君に会いたい



byドミ



(5)居ない間もちゃんと、君はここに居てくれている



ねえ・・・あなただったら、こんな時、どうする?


彼がいなくなってから、わたしは何度も、そう自問する場面に遭遇して来た。

事件に遭遇した時。
誰かが助けを求めている時。
人を傷つけたり殺したりした犯人が、自分勝手な理屈を振りかざした時。

いつもわたしは、心の内で彼に問いかける。
彼にあるのは、絶対の優しさと、揺るぎない正義感。

あなただったらこんな時、まず、命を助ける事を優先する。
あなただったらこんな時、信頼する人が犯人じゃない証拠を必死に探し回るだろう。
あなただったらこんな時、どんなに苦い事でも、真実を受け入れる。

きっと、あなただったら、こんな時絶対に、わたしが正しいと思える道を行く。

だから、わたしはいつも。
彼だったらきっとこうするだろうと考えて、動く。


わたしの中にあるのは、彼への恋心だけじゃなく、絶対の信頼感。
あなたは、わたしの心の中に、いつもいる。
いつも、ここにいてくれる。


心の中のあなたが、いつも、わたしの支えになってくれていたの。




でも・・・。




あなたは、ずっと、いたのね。
ずっと、わたしの傍に、いてくれたのね。


その事実が、嬉しくて・・・嬉しくて、でも、同時に辛い。



わたしがうかない顔をしていたからだろう。
夕飯の時、コナン君が声をかけて来た。


「蘭姉ちゃん、どうしたの?」
「あ・・・何でもないよ。コナン君、どうして?」
「何か、蘭姉ちゃん、顔色が悪いような気がするから」
「大丈夫。考え事してただけで、体調は悪くないから」


そう言って、わたしは笑って見せた。


コナン君は、いつもわたしを気遣ってくれる。
新一がいない心の隙間を、寂しさを、随分と慰めてくれた。
今では、わたしに取って、弟同然の存在になっている。


コナン君の優しさは、何の為?
わたしを騙している罪の意識から?
ここにお世話になっているから?
お芝居?



ううん。
コナン君の優しさは、彼本来のもの。


新一と同じ。
新一の優しさと、コナン君の優しさとは、同じ。



ただ、新一とわたしとでは、幼馴染みで気の置けない・気心が知れ過ぎている間柄だった事もあるし、わたしもいつも強い口調で憎まれ口ばかり叩いていたから。
新一はわたしに、あんまりストレートに優しい態度を示さなかったけど。

でも、いつも気遣ってくれていた事、いつもさり気ない優しさをくれていた事を、わたしは知っている。



コナン君の場合、その優しさがストレートに出ているだけなんだ。
それは、わたしが・・・新一に対してのように、強い態度を取らないから、なんだと思う。




コナン君があまりにも、新一に、似ているから。

その容姿が。
その仕草が。
その表情が。
その推理力が。
その行動力が。
その好みが。
その正義感が。

だから、何度も何度も、疑って来た。
でも、その度に、否定されて来た。



だけど、だけどね。
今度は、騙されないわよ、わたし。


ただ、コナン君を問い詰めたり追い詰めたりしたって、知恵を絞って否定されてしまうだけ。



だからわたしは、もう、追及しないって、決めたの。
わたしの心の中に収めて、もう、何も言わないって、決めたの。



ううん。
きっと今回も否定されるだろうから、じゃない。




雨上がりの空を見ていたあなたの姿を見て、わたしは分かってしまった。



もしも、わたしの疑いから逃れられないとなったら、その時は。
あなたは・・・わたしの元を去ってしまう。
きっと、目の前からいなくなってしまう。




彼にとって、非力な子供の姿になり、事件現場でも邪魔者扱いで、小学校に通わなければならないなんて、どんなに辛い事だったろう。
それでも、その姿でいるという事は。

簡単には、元に、戻れないんだ。
そして、隠さなければいけない、絶対に隠し通さなければいけない、事情があるんだ。




・・・もしも、秘密がばれたなら。
それは、あなたがわたしの元を去ってしまう日。

だからわたしは、気付かない振りをする。
これからも、ずっと。



どんな姿であったとしても、事実をわたしに隠していたとしても、それでも。
あなたが、わたしの傍にいるのなら、それで良い。




何があったの?
どうして、その姿になったの?
あなたは、どんな戦いをしているの?

・・・どうしたら、戻れるの?


そういった言葉を全て呑み込んで。
わたしは、あなたの目の前で、笑顔を作る。



今は。
何も聞かずに、わたしはあなたと一緒にいられる、この時間を大切にして行きたい。




To be continued…….



お題提供「as far as I know(わたしのしるかぎりでは)」


(4)「雨上がりの空を、あの日君が見上げていたから 後編」に戻る。  (6)「頼みを一つ、一つでいいから、聞いてくれないか」に続く。