プロローグ、鈴木邸にて…。


鈴木財閥の会長夫人である朋子は、財閥の会計係からの報告書に目を通していた。

「この試算に間違いは無いのね…?」
「はい。ですが、あくまでもここに書かれている通りに行けばの話ですが…。」
「行かせてみるわ…。絶対に…。」

そう言って、朋子は不敵な笑みをもたらした…。





名探偵コナンAND・NOWシリーズ


第11話 結婚式協奏曲



「う、嘘でしょ?!ママ…?」

鈴木財閥の次女、園子は自分の母である朋子の話に愕然となっていた。

「私がこの手の嘘を言った事ある?」

朋子はそう言って微笑んだ。

「無い…。」

園子はその言葉にがっくりとうなだれ、うめく様に呟いていた。

彼女が何故、こんなにもうなだれるのか?
それは、朋子が考え出したとんでもない企画にあった…。

その企画とは、昨今の大不況を打破する為に考え出されたものであった。


発案者の朋子曰く、

「政府の打ち出すお題目だけの“内需拡大”に頼っていてもしかたないわ!だからこそ、この企画を立てたのよ!!」

そう言って打ち出した企画こそ合同結婚式イベントであった。
その企画を聞いた園子は最初こそ驚き、それが本気だと判るとうなだれもしたが、どうにか気を取り直すとやおら反論を述べ出した。

「ママ、どうして私なの?結婚した姉キが居るじゃない?!」
「なに寝ぼけた事言ってるの?既に結婚した綾子がイベントの主役になれないでしょ?」
「え゛?!!ほ、ホントに結婚するの?!」
「まさか、あくまでもイベントよ。」
「で、でも誰と…?」
「それは、後のお楽しみよ。」

そう言ってウインクする朋子を園子は顔を引きつらせながら見ていた…。



翌日 帝丹高校の教室にて…。


園子は蘭や他のクラスメート(大半が女子)と昨日の話をしていた。

「け、結婚?!」
「そ、結婚。」
「で、でも園子、私達まだ18になったばっかりで親の承諾を得ないといけないって確か…。」
「それは役所に届ける正式な物でしょ?こっちはあくまでもイベントなんだから、ホントに結婚する訳じゃないのよ。」
「で、でも…。」
「蘭、アンタの気持ちは判るけど、既に招待状は送ったのよ。特別枠でね。」
「う、嘘でしょ?!」
「嘘言ってどうするのよ?招待状は明日中に着く様に郵送したから、明日になればイヤでも判るわよ?」
「で、でも相手はどうするのよ?」
「あら?蘭なら引く手あまただと思うけど?」
「そ、そんな事ないわよ〜!」
「大丈夫よ!アンタには旦那が居るんだから!!」
「そんな事言っても、新一がそんなイベントに興味を持つとは思えないし…。第一、事件が起きたら直ぐ鉄砲玉の様に飛び出しちゃうんだから、あの推理オタクは…。」
「大丈夫よ!いくらア奴が推理バカでもそこまで酷くない筈よ。じゃなかったら、私がぶん殴ってやるわよ!!」
「園子…。」
「他の皆も明日には正式にイベント参加の告知がされるから応募したら良いわ!参加資格は1つだけだから。」
「その、参加資格って…?」
「今現在独身又は結婚式を挙げた事の無いカップルよ。」
「それだけ?」
「そうよ。だから男どうしだろうと、女どうしだろうと、なんだったらペットでも構わないのよ?」
「ペットもオッケーなの?だったら応募してみようかしら…?」
「良いけど、もしペットでの応募に当っても、新郎新婦の親族としての参加になるわよ?」
「えっ?!そうなの?!」
「当然じゃない!!結婚式を挙げるのはあくまでもそのペットなんだから!!そんなにウエディングドレスを着たかったらちゃんと相手を探すことね!!」
「そんな事言われてもねぇ…。」

そう言って盛大なため息をつく女子達…。

「毛利さんみたいにちゃんとした相手がいたら良いんでしょうけど…。」
「ねぇ…。」
「いくらイベントだといっても結婚式となると…。」
「そうよねぇ、引いちゃう男子もいるでしょうねぇ…。」
「ホント、毛利さんが羨ましいわ…。お父さんの許しさえ貰えたら今すぐにでも挙式を挙げても良い相手が居るんだから…。」
「だ、だから新一とはそんなんじゃないって…!!」(//////)

そう言って、真っ赤になって否定する蘭を他の女子(園子を含む)がからかい続けたのは言うまでも無い…。

ちなみに、そのお相手は毎度お馴染みの呼び出し(よーするに事件)で早退していた…。



   ☆☆☆



その日の放課後…。


受験生でもあった蘭は部活も引退して、ここ最近は園子達と帰宅する事が増えていた。

「園子ったらずっと私の事ばかり言ってたけど、園子だって京極さんって言う人が居るじゃないの?」

蘭のその言葉に園子は今だかつて無いぐらい大きなため息をついた…。

「ど、どうしたのよ?園子…?」

園子の様子に只ならぬものを感じた蘭が心配そうに聴いた。

「皆は財閥の玲嬢なんて羨ましい、代われるものなら代わりたいって言うけど、実際はそれほど良いものじゃないのよ…。」
「ど、どういう事…?」
「姉キが富沢さんと結婚したのは知ってるわね?」
「う、うん…。」
「姉キは私の事気遣って親の薦める相手とお見合いした挙句結婚しちゃったのよ。でもね、それはあくまで表向きの事…。実際は私もそうやって結婚相手を決めさせられちゃうのよね…。」
「園子…。」
「オマケに只のイベントとなったら、客寄せの為に如何でも良い男と偽りの契りも結ばされるのよ。」

そう言って悲しげに俯く園子…。
蘭はそんな彼女にかける言葉も見つからず、ただ聞き入っていた…。

「蘭、アンタは良いわよ。ほとんど唯一、反対している叔父様さえその気になれば旦那の所へ行けるんだから…。」
「だ、だったら今からでも遅くないから園子のお母さんに言って…。」
「無駄よ。」
「えっ?!」
「もう決っちゃってるの。今度、武道館で行われるK−1グランプリをママが主催しちゃってね…。その優勝者が私のお相手って訳。」
「ええっ!!」
「私はどっかその辺の筋肉だるまと式を挙げさせられて、強引にキスも奪われてしまうの…。」
「ええっ?!で、でも園子、イベントなんだからホントにキスしなくても…。」
「甘いわよ、蘭。あいつ等バカみたいに力有り余っているから、私が嫌がっても強引にやるでしょうね…。」
「そんな…。」
「だからと言って、ママがあそこまで気合を入れてるイベントをすっぽかす勇気は私には無いし…。だからね蘭、アンタだけでも幸せな結婚をして欲しいのよ…。」
「園子、だったら私が出るわ!!私が出て優勝しちゃったら私と結婚する事になるんだし…。休み時間に園子も言ってたじゃない、女どうしでもオッケーだって!!だから…。」
「残念だけど、それは無理なのよ…。」
「えっ…?!ど、どうして…?」
「確かに結婚式イベントの方は男どうし、女どうしオッケーよ。でもK−1グランプリの方の参加資格が無いのよ…。」
「参加資格って、まさか…?」
「そう。そのまさか。未婚の男性に限るって言うのが条件なの…。」
「そんな…。」
「蘭、アンタってホントに良い子ね…。あんな推理オタクにくれてやるのが惜しいぐらいよ…。じゃあね…。」

そう言って、寂しげに立ち去る園子を蘭は沈痛な顔で見送るしかなかった…。




第10話「ホワイトデーの逆襲!!」に戻る。  第11話「結婚式協奏曲・招待状(1通目)、毛利蘭×工藤新一。」に続く。