探偵戦隊ディテクティブ・アイズ



Byドミ



第1章



(4)初めての出動



探偵戦隊を結成した6人だが、その後暫らくは平穏な日々が続いていた。

と言っても、普通に(?)事件は起こる。
新一も平次も、高校生探偵としての活動を普通にこなし、時々は「月下の奇術師」怪盗キッドが世間を騒がせ・・・そういう風に日常が過ぎて行った。



ある日の帝丹高校にて。
授業中にも関わらず、突然校内放送が響き渡った。

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」

学校全体が意味不明の放送にざわめく。
縁起でもないと顔を顰める者も居る。

二年B組の教室では、高校生探偵工藤新一が頭を抱えていた。
この念仏は親鸞聖人を指し示す隠語、つまり親鸞→新蘭、新一と蘭を呼び出す、探偵戦隊の出動合図なのである。

新一は立ち上がって言った。

「すみません、俺、ちょっとトイレに」
「あ、わ、私も」

続いて新一の幼馴染・毛利蘭が恥ずかしそうに立ち上がる。
教室中がどっと沸いた。

「ヒューヒュー、夫婦で連れションかよ〜」
「うっせ〜、んなんじゃねえっ!」

新一が真っ赤になって怒鳴った。
からかいの声を背にして二人ともトイレに向かって駆けて行く。

「ああ、探偵にかり出される方がよっぽど良いぜ・・・」
「新一。確か二階端のトイレだったよね」
「ああ。女子トイレの方は一番奥の個室な」

それぞれ指定された個室に飛び込み、ポケットから取り出した複製ロボットの鼻を押す。
個室の奥にあるボタンを押すと、指紋識別装置が反応して、更に奥にある別次元の部屋への扉が開いた。

「頑張れよ」
「しっかりね」

それぞれ複製ロボットに送り出されてその部屋へ踏み込むと、扉が閉じた。

「蘭、急げ」

新一と蘭が入った入り口は別々だったが、同じ所に通じている。
その別次元の部屋には、二人乗りのオープンカーが待っていた。
新一は躊躇う事無く運転席に乗り込む。

「新一・・・まだ十七歳だから、免許ないよね?」

蘭が不安そうに助手席に乗り込みながら言った。

「心配しなくても運転は出来るし、公道じゃなかったら免許は関係ねえんだよ!」

そう言って新一は車を発進させた。
車が走る道は、トンネルのようになっている。
空間を捻じ曲げて繋ぐ次元トンネルである。



同じ日、同じ頃、江古田高校にて。

「あ〜、テステステス。本日は晴天なり、雲ひとつない快晴なり」

授業中に突然マイクのテスト放送が響き渡り、生徒達はざわめいていた。
テスト放送の言葉も、今時、聞かないような古めかしいものである。

二年B組の教室では、その放送を聞いて黒羽快斗が立ち上がった。
こちらでは「快晴→快青」が快斗と青子を指す隠語・・・つまり、探偵戦隊出動の呼び出しなのである。

「すみません、俺、トイレに」
「あ、青子も」

続いて立ち上がった青子に、教室中がどっと沸く。
こちらも夫婦で連れションと囃し立てられながら、真っ赤になってトイレへと向かった。

彼ら二人がやって来る方法も、ほぼ新一達と同じ・・・ただ、次元トンネルを通り抜ける交通手段が、何故かハンググライダーである事を除けば。

「快斗、ハンググライダーの運転出来たんだ?よっぽどキッドに憧れてんだね」

青子が快斗に抱えられながらそう言った。
今の快斗は探偵戦隊の格好で、怪盗キッドの衣装にかなり近い。
快斗は色々な意味で頭痛を覚えていた。



同じ日、同じ頃、大阪府寝屋川市改方学園にて。

「ピース、世界に平和を〜、ラブアンドピース、平和な世界を〜♪」

授業中にも関わらず、突然スピーカーから歌が流れ始めた。

「何や何や、反戦歌か?」
「せやけど授業中に流すか普通?」

生徒も教師もざわめく中で、二年B組の服部平次が勢いよく立ち上がった。
読者諸氏にはもうお判りの事と思うが、「平和」とは勿論平次と和葉を指す。
こちらではこれが探偵戦隊の呼び出し合図であった。

「俺、ちょおトイレに行って来るわ」
「あ、アタシも」

続いて和葉が立ち上がる。
こちらも、クラスメート達から「夫婦で連れション」とからかわれたのは言うまでもない。

「行くでえ、和葉!」

平次が叫び、和葉がしっかりと平次にしがみ付いた。
この二人が次元トンネルを通り抜ける方法は、バイクである。
緑を基調とした剣道着姿の平次に、オレンジを基調とした水着姿の和葉がしがみ付き、マントを翻してバイクで走る姿は結構格好良いものであったが、惜しむらくは、見物人が一人も居ない事であった。


「みんな揃ったようじゃの」

新一以外は久し振りに会う阿笠博士である。
今日はそれなりに貫禄のある司令官姿をしていた。
そして、博士の脇には、何とまだ六、七歳の女の子が控えていた。

「かっわいい〜!」

蘭たち女性陣が思わず叫ぶ。
その女の子は赤味がかった茶髪で切れ長の目をした、本当に綺麗な少女だった。

「ねえねえ、お名前何ていうの?」

蘭達が近寄るとその子は怯えた様に阿笠博士の陰に隠れた。
阿笠博士が言った。

「この子は灰原哀と言って、まだ七歳の子供じゃが、マサチューセッツ工科大学を首席で卒業した天才少女じゃ。この度WMOから探偵戦隊のアシストをするよう派遣されたのじゃよ」

思わず快斗が口笛を吹く。

「博士・・・その子にアシストさせるより、司令官やって貰った方が良かったんじゃねえか?」

新一が軽口を叩く。
すると、その哀という少女が口を開いた。

「わかってないのね、工藤さん。いくら大学で成績が良くても、私が学んだのは物理工学化学といった分野。情報の分析やメカの操作・設定などは得意だけれど、人生経験を生かしてあなた達に司令を与えるなんて出来ないわ。それにあなた達だって、こんな年端も行かない子供の命令なんて聞く気になれないでしょ?私は阿笠司令の補佐で、メカ関係を担当するのが一番良いのよ」

新一は流石におとな気ないと思って口には出さなかったが、哀に対しての第一印象は「こいつ、可愛くねー!」だった。


それはそうと、次元トンネルを越えてやって来た司令室は、円盤の中と似たようなつくりになっていたが、更に広く、高度な機器がたくさん揃えられていた。

「こんな大きな施設、一体どこにいつの間に作ったんだよ・・・」

新一が室内を見回して呆れ声で言った。

「ん?場所は新一君の家やワシの家の真下じゃぞい。新一君の家やワシの家からは、地下室のダストシュートから直接ここに下りられるようになっておる」

阿笠博士が答える。

「な、何〜〜〜っ!」
「何や工藤、工事の時の振動にも気付かへんかったんかいな、東の名探偵の名折れやな」

叫んだ新一に平次が茶々を入れた。

「まあ、真下と言っても、地理的にそうだと言うだけの事、五百メートルもの深くに作ってあるからの。WMOの総力を挙げて、地上の人達には気付かれんようにトンネルを掘って工事を進めたのじゃ」
「・・・・・・」

新一、平次、快斗の三人は、半端ではないWMOの経済力と科学力に薄ら寒い思いを抱いたのだが、それは口には出さなかった。

「皆、これを見てくれ」

阿笠博士がそう言って司令室のコンソールボタンを押すと、巨大なスクリーンにパッと町の光景が映し出された。
見ると、着ぐるみの様な怪人と、全身黒ずくめ――それこそ目鼻も口も体中全てが黒タイツのようなもので覆われた男(?)達が、町の人々を襲っているのだった。

「何か・・・パターンだよな・・・」
「ああ・・・仮面ヤイバーとかで、怪人の手下たちがあんな格好だよな」
「『Black Organization』って、実は特撮ファンなのか?」

 新一と快斗が呆れ果てたような声で言った。

「皆、重大な事を伝える。あの如何にも下っ端という感じの黒ずくめの人達は、皆ただの地球人じゃ」
「何!?」
「何やて!?」
「ええっ!?」
「暫らく前から、世界中で謎の失踪事件が増えておった。おそらく彼らは、攫われて洗脳された人達なのじゃろう。彼らを傷付けてはならん」
「けど、あの着ぐるみは違うんだろ?」

新一が怪人を指差して言った。
見た所、上半身が人間で下半身は何かの動物のようだ。
遠目に見る限りでは、神話で言うケンタウロスに近いように思えた。

「誰が誰か区別がつかん十羽一からげの下っ端連中以外は、やっつけても構わん。しかしなるべくなら生け捕りにして欲しいところじゃ」
「・・・生け捕り出来るかどうかわかんねえけど、まあせいぜい頑張るさ。けど出来れば・・・」
「工藤?」

少し考え込むような表情になった新一に快斗と平次が声をかける。新一はハッとした様に顔を上げ、リーダーらしく号令を掛けた。

「皆、出動するぞ!町の人達を救うんだ!」
「了解!」
「OK!」
「よっしゃ!」

それぞれに思い思いの返事をして走り出す。

新一達は三台の小型飛行機に乗り込んで指示された現場へと向かう事になった。
格納庫に案内されて、流石に新一も疑問を口にした。

「おい。俺達は飛行機の操縦ライセンスも持たねえし、流石の俺も飛行機の操縦まではまだやった事ねえぜ」
「そうか?二、三年後には『ハワイで親父に教わったんだ』と言って操縦してそうな気がするぜ」
(作者注:このお話の初版は「銀翼の魔術師」の前であり、よってこの時点では新一くんが「飛行機操縦可」とは分かっていませんでした。まさかこの後コナン君が映画で本当に「ハワイで親父に・・・」で飛行機を操縦するとは)
「・・・黒羽。何が言いたい?」
「べっつに〜」

険悪な雰囲気の新一と快斗に、阿笠博士が割って入る。

「おいおい、いきなり喧嘩を始めんでくれ。心配せずとも、探偵戦隊には超法規的措置が取られておるし、実はそのヘルメットを通じて操縦方法は伝えられるようになっておる。君らの能力を持ってすれば、たちどころに操縦出来るようになる筈じゃ」
「何や、このフルフェイスは伊達やなかったんかいな」

平次がからかうような口調で言いながら和葉を連れて飛行艇に乗り込んだ。
新一と蘭、快斗と青子もそれぞれ飛行艇に乗り込む。

「・・・わかる、わかるぞ。よし、これなら何とかなりそうだ」
新一が操縦盤を操作しながら呟いた。
イヤホンから音声で、また目の前に半透明のスクリーンが現れて、ガイダンスが行われ、新一はたちどころに操縦方法を理解して行った。
おそらく快斗と平次も今頃は飛行機の操縦法をマスターしている頃だろう。

勿論、新一、平次、快斗がそれぞれ常人を超えた頭脳と運動神経を備えているからこそ出来る事であって、普通の者なら操縦法を理解する前にパニックに陥るのは間違いない。
WMOのブレーン達が、彼らをメンバーとして選んだのは、伊達ではなかったのだ。

発進準備をしている新一に、蘭がおずおずと声を掛けた。

「ねえ新一。さっき言いかけた事・・・もし出来るなら、たとえ敵怪人でも傷付けたり殺したりしたくないって思ったんでしょ?」

蘭の指摘に新一は溜息を吐いて答える。

「ああ。俺は殺人事件の真相を暴き出す仕事をしてっけど、自分が殺人者になるのはごめんだよ。たとえ、相手が地球外生物だったとしてもな」
「新一、ごめんね・・・」
「何で蘭が謝るんだ?」
「だって・・・私、新一が嫌がってたのに、強引に戦隊に引きずり込んじゃったでしょ?その時は、戦うって事は相手を傷付けたり殺したりするのかも知れないって事、考えてなかったんだもん」
「蘭・・・」
「浅はかだったね、私」
「いや・・・手をこまねいていれば奴らが地球を好き勝手に蹂躙するのを止められねえ。誰かがやらなくちゃいけない事なんだ、蘭は間違ってねえよ」
「で、でも・・・」
「それに、あの黒タイツ軍団は攫われた地球人達だって言うなら、尚更ほっとけねえだろ?」
「う、うん」
「大変だけど、敵側も出来る限り傷付けたり殺したりしないよう、頑張ろうぜ」
「うん!」

ようやく吹っ切れた顔をした蘭に、新一も笑顔を向けた(と言っても、蘭には口元位しか見えないだろうが)。
蘭が居てくれるからこそ、迷いなく進んでいけるのだという事実は、まだ、新一の胸の中だけで呟かれる。

「ブラックとレッド、発進します!」
「ホワイトとブルー、発進!」
「グリーンとオレンジも発進や!」

「六人とも、頑張るんじゃそ〜!」
「無茶はしないで、怪我しないように帰って来るのよ」

博士と哀の声援(?)が通信装置から流れて来た。


飛行艇三台が発進した。
次元トンネルを潜り抜け、大空へと出現する。
目的地の上空に達し、飛行艇を自動操縦で滞空させると、六人はパラシュートを開いて降下して行った。



探偵戦隊ディテクティブアイズ第1章(5)に続く





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