君に会いたい



byドミ



(3)憎まれ口が恋しいなんて、呆れたものだと思う



「蘭ちゃん、どうしたの?話がつまんない?」
「あ。いえ、大丈夫です。聞いているだけで面白いですから」

わたしは愛想笑いを顔に貼り付けて、声をかけて来る男性・中山さんに言った。
園子のお姉さん・綾子さんの、大学の同期の方が、別荘で泊まりがけの親睦会を行う事になった。
そこにわたしも、園子と共に招待されて、一緒に過ごしているのだった。

男女数人のグループ。
カップルの人達や別の場所に恋人がいる人もいるけれど、恋人なしの男女も数人いる、って事で。

「結構イケメンが多いらしくて楽しみ!」

と、園子は張り切っていた。

「園子。この間の海江田さんはどうなったの?」
「ああ、あの人、全然駄目!ケチだし紳士じゃないし!だからもう、次に乗り換えるの。蘭だって帰って来ない薄情男の事なんか忘れてさ、パーっと楽しもうよ、ね?」
「まったくもう!」

わたしは園子の、こういう割り切り方も、気持ちの切り替え方も、決して嫌いではない。
ともすれば、妙に堅く考え込んでしまうわたしを、園子はあっけらかんとした明るさでいつも救ってくれる。

わたしだって、別に男嫌いって訳じゃないし、男女問わず新しい人と知り合って仲良くなれるのは、嫌じゃない。
ただ。
友達という枠を超えて近づこうとする男性は、苦手だった。


今日は、ハイキングをした後、広い食堂で晩餐会を兼ねたパーティが行われている。

今、わたしの横でしきりに話しかけて来ているのは、綾子さんと同期の中山さん。
悪い人じゃないけど、そういう意味で興味を持たれても、困る。
隣の園子に助けを求めようと見ると、園子はそのまた隣の男性・竹田さんと談笑していた。

「山も良いけど、海も良いよね」
「え?は、はい、そうですね」
「今度、海辺をドライブしようよ、2人でさ」
「え?あ、あの。わたしはそういうの・・・」
「蘭ちゃん、彼氏いないんでしょ?だったら、良いじゃん」
「でもわたし、好きな人がいるので・・・」

わたしは、肝心の本人に向かって・・・ううん、園子やクラスメートや家族に対しても言えてない事を、口に出す。

「えーっ?何々、そいつ、蘭ちゃんに片思いさせてるワケ!?」
「い、いえその、させているとかそういうんじゃ・・・」
「こんなに可愛い蘭ちゃんの魅力に気付かないようなイケズ男、ほっとけよ」
「えっあの・・・」
「その、吸い込まれそうな大きな瞳。一目見た時から、目が離せなかった」
「またまた〜。綾子さんの同級生には、美人な方がとっても沢山いるのに」

わたしは、笑いが引きつるのを感じながら、迫って来ようとする中山さんから少し距離を置いた。
たとえお世辞でも、褒められたら悪い気はしない筈なのに。
何故だろう?
中山さんの言葉は、上滑りしてわたしの心に入って来ない。

「いやいや、大学生になるとみんなお化粧で誤魔化してるだけだよ。蘭ちゃんは、スッピンでもすごく綺麗で。でも、とても清楚で可憐で・・・たとえ彼氏がいたって、俺は諦めないよ」

中山さんの熱っぽい眼差しに、いたたまれなくなる。
彼が真剣に言ってる事は、分かるのだけれど。
わたしの心には全く響かないの。

実際のところどうなのかは分からないけど、中山さんは見た目真面目そうで、言葉の中身はともかく、言い方はちゃらくないんだけど。
どんなに美辞麗句並べられても、薄っぺらい感じがしてしまう。

その理由は、分かっている。
中山さんが、彼ではないからだ。

何でわたし、彼以外の男の人と、ここでこうしているんだろう?


『へえ、なかなかじゃん。馬子にも衣装で似あってんぜ』
『相変わらずの間抜け面見れて、ホッとした』
『ったく、凶暴で短気な女だな〜。オメーの本質知ったら、逃げ出す男、多いと思うぜ』

思い浮かぶのは、彼のセリフ。

・・・って、よく考えたら、憎まれ口ばっかじゃない?
あいつ、すっごく気障なんだけど。
考えてみたら、わたし相手に気障なセリフひとつはいた事なんか、ないんだよね。

中山さんのセリフを彼の口から聞けたら・・・って、望む方が間違ってる?
何となく、どよ〜んと気分が落ち込んで来た。



と、突然。
中山さんを押しのけるようにして、わたしとの間に割り込んで来た姿があった。
そして、わたしの膝の上に乗って来る。

「蘭姉ちゃん、このケーキ、全然食べてないじゃない。どうしたの?」

その小さな彼は、つぶらな瞳でわたしを見上げて、言った。

「コナン君・・・」

中山さんは、不機嫌そうな顔になって舌打ちした。

「図々しいガキだな」
「ごめんなさい!この子、うちで預かってる子で、今日、面倒見る人がいないから・・・」
「あ、いや、ハハハ、蘭さんに文句言ってるんじゃないんですよ」

中山さんは、引きつった笑いを浮かべる。
わたしは正直、ホッとしていた。
じわじわと接近していた中山さんとの距離が開いた事に。

最初、コナン君は、連れてくる予定じゃなかった。
わたしを迎えに来た綾子さんの車のトランクに、いつの間にかコナン君が忍び込んでいたのだった。
でも、来てくれて良かった、助かったと、正直思っている。


新一がいなくなってから、こういう不愉快な思いをする事が多くなった。
今迄全く意識していなかったけれど、どこに行くにも大抵新一が一緒だったから、防波堤になってくれてたんだって思う。

こういう時に、上手くあしらえない、わたしが悪いのかな?
もしコナン君がいなかったら・・・もしかして、空手技が出てやばい事になってしまっていたかもしれないって、思う。

いざとなった時、空手に頼るんじゃなくて、さり気なく上手に交わせるようになりたい。

「園子。申し訳ないけど、気分がすぐれないから、先に部屋で休ませてもらうね」
「え!?良いけど・・・蘭、大丈夫なの?」
「うん。休めば治ると思うから」

わたしは、心配そうに見上げるコナン君の手を引いて、わたしに割り当てられた部屋へ向かった。


後日。

「聞いてよ蘭!竹田さんったら全然見掛け倒しでさあ!散歩に行ったら、茂みがガサガサ鳴っただけで『熊〜!』って震えあがって・・・もう、幻滅!」

という園子の愚痴を聞く事になるのだけれど。
それはまた、別のお話。


部屋に入って、ベランダからコナン君と一緒に星を見上げる。

「あいつが今いるところ、星は見えるのかなあ?」

思わずこぼれてしまう、わたしの気持ち。

「蘭姉ちゃん?」
「あいつの憎まれ口すら恋しいなんて、相当重症だよね」

わたしは苦笑を浮かべて言った。

あれ?
コナン君の顔が、気のせいか、赤くなってるような?


「新一兄ちゃんの憎まれ口は、ただ、照れてるだけだって思うよ」

わたしの手を握り、必死な様子で、頬を染めて言うコナン君。
わたしってば・・・こんな小さな子に気を遣わせてしまったんだわ。

「それより蘭姉ちゃん、体、大丈夫なの?」
「平気よ。ただ単に、あそこにいるのが気詰まりだっただけだから」
「だったら、良いけど・・・」
「明日は、お花畑があるって方に、散歩に行ってみようか?」
「うん!」


コナン君の小さな手を握り、その温もりを感じながら。
わたしはあいつの事を想っていた。

あなたも、同じ星空を見上げていると良いな。




To be continued…….



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一応、言い訳させて頂くなら。
このお話は、「京極さん登場前設定」です。園子ちゃんの言動は、その積りでお読みください。
最初は京極さん登場後設定で考えてたんですが、そうなるとちと冗長になってしまうもんで、止めました。


お題提供「as far as I know(わたしのしるかぎりでは)」


(2)「見せたいものが、たくさん溜まっているんだよ」に戻る。  (4)「雨上がりの空を、あの日君が見上げていたから 前編」に続く。