第１１話　結婚式協奏曲・２通目　遠山和葉×…？

名探偵コナンＡＮＤ・ＮＯＷシリーズ

第１１話　結婚式協奏曲

２通目　遠山和葉×…？

園子の名前で招待状が送られた翌日の早朝、大阪の服部邸にて…。

平次は母静華に叩き起されていた…。

「やっと起きたんかい！！幾等今日は剣道の朝練で早い言うても、エエ加減自力で起きれる様にせんかい！！」

平次はそんな静華の言葉を寝ぼけ眼で聴いて応えた…。

「なんやねん…。朝っぱらからえらい不機嫌やなオカン…。」
「不機嫌にもなるわ！アンタを叩き起す物好きはもうアタシしかおらんのやで？！」
「はぁ！？何を言うとるんや？！オカン…。いっつもオカンが起こせん時は和葉が起こしとったんやないかい…。」

その平次の態度に静華はこれ以上ないぐらいに頭を抱えた…。

「もう和葉ちゃんに頼む訳にいかんのや！！！」
「なんでや？」
「和葉ちゃんはどっかのエエ男を毎日起こさなアカンのや！！アンタを起こす時間も余裕もあらへんわい！！！」

　

（しばし間…。）

　

「は……？」
「“は？”やないで！！アンタがそんなんやから和葉ちゃんをどっかのエエ男に取られてまうんや！！！」
「な、なにを言うとるんや？！オカン…？！」
「アンタ、まだ判らんか？！よぉそんな事で西の名探偵が勤まるなぁ！！和葉ちゃんがもうすぐ結婚式を挙げるんや！！」

　

（また暫らく間…。）

「な、なんやてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！！！！」

大阪府全域に響き渡るのでは無いかと思われる大絶叫が早朝の服部邸に木霊した。
その大絶叫に少し驚きながらも静華は極めて冷静に平次をたしなめた。

「平次！朝っぱらから大きい声出すんやない！！近所迷惑やろ！！」
「せ、せやけどオカン、さっきの話ホンマかいな？！」
「こんな話で嘘言うてどないすんねん！ホンマに決ってるやろ？！」
「信じられへん…。何所の物好きや…？和葉と結婚式を挙げる男は…？」
「知らん。」
「し、知らんって…。お、オカン、自分、和葉の事実の娘ぐらいに慕っとったんとちゃうんかい？！」
「確かにアタシは慕っとった…。せやけど、所詮和葉ちゃんはよそ様の娘や…。」
「よ、よそ様って、オカン…。」
「よそ様は、よそ様やろ？アンタが和葉ちゃんと結婚でもしたら話は別やろけど…。」
「な、何をいうてんねん！オカン！！」
「そやな。今更そんな事言うてもしゃあないわな…。こうなったら和葉ちゃんの心を射止めた男に幸せにする様に頼むしかあらへんもんな…。」

平次は静華のそんな言葉を愕然とした顔で聴いていた…。

その後、彼は魂の抜け殻のような顔でほとんど朝食を取る事無く剣道の朝連に向かった…。

　

その後…。

「静、さっきの話はホンマか…？」
「一様な…。」
「一様…？」

その後、静華は平蔵に今までの経緯を全て話した。
それを聞いた平蔵は一言、

「あのアホにはエエ薬かも知れんな…。」

とだけ言ったそうな…。

　　☆☆☆

　

同じ頃、平次は…。

彼は今、文字通り魂の抜け殻のような顔でフラフラと学校への道のりを歩いていた…。
彼の中に渦巻く想いは只１つ…、幼馴染である（本人談）和葉の結婚の事であった…。

　

妄想劇場、平次の悪夢…。

平次が呆然とした顔をする中、和葉はどっかの良い男（新一と快斗と沖田≪注：彼については単行本３１巻参照≫を足して３で割ったような男を想像して下さい）と揃って平次の前に現われた。

「か、和葉…？」

呆然とする平次をよそに和葉とその男はとても幸せそうに寄り添っていた。

「平次、アタシこの人と結婚すんねん！」
「貴方が服部平次君ですか…。和葉さんから何時も話を聞いてますよ…。」
「はぁ…。そら、どうも…。」

愕然とする平次を無視して二人はアツアツモードで２人だけの世界に入っていた…。

「和葉さんなんて、そない他人行儀みたいな言い方せんといてんか！これから結婚してアンタの奥さんになるんやから…。」
「ははっ！それもそうだね…。和葉…。」

そう言ってその男は愛しげに和葉の頬にキスをし、真っ赤になった彼女を連れて式場へと去って行った…。
そのまま唖然とした顔をしている平次に新一が話し掛けた。

「だから言ったろ？後悔する前に言いたい事は言っとけって…。」

そう言った新一は黒の燕尾服を着ていた。

「く、工藤、お前、その格好…？」
「あ？これか？俺もこれから式場に向うんだよ…。」
「和葉の式に参列するんか…？」
「あ？何言ってるんだよ？幾等和葉ちゃんの結婚がショックだからって、蘭との結婚式を忘れるなよ。」

そう言われてよく見ると、純白のウエディングドレスに身を包んだ蘭が寄り添っていた。

「服部君、どうして和葉ちゃんの想いに応えてあげなかったの？和葉ちゃん凄く傷ついていたのよ？！」

そう言って非難するように平次を見つめる蘭…。
そして、未だに呆然としている平次を見かねて新一が口を挟んだ。

「蘭、もうその辺で勘弁してやれよ…。今の服部にそれを言うのは傷口に塩を塗り込むのを通り越して、死人に鞭を打つようなもんだぜ…。」
「そうね、新一…。和葉ちゃんもようやく本当の幸せを手に入れたんだしね…。」
「そうだぜ蘭…。さぁ、皆が待ってる！式場に向うぞ！」
「うんっ！！」

そう言って２人は式場へ向って行った…。

後に残された平次に今度は快斗が話しかけて来た…。

「ったく、名探偵って言うのは恋愛に関しては素人以下かよ？！」

その快斗も新一と同じような格好をしていた…。

「快…。」
「東の探偵はアポトキシンのお陰でなんとかなったが、西は駄目だったって訳か？！オメーも飲んでたら良かったのに…。」
「お前も結婚式なんか…？」

その平次の答えに思わず手を目の前にあて、天を見上げる快斗…。

「はぁ～っ！！やっぱおめーもアポトキシンを飲んでみるべきだったぜ！！」

何時の間にか蘭と同じく純白のウエディングドレスに身を包んだ青子も現れていた。

「快斗っ！なにバカな事言ってるの？！そんな事したら死んじゃうかもしれないじゃない！！！」
「青子…。今のこいつを見ろよ…。死人同然だぜ？和葉ちゃんが挙式をあげてから大分たってから式をあげた新一と蘭ちゃんに“和葉の式に参列するんか？”なんて言ってたらしいんだぜ。」
「そういえば、あれから３ヶ月もたっているんだったよね…。」
「姉ぇちゃん、それホンマか？！」
「嘘言ってどうすんだよ。今日ようやく警部さんの許しを貰って青子と結婚するんだぜ？俺達…。」
「そうなんかいな…。」
「快斗っ！そろそろ行かないと！！」
「ああ！そうだな…。とにかく平、俺も新一も協力してやるから早く良い人見つけて立ち直れよな…。」
「服部君、元気出してね…。」

そう言って二人は式場に消えた…。

　　☆☆☆
　

その後、改方学園の剣道場にて…。

その日の平次は抜け殻のような状態で虚ろな表情のまま稽古を続けていた…。
いや、正確には“続けているつもり”だったと言うべきだろう…。

なにしろその一部始終を見ていた馴染みの部員や顧問の先生はあまりの変貌ぶりに怯え、練習を中断して対策会議を開いたぐらいであったのだ。

「服部の奴、何があったんや？！あいつがあないになるなんて生半可な事やないで？！」
「そう言われても…。」
「今朝、服部が学校に来た時点であないになっとたんで…。」
「と言う事は今朝、家でなんかあったんやな…。となると遠山がらみか…。」
「そうやとおもいます…。」

そう言いいながら彼等は虚ろな表情で機械的に練習（正確にはプログラムされた人形のような動き）をしている平次を見つめていた…。

そして始業時間も迫り、一般の生徒たちが登校してきた頃、平次がおかしい理由が唐突に判明した。

切っ掛けは２年の部員を迎えにそのクラスメートが来た時である。

「練習もう終わったんやろ？今日はお前日直やから迎えに来たったわ。」
「おおきに。ほんなら先生…。」
「ああ。」

そう言って彼等は着替える為に更衣室に消えた。
そしてその部員達が着替えている間退屈だったらしく、彼等は今日飛び込んで来たビッグニュースを話し合いはじめた。

「そやけど、その話ホンマなんやろか？」
「本人がそう言うとっただけらしいからな…。」
「そやけど、信じられへんな…。うちの学校公認の夫婦が破局したなんて…。」
「そやな。」

その一言に部員達（平次を除く）と顧問の先生は全てを理解し、旋律が走った。

無理も無い、この学校で公認夫婦と呼ばれているのは平次と和葉だけであったのだから…。（知らないのは本人達だけ）

「その話ほんまか？！」
「へ？！せ、先生…？！」
「嘘やろ？！あの遠山が服部を振るなんて…？！」
「どう言うこっちゃ？！」

その生徒達は３年生達と先生に囲まれ少し怯えながら話し始めた。

「ぼ、僕等も今日聴いたとこなんで詳しい事は知らんのですが…。」

その後、彼等の口から和葉が結婚式のイベントの相手として学校でも有名なプレイボーイが求婚した事が告げられた…。

「「「「な、なんやてぇぇぇぇぇぇぇぇ！！！」」」」

多くの者達が始めて聴く事実に驚愕していたが、ただ一人平次だけが光速（いや、それ以上）の速さで走り去って行った…。
後に残された者達はその光景にしばし呆然としていたが、はたと我に返ると大急ぎで和葉を呼びに部員達が散って行った。
無理も無い、このまま事態を放置すれば確実に一人の人間が殺されるのであるから…。

　　☆☆☆

　

その後、２年の教室にて…。

和葉の相手役の男は自慢げに話していた…。

「駄目元でも言ってみるもんやで？」

周りの者達は半ば呆れている。それも当然であろう…。何しろ彼は今日学校にきて以来ずっとこの話をしていたのだから…。

「ホンマに学校でも指折りの、しかも絶対に口説き落とせそうに無い先輩からお誘いを受けられたんやからな…。」

この時、彼は気付くべきであった…。
その場に居た全員が顔面蒼白な顔で首を振っていた事を…。

「それにしても、服部先輩ってホンマに推理ド阿呆なんやな…。遠山先輩の気も知らんと断ったらしいで…。幾等イベントでお遊びみたいなもんでも結婚式やで？誓いの言葉はもちろん、誓いのキスかて………。」
「そんな程度の認識で俺の幼馴染と挙式をあげるんか…。」

誰か（あえて名前は言うまい…。）がそう言いながら後ろから竹刀を彼の喉元に突き付けた。
だが、彼にはその竹刀が多くの生き血を啜った暗黒の魔剣にしか見えなかった…。

「あ、いや、そ、そう言う訳では…。」
（（（（こいつ、あまりの恐怖に標準語で喋っとるで…。））））

誰もがそう思ったが、口に出す勇気がある者は誰一人としていなかったのは言うまでも無い…。

「ほんなら、何や？」
「あ、いや、だから遠山先輩に頼まれて…。」
「そんなしょうもない言い訳が通じるとでも思ったか？！はっきり言うたらどないや！！俺の幼馴染の身体目的で結婚するんやって！！！」

そこに和葉が剣道部員と放送部員（と中で騒ぎを聴きつけ、面白半分で着いて来ていた）を引きつれて飛び込んだ。

「平次！！止めてんか！！彼は関係ない！！！元々アタシが頼んだんや！！！！」
「和葉！！！何を言うとるんやお前は？！そんなにこいつの事が好きなんか？！」
「ちゃうわ！！！今日、園子ハンから招待状をもろて…。」
「招待状ぉ？！そんなしょうもないもんで結婚するんか？！こんなしょうもない男と？！断れや！！」
「そんなん言うたかて、お父ちゃん宛に来たんやで？！アタシに断れると思うか？！」
「それやったら俺がもろたる！！！」

その一言で教室内は一瞬水を打った様に静まり返った。

「え…？今、なに言うた…？」
「お前、耳悪いんか？！こんな男にくれてやるぐらいやったら、俺がもろたる言うたんや！」
「へ、平次…。」

そう言って和葉は平次の胸に飛び込み、泣き出した。

そうなると、当然平次がうろたえ始めて…。

「な、なんやねん？！和葉…。そんなに俺のものになるのがいやなんか？！」
「ちゃうわ！！これは嬉しいから泣くうれし泣きや！！それぐらい判らんか、この推理ド阿呆！！」

そう言ってワンワン泣き出す和葉と呆然とする平次の周りを多くの者が結婚の祝辞を述べながら取り囲んでいた。

その後、真実を知った平次が石化を通り越して灰になったのは言うまでも無い…。

続く

　　