Office love 番外編・鉛色の空が晴れる時



by新風ゆりあ様



(2)新しい親友



新一と平次が出て行った後、和葉が蘭に話し掛けた。
「堪忍な、出しゃばってしもうて。そやけど蘭ちゃん、今にも泣き出しそうな顔してたから気になってしもうて。工藤さんがさっき言うてたことが原因なんとちゃう?あ、あんたのこと、蘭ちゃんって呼んでも構へん?」

「あ、う、うん。構わないよ。私もあなたのこと、和葉ちゃんって呼んでもいい?」
蘭が答えた後、尋ねた。

「全然構へんで!これから宜しゅうな、蘭ちゃん!それより襲われかけたって言うてたけど、ホンマなん?」
和葉が答えた後、尋ね返した。

「うん。襲われかけたのは本当よ。でも新一が助けてくれたみたいで。私、すっごく嬉しかった。でも甘えちゃいけないよね。だって!だって!新一はもうすぐ内田産業の社長令嬢と結婚するんだから!」
蘭が答えた後、声を荒げた。

「蘭ちゃん、その話、誰から訊いたん?」
和葉が尋ねた。

「社員ならみんな知ってるわ。みんな言ってるわ!」
蘭が声を荒げながら答えた。

「蘭ちゃん、それって又訊きした話やな。うちも平次から又訊きした話やから、人のことは言えへんのやけど。蘭ちゃんが訊いとる話とうちが訊いとる話はちゃうで!うちが平次から訊いた話では、工藤さんは内田産業の社長令嬢との縁談、断ったっちゅう話やってん!何でも工藤さんは政略結婚はせえへんって言う条件で、藤峰の会社に入ったんやて。そやけど内田さんは工藤さんに政略でのうて一人の女として見てくれへんかって迫ったんやて。工藤さんはそれを訊いても頷こうとはせえへんかったって。付きおうとる女性がいてるから、その女性以外に考えられへんからって、きっぱりはっきりすっぱり断ったんやて!」
和葉が諭した。

和葉から真逆の話を訊いても、蘭にはまだ信じられなかった。

「う、嘘・・・!そ、そんな・・・!だって!だって新一は言ってたって訊いたんだから!同棲してるカノジョに対して、責任を感じる必要はないって!」
蘭が声を荒げた。

「訊いたって言うたけど、その話、誰から訊いたん?社員ならみんな知っとる話なん?」
和葉が尋ねた。

「ううん。この話は瑛祐君からだけど」
蘭が答えた。

「瑛祐君いうんは本堂常務の息子さんやったな。怪しいなぁ。そん人、ホンマに全部の話を訊いたんやろか?これはうちのカンなんやけど、そん人、自分に都合がええとこだけ訊いて、それを蘭ちゃんに言うたんやないかと思うで!」
和葉が諭した。

「自分に都合がいいとこだけ訊いたって?それ、どういう意味なの?」
蘭が尋ねた。

「何?蘭ちゃん、わからへんの?そん人は蘭ちゃんのこと、狙うとるいうことや!蘭ちゃんに好意を持ってるっていうことや!蘭ちゃんを好いとるっていうことや!」
和葉がエキサイトしながら答えた。

「瑛祐君が私のことを好き?そんなことないわよ、和葉ちゃん!」
蘭が取り成した。

(そうなんかな?うちは絶対そん人は蘭ちゃんのこと、好いとるって思うんやけどな。蘭ちゃんは恋愛に関して奥手で鈍いみたいやな)
和葉は蘭に訊かれることなく、ため息をついた。

「ねぇ。和葉ちゃんは何でそんなにも会社のことに詳しいの?服部さんの幼馴染兼婚約者だからなの?」
蘭が尋ねた。

「それもあるけどそれだけやない。うちは来週から平次の専属秘書としての入社が内定してるんや!そのための勉強もしたし!まぁ、みんなからはコネやとか、シンデレラやとか、玉の輿やとか、財産目当てやとか、悪口も言われるかも知れへんけど。そう言われることも覚悟はできてるし」
和葉が答えた。

「和葉ちゃんって強いね」
蘭が感心した。

「学生時代に合気道やってたから、身も心も強うなってん!」
和葉が微笑んだ。

「そうなんだ!私は空手をやってたんだ!」
蘭が目を輝かせた。

「それも平次から訊いたで!なんでも関東大会で優勝したんやってな」
和葉が微笑んだ。

「服部さんがそんなことを?服部さんが和葉ちゃん以外の女の話をしても、和葉ちゃんは平気でいられたの?」
蘭が尋ねた。

「もちろんや!うちは平次のこと、信じてるから!それに平次はうちに最初から言うた。蘭ちゃんは工藤さんのカノジョやて」
和葉が答えた後、微笑んだ。

「ねぇ、和葉ちゃん。さっきの話、本当なの?本当に新一は内田産業の社長令嬢との縁談、断ったの?」
蘭が尋ねた。

「ホンマやで!そやからもっと自信持たなアカンで!蘭ちゃん!」
和葉が答えた後、付け足した。

「じゃ、新一が私に話したいことがあるって言ってたのは、別れ話なんかじゃなく、その逆だっていうの?和葉ちゃんはそう思ってるの?」
蘭が尋ねた。

「工藤さんはうちが大好きな平次が心底惚れ込んだ人や。そやから工藤さんが蘭ちゃんに言うた話したいことって言うんは、別れ話やのうて、プロポーズやと思う」
和葉が答えた。

蘭は感極まり、大粒の涙をこぼした。

(和葉ちゃんの話は本当なのかしら?本当だったらすごく、すごく嬉しい。新一が戻って来たら、私から訊いてみようかしら?)
蘭の心に変化が生まれた。

(和葉ちゃんって強いな。私も強くなりたい。身体だけじゃなく、心も)
蘭の心の中に、強い思いが沸き上がった。

(何故かしら?すごく不思議。今日初めて会ったばかりなのに、和葉ちゃんは何でこんなにも私に親身になってくれるんだろう?ずっと、ずっと前から友達だったような、そんな気にさせられる)
蘭は心が温かくなるのを感じた。

(和葉ちゃんは私がここから出て行かないように見張る積もりなんだ、なんて。何で私はそんな風に思ってしまったんだろう?何で私はそんな風に解釈してしまったんだろう?きっと私、疑心暗鬼になってたんだわ。ゴメンね、和葉ちゃん。疑ったりして)
蘭は心の中で、和葉に謝った。

「なぁ、蘭ちゃん。今日はめっちゃええ天気やし、東京を案内してもらえへんやろか?うちは大阪から上京して来たばかりのお上りさんやから、右も左もわからへん。蘭ちゃんは東京生まれの東京育ちなんやろ?うち、東都タワーとかベルツリーとか行ってみたいんや!蘭ちゃんかて今日みたいに天気のええ日には外に出てみよ思うやろ?少し息抜きせんとアカンと思うで!そうせんとまた変な考え起こしてまうで!」
和葉が頼み込んだ後、微笑んだ。

(和葉ちゃん、私が疑心暗鬼になってたことに気付いてたんだ)蘭は目を丸くした。

「そうね!じゃ、行こうか!」
蘭が立ち上がった。

すると和葉も立ち上がった。

「蘭ちゃん、今物凄くええ顔してるで!ずっとそういう顔してへんとアカンで!もう変な考えするんはアカンで!」
和葉が微笑んだ。

そして二人は工藤邸を出て、東都タワーに向かった。




東都タワーの展望台に着いた二人は、眼下の景色を楽しんだ。

「うわ〜っ!めっちゃ高いなぁ!人も車も豆粒みたいに見えるわ〜」
和葉が感心した。

「ふふっ。ここにお父さんがいたら気絶するかも。私のお父さん、高所恐怖症だから」
蘭が笑った。

「へ〜っ。そうなんや〜。ほな、蘭ちゃん。次はベルツリーに連れてってや!」
和葉が微笑んだ後、頼み込んだ。

そして二人はベルツリーに向かった。




二人がベルツリーに着くと、そこには園子がいた。

ベルツリーは鈴木財閥が建造したので、その関係で園子はベルツリーにいたのだ。

「あれ?蘭じゃない!どうしたの?仕事は?今日は平日よね?」
園子が尋ねた。

「あ、ちょっと今日はお休みしたの」
蘭が答えた。

「蘭ちゃん、そん女の人、誰?」
和葉が怪訝げな顔で尋ねた。

「あ、私の親友で鈴木財閥の会長の娘の鈴木園子よ。園子、こっちは私が勤めてる会社の副社長の幼馴染兼婚約者の遠山和葉ちゃんよ!」
蘭が和葉に園子を紹介した後、園子に和葉を紹介した。

「初めまして!遠山和葉や!宜しゅうな、園子ちゃん!あ、あんたのこと、園子ちゃんって呼んでも構へん?」
和葉が名乗った後、微笑み、尋ねた。

「初めまして!鈴木園子よ!宜しくね!私のこと、名前で呼んでもいいわよ!私もあなたのこと、和葉ちゃんって呼んでもいい?」
園子が名乗った後、答え、尋ね返した。

「全然構へんで!」
和葉が答えた。

(今日初めて会ったばかりなのに、園子と和葉ちゃん、もうすっかり仲良くなっちゃってる)
蘭は目を丸くした。

「蘭、会社を休んだって、どーゆーこと?病気ってことはないわよね。だってこうして出歩いてるし。会社で何かあったの?例えば誰かにいじめられたとかなんじゃないの?」
園子が気遣わしげな顔で尋ねた。

「それなんやけど、実は蘭ちゃん、会社で男性警備員に襲われかけたんやて」
園子の疑問に和葉が答えた。

「えっ!?そうなの?蘭、危ないじゃない!気をつけないと!も〜っ!蘭ってばしっかりしてるようでその実抜けてるんだから!」
園子が驚いた後、気遣い、ため息をついた。

「う、うん。ごめんね、園子。心配かけちゃって」
蘭が謝った。

「で?その男性警備員、その後どうしたの?警察に突きだしたの?」
園子が尋ねた。

「あ、うん。瑛裕君が警察に突きだしたみたい」
蘭が答えた。

「瑛裕君?それ誰?蘭のカレシ?」
園子が怪訝げな顔で尋ねた。

「ち、違うわよ!瑛裕君は私の部下で、私が勤めてる会社の常務の息子さんよ!」
蘭が慌てながら答えた。

「そうやで!園子ちゃん!蘭ちゃんのカレシは本堂常務の息子やのうて、蘭ちゃんが勤めてる会社の社長の工藤さんや!」
和葉が割って入った。

「え゛っ!?蘭のカレシは蘭が勤めてる会社の社長さんなの?蘭は公私の区別をつけると思ってたのに!」
園子が驚いた後、詰め寄った。

「か、和葉ちゃん!なんでしゃべっちゃうの!」
蘭が咎めた。

「えっ!?言うたらアカンことやったん?工藤さんは蘭ちゃんとの結婚を真剣に考えてるんやと思うたんやけど、そうやないの?」
和葉が驚いた後、尋ねた。

「そ、それは・・・!」
蘭が言葉に詰まった。

「ごめん、蘭。責めるような言い方して。今のは私が悪かったわ。社長さんを好きになったんじゃなく、好きになった人がたまたま社長さんだったんでしょ?」
園子が謝った後、尋ねた。

「うん・・・」
蘭が頷いた。

「でも私も和葉ちゃんと同じように、その社長さんは蘭との結婚を真剣に考えてると思うわ!それよりもさぁ、その本堂常務の息子とやら、ちょっと気になるわね。これは私のカンなんだけど、そやつ、蘭に気があるんじゃないの?蘭に好意を持ってるんじゃないの?」
園子がにやついた。

「あっ!園子ちゃんもそう思うんや!実はうちもそう思うんよ!」
和葉が自分の考えを口にした。

(も〜っ。なんで園子も和葉ちゃんもそう思うのかしら?そんなはずないのに)
蘭は苦笑した。

「ねぇ、蘭。そやつに誘われたこととかないの?例えば都内の美味しい店に行かないか?とか」
園子が尋ねた。

「そ、そういえばラーメン食べに行かないか?って誘われたことはあったけど。でもそれはみんなで食べに行こうって話よ」
蘭が答えた。

「も〜!蘭ってば。みんなで、なんて、そんなの口実よ!こ・う・じ・つ!は〜っ。蘭ってばなんでこんなにも色恋沙汰に疎いんだか」
園子が呆れた。

「うちも園子ちゃんと同じ意見や!」
和葉が園子の意見に同調した。

「あ、やっぱり和葉ちゃんもそう思うのね!私と一緒なのね!」
園子が意気込んだ。

「や、やだなぁ、二人とも。そんなはずないわよ!」
蘭が否定した。

「じゃ、今からその本堂って人を呼び出して、直に訊いてみようじゃないの!幸いもうすぐお昼休みだし。蘭、そやつの携帯の番号知ってる?」
園子が息巻いた後、尋ねた。

「うん。知ってるけど。ねぇ、ホントに呼び出すつもりなの?」
蘭が答えた後、尋ね返した。

「ホンマに呼び出すで!ほんでもって本堂さんにちゃんと釘刺さなアカン!蘭ちゃんは工藤さんのカノジョなんやから、手ぇ出したらアカンって!」
蘭の疑問に和葉が息巻きながら答えた。





三話目に続く