The Romance of Everlasting 〜異聞・白鳥の王子〜



byドミ(原案協力・東海帝皇)



(13)魔術師と妖精王女の誓い



色々な事がとりあえずひと段落着いて、蘭王子妃の居室で蘭が侍女達とお茶を飲んでいますと。
窓からキッドが血相を変えて飛び込んできました。

「こら!お妃様の居室に飛び込んでくるなんて、何て無礼な!」

侍女の美和子が、キッドを睨みつけて蘭王子妃の前に立ちはだかりました。

「「キッド様・・・」」

いつの間にかキッドのファンになってしまった園子と歩美が、目をハート型にしていました。
美和子はジト目で2人を見ます。

「園子さん、歩美ちゃん。あなた達・・・。園子さん、あなたは新妻でしょ?胡散臭い魔法使いにうつつを抜かしていて良いんですか?」
「もう、美和子さんったら。それはそれ、これはこれよ〜。それに、胡散臭いなんて。キッドは私達の同志、味方でしょ?」
「だからと言って、お妃様の部屋に忍んでいい道理はありません!」

「無礼は承知だ!頼む、相談に乗ってくれ!」

突然キッドが真剣な声で言ったので、蘭王女も侍女達も驚いてキッドに目を向けました。
いつもなら如才なく女性達をあしらうキッドですが、今日は余裕がなさそうでした。


突然、キッドは背後から襟首を掴まれ、すごい力で引っ張られました。


「貴様。オレの妻の部屋に忍んで、何をやってる!?」

低く冷たい声が響きました。

キッドを捕まえたのは、どす黒い怒りのオーラを放っている新一王子でした。
いつものキッドでしたら、新一王子の気配に気付かず背後を取られるなどという失態を演じる事はないでしょうが、今回はよほど余裕がなかったものと見えます。


   ☆☆☆


キッドの必死の訴えと、侍女達の補足説明(逆に話をややこしくした面もありますが)を聞いて、とりあえず新一王子は、「魔法使いキッド」が敵ではないという事は認識しました。けれど、蘭王女の部屋に忍んで来た事に対しての怒りの矛を収める気配はありませんでしたが。

「青子が、閉じ込められてるんだ。だから、青子の友達である蘭王女・・・もとい、蘭王子妃に、知恵を借りたいと思って」

キッドの言葉に、侍女達も驚きの声を上げました。

「ええ!?青子さんが!?」
「そりゃ大変じゃない、早く助けに行かなきゃ!!」
「ああ、青子に危害が及ぶ心配はない、閉じ込めたのは妖精王銀三だから」
「えええ?だって、青子ちゃんは妖精の王女様でしょ?お父さんから閉じ込められてるの!?」

それぞれ興奮して(新一王子には)訳の分からない事を怒鳴りあっているので、新一王子が一喝しました。

「とりあえず、落ち着け!蘭、青子さんが妖精王女で、オメーの友達なのは本当なのか?」

新一の言葉に蘭がこっくりと頷きました。

「成る程な。蘭、オメーと夢以外で初めて会ったのが、妖精王国につながると言う江古田の森だった。オメーは、白鳥達だけでなく、妖精達とも友達だったという事か」
「流石は新一王子、説明する手間が省けて助かる」

新一王子は、キッドをいまだ胡散臭げに睨みながら、続けました。

「で?妖精王の銀三が、娘の青子さんを閉じ込めた、って事か?」
「ああ。だから、酷い目に遭っている事はまずないが、妖精以外の者には会わせて貰えねえ」

キッドの顔は、ポーカーフェイスが崩れ、苦しそうに歪みました。


「魔法使い。オメーは、魔力はあってもただの人間なんだよな?」
「ああ」
「・・・もしかして、青子王女の母親は、人間の女性だったのか?」

キッドが頷き、蘭も侍女達も驚いて顔を見合わせました。
青子の母親が人間だった事も驚きでしたが、この場だけの話で新一王子がそこまで看過した事にも、驚きを禁じえなかったのです。


新一王子が考え込み、その怒りのオーラが、ようやく静まって来ました。
キッドの話が真実である事を感じ取ったからです。


「キッド。オメーは、青子王女と恋仲にあるのか?」
「・・・お互い、ハッキリそうだと言葉にした事はない。でも、オレは青子を・・・この世で1番大切な女性だと・・・」
「工藤王家には、僅かながら妖精の血が混じっている。妖精の血を引いたご先祖の話が、色々伝わっている。その中で興味深いものがあった。妖精と人間との間に生まれた者は、妖精の因子を色濃く持っているのだが。半妖精の存在は、人間と愛し合うと、その時から年を取り始める、と」
「ああ。その通りだ。オレが初めて青子と会った時、オレは小さなガキだったが、青子は今の青子そのままだった。このままだったら、オレ達が年を重ねて死んでしまった後も、青子は今の姿のまま、ずっと長い時を生きて行くだろう。でももし、青子がオレの想いに応えてくれたなら、その時は、オレと共に年老いて行く事になる」

女性達は、顔を見合わせました。
和葉が、おずおずと口火を切ります。

「多分、青子ちゃんもキッドの事、憎からず思うてる。青子ちゃんのお父ちゃんが青子ちゃんを閉じ込めたんも、それを感じたからやあらへんやろか?」
「で、でも。それって父親の横暴じゃない?娘の恋路を邪魔するなんて、そんなの酷いと思うわ」

園子が強い口調で反発するように言いました。

キッドは拳を握り締めます。
新一王子が、顎に手を当てて考え込みました。

「けど、妖精王にしてみれば、ひとり娘を妖精の誰かと娶わせたいんじゃねえか?もし人間の男と愛し合っちまうと、娘の方が先に年取って逝っちまうんだからよ」
「そ、それは・・・!」

園子が反論しかけましたが、後が続きません。
同族同士だと問題にならない寿命の差が、妖精と人間との間には横たわっていました。

「ねえ、妖精の王様は、人間嫌いって訳じゃないよね?」

歩美が、青子に同情して涙ぐみながら言いました。

「そりゃ、ねえよ。だって、青子ちゃんの母親は人間なんだからさ。妖精王が人間嫌いだったら、いずれ必ず別れが訪れる女性と愛し合う筈が・・・待てよ。いずれ別れが来る事を分かっていて、覚悟の上で愛し合った筈なのに、その女性との間に生まれた娘に、そういう仕打ちをするか・・・?」


新一王子ははたと気付いたように顔を上げました。


「確か、妖精族との婚姻の事も記してある工藤王家の家伝が、書庫にあった筈。キッド、来い」

新一王子がキッドを伴って、書庫へと向かいました。

「良いのか?初対面の人間をそこまで信用して。大切な王家の書庫が荒らされても知らねえぞ」

キッドの言葉に、新一王子は鼻で笑って返しました。

「信頼していると思うのか?オレが出て行って、オメーと蘭とを一緒に残すなんて出来る訳ねーだろ、バーロ。それよりは、オレの目の届く場所にいて貰う方がずっとマシだ」
「あ・・・ハイハイ、そういう事ですか」


キッドは少しばかり脱力しましたが、新一王子が「好意で」家伝を調べてくれると言うのですから、文句を言える筋合いはありません。
そのまま黙って新一王子の後をついて行きました。

新一王子は書庫に着くと、工藤王家の家伝を調べ始めました。
羊皮紙の巻物、木簡、石版に書かれた物など、膨大な量の家伝の中から、新一王子は程なく目当てのものを引っ張り出しました。

「あったぞ、これだ。今からおよそ1000年前、半妖精の女性が工藤王家の王妃となった時の事だ。やはり、父親から幽閉されたようだな。どうやってそこから出たんだろう?ん?

『姫を閉じ込めるは慈悲と愛の檻。そを解くは、ただ大いなる愛の力のみ』

言葉は分かるがどういう意味だ?この後はもう、結婚式の場面になってるし、訳分かんねえ」

「工藤王家の王子が、解読出来ないのか?」
「あのな、いくらご先祖様が書き残したものでも、1000年も前の事が全部分かってたまっかよ。・・・あ、でもひょっとして父上なら・・・キッド、オメーは父上には会った事あんだろ?」
「・・・ちょっと待て!新一王子、何故そう思う!?」
「ちょっと前から、オレをつんぼ桟敷に置いて、何かが起こっている。父上と母上が、あえてそうしている。キッド、オメーが既に数回出入りして、蘭とも侍女達とも親しいのなら、おそらくその企てに関わり持ってるんだろう?」
「気付いてたのか・・・」

キッドは溜め息をつきました。

「新一王子、気付いていたのなら、どうして?」
「何故オレがその事態に黙っていたかって?じっと座して待つなど、およそ出来そうにないオレが?」
「・・・オメー、可愛くねえな」
「父上に、ちょっと前に言われたんだよ。『今は、新一が真実を追究しようとすると、蘭君を死ぬより辛い目に遭わせる恐れがある、そういう魔法が働いている』ってな。だったらオレは、『今は』何も気付かないようにするしかねえから」


魔法が支配する世界の約束事を、この世界の新一王子は弁えていましたから。
自身にとってとても辛い事でしたが、蘭妃の為に、今は我慢する事にしたのでした。

「ふ〜ん。新一王子は、奥さんがそれだけ大事なんだな〜」

キッドが、揶揄ともつかない言い方をしますと。
新一王子は真剣な目でキッドを見て言いました。

「キッド。オメーの青子姫への想いは、どうなんだ?」

新一王子の問いに、キッドも真剣な瞳で応えました。

「オレと関わらなければ、青子は寿命を縮めないで済むのかも知れない。オレの片思いなら、死ぬ気で諦める。でも、青子の寿命を縮めてでも、我儘と言われても、青子の方ももし、オレへの想いを持ってくれているのなら。オレは、妖精王と戦う事になるのもいとわない」
「・・・分かった。じゃあ、来い」

新一王子は、キッドを伴い、優作王の居室へと向かいました。


   ☆☆☆


「おや。新一君、珍しい相手を連れているね。仲良くなったのかい?良かった良かった」

そらっとぼけて言う優作に、新一とキッドは脱力しました。

「で?今日は何の用だね?」
「用がなきゃ、息子が父親に会いに来ちゃいけませんか?」
「いや、大歓迎だが、君が『父さんに会いたい』なんて殊勝な事を考えるとも思えないんでね」
「・・・。父上、ご先祖様の事で、聞きたい事があって」
「ふむ?」

新一王子は、快斗と青子王女の状況と、書庫で見つけ出した家伝の事を、簡単に優作王に説明しました。


「ほほお。『姫を閉じ込めるは慈悲と愛の檻。そを解くは、ただ大いなる愛の力のみ』・・・なかなか含蓄のある言葉だねえ」
「その意味は分かりますか?父上」
「ふむ。私は自分が娘を持った事はないが、有希子と結ばれるに当たり色々あったから、娘を持つ父親の気持ちというものが少しは理解出来ると思うよ。新一君、妖精王が、自分の娘を憎くて幽閉する筈がない事は、分かるね?」
「ああ、そりゃまあ。で、キッドと恋仲になってしまったら、青子王女は年を取り始める。だから、それを阻止する為に・・・」
「本当に、そう思うか?」
「え・・・?」
「父親は、娘が他の男に攫われるのが嫌なものだ。けれど、それが本当に娘の幸せと信じる事が出来たならば、その時は手放す決意が出来るものだよ」
「・・・何となく分かるような気はしますが」
「魔法使いキッド。君と妖精王との魔力は、ぶっちゃけ、どちらが上かね?」

話を振られて、キッドは戸惑いながら答えました。

「そりゃ、単純に魔力という事なら、いくら修行を積んでも人間であるオレより、妖精王の方が遥かに上でしょう」
「そう。であれば、君がどれ程今から修行を積んでも、力技で妖精王の作った魔法の檻を壊す事は不可能だね」
「はい・・・」

キッドは項垂れました。
青子の為だったら妖精王を敵に回しても、と思わないでもないですが、どうしたってキッドの魔力で銀三の作った結界を壊す事は不可能だったのです。

「けれど、青子姫が心の底から愛する男性の元へ行きたいと願ったのなら、それでも妖精王が青子姫を閉じ込め続ける事が出来ると、本当に思うかい?」


優作王の言葉に、新一王子もキッドも、ハッとしました。
青子姫は、敵に捕らわれているわけではありません。
父の愛によって閉じ込められているのなら、その頑なな態度を溶かすのは、青子とキッドの真剣な想いしか有り得ないのです。


「優作王。新一王子。ありがとう。オレ、行って来る」
「ああ、健闘を祈る。オメーの事はともかく、青子王女の事は蘭も心配しているだろうから、うまく行く事を祈ってるよ」


   ☆☆☆


「青子。元気出して」
「恵子、ありがとう。でも、でも、私・・・」
「青子が、純粋な妖精だったら良かったのに。そしたら、青子がキッドと愛し合っても、寿命が縮まる事ってないのにね」
「ううん、恵子。もし、快斗も青子を想ってくれたんだとしたら、その時は青子、寿命が縮んでもいいんだ。だって、快斗に先立たれたら辛いもん。でもでも、快斗にとって青子はそんな対象じゃ有り得ないよ。だって、快斗がホンの小さな頃から青子は同じ姿で傍にいるんだし」
「青子・・・」
「でも青子は、片思いでもいいから、快斗の傍にいたい。なのに・・・傍で見守る事も駄目なの・・・?」

青子は、仲良しの妖精の少女・恵子に慰められながら、また新たな涙を零しました。

その時。
青子が幽閉されている塔の壁から、微かに何かが伝わって来ました。

『青子』

本当に微かにですが、壁を伝って直接青子の頭に響く声がありました。

「え・・・?これは、快斗の声・・・?」

『青子。青子。愛している・・・』

「快斗・・・?」

『誰よりも、何よりも。愛しているよ、青子』

「快斗・・・これは、青子の都合のいい夢・・・?」

『愛してる、青子』

「快斗。青子もだよ。青子も、青子も、快斗の事が世界中で1番好き。妖精の寿命も神通力も、全部なくしても、快斗と一緒に年を取って、ずっと一緒に生きて行きたい・・・」

そう言って青子が涙を流しますと。
青子の涙が床に落ちた部分が、優しい光を放ち始めました。

「え・・・?」

そして、その光は塔全体に満ちて行き。
光が消えた時には、青子を閉じ込めていた結界が、綺麗さっぱり消えてしまっていたのです。


そして気付くと、塔の階段を駆け上がってくる音が響いていました。
やがて青子のいる部屋のドアが、大きく音を立てて開かれました。

「青子!」

ハアハアと息を切らしながら、そこに立っていたのは、紛れもないキッドの姿でした。

「快斗。快斗!」

青子がキッドへ飛びついて行き、キッドはしっかりと青子を抱き締めました。
キッドは青子の頬に手を当て、そして深く唇を重ねました。

2人のラブシーンを見ながら、妖精の恵子は、呆然としていました。

「これって、どういう・・・?」

「ふん。永遠の命よりもケツの青いガキの方を取るとは、馬鹿な娘だ」

いつの間にか恵子の後ろに立っていた妖精王銀三が、苦々し気にそう呟きました。

「王様?青子とキッドとの仲を許してあげるの?」
「ちっ。娘なんて持つもんじゃない。いずれは親元を飛び立って行くんだからな」

もう既に、全てを許している筈なのに素直じゃない妖精王の言葉に、恵子は苦笑いをしていました。

「青子がいずれ年取って別れが来るのは寂しいけれど・・・でも、青子、良かったね」

恵子は青子の苦しみ嘆く姿を間近で見ていましたから、その恋の成就を心から喜び、エールを送ったのでした。


周りが見えず、ひとしきり口付けを交し合っていたキッドと青子でしたが、銀三の咳払いの音に我に返りました。

「お父さん・・・青子は・・・」
「ああ、もう何も言わんでいい。青子、あとたかだか数十年の命になってしまうばかりか、いずれ年を取ればガタが来てしまい、皺くちゃの老婆になってしまっても、それでも快斗君を選んだのだから、覚悟は決めとけよ」
「うん!」
「快斗君。青子は、妖精としての力を全て捨てても、君を選んだのだ。大切にしてくれなければ、妖精族の怒りを受けるという事を忘れないでくれたまえ」
「はい。きっと、幸せになります」
「・・・それとこれは、私の勝手な願いだが。落ち着いたらきっと遊びに来てくれ。妖精王国の門は、お前達の前には常に開かれているからな」
「・・・はい」
「ワシの目が黒い内は、子々孫々に妖精の守護を与える事を約束する」
「お父さん!」

青子が、キッドから離れ、父親に取りすがってわあっと泣き始めました。

「お父さん、ごめんねごめんね。青子、青子・・・」
「ああ、分かったから、もう泣くな」
「うん、ごめんね・・・」
「青子。必ず幸せになれ。それが、父親として1番の願いだ」
「うん、うん・・・!」


そこへ、軽やかに駆けて来た4人の妖精乙女がおりました。
普段は毛利王国の森の中で暮らす、アースレディースです。
毛利王国と工藤王国では、距離がありますが、妖精の国は両方に入り口があり、妖精達はあっという間にその中を移動出来るのでした。


「青子姫。私達からの贈り物です」

そう言って沖野ヨーコが差し出したのは、純白の花嫁衣裳でした。


そして、キッドと青子は、妖精王国の宮殿で、妖精達に見守られながら、結婚式を挙げました。
例外として出席を許された人間は、寺井ちゃん1人。
寺井ちゃんは、感激してむせび泣いておりました。
妖精王・銀三の前に進み出て、誓いの言葉を述べます。
そして、キッドが青子のベールを上げて誓いの口付けをしました。

すると。
青子姫の背にあった、妖精族の印である羽が、はらりと抜け落ちてしまいました。


「キッド。今この時より青子は、人と変わらぬ存在になった。魔法は変わりなく使う事が出来るが、寿命が短くなっただけでなく、怪我や病気も人並みにあるようになる。だから引き出物として、どんな傷や病気も、ひと口でたちどころに治す薬を持たせる。青子だけではなく誰にでも使えるものだが、使いどころを間違えるなよ」


キッドと青子は、これもまた銀三からの引き出物である、純白のペガサスにまたがって、妖精王国を旅立ちました。

「坊ちゃま、待って下され〜」

はるか下界で、馬に乗って駆ける寺井ちゃんの声が聞こえます。
いくらペガサスでも、3人乗りはきついですし、それに正直キッドは早く青子と2人きりになりたい気持ちが強くありました。

「寺井ちゃん、すまない、工藤王国で合流しよう〜」

そう叫んでキッドは、ペガサスを駆り、あっという間に寺井ちゃんを引き離して飛んで行ってしまいました。
そして、工藤王国の王宮近くにこっそりと作っていた隠れ家に到着しました。
ペガサスは、ただの馬に見えるよう目くらましをかけて、馬小屋に繋ぎました。

キッドは、ウェディングドレスを着たままの青子を抱えると、寝室に連れて行き、寝台に横たえました。

「快斗?」
「青子。オレ達は、妖精王の前で誓いを立てて、正式な夫婦になったんだよな」
「うん」
「だから遠慮なく・・・いただきま〜す!!」
「え?ちょ、か、快斗!?」

その夜、その小さな家からは、甘い悲鳴が響き、一晩中それが途絶える事はなかったという事です。


   ☆☆☆


「青子ちゃん、良かったね〜」
「おめでとう〜」

青子とキッドは、蘭の居室で、蘭と侍女達に祝福されていました。
今回は、新一王子もそこに参加しています。

「いや〜、ホンマに羽がのうなってしもたんやね」
「青子ちゃん、人間になっちゃったんだ〜。それだけキッドの事、愛してたんだね〜」

新一王子は、やや複雑な表情で、青子を見ていました。
彼が青子を直接見るのは初めての事なのです。

「青子ちゃんって、蘭の親戚って事はねえよな〜」
「全然関係ないよ。青子のお母さんは黒羽王国の人で、もう200年以上も前に死んでしまったし」
「蘭の出身は、黒羽王国って事はねえのか?」

新一に問われて、蘭は首を横に振りました。
キッドが横から嘴を入れます。

「新一王子。あなたとオレとだって、認めたくはないが似てるけど、親戚でも何でもないよな?」
「ああ、まあそうだな。・・・もしかして、蘭の出自については追求しねえ方が良いのか?」
「理解が早くて助かる。まあ、そういう事だ。条件が整うまではな」
「・・・自分の好奇心を抑える為に、最大限の努力はするよ。自信はねえけどな」

新一王子がそう言って溜め息をつきました。

「新一王子、ひとつだけ手の内を明かしておいてやる。まあ薄々気付いているとは思うけどな。今、人間界で起こっている様々な事は、元々は確かに人間の欲望が元になっているのだが、それを煽り利用している魔性の存在がいる」
「・・・で、オレがそこをそれ以上に突付くと、ヤバイ約束事があるって訳か」
「ん〜、まあそうだけど。妖精は、本来人間界の事には関与出来ないという古来の約束事がある。だから、戦争になっても直接助力は期待出来ない。けれど・・・魔性の存在に関しては、妖精達の手助けが可能だと、妖精王銀三からの伝言だ」
「ああ。それは、ありがてえ事だ。オレ達はそこを見極めて行かなくちゃならねえって事だな」
「やばい点を突付かない程度に、見極め頼む」
「えらい難しい注文だな、それって」
「やばい点を突付きそうになったら、オレなり他の誰かが、忠告するさ」


キッドと新一王子がそういった会話をしておりますと。
突然ドアが開けられて、転がり込んで来た者がおりました。

「工藤!」
「服部か。どうした?」
「って、お前、何もんや〜〜っ!!工藤の影武者にしては、けったいな格好やんけ〜!」

駆け込んで来たのは平次公子で。
キッドの姿を見て、指差して叫んだのでした。

「服部、説明は後だ。まずはそっちの用件を言え」
「・・・敵わんなあ。籏本カンパニーの事や。園子はんを攫ったんは、籏本カンパニーやった。けど、工藤王国からはもう逃げ出してしもうたで」
「そうか。あそこは本拠地が森谷王国にある。最早追っても無駄だな。今回、利権争いから手を引かせただけで良しとすべきか」
「工藤。森谷王国も変な動きが色々あっとる。籏本カンパニーの今回の動きも、裏では森谷王国と繋がってた筈や。それぞれの国で色んな事が別々にあっとるように見えるんやけど、実は全部根っこでつながっとるようや。これは下手したら国がぎょうさん参加して、おっきな戦争になるかも知れへんで?」
「ああ、そうだな。服部、それとも絡んでのことだが・・・紹介する。名前は聞いた事あるだろ、魔法使いキッドと・・・今は人間になっちまったが、妖精王国の王女・青子姫だ」

「服部公国の公子・平次殿。初めまして、魔法使いキッドです」
「初めまして。妖精王女じゃなくって・・・え、えっと・・・キッドの妻の、青子です」

青子の自己紹介に、青子自身もキッドも、ボッと赤くなりました。


「お〜、熱いこって。で?この工藤似の兄ちゃんと、蘭姉ちゃん似の姉ちゃんが、戦争と関係あるっちゅうこっちゃな?」
「服部、その形容は止めてくれ。で・・・」


その後は、平次公子を交えて改めて、色々と情勢の話が交わされたのでした。


   ☆☆☆


「ようこそ、我が国へ」

スコーピオン帝国の青蘭女帝は、鷹揚に頷いて言いました。
女帝に頭をたれてひざまずいているのは3人、それぞれが一国の国王達でした。

沢木王国の公平王、風戸王国の京介王、森谷王国の帝二王です。

「わらわの会盟への呼びかけに応じて、ようおいで下された。嬉しく思いますぞ」

「はっ。高名なる女帝陛下にそう仰せ頂き、ありがたき幸せ。我等、これよりは一丸となり、会盟の為に一命を捧げる所存でございます」

3人の王は、異口同音にそう言いましたが。
内心では3人共、『今は仕方がないが、いずれこの高慢ちきな女とこいつらを廃して、俺が・・・!まあその暁にはこの女は、美人だし側女位にはしてやっても良いが』と、全く同じ事を考えておりました。
同じ穴の狢で、ある意味、気が合った3人と言えるでしょう。

自意識過剰で、間違っても他人に頭を下げそうにない3人が、形の上だけでも青蘭女帝に頭を下げたのは、実はそれぞれ魔物達が付いて入れ知恵していたからでした。


「さて、諸王達よ。わらわは、会盟の呼びかけを広く行ったのだが。それに応えなかった国がある。工藤王国、藤峰王国、妃王国じゃ」
「毛利王国はどうなのでしょうか?あそこの王もここには来ていないようですが」
「毛利王国は、とっくに会盟に参加済みじゃ。国王も王子達も流行り病で伏せっていて来られないそうな」

一同はざわめきます。
この時代、流行り病とは怖いものでしたから、病をおして来られる方が迷惑と言うものです。
だから誰も、それ以上突っ込んで文句を言おうとはしませんでした。

「で、諸王達よ、会盟参加を断ったこの3国には、お灸を据えてやらねばなるまい?」
「はっ!仰せの通りにございます」
「まずは工藤王国から。あそこが潰れれば、残り2国はおそるるに足らず。わらわの妹・常盤美緒を殺した下手人が、工藤王国に逃げ込んでいると情報があった故、その引渡しを要求しよう」
「・・・恐れながら女帝陛下、この京介めを侮辱した服部平次の引渡しを要求した時、優作王はそれを拒みました。陛下の御妹を手にかけた犯人も、おそらく引渡しは拒まれるかと」
「だから。拒まれればそこを口実に、兵を動かすのじゃ。工藤王国は協力だが、卿らが協力すれば、倒せぬ事もあるまい?」
「御意」

3人の国王達は、深々と頭を下げながら、「俺達の国の兵隊を動かすのかよ、この女狐め」と内心では思っておりました。

「ただ、卿らの兵隊達だけを使えとは言わん。これを使うが良い」

そう言って、青蘭女帝が取り出したのは、大きな水晶の球でした。

「これは・・・?」

3人の王が顔を見合わせた後、青蘭女帝に問いました。

「まあ、見ているが良い。秋吉魔道技師長、これへ!」

青蘭女帝の呼びかけに応え、そこへやって来たのは、理知的な雰囲気の美女でした。
スコーピオン帝国の魔道技師長として、古代魔法などを操り様々な道具などを生み出している、秋吉美波子です。

「陛下方にご説明申し上げます。この水晶で、私の作った魔法兵ゴーレムを呼び出す事が出来るのです」

そう言って、美波子は水晶をかざしました。

「来たれ、ゴーレムよ!」

すると、突然地面が揺れ、あちこち盛り上がり始めました。
3人の王は、真っ青になって震え始めました。

地面から出た、と言うより、地面そのものが固まって飛び出した形で、幾人もの巨人が立ち上がったのです。

「つ、強そうだが・・・見掛け倒しじゃないのか?」

京介王が、震えながらも気丈にそう言いました。

「そうですわね、その強さも実際見ないと信じられませんわよね。出でよ、スカルソルジャー!」

美波子の呼びかけに応じて、奥の扉からわらわらと出てきたのは、骸骨の兵士達でした。
ざっと見て、百人は居るでしょうか。
それを見た3人の王は、貧血を起こしそうな位に真っ青になりました。
青蘭女帝が、薄く笑って言いました。

「この者達は、今までわらわが死刑にした者達の骨を魔法で命を吹き込み兵士に仕立てたものじゃ。心はないが、戦闘能力は生前の通り。結構つわものも多かったぞえ、まあ数人位は弱い者も混じっておるがな。ゴーレムの能力を見るには丁度良かろう」

スカルソルジャー達はゴーレムに向かって行きましたが、ゴーレムの一体の一振りだけで、全てバラバラに砕け散ってしまいました。

「どうじゃ?凄かろう?」

青蘭女帝の言葉に、京介王が更に言い募ります。

「いくら生前の力を持っているとは言え、壊れ易い骸骨達じゃないか!それだけでは、ゴーレムの力を信じる気にはなれん!」
「やれやれ、卿も意外と疑り深いのう。仕方がない、あれを使うか。ベヒーモスをこれへ!」

青蘭女帝の声に応じて、扉を開けて地響きを立てながら出てきたのは。
巨大な下顎に長い牙と鼻を持つ、巨大な魔獣でした。

「バオオオオオッ!!」

その魔獣の咆哮は、耳をつんざくほど凄まじく。
見た目の凄さと相まって、3人の王は卒倒しそうでした。

その魔獣は王達の方へ一直線に駆けて来ようとしましたから、王達は悲鳴を上げて逃げ出そうとしました。
しかし、人間の足で敵うはずもなく、その魔獣が背後に迫り絶体絶命の時に、いきなりその魔獣が吹っ飛んで行きました。

3人が振り返ると、ゴーレムの一振りで魔獣が扉まで飛ばされ、更に別のゴーレムに襲い掛かられそうになっておりました。

「ゴーレムよ、止まれ!」

水晶をかざして美波子が命じますと、ゴーレムはピタリと動きを止めました。
その間にベヒーモスは、元の扉から素早く逃げ去りました。

「やれやれ。あのベヒーモスも、戦獣として色々重宝でな、ゴーレムに殺されてしまうとちと困るのじゃ。これで納得したかえ?まだ納得出来ないのなら次の・・・」
「い、いえ、納得しました、もう結構でございます、陛下!」

3人は慌ててそう言って、青蘭女帝は薄く笑いました。

美波子が水晶をかざして命じます。

「ゴーレムよ、戻れ!」

その途端、ゴーレムは突然土くれに戻ってしまいました。
3人の王達はまだ青くなったまま、土くれの塊を見ておりました。

「戦の時、あやつらを使えばかなり楽になるはず。それに、ゴーレムにはまだ秘密があってな・・・」
「そ、それは・・・?」
「それは、取って置きの楽しみじゃ。・・・ただ、あやつらの欠点は、長時間活動が出来ない事と、核を破壊されてしまえば2度と動かないという事じゃ」

美波子に差し出された水晶を、帝二王がこわごわした様子で受け取りました。


「卿らだけに戦えとは言わん。妹の敵じゃ、戦になった時は、わらわも戦陣に加わるぞえ」


青蘭女帝から、常盤美緒殺害犯である画家の如月峰水を引き渡すようにという使者が、工藤王国を訪れたのは、それから間もなくの事でした。



(14)に続く



++++++++++++++++++++++++++++


(13)の後書き座談会

蘭 「青子ちゃん、おめでとう!」
青子「ありがとう、蘭ちゃん」
快斗「結婚式は当初の予定になかったんだよな。でも、妖精王のお許しがあったのに式を挙げないってのも変だからって、急遽決まったんだよな〜」
新一「キッドと青子ちゃんのパターンは、この話の中では珍しいよな」
快斗「んん?何がだよ」
新一「いや、他のカップルは、式より既成事実が先だったよなあと思って」
平次「それはちゃうで。オレと和葉も、結婚式が先やったで」
和葉「けど、平次はその積りなかったやん」
園子「後先の前に、真さんと私、まだ式を挙げてないのよ!」
真 「そうですね、不本意ですが。新出先生もその点は同じですし」
蘭 「昼間白鳥になっているし、色々な事情で式を挙げるどころじゃないのよね。私が早く帷子を編み上げなければ」
新一「そうだったよな。今、何枚目なんだ?」
蘭 「どういう設定になってたかしら?とにかく、最終回あたりで11枚仕上がる筈なのよね」
青子「この先、どうなるのかしら?連載もかなり長期になって来たわよね」
新一「おおむね話の筋は決まっている筈、なんだけど。さてここからどうなって行くのか」
快斗「次回の予定は未定、って事で、またいつか」
平次「何やねん、そりゃ」
蘭 「残りカップルのエピソードをどう組み入れるかに、1番悩んでいるらしいわよ」
新一「風呂敷の広げ過ぎ、登場人物を欲張り過ぎだな」


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