名探偵コナン AND・NOWシリーズ


第3話 文化祭


その2 江古田編


帝丹高校、後夜祭終了後…


「工藤、お前の家に泊めてくれへんか?」
「てめ…、最初からそのつもりだったな。」
「と、言うより最初から江古田の方も見るつもりだったな。」

「当然やんか。」
「ねぇ、和葉ちゃんはどうするの?」
「蘭ちゃん所に泊まってええか?」
「うん、いいよ…。どうせお父さんも徹夜で麻雀だし…。」
「これで、決まりやな。」
「なら、俺と青子は帰るぜ…。」

「蘭ちゃん、和葉ちゃん、お休み。」
「青子ちゃん、お休み。」
「又、明日やな青子ちゃん。」

そう言って、快斗と青子は家路についた。


  ☆☆☆


その後、毛利探偵事務所で女性2人と別れ、平次と新一は工藤邸に着いた。

「あれっ?!」

「どないした?」
「誰か居る。」
「ホンマや…、明かりが点いてるもんな。」

2人は、多少警戒しながら家の中に入っていった。

「ただいまっ!!」
「お邪魔しますわ!!!」

2人はわざと大声で言った。
何故なら、もし侵入者だったらこの声に何らかの反応が有るはずだからだ。
が、中から現れた人間に新一は脱力し、平次は驚いた。


「あら、新ちゃんお帰り…。そちらはお客さん?」
「母さん…、何時帰って来たんだ?」
「今日よ。」
「しゃあないな…。俺、隣の阿笠さん所に泊めてもらうわ。」
「別に良いわよ?私の事は気にしないで…。」
「そら、すまんな…。工藤のオカンは、話が判るわ。」
「服部…、お前、少しは遠慮って物を知れよな…。」
「まぁ、エエやん…。」
「よくねーって…。」

平次と新一はこの時、疑問に思うべきだった…。
有希子が何故突然帰国したのか…?
そして何を企んでいるのか?






翌日…。


2人は、有希子に見送られ江古田に向かった。

その道すがら…

「工藤…、えらい不機嫌やな?」
「ああ…。母さんがこんなイベントを前に大人しくしているなんて、不思議なんだよ。」
「なるほど…。女優藤峰有希子の言動としては不信やな。」
「だろ?(何企んでいるんだ?あの女…。)」

だが2人には、それを推理するだけの手がかりに乏しく、疑問に思ったまま女性2人を迎いに行くべく、毛利探偵事務所に向かった。


  ☆☆☆


数分後、再び工藤邸…


一台の車が玄関前に止まり、クラクションを鳴らした。
有希子がその音で玄関先に出て来た…。
その手に大きなトランクを持って…。彼女は乗っていた人物と何事か話し合うと、嬉しそうに車の後部座席にトランクごと乗り込んだ。

そして、車は有希子を乗せて走り去った…。


  ☆☆☆


そして江古田、快斗と青子のクラスにて…


「何で俺の服まで用意してあるんだ?」

新一は、喫茶店の征服が自分の分まである事を疑問に思い、委員である恵子に聞いた。

「園子さんに言われてね…。帝丹で何もしてない分、こっちでこき使って良いって。」
「何ぃ!」

「事実でしょ?」
「だけど俺は、快斗として…。」
「快斗君としても、ほとんど参加してなかったわね…。」
「わ、判ったよ…。」

すっかりうなだれて、着替えに行く新一…。
だが、今度は快斗が文句を言った。


「じゃあ、何で俺の分まで有るんだ?」
「議題で決まった事に、今更口出ししないでくれる?」
「それは新一に言ってくれよ!!俺は帝丹のマジックショーをちゃんとやったぜ!!」
「あ、そう?よくそんな事、言えたわね…。じゃあ、貴方は私達のクラスメートじゃないのね?」
「いや…、その…。」
「自分のわがままで、帝丹の文化祭やってもらったんだから、江古田ではしっかり働いてもらうわよ!!」

「判ったよ…。」

そう言って、快斗もまた着替えるために更衣室代りの空き教室に向かった。


  ☆☆☆


数分後…。


新一と快斗は着替えを済ませ、クラスメート達の前に出た…。

途端に女子生徒達から歓声が上がった。

「うわぁーーーー!!!工藤君も快斗君もカッコイイ!!!」
「何言ってんだ?俺は新一よりカッコ良いぜ!」
「んな事で張り合うなよ…、快斗。」

2人の井出達は、快斗は白のズボンとスーツに黒の蝶ネクタイ、新一は逆に黒のズボンとスーツに白の蝶ネクタイ。
(コナン単行本の扉絵の新一と、色違いの快斗を思い浮かべてください。)
そん所そこらのホストより、カッコイイと言って良いだろう…。

さらに、そこに茶色のズボンとスーツに同色の蝶ネクタイと言う井出達の探が現れた。

「白馬…、オメーまでそんな格好してるのか?」

「ほっといて下さい…。議決の時に反対したんですが、民主主義は多数決ですからね…。」

白馬は圧倒的過半数の意見に屈していた…。
だが、今だ不満の残る3人の意見を一変させる出来事が起こった。
きっかけは、恵子のこの一言である。

「男子諸君、注目!女子の着替えが終わったわよ!!」
「おーーーーっ!!!」

歓声を上げる男達…。
そして、


「ほら、何やってるの?恥ずかしがってないで、さっさと出て来なさい!」

そう言いながら恵子に押される格好で、3人の女子が現れた。

その3人とは言うまでも無く、蘭、青子、紅子の事である…。



Illustrated by 貢方利一朗。様



3人の井出達は全員、アンナミラーズ(ウェイトレスと言ったらアンミラとまで言われた世界的に有名な店)の制服を着ていた。
それを見た3人は、一言。

「「「か、かわいすぎる…。」」」

だが、その女子3人も、ホスト顔負けの男性陣に見とれてしまっていた。

(し、新一…、カッコ良すぎるよぉ…。)
(↑真っ赤になっている。)

(か、快斗…、キッドモードになってる…。)
(↑真っ赤になり、焦っている。)

(な、なかなかやるじゃない…、探君。)
(↑なんとか冷静さを保とうと必死になっている。)


もちろん、男性陣も見とれていた。

(ま、マジでカワイイ…。持って帰るって言おうかな?)
(↑独占欲丸出しになっている。)

(う…、青子の奴、すげーカワイイ…。盗もうかな?)
(↑キッドモードに突入している。)

(紅子さん…、似合っています。)
(↑魅了されている。)


完全に硬直し、見詰め合う6人であった…。
そんな6人を見た恵子は…

「ハイハイ!見合いじゃないんだから、見詰め合わないの!!仕事に入って頂戴!!!(こんな言い方しないと、やってられないわよ。)」

パンパン手を叩きながら、仕切りに入る恵子であった…。


  ☆☆☆


全ての飲食店に言える事だが、利益を上げる為には集客力だけでなく、客の回転も良い店が最高である。
言うのは簡単だが、なかなか実現出来ないのが普通である。
だが、この模擬店はそれを完璧にやっていた…。
理由はすこぶる簡単である…。



男性客の場合…。

「「「いらっしゃいませーーーー!!」」」

アンナミラーズの制服に身を包んだ3人の極上の笑顔に釣られ、フラフラと店内に入る男達…。
だが、彼等を待っていたのは地獄であった…。



ギンッ!!!(×3)



人を平然と殺す黒の組織相手でも恐れることなく真実をつきとめた名探偵工藤新一と、白馬警視総監の息子で自身も名探偵として名を売っている探、そして警察の猛者はもちろん、父を抹殺した組織にも恐れない白き怪盗キッドを裏の顔として持つ男、黒羽快斗…。
彼等3人の刺すような(殺意のこもった)視線に耐えられる男などそうめったにいないので…。


「あ、あの…お勘定…。」

注文の品をさっさと飲み干し(又は食べ尽くし)、帰っていった。
彼等は口々に(聞こえないような小声で)呟いた。

「ヘタなぼったくりバーより性質がわりぃ…。」



女性客の場合…。

「「「いらっしゃいませ…。」」」


ホスト顔負けの3人のさわやかな笑顔に引き付けられ、フラフラと店内に入っていく女達…。
だが、彼女達を待っていたのは悪夢だった…。



ギロッ!!!(×3)



帝丹高校空手部主将にして空手の都大会チャンプの毛利蘭と、魔女で赤魔術の正統なる継承者の小泉紅子、そして中森警部の娘である青子の刺すような(ジェラシー全開の)視線に勝てる女性などそうめったにいないので…。

「あ、あのー…、お勘定…。」

男性陣同様にそそくさと帰っていった。
彼女達の思いは全て同じであった…。

(なんで、良い男に限って直ぐに売り切れるのよ…。)

こんな状況下で唯一、この喫茶店に長居しているカップルが一組…。
言うまでも無くこの2人である。


「工藤も快も、白馬ちゅう奴も独占欲丸出しやな…。」
「蘭ちゃんも青子ちゃんも、あの小泉さんって言う人も、えらいにらんでるで…。」
「あれで、工藤も快も幼馴染言うて聴かんのやから笑うでしかし…。」
「ホンマやな…。」

自分達の事を棚に上げて見物する大阪の2人組であった。


この日、この喫茶店の模擬店は過去最高の売上を記録した。


  ☆☆☆


そして、後夜祭ダンスパーティ…。


会場となった江古田高校講堂にて…。



「参加してくれるわね?皆。」
恵子のその言葉に3人は…。

「しゃあねーな…。(蘭が参加するからな。)」
「判ったよ。(断ると後が恐そうだ。)」
「しかたありませんね…。(紅子さんも出るみたいですし。)」
「今年は飛び入り参加歓迎なのだけど…。出る?そこの大阪の人?」
「出るわ。(和葉の奴飛び入り参加しくさって…。俺も出んとしゃあないやんか。)」

と、言う事で(平次を加えた)4人は再び着替える為に、更衣室代りの教室に向かった。


  ☆☆☆


同じ頃、女子更衣室に向かう廊下で…


「ふぅ…。」
「どうしたの?蘭ちゃん、ため息なのかついて。」
「園子ハンが言うてたスタイリストの事やろ?」
「そうなのよ…、青子ちゃん、和葉ちゃん。私が良く知っているスタイリストって誰なのだろう?」
「恵子さんも鈴木さんも、何か企んでるって顔してたわね…。」
「そうなのよ、小泉さん…。」

そう言いながら、女子更衣室代りの教室に来た4人。
そこには既に結構な人だかりが出来ていた。


「あれっ?!結構人だかりが出来とるやんか…?」
「そんなに凄い人なのかな?」
「そうみたいね…、中森さん。」
「誰だろう…?一体。」

そう言いながら、4人は教室の中に入っていった。
そこには…。

「きゃあ!蘭ちゃん久しぶりぃ!!」
「お、おば様?!」
「「えっ?!」」
「しってるん?蘭ちゃん。」
「知っているも何も、新一のお母さんよ!!」
「「「ええっ!!」」」

そこには、数人のスタイリストを従えた有希子が忙しそうに他の女性達をメイクアップしていた。

「お、おば様…、どうしてここに?」
「私が呼んだの。」
「園子!!で、でも、どうやって新一に内緒で…?」

「ふふっ…。黒羽君が合同の話をした後、直ぐにこの計画を立てたの…。恵子さんが彼の真意を見破ってね。」
「じ、じゃあ、貴方最初から…?!」
「そうよ、小泉さん…。黒羽君と中森さんが工藤君と蘭に入れ替わる計画を逆利用したのよ。」
「そうだったの…。一時期、黒羽君と中森さんの様子がおかしかったのは、工藤君と毛利さんだったのね。」
「小泉さん…ごめんなさい。快斗君に頼まれて…。」
「別に謝ってもらう必要無いけど…。」
「ほんなら、この計画進めたんは…?」
「そうよ、遠山さん。工藤君達が江古田に行ってる間に進めたの…。探偵である工藤君がいなかったから簡単だったわ。それに黒羽君達は、マジックショーの準備でそれどころじゃなかったし…。」

そう言いながら微笑む園子を4人は呆然と見守っていた。


  ☆☆☆


数分後、男子更衣室代りの教室に向かう廊下で…


4人はいまいちやる気の無い顔でトボトボと歩いていた。
そこに、上機嫌の教師が向こうからやって来た。
「やあ、君達…、どうしたんだね?元気無いけど?」
「先生こそご機嫌で、何かいい事あったんですか?」
「快、誰や?」
「去年ここに赴任して来た生物化学担当の麻生先生だよ。」

白馬の問に麻生はさらに上機嫌な声で答えた。

「よくぞ聞いてくれたね!白馬君!先生が学生時代にあこがれたアイドルが今ここに来ているんだよ。」
「アイドル…?」
「だ、誰なんですそれ…?(すっげーやな予感がする。)」
「君が工藤新一君だね?お母さんに似て美男子だな…羨ましいよ全く。」

そう言って麻生先生は、愕然とする新一と呆然とする3人を残して去っていった。(ちなみにその手にはしっかりと有希子のサイン色紙が握られていた。)

一方、残された4人は…

「新一、たしかお前の母さんって…?」
「や、やられた…!!!」
「どないしたんや?工藤。」
「服部!忘れたか?!朝俺達が疑問に思った事を!!」
「なっ?!ほ、ほんならあのオカン最初から…?!」
「どう言う事ですか?工藤君。」
「新一!俺にも判るように説明してくれ。」
「説明は後だ!!急いで着替えるぞ!!」
「「はぁ?!」」
「ど、どう言うこっちゃ?!」
「母さんは、あの4人をドレスアップする気だ!!」

3人は?マークを飛ばしながらも、新一の剣幕に急き立てられ、4人は急いで着替え、講堂に舞い戻った。


  ☆☆☆


30分後、江古田講堂…


「快斗、相手役は自由に選べるんだな?」
「ああ…。だけど、大体決まっているけどな…。」
「工藤…、さっきの話ホンマか?」
「ああ…。多分母さんの本命は青子ちゃんだ…。」
「だけど、いくらオメーの母さんが凄いって言ったって、お子様青子がそこまで変るかな?」
「そのセリフ、青子ちゃんが現れた後も言えたら凄いぜおめー…。」
「そんなに凄いのですか?貴方のお母さんは?」
「ああ。あの世界的スター、シャロン・ヴィンヤードの一番弟子だったからな。」
「ええっ!!あ、あの特殊メイクすらやりこなすとまで言われた、メイクのスペシャリスト女優の?!」
「さすがに知ってるようだな、オメーは…。」
「ええ。留学していたイギリスでは有名ですよ。」

そこへ司会進行役の男子が現れ、後夜祭のダンスパーティの開会が宣言された。

と、同時にドレスアップした女子生徒達が現れ、次々と男達にエスコートされていった。

そんな様子を見ていた4人は…

「うわー…、確かにすげえや!!」
「ホンマやな、快…。」
「今年は女子のレベルが高いですね…。」
「こんな事で、驚くなよ…。本命の4人はもっと凄いはずだぜ。」

そうこうしいる内に、最後の4人…、つまり本命が現れた。

「さぁ、最後はスタイリストのお勧めの女性と、江古田と帝丹の人気投票No.1の女性が登場です!!!」
「いよいよ本命ってわけか…。」
「和葉もその中に入ってるんか?」
「服部、快斗、今の内に言っとく…。オメーらが持ってる和葉ちゃんと青子ちゃんのイメージが根底から覆されるぞ。」
「はぁ?!」
「そんなに、凄いのかいな。」
「先ず、江古田高校No.1に選ばれた小泉紅子さんです!どうぞ!!」

その紹介の後、現れた紅子は黒を基調としたシックなイブニングドレスを優雅に着こなしていた。
さらに、有希子によってその大人びた雰囲気に合うメーキャップを施されていた。
その姿は、正に魔女のイメージさせる物であった。

あっという間に快斗、新一、平次を除く(快斗は魔法にかからない、平次と新一はアウトオブ眼中)全員が魅了された。
白馬はいち早く彼女の元に駆けつけ優雅に挨拶した。

「黒き魔女の力は不思議だ…。ここにいる全ての男を魅了する…。私はぜひその力を解き明かしてみたい。」
「その前に、貴方が魅了されますわよ。」
「それもまた、一興かと…。」
「ふふ…、キザね…。」

そう言って、2人は躍り始めた。



暫らく、会場が呆けた空気になったが、気を取りなおした司会者が次の女性の紹介に入った。

「で、では次は帝丹高校No.1に選ばれた毛利蘭さんです!どうぞ!!」

その紹介の後、園子に押し出される感じで蘭が現れた。
彼女は、赤を基調とし、胸元を強調したイブニングドレスを見事に着こなしていた。
さらに有希子によって、可愛さの中にも大人びた色気をかもし出すメイクが施されていた。
紅子の魅了から覚めた男達はこぞって蘭に手を差し出しエスコートしようとした。
しかし、そこに新一が現れた。
他の男を蹴散らしながら…。


「オメーらごとき新参者は、お呼びじゃねーんだ…。俺は3歳の時から目を付けてたんだぜ。」
「し、新一…。」
「俺は、オメーに出会った時からパートナーとして産まれてきた存在として認識している。だから、それがいかなる物であったとしても、オメーのパートナーは俺以外ありえねーんだぜ、蘭。」
「な、何バカな事言ってるの!!リズム音痴の貴方が踊れるわけ無いじゃない!!」
「大丈夫…。俺は蘭さえ望めば、どんな奇跡でも起こして見せる。だからダンスぐらいは簡単だぜ。」
「な、何キザなこと言ってるの?!」
「蘭だから言うのさ…。それとも、俺が相手じゃ嫌か?」
「嫌じゃない…。」
「なら、問題ねーな。」

そう言った後、2人は躍り始めた。



その一部始終を見ていた二人は驚いていた。

「新一の奴、救いようの無い音痴だったはずだよな?」
「えらいもんや…、工藤の奴、他人の動きを観察してそれに合わせとる…。しかも蘭ねぇちゃんを気遣いながらや…。アイツ、ホンマ凄いやっちゃ…。」
「なんて奴だ…。」

舞台袖で覗き見ていた園子も驚いていた。

「やるわね…。さすが語る男。蘭が絡むとリズム音痴もカバーできるのね…。」

工藤新一…、蘭が絡むとその能力を200万倍に出来る男。(作者比)


「で、では次は飛び入り参加!改方学園遠山和葉さんです!!どうぞ!!!」

暫らく後、恵子に押される格好で和葉が出て来た。
彼女は、オレンジを基調とした少しアダルトなイブニングドレスを少し照れながら着こなしていた。
そして、メイクも有希子の手により大人びた印象を与える物になっていた。
その美しさを見た平次は…



ゴキッ!(←平次が石化した音)



文字通り固まっていた。



ゴチン、ゴチン…(←平次の歩く音)



まるでロボットのような歩き方で、コチコチになったまま和葉の所に行く平次…。

和葉もまた、戸惑っていた。
何時もは平次のお姉さん役を演じ、男に言い寄られる事などほとんど無かったが(もちろん、言い寄って来ているが彼女は気付いていなかった。)ここに来てこんなに言い寄られたので、軽いパニックに陥った。

「へ、平次…。た、助けてぇな…。」

そこに現れた平次はもっと悲惨であった。
コチコチに固まり、まるで石像が動くかの様に歩いて来たのだ。
それを見た和葉は驚いて、平次の方に歩み寄って来た。

「へ、平次…?ど、どないしたん?」
「か、和葉…。お、お前…、そ、その格好…。」
「あ…?これ…、工藤君のお母さんにしてもろたんやけど…、変やろ…、やっぱり。」
「変…な…訳…あるか…。似合ってるで…和葉。」
「うそ…。」
「うそ…言えるか…こんな時に…。」
「ホンマに…?」
「あ、当たり前や…。」
「よかったわぁ…。」

そう言って和葉は平次に抱き付いた。

周りにいた人達は勝手にやっていろと言った雰囲気になり、自然解散した…。
その一部始終を見ていた快斗は…。

「あれが、西の名探偵と言われた男とはな…。」


と、呆れていた。



「最後は、スタイリストお勧め!今までのイメージを脱却した中森青子さんです!!どうぞ!!!!」

その紹介の後、青子は暫らく恵子と揉めていたが、やがて彼女に押し出される格好で出て来た。
彼女は青色を基調とした、蘭と同じようなイブニングドレスをかなり照れながら着こなしていた。
メイクは有希子の手により、完全に大人のメイクが施され青子と紹介されなければ、蘭の双子の妹と見間違うほどになっていた。

それを見た快斗は…。


ビキッ!!(←快斗が石化し、硬直した音)



完璧に固まる快斗…。

一方、青子は沢山の男のエスコートにパニック寸前になっていた。
無理も無い…。
彼女はこんな事、生まれて初めてだったのだ。

パニックに陥った青子は、無意識に快斗を呼んだ。

「快斗ぉ!!!」

その言葉に、彼の頭のスイッチが切り替わった。

「宝石はダイヤの様に変質しない物ばかりではありません…。」

突然、雰囲気の変った快斗に驚きを隠せない一同。
無論、青子はその雰囲気に気付いていた。(他にもいるが、それどころでは無かった。)

「か、快斗…?(き、キッドモード全開になってる。)」
「ここにいるお嬢さんは、とてもデリケートなんですよ…そう、たとえば素手で触る事さえ不味い真珠の様に。」
「く、黒羽…、お前一体…?」
「私は、ただのしがないマジシャンですよ…。青く儚くもろくて小さな宝石に魅了された…ね。」

キッド特有の凛としたけはいに気圧され他の男達は青子の周りからいなくなってしまっていた。
そして、青子もまたキッドと化した快斗にうろたえていた。
だが、快斗はそんな青子を無視して、勝手にエスコートし躍り始めた。

「はわわ…。あ、青子…こ、こー言うの苦手なんだよっ!!(キッドモードの快斗苦手なんだよ…早く元に戻って…。)」
「ご心配なく…。私は宝石の扱いには慣れてますので…。」

そう言いながら、優雅に躍り続ける快斗と青子であった…。


それを見ていた恵子と園子は…。

「か、快斗君やるじゃない…。」
「うわー…、凄い!まるでキッド様の様じゃない!」

キッド本人とは気付かない園子であった。







江古田の文化祭は大好評の内に、幕を閉じた…。 


ちなみに、有希子は大満足で意気揚揚とロスに帰って行った。


オマケの改方編に続く。



第三話「文化祭・その一 帝丹編」に戻る。  第三話「文化祭・オマケの改方編」に続く。