探偵戦隊ディテクティブ・アイズ



Byドミ



今までのお話(第一章あらすじ)

高校生探偵工藤新一は、幼馴染で同級生の毛利蘭と、トロピカルランドへ遊びに行っていた。
そこで二人は空飛ぶ円盤から追いかけられ、攫われてしまった。

連れて来られたのは、WMO(Wise‐men Organization)が作った秘密基地で、新一と蘭の他、江古田高校二年生の黒羽快斗と中森青子、大阪・改方学園二年生の服部平次と遠山和葉、以上の六人である。
新一達を攫った相手は、新一が幼い頃から知る隣人の阿笠博士であった。
六人は、地球制服を企む謎の組織、「Black Organization」と戦う戦士として選ばれたというのである。

新一達は嫌々ながら正義を守る為に戦う事を決意し、ここに「探偵戦隊ディテクティブ・アイズ」が結成された。
そして、彼らの最初の出動の日が来た。
授業中に探偵戦隊の呼び出しがあり、後を身代わりロボットに任せて、六人は亜空間通路を通って基地へ集結した。
そこで待っていたのは、指令の阿笠博士の他、まだ幼い子供だがマサチューセッツ工科大を卒業したという天才少女・灰原哀だった。

六人は高校を占拠しているドブロク・女郎蜘蛛と名乗る、下半身が蜘蛛である怪人と戦い、辛くも倒した。
生け捕りにする筈だったドブロクをビーム砲で撃ち殺したのは、Black Organizationのメンバーで、ジンとウォッカと名乗った。
新一達はジンとの格の違いを見せ付けられ、男性陣は例え我が身を犠牲にしても最愛の幼馴染だけは守ろうとするが、それより早くジンが余裕の言葉を残して去って行ってしまう。

取り敢えず最初の戦いには勝利したものの、新一は敗北感で一杯だった。
敵組織の正体は依然謎のまま、一時の平和が訪れていた。



第2章



(1)アシモフのロボット三原則



最近、黒タイツ軍団や謎の怪人が現れては、学校や公共の場所を占拠し、しかしそれをまたどこからともなく現れた謎のコスプレ集団がやっつけるという不可解な事件が頻発していた。


ここ東京都米花市にある帝丹高校は、取り敢えず平和である。
少なくとも表面上は。

ここである日、ささやかな事件が起こった。
ささやかだが帝丹高校生にとっては天地が引っ繰り返るほどの一大事であった。
これが実は結構重要な意味を持っていたというのは、ほんの一握りの人達だけにしか知らされる事はなかった。

「何ですって!?新一くんが・・・!?階段から落ちる蘭を無視して他の女生徒を助けたって言うの!?」

二年B組の教室に、鈴木園子の素っ頓狂な声が響き渡った。
園子は信じられないという顔をしていたが、園子に話をした相手の女生徒も、この目で見ても信じられないという顔をしていた。

今日の昼休み、階段の踊り場でふざけ合っていた女生徒の一人が、何かの拍子に足を滑らせ、階段から転がり落ちそうになった。
その時、工藤新一がしっかりとその女生徒を抱き止めて助けた。
そして・・・巻き添えを食った毛利蘭が、代わりに階段の下まで転げ落ちたのである。
幸い怪我は殆どなかったようであるが。

鈴木園子は、工藤新一や毛利蘭とは小学校からの付き合いであり、蘭とは大親友の仲である。
そして、新一と蘭はお互いに「只の幼馴染」と言い張っているものの、どこからどう見てもラブラブで熱々なカップルであった。
園子は、からかいながらも、そんな二人をずっと近くで見守って来たのである。

しかし最近、蘭や新一の様子が変な事が多く、園子は二人にどこがどうと言えないが違和感を覚える事があった。
そこへ、この事件である。

新一が落ちようとした女生徒を助けた、それ自体は別におかしい訳ではない。
ただ問題は、蘭が落ちようとするのを放置した事と、落ちた後も件の女生徒だけを気にかけて、蘭を一顧だにしなかった事である。

「普段の奴なら、絶対に蘭を助けるわね。例え自分が転がり落ちてでも」

園子は呟いた。


   ☆☆☆


「新一、ちょっとあなたの家に寄って良い?」
「・・・ああ。俺も丁度、話してえ事があったし」

いつも憎まれ口を叩き合いながらも仲の良い、帝丹高校名物カップル(もっとも当人達は「ただの幼馴染」と言い張って聞かないが)の工藤新一と毛利蘭が、今日は妙に刺々しい雰囲気で、心もちお互いの距離を開けて歩いている。
これは帝丹高校の生徒達にとっては晴天の霹靂。

「え〜?うそ〜、工藤くんが不倫〜?」

皆、こそこそと言い交し合っていた。
「浮気」ではなく「不倫」呼ばわりされるのは、二人が既に帝丹高校二年B組では夫婦とみなされているからである。

新一と蘭のクラスメートで、横恋慕しようなどという気になる者はいない。
二人の絆を見せられて、馬鹿馬鹿しくなるからである。

そんな訳で、たまたま階段から落ちるところを新一から助けられた為に噂の標的になった女生徒こそ、いい迷惑であった。


   ☆☆☆


「で?今日の事、文句言いてえんだろ?けど仕方ねえじゃねーか、俺達ロボットの三原則は、オメーも重々承知してんだろ?」

工藤邸にて。
工藤新一――いや、新一のコピーロボットは、不機嫌そうに言った。

「勿論、それ位は分かってるわよ。私たちロボットにとって人間を助けるのが何よりも最優先、ってより、そう動くしかないって事はね。でも、オリジナルの工藤新一なら、階段から落ちた蘭を気遣う筈。せめても、後の態度位はオリジナル通りにやって欲しかったわ」

不機嫌そうに返しているのは、毛利蘭のコピーロボットである。

新一と蘭は、授業中探偵戦隊の呼び出しがあり、後をまかされたのは二体のコピーロボットであった。

オリジナルの知識・性格・運動能力、全てに渡ってコピーしてしまう筈のロボットであるが、違う所もある。
それは、アシモフロボット三原則の縛りを受けている事である。

1、ロボットは、人間を殺したり傷つけたりしてはならない。また、その様な状況を見逃してもならない。
2、一に抵触しない限りにおいて、ロボットは人間の命令に忠実であらねばならない。
3、一に抵触しない限りにおいて、ロボットは自分の身を守らなければならない。

特にこの中でも、第一項は、たとえ不可抗力でも守れないような事があると、ロボットの機能停止を来たす位に、本能と言っても良い位最大の原則であった。

ややあって、コピー新一が口を開く。

「ああ、オメーの言う通りだ。確かにオリジナルなら・・・そもそもオメーともう一人の女生徒を助けて自分が転げ落ちそうだし、それでも毛利蘭が落ちてしまった場合は駆け寄って声をかけ、安否を気遣う筈だな。けど、オリジナルのそういった行動は、意識してされる訳ではなく、もはや本能と言って良い。オリジナルの本能を、俺達ロボットは咄嗟の判断で意識して真似なければいけないと言う訳だな、やれやれ」

ロボット達が「嘘をつく」事自体は、別に禁忌ではない。
しかし、人間のように「自分の利益の為に」「真実から目を逸らす為に」嘘をつくという思考回路は、存在しなかった。

ただ、コピーロボット達には「オリジナルが探偵戦隊の任務を果たす為に、留守を周囲に不審がらせないよう欺き通す」という使命がある。
自然、高度な判断能力を求められるのであった。


   ☆☆☆


「ただいま〜」
「よっ。しっかり留守を守ってたか?」

任務が終わった本物の新一と蘭が、工藤邸の居間に現れた。(探偵戦隊本部では、コピーロボットの所在と、周囲に人が居るかどうかがすぐに分かるようになっている。コピーロボットの所在場所に差し障りがあれば、ロボットに連絡が入り、人気のない場所に移動してもらう。本物とコピーとが自然に入れ替わる為である)

コピー新一は、ちょっと肩をすくめて言った。

「しっかり守ったのかどうか。まあ、失敗しちまったような気もするけど、取りあえず記憶を渡すから」

新一はコピー新一と、蘭はコピー蘭と、軽く額を触れ合わせて記憶のやり取りを行った。
最初の内は「俺のコピーと額をくっつけるなんて気持ち悪いぜ」とぼやいていた新一だったが、最近はもう全く慣れたものである。

記憶の受け渡しが終わり、新一は難しい顔をした。

「すまん、オリジナル。俺、どうもマズっちまったらしくてよ。まあ流石に、俺が偽者などと気付くようなやつは滅多にいねえと思うんだが」
「・・・オメーは良くやってくれてるよ、コピー。明日はフォローが大変だろうが、まあ仕方ねえさ、根本のところで人間とは違うプログラムをされてんだからな」

蘭達も記憶の受け渡しが終わる。
コピー蘭がちょっと複雑な笑顔を浮かべて言った。

「オリジ新一、基本的にあなた達は六人共『ためらわずに他人を助ける』人達だから、私達ロボットの本能行動とそう矛盾はしてないのよ。ただね、お互いロボット同士だと、助けるという本能行動がない上に、大丈夫だって事も分かってるもんだから、気遣うという事が出来ないの」
「でもまあ、なるべくオリジナル同士だったら取るだろう行動をトレースするようにするし・・・他のコピーロボットにもその旨伝えとくから」

コピーロボットが見たり聞いたりした記憶は、そっくりそのままオリジナルへと戻され、それ故新一達は何の支障もなく学園生活を送り続ける事が出来るのであるが。
実はコピーロボットが何を考えどう判断したか、その思考経路まではオリジナルには還元されていないのである。

それ故、新一達六人がこの先も気付く事はない。
コピーロボット達は、オリジナルの恋心と、それを表に出せない天邪鬼さを知っており、「オリジナルだったらこうするであろう」行動を取る為に、能力限界まで人工頭脳をフル回転させなければならなかったのである。


   ☆☆☆


コピーロボット達の並々ならぬ努力をよそに、一人、疑惑を抱いていた者が居る。
蘭の親友・鈴木園子だ。

「蘭も新一君も、最近おかしい。おかしいわ!絶対何かある。でも、蘭に訊いても大親友の私に言葉濁すし。新一くんは、話を煙に巻くし。ハッ・・・!まさか・・・!絶対に有り得そうにない話だけど、新一くん心変わりして、蘭が失恋してしまったんじゃ・・・!?」

新一と蘭の二人共を昔から知る鈴木園子は、二人がお互いの気持ちを伝えておらず正式に付き合ってはいなくても、お互い以外アウトオブ眼中で、相思相愛だと信じて疑う事がなかった。
しかし、最近の二人の態度を見ていると、どんなに信じがたくともそれが崩れたのだとしか思えない。
園子としては、蘭の親友でもあるし、新一よりも蘭の方を信頼しているので、この際「新一側の心変わり」としか解釈しようがなかったのである。

「工藤新一・・・!私の大切な親友の純情を、よくも踏み躙ってくれたわね・・・!見てなさい、この園子サマが引導を渡してあげるから!」

園子は、全くの勘違い妄想で、新一への怒りを燃やし、仁王立ちで拳を握り締めて誓いを立てていた。
そうと知らない新一は、工藤邸の居間で蘭とお茶を飲みながら、大きなくしゃみをしていた。



探偵戦隊ディテクティブアイズ第2章(2)に続く





  に続く。