつき。
“移籍市場”に“いいお値段”でエントリーされてしまったことを、この時はまだ自覚していなかったのである。





WCによるリーグ中断が開ける頃。

二人は新たな決断を迫られる局面を迎えることになるのだが。


今はまだ、それぞれに愛するパートナーの元に帰るコールをしつつ。
もう当面大きな留守をすることはないと安心しきっていたのであった。



『お疲れ様、新一。』
『お疲れ様、快斗。』
「オウ。今日これからこっちで解散式があっから。それが済んだら帰る。だからもう少し待っててくれよな、蘭。」
「真っ直ぐ帰るから、お出迎えヨロシクな、青子v。」
『ウン、分かった。』
『分かった、ちゃんと待ってるねv。』



WCが終わっても。暑い夏は、まだまだ続くのであった。



to be countinued…….





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