探偵戦隊ディテクティブ・アイズ



Byドミ



第1章



(3)身代わりロボット



 新一はふと気になった事を訊いてみた。

「なあ博士。この探偵戦隊の呼び出しがどの程度の頻度であるかは知らねえけど、いきなりちょくちょく俺達が居なくなったりしたらまずいんじゃねえか?」
「せやなあ・・・探偵として警察の依頼があった場合と違うて秘密部隊なんやろ?」

平次も新一の言葉に頷く。

「任せなさい。対策はバッチリじゃ!」

そう言って博士が渡してくれた物は、小さなのっぺらぼうの人形だった。

「鼻の所を押して見なさい」

博士の言葉どおり、新一が人形の鼻を押してみる。

「うわわわわっ!」

その人形はブルブルと震えたかと思うと、急速に大きくなって人の形を取った。
今の新一と全く同じ、黒衣の騎士の格好である。

「俺は高校生探偵・工藤新一。宜しくな」

変身した人形がマスクを取って挨拶する。
顔も声も髪型も、何もかもが新一と寸分違わぬ姿になっていた。

「それは複製ロボットでな、鼻のスイッチを押した者の姿や声だけでなく、能力・性格・記憶までもそっくりそのまま写し取っている。勿論、身代わりという任務に忠実じゃから、安心して留守を任せられるぞい」

それぞれに、複製ロボットの鼻を押してみる。
今の自分と寸分違わぬ姿を取ったロボット達を、皆、薄気味悪そうに見詰めていた。

「なあ・・・この設定って、どっかで見た事あるよな・・・」
「ああ、あれやな。チームの中にチンパンジーと女の子と関西人商人と赤ん坊が入ってる・・・」
「ああ、あれか?あれも戦隊物の走りと言えなくもねえよな」

こそこそと話し合う新一と平次。一方快斗は真っ青になって言った。

「お、俺・・・この手のやつは駄目・・・複製ロボットなんて・・・マジ吐きそう」

快斗の言葉に、快斗の複製ロボットが口を開いた。

「ああ。オリジナル快斗、オメーは以前、オメーの複製ロボットを作られて、ひでー目に遭ったからな。けど、俺達なら大丈夫だぜ。ロボット三原則が組み入れられてっからよ」
「三原則って・・・アシモフのか?」
「そうそう、それ」

快斗と快斗コピーの会話に、その場に居た平次と阿笠博士以外の面々は首を傾げる。

「黒羽、何だよ、そのアシモフとかロボット三原則とか?」

新一が快斗に尋ねる。

「それについてはワシが説明しよう」

阿笠博士が得意そうに言った。

「アシモフのロボット三原則とは、SF作家の大家であるアイザック・アシモフが自分の作品の中で提唱したもので、以後、様々なSF作品の中で使われるようになったものじゃ。元々は小説の中の設定じゃが、WMOではロボットを開発するに当たってその三原則を基本的に組み入れる事を大前提としたのじゃ」
「アイザック・アシモフって聞いた事あるか?」

そう問う新一に、平次が大仰に驚いて見せた。

「何や工藤、あのごっつ有名な作家を知らへんのか?ほんま推理以外の事はいけてへん奴やな」
「うっせーな。俺はSFなんかには興味ねえんだよ!」
「工藤。いっぺんアシモフの『鋼鉄都市』読んでみいや。あれはSFとしても傑作なんやけど、推理もんとしても定評あんで。しかもロボット三原則についても判り易う書いてあるから、勉強になるで」
「わーった、今度読んでみるさ。で?博士、その三原則とは?」
「ロボット三原則、それは、ロボットが如何に優秀であっても決して造物主である人間に逆らわないよう、基本プログラムされたものでな。

1、ロボットは、人間を殺したり傷つけたりしてはならない。また、その様な状況を見逃してもならない。
2、一に抵触しない限りにおいて、ロボットは人間の命令に忠実であらねばならない。
3、一に抵触しない限りにおいて、ロボットは自分の身を守らなければならない。

というものなのじゃ」
「人を傷付けたり、人の命令に反したり、自爆したりしてはいけないって事か・・・なら・・・」

『探偵を代わりにさせるのは無理だな・・・まあいくら俺の複製ったって、俺以外の奴に探偵を任せようとは思わねえけどよ』
『探偵は身代わりさせられへん言う事やな。俺と同じ能力持ってる言うたかて、細かいとこで信頼でけへんやろうし、その方が無難やろな』
『怪盗キッドをさせるのは無理だな。元より、ロボット如きに俺の代わりを務めさせようとは思ってねえけどさ』

男達三人の心の声を読んだかのように、阿笠博士が言った。

「色々な意味で、君らの仕事を肩代わりさせるのは無理じゃろうて。世間に対してのアリバイという事で、学生生活をさせるのが無難じゃな。当然の事ながら、警察上層部に話は通っておる。こちらの活動の方が優先されるから心配無用じゃよ」

大馬鹿推理の介と推理ドアホウは揃って溜息を吐いた。
推理に人生をかける彼らにとって、推理を放り出して戦隊活動をしなければならないと言うのはかなり辛い事である。

「オリジナル。俺は犯人を捕まえたりなんか出来ねえけど、その分出席日数を稼いでやるよ」

新一コピーがそう言って新一の肩をポンポンと叩いた。

「ああ・・・宜しく頼む」

新一はそう言ったが、どことなくその態度はよそよそしい。

「オリジナル。不愉快なのはわかっけどよ、探偵たるものポーカーフェイスが必要だぜ」

そうロボットに言われて、新一はますます憮然となった。

「俺もおとなしゅう学校で授業を受ける事にしとくで、まあ頑張りや。けど部活には出られへんからその点は了承しといてや」

平次コピーが平次の肩に手を置いてそう言った。

「ああ。剣道は人を傷つける怖れがあるからでけへんのやな」
「せや。オリジナルの代わりにでけへん事意外と多いんやけど、出席日数だけは任せてや」

一方、探偵ではない黒羽快斗もこっそり溜息を吐いていた。
怪盗キッドとしての活躍の途中に呼び出しがあったりしたらたまったものではないが、それはここで口に出せない。

「ま、色々な言い訳位はしてやるよ、オリジナル」

快斗コピーが快斗の肩をポンと叩いてそう言った。

「言い訳って・・・おい」
「学校では普通のマジックオタクで過ごすさ」
「マジックオタクに普通とか特殊とかあんのか?」

快斗は快斗コピーに不毛な突込みをしていた。

一方、女性陣は・・・三人が六人になってお喋りが更に過熱、文字通り「姦しく」なっていた。

「え〜、蘭ちゃんってそうなん?」
「やだあ、コピー蘭ちゃん、そんな事ばらさないでよお」
「ごめんね、オリジ蘭ちゃん」
「・・・オリジ和葉ちゃん、あんたはもっと素直にならなあかんで」
「コピー和葉ちゃん、あんたにそれ言われると何やむかつくわ」
「和葉ちゃん達、自分同士で喧嘩しないで」
「オリジ青子はね、ごにょごにょ・・・」
「え〜!?そうなのお?」
「や、やだあ、コピー青子、そんな事言わないでよお」
「青子ちゃんらも、自分同士で喧嘩したらあかんで」

男達が(ロボットも含めて)呆れ果てたように見ていると、ふいに蘭二人がとことこと黒衣の騎士の格好をした新一の元に駆け寄って来た。

「ねえねえ新一、どっちが本物か見分けつく?」

言われた相手は、顔を顰めて言った。

「判る訳ねえだろ、全く同じように複製してんだからよ」
「え・・・?やっぱり判んないんだ・・・」

二人の蘭が肩を落としていると、ふいに蘭の一人が後ろからぐいと肩を抱き寄せられた。

「きゃあっ!」

肩を抱き寄せられた蘭が思わず悲鳴を上げて振り返ると、そこにはもう一人の黒衣の騎士が立っていた。

「え?し、新一?」
「オメーの方が本物」
「え?」
「ついでに言うなら、工藤新一はこっちが本物。身代わりロボットに蘭達の区別がつく訳ねえだろ!」

新一は物凄く不機嫌な声で言った。
仮面を被っていて判らないが、多分その表情もかなりの仏頂面であろうと思われる。

「お〜、さすが工藤やな。自分の女はちゃんと区別がつくんか」
「へえ、流石は名探偵。お見それしました」
「工藤君、凄いなあ」
「ほんとほんと、青子、感心しちゃった」

残る四人+ロボット達+阿笠博士がやんややんやと拍手を送る。

「だだだ誰が俺の女だ!」

新一が思わず怒鳴る。
平次が呆れたように言った。

「そんな風に抱き締めとって違うと言い張るんもある意味凄いで」

平次にそう言われて、新一と蘭は改めて自分達の状態に気付く。
先程新一が蘭の肩を抱き寄せ、勢いのまま殆ど抱き合うような格好になっていたのだった。

二人は慌ててパッと離れた。
蘭の顔は真っ赤で、新一も仮面から出ている部分は首筋まで真っ赤になっていた。

「ところで工藤、どうやって見分けがついたんや」
「どうって言われても・・・何となく。けど蘭には区別つかなかったんだよなあ、はあ、ちょっとショックかも」

新一が溜息を吐いた。
蘭が申し訳なさそうに言う。

「ごめんねごめんね新一。だって新一達は仮面被ってるし・・・それにコピー蘭ちゃんが真っ直ぐコピー新一の方に私を引っ張って行ったから、何だか違和感あったけど、てっきり・・・」

蘭がそう言うと、コピー新一が呆れたようにコピー蘭に向かって言った。

「オメーも意地がわりいな。わざとそうしたろ?」
「うん。ちょっと・・・オリジ蘭ちゃんに意地悪したくなっちゃって。ごめんね」

そう言ってコピー蘭はペロッと舌を出した。

「おい。コピー新一、どういう事だ?」

新一がコピー新一に詰め寄る。

「ああ。あのな、俺達身代わりロボットには、オリジナルかコピーかの区別はつくんだ。だからさっきも本当はどっちが本物かちゃんとわかってた。コピー蘭にも勿論わかってた筈だ。けどそれは、オリジナル新一、あんたのような直感などではねえ。俺達ロボットは三原則を守る為に、相手がロボットか人間かの区別が出来るようになっている。だから例えば、データ上区別がつく特徴がないそっくりな一卵性双生児の区別をしろと言われてもきっとわかんねえと思うぜ」

新一は内心、性格までそっくり写す筈のロボットも、やはりオリジナルとは性格が異なると思っていた。
オリジナルの蘭なら、こんな風な意地悪はしない筈だからである。



複製ロボットがオリジナルの恋心まで複製してしまい、それ故の切なさを秘めた意地悪をした事を、この先も新一達が知る事はない。



探偵戦隊ディテクティブアイズ第1章(4)に続く





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