名探偵コナン AND・NOWシリーズ


第3話 文化祭


プロローグ


工藤邸…



何時もの様に、黒羽快斗が工藤新一の家に遊びに来た。
だが、何時もは快斗の来訪を嫌そうにしている新一が、今回は涙目で迎え頭を下げたのだ。

「快斗!恥を偲んでオメーに頼む!」
「何だよ?藪から棒に?」
「文化祭のネタを何か教えてくれ。」
「はぁ?!如何言う事だよ?新一?」
「実は…。」





新一の回想…帝丹高校にて。


「何で俺がこんな事を?!」
「何よ!文句あるなら、“シャッフルロマンス”の完全版でも良いのよ私は?」

そう新一に詰め寄るのは彼の苦手としている女性、鈴木園子…。
彼女は新一に文化祭の出し物の相談を持ちかけていた。

「だけど、何で俺なんだ?」

「しょうがないでしょ!他の皆はそれどころじゃないんだから!」
「そら、そうだ。」
「全く…この高校の伝統で3年は自主参加になっているとは言え、文化祭で盛り上がろうとする気分が無いのは問題有るわ。」
「しょーがねーだろ?昨今の経済情勢の悪さは深刻の域に達してるんだから…。」

帝丹高校は昔から進学校としてある程度、名の知れた高校であった。
その為、この時期文化祭どころでは無い大学進学組に考慮して1・2年のクラス単位で無く、3年全体で文化祭に参加出来る者だけが毎年高校生活最後の文化祭を盛り上げるのが通例だった。
例年なら、すでに就職の内定を貰っている就職組の人間が、文化祭を盛り上げていたのだが、ここ最近の大不況で帝丹のネームバリューですら通用しなくなっていた。
そこで、唯一そう言う事に無関係な人間(だと他の人は思っている)、園子に白羽の矢を当て立てたのだ。
だが、園子一人でがんばった所でどうにかなる訳が無く、進学組で一番のんびりしている(と園子が思った)新一に相談したのだ。

「だから、アンタにこうして頼んでいるんじゃない。」
「んな事言われたってな…。」
「あら、協力しないって言うなら、こっちにも考えが有るわよ。」
「何?!」
「就職組の一部が、切羽詰って私に相談を持ち掛けて来ているのよ…。なんとか鈴木財閥傘下のグループ企業に入れるよう、私に口利きをしてくれってね。」
「そ、園子、お前まさか…。」
「もちろん断ったわよ。そんな事してばれたら只じゃ済まないから…。」
「だよな。」
「でも、貴方が断るって言ったら、その人達に交換条件を与えるわよ…。“シャッフルロマンス”の完全版を開園するのを手伝ってくれたら考えてあげるって…。彼等かなり切羽詰っている人達だから、飛びつくでしょうね。」
「ま、マジ?!」
「もちろん。」

園子はそう言ってにっこりと微笑んだ…(新一には悪魔の笑みにしか見えなかった)。





「そんな事が…。」
「快斗!頼む!こういう事は俺よりオメーの方が優秀だろ…。頼むよ…、マジで。」

普段の新一を知っている快斗は、かなり驚いていた。
彼がここまで自分に対して、低姿勢になるなんてよっぽど切羽詰っている事が容易に想像できた。
そこで快斗は、こういう提案をして来た。

「だったら、合同でやらねーか?」
「何を?」
「文化祭。」
「如何いう事だ?」
「あのな…。」





快斗の回想…江古田高校にて。


「ぬぁにぃ!!!!」
「そんな驚く事無いでしょう?快斗君。」
「だけど恵子、文化祭で俺のマジック無しはキツイぜ…。」
「しょうがないでしょ?貴方のマジックが幾等凄いと言っても、3年連続でやる訳に行かないのよ。」
「何でだよ?」
「他のクラスから突き上げを食らったのよ。」
「そりゃあ俺のマジックに比べたら、他の奴らが幾等がんばっても勝てねーもんな…。」
「オマケに今年は白馬君まで居るから、快斗君のマジック無しでも十分でしょうって言われるのよ。」
「そんな事言ってもなー…。」
「しょうがないでしょう!もう決まった事なんだから!」
「そんな事いきなり言われてもなー…。」
「どっか有名な学校との合同文化祭でもやるなら話は別だけど、去年みたいな大騒ぎは学校サイドも困るって釘を刺されたのよ。」
「去年はやりすぎたからな…。」

去年の文化祭で快斗は少し調子に乗りすぎ、文化祭会場がチョットしたパニックになったのだ。
その為、今年は少し控えめな文化祭にする様、学校サイドから警告を食らってたのだ。





「つまり向こうの学校からの要請でしか、オメーがマジック出来ないのか。」
「そうなんだよ…。せっかく文化祭に合わせて大掛かりなマジックのネタも練っていたのに…。このままではそのネタ没にするしかねーんだよ。」
「オメーにとっては、すげー不本意なわけだ。」
「そうなんだ。」
「それで、合同でやって如何するんだ?」
「交換条件ですよ。名探偵。」
「交換条件?(いきなりキッドモードになりやがって…何考えているんだ?)」





翌日、帝丹高校3年生文化祭実行委員の部屋。


「工藤君。私達実行委員を集めた以上、文化祭の最大の呼び物を、考えて来たと受け取って良いのね?」
「ああ。ばっちりだぜ、園子。」
「如何言う物をやるんだ?工藤?」
「それなんだけど、合同で文化祭をやる計画を持ちかけられたんだ。」
「合同で…?何所の高校と?」
「江古田。」
「江古田…?米花町からだと2つ隣の所に有る?」
「そう、そこ。」
「公立か…。しかしこの手の話は結構来てるんだぜ?何でここに決めたんだ?」

そう…、帝丹に工藤新一が通い、しかも高校生名探偵として有名になると同時にこの手の話は山の様にきていたのだ。

「そこには、他の高校には居ない凄い能力を持った奴が居るんだ。」
「へー…、工藤君がそこまで言うんだから、かなりの物なんでしょうね?」
「当然だぜ、園子。そいつは将来世界的なマジシャンになれるといっても良いぐらいの奴なんだ。」
「ほー…、そりゃあすげーや…。で、誰なんだそいつ?」
「黒羽快斗。」
「黒羽…?って、もしかしてあの…?!」
「ああ。その黒羽だよ…。」
「何だよ…、鈴木と工藤だけで…。そんな有名人か?そいつは?」
「何だよ…?オメーら、8年前の事故で死んだ偉大なマジシャン、黒羽盗一の事知らないのか?」

「知ってるけど、それがどうかしたのか?」
「その息子さんが、快斗君だよ。」
「「「ええっ!!!」」」
「そりゃ凄い!受けるぜ!その合同でやる話!」
「異議は無いな?皆?」

新一は実行委員達を見渡し、無い事を確認した。
そして、満場一致でその話が採択された。



  ☆☆☆


同日、江古田高校。


「恵子、確か合同でやるなら文句は出ないっていったよな?」
「向こうの高校でやる分には、出ないと思うけど…。そんなにマジックしたい訳?」
「当然。だって、高校生活最後の文化祭なんだぜ…。今までの総決算とも言うべき大マジックを考えてたんだ。学校の意向ごときで止められてたまるか!」
「でも、そんじょそこらの学校じゃあ…。」
「それは心配無い。」
「そんな有名高校なの?そこ?」
「ああ。白馬より有名な東の名探偵が通っている所だからな。」
「白馬君より有名…ってまさか?!」
「ああ。その“まさか”さ…。帝丹なんだ。」
「嘘?!」
「おいおい…、嘘言って如何すんだよ…。受けるよな?当然?」
「当然よ!」





その週末、工藤邸にて…


「工藤君、来たわよ。」

そう言いながら、園子率いる帝丹高校文化祭実行委員の面々が工藤邸にやって来た。

「わりぃな…、わざわざ…。」
「まぁ、しょうがないわよ…。これだけの面子をさばけるのは私の家かアンタの家ぐらいなもんだし。」
「まぁ、上がれよ。」

そう言って、新一は園子達を室内に招き入れた。
そこには、蘭も居て沢山のお客をさばくべく、奮闘していた。

「蘭、アンタ完全にここの主婦してるわねー。」
「からかわないでよ…園子。」

園子のからかいを聞いて蘭は真っ赤になっていた。

「それで、工藤。江古田の連中は?」

「もう直ぐ来ると思うぜ。」
「ねぇ、工藤君。快斗君ってどんな子なの?」
「会ったら、園子凄く驚くと思うよ。」
「ホント?蘭。」
「ええ。」


  ☆☆☆


一方、江古田の面々は…。


「凄いわね。貴方が工藤君とも交流が有るなんて…。」
「まあな。」
「蘭ちゃん久しぶりだよねー…快斗?」
「青子…、オメー文化祭の委員じゃねーだろ?」
「良いじゃないのよ!バ快斗!」
「まあまあ…、道の真ん中で夫婦喧嘩するなよな…。」
「「夫婦じゃない!!!」」

しっかりはもっていて、真っ赤になっている2人に説得力は無かった…。

「所で青子、蘭ちゃんって?」
「工藤君の幼馴染の毛利蘭ちゃん。青子の憧れなんだ…。」
「毛利…?どっかで聴いたな?」
「“眠りの小五郎”で有名な毛利小五郎の娘さんなんだ。誰かさんと違って色気があってなー…。」


ボカッ!


青子の鉄拳が飛び、快斗の話は途中で途切れた。

「くぅーーーーーっ。」

顔を押さえて痛がる快斗を(青子を除く)他の面々は呆れて観ていた…。

(ばかな奴…。)

と思いながら…。


  ☆☆☆


そうこうしている内に快斗率いる江古田の面々は、工藤邸の前に着いた。

「工藤君の家って凄いよね…。」
「まぁ、世界的に有名な作家と女優が住んでいた屋敷だからな…。」

そう言いながら、快斗はインターホンを押した。

『はい?』
「新一?俺。」
『開いてるぜ。入ってこいよ。』
「じゃあ、遠慮無く…。」

そう言って、快斗達は家の中に入っていった。


  ☆☆☆


「えぇぇーーーっ!!!!!」


園子を含む帝丹の人達が快斗を見てかなり驚いた。
無理も無い…新一そっくりの人物が現れたからだ。
江古田の人達も又、同様に驚いていた。
彼等を迎えた蘭が青子そっくりだったからだ。

「く、く、工藤君が2人…?!?!」
「すげー…、双子か?」
「「違う!!」」

同じ声でハモル快斗と新一。

「貴方が毛利蘭さん…。青子に良く似ているねー…。」

恵子は2人を見比べながら呟いた。

「そう?」
「青子、蘭ちゃんみたいに綺麗じゃないよ…。」
「そうそう…。オメーら、目が悪いんじゃねーのか?アホ子のどこが蘭ちゃんと似てるんだよ?」


ドスッ!


青子のアッパーカットが快斗のみぞおちに決まった…。
みぞおちに強烈な一撃を食らった快斗は腹を押さえたまま、もんどりうっていた…。
それを見た、新一は心底呆れた顔で…

「相変わらずバカだねー…オメーは。」
「快斗君…、駄目よ、青子ちゃん怒らせたら…。」
「コイツはホント独占欲強いよな…。」
「えっ?!如何言う事?工藤君?」
「快斗は基本的にひねくれてるんだ…。好きな子に意地悪したり、お子様扱いしてナンパされない様気を使ったりしてんだよ。」
「えっ?!?!」

真っ赤になって驚く青子…。
それに対して、ようやく復活した快斗は逆襲に転じた。


「はっ!独占欲丸だしのオメーに言われたくねーよ。」

「ぬぁにぃ!」
「違うとは言わせねーぜ!ここに居る全ての男が蘭ちゃんを観る度に不機嫌そうにしやがって!」
「えっ?!そうなの?!」

今度は蘭が赤くなった…。

「そうだよ、蘭ちゃん!新一!そんなに彼女を独占したいなら、首に縄着けて地下室にでも軟禁してろ!」
「んだとぉ!!青子ちゃんの心を弄ぶ悪党が何ぬかしやがる!」
「蘭ちゃん専門のストーカー探偵が、そんなえらそーな事言うんじゃねー!!!」
「あにぃ!!」

バチバチと火花を散らしながら、にらみ合う快斗と新一を観た恵子と園子は…、

「似たもの同士よね…。」
「そうね…。」

と、呆れていた。


その1 帝丹編に続く。



第二話 「宮野姉妹の墓(後編)」に戻る。  第三話「文化祭その一・帝丹編」に続く。