君に会いたい



byドミ



(6)頼みを一つ、一つでいいから、聞いてくれないか



携帯電話の着メロが鳴った。
ディスプレイの名前を見て、息を呑む。

「もしもし。新一?」
『ああ』

懐かしい、声。
涙が出そうになる。

今、どこにいるの?
何をしているの?

・・・いつ、帰って来るの?

そういった言葉を、わたしは飲み込む。
だってわたしは、その答を知っているもの。
最後の問いを除いて。

『蘭?何かあったのか?』
「え?ううん、何もないよ、どうして?」
『いや。オメーが何も訊かねえから・・・』


あなたは、こういう時、いつもどんな顔をしているんだろう?
電話越しに聞くあなたの声は、「今のあなたの声」じゃない事を、もう、わたしは知っている。

あなたはどうやって、「17歳の新一の声」を、出していたの?


「何を、訊いて欲しいの?」
『あ、や、別に。そうじゃなくて』
「わたしは・・・新一の声を聞けるだけで、イイよ」

電話の向こうで、息を呑む気配。
あなたは、わたしの言葉を、どう受け取ったのかしら?


いつものように、他愛もない会話を交わす。
学校のちょっとした事、お父さんやコナン君と共に関わった事件。

「そう言えば。新一って、いつの間にか・・・」
『んあ?』
「園子に恋人が出来てる事、知ってたよね」

わたしは、ちょっと意地悪く、言ってみる。
こういう時のあなたの言い訳は、いつも同じ。

『あ、ああ、それは・・・眼鏡の坊主に、電話で聞いたんだよ』

ほらね。
いつもあなたの言い訳は、同じ。

そしてわたしは、更に意地悪く、コナン君の事へと話題を移す。
いつからだろう?
コナン君の事を話題にしていると、あなたが微妙に、話を逸らしている事に気付いたのは?

「・・・でね、その時、コナン君が・・・」
『蘭』

今も。
わたしの話を遮るように、彼がわたしの名を呼んだ。
いつも、話題を逸らしはするけど、こんな風に話の腰を折ろうとはしないのに。
今日はどうしたのかしら?

「なに?」
『頼みを一つ、一つでいいから、聞いてくれないか』

突然。
何の脈絡もなく発せられた、新一の言葉に、わたしは戸惑った。

「た、頼みって・・・何?」
『もうすぐ、江戸川文代さんが、コナンを迎えに来る』
「えっ!?」
『・・・何を驚いてるんだ?当然だろ、親元に帰るのは』
「う・・・うん・・・」

目の前が暗くなりそうになって。
心臓がバクバク音を立てる。

なぜ?どうして?
いなくなるの?
わたしの元から、行ってしまうの?


『その時。あいつに、お前の涙を見せないで欲しい』
「・・・え?」
『笑顔で、送ってやって欲しいんだ』


それが。
「あなたの」望み、なの?

わたしは、震える手で受話器を握り締めた。

「出来るかどうか、分からない・・・自信ないよ」
『・・・蘭』
「だって!」
『また、会う約束の為に。行くんだ。だから・・・』
「!」


わたしは、息を呑んだ。
また会う約束の為に。

あなたは、帰って来る。
その為に、行くのね?


「分かった。頼みを聞いてあげる」
『蘭。ありがとな・・・』


そうして、電話は切れた。

約束は守るわ。だから。
今夜は、今夜だけは、ひとりで泣かせてね。

きっと、あなたにも、わたしが飲み込んだ言葉は伝わっている筈。


コナン君との別れの時は、きっと笑顔で見送るから。




To be continued…….



お題提供「as far as I know(わたしのしるかぎりでは)」



(5)「居ない間もちゃんと、君はここに居てくれている」に戻る。  (7)「行ってらっしゃい、きっとこの腕の中にお帰りなさい」に続く。