The Romance of Everlasting 〜異聞・白鳥の王子〜



byドミ(原案協力・東海帝皇)



(12)それぞれの愛の行方



真王子が目を覚ました時。
目の前に、愛しい少女が心配そうな顔をしているのが映りました。
そして、後頭部には柔らかい感触。

真王子は、仰向けになっていて、園子に見下ろされる形になっています。

ようやく頭がはっきりしてきて、自分の状況に気付いた真王子は。
一挙に覚醒して、真っ赤になって体を起こしました。


「そそそそ、園子さんっ!!ご、ご無事で!?」

何と真王子は、園子に膝枕されている状態だったのです。

「私は大丈夫。でも・・・真王子様こそ、大丈夫ですか?」
「え、ええ。私は別に・・・で、でも・・・こ、これは、一体・・・」
「嵐がおさまったので扉を開けてみると、黒鳥が床に伸びていたので、ビックリしました。急いで部屋に運び込んだけど、日が落ちる前で、良かったわ」
「そうでしたか。嵐で舵を失って、船の上に落ちて行ったのまでは覚えているのですが。助けに向かった筈なのに、逆にあなたにご心配をかけるとは・・・面目ないです・・・」
「ううん。だってあの・・・真王子様は、私が危ないと思って、助けに来てくれたんでしょう?」

そう言って頬を染める園子の姿に、真王子の顔は真っ赤・・・いや、赤黒くなり、沸騰寸前でした。

「きっと、妹姫の蘭様の為に、侍女である私を助けに来て下さったんでしょうけど・・・それでも、嬉しかった。だって、とっても心細くて怖かったんですもの・・・」
「そ、それは・・・!違います!い、いや、妹である蘭の事も大切だが、それ以上に!あの時妹の為に、『ラブラブ焼き餅大作戦』を考え出して一生懸命になっていた、あなたの姿に、私は・・・」
「え・・・?」

目を丸くしている園子の両肩を掴んで、真王子は必死な顔で言いました。

「あなたのように魅力的な女性に言い寄る男は、きっと星の数ほども居る事でしょう。あなたが私の事を、あまた居る男達の1人の戯言と思われるのなら、それも仕方がない事と・・・ですが、あなたが攫われたと聞いた時は、心臓を鷲掴みにされたようでした。もし、あなたが髪の毛1本でも傷付けられていたら、その時は私は・・・ご無事で、良かった・・・」

園子は目を見開いていましたが、やがて、にこりと微笑み、そして真王子に身をあずけて来ました。
真王子は、愛しい少女にそのような事をされて、茹蛸状態を通り越し、それこそ頭の上にヤカンでも乗せればお湯が沸きそうな勢いでした。

「あ、あ、あ、あのあの。園子さん。私も男ですから・・・その・・・魅力的なあなたにそのような事をされると、理性に自信がないのですが・・・」

真王子が上ずった声でそう言うと。
園子が身を離して、くすりと笑って言いました。

「そうね。そうなっても、構わないと言いたいところだけど。今はそのような状況ではないですものね」

真王子はその言葉にますます舞い上がり、落ち着くまでには相応の時間を要しました。


「ところで私は、どの位の間、気絶していたのでしょうか?」
「そうね。真王子が目覚めたのは、人間の姿になってから、間もなくの事だったから・・・」
「では、まだ時間はありますね」
「え?ど、どうするつもり?」
「私は体術には自信があります。この船の乗組員位の人数なら、相手が飛び道具を使っていても、負けはしませんよ!」

そう言って、真王子が立ち上がりました。
そうです、真王子は蘭王女と同じ体術を学んでいましたが。
教師達が舌を巻く程の腕前になっても、なお修行を続け、素晴らしい腕前を持っておりました。

「あ、あの・・・でも、みんなやっつけちゃったら、どうやって帰るの?真王子は、船も操れる?」
「それは、無理です」

真王子がキッパリと答えたので、園子は目が点になりました。

「朝になれば。あなたお1人位だったら、私が背中に乗せて飛んで行けます。途中どこかでひと晩野宿しなければならない可能性もありますが、私がきっとあなたをお守りしますから」

真王子が園子の手を握り締めて、真剣な瞳で園子を見詰めて言ったので。
園子はボンッと頭から湯気を立てて真っ赤になりました。

「では。参ります。あなたはここで待っていて下さい」
「あっ、ま、真王子!」

園子が呼びかけた時には、真王子は既に部屋を飛び出しておりました。



そして。
真王子が部屋に戻って来るまでには、いくらも経っていませんでした。

「真王子、大丈夫?」
「ハイ。念の為に全員縛り上げてあります」
「真王子・・・怪我を・・・」

園子がハンカチで真王子の額を拭きました。
僅かですが傷がついて、出血していたのです。

「園子さん、ハンカチが汚れてしまう・・・」
「で、でもっ・・・!」

園子は思わず涙を流していました。
真王子は、園子がハンカチを握っている右手首を左手で握り、右の腕を園子の腰に回して引き寄せ、園子の目を覗き込みました。

「この位、大した事はないです。あなたにもしもの事が遭った方が、私には余程堪えます」
「真王子・・・んっ」

園子の言葉は、真王子の唇が園子の唇を覆った為に、途中で遮られてしまいました。


真王子の唇が離れた時。
園子は潤んだ瞳で真王子を見上げました。

真王子は、ちらりと窓から中天に懸かる月を見上げました。

「園子さん。朝までは間がある。私の妻に、なって下さいますか?」
「ええっ!?ま、真王子!?それは・・・今、ここでって・・・事?」
「ハイ。儀式もまだなのは、心苦しいのですが。待てそうもありません」

園子は、目を見開きましたが。
少し微笑み、そしてゆっくり頷きました。


そして。
月の光だけが立ち会う中で。
2人は夫婦になりました。


   ☆☆☆


サラマンダー「コナン」を駆った新一王子と蘭王女、そしてサラマンダー「サザビー」を駆った「赤い彗星」は、最初、平次公子達の馬が港の中、桟橋近くの小屋に繋がれているのに気付きました。
どうやら平次公子達は、園子を追う為に船を雇い入れた様子だと、新一王子は見て取りました。

そのまま海上を進んで行くと、一隻の船が沖に向かっていました。
その船のマストには、服部公国の旗がつけられています。
平次公子達が乗り込んでいる船に間違いありません。


その船を追い越して更に海上を進んで行くと、今度は、昇る朝日の中、人を背中に乗せた黒鳥が1羽、陸に向かって飛んでくるのとすれ違いました。

「・・・・・・!」

蘭王女は、思わず友の名を呼びそうになり、必死で堪えました。
そして、蘭の三つ子の兄である真王子が、無事、園子を助けて帰って来ている事を知り、心の底からホッとしました。

「王子。アレは、園子嬢ではないですか?」
「ああ、そのようだ。あの黒鳥は確か、蘭の友達の1人・・・いや、1羽だ。良かったな、蘭」

蘭は涙ぐみながら頷きました。

「王子。どうします?」
「園子は、黒鳥に任せていたら大丈夫だと思うが?どうだ、蘭?」

蘭はもう一度、涙を拭いて微笑みながら頷きました。
園子の事は、真王子に任せておけば間違いありません。

「でもまあ、園子嬢を攫った奴等を捕まえて、取調べしなければなるまい。まあ、下っ端だろうがな」
「そうですね。でもそれは、私が。王子がお1人ならともかく、お妃様がご一緒ですし、後はお任せいただけますか?」
「ああ、頼む」

という事で。

新一王子と蘭王女は、そのまま王宮へ取って返す事になりました。

「コナン、強行軍でわりぃけど、頼むな」

新一王子はサラマンダーの首をポンポンと叩いて労い、サラマンダーのコナンは、帰路に着きました。



赤い彗星のシャア・・・もとい、秀一が漂流中の船を見つけ、降り立ちますと。
そこに居る男達は皆、縄できつく縛られていました。
殆どは目を覚ましておりましたが、幾人かはまだ気絶したままでした。

「ほう。流石は蘭妃の兄上だ。素晴らしい体術を身につけておられるようだな。さて・・・」


気絶している中から、一行の中心人物らしき男を見つけて、秀一は活を入れました。


目が覚めた男は、秀一の姿を見、そしてその眼光に、顔色をなくします。
百戦錬磨の筈の男が、秀一の眼光だけで震え上がったのでした。


「お前達に依頼をした人物が誰か。聞かせてもらおうか?」

普段は穏やかな秀一の声が、氷の冷たさを帯びておりました。


   ☆☆☆


シルバーの船で港を出た、平次公子と和葉妃でしたが。

朝日が昇る中、ふと影を感じて上を見た和葉姫が、

「あ〜〜〜っ!!」

と大声を上げました。
1羽の黒鳥が頭上を飛び去っていくのを見たからです。

「何や和葉、大声出してからに。あの鳥が、どないしたんや?」
「あれは、蘭様の・・・えっと、お友達の白鳥、やなかった、黒鳥で、人が乗ってた。多分、園子ちゃんや」
「ホンマか?っちゅう事は、無事助け出されたっちゅうこっちゃな」
「間違いないで。良かった〜、園子ちゃん、無事やってんな」
「せやったら、園子はんは、あん黒鳥に任せて、オレらは捕り物やな」
「へ?何で?園子ちゃんを取り返したんやから、それでええやん」
「そうは行かへん。元を断たんと、こん先も事件は繰り返されるで。いつ誰に魔の手が及ぶか、分からんのや」
「・・・せやな。分かった、平次、行こう」

けれど、更に進もうとする平次達一行の元へ、今度はサラマンダーが降りて来ました。

「お、工藤やないか」
「新一殿下!蘭妃殿下!」
「平次、和葉ちゃん。園子嬢は無事取り戻したし、誘拐犯の所へは赤い彗星が行ったから。後は任せて、王宮に帰るぞ」
「けど、1人だけで大丈夫やろうか?」
「彼は心配要らない。ただ・・・これから結構色々と大変そうだ、忙しくなるぞ。さあ、帰ろう」
「よっしゃ!分かった、和葉、帰るで!」
「何や結局、アタシらのやった事、骨折り損のくたびれ儲けやってんやなあ・・・」

和葉姫がそう言って溜め息をつきました。

「いや、それは違うよ、和葉ちゃん。オレ達が迷わず園子を攫った連中の船を追えたのは、服部達の足取りが目印になったからだよ」
「なら、少しは役に立ったんやな、良かった」

サラマンダーは、新一王子と蘭王子妃だけで手一杯ですから、一行は再び別れて、それぞれに工藤王国の王宮へと帰って行きました。


   ☆☆☆


園子が無事工藤王国へ帰ったと聞いて。
姉の綾子が飛んで来ました。

「園子!良かった・・・!」

綾子が園子に抱き付いて、涙を流しました。

「園子が私の名前で誘拐されたって分かってから、どれ程心配した事か。陛下達に本当の事を申し上げたかったけれど、もしそんな事したら、園子の身が危ないって分かってたし。無事戻って来て、本当に良かった・・・」
「ええ、まこと・・・えっと、殿下達が自ら助けに来て下さったの」
「まあ、それは・・・殿下、本当にありがとうございました」

綾子が新一の方に向き直って頭を下げた。

「ああ、まあオレ達も助けに向かったんだが、実際に園子を助け出したのは、蘭の友達の黒鳥で」
「まあ。そのような事が?でも、鳥達までが手助けしてくれるのも、お妃様と新一殿下のお人柄だと思いますわ」
「それよりも。園子を人質にとって鈴木家に脅しをかけていたのは、一体?」
「・・・実は、園子が私の名で連れ出された次の日に、これが・・・父の元に矢文として届けられたのです」

綾子が取り出して新一王子に渡した物は、羊皮紙を丸めたもので。
そこには、「鈴木カンパニーが請け負う事になった杯戸地区の治水工事を辞退しなければ、園子嬢の身に何が起こるか分からない」という脅し文句が書いてありました。

「最後まで鈴木カンパニーと治水工事の請負を争ったのは、籏本カンパニー・・・先入観を持つのは危険だが、これは、調べてみる必要がありそうだな」

新一王子は父王の元に赴き、報告を兼ねて色々な事を話しました。

「父上。何だか、あちこちで色々ときな臭い動きがあってますが。どうもオレには、全部根っこの所で繋がっているような気がしてならないんですよ」
「ほう、お前も気がついたか。全世界を巻き込んだ災いになりそうだが、我々は、わが国と民を守りながら、その災いを見極めて鎮めなければならん。新一君、気をつけるのだよ」
「承知しました」


   ☆☆☆


4人の侍女達の控え室では。
園子が真王子と結ばれた事を知って、ささやかなお祝い会が行われていました。

「園子ちゃん、真王子のお嫁はんになったんやな!おめでとう!」
「お嫁さんって言っても、正式に儀式を行った訳じゃないんだけどね」
「これはますます、早よ白鳥の王子様達の呪いが解けるよう、アタシらも頑張らなアカンなあ。式も挙げる前に未亡人やったら、園子ちゃん可哀想過ぎやもん」
「でも、蘭様お1人に色々と負担が掛かっているし、心苦しいのよね・・・」
「それは、仕方がない事だと思うわ。私達は私達で出来る事を頑張らなくては」
「うん!歩美も頑張る!」

歩美はキャンベルガーデンから帰って来てから、元太王子・光彦王子・阿笠志保と4人で過ごす事が多くなっていました。
歩美の中の新一王子へのほのかな慕情はまだ完全に消え去った訳ではありませんし、元太王子と仲良しになっても、元太王子への気持ちはまだ友情止まりではありましたが。
少しずつ、変わって行くかも知れないという予感を、漠然と感じていました。

美和子は美和子で、毛利兄弟と協力して仕事をする事も多くなり、幼い頃の友達だった由美王女の他、何故かワタル王子や任三郎王子と共に過ごす事が多くなっていました。
美和子自身、任務が一番大切で、恋だの愛だのは、今はまだ眼中にありませんが。
最近は、ワタル王子と共に居るとホッとする自分を感じていました。

世の中の動きも一触即発の雰囲気ですが。
彼らの人間模様も、白鳥にされた毛利兄弟との関わりで、大きく変わろうとしていました。

「・・・何だか、色々な事が同時に動いていて、よく分からないけれど。私達は私達で、自分達の持ち場をしっかり守って行きましょう」

年配の美和子がそう言って締めくくり。
ささやかな祝宴は終わって、それぞれ眠りに就きました。


   ☆☆☆


人間界で様々な事が起こっている中で。
妖精界でも、ちょっとした出来事が起こっていました。

妖精王の娘・青子が、妖精の住まう仙界の奥津城で、父親である妖精王・銀三と対峙していました。

「お父さん。もう、工藤王国に関わっちゃいけないって・・・どういう事なの?」
「青子。本来、妖精は人間世界の事に深く関わってはいけないという不文律がある。元々人間界に属する快斗君・・・もとい、キッドは構わぬが、お前はもう、これ以上人の世に関わってはならぬ」
「そんなの・・・!お父さんだって言ってたじゃない、魔女ベルモットと配下の魔物達は元々人間界に属するものじゃない、彼らの蹂躙に任せていたら、人間界はとんでもない事になるって!」
「だが・・・青子、妖精王女たるお前が直接出て行く事は・・・」
「だって!青子は、純粋な妖精じゃないでしょ!青子のお母さんは・・・!」
「青子!ワシはお前の母親と巡り会って愛し合った事を後悔した事はない。お前という娘を授かったのだからな。けれど、お前までを時の流れの中で失う気はないぞ。妖精と人間双方の血を引くお前は、妖精族の男と結ばれれば永遠の命を得るが、人間の男と結ばれれば、人間としての儚い命に変わってしまう。・・・そんな事になったら、ワシは耐えられん」
「お父さん・・・」
「これ以上、人の世の理に関わりを持つな。お前とキッドが今、どのようにお互いを見始めているか、俺が気付いていないとでも思ったか?」

青子は息を呑みました。
幼い頃から可愛がって、弟のように思い傍に置いていた快斗は。
今、青子が見上げる頼もしい「大人の男性」に変わりつつあり。
それと共に、青子の気持ちも少しずつ変わって来ていたのでした。

「でも、快斗はきっと、青子の事、そんな風に見てやしない・・・。今の青子は、快斗から見て『お子様』だもの」
「・・・キッドの本当の気持ちがどうであろうと。お前にその気がある事が、問題なのだ。このままだとお前は、人の血に引きずられて、いずれ年を取り始めるだろう。そのような事は、許す訳にはいかん」
「お父さん?」
「西の塔に、青子を連れて行け」

妖精王銀三配下の力を持つ妖精達が、青子を取り囲みました。

「お父さん!?イヤ、青子は快斗と一緒に居たい・・・!」
「100年も経てば、奴もこの世に居ない。諦めろ。お前もいずれ、忘れる」
「イヤだ〜っ!!快斗〜〜ぉっ!」

王の娘とは言え、青子1人の力では、妖精族の中でも最高の力を持つ者達数人の力に敵う筈もなく。
青子は、西の塔に閉じ込められてしまいました。
そこは、妖精王銀三が結界を敷いており。
その意に反した者は、何人と言えども出る事も入る事も叶わない場所でした。

今迄の青子なら、自由に出入り出来ていたのに、今は、その塔から一歩も外に出る事が叶わぬ身となっていました。
青子は、父親から幽閉されてしまったのです。

「快斗・・・やだよ・・・この先一緒に過ごせないなんて・・・」

青子は、西の塔の壁にもたれかかって、涙を流しました。

「それに、蘭ちゃん達はどうなるんだろう・・・お父さんは、人間界がどうなっても良いって、本気で思ってるの?お母さんの居た世界なのに、どうでも良くなっちゃったの?100年もここに閉じ込められたら、快斗だけじゃない・・・人間界だって、どうなっちゃうの・・・」

青子に出来る事は僅かであっても、キッドや、蘭王女達と共に、ベルモットの魔の手から人間界を守る為に力を尽くしてきた青子でしたから。
快斗と引き離された事が勿論1番辛いのですが、蘭達の事も心配でなりませんでした。


   ☆☆☆


「王よ。人間の女性を愛したあなたが、その忘れ形見に、あのような仕打ちをなさるとは」

銀三の側近である妖精の1人が、言いました。

「・・・ワシにも、理不尽な仕打ちだという事は分かっておる。だがそれでも、ワシはあの子を、失いたくはないのだ・・・」

言葉をなくした側近をよそに、銀三王は空を見詰めました。


銀三王が、人間の女性である碧子(みどりこ)と恋に落ちたのは、もう300年も昔の事です。
ひとり娘の青子をもうけ、幸せに生活していた2人でしたが、人間である碧子は年を取り、夫と娘を残して逝ってしまいました。

銀三は、その事を後悔した事は、1度としてありません。
碧子が先立ったのは胸をえぐられる程に悲しい事でしたが、それでも、愛し合った日々の記憶が銀三を支え、ひとり娘の存在が慰めてくれました。

銀三が、基本的に妖精が人の世に関与してはならないという掟を曲げてまで、幼い人間の子供であった快斗を、預かり育てたのは。
快斗の国を滅ぼしたのが魔女ベルモットであり、人同士の争いではなかったからという理由もありましたが。
快斗が碧子と縁続きであった為に、見捨て置く事が出来なかったという理由も大きなものでした。

碧子は、黒羽王国の貴族の娘だったのですが。
快斗は、ベルモットに滅ぼされたその王国の、最後の王子だったのです。

青子が弟のように快斗を可愛がり、2人が仲良しになっても、銀三王はそれを微笑ましく見ているだけでした。
けれど、快斗が成長し、2人がお互いを異性として見始めている事実に気付いてしまい。

銀三王は無体な仕打ちと分かっていながら、青子が人としての短い命に変わってしまう前に、2人を引き離す事にしたのでした。


   ☆☆☆


「青子?どうしたんだろう・・・気配を感じない」

魔法使いキッドは、いつも傍に居た青子の気配が感じられなくなって、首を傾げました。
青子の身に何か遭った訳ではない事だけは、分かります。
けれど、たとえ遠く離れても、青子が妖精界に戻っても、常に感じていた筈の青子の気が、感じられなくなりました。

「坊ちゃま!大変です!」
「寺井(じい)ちゃん。その呼び方は止めてくれよ。今のオレは、マジシャンキッドだ」
「それどころではありませんぞ、坊ちゃ・・・キッド!大変ですじゃ!」

寺井は元々、黒羽王国の国王に側近として仕えておりましたが。
王国が魔女ベルモットによって滅ぼされた後、ずっと行方が分からなかった快斗王子を探し続け、先頃妖精王に匿われて成長しキッドとなった王子を見つけ出したのでした。

寺井は、王国の復興の望みを王子にかけておりましたが、快斗は「王国の復興」には乗り気ではありませんでした。
けれど、魔女ベルモットの存在を許せば、いずれ他の国々も黒羽王国の二の舞になってしまいます。
快斗は、魔女と戦う為に、死に物狂いで魔法を学び、魔法使いキッドとなったのでした。
(小泉紅子とは、魔法を学んでいる時期に知り合ったのですが、モテモテの紅子に一顧だにしない快斗に紅子が焦れてちょっかいをかけて来た為、酷い目に遭わされそうになった過去があったのです)

最初は色々不満を漏らしていた寺井でしたが、今はキッドの活動に理解を示し、それを支える為に色々と動いてくれるようになりました。
妖精の居る仙界に出入り出来る、数少ない人間の1人となっています。
そして今は、ベルモットの情報を集める為に、密かに毛利王国の森の中で、アースレディースの4人の協力を得ながら活動していました。
その寺井が、息せき切ってキッドの元に訪れ、寄越した情報は、ベルモットの事ではありませんでした。

「青子姫が、妖精王に幽閉されてしまいましたぞ!」

寺井の言葉に、キッドは一瞬意味が分からなかった位驚きました。

「な・・・に・・・?妖精王は、青子の父親じゃねーか。どうして・・・幽閉なんて・・・」

キッドは普段のポーカーフェイスも忘れ、呆然として呟きました。

「妖精の沖野ヨーコさんに教えてもらった事だから、確かですじゃ!何でも、寿命がどうとかと、妖精王は仰っていたとかですが、そこら辺はこの寺井には不覚にもよく分からない話しばかりで・・・」
「寿命・・・?じゃあ、まさか・・・原因は、オレか!?オレと引き離す為に!?」

キッドは、慌てて仙界へと向かいました。
仙界は以前と変わりなく、キッドが入る事は拒絶されませんでした。

「オレの存在自体が、拒絶されてる訳じゃない。多分、青子と関わらなければ許されるって事だろうな・・・けど、仙界にも妖精達にもオレを守り育ててくれた恩義はあるが。青子と会わせて貰えないのなら、オレには何の意味もない」

自己中と言われようが何と言われようが、キッドにとって今1番大切なのは、青子の存在だったのです。
キッドは、青子が幽閉されている西の塔に向かいました。
案の定、銀三が張り巡らせた結界は、キッドが塔に入る事を拒みました。

「青子・・・!!」

キッドは塔の壁に手を突き、悲しげに塔の窓を見上げました。
青子の姿は、全く見えませんが。
微かに、青子の存在が結界の向こうに居る事が、感じ取れました。



(13)に続く

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(12)の後書き座談会

新一「この連載もいよいよ、天災のようなものになって来たなあ」
蘭 「忘れた頃にやって来るってヤツ?」
和葉「蘭ちゃん、あんた口利いたら拙いんちゃう?」
蘭 「それは、お話の中の蘭王女で。私と同一人物だけど、ここで喋っている私とは違うもの。それにしても、このお話、私喋れなくって、ストレス溜まるわ〜。今回は、出番そのものが少ないけどね」
平次「後書き座談会でのオレ達は、役者なのか何なのか、よう分からん存在やな。それにしても工藤と姉ちゃんが後書き座談会に参加するのは久し振りちゃうか?」
新一「久し振りと言うか・・・後書き座談会での登場は、第3話が最後だな」
蘭 「登場人物が多過ぎて、全員出せないからね〜。で、今回はようやく園子がめでたく京極さんと・・・」
新一「んん?この話の中では、京極さんじゃなくて・・・蘭のお兄さんなんだろ?」
蘭 「あ、そうだったわ。んもう、ややこしいわねえ」
新一「京極さんって、オレもよく分かんねえんだけど。ここで、手、出すかなあ?」
平次「純情一直線、けど猪突猛進型やから、案外スイッチが入ったら早いんちゃうか?工藤も一緒やろ。新一王子も姉ちゃんを連れ帰ったその日の内に手ぇ出してしもうて、けど誰もそれに『キャラが違う』って異議は申し立てへんし」
新一「う゛・・・そ、それは・・・原作設定の俺はそんなに手が早いわけが・・・自信ねえな」
蘭 「え゛?し、新一・・・(////)」
平次「今迄我慢しとった分、反動が来るかも知れへんいう事やな」
新一「・・・っ・・・否定してえけど、否定出来る自信がねえ・・・」
蘭 「(////)・・・。ねえねえ、ところで、青子ちゃんはどうなっちゃうの?好きな人と引き離されるなんて、可哀想過ぎるよ」
新一「蘭・・・エースヘブンはハッピーエンド主義だから、きっと大丈夫だよ」
蘭 「うん、この話でも、いずれ皆が幸せになれると聞いてるんだけど。それでも、途中で苦しい思いをする事はあるでしょ。青子ちゃんをなるべく苦しめないで欲しいわ」
新一「解決は次回と言ってたから、そう長くはならねえ筈なんだが、その『次回』ってのが、一体いつになる事やら」


(11)「白鳥の騎士部隊」に戻る。  (13)「奇術師と妖精王女の誓い」に続く。